時を同じくして、ゲシュタルトの意識海の中。
大きな乳房と大きな尻を携えた2体の構造体が話をしていた。
「あの子達、大将には会えたのかしらね。」
大きな乳房のその先にある乳首を覆い隠すように腕を組みながら、アイラが言った。
「どうでしょうか。21号に会ってから私達のところへ来たという大将殿の足取りからすると、おそらくは会えていると思いますけれども。」
いつも通りの冷静な口調で、ビアンカが答えた。
「感動の再会、と言いたいところなんだけど・・・。」
アイラが口ごもった。
「言いたいことはわかります。私も以前はあそこにいましたから。」
「本当にセンスないわよね。
ゲシュタルトって。人のことをなんだと思っているのかしら?」
「人類のことはどうかわかりませんが、まず間違いなく私達は使い捨ての駒として認識されているでしょうね。
射精を指示され、異種の動物と交尾させられ、誰のものかもわからない精子や卵子を詰め込まれ、挙句の果てには妊娠、出産ですから。」
「セックスはたしかに気持ちいいし、お射精も気持ちいいけど・・・。
あんなのって、倫理的におかしいわ。」
「機械倫理としては正しいでしょう。
人類の至上命題を果たすべく、常に最大のパフォーマンスを発揮し続けようとしているのですから。」
「だからって、私達をこんなにしていいわけ!?このままだと、また大将が・・・!」
「・・・」
アイラの怒気に、ビアンカも冷静ではいられなくなった。
「そんなこと、私もわかっています。
私だって、好きで馬とセックスしているわけではありませんし、そもそも私は女性ですから、おちんちんを生やすことにだって抵抗があるんです!」
ビアンカはアイラに詰め寄った。
「・・・でも、どうすればいいのか、皆目検討もつかない・・・。
大将殿を苦しめたくない気持ちはありますが、解決策が見当たらないんです。」
ビアンカは、アイラの肩を握りながら嗚咽した。
「助けたいのに助けられない。
そのもどかしさは、ここにいる全員が痛いほどわかっているんです・・・。」
ビアンカの言葉にハッとなったアイラは、ビアンカをそっと抱きしめて涙した。
「・・・ごめんなさい。
あなたに怒る必要なんてなかったのに。
あなたも私も同じなのに。」
アイラも声を震わせる。
その時、二人の近くからうめき声が聞こえた。
「・・・うう、うぁぁ、ああっ・・・!!」
うめき声の元を探していると、赤潮の中から黒い骨のようなものが飛び出した。
その近くには、顔以外のパーツをすべて失い、骨格だけが残された女性構造体がいた。
「・・・こんなことになるなら・・・構造体になんてなりたくなかった・・・!」
「あの時、弟と一緒に木端微塵になっておけばよかった!」
「・・・いやだ、でる。出ちゃう・・・。これが出たら、もうだめだってわかってるのに!」
「・・・くそ。くそくそくそくそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
黒い骨の先から、真っ白い精液が吹き出す。
ガシャン、ガシャンと、女性構造体が全身を揺さぶる音が聞こえる。
「ああ、ああぁ。ああああ・・・・」
声がどんどんか細くなっていく。
「・・・わたしの、じんせい・・・ほんと・・・ごみ。」
その一言を最後に精液が打ち止めとなると、女性構造体からの声も聞こえなくなった。
そして、赤潮のひときわ大きい波が彼女を巻き込むと、その姿も見えなくなった。
「・・・どうすればいいのかしらね。」
女性構造体の壮絶な最期を見届けた二人は、再び大きなため息を漏らした。
「・・・今、ゲシュタルトから新しい指示が来ました。」
「あなたにだけ?
次の「ご主人さま」の情報なら、タイミング的に私にも来るはずなのに。」
「いえ、これは完全に別件です。」
ビアンカが慎重に言葉をつなぐ。
「落ち着いて聞いてください。
私は今お腹にいる子供を産み落としたあと、大将殿のもとへ向かいます。」
「・・・え?」
アイラは目を見開いた。
「目的は、大将殿の排除です。」
「排除って・・・殺すってこと!?」
ビアンカは首を横に振った。
「最初の指示はそうでした。
ただ、今は違います。
大将殿を無事ゲシュタルトから帰還させよ、とのことです。」
「理由としては、ルシアたちの様子を見て錯乱し、思わぬ事故に巻き込まれないようにするためです。」
アイラの目に、再び激しい憎悪の炎が灯る。
「・・・それがハッタリだってこと、あなたならわかっているでしょう?」
「・・・ええ。」
「おそらく、ゲシュタルトの真の目的は、大将殿の遺伝子。
もっと言えば、大将殿の精液に違いありません。」
「・・・大将までも、あいつは利用するのね・・・。」
アイラは赤潮を蹴り上げた。
「落ち着いてください、アイラ。
たしかに腹が立つことではありますが、だからといって今は無茶なことをしてはなりません。
私達が何かをして、大将殿に危害があったらどうするんですか。」
「わかってるわ、そんなこと・・・!」
アイラは赤潮に跪き、再び大粒の涙を流し始めた。
「私がゲシュタルトに利用されるのは、この際全然構わないわ。
でも・・・でも!あの人まで、大将までもあんなヤツの言いなりにさせられるなんて嫌なの!」
「アイラ・・・。」
アイラの激情に、ビアンカは立ち尽くすことしかできない。
「・・・ごめんなさい。
私の機体が今、培養オーブンを出たそうです。
もう私は行かねばなりません。」
「・・・そう。迷惑をかけて、ごめんなさいね。」
アイラは鼻をすすりながらビアンカに言った。
「絶対無事に、大将を送り届けてあげてね。」
ビアンカはコクリと頷くと、アイラに背を向けて意識海をスタンバイさせようとした。
「残念ながら、あっちにいくのはあなたじゃ不適当よ。」
くるりと体勢を変えたビアンカの目線の先にいるのは、ヴィラだった。
「どういうことですか?私には今から任務があるのですが。」
「その任務のことよ。
今のあなたじゃその任務ができないって言ってるの。」
ヴィラはビアンカを指さして言った。
「どうしてでしょうか。
もう私の機体はオーブンの外にあるはずですし、もうじき分娩台に設置されるはずです。
もうまもなく、ゲシュタルトから指示が出ることでしょう。」
「あなたの「ご主人さま」、あちらで大暴走してるのよ。
お陰で卵を生んだ私めがけて突っ込んできやがって、3回も中に出されたわ。
口にザーメンまみれのチンポを突っ込んでくるし、内臓は破られるしでもう最悪。
最後は頭部をアイツに踏み潰されて、私の機体は回復待ちよ。」
「そうですか。
でも、あれは私の指示ではないので。
ゲシュタルトが興奮剤の用量を見誤ったのでしょう。」
「べつに、あなたを責めているわけじゃないわ。
問題なのはここから。
その「ご主人さま」、オーブンから出てきたあなたを見るなりチンポをおったてて飛びかかったの。
ざっと数百キロはあるサラブレッドが、あのワイヤーフックにぶら下がったらどうなるかは想像できるでしょう?」
「・・・まさか。」
「そのまさかよ。
あなたの大事な頭と胴体が真っ二つにちぎれて、あの部屋は今循環液で真っ赤に染まっているわ。
サラブレッドはあなたのおまんこをオナホみたいに使いまくってるから、リサイクルもできなさそうね。
お腹の子もとっくに死んでぐちゃぐちゃにされているでしょうし、あれだけダメージがあれば、機体が回復するまで時間もかかるでしょう。
私の機体と一緒に回復ライン行きは確定ね。」
「では、任務は・・・?」
「単純よ。じきにアイラに指示が飛ぶでしょう。
あなたは私と一緒に、ここで待機。
退屈しのぎに、一回交わっておく?」
「結構です。お伝えいただき感謝します。」
そう言うと、ビアンカはヴィラの前を通り過ぎていった。
「・・・さて。アイラ。思いがけない幸運ね。」
「・・・ええ。ちょっとだけ元気が出たわ。」
「あなたが大将と会って何をするかは聞かないわ。ただ、私からも一つだけ言っておく。」
ヴィラはアイラの眼の前まで近づいて言った。
「絶対に、大将を死なせるんじゃないわよ。」
「・・・わかってるわ。私は、私の責任を果たしてくる。」
「・・・そう。それでこそ、私があの馬を暴走させた努力が報われるってものよ。」
「・・・頭、お大事にね。」
「直前でこっちに戻ってきたから、こっちの体には影響ないわ。
じゃあ、行ってらっしゃい。まだあなたのお腹の卵は育ちきってないみたいだから、歩き辛いかもしれないわよ。」
まもなくアイラはゲシュタルトからの指示を受け取り、すぐに意識海を機体へ移した。
(続)