十一月の終わり。雨の夜、俺は彼女に出会った。
第五次聖杯戦争が終わり、日常へと帰った衛宮士郎は穂群原学園の三年生として日々を過ごしていた、そんなある日のこと。衛宮邸の朝の食卓で、テレビに映るお天気キャスターは近々大雨が降った後に雪が降るかもと締めくくり、ニュース番組へと移行する。士郎と一緒に天気予報を眺めていた間桐桜と藤村大河、特に士郎の姉貴分でもある大河は映るニュースに露骨に顔を顰める。ニュースの話題は今、とある事件で持ちきりだったのだ。
『極道殺し、観布子にも現る!?』
『現場には暴力団への挑発文と共に、
『市民からは賞賛とも懐疑ともとれる声が届いて──!』
士郎は食事時に聞くものじゃないと番組を変えてしまう。その中には、大河が番組を思いつめた表情で見ていたという理由もあったが。その対応に大河は誤魔化すようにから笑いをする。士郎に気を遣わせたしまったと思ったのだろう。士郎の方に顔を向けて朝の雰囲気を壊してしまったと謝罪をした。
「あ……ごめんね、士郎。うちにも関わることだからちょっと集中しすぎちゃった。うちの人達も大人しくしているといいのだけど」
「ああ、藤ねえのじいさんのことだから犯人に挑戦状を叩きつけかねないもんな。心配するのは当然だろ」
「そうなのよねー。もう良い年だってのに現役気取りなんだから。士郎も桜ちゃんも、暫くは夜出歩くのはダメよ?」
「はい……犯人はこの街にも来るのでしょうか?」
「どうだろうな。出没した場所があまりにも点々としているからな。ただ何時来ても、おかしくはないとも言えるぞ。一刻も速く捕まってほしいが、人相すら割れてないみたいだからなぁ……」
「……はいはい! 暗い話はここまで! もうすぐ冬休みなんだから、楽しいこと話しましょう! ね!」
そんな大河の一言で士郎と桜は極道殺しの話題を置いておき、冬休みの話をすることに。祖父が任侠一家である大河の方が気になって仕方ないというのに、大河は生徒である二人のことを重んじ話を変えたのだ。その想いは士郎と桜にもしっかりと伝わっており三人は話を変えたのであった。そうして三人は極道殺しのことを心の隅に追いやり、学校へと出掛ける。桜と大河、士郎もまさかこの数週間後に殺人鬼と殺戮者と邂逅するとは、知る由もなかった。
──────
────
──
その日は土砂降りの雨模様だった。士郎は自宅で来年の時計塔への留学に備えて英語の自習をしていると家の電話が鳴り響く。今日は桜も凛もいなかったので士郎が電話を取ると、相手は大河であった。
「もしもし、士郎? 今日そっちの家に寄る予定だったけど。帰りが遅くなりそうだから、私の分は用意しなくて大丈夫だからねー」
「りょーかい……あれ。もしかして藤ねえってまだ学校か?」
「そうよー。期末テストの用意やら何やら、暇そうに見えても先生には色々準備がいるのです」
「それはご苦労様です。ああ、そういえば藤ねえって傘持っていったか? 外、夜になるにつれて雨脚が強くなるらしいけど」
「実は持ってきてないのよね~~! 気付いた時には、他の先生達は帰っちゃったし。うちの人達も最近色々あるから、パシらせるのもどうかと思うし。まあ玄関に置き忘れたのがあるかも──」
そこまで聞いて士郎はなら自分が届けに行くかと思い付いていた。極道殺しのことは忘れていないが、そもこの街に今いるのか? 組に直接関係しない親類にまで犯人は標的にするのか? 自分は今だ学生でその筋の関係は一見分からない。また自分は一応ではあるが魔術使いであった。極道殺しがまさか英霊と同等の戦闘力を保有しているわけなく、自衛くらいは可能だと士郎は判断したのであった。
「なら俺が持っていくか。俺はそういう筋の人ではないしさ。例の犯人がこの街にいたとしても、ターゲットにはならないだろ? じゃ、今から持っていくぞ」
「えっ、士郎!? そこまでしなくて──」
士郎は大河の言葉を最後まで聞かずに受話器を置いてしまう。士郎としては大河が雨の中帰って風邪を引いてしまうかもと思うと、いてもたってもいられなかった。士郎は自分が差す傘と大河の傘を手に持って、学校を目指す。バラバラと傘に落ち続ける豪雨もあって、人っ子一人見当たらなかった。普段使い慣れた道なのに、何故か士郎は落ち着かない気分で歩いていた。
(こうも土砂降りだと、雨音以外なにもしないなぁ。まるで別世界────)
士郎はふと顔を向けた路地裏に、人影を見つけてしまう。レインコートに身を包んで彼、彼女はしゃがみ込んで路上にある物体にぶつぶつと何かを喋っていた。レインコートの人物から士郎の所まで100メートルは離れている。けれど士郎の眼はレイコートの人物が出刃包丁を掲げるのを目視してしまう。瞬間、士郎は傘を放り出し駆け出していた。
「ッッッ!! なに、やってんだァ!!?」
「──子供……!」
士郎はあの聖杯戦争の時以来の全力を持って疾駆する。レインコートの人物は士郎を見ると、大きく飛び退き路上にある物体──小さく呻く男から距離を取った。士郎は数秒足らずで倒れている男の元に駆けつける。外傷こそ見当たらなかったものの、男はまるで四肢を斬られたかのようにピクリとも腕や足を動かさなかった。士郎はそこで気が付く、男の顔に見覚えがあったのだ。
「あんた、もしかして藤村組の人か?」
「うっっ……。そ、その声は……士郎君か!? に、逃げろ! そいつは、バケモノだっ……!!」
男は痛みに呻きながらレインコートの人物に指を差し、そのまま気絶してしまう。数メートル離れた場所で、包丁をくるくると回す人物は白一点の仮面をしており、表情は伺えなかった。だが、士郎はひしひしと感じていた。聖杯戦争で身に感じた冷たい気迫──揺るぎない殺気を。
「そう、君もなの。若い子なのに、もう
「ッ──投影、開始!!」
喉が潰れているのか、男か女かも判別の出来ない声でレインコートの人物は激昂する。猿叫のように声を上げながら、推定──極道殺しは士郎に突撃する。士郎は凶器を持った相手なのもあり、投影によって雌雄一対の双剣を取り出す。極道殺しは一瞬怯んだものの構わず突き進む。かつて聖杯戦争を切り抜けた士郎だからこそ理解出来た。極道殺しは素人同然の人間だと。士郎の投影した干将・莫耶は極道殺しの包丁を叩き割り、すれ違いざま極道殺しに峰でカウンターを入れようとする──しかし。干将・莫耶は極道殺しの体と包丁をすり抜けてしまい、逆に士郎の脇腹に包丁が掠める。瞬間、士郎は腹部に激痛が走るのを感じた。
「ぐっ……!!?」
「あら……?
士郎は腹部にチラリと目をやる。ズキズキと痛みは今も続いていたが、見た目は何ら普段と変わりなかった。服は斬れておらず、血は出ていなかった。痛みだけが、斬られたことを示していたのだ。士郎は思い返す。ニュースによると被害者は無傷だったという。
状況と合致し、士郎は一つの仮説を導き出す。相手の体や包丁は物理的な影響はないが、接触すれば同様の感覚を体験するのだと。つまり──相手は無敵状態で、一方的に攻撃可能ということだった。
「まずは腕、次に脚、その次は顔を斬り刻んでみましょう。亡き我が夫と娘を慰める、鎮魂歌をあげなさいッ!!」
極道殺しは士郎へと疾駆する。その速さは一般的な大人と同じ速度かそれ以下であり、士郎であれば逃げようと思えば逃げられる速度だった。だが、士郎の後ろには気絶した藤村組の男が倒れていた。彼を置いて逃げるわけにはいかないと士郎は双剣を握り締める。しかし、士郎では極道殺しを止めることが出来ない。せめて男の盾に。士郎が覚悟を決めて、極道殺しを睨み付ける。包丁を振りかぶり、下ろされ────その腕が丁度根本から斬り離される。斬れた腕はボロボロとガラスのように崩れ落ち、極道殺しが唖然とした声を上げる。その直後、士郎は何時の間にか目の前に降り立っていた人物に声を掛けられる。
「随分と、良い
「え──」
士郎の真横。雨に濡れながら、着物姿の彼女は立っていた。士郎は女性だと思ったが、その言葉、毅然とした佇まいから男性と見紛うてもおかしくない雰囲気があった。凛々しい美形、彼女を前に士郎は立ち尽くしてしまう。何よりその切れ長な目付きが特に異彩を放っていた。螺鈿に光る双眸。静謐な瞳に宿る光に、士郎は言いようのないくらい惹かれてしまう。が、極道殺しは唸り声をもって、弛んだ空気を再び張り詰めらせる。極道殺しは一息で飛び退くと、着物姿の彼女に向かい忌々しげな声をこぼす。
「お前は……観布子のっ!! ここまで追ってきたのか!!」
「そうだよ。本当は浅上に任せるつもりだったけど。色々あってな。
「ぐッッ!! 舐めるなよ、ゴロツキの親玉がッ!! カタギから奪った金でのうのうと暮らすお前なんかに──」
「──隙だらけ。言いたいことはたくさんあるだろうが、二件目以降におまえの正当性はないよ。元の場所に帰るといい」
「なん、で──! 私を捉えてもいないのにっ!! 私の力が、斬れるはずがっ……!!」
「たとえ虚像だろうと──生きているなら、神様だって殺してやるさ」
肩にかかるくらい伸びた黒絹髪が揺れる。着物の女性は水に濡れた足場。吹き荒ぶ豪雨の中を疾走する。瞬きする間に状況は一変しており、後には極道殺しの胸に刀を突き立てっていた。見惚れるほどの技巧、士郎の目には螺鈿の残光だけ目にすることが出来た。極道殺しの体はぼろぼろと崩れる。それを担った着物の女性は崩れ去る極道殺しではなく、遠方の建物に目を向けていた。
「殺した、のか?」
「……いいえ。彼女の力は自身の虚像を映すもの。
「えっ、あっ……は、はい!」
先程とは打って変わり、着物の女性は嫋やか口調と微笑みで士郎に話しかけた。必要なことだけ話すと、着物の女性はその場から立ち去ろうとした。淡々とその場から遠ざかる彼女に、士郎は思わず引き止める。
「ま、待ってくれ! あんたの、名前は……?」
「両儀──両儀式よ。縁があったら、また会えるでしょう。さようなら、色男さん」
彼女は雨の中、悠々と歩き雨の中に姿を消した。これが衛宮士郎と両儀式、二人の始まり出会った。交わる筈のなかった者達が出会ったことで、二人の運命は捻れ狂う。彼等が再び会ったのは、それから約一週間後のことだった。
──────
────
──
冬休みに入って早々、士郎は大河の言いつけで自宅待機を命じられていた。大雨の日、士郎は大河の話を最後まで聞かずに家を飛び出し。挙句人を助けるためとはいえ凶器を持った人物に突っ込んでいったこと。諸々合わせて、大河は数時間に及び士郎を叱り付けた。教師として、保護者として、姉貴分としてでだ。士郎はぐうの音も出ず、大河のお説教を甘んじて受けていた。そんなことから、士郎は暫く外出を禁じられていた。そして今日ようやく士郎は外出の許しを得たのであった。
結局。レインコートの兇手に斬りつけられた藤村組の男も、数時間後には目を覚まし何処にも異常は見当たらなかった。警察に事情聴取をされたものの、どこにも傷がないことからお手上げ状態で酔っ払いかと訝しむほどだった。一応、士郎からも身なりを伝えたものの、見回りを強化するとだけで本格的な調査は期待出来そうになかった。ただ士郎だけは感じていた。おそらく極道殺しが報道を騒がせることは二度とないだろうと。あの螺鈿の瞳を持つ彼女が見逃すとはどうしても思えなかったのだ。
そんなこんなで。士郎は久しぶりの街路にぐっと体を伸ばす。休日の間に家の掃除等はとうに終わらせてしまったので、特に用事もなかったがあてもなく歩くことにした。普段は使わない道を歩くこと数十分、士郎はあることすら知らなかった美術館にたどり着いた。外観は古めかしく、老朽化が激しいのは目に見えて理解できた。
(こんなとこに美術館なんてあったのか。 ふーん……刀の展示か。ちょっと見てみようかな)
士郎は美術館前の掲示板に貼ってあるポスターから刀の展示があることを知り、何の気無しに見物をしようと美術館へと足を踏み入れた。美術館の中は厳かな雰囲気があるものだが、とりわけ士郎が入った美術館は客足が皆無だったことからより一層静けさが身に染みる。お目当ての刀の展示スペースに士郎は歩みを進める。士郎は客足が皆無だと思っていたが、それは間違いだったと気付く。飾られた刀の前に、一人の女性が立っていたのだ。士郎は彼女に見覚えがあった。
「あ、あんたこの前の……!」
「……」
厳粛な空気を裂くように士郎が声を上げるも、着物の女性──両儀式はじっと刀を見つめていた。微かに笑みを浮かべする姿は刀に魅入られているのかと思うほどで。その視線は揺るがず、士郎の声は耳に入っていないかのようだった。士郎はそれ以上声を掛けるわけにもいかず、彼女に釣られて刀に目を移す。飾られた他の刀よりとりわけ細身の美しい刀は、士郎の目をして800年は前の古刀に見えた。刀身には草の倶利伽羅が彫られており、刀工の技巧が感じられる。どれほどの時間が過ぎたのか、士郎も夢中で刀を鑑定していたのだが。ふと視線を感じ、目を横に動かす。着物の女性──式が士郎をじっと見ていたのだ。士郎はその視線を無視することが出来ず、集中力を途切れさせてしまう。猫、或いは兎のようにじっとこちらを見る視線に士郎は逆らえなかったのだ。
「──っと! あの、何か……?」
「ずいぶん熱心に見るのね、貴方。まあその位のお年頃なら、刃物に興味を抱くのも不思議ではないですが。貴方のは少し違う気がしたの。刀工の見習いさんなのかしら? あの日、貴方が持っていた双剣も、ずいぶん良い
「刀工の見習いではないです……って、そんなことより! あの時は助けてもらい、ありがとうございます! おかげで知り合いを助けることが出来ました!」
士郎は式に向かって頭を下げる。あの時、彼女が来なければ士郎はともかく藤村組の男性はあわや止めを刺されていたかもしれなかったからだ。しかし式に方は助けたとは思っていなかったのか、こてんと顔を横にする。
「……助け? 特にそうしたつもりはないのだけれど。まあ感謝は受け取っておきます。……いえ、そうね。感謝しているというのなら、あの双剣。もう一度見てみたいのだけれど、いいかしら? あなたにも色々と聞きたいことはありますし」
「えっと、いいですけど。あれ本物じゃないですし。ましてや、ちゃんとした方法で作ったわけじゃないので……」
「ふうん? ますます気になるわ。いいわよ。ついてきてくれる? ここで出すわけにはいかないでしょ? 近くに私の仮宿があるから、そこで見せてちょうだい」
未だ戸惑う士郎に有無を言わせず、式は歩き出した。刀剣のことになると見境がつかなくなるのか、彼女は軽やかな足取りで美術館の入り口へ向かう。雨の時の荒っぽい彼女と、今のお淑やかな彼女。二つの顔をもつ貴婦人。どこか危険な香りのする彼女だが、士郎は魅入られてしまったのか。ほいほいと彼女について行ってしまったのであった。
まだ幼さが残った少年と赤い羽織りを纏い薄桜色の着物女性が連れ添って歩く。物珍しさから道行く人は二人をチラチラと見ていた。ともすれば若いツバメを連れた、裕福な若奥様にも見えているのかもと士郎は思ってしまう。最も式はそんなことを欠けらも気にしていないようで、彼女の歩みは揺るぎなかった。数分歩いた所で、士郎と式はマンションに到着する。
「ここが……式さんの仮宿ですか?」
「そうよ。展示会が終わるまでの一ヶ月借りたの。何もないですけど、お茶くらいなら出しますわよ」
士郎は式の手招きのまま部屋に入る。彼女の言葉通り、部屋には元からあったであろうテーブル、冷蔵庫、小さなテレビ、ベッド以外は何もなかった。式は冷蔵庫からお茶を取り出し、紙コップに入れると士郎の前に出した。
「一息ついたところで。あの双剣、見せてくれるかしら?」
「あ、はい──投影開始。どうぞ」
「ん……なるほど。魔術──投影で作った物だったの。何時だったか。
投影した干将・莫耶を見ながら式は呟く。雨の日にも薄々感じていたが、士郎は確信する。やはり式は一般人ではなく、魔術等の裏の事情に通じる人だと。士郎は他とは違う自分の投影魔術について話すか、悩んだが何故だか彼女に嘘は吐けなかった。
「えっと。自分が作ったものは、知人の魔術師によると特別らしく消えないそうです」
「そうなの? こんなによく出来ているものが消えないのね……! 贋作だなんて、言わなければ気付けないでしょうに」
彼女の吸い込まれそうな黒い瞳で見られると、士郎はすらすらと自分の力について話してしまった。以前、魔術師の知り合いである遠坂凛に自分の消えない投影魔術について知られれば、封印指定とやらにされるかもと聞いたことがあったのに。刀に魅入られている彼女と同様に、士郎も螺鈿の女剣士に魅入られてしまっていたのだ。
そうして式は夫婦剣を舐め回すようにじっくりと見ていた。士郎はくすくすと笑いながら顔を輝かせる、彼女の楽し気な姿から目が離せなかった。狭い部屋の中、二人の間に会話はなく。彼女の鑑賞は日が傾きかける時まで続いた。式が深く深く息を吹いたのを皮切りに、士郎は我に帰り姿勢を正す。
「ふ──……堪能させてもらったわ。ありがとう、ええっと。まだ、名前を聞いてなかったわね? 私としたことが、刀ばっかり意識して恥ずかしいわ……」
「あ、はい。衛宮、衛宮士郎です……!」
「士郎さんって呼んでいいかしら?」
「はい! お好きなように……!」
式は今まで刀だけに向けていた整えられた美麗な目を士郎にだけ向けていた。密室に二人きり、年上であろう美女に迫られてはさしもの士郎すら顔を赤らめ緊張してしまう。その初心な反応が可愛いらしいとでも言うように、式はくすくすと笑っていた。
「ふふ……ところで士郎さん? この夫婦剣、貴方の魔術で量産することは出来るのかしら?」
「俺の魔力が続く限りは。何振りでも可能です」
「まあそうなの! その、実はね。この干将・莫耶の出来があまりにも良いものですから。私、欲しくなったの。一組、お譲りしてもらいたいと思って……」
「まあ、他の人に見せびらかさないなら──「もちろん、タダでとは言わないわよ」──えっ?」
士郎は式に譲ってほしいと言われ、こんなに刀剣が好きな人なら譲っても悪いことにはならないだろうと瞬時に思い至る。なら助けてもらったこともあり、快く譲ろうとしたのだが。彼女は対価も用意すると言い切ったのだ。
「助けてもらったですし、対価なんてなくてもいいですけど……?」
「あら。ダメよ士郎さん。そう言うなあなあで済ませちゃうの。あれは私の家の後始末もありましたもの、士郎さん達が助かったのは結果的によ。これとは別件です」
「そう、ですかね?」
「ええ。私はそう考えるわ。話を戻しますけど、そうね……実物の干将・莫耶ともなると数千万、数億はくだらない値段になるわよねぇ」
その桁外れの値段に士郎は慄き何度も呟いてしまう。そんな大金が払われたとして、使おうにも、保管しようにも、小市民の自分には扱いきれないと士郎は即断する。士郎は全身でお断りするように体を動かす。
「すうせん……数千万!? そ、そんなには貰えないですってっ!」
「実物だったらその位は取れると思うわよ。けど。私のポケットマネーでも、即金で億はちょっと無理ね。だから──」
式はふわりと手を士郎の頬を撫ぜる。柔らかな手の感触、鼻腔をくすぐる彼女の香りに。士郎は沸騰したように顔が真っ赤になる。式は思った通りとでも言いたげにくすりと笑う。
「他に良い方法を考えましょう? 士郎さんは私にしてほしいこととかない?」
「っ……! そういうのは、ダメですよ……! まだ会ったばかりですしっ!」
「あら。ダメって何のこと? 士郎さんは、どういうことを想像したのかしら……?」
「ッッッ〜〜!!」
士郎は正面から迫る式から、少しでも離れようと仰反るも。式は尚も迫り、その色香で彼の理性をグラつかせる。彼女の成熟した妖艶な仕草は、これまで彼の周囲にはいなかったタイプの女性で士郎はたじたじになってしまう。
「ふふ。刀を持った凛々しい顔もいいけど、そういう年相応の顔もいいわね。私、普段はこんなじゃないのよ? ただ、夫や娘から遠く離れた街だからか、或いは好みの色男を見つけてしまって胸が弾んでいるのね。士郎さんはどうかしら?」
「それは──えっ、夫ッ!? 両儀さん、ご結婚なさっていたんですか……!?」
「式でいいわよ。苗字で呼ばれるの好きじゃないの。もう結婚してから数年経つわ。既婚者で年上のおばさんに迫られても、士郎さんは嫌かしら?」
「ッ!! そんなこと、ないです!! 式さんは俺と同じくらい若々しく見えます!」
士郎の力強い断言は部屋中に響く。士郎の力説に式は品良く口に手を当てて驚くも、直後にくすくすと微笑んだ。士郎は夫と娘のいる人口説くような発言をしたことに、後悔するように顔を背けるが言葉に嘘偽りはなかった。式は士郎にすすっと近付くと、手を彼の手に重ねる。
「うふふ。士郎さんみたいな、可愛い男の子にそう言ってもらえると自信が出るわぁ。お眼鏡に叶ったようですし。……
「ぁぅ……は、はい」
式の魔性染みた色香にやられたのか、士郎は彼女の囁きにコクコクと首を振ることしか出来なかった。こうして士郎と式は夫婦剣を巡り、逢引を約束してしまう。本来であれば交わることもなかった二人。彼等の関係がどうなるか、それは世界すら計り知れないことであった。
──────
────
──
士郎が了承した直後、式は士郎をベッドに座らせる。そして、彼の股の間に体を割り込ませる。いかに性に鈍い男であろうと、この後は想像がつくと言うもので。士郎は喉を鳴らし、式を見下ろしていた。
「なにぶん急なことですから。用意もないですし、時間もあまりないでしょ? だから今日は前戯だけになると思うのだけど、許してちょうだいね?」
「ぅっ……は、はい! いや、本当に良いんですか……?」
「ふふ。先に言いましたけど、私も普段ならこうまでして刀を求めたりはしないのよ? 普段は夫一筋なんです。けど何故かしら、士郎さんにならしてもいいかなと思うのよね。夫とはまるで違う人なのに」
「ッ……!!? うッ、くッ……!!」
そう言いながら式は士郎のズボンを下ろし、パンツだけの状態にする。式は剣士とは思えぬ細長い指をもって士郎の肉竿をなぞる。布一枚越しだというのに、士郎は直で触られたかのように吐息を漏らしてしまうも慌てて口を塞ぐ。士郎は出来る限りは男らしい所を見せたいと我慢しようとしたのだが、式には我慢しているのがお見通しなのか焦らすように指を這わせた。
「声。出してもいいのよ? ちゃんと気持ちよく出来ているか知りたいですし。何より。私、士郎さんの声がもっと聴きたいの」
「っ……! ぅっ、くぅ〜〜!! き、気持ちいい……です……っ」
「まあ……❤️ 良かった。私もずいぶん久しぶりですから。下手になってないようで安心したわ。なら、そろそろ直でいきましょうか──わぁ❤️」
士郎は式に促さるまま最後の一枚を脱ぎ捨てる。そこには我慢汁に濡れた真剣の如き肉の刀が聳り勃っていた。外気に触れたことで肉刀は震え、式の目を惹きつける。士郎自身、これほど勃起した自分のモノを見るのは初めてであった。眼前にいる式の瞳も、思わぬお宝を見つけたと言いたげな熱を帯びていた。
「これが士郎さんの……若々しさが溢れた硬さはもちろん。刀のように反り立って雄々しいわ……まるで兼定のようね❤️ とっても立派な得物で、士郎さんの将来が怖くなっちゃう」
「し、式さん……!」
「ふふ。ごめんなさいあまりにも見事な業物でしたから、つい見入ちゃったわ❤️ 続き、しましょうか」
士郎の悩ましげな声を聞き、式は口角を上げて指を肉幹に触れさせる。暖房の効いた部屋とは裏腹に、式の手は氷華のように冷温であった。しかして寒さで縮むことはなく、むしろゆっくりと上下する指輪っかの快感で膨張しようとしていた。
「うっ、ぁぁぁ……!! 式さん、それ気持ち良すぎるっ……!!」
「うふふ❤️ 私の夫も、好きなのよね。これ❤️ 士郎さんも気に入ってくれた方で嬉しいわ」
士郎の押し殺した悦楽の声を聞き逃さず、式は得意気な顔になる。そのまま式は士郎の肉刀をシゴきつつ、丸々とした陰嚢を空いている手で揉みほぐす。極上の快感が燃料となり、精液を作り出す。それに伴い熱を帯びた性器が加熱し過ぎないように、式が操る雪白の両手が冷やす。士郎は絶頂の瀬戸際で引き留められ、快楽に喘ぐ。その様子に笑みを湛えながら式は見つめる。
「そろそろかしら? 何時でもいいのよ。男の子なのですもの。我慢なんて、しなくていいのよ❤️」
「式、さん──ッッッ!!」
式の余裕たっぷりな態度に、士郎も一端の男としての矜持はあった。けれども彼女の手淫は士郎の想定の数段上で、式の吐息を吹きかけながらの手コキを受けて。士郎はあえなく射精してしまう。
士郎の肉棒はぶるりと震えながら、亀頭の鈴口から式に向けて慈雨の如く白濁液が降り注ぐ。粘つく大量の子種は式の黒髪、色白の顔、着物に付着する。式も想定以上の射精を目の当たりにし、喜びを含んだ悲鳴を上げた。
「きゃっっ❤️ ぁぁ、こんに出るなんて……❤️ 精力旺盛なのね、士郎さんは❤️」
「ぅ、あぁ……。 式さん。すいません。髪や顔どころか、着物とかに掛けちゃって……!!」
「気にしないでいいのよ。私が士郎さんのこと、甘く見ていたツケね。次は油断しないでやるわ❤️」
「次……!」
次という言葉に、士郎の肉刀はビクビクと武者震いをしているかのように脈動する。式のしなかやかな手も凄まじかったが、更なる快感を予期して体が反応したのだ。その予想に反さず。式は着物を着崩し、サラシを脱ぎ捨てる。女体の神秘を押し潰していた層が剥がれ落ち、顕になった女体は研ぎ澄まされた刀を士郎に思わせた。無駄を削ぎ落とした肉付きでありながら、その玉体は女性の柔らかさを兼ね備えており。感嘆の声を上げてしまう士郎。
「ふふ。見て楽しいものでもない……自分ではそう思っていましたけど。士郎さんはそうではないみたいね?」
「ッ!! すごく綺麗だと……無駄のない、機能美を追求した風情を感じました。俺には、名刀のように輝いて見えますっ……!」
「ぁっ──ふふ❤️ 御世辞が上手ね。そんなに言われたら、年甲斐なく張り切ってしまうわ❤️」
士郎の言葉に式は目を細め、聴き入っていた。勿論、彼女も愛する夫から言われ慣れたことではあった。それでも人から綺麗と呼ばれて嬉しくないほど、今の式は非人間ではなかった。式の頬にようやく朱が差す。彼女はここにきて、等価交換のためでなく。自ら眼前の男のために奉仕をすることを決意したのだ。式はゆっくりと、大太刀の如きイチモツに顔を近付け──深々と亀頭に口付けを行う。士郎は式のしっとりとして瑞々しい唇の感触に、我慢汁が射精のように滲むのを感じていた。
「うっ、はぁっ……!!」
「ぢゅっ〜〜❤️ ちゅっぷ、卑猥なお汁がもうこんなに……❤️ なんだか私の体も熱くなってきちゃったっ❤️ 士郎さんの腺液は媚薬なのかしら──ちゅっ❤️」
本気でそう思っているのか士郎には分からなかったが、式が士郎の我慢汁に夢中になったのは確かであった。式は亀頭の先っぽ、鈴口に吸い付き我慢汁を吸引したり。キャンディーの如く舌で舐り味わった。士郎の長巻は式の唾液と彼自身のカウパーでコーティングされ、今にも爆発しかねない震えを伴っていた。
「ぉ゛、お゛ぉぉっ──! 式、さん……!!」
「んふぅ❤️ もうそろそろね。士郎さんの二発目の射精、いただくわ……あーむっ❤️」
式はそう言うと士郎の肉刀の切先に三度吸い付く。手で陰謀を刺激しながら、舌先で鈴口を舐る快感は耐え難く。我慢しようとも、式の射抜くような熱い視線が士郎の理性を殺してしまう。あえなく士郎は本日二度目の射精を、今度は式の口目掛けて解放してしまう。
普通であれば一度目と比べて減少する二回目の射精。しかして此度の射精は一度目と同等、或いは上回る量の精液を今まで以上の快感と共に発射されかけていた。腰が抜けてしまうほどの最高の射精、しかしてこれだけに終わらずなんと式は士郎の射精を飲み始めていたのである。まさか飲精までするとは思っていなかった士郎は、驚愕と平行して清楚な人妻に己の精液を呑ませている事実にひどく興奮していた。臨界点を突破する興奮の効果は、射精にも如実に表れる。式の中に吐き出されていた射精の勢いが増し、式の鼻や唇から精液が漏れてしまったのだ。
「式さん!? まさか飲むなんて……大丈夫ですか!?」
「んっ、んぐぅ……べぇっ❤️」
それでも式はほぼ全ての精液を飲み下す。そして舌の上に残ったダマの精液を、見せつけるように伸ばした舌の上で弄ぶ。性欲を掻き立てる扇情的な行為。射精して落ち着いた士郎の陰茎は、再び猛り勃っていた。
「ッ〜〜!! エロ過ぎですよ、式さんっ……!!」
「んんぅ……❤️ 士郎さんこそ❤️ こんなにいっぱい出すなんて、助平な人よ。味も苦々しく濃厚で、暫くはどんな物も士郎さんの味になっちゃうわ❤️」
「……旦那さんのより濃厚でしたか?」
「あら……ふふ❤️ どうかしら? もう一回味わえば分かるかもしれないわね❤️ 」
士郎は自分らしくないことを言ってしまったと、心の中で思う。自分自身ならともかく。誰かに負けるのは構わないはずだったのに。式に旦那より自分の方がいいと思ってほしくなってしまい、士郎は口にしてしまったのだ。そんな士郎の葛藤に気付いてか、式はくすりと微笑みをたたえる。その艶やかな顔に、士郎は否応なしに身を乗り出してしまう。
「なら……もう一回。それと、次は俺も式さんにしたいことが」
「士郎さんから? ふうん……いいわよ❤️ 士郎さんのお手並み拝見させてもらおうかしら」
式の合意を得て士郎は、ベッドに横になった。その際、式には着物を脱いでもらい、下着だけになってもらうように告げる。式は士郎の指示通り、士郎の精液で彩られた着物を完全に脱ぎ始めた。天女、そう呼ぶべき貴婦人の裸体を前に。士郎の思考に目を離すという選択肢はどこにもなかった。
「……そんなに見つめられると脱ぎづらいわ❤️ 士郎さんなら、もっと綺麗な人の裸体を見たことあるでしょうに」
「今まで見た女性で、式さんが一番綺麗だと俺は思いました。すみません。目が離せないです……!」
「──もう❤️ 士郎さんは酷いスケコマシね。そんなこと言われたら、見ないでなんて言えなくなるわ❤️」
かつて士郎が参加した聖杯戦争にて。士郎はパートナーとなった、サーヴァントや協力者の裸体をとある事情から見たこともあった。けれども。今ここにいる士郎は、無垢な顔で年下の男を誑かす、妖艶な麗人に心奪われていたのだ。
抜き放たれた彼女の裸体は、着物の隙間から垣間見えていた通り黒一点ない雪肌で。聞いていなければ子持ちだとは想像さえしないすらりとした玉体。胸は控えめだが、その小振りさは手で鷲掴み出来る丁度良い大きさだった。お尻の形も素晴らしく、士郎の目から見て歪みは皆無と断定する。俗に言う安産型で、士郎はこの後の行為に否応なく興奮が増すのを感じていた。総じて女性として、母として珠玉の体であった。士郎はこれからするプレイについて恐る恐る口にする。
「式さん。次はフェラしながら、俺の顔にお尻を向けてくれますか。シックスナインっていう体位なんですけど、いいですか……?」
「ええ、確かしたことはあったと思います。圧迫されながらシゴかれたいなんて、ヘンタイね❤️ ……その。重かったり、臭ったらすぐに言ってくださいね?」
式は夫としたことがあったようで、士郎は少しだけ残念に思う。けれどもこの後のことを思うと、がっかりした気持ちはすぐに消えてしまう士郎。式は恐る恐ると士郎の顔にお尻を向ける。士郎は股間部に感じる熱い吐息と、目の前に迫る美尻の圧にいいしれぬ興奮を感じ肉刀は更に硬度を増す。士郎は一、ニもなく式の既に蜜汁で濡れていた秘裂にしゃぶりついた。
「ぁっ!!? んっ ふぅぅっっ❤️ いきなり、始めるなんてっ……悪いワンちゃん❤️ 私の方も、手加減しませんから──あぁむっ❤️」
「ッッ!! くっ、ぅぁッ〜〜!!」
士郎がしゃぶりついた矢先、式は士郎の肉刀を頬張る。生暖かい口内に取り込まれ吸引されると、士郎は理性を根こそぎ引っ張られるような感覚に陥る。式は肉刀に舌を絡ませながら、口内から抜いては咥えてを繰り返す。手慣れた断続的な快感に士郎はされるがままだったが、己からしたいと申し出たことでこのままヤられっぱなしなのは嫌だと意を決してクンニを再開する。
「じゅるっ、じゅっぽ──んんっ❤️ ぁっ❤️ 士郎、さんっ❤️ そんなに舐められたら、集中出来ないわっ❤️」
「れうっ、じゅぞぞぞっ……!!」
それまで士郎をイかせようと、一心不乱に肉刀を舐めていた式に変化が起きる。士郎のクンニに式は、吐息混じりの喘ぎ声を上げたのだ。集中出来ないと式は士郎に言うものの、彼女のお尻は無自覚か士郎に押し付けられていた。すなわち彼女が望んでいることに他ならないと判断した士郎は舌の動きを止めなかった。
「んんっっ❤️❤️ ぅ、ふっ〜〜❤️❤️ こ、このままじゃ……❤️ なら、先にイかせれば……ッ❤️」
「じゅるっ──ぐっ!!? ま、まだまだ……!!」
両者、先にはイクまいと全身に力を漲らせ絶頂を踏み止まる。片方は年上で既婚者としてのプライドから。もう片方は惹かれ始めた女に良いところ見せたいのと、女の番たる雄には負けたくないという闘争心から口淫を加速させていた。部屋の響き渡る水音に比例して、我慢汁或いは蜜液が溢れるが二人は尚も口を離そうとはしなかった。士郎は不慣れなクンニで式を悦ばせ追い縋るも、口淫の技巧は式の一日の長があったこともあり──式がイク前に、士郎は式の口内且つ喉奥で射精をしてしまった。
「くぅっ──射精るっっ!!」
「ン!! ン、ンンッッ〜〜❤️❤️❤️」
士郎は思わず腰を引けてしまうが、式は執念深く追撃するかのように手を士郎の下半身に回し固定する。肉刀は式の口内で狂ったように振るわれるも、式はそれすら受け止め士郎の精魂を飲み干していた。シックスナインをしている士郎は伺えないが、式は鼻から精液が逆流しようとも決して離さず飲み尽くそうとしていた。その顔は黒猫や兎を思わせる凛々しさはなく、ただ男を吸い殺す淫魔のそれであった。
「ゴクッ、ゴクッ❤️ ジュルルッ、ズズズッ……❤️ ンクッ──はぁ〜〜❤️ 士郎さんの射精はきっと麻薬ね❤️ でなきゃ、こんなに私を熱くなる筈がないもの❤️」
「ふぅ、ふぅー……俺も式さんに同じ意見を持っています。式さんを見てから俺、ずっと気になって仕方なくて。式さんは魔女か天女なんかじゃないかって思ってましたもん。今も式さんに夢中になって……そのっ」
「わっ……❤️ 本当ね、あんなに出したのにまだ元気だなんて……とっても素敵よ、士郎さん❤️ 明日のゴムは多めに用意しないといけないわね❤️」
明日も付き合ってくれる。そう思わせる言葉を聞いただけで、士郎の肉刀は震えてますます硬くなっていた。だが、士郎としては明日の本番を迎えるにあたって、どうしても達成したいことがあった。
「ふぅ──。次は絶対に式さんを先にイかせます」
「あら、生意気❤️ 今日の所は勝ち逃げさせてもらうわよ❤️ 士郎さんの弱い所、もう見極めちゃったもの❤️ れう──❤️」
「ッ!! それでもっ、一回くらいは──!!」
士郎は決意と共に再び式とのシックスナインに臨む。けれども一日目はあと一歩という所で先にイかせることは叶わず、時間切れが迫り士郎は帰宅することに。士郎は悔しさを胸に秘めながら帰宅する中、二日目は絶対に先に式を絶頂させることを心に強く刻み込んだのであった。最早、彼女が既婚者であることなどは頭にあらず。彼女をもっと気持ちよくさせたい、もっと自分に夢中させたいと思っていた。
──────
────
──
同日、士郎が帰宅した後。式の仮住まいにて。式は士郎を玄関先まで見送り、士郎の姿が見えなくなるとフラフラと足取り悪くなりながらなんとかベッドに倒れ伏す。式は深く息を吐き出す。それは悲しみからではなく、むしろ安心感が滲んでいるように感じるものだった。聞くものがいたとしたら、僅かに残念感も感じる式のため息であった。
「危なかった……。あのまま士郎さんが帰らなかったら。本番までいってたわね、私」
士郎は最後まで式を満足させられなかったと感じていたが、決してそんなことはなかった。彼のテクニックは回数を重ねるごとに進化しており、式を幾度も喘がせていた。式は子供が産まれて以来、感じることのなかった多幸感に包まれて理性がドロドロに溶けていた。彼女は衝動的に士郎としてしまいたくなっていた。夫以外とはしたことのない、後生他の男にさせるつもりもなかった──本気の子作りセックスを。
「明日、ゴムがなくなったら……ンッ❤️ 本番はダメ。ダメ、だけど……取引の適正から考えると、本番をしても仕方ない。そう……わよね❤️」
式は未だ湿り気と熱を持った秘裂を指でなぞる。物欲しそうに蜜液を垂らす自身の浅ましさに嫌気を差しつつも、式は本番をすることへの建前を口にしていた。それが言い訳であることは式自身、一番よく分かっていた。けれどもそれを咎めるものは誰もいなかった。
「……そうね、明日。本気で搾り取って……それでもヤれるなら。本番、考えてもいいかしら……❤️」
式は自身の中で折り合いをつけると明日の準備をすることにした。だが彼女の中ではもう結果は見えてしまっていた。自分はあの年若い少年と交わり、しまいには一線を超えしまうだろうと。今日のやり取りで確信してしまっていた。式はそのことを、遠くにいるであろう夫に告げる。
(コクトー。早く迎えに来ないと、貴方以外の男に孕まされちゃうわよ……❤️)
式は妖しい笑みを浮かべながら、夫である現在は両儀、旧姓は黒桐幹也を思い浮かべる。元々この街に来たのは件の極道殺しが、彼の中学時代の友人だったことが始まりであった。極道殺しの正体を知った幹也が式に彼女を止めるようお願いをしたので、遠路遥々この街に来たのだ。犯人の特異な力も、式の前に交戦していた浅上藤乃により推測出来ていたので式は難なく彼女を対処し捕縛した。相方として近くに待機していた藤乃に極道殺しを引き渡し、式からすると後は帰るだけであった。
だが式はふと思った。最近の幹也は暇な時は娘の未那に付きっきりで。危ないことがあれば、式が辞めろと言っても首を突っ込む。そんな積み重ねが積もり、式はちょっぴりだけ不満を覚えていた。そこで式は一人旅をするから捜すなと言ってこの街に滞在することにしたのである。彼が何日で迎えに来るのか、それによって今後の方針を決めようとしたのであった。と言っても彼と別れる気も、彼が自分を離さないつもりなのも十二分に理解はしている。だからこれはちょっとした遊びだったのだ。けれど──。
(士郎さんに、出会ちゃった……❤️ なんでかしら、男の人を見てこんなに胸がザワつくのなんて初めて。彼の剣や刀を思わせる雰囲気から?)
(何にせよ、本気にはならないようにしなくちゃね。流石に……弟か妹はまだ早いですもの❤️)
本気にはなるまいと式はそう自分に言い聞かせる。だが一度知ってしまった熱は冷めることはなく、式の全身に広がっていた。そんな彼女が明日のためゴムを買い込んむ姿は、艶が溢れんばかりで。薬局の店員が喉を鳴らすのも無理はなかった。それから式は明日のため、早めに床についたのであった。
雪の日にはまだ遠く。幹也が式を見つけるのは、もう少し時間が掛かるようであった。
──────
────
──
式の情事で夜遅くに帰ってしまった士郎は大河にこっぴどく怒られていた。普段の彼ならその最もなお説教を真摯に受け入れ反省する所であったが、彼の脳内は式でいっぱいだった。故に士郎は大河のお小言が一区切りついた所で、明日のことを切り出した。
「──だから、夜遅く外にいるのは危ないのよ。本当に分かった、士郎?」
「ああ、うん。十分気をつけるよ藤ねえ。所で明日、知り合いの家に泊まりに行くから夕飯用意出来ないから」
「泊まり~~? 知り合いって誰なのよー? 柳洞くん? 間桐くん? それとも凛ちゃん?」
「いや全員違うかな。最近知り合って、刀に詳しい人。ちょっと色々語り合いたいというか、なんというか……命を大事にする優しい人だよ」
士郎は式に初めて会った印象をそのまま伝える。殺しを口にする彼女だったが、その本心はまた別のものであると士郎は感じ取っていた。彼女の瞳は殺人の痛みや哀しみを知り識るそれだと。だから士郎は、彼女が自分に害する人ではないと確信していた。
大河は士郎の知り合いと言う人の印象を聞き、うんうんと呻く。反対しても無駄だと悟ったのか、大きくため息を吐いた後に話しを始める。
「まあ士郎がそこまで言うなら悪い人ではないんでしょう。けど例の犯人はまだこの街にいるかもしれないんだから、お泊まりしても夜中に出歩くのは駄目よ。約束出来る?」
「約束するよ、藤ねえ。暗くなったら外は出歩かない」
まあ出歩く暇も、犯人が現れることないだろうけど。士郎は心の中でそう呟く。士郎は元より外に出るつもりは全くなかった。大河が知れば不純異性交遊と叫ぶかねない行為。そんな邪な目的を抱いた士郎は、したたかに不用意に外出しないことを約束したのであった。
そして二日目の朝。士郎は手早く朝食を済ませると、そそくさと式の家へと向かった。自分はここまで色狂いだったのかと自覚してしまほどその歩みは軽やかでずんずんと道を進む。家を出るのが早すぎたかと士郎が思い始めた最中、道端でバッタリと買い物袋を持った式に出会ったのである。
「あら、士郎さん。……ふふ。こんなとこで会うなんて、待ちきれなかったのね?」
「式さん! その、はい……式さんは買い物を?」
「ええ。
「食べました……けど! もしいいのなら、式さんの料理食べたいです!」
「ふふ、元気ね。なら腕によりをかけるわ。行きましょうか」
「はい!」
士郎は前のめりになりながら返事をする。今気になっている人の朝食を食べられる幸福を噛み締めながら、士郎は式と一緒に歩き出した。
トントンと小気味良い音が部屋の中に響く。式の仮宿たるアパートで。士郎は袖を捲って包丁を巧みに振るう式の姿にじっと凝視していた。危うげない包丁捌きは彼女がいかに料理に慣れているのかが表れていた。素人のそれではない、料亭の板前みたいだ士郎は心に思う。
「手慣れてますね。やっぱり、家では式さんが料理を?」
「普段は家の人に作ってもらっているわ。でも、偶に娘や夫が食べたがるからその時は私が用意しているの。まあ家の人に比べたらまだまだよ。帰り道で献立を当てたのもそうですけど、士郎さんも料理を?」
「素人の見様見真似ですけど、小さい頃から。爺さんに健康的なもの食べさせたくて始めたんです」
「……そうなのね。きっと嬉しかったはずだわ。まだ小さな子が自分のために頑張ってくれるなんて。お爺さん、きっと喜んでいた筈よ」
「……だといいんですけどね」
士郎は頬をかきながらそう呟いた。そうこう話している間も式の手は止まらず、料理は着々と完成していた。そして士郎の前には見慣れているが、そのどれもが丁寧に作られた食事がズラりと並べられる。食欲を掻き立てる出来たての匂いに喉を鳴らしてしまう士郎をくすくすと笑う式。彼女が座ったのを皮切りに、二人は互いに手を合わせて遅めの朝食を始めた。
「んんっ……! 美味い!! 式さん、謙遜していましたけど、凄く美味しいですよ! 料亭で修行とかを?」
「うふふ、そこまではしてないわ。ただ自分で作るなら、不味いのは我慢出来なかったから。それで上達しただけよ」
「なるほど。確かに式さんみたいな上流階級の人なら、舌が肥えちゃいそうですもんね。後でレシピとか貰っても良いですか?」
「構わないわよ。士郎さんの料理も食べてみたいけど……そういう時間はないかもしれないわね?」
式の言葉に士郎の料理をせっせと運んでいた箸を動かす手が止まる。式の言葉に釣られて士郎が彼女の目を見やると、細められた瞳には捕食者のような光彩を感じた。式の所作は高貴な家柄で育てられているのがよく分かる上品さがある。食事にもそれは表れており、箸の運び方すら士郎とは比べ物にならない気品を感じさせた。だがその可憐さを打ち消すかのような、肉欲に満ちた眼光が今の式には宿っていたのだ。士郎は料理の美味しさで薄れていた、肉欲が呼び起されるのを感じ三度喉を鳴らしてしまう。
「それはっ、そうですね。俺も……そのつもりで来ましたから」
「そう。そうよね❤ 私も年甲斐なくはしゃいでいるのかしら。士郎さんを前にすると抑えがきかないわ❤」
「ッ──!! その、急いで食べるんでっ! ああいや、式さんの手料理を味わいたい気持ちもありますけどっ!」
「ああいえ。急かしたつもりはなかったの。ゆっくり食べましょう? 今日と明日、時間はまだあるでしょうから、ね? その時、たっぷりとね❤」
「は、はい……!」
式の言葉に先走りそうになる士郎。特に式本人は誘ったつもりはなかったのだが、彼女の内は知らず知らずの内に士郎を求めてしまう。それ故か、彼を見つめる目に好色を浮かべてしまっていたのだ。そうしてまんまと誘われた士郎を見て、式はそれほど彼が求めているとはと内心で肉欲を滾らせる。それが自分のマッチポンプのような誘いが起因だとは知らずに。
十数分後。時折の会話を挟みつつも黙々と食事を終えた二人は後片付けを済ませる。時折視線を交わらせ、事故で体が触れてしまうこともあった。その度に互いの顔には朱色が浮かぶ。そして全て片付けを終えた二人は昨夜、幾度となく性液をまき散らしたベッドに腰掛ける。二人は性欲、肉欲、情欲を帯びた視線で相手を見続ける。そのまま始めそうな雰囲気に及び腰になった士郎は他愛もない話を切り出した。
「その、式さん……」
「っ──な、なにかしら? 何か不都合でも?」
「いえ、そういうわけじゃっ!! ただ、ちょっと気になったことが。式さんって初めて会った時とはその、雰囲気というか、口調が違ってましたよね? 二重人格ってやつなんですか?」
「ああ……私の場合は二重人格というより、複合個別人格ね。まあどちらにせよ今は違うわ。昔は私の代わりに死んでしまった
「なる、ほど……? あの時の男装の麗人っぽい式さんはそういうことだったのか……」
「ふうん? あっちの私が気になるの? 士郎さんは──オレの方が好みか?」
式の口調が切り替わった。士郎がそう認識したと同時にするりと士郎は押し倒されていた。刹那の早業。士郎は彼女の身のこなしから気付いてはいたが、式は相当な合気道の達人のようでいつの間にか彼女を見上げるように押し倒されていた。士郎が見上げる式の瞳は、それまでと違って不敵な眼差しが向けられる。あの雨の日とは違い螺鈿の光を発してはいなかったが、それ以外は同じ力強さを感じさせる鋭い目であった。
「式、さん……!? 本当に二重人格じゃないんですよね?」
「ああほんとだよ。あくまでフリだしな。にしても……ふうん? ずいぶん、興奮してるじゃないか? おまえ、男っぽい女の方が好みなのか」
「いや、これはそのっ……!!」
式がさわさわとズボン越しに士郎の屹立した突起を撫でる。冷たさすら感じるような式の目付き。だが不思議と士郎にはその目付きすら魅力的に見え、ベッドの感触や匂いから昨夜の情事を思い出し自然と勃起してしまう。式はそれを見てくつくつと笑い、その笑い方すらも今までのお淑やかな彼女とは違っていた。
「ガサツなのが好きなのって、ヘンな奴だなシロウは。まあいいぜ。オレをお望みということなら、好きにやらせてもらうからな。……着替え。持ってきてるか?」
「え? ああ、一応……」
「ならいいか。高いのだったら弁償してやる」
式はそう言うとズボンに撫でるように指を動かした。すると、ズボンとその下にあった下着ごと真っ二つに斬り開かれてしまう。士郎はその現象にも驚いたが、それ以上に一瞬彼女の目に迸った螺鈿の光彩に目を惹かれていた。士郎の驚嘆に気にも留めず、式はベッドの脇に置かれていたレジ袋からコンドームの箱を取り出す。そのまま士郎が固まっている間に、ビクビクと震える肉刀にゴムを装着する。そのまま式は乱雑に着物を床に捨てた。昨夜、士郎が舐めたくった秘所はしっとりと濡れそぼっていた。
「んじゃ、ささっと始めるか。お前の利かん棒も待ちくたびれただろ」
「式さん! その、準備とかは……!?」
「いらないよ。オレの方も、飯の時から待ちくたびれてたんだ……❤ 直ぐに果てるな──よッッ!!」
「ぐぅぅっ──お゛ぉぉおおっっっ~~!!」
士郎のコンドームに包まれた屹立に向けて、式はズンと腰を下ろす。躊躇いなく振り下ろされた蜜壺に、士郎の肉刀は肉を抉り裂くように女体の最奥へと突き立てられる。たまらず士郎は恍惚とした雄叫びを上げてしまう。ぴたりと閉じられていた膣壁を穿ち進む感触は数ミリメートルのゴム越しであろうと士郎の性感を否応に高める。士郎は女性との経験は確かにあった。しかし式の性器はかつての聖杯戦争で体感した英雄女傑の性器と同等以上で、強烈な快感が士郎の全身を迸る。士郎は早々には射精しまいと歯を食いしばりながら、式を見やる。さしもの夫のいる身であろうと、久しぶりの性交且つ士郎の大太刀には彼女も嬌声を漏らしてしまう。
「ッッ~~❤ やっぱり……ふぅ~~❤ イイ、形してるなぁ……❤ オレの死角を的確に抉ってきやがるっ❤ 形だけなら
「おぉぉっ……!! ふぅ、ふぅ、形だけじゃなく。他の方でも式さんを満足させますッ……!」
「ふーん? くっくっ❤ 悪くない啖呵だな。どこぞの初夜でガチガチだった男とは大違いだ──動くぞ、シロウ❤」
式は心底愉快そうに笑った後、口を三日月のように吊り上げる。そのまま式は腰をゆっくりと上げ勢いよく降ろす。式の膣内は入り口の部分は何者も拒絶するように閉じられているが、内に内に入るにつれて肉棒を逃さまいと襞が絡み付く魔性の蜜壺。式が腰を上げ肉棒が外に出ようとすれば、肉襞は士郎の肉刀に密着して離れようとしない。その圧迫感はゴム越しでなければ今にも射精してしまいそうなほどに性感をもたらす。士郎はなんとか耐えていたが、式がギリギリまで肉棒が抜けた所で無慈悲に再度士郎の腰に尻を打ち下ろす。二度目の最奥に士郎の肉刀が引き戻され圧迫感が再び襲う。肉刀の切っ先たる亀頭に密着する子袋の正門。たちまち士郎の全身には、震るえ上がってしまいそうな稲妻の如き快感を駆け巡る。士郎はもはや言葉にですらない、音を上げる肉袋と化す。
「ぐっ、ぅっ、ふぅぅ~~!!」
「ふっ❤ あぁっ❤ まだっ❤ まだだぞっ❤ ぅ、ぅン❤ オレが満足するまで、射精すなよっ❤」
興奮で高まった熱によって、雪のように白い肌を朱に染めながら跳ね回る式。さながら首狩り兎のようだ、そんな感想が士郎の快楽で微睡んだ思考に浮かんでいた。だがそんな軟な感想は式のピストン運動によって殺されてしまう。上下左右、士郎という馬を乗りこなすように騎乗する式の腰さばきは熟練のそれで。彼の陰嚢から精が上り詰め、今にも射精してしまいそうになっていた。ふと士郎は彼女は夫一筋と言っていたが、こんな風に男と体を重ねたことはあるんじゃないかと邪推してしまう。それを感じたのか、式はより一層腰を深く下ろし士郎を悶絶させる。
「ぐっ、ォッッッ~~!!」
「おい、なんかイヤらしいこと考えてただろ。おおかた、オレのこなれたやり方が気になったんだろ? お生憎様。おまえがオレの二人目の男だよ、シロウ」
「ッ!! は、はい……考えてました。すみません、式さん」
「いいけどさ。だって、それくらい気持ちよくて、もう限界って感じなんだろ。まあこの分だと、シロウも期待外れかな……」
そう言って士郎を見下ろす式の目には落胆、失望がありありと写っていた。それだけ期待が大きかったのだろう、彼女は肩を落としていた。式の悲し気に細められた目を見た瞬間、士郎の射精しようとしていた思考が両断される。士郎は最初に宣言したことを、今一度思い出した。そして息を大きく吸い込むと、中途半端に止まっていた式を突き上げた。
「ンァッ❤ お、おまえっ❤ いきなり、何──ォォ、ンッ❤」
「まだ、俺は射精てないですっ! 最初に宣言した通り、式さんを満足させるまで……!!」
「ッ──❤ くっくっ❤ はははっ!! そっかそっか❤ 悪かった。まだおまえのこと見くびってたよ。そこまで言うなら、私をイかせろ──よッ❤」
士郎の熱に当てられて、式は全身を艶美に震わせる。その興奮は士郎に計り知れなかったが、式が再び笑みを取り戻したのを見て士郎は頷く。絶対に彼女を満足させるまで、射精しない。そう決意を確固たるもとのした士郎。再び式がピストン運動を始めると、先程と打って変わって士郎は腰を突き上げるようになる。その度に式の小さな口から甘美を感じる淫音が響き渡る。自分と彼女の夫以外知らない嬌声。士郎はその声を聞く度に射精を堪える弁が外れそうになるが、決意を糧に食いしばる。今だ出会って一週間。ちゃんとした会話をしたのはつい昨日のこと。けれども、士郎と式の息は抽送を繰り返す度に息が重る。式も当初の余裕はなく、熱のこもった息を繰り返して吐き出す。息を吐くだけで扇情的に男を惑わす月下美人を前に、士郎はいよいよ絶頂が近いことを目にする。
「ふぅ、ふぅ~~!! 式、さん……!!」
「あっ❤ はぁっ❤ イイ、いいわ士郎さ──シロウ❤ もうすぐ、オレもイけそう──あぁぁっ❤」
「式さん、絶対イかせますっ──ふンッ!」
「ふぅぁぁっっ~~❤ んくゥッ❤ し、シロウっっ〜〜❤️ ン゛ッ、ァァッッ──ア゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ゛ッ゛──❤❤」
快感で足腰が震えピストンが緩んだ式に対し、士郎は好機とばかりに突き上げ攻め立てる。士郎は渾身の一突きをもって、式の最奥たる子宮の正門を穿ち抜いた瞬間。式の全身は小刻みに震えだし、舌を突き出して体は弓なりに反らしていた。外から見ても彼女が絶頂したのは明らかで、士郎は己の肉刀に密着し離さまいとする肉襞の伸縮から絶頂を感じ取る。その快感は今までの比ではなく、士郎の射精を堪える弁はいとも容易く殺されてしまう。士郎が絶頂を感じ取った瞬間、士郎もゴム越しだが式の中で射精してしまっていた。
「は、あァァァッ~~❤❤❤」
「くぅぅっ……!!!」
ドク、ドクと音が鳴っているかのような重厚な射精。ゴム越しでなければ、幾人をも孕ませるにたる大量の精がゴムを膨らませる。式は内で射精と共に震える肉刀の熱に酔いしれながら、久しく感じていなかった絶頂を堪能していた。自然と式は士郎の体に身を預けており、式と士郎は無意識に手を互いの体に回していた。
「ふぅぐっ……❤️ ふぅ──❤ ああ、悪くなかった……❤ 刀の趣味が合いそうな色男だと思ったが、まさかこっちも合うとは思ってなかったな……❤」
「ふぅ、ふぅ……。式さんも、気持ち良かったなら何よりです。えっと……」
「なんだよ? 言い掛けたなら最後まで言え。それとオレのことは呼び捨てでいい。固い口調もなしだ。オレとおまえの仲だろ、シロウ❤」
「それは……! いや、その顔は反則ですよ……! えっと、式さん……し、式?」
「なんだ、シロウ……❤」
式の提案に士郎は初め、こういう関係を持ったとはいえ年上を呼び捨てたりするのはどうかと思ったが。間近で見つめる式の不満そうな顔に、士郎は耐えきれず式を呼び捨てで呼んでしまう。呼ばれた式はニヤリと笑い士郎を見やる。それだけで士郎は式への好意が燃え上ってしまうのを感じる。気品漂う若妻の姿の式も魅力的ではあったが、この悪友感漂う先輩風の式に士郎の心はときめいてやまなかった。だが、やはり彼女は士郎の知らない男の夫で娘もいる女性であるのは覆しようがなかった。士郎は惚れちゃだめだと自分に言い聞かせ、当初の目的である質問をすることに。だがその質問もまた、士郎が人妻である式のことを意識して止まない証左に他ならなかった。
「その、どうだったかなって。俺と式の旦那さん……どっちの方が式さんを満足させられたのか。 いや、答えにくかったらいいけど!!」
「へぇ? まあテクだけなら、幹也の方だな。あいつは人の弱点を探るのが得意だからな。おまえのヤり方も悪くなかったが、あいつほどじゃなかった。……数を熟せば分からないけどな」
「ッッ……そう、か」
式は士郎の問いに悩み素振りすらなく、きっぱりと夫に軍配を上げた。やはり聖杯戦争での経験だけの士郎と、自身の能力と数をこなしている幹也とでは分が悪かったのだ。意中の女性から別の男の方が良いと言われたショックは大きく、士郎は目を閉じてしまう。しかし、式は続けて口を開いた。
「ただ。それ以外はおまえの方がよかったぞ、シロウ❤」
「えっ……?」
「幹也は体力がないからな。シロウみたいにガンガン動けないから、途中から突き上げてくるのはいい刺激だった。それに何より精力だな。幹也じゃこんなに出ないし、一発出したら休憩しないといけないからな……❤」
そう言って式は大量の精で膨らんだゴムと、今だ天を貫かんばかりに勃起している肉刀を見る。じっとりと熱視線を送る式の眼差しに、士郎の肉刀はビクビクと興奮で震え今だ健在なことを示す。その反応に式はくつくつと、可愛いいなとでも言いたげに笑みをこぼす。
「ははっ❤ 元気いっぱいだな、オレもおまえも❤」
「し、式さ……式」
「ん❤ そろそろ再開するか❤ ……幹也よりカッコイイところ、見せてみろよ❤️」
「ッ……!! 次は俺からもっ!」
「ふっ……いいぞ❤ 思う存分、動いてみろ──ん゛ん゛っ❤」
士郎はいきり勃つ肉刀にゴムを装着すると、ベッドに転がった式に覆い被さると肉刀を蜜壺に侵入する。先程までの騎乗位と違い、士郎の勢いある挿入に式は開幕から嬌声を上げてしまっていた。
「ンッ❤ アッ❤ シ、ロウッ❤ フッ❤ アッ、ハァッ~~❤」
「ふぅ、ふぅ!! 式の感じている顔、とても綺麗だ……! もっと、もっと、見たい! 式っ、式っ!!」
「ンンッッ❤ このっ、調子に乗って──ッァァァ❤ くぅ~~❤」
士郎の下、快楽に悶える式の顔には玉汗が浮かび瞳は潤んでいた。今まで気丈に振る舞っていた彼女が目の前で喘ぐ姿は、士郎の心を大いに滾らせ情交を更に激しくさせる。その度に式の艶やかな美貌が引き立ち、士郎は思わず可愛い綺麗と呟いていた。
「お゛ッ❤ ほ゛ぉ゛っ❤ お゛う゛う゛ッ❤❤」
「フゥ、フゥッ、■■■ッッ──!!」
もはや快楽によって狂化した士郎は式をイカせること、それだけを目的として一心不乱に抽送を繰り返す。士郎と式が織りなす合奏は、部屋中に響き渡り隣の部屋にまで届く勢いであった。もし正面や隣の部屋に誰か滞在していれば、怒鳴り込まれかねない喧騒である。しかし今の時刻は入居者がまだ帰ってきてはおらず、二人の交わりを邪魔する者はいなかった。そして熱とは際限なく高まるもので、二人の性交が次の段階に移るのは遠くなかった。
──────
────
──
式が仮宿とするマンションの一室、そこには二匹のケダモノがいた。雄のケダモノは荒い息吹を吐きながら、腰を動かす。ありとあらゆる場所で雌と交わり、快感を高めればゴムの中に精を吐き出していた。雌もまた同様に性に貪欲で、雄の肉棒を締め付ける強さは終始緩むことはなかった。
「フ──ッ❤ ン゛ン゛ッ゛ッ゛ッ゛❤ ア゛ッ゛❤ お゛ぉ゛ぉ゛、ン゛ッ゛❤ フッ❤ フッ~~❤❤」
「ッッッ──!!!」
ある時はベッドの上で。ベッドには幾度も貪った証として、精液が並々と詰まったコンドームが縛り置かれていた。兎から蜘蛛へとクラスチェンジした式は、蜘蛛の巣に捕らえられた蝶を貪るように精を搾り取っていた。ベッドが軋みほどの激しいスパイダー騎乗位は、士郎を幾度となく射精させた。同時に式の最奥を深々と突く性感に、式もまた潮を噴きメスイキを晒していた。
「式っ、式っっ!!」
「んっ❤ あっ❤ シロウっ❤ そこっ、そこォッ❤ もっと、こいっ──あッッ❤❤」
ある時はリビングの壁にもたれかかりながら。壁に手を当てながらお尻を上げた式を後ろからハメる士郎。所謂、立ちバックという体位で士郎は腰を突き出しまくる。時には式の片足を抱えながら、抽送を繰り返す。そのつど士郎は式の体を支えるため直に触れる必要があり、彼女の細くくびれのある完璧な黄金比の腰、一児の母とは思えぬ臍に触れ、士郎はえも言われぬ興奮から射精を繰り返していた。
この荒い息吹と嬌声が奏でる性の合奏は幾度もアンコールされ、性のケダモノと化していた士郎が抽送を繰り返していたある時。何かが裂けてしまう音が二人の股間部から響き渡る。けれども性欲に突き動かされた二匹のケダモノは、その微かな音に気付くことが出来なかった。必然。士郎は本日何度目かの射精をした際、何時もとは違う感覚があったことでようやく気が付いた。ゴムが裂けたことで、士郎の出した精液がそのまま式の中に入ってしまったことに。最高の射精と絶頂に至った式と士郎を一瞬で我に帰るほどの衝撃で。
「ッ゛ッ゛ッ゛~~❤❤ ん゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッ❤️❤️──っ!?」
「フ──……んっ!!? ま、まさか──!!」
射精直後の余韻に浸っていた士郎はすぐさま肉刀を引き抜く。そこには引き裂かれたゴムと、式の中に続く白濁の液系が絡まった己の愚息があった。肉刀を抜いた後にも糸は続き、そこからゆっくりと濃い白濁の液体がドロドロと流れ出る。それは式や士郎の我慢汁などとは似つかぬダマの液体で、言うまでもなく士郎の出した精液であった。士郎は式に中出ししてしまったと気付いた刹那、血の気に引いた顔ですぐさま式に土下座を決めた。
「すみません式さんッッッ!! まさかゴムが破れてたなんて……! なんで途中で気付けなかったんだ……なんて言ったら──!!」
「あー、分かったから取り敢えず顔を上げろ。オレの方も浮かれてて、そういう危険性を失念してた。だからおまえだけのせいじゃない。どっちが悪いかで言ったら、どっちも悪い。それでいいだろう?」
「……はい。その、式さん。すぐにでもピルとかの用意を──」
「──用意ね……」
士郎は式の気遣いもあり、ようやく顔を上げるが不安そうな面持ちであった。士郎は万が一にを危惧し、避妊薬の用意を提案するが式は即答しなかった。情事の最中であったことから、式の体から浮ついた熱が未だ引いていなかったのだ。
熱に浮かされた式は考える。本来ならばゴムがなくなった後、それでも士郎が乗り気ならば本番も致し方ない。そういう方針ではあった。だが今この瞬間、事故とはいえ式は士郎に中出しされてしまった。──ならばもういいのではないか。一回も二回も同じことだと。薬の用意は後からでもいいだろうと。臍の奥から全身に広がる疼きから、式はそのような非常識な考えを導き出してしまう。士郎に出された精液と共に蜜液が式の太ももを伝い、彼女はそれを指ですくい舌で舐ってしまう。扇情的な行為に士郎は言葉なく見つめていた。
「──ちゅっぱっ❤ 避妊については後でもいいだろ。今すぐ生でヤりまくりたい──今考えているのはそれだけだろ❤ 違うか、シロウ❤」
「ッ、あぁ、お、俺は……!! ……は、い。俺も、式とこのまま続きがしたい……!」
「どんな風に?」
「な、生でっ! ゴムを付けない、直でしたい……です!!」
「ああ、オレも同じ気持ちだ❤ おまえと本気でヤりたい❤ 後先なんて考えない、ただ気持ちよくなるためだけの
その瞬間。両者から、子供が出来たらとか、家のこと、夫や娘への説明等。そのような些末な事は忘却してしまう。相性抜群の生ハメセックスを目の前に、二人は己の欲望を縛る理性を完全に殺してしまった。今までゴムという鞘に包まれていた肉刀が今、抜き身のまま式の奥深くへと貫かれる。
「──式!!」
「ん゛ん゛っ、ぁっ──あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛っ゛っ゛❤️❤️❤️」
「ッッッ──!!」
式の一際甲高い喘ぎ声が士郎の耳を虜にする。士郎も生の快感に歯が割れるかもしれないほど、歯を食い縛った。しかして快感を感じないこと等が出来る筈もなく、口の隙間から竜の息吹のような呼気が漏れてしまっていた。そのまま暫くは、生の快感に慣れるためじっと相手を見つめていた二人。長い時間が経ち、どちらともなく頷いたのを皮切りに腰を突き動かす。
「フッ、フッ、フッ──!!」
「ン゛ッ゛❤️ ァ゛❤️ た゛め゛っ゛❤️ これっ❤️ シロウっ、さんのおちんぽっ❤️ オレが──わたしがっ❤️ わたしじゃ、なくな──る゛ぅ゛ぅ゛ッ゛ッ゛~~❤️❤️」
演技がなくなり、素の口調を引き出すほどの滅多刺し。士郎の肉刀たる怒涛の責め苦に、式は髪を振り回して身を震わす。いつしか式の腕や足は雄の体に巻きつき、腰は深く突き出す。心と体、全身全霊で士郎を求めてしまっていた。士郎は己を受け入れてくれた式のため、言葉すら惜しんでひたすら突きまくる。止めどなく溢れる蜜液と我慢汁が混ざり泡立つ。淫猥なミックスジュースが肉刀を濡らし、潤滑油として性交を補助し絶頂への段階を駆け上がる。
「はぁ、はぁ……式、式──!!」
「ァンッ❤ シ、ロウッ❤ ゥ゛ゥ゛ッ゛❤ ア゛ッ゛❤ シロウ──ッッッ❤」
士郎と式は互いの名を呼び合いながら情交を続ける。肉体と心にしかと刻み付けるよう呼び合うそれは、今まで交わった者を上書きするためであった。誰が相応しいのか、そのことを忘れないよう脳と体に記憶させていたのだ。式は一時たりとも夫と娘を忘れたことはなかった。だが夫との性交は、真に己の女体という鞘に納めるに相応しい刀を前にいとも容易く忘れてしまう。もはやあれほど興奮した夫との性交の記憶は彼方に。自身の快感の全ては、まだ幼さを残した夫以外の青年──衛宮士郎に上書きされてしまっていた。
「士郎さん──❤」
「式、さん──? んぅっ!!?」
式は衝動のまま士郎の唇を奪っていた。彼の全身を自身に納めたい。あられもない欲情から、式は士郎の唇に吸い付くと舌をねじ込む。久しぶりのキスに動揺する士郎の舌を式の舌が蹂躙する。
「「むっ~~❤ ん、んっ❤ ぁむ❤ んぅ、ちゅ❤ ちゅっ❤ ちゅぅ~~❤ れう、れるっ~~❤」」
人妻として勝手知ったるといったもので、ぎこちなく舌を動かす士郎をリードする式。全身あますことなく繋がることで、二人の快感はまるで繋がったかのように相乗効果をもたらす。ラストスパートに向けた抽送が更なる加速を得る。舌が絡まったのを皮切りに、式の手を取った士郎は彼女の手を固く握る。式が握り返したのを感じ、士郎は絶対に逃さまいと全身を密着させる。そして士郎は眼光鋭く、正気を喪失した顔で式の顔を見やる。
「──式の中で出したい。いい、か?」
「ぁはっ……❤ 少し前は初々しかったのに……今はケダモノみたいな顔❤ ……いいわよ❤ 士郎の好きな所で、いっぱい気持ちよくなって──ぇ゛ぇ゛ッ゛❤」
士郎の中出し宣言を聞き、式は一拍置いた後に答える。士郎の子供を孕んでもいいと。彼女が今でも夫を愛しているのは嘘ではない。けれども彼女にとって夫と同等に好ましい人物、衛宮士郎が突如として表れてしまった。本来は貞操観念が非常に高い彼女だが、刀剣の取引に伴う久しぶりの性交、相性抜群の雄、好ましき好青年と。要素がいくつも重なったことで、式のガードが極限まで下がってしまった。故に情交で浮かされ蕩けた思考は、士郎の中出し宣言を受け入れたのだ。式の心は衛宮士郎を夫と並ぶ二人目の愛する男として認識し、式の体は夫以上に相応しい雄として士郎を受け入れていた。
同様に士郎も和風美人妻との性交に思考が狂わされていた。本来彼には聖杯戦争をへて少なからず思いを寄せる人がいた。それ以前に人妻を孕ませようとするような男では決してなかったのだ。けれども。宝石か或いは虹のような螺鈿の瞳を携えた月下美人。両儀式と出会い肌を重ねたことで、それまでの彼は殺されてしまったのだ。
式の返答を聞いてや否や、もう我慢できないと士郎は肉刀を突き上げていた。膣内を肉棒で突き上げる度、喉奥から雌の歓喜に満ちた嬌声が飛び出し、雄の口からは我慢しきれない荒々しい呼気が吹き荒れる。一突きするごとに互いの火照る肌が触れ合い、玉のような汗が弾ける。膣穴からは愛液が無尽蔵に湧き出し、士郎のカウパーと混ざり肉刀を染める。もはや射精しているのかと思うほど溢れる性水の奔流。しかして、本当の射精はここからであった。
「全部射精しますっ! 絶対、式を孕ませる……!!」
「ン゛ォ゛❤ ン゛ン゛❤
士郎は絶対に孕ませる宣言と共に息を深々を吐き出し、式の最奥たる子袋を肉刀で貫いた。何度目かの到着だったが終ぞ式は耐えきれず、けたたましい嬌声を上げる。絶頂の瞬間。式の膣内は収縮を繰り返し、肉の鞘は士郎の肉刀へと絡み付く。式と士郎の互いの手がもう離さないとでも言いたげに固く結ばれる。それだけに留まらず、式の足は士郎の腰に巻き付き、夫にだけ捧げられていた唇と舌も共に交わってしまう。全身をもって受け入れられた士郎は、躊躇いを捨て去り射精感を解放する。
「式ッ!!」
「ひぃっ❤ あっ、あぁぁっ❤❤️ あ゛っ゛──ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛っ゛~~~❤❤❤」
士郎の肉刀から発射された子種は、式の奥底に深々と侵食する。本来であれば夫以外には許されぬ聖域。ただ一人、愛するべき夫との子宝を育む宮殿に。出会ったばかりの男に侵入を許してしまっていた。目の先が点滅するような快楽の極点に、式と士郎は体が砕けてしまわないようにお互いの体を強く手繰り寄せる。式は臍の奥、子宮を満たす生命の飛沫の熱を感じ取った。即ち──己の体に新たな命が宿る鼓動を。夫とは在学中にも連日連夜交わり、やっとの思いで授かった時と同じ感覚を。それは熱で浮かされた勘違いかもしれない。だが式は半ば確信していた。たった一、ニ発の射精で両儀式は衛宮士郎に孕まされたのだと。数十秒の射精の後。式は感慨深そうに息を吐き出す。
「はぁ、はぁっ……❤ たくさん、出したわね❤ 士郎の精液でお腹がとっても重いわぁ❤ ……多分だけど。士郎の子、受精したわよ❤」
「ッ!? 分かるんですか……!?」
「そうね、未那──娘が出来た時は直感的に分かったわ。だから……きっと今回の直感も当たってると思うわよ。母の直感ってやつかしらね」
「俺と、式さんの子供……!!」
士郎は式が孕んだかもしれないと言ったのを聞き、喜びや困惑が入り混じった顔を浮かべる。だがそれも一瞬のこと。士郎は覚悟を決めた顔になると、式を真っすぐ見つめる。たとえどんなことがあったとしても彼女を受け入れると。式もまた孕んでしまったかもしれないと自分で言いながら、心底不思議そうな顔を浮かべていた。
「本当に不思議。
「俺も、そうかもしれないです。あの雨の日、宝石より綺麗な瞳をした式さんに会ってからずっと式さんのことが頭から離れなかった……式さん。その、もし旦那さんと何かあったら何時でも頼ってください! まだ学生ですけど、絶対何とかしますんで!!」
「まあ……❤ 士郎さんにそう言われると心強いわ❤ でも……大丈夫だと思うわよ。あの人は私のこと、一生
式はそう言って優しく微笑んだ。はにかむように笑みを浮かべる彼女の顔に士郎は言い知れぬ感情を覚える。これまで式と面を向かってしたどの会話でも見せなかった顔。やはりというべきか。式は士郎の子を孕んでいいと思うほど気に入ってはいるが、夫である幹也をしのぐほどではないと士郎は改めて理解させられる。その事実にふつふと、士郎の心に燃え滾る感情が広がる。──彼女の夫に負けたくないと。
「……式さん」
「ん、どうかしたのっ──ぉ゛ぉ゛っ゛っ゛ン゛❤️❤️」
丁度良く対面座位で向き合っていた士郎と式。士郎は今だ収まらぬ怒張を、どこぞの誰とも知らぬ彼女の夫に燃える滾りのまま式を突き上げた。式の体の一番だけでなく、心の一番もほしいと。士郎を知る人間が見れば穂群原のブラウニー、或いはロボットと言われていた彼と同一人物とは思えないほど、人間らしい執着心を瞳に宿していた。士郎の燃えるような熱視線に式は興奮から身を震わす。夫からも向けられたことのない灼熱の眼光、これから起きるであろう激しい性交の予兆に。
「式さ──式。俺は、まだまだやれるから続きしてもいいか? 式のこと、まだまだイかせ足りない……!!」
「まっ──ン゛ン゛ッ゛ッ゛❤ ア゛ァ゛❤ オ゛ォ゛、ォ゛ォ゛ッ゛ッ゛ッ゛~~❤❤❤ ン゛ン゛ッ゛❤」
(これは……失敗したわね。士郎さんがここまで嫉妬深いなんて……! ふ、ふふ❤ この分だと、今日はちゃんと寝むれそうにないわね……❤)
座ったまま器用に腰を突き上げ、式を喘がせる士郎。そのまま式の淫らな歌を奏でる唇を唇でもって塞ぎ、舌を潜り込ませる。先程とは攻守が逆転し、今度は士郎から縮こまった式の舌を舐り始める。上のねちっこい攻めに対し、下からは己以外の男の影を消すべく業物たる逸物が奮起していた。その日、赤銅の贋作者と螺鈿の殺人鬼は夜通し交わっていた。一夜にして夫の性交回数を優に超える回数をこなし、朝方を迎えるころには式の全身に士郎の精液が付着していない場所はないほどの乱痴気の交尾であった。
さりとて士郎は言わずもがな、式も士郎との性交に夢中になっておりその日は他のことに眼も暮れていなかった。窓の向こう、外に雪が降り積もっていたとしても二人はそんな些事を気にする余裕等は皆無だったのであった。
──────
────
──
冬木市は深山町。男は地元から離れた、不慣れな土地で車を走らせる。運転手の名前は両儀幹也。旧姓を黒桐といい、両儀家に婿入りした二十半の男性であった。全身黒づくめでどこにでもいる普通の男に見えるが、唯一右目を覆うように長く伸ばした髪が平凡さを若干だが薄れさせていた。そんな彼が地元を離れ、冬木に来たのは妻──両儀式を迎えに来たからに他ならなかった。
幹也は事前に調べ上げた妻の仮宿近くまで行くと、車を近くの駐車場に停め歩き出す。見るものが見ればどこかぎこちない歩きで数分歩くと、そこにはお目当てのマンションを見えた。
(お、あのマンションかな? 資料で外観は見たけど、前に式が住んでたマンションによくよく似てるなぁ。あっち違ってこっちは家具が備え付けされてるらしいけど。……周りの民家の人達も穏やかそのもので治安も良し。これは観布子の完敗かな)
幹也は冬木にたつ前日。たった一日で式の借りたマンションを割り出すと。そのマンションの入居者、更には周辺民家の住人のことも調べ上げていた。彼は自他ともに認める平凡な人であった。しかし探すこと。それについては並外れた領域に至っており、とある魔術師の結界で隠された工房兼事務所を発見したほどである。そんな彼は式が仮宿とするマンションの階段を上りながらとある噂について反芻していた。
(ここらで和服の女性が若い男の子と外を出歩いていたという噂……偶然なわけない。こっちで新しい友人でも出来たのかな? またぞろ、危ないことに首を突っ込んでないといいけど。冬木だと不可解なガス爆発事件があったそうだけど。今は収まったみたいだから、危険なことはそうそうなそうだけど……)
そうこう考えている内に幹也は階段を上りきり、式の借りた階に到着する。ふと。幹也の耳に男性と女性のくぐもった声が聞こえてきた。怒鳴り声かと幹也は耳を澄ますが、その疑念も一瞬のもの。すぐに喧嘩ではないことを幹也は察した。むしろ相手への愛が爆発するかのような絡みで。朝っぱらからお盛んだなと、幹也は苦笑してしまう。
(ここのマンション、防音はそれなりだった筈だけど……よく響いてるなぁ。こんなに激しいとすぐバテちゃいそうだけど。……この声。いや、まさか──)
幹也は女性のあられもない声を聞き、ふとどこかで聞いたような声だと感じてしまった。学生時代の彼から正気をなくし、いかれさせた女の声によく似ていた。外は人っ子一人歩いておらず、マンションの中にはその男女の声だけがよく響いていた。幹也はその声が響く扉の前まで歩き出す。たった数十メートルの距離がやけに長く感じた。幹也が徐々に近づく間にも声は途切れなかった。艶のある、男に跨り淫らな踊りを披露する夜の女王の嬌声。幹也は扉の前に立ち、手を伸ばす。式はマンション時代、鍵をかけることなど殆どなかった。この扉を開ければ、真実を確かめられる。幹也はゆっくりと手を伸ばした──。
「幹也? そこで何してるんだ?」
幹也が振り向くと、そこには彼のよく知る妻、両儀式が和服に似つかわないカバンを背負い立っていた。春の桜を思わせる着物に、赤い羽織り。肩まで伸ばされた黒絹の髪。静謐な瞳はいまは訝し気に細められており、幹也をじっと射抜いていた。
「式! あ、あれ……ってことはこっちの部屋って……」
「赤の他人の部屋だな。オレの部屋はその前だよ……ああ、どうせおまえのことだから昨日徹夜で調べものしたんだろ? 寝ぼけてるみたいだな」
「あ、あはは……返す言葉もないや。そっか……。はぁ──。式の声を、聞き間違えるだなんて……」
幹也は何時の間にか力が入っていた肩をガックシと落とした。確かに昨夜の睡眠時間は普段より短かったこともあり、疲れが溜まっていたようだった。幹也としては自分の妻の声と赤の他人の声を間違えたことにもかなりショックを受けてしまっていた。そんな幹也のショックを気にせず式は淡々と言葉を告ぐ。
「迎えに来るのが遅かったな。言っとくけどおまえが、危ないことに首を突っ込むのを辞めない限り帰る気はないぞ」
「分かった、なるべく危ないことには関わらないようにするよ……多分」
「絶対嘘だろ。全く……未那の教育に悪いから、言葉遣いを直せやら。刀剣の買い取りにアレコレ言うくせに自分はこれだもんな」
「いや一千万もポンとお金を動かされると、両儀家の一員としては口を挟まざるおえないんだよ。……というかその口調。久しぶりに聞くけど、どうしたんだい?」
「未那がいないからいいだろ? 少し……昔を思い出してな❤」
そう言って式は薄く笑った。だがその笑みに幹也は感じるものがあった。心の底から愉しそうな、自分にではない遠くの人物に恋慕するような。そんな顔色を幹也は感じた。式の滅多に見せない顔に、幹也の心はズキりズキりと騒いでいた。よくお茶の間を騒がすような芸能関係の報道──不倫や浮気を何故か幹也は想像してしまう。式に限ってそんなことは全く有り得ない。想像すらしたことのない行為。だが幹也は思い浮かてしまっていた。式がこの街で見ず知らずの男と寝た場面を。
「式──」
「まあ今回はオレが折れるよ。ただ、幹也の首突っ込む癖が治らなかったら。また家出するかもな……❤」
「今度からは関わる前にしっかり相談する。約束するよ……!」
「……そうなることを願ってるよ。よし、なら帰るか。幹也、手出せ」
幹也の言葉を聞くと、式は幹也の手を取り強引に歩き出した。それは幹也が右目に深手を負ってから退院をした日の光景にそっくりだった。あの時より月日は経ち、式も以前の乱暴な振る舞いは鳴りを潜め、清廉な若奥様になっていた。だが幹也は常人なら見過ごす、些細な違和感を覚える。今日の式の足取りは普段と違うと。まるで筋肉痛を我慢している、或いは激しく動いた後の歩き方によく似ていた。匂いも、自分が嗅ぎなれた彼女のとは違う不自然な匂いだと。シャンプー等の違いなどではなく、彼女の体臭に別人の体臭が混じっているかのような。そんな匂いだ。幹也は思うことはたくさんあったが、一先ず聞きたいことを優先する。
「ちょ、待ってよ式! 部屋の中に忘れ物はないの? それと、そのカバンは何が入ってるの?」
「あー、部屋はいいよ。特に持って帰るものはないから後でハウスキーパーを雇って片付けてもらう。カバンの中は着替えとかお土産だ。……変な物は入ってないぞ!」
「……まさかまたコレクションを増やしたんじゃないだろうね? 口座を見ればお金をどれくらい動かしたかはすぐ分かるんだからね?」
「それくらい分かってる! 今回は口座の金は使ってない! ……いや、前も使ったとかじゃないからな!」
どこか違和感を感じるも、決定的な証拠はなく──カバンの中から見つけられるかもしれないが──幹也は式をじっと見つめるしかなかった。寝不足で想像に想像を重ねすぎかと、自分を戒める。それにあの時、自分は言い放ったのだ。彼女が嫌がってもお世話をすると。式が一夜の火遊びをしたとて、離すなんて有り得ないのだ。両儀幹也は自分にそう言い聞かせる。彼女が愛おしそうにカバンを見つめる、蕩けた瞳を見ない振りしながら──。
──────
────
──
幹也が冬木に来る
尚、余談ではあったが。アパートの入居者は士郎と式の熱に当てたられた者が多数おり。士郎と式がアパートを出た後も、騒々しい男女の交響が絶えることはなかった。幹也が遭遇したのも士郎と式の影響を受けたカップルである。閑話休題。
士郎と式はアパートを出てからはラブホテルを利用していた。もはや理性の枷は砕け散った二人は相手の体で知らぬ所はないほど識り尽くし、交わっていた。永遠に続けば思ってしまう甘美の極点。しかし、どんなものにも終わりはあるというもので。幹也が冬木に来る当日。式は唐突に終わりを告げた。
「っ、はぁ──❤️ んんっ……そろそろ、終わりかしらね」
「……旦那さんが迎えの来るまでの約束。来たのが分かるんですか?」
「そうね。近付いてるのが何となく分かるの。だからここまで。名残惜しいけど、夢のような一時は終わり。
そう言って式はすくりと立ち上がり、身支度を整える。先程風呂場ですら淫猥に乱れ、士郎を搾りに搾った情婦とは思えぬ氷像如き鉄仮面だった。理屈の上では式が正しいのは士郎も分かっていた。だが、はいそうですかと士郎は納得出来るほど大人びていなかった。士郎は背後から式を抱きしめる。彼女を離したくないという熱い抱擁は、式の氷の仮面をいとも容易く溶かしてしまう。
「式さん。式。まだ、離したくない……」
「ぅっ❤️ ふっ、ふぅ──❤️❤️ ダメ❤️ ダメよ、士郎さん……❤️
士郎のガッチリとした肉体に抱かれ、熱々としたキスを肌に感じては。式は無意識に秘所を濡らし、雄を受け入れる準備を始めてしまう。着物の上から胸や臍を撫でられれば、既に彼の遺伝子を刻まれた子袋なのに、受精しようと再点火してしまう。
「い、一回だけよ……❤️ あの人が、すぐそこまで来てるから──」
「──すみません、一回じゃ収まらないです。式さんと
「ッッ〜〜❤️❤️ ……士郎のバカ❤️ そんなこと言われたら、
凛々しく勇ましい彼女と嫋やかで静謐な彼女。二つの顔持つ螺鈿の殺人鬼は赤銅の贋作者専属の鞘と変上した。この後のことは語るまでもなく。幹也が式の仮宿につく直前まで式と士郎は交わっていた。
何か探すのが得意な幹也ですら、見極めれなかったことが一つあった。式が幹也と話す最中、士郎のダマような精液は彼女の子袋を満たしており、滴った子種が式の太腿を伝ったわり落ちていたこと。探りたいと思えなかったことを彼は知ることが出来なかったのである。
式が冬木市に来ることは二度となかった。しかして。士郎が冬木から出て世界をまたにかけるようになるのは、彼の目的から当然の帰結。士郎の波瀾万丈なる道中で、式の地元である観布子に立ち寄ることもあったかもしれない。雨の日に出逢った二人と、彼女の