※この作品はR-18です。

五つ子が全員オレの肉便器www #悪魔のアプリ#洗脳ハーレム   作:a-su

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後日談 弔い

 二〇二三年、八月。

 夏の盛り、過酷な日光を麦わら帽子で防ぎながら、ジン・カズミは目的のカフェに向かっていた。

 

(ノド乾いたな)

 

 小柄な中年男だが、腹は出ていない。引き締まった筋肉が背筋を支えている。たらたら流れる汗が、白いポロシャツに染みを作っていた。

 

「いらっしゃいま……あ、お父さん」

「よう、三玖さん」

 

 ドアを開くと、クーラーの冷気とともに若い女の声が出迎えてくれる。この〈カフェ・なかの〉を経営する中野三玖の声だ。感情表現の少ない、やや低めのトーンが耳に心地よい。

 

 カズミと彼女は縁戚関係にある。だが、正式なものではない。

 

「暑かったでしょ。おしぼり、冷たいのどうぞ」

「おう、ありがとう」

 

 カウンター席に座り、よく冷えたおしぼりを日焼けした肌にあてる。おお~、とおじん臭い声を上げながら、店内を見回した。テーブル席が埋まっているのを見て、目を細める。

 

「悪いね、忙しい時間に」

「いいの、ちょうどランチタイム終わりだし」

 

 世間話をしながら、カウンターの奥を見る。そこには写真立てが一つ飾られていた。

 

(よう、カミナ)

 

 死んだ息子が写っている。何かの集合写真から切り抜かれたもののようで、隣にいる三玖の肩を抱きながら締まりのない笑顔を浮かべていた。

 

「バカ息子が生きてりゃ、手伝わせるんだが」

「ダメ、あの人はお客さんと喧嘩しちゃう」

「はは、いない方がマシか」

「まあ、頼りにはならない……かな?」

 

 二人の鉄板ネタである息子の悪口に興じながら、カズミはそれとなく三玖を観察した。

 つやのあるセミロングがよく似合う美女だ。顔や手に生活の苦労を感じさせるものはなく、動きもキビキビしている。二十代前半という実年齢よりも若く見えるくらいだ。

 

「……? なに?」

「美人さんだと思って」

「うふふ、知ってる」

「自信たっぷりじゃないか」

「あの人にもよく……ええと、褒められたから」

「……そうか。困っていたら、何でも力になるよ。あいつの代わりに」

 

 三玖は未婚の母で、シングルマザーだ。カズミの息子、カミナといい仲になったが、妊娠した直後に死別してしまったらしい。

 らしいと言うのは、その頃カズミは刑務所にいたからだ。妻も既に天国で、知らせてくれる人はいなかった。

 

 最も、悲しみばかりが残されたわけではない。外から送迎バスの停車音がして、子供たちの賑やかな声が聞こえる。直後、店のドアが開いた。

 

「ただいま~、あっ、じいじ!」

「おお、お帰りナナちゃん」

「お帰り七海、ご挨拶は?」

「こんにちは、じいじ!」

「はい、こんにちは。幼稚園楽しかったかい?」

「とっても! ねえねえ、聞いて聞いて!」

「な〜んでも聞くとも」

「ナナね、今日かけっこで一番だったんだよ!」

「それはすごいな、おめでとう」

 

 頭をわしゃわしゃ撫でてやると、きゃあっと歓声を上げて、孫娘の七海が膝によじ登ってきた。土足だ。

 

「七海、靴!」

「いい、いい、気にしないでくれ」

 

 母の叱責にも動じず、七海はニコニコ笑いながら足をブラブラさせている。三玖は困り顔だ。

 

「じいじ、お土産ある?」

「おお、アイスキャンデーを買ってきたぞ」

「やたっ、ナナ、じいじのアイス大好き!」

「もう七海、先にお礼言わないとダメでしょ」

「いいよいいよ、いつものことだ」

「お父さんが甘やかすから」

 

 三玖が渋面を作るのだが、こればかりは止められない。息子が生きた証である孫娘は、目に入れても痛くないという表現がぴったりだ。

 

「じいじもアイス食べよ!」

「いやあ、じいじはねえ、甘い物は……」

「お父さん、良かったらビールでも飲む?」

「うん? あるのかい?」

「常連さん用に冷やしてあるの」

 

 三玖が瓶ビールを注いでくれる。冷えたグラスがキラキラと輝いた。

 

「かーっ……うまい」

「ナナも注いであげる!」

「おお、ありが……おっとっと」

 

 幼稚園児の手で泡だらけにされてしまったグラスに、慌てて口をつける。

 

「おいしい? ねえ、おいしい?」

「ああ、美味しいよ」

 

 きゃー、と両手を上げて喜ぶ七海にデレデレしながら、息子の写真を見やる。ハタチで死ぬなんて、馬鹿野郎め。だが、よくやった。

 

「ねえ、じいじ」

「うん?」

「……パパのお話、してくれる?」

「ああ、いいとも」

 

 七海は父を知らない。カズミに会うたび、カミナの話をねだるのが習慣だった。

 

「あいつが子供の時、風呂で溺れたことが……」

「じいじ、助けたの? すご~い!」

 

 仕事一筋だったから、カミナの事はほとんど構ってやれなかった。数少ない記憶を残らず拾い上げ、時には脚色も交えて一生懸命に語る。

 喉が渇いてくると、息子の愛した美女が静かにビールを注いでくれた。

 

(この一杯のために生きている……って歌が、昔あったな)

 

 何を大げさなと思っていたが、今はその気持ちがよく分かる。カミナの父は、ぐいっと冷たいビールをあおった。

 

(後日談 了)




 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
 お気に入り感想評価など、いつもありがとうございます。更新の励みにしております。

 この小説は令和五年五月五日から令和五年八月九日にかけての約三ヶ月間、小説投稿サイト ハーメルン様に投稿させていただきました。投稿の場を提供いただきました管理者の皆様方に、心より御礼申し上げます。

 長いあとがきを活動報告の方に投稿しましたので、興味のある方はご一読ください。
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