※この作品はR-18です。

原作崩壊のNTR小説   作:pace

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超高校級の極道は超高校級の剣道家の永遠の夫

 私立希望ヶ峰学園。様々な分野に秀でた才能を持つ少年少女を迎え入れ、さらなる高みへ導いていくことを旨とした超エリート高校。希望ヶ峰には二つの学科が存在し、全国からスカウトされた超高校級の才能を持つ生徒が通う本科と、高額な授業料を払えば誰でも入学することが予備学科の二つである。これは超高校級の極道と剣道家が、才能がないと見向きもされなかった予備学科の男に狂わされる物語である。

 

 予備学科に通う男──日向創(ひなたはじめ)は本日の授業を終えて、下校しようとしていた。ふと何時もと違う好奇に満ちたざわめきに顔を上げると、校門の近くでじっと佇む女性が目に入る。日向の心は思わぬ遭遇に鼓動を加速させる。

 

 グレーの長髪を左右で二つ結びの三つ編みにしており、眼鏡の奥には真紅のキレ長の目が光っていた。希望ヶ峰学園本科の制服である無地の白い長袖シャツを、第一ボタンまできっちりと留める姿は、彼女の真面目な姿勢が伺えた。竹刀袋を肩に下げる彼女を希望ヶ峰に通っている生徒で知らない者は少ないと、日向は勝手ながら思っていた。そんな有名人は日向の姿を見ると、待っていた言わんばかりの微笑みで歩み寄ってくるのだった。瞬間、無数の生徒の姿勢が日向に突き刺さる。

 

「来たか、日向! 本科と予備学科だと、授業の時間もここまで違うのだな。少し付き合ってもらえないか? その、冬彦ぼ──く、九頭竜のことで相談があるのだが!」

 

「わ、分かった分かった! ここだと目立つから、場所を変えるぞ!」

 

 彼女──辺古山(ぺこやま)ペコは超高校級の剣道家として大人顔負けの武人として有名なのは勿論のこと、ここ最近では超高校級の極道と親しくしているのも噂されていた。そんな注目の彼女が頬を赤くして予備学科の生徒を待ち構えていたとなれば、否が応でも日向に対して、様々な思惑を他の生徒達に抱かせるのは想像に難くなかった。日向は明日からしばらく面倒なことになりそうだと思いつつも、彼女の初めての友人(・・)として相談に乗らない択もなく、辺古山を連れて下校するのであった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 辺古山との出会いは、彼女がその命をかけてでも守るべき者達との交流から始まる。日向は予備学科に転入してきた、菜摘に絡まれたことがきっかけで彼女と話すようになった。菜摘は超高校級の極道として本科にスカウトされた、敬愛する兄──九頭竜冬彦(くずりゅうふゆひこ)に追いつくため希望ヶ峰に転入したのだと言う。彼女は何が何でも兄に追いつこうとしており、同じ予備学科の生徒を見下し、本科の生徒を蹴落とそうとトラブルを起こしていた。

 

 そしてある日のこと。菜摘と予備学科の生徒であるサトウが揉めているのを仲裁した日向は、菜摘は才能がなければ兄の隣には立てないと思い込んでいることを知る。その言葉は日向自身、自分の隠れた才能を求めて希望ヶ峰に入学したのにも重なり、言葉を詰まらせる。だが日向は菜摘が転入する前に知り合った本科の生徒、超高校級のゲーマーである七海千秋との交流で、才能が全てじゃないと思うようになり始めていた。その想いが言弾(ことだま)として通じたのか、菜摘はそれまでの焦りが落ち着きを見せた。彼女と険悪だったサトウとも折り合いは悪いが、前までのように言い合うようなことはなくなったのであった。そうして放課後は七海とゲームをし、菜摘に絡まれた日常を送っていると、日向はある男に呼び出されるのであった。

 

「テメーが菜摘(あいつ)の言ってた日向って男か? ちっと面貸せや」

 

「お前は……本科の生徒か?」

 

「見りゃわかんだろ。九頭竜冬彦だ。おら、こっちこいや。とって食ったりはしねぇからよ」

 

 菜摘や日向より小柄な男、九頭竜冬彦と名乗った彼は日向に話しがあると来たのであった。超高校級の極道に連れ出され、日向はこれから何をされるのかと嫌な想像がいくつも脳裏を過ぎっていた。ファミレスで机を挟みジロジロと見られる状況に、日向は愛想笑いを浮かべていると、九頭竜は舌打ちをして彼なりに日向の誤解を解こうと口を開いた。

 

「チッ……さっき言ったが素人衆に手ぇ出す真似はしねぇよ。ったく、あいつの舎弟って割には肝が小せぇな」

 

「あいつって九頭竜……お前の妹のことか? あいつ俺のこと舎弟って言ってるのかよ」

 

「ああ、予備学科の無能のくせに偉そうに説教してきて、極道の身内だって知ってるくせに話しかけてくる変なヤローってな。最近口を開けばテメーの話題ばっかだぜ? オレとしては、どんなヤツか気になるだろ」

 

 そこまで聞いて日向はなぜ九頭竜が態々自分に会いに来たのかを察する。菜摘の話からも二人の仲は険悪ではなく、普通の兄妹関係だと聞いていた。ということは兄として妹の交友関係が気掛かりで、特に男の話題が多いとなれば色々思うことがあるのだろう。それで九頭竜は日向に話しがあるとやってきたのだと。当初思っていた、ヤクザらしい話し合いとは無縁の雰囲気に思わず日向は笑い出す。

 

「ははっ。お前、妹のことが心配で俺のとこに来たのか。良い兄貴だな」

 

「う、うるせーぞボケ! 誰がシスコンだコラァッ!」

 

「そ、そこまで言ってないぞ!? そんなに恥ずかしがることはないだろ。兄として妹が男の話題ばっかなのが気になって、そいつがちゃんとしているか確認しに来るなんて立派じゃないか」

 

「ッ〜〜!! い、いいからあいつと学校であったこと、キリキリ吐けや! 言っておくが、不純な行為やあいつを泣かせるようなことをしていたら、容赦しねぇからなぁ!?」

 

 そんな顔を真っ赤にして声を荒げている九頭竜だが、もう彼がどんな男のなのか察した日向は笑みで受け入れられた。こうして九頭竜と知り合った日向は以降も連絡先を交換し時折話す間柄になった。

 

 そうして彼と交流していく内に、自身より極道として適正のある菜摘へのわだかまり、組に頼らず生きたい葛藤、そして幼い頃から共にいる女を組の柵から自由にしたいという願いを聞いた。

 

「九頭竜。幼い頃から一緒にいるからって、言わないと分からないこともあると思うぞ。お前のその想い、ちゃんと彼女が理解してくれるまで話してみろよ」

 

「……そう言っていたつもりだけどよぉ、ちゃんと腹割って話すべきなのかもしれねぇな。ありがとよ日向。しかし童貞のお前に女のことで論されるとはなぁ?」

 

「そういうお前はそうじゃないんだな。まあ俺も九頭竜にこんな大事なこと相談されるとは思わなかったよ」

 

「ハッ、なんでだろうな。テメーの無害そうな顔のせいかもな」

 

「褒めてるのかそれ? まあ俺で良かったら何時でも相談にのるぞ」

 

「あぁ、あんがとよ。オレは、良い友達(ダチ)を持ったもんだな……!」

 

 彼の悩みに深く寄り添い、日向は九頭竜と確かな絆を築いた。この頃から日向は七海や九頭竜以外との本科の生徒とも絡むことが増えていた。予備学科に入学した頃には想像すら出来なかった、晴れ晴れとした学園生活を過ごしていた。そして彼女と出会う日が訪れる。

 

 放課後、広場で七海を待つ日向は、傍によってきた野良猫と戯れていた。だがふとした瞬間、猫達は何かに怯えたように逃げ出してしまう。日向は急にどうしたんだと辺りを見渡すと、そこには申し訳なさげに顔を曇らせる彼女が立っていた。市内袋を肩に背負う希望ヶ峰本科の制服と着る姿に、日向は噂に聞いたことのある名前を思い浮かべる。

 

「もしかして、超高校級の剣道家の辺古山ペコか?」

 

「ん。ああ、そうだ。ふむ……」

 

「えっと、俺何か変なこと言ったか?」

 

「いや。お前に落ち度はない。邪魔をしたな日向創」

 

(なんだったんだ……? あれ、俺って名前教えたっけ?)

 

 去っていく辺古山を見て、日向は彼女が自分の名前を知っていたことに違和感を抱くも、まあたいしたことじゃないかと忘れてしまう。後に日向は知るのだが、彼女は九頭竜兄妹とは幼馴染であった。故に二人から日向について聞いており、彼女は直接顔を合わす前から彼を知っていたのである。そして彼女が日向の前に現れたのは偶然ではなく、彼が九頭竜組を狙うヒットマンや警察関係者じゃないかを探ろうとしていたそうだった。

 

 話しは戻り、その後も日向は度々辺古山を遭遇することがあった。それは彼女が秘密の訓練最中であった時のこと。日向は道端のカーブを見上げて、苦々しく顔を歪める辺古山の姿に、彼女が体調を崩しているのかと思い駆け寄ってしまう。

 

「おい、大丈夫か! 具合でも悪いのか?」

 

「ッ! お前は……いや、至って健康だ。無用な心配をさせたな」

 

「なんだそっか。ならいいんだけど。じゃあ、鏡なんて見上げてどうしたんだ?」

 

「……その、笑おうと努力していた。私は、顔が怖いそうだからな」

 

「え? 笑おうとしていた?」

 

 彼女の奇妙は行動に日向は辺古山に詳しく話しを聞くと、彼女はある人に笑顔を見せたいのだが、緊張してしまうからか上手く出来ないと悩んでいた。彼女の鋭く真剣な眼差しから、その人は辺古山にとって大事な人だと日向は強く感じる。日向は乗りかかった船だと、彼女と話し合うことにしたのだった。

 

「でも笑顔って作るものじゃないと思うけどな。楽しい時や嬉しいと思った時に自然と浮かぶものじゃないか? 辺古山はその人と一緒にいてどう思うんだ?」

 

「とても、嬉しく思う。少し前までは、あの人を守ることが使命であり存在理由だった。ただそれだけで良く、避けられたとしてもそれで良かった。だが最近は、あの人自身から話しかけてくれるようになって、そう強く思うようになった。けれどあの人の剣として生きてきた私は道具として不要なもの、笑顔を忘れてしまっていた。あの人の側にいられて、ちゃんと嬉しいと伝えられているか不安なのだ……」

 

「少し前までは避けていたやつが、再びお前に話しかけてくれるようになったんだろ? それは、お前のことを便利な道具だなんて思っていない証拠じゃないのか? 一人の人間としてお前のことを大切に思っているからこそ、歩み寄ろうとしているんだよ」

 

「私を、一人の人間として……」

 

「だから、無理に作り笑いなんてしなくていい。お前がそいつと一緒にいて心地よいと感じているなら、その安らぎを素直な言葉や態度で示せばいいだけだ。道具としてではなく、対等な存在としてな。そうしている内に自然と笑顔なんて溢れると思うぞ」

 

「坊ちゃま……あの人と対等な存在か。日向よ、感謝する。今だ自然に笑顔を浮かべられない身だが、お前の言葉で迷いが断ち切れた気がするぞ。私はあの人に全力で応えようと思う。それが私と新しい関係になろうと示してくれた、あの人への答えになるはずだからな」

 

 その時、日向を見つめ返した時の辺古山の顔は、これまで見てきたどの顔よりも清々しく眩しい顔だった。惚れ惚れとするほどの凛々しい顔つきに、日向は思わず見つめてしまう。だが直後に彼女が意識するあの人は男のことだと思い至り、心に浮かび上がった気持ちに蓋をする。すると押し黙ってしまった日向に代わり、辺古山の方から口を開いた。

 

「日向よ、察するにお前はこの手の事柄に鋭い見識を持つと見受ける。その……今後もあの人のことで悩んだら、相談してもいいだろうか? お前と話していると不思議と気持ちが晴れやかになるのだ」

 

「っ、そ、そうか。ああ、いいぞ。お前があの人ってやつと打ち解けられるよう、何時でも相談受けるよ。友達としてな」

 

「友達……! そうかこの落ち着く気持ちは、友情というやつなのかもしれないな。悩みも晴れて、初めての友達も出来るとは。今日は吉日だったようだな」

 

 友達と連呼されることにモヤモヤとした気持ちを抱くも、こうして日向と辺古山は友達になった。後日、九頭竜から紹介しておきたいと言われ、日向は辺古山と思わぬ形で巡り合う。九頭竜から組に仕える自分直属のヒットマンだったが、今は同じ学校に通う大事な幼馴染だと紹介を受け、日向は辺古山の大切な人が九頭竜のことだったのだと知った。やはり自分のこの想いは気のせいだと思わなければならない。日向は改めてそう思った。

 

 そうして三人で他愛もない話をしている時のこと、辺古山はまだ九頭竜への忠義からどこかぎこちなかったが、ふわりと笑みを浮かべていたのだった。こうして才能がなく予備学科に入った日向創という男は、絶望に落ちることなく超高校級達と友達になり、未来への希望に溢れた学園生活を送るのであった。

 

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 ──

 

 そして話は現在に戻り、行きつけになっているファミレスに日向は辺古山と共に入る。二年生に進級し、新入生も入学した今日この頃。辺古山からは坊ちゃまにプレゼントを贈りたいからそれとなく探ってくれや、動物に避けられる私の代わりにもふもふな動物の写真を送ってほしい、といった頼みをされることもあった。今日の相談もそんな感じなのだろうと、日向は安直に考えていたが、辺古山からは思わぬ言葉が飛び出したのであった。

 

「時に日向よ。最近ぼっちゃんから私のことで何か聞いていないか?」

 

「あいつから? いや別段変わったことはないと思うぞ。強いて言えば今年の夏は辺古山と海に行きたいとか言っていたかな」

 

「そうか。時間のある時に、水着を新調しなければな。実はな、日向。私はその、最近冬彦ぼっちゃんと……してな」

 

「ん? すまん最後の方聞き取れなかった。もう一度言ってくれるか」

 

「っ……! 冬彦ぼっちゃんと、性行為をしたのだ……!」

 

「あ、ああ……! すまん聞き返して。そ、そうなのか」

 

 真っ赤な顔を俯いて、ボソボソと話す辺古山に聞き返したことを心から申し訳なく思う日向。だが同時に何を聞かされているのだろうとも思ってしまう。日向は希望ヶ峰学園に入学し、多くの可愛らしい女子生徒と親交を深めていたが、未だ男女の付き合いはない。そのことで、九頭竜に時折イジられるように童貞だった。そんな自分が彼女の初体験を聞いて、何かアドバイスが出来るとは到底思えなかったのだが、彼女は他の客に聞かれないよう話し出す。

 

「……本題に入るぞ。冬彦ぼっちゃんは私とする以前に経験がおありだったのだ。それは跡取りとして必要なことで、私自身全く気にしてはいなかった。だが冬彦ぼっちゃんとして思うようになったのだ……私は今のままでいいのかと」

 

「九頭竜が、何か言ったのか? 上手く出来てないとか……」

 

「いや、むしろぼっちゃんは私を気遣ってくれた。けれど実際は散々な結果だったと私は思う。ぼっちゃんの気遣いが、役目を果たせなかった私には酷くこたえた。私はぼっちゃんの剣として育てられたから、その手の経験は全く皆無だった。そのことを、ここまで歯痒く思う日が来るとはな……」

 

 そう言う辺古山の声色は心底悔しさが滲んでいるようで、それまで変に浮ついてしまっていた日向の心を落ち着かせた。おそらく九頭竜の相手はその手のプロで、どうしても初めての辺古山とは比較すら出来ないほど技巧に差があったのだろう。日向の思う九頭竜ならそんなこと気にしないだろうとは思うが、辺古山はそれでは納得出来ないのを感じられた。

 

「日向よ。相談というのは他でもない。私が……冬彦ぼっちゃんをご満足させられるようになるべく、特訓の協力をお願いしたいのだ」

 

「それは……ちょっと、ちょっと待ってくれ! 色々言いたいことがあって……即決では受け入れられないぞ」

 

「世俗に疎いとはいえ、常軌を逸した相談だということは私自身よく理解している。だが、私がこんなことを頼めるのはお前しかいないのだ……!」

 

「ッ……! 辺古山……」

 

 どこかで見たような官能小説染みたお願いに、日向は頭がぐらりと崩れるような衝撃を受ける。大前提として日向は女を取っ替え引っ替えしているようなプレイボーイではない。また辺古山と特訓をするということは、性行為をするということ。即ち友達(ダチ)とまで言ってくれた男の彼女と寝るということだった。日向はここで勢いよく頷けるほど、九頭竜を軽んじられなかった。

 

「そこまでして、上手くなる必要はないだろ。九頭竜がお前にそんなこと、望むのか……?」

 

「望まんだろうな。冬彦ぼっちゃんは、私に道具ではなく、ただの幼馴染としてを望む人。あの人がそんなことを思うわけがない」

 

「だったら──「それでも私は上達したいのだ」──なんでそこまでッ……!!」

 

「私自身、ぼっちゃんに愛されていることを知って欲が出てしまった……。冬彦ぼっちゃんの一番になりたい、あの人の中にある、私以外の女を断ちたいと欲するようになってしまったんだ……!」

 

 それは初めて見る彼女のエゴだと日向は感じた。彼女はこれまで終始九頭竜のためにと行動していた。だが今彼女がしようとしていることは、九頭竜のためもあるが、それ以上に彼の一番になりたい私欲が含まれていた。ともすれば、これまで九頭竜の為にと無私を貫いていた彼女を好いていればこそ、邪念に堕ちたと失望してもおかしくはないほどの大きな変化だった。

 

 だが日向はそんな人間らしい欲望を持ってしまった辺古山も、今までと変わらず美しいと思ってしまった。日向は思わず受け入れそうになるが、僅かに繋がっている理性が逃げ道を口にする。

 

「お前の気持ちは、よく分かった。けど、俺じゃなくてもいいんじゃないか……? 九頭竜組のツテならその手のプロを見つけることも出来るだろ?」

 

「ぼっちゃんにバレる可能性を考慮から外し、組の援助を受けられるなら一考に値するかもしれん。だが、ここでも私事ではあるのだが、ぼっちゃん以外としなければならないのなら……お前が良いのだ。私に初めて出来た、一番の友であるお前にこそ頼みたいと思う」

 

「ぁッ……!!」

 

 その言刃(ことば)が日向の理性を断ち切った。少なからず想いを寄せていた女性からそんなことを言われれば、一般的な男子高生の日向が欲求に抗うことは難しかった。彼女自身今の言葉に照れを感じているのか、真白の頬を赤くして目を逸らしていた。日向は興奮か緊張で噴き出た汗を拭い、震える口をゆっくり動かす。

 

「辺古山がそこまで言うなら。俺で良いなら……特訓、付き合うよ。友達だからな」

 

「すまない……いや。ありがとうと、言うべきか」

 

 日向の言葉に辺古山は目を見開いた後、控えめに口角を上げて微笑んだ。日向は欲望に流されず、彼女反論し続けるべきだったとも思ってしまう。だが日向は選択してしまったのだ。彼女の願いという大義の元、友達の彼女と密通することを。この選択が絶望に繋がるのか、それとも希望に至るのか。紙一重の秘密特訓が始まろうとしていた。

 

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 ────

 ──

 

 数日後。下校した日向は家で食事を摂ると、今日は友達の家に泊まりに行くと両親に告げて、家を飛び出した。この日は、辺古山と打ち合わせた決行日だった。翌日は休日なのもあり都合が良く、辺古山も道場での鍛錬がなく都合が良いとのことだった。

 

 日向はまだ待ち合わせの場所にすら辿り着いていなかったが落ち着かなく、雑踏の中だというのに自身の心臓の音がやけに響いているように感じた。日向は一度深呼吸すると、コンビニに入り水分補給や軽い腹ごしらえ用の軽食、そして忘れてはならない避妊具の箱を手に取る。まだ先のことだろうと勝手に思っていた日向は、手に取ったゴムをまじまじと見つめてからカゴに入れるのであった。その時、コンビニに新たな客が入店した直後のこと。日向の耳には、聞き慣れた男の声が響いたのだった。

 

「お、日向じゃねーか。なんだ、オメーもどっか遊びに行く所だったのか?」

 

「ッ──!!? く、九頭竜!? お前、どうしてここに!?」

 

「おいおい、ウルセーぞ。周りの客の迷惑になるだろうが。ったく、カタギのテメーがオレに注意されんなや」

 

「あ、わ、悪い……」

 

 コンビニに入ってきたのは九頭竜だった。彼は気さくに日向の元に歩み寄ると声をかけてきたのだ。日向からすれば思いがけぬ人物で、リアクションが自然と大きくなってしまった。九頭竜は極道らしからぬ常識から、公序良俗を守れと日向の大きな声を諌めのだった。

 

 そして自然と九頭竜の買い物に付き添う形になった日向。こういう買い出しを任せられるなんて中学じゃ考えられなかったなと、九頭竜はどこか嬉しそうに語っており、日向は彼がクラスに馴染んでいる姿にこれからのことを忘れて嬉しく思ってしまう。

 

「で、どうしてここにだったか? ソニアのやつがクラスの皆で勉強会しようって提案してな、まあオレも成り行きで参加することになってよ。じゃんけんで負けたから、菓子とかの買い出しを任せられたんだよ」

 

「そ、そうだったのか」

 

「けど全員参加ってわけじゃねーんだよな。西園寺が家の事情だったり、ペコも体調が悪いからってな……。まあ勉強会は今回だけじゃねぇ、次もあるだろうよ。そうだ、その時は日向も来ねぇか? あいつらの殆どとツラ合わせたことあるだろ?」

 

「ああ、一応な。参加出来るなら、きっと楽しいだろうな……」

 

「だろ!? 狛枝のやつがあれこれ言うかもしれねぇが、他のやつは絶対歓迎するぜ」

 

 そう言う九頭竜の笑みは未来への期待に溢れており、今の日向には余りに眩しく直視出来なかった。今の九頭竜は日向のことを友達だと思っているからこういうことを言えるのであって、これから日向がすることを知れば、同じようなことは言えないはずだと日向は思ってしまう。そんなぎこちない日向の態度に、九頭竜は気が付かず買い物を進めていた。そして二人は買い物を終えて店を出ると、途中まで一緒に歩くことに。その折九頭竜は日向のカゴの中を見ていたのか、少しおずおずと口を開いた。

 

「……あんまジロジロ見る気はなかったんだがよぉ。さっきオメーが買った物見ちまったんだ。日向、女出来たのか?」

 

「えッ! あ、あー……いや、これはだな」

 

「照れんなよ。まさかあいつ(菜摘)じゃねぇよな? 家での素振りから違うとは思うけどよ。七海か小泉は今日の勉強会にいるし違うのか……? そもそも、今日使うってわけでもねぇか。まあ、なんであれめでてぇじゃねぇか!」

 

「あ、あんま人に言わないでくれよ。今回だけの、関係かもしれないからさ……」

 

 九頭竜のニヤニヤとしていながら、バシバシと背中を叩く。彼自身日向との交流で彼の才能では測れない人柄を知り、こいつがモテないのはおかしいとまで思っていた。それ故にようやく浮いた話しがありそうで我が事のように喜んでいたのだった。この喜びようだとうっかり誰かに話してしまいそうなので釘を刺した所、九頭竜は今回だけというのに何か思い当たる節があったようだった。

 

「あん……? ああ、そういうことか。分かるぜ日向。オレもよ、初めてするってなってメチャクチャ緊張したもんだ。それこそ情けねぇ話、最初の一回目は途中で萎えちまった。けどよ、あいつ……ペコのことを思ったら、このままへこたれていらねぇ、情けない男にはなれねぇと、勇気が湧いてきやがったんだ! だからよ日向、お前も一回失敗しちまったくらいで諦めるなよ! 好きな女のため気張れや!」

 

「九頭竜っ……!」

 

「ヘっ、らしくねー根性論言っちまったな。まあよ、オメーを選ぶ見る目のある女なら、失敗しちまっても幻滅なんてきっとしねぇよ。それでもダメだったら、お疲れ様会でも開いてやる。気楽にやれや」

 

「っ……すまん、九頭竜。本当に、すまん……」

 

「なんだよ、謝ることなんかねぇだろ。オメーには色々付き合ってもらった借りがあるからよ。こんな激励で返せたとは思ってねぇ、オレの力が必要なら何時でも言えよ」

 

 九頭竜は日向の言葉を感謝として受け取っているのか、気にするなとでも言いたげに肘で小突いていた。だが九頭竜の見解は全くの見当違いだった。日向はこれから彼の大切な人である、辺古山と性行為をしに行く所なのである。日向の緊張感は確かに初めての不安もあるが、それ以上に目の前にいる友達の彼女とヤることへの罪悪感で焦燥しているのだった。そんな日向の九頭竜への負い目に気づく素振りも見せず、彼は日向に恋人が出来たことを祝う気持ちでいっぱいのようだった。

 

「しかしそうか……日向にもついに女が出来たのか! 左右田が泣いて悔しがりそうだな。あーもしよぉ、今後も上手く関係が続いたら、Wデートってやつしてみてぇな! ペコのやつも、きっとオメーに彼女が出来たってなったら喜ぶだろうしよ!」

 

「あ、はは……あ、俺はあっちに行くが九頭竜は?」

 

「オレはこっちだな。んじゃあな! 童貞卒業、頑張れよっ!」

 

 分かれ道にぶつりかり、九頭竜は日向が辺古山と待ち合わせしている方とは別の道に行く。九頭竜は拳を握り前に突き出しエールを送って歩き出した。日向は九頭竜を見送って、暫し立ち尽くしてしまう。九頭竜は我が事のように日向に恋人が出来たと喜んでくれ、自分の失敗談まで話して日向を勇気づけようとしてくれていた。そんな友達想いの彼の信頼を裏切るようなことを、日向はこれからしようとしていたのだ。本当に、辺古山とすることは正しいのか。すると、日向の携帯に辺古山からのメールが送られてくる。

 

「こちらの準備は完了した。改めて引き受けてくれてありがとう。こんなお願いは、お前にしか頼めない。日向が私の友になってくれて本当に良かった……か。そんなこと言われたら、やっぱり辞めるなんて言えないだろ……辺古山」

 

 九頭竜への負い目が消えたわけではない。だが辺古山のメールを受けて、彼女の自分にしか頼めないと言ったこと、今まで九頭竜のためだけに生きてきた彼女が自分にだけ見せた我欲、それらを思い出して辞めるという選択肢を手放してしまう。自分だけという特別感と優越感が、日向の足を再び突き動かす。これが二人の友達になると思い込み、日向は歩き出すのであった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 日向は辺古山から知らされていた、マンションの部屋前に立つ。ゆっくりとチャイムを押すと、辺古山は周囲に人がいないことを確認すると日向を招き入れた。彼女の後を追って中に入ると、部屋が一つしかないのでその室内の全貌が日向の目に全て入る。部屋の中には生活感がなく、元々備え付けられているであろう冷蔵庫に洗濯機、そしてベッドが部屋に置かれているだけだった。日向は緊張した雰囲気を和ませるべく、まずは他愛ない話しを切り出した。

 

「あんまり物とかはないんだな。ここに住んでるわけじゃないんだよな?」

 

「うむ。普段は九頭竜家に住まわせてもらっているからな。ここは特訓のために借りただけで、私もここに来るのは二回目くらいだ」

 

「そっか……ここに来るまでだけど、九頭竜と会ったぞ。勉強会があるなら、別の日に延期でも良かったんじゃないか?」

 

「冬彦ぼっちゃんと会ったのか……確かに私も迷いはしたがな。しかし、先延ばしにし過ぎるのも決意が鈍ると判断した。それにぼっちゃんがクラスメイトと交流し、楽しさで私を意識していないと時に済ませたいという気持ちも多少あるからな……」

 

 そう言って再び沈黙が訪れ、日向と辺古山の視線が交錯する。日向は、目の前に立つ辺古山の姿に思わず目を奪われていた。普段はきっちりと結わえられている銀髪は、少し湿気を帯びた緩やかな三つ編みになっており、先ほどシャワーを浴びたばかりなのだろうかと想像させる。何より日向の視線を惹きつけたのは、彼女が身を包んでいる黒を基調とした私服だった。凛とした制服姿以外の装いを見るのはこれが初めてであり、その新鮮さとどこか無防備な雰囲気に、どうしても視線を外すことが出来ない。

 

 一方の辺古山もまた、じっと日向を見つめ返していた。心の中での覚悟は既に完了している。しかし、大切な人である九頭竜に内緒でこのような行うこと 

 その相手が彼と自分の親友である日向だということに緊張を抱くのは自然なことだった。沈黙の中、視線だけが交錯する時間がどれほど続いたか。やがて辺古山は、小さく息を吐き出して静寂を破った。

 

「ふー……こうして見つめ合っていても仕方ないな。日向、こっちに来てくれ。そろそろ始めるぞ」

 

「あ、ああ……」

 

 落ち着いた声で促され、日向はベッドへ歩み寄る。そうして辺古山は衣服を脱ぎ始めたが、その指先は僅かに震えていた。静かな室内で布が擦れる音だけが響く。黒い衣類が床に重なり、彼女が下着姿になると、日向は息を呑んだ。鍛錬で培った体つきはしなやかでありながら、女性らしい柔らかな曲線も合わせ持っていた。肌は陶器のように白く、羞恥からか首筋から胸元にかけて薄紅色に染まっており、彼女がこれからの行為に対する興奮と羞恥心を確かに感じていることを示していた。

 

「言っても詮無きことだが、あまりじろじろと見ないでくれ……私にも、羞恥心はあるのだからな」

 

「わ、悪ぃ、あまりに綺麗で、見とれていた」

 

「っ……そっちも、脱いだらどうだ」

 

「すまん、そうだな……!」

 

 辺古山の縋るような視線に促され、日向も緊張から指が上手く動かなかったが、衣服を脱ぎ捨て下着姿になった。冷房の利いた室内だが、体内の高揚から肌は熱を帯びていた。二人はベッドの両端に座り、互いの素肌をさらしたまま無言で向き合っていた。沈黙が続く中、辺古山が静かに口を開いた。

 

「日向よ。以前よりも、体つきが良くなったのではないか?」

 

「あ、ああ。最近、弐大に時々しごかれているからな。流石は超高校級のマネージャーだよな。何時も限界ギリギリの特訓で嫌でも鍛えられるというか……」

 

「弐大のトレーニングは、文字通り死んでも動かされるからな。日向も日々、鍛錬を積んでいるのか。素晴らしいことだ」

 

 日向の鍛錬の成果に感心しつつも、辺古山は隠しきれない緊張を滲ませていた。だが次第に辺古山が距離を詰めて、ついには隣り合う所で見つめ合う。互いの体温が濃厚な熱気となって伝わり、静寂の中に二人の乱れた呼吸だけが交差していた。やがて沈黙を破り、辺古山が口を開いた。

 

「実はな。以前、冬彦坊ちゃんとした時……私は、その、前戯というものが全く出来なかったのだ」

 

「前戯か……確かに九頭竜の経験を考えると、プロの人は上手いだろうな」

 

「うむ。坊ちゃんは気にするなと優しく声をかけてくれた。私が不慣れであることも全て受け入れ、包み込んでくださったが、私としてはそれが余計に辛かったのだ。ただ無知なまま坊ちゃんに全てを委ね、与えられるのを待つしか出来なかった己が心底腹立たしい……だから」

 

 辺古山はそこで言葉を切ると、意を決したように顔を上げ、真紅の瞳で日向を真っ直ぐに見つめた。その目には、羞恥を乗り越えた強い決意の光が宿っている。彼女の細い肩が、微かに上下に揺れていた。

 

「日向。どうか、私にお前で特訓をさせてほしい。あの人を、冬彦坊ちゃんを喜ばせるための術を、私が身につけるのを手伝ってくれるか?」

 

「ッ……ああ、そのために、ここにいるんだからな。辺古山が満足するまで付き合うよ」

 

「日向よ、深く感謝する……! 本当に、お前には返しきれない借りが出来てしまったな」

 

 日向は覚悟を決めるように深く頷き応えた。彼女のひたむきな思いと、誰にも言えない秘密を自分だけに打ち明け、真っ直ぐに縋り付いてきたという事実が、日向の意思を突き動かしたのだった。辺古山は自分の決意を受け入れられたことに対し、深い安堵感からか顔が緩んだ後、これから本当に日向とするんだと、意を決した鋭い眼力で日向を見つめるのだった。

 

「では日向よ。下着を、脱いでもらえるか……?」

 

「ああ……分かった」

 

「ん……ッッ!!」

 

 日向は震える手で最後の布地を下ろした。室内で衣擦れの音が響く中、彼の業物が露わになり、昂ぶりを秘めた熱と存在感を放っていた。その大太刀の開帳を前に辺古山は息を呑む。辺古山は視線を逸らせず、武芸者が名刀を凝視するような鋭い眼差しと、未知の領域に対する驚きを交錯させながら、硬直したままその光景を見つめ続けた。

 

「これが……日向の、武器というわけか。立派だな……」

 

「っ……! さっきの言葉、そのまま返すぞっ。そこまで凝視されると縮こまる……!」

 

「それは、困るな。すまない、冬彦ぼっちゃまにも同じことを言われていたのだが、つい観察してしまった。だが日向のは、そういう割には反り返ってきているように見えるな。見られることで、興奮するのか?」

 

「これはっ……! 生理現象というか、決して俺が変態なんじゃないからなっ!」

 

「そ、そうか。そういうことだと納得しよう。しかし、見事な反りだな……っ」

 

 辺古山は唇から漏れた呟きに、激しい罪悪感を覚えた。九頭竜への愛情と忠誠を誓いながら、目の前の日向と愛する人のそれと無意識に比較しているようだった。辺古山は九頭竜との経験とは異なる、未知の質量に対する恐怖と期待が混ざり合った視線を向けていた。その姿を直視する日向もまた、羞恥と優越感が入り混じる複雑な心境に追い詰められていた。張り詰めた空気に耐えかね、日向は乾燥した唇を舐めると、平静を装って口を開いた。

 

「えっと……俺は準備できてるから。辺古山のいいタイミングで、何時でも触ってくれて構わないぞ」

 

「ぁ、ああ……すまない。少し、見惚れてしまっていたようだ。では、遠慮なくいかせてもらおう」

 

 辺古山は震える声で告げると、日向の正面に膝立ちになり、ゆっくりと手を伸ばした。竹刀を振り続けてきた証である僅かなタコがありながらも、女性らしく細くしなやかな指先。彼女の白魚のような指は、緊張から小刻みに震えていた。やがて迷いを孕んだ指先が、日向の身体の熱い部位へと静かに触れた。

 

「固くて、熱い……っ! これが、日向の真剣か……ふぅ、ふぅ。動かしてみるぞ」

 

「ああ、いいぞ──ぉっ! っ、くっ……!」

 

 辺古山の白くしなやかな指先が、日向の熱を帯びた肌を恐る恐る滑る。剣を握り続けてきたことで微かに硬くなった指の腹と、女性特有の滑らかな肌の質感が、日向の最も敏感な部分へと同時に伝わってくる。しかし、その動きは酷くぎこちなく、ひたすらに迷いが滲んでいた。彼女は日向の白刃をまるで壊れ物を扱うかのように、極めて軽い力でそっと握りしめる。

 

 どこまで力を込めていいのか、どう動かせば正解なのか、その手つきからは彼女の深い戸惑いがそのまま伝わってきた。指先だけが表面を撫でるような感触は、心地よさよりもむしろくすぐったさが勝ってしまい、日向は小さく息を吐き出して言葉を紡ぐ。

 

「辺古山……もう少し、力を入れて握っていいぞ。それで、手を上下に動かしてみてくれ」

 

「こ、こうか……ッ」

 

「痛っ、それは力み過ぎ……っ!」

 

「す、すまないッ! 力を入れすぎたか!? 怪我はないか日向!」

 

 想定以上の強い圧迫と急激な摩擦に、日向は思わず苦悶の声を漏らして腰を跳ねさせた。辺古山は弾かれたように手を離し、真紅の瞳を大きく見開いて酷く狼狽える。端整な顔は耳の先まで朱に染まり、彼女の生真面目な性格ゆえの、激しい焦燥が痛いほどに伝わってきた。日向はそんな彼女を委縮させないため、笑みを浮かべて平気だと誇示する。

 

「大丈夫だ、怪我はない。ただ、もう少しだけ力を抜いて、ゆっくり動かしてみるといいかもな」

 

「わ、分かった。すまない……もう一度、いかせてもらうぞ」

 

 辺古山は深呼吸で心を整え、改めて日向の体に手を伸ばした。今度は迷いを捨てて、手のひら全体で包み込むように優しく動かし始める。剣道で培った優れた観察眼と、自身の体を精密に操る身体能力を活かし、日向の僅かな筋肉の強張りや呼吸の変化を即座に把握していった。肉の切っ先から溢れ出る我慢汁が潤滑油となり、辺古山の動きは滑らかさを増していく。彼女は日向の急所を的確に捉え、快感を引き出すため絶妙な速度と力の加減で、愛撫を繰り返すのだった。

 

「あっ、ふ、ぅ……辺古山、すご、裏筋をなぞるの、めちゃくちゃ良い……」

 

「日向はここがいいのか。ふふ……なかなか愉快だな、これは」

 

 日向の荒々しい喘ぎ声を聞き取った辺古山は、自らの行いが正解であることを確信し、さらに真剣な眼差しで日向の反応を見つめた。彼女の赤い瞳には、九頭竜のための練習という本来の目的が一時的に薄れ、ただ目の前で自らの手によって快楽に溺れていく日向の姿だけが克明に映し出されているようだった。

 

 手首の返し、指の絡め方、そして快感の波を押し上げるような絶え間ない愛撫。日向は彼女の真面目すぎるほどの熱意と、恐ろしいほどの早さで上達していく技巧に完全に呑み込まれていた。思考は白く融けかかり、視界は熱い吐息で霞んでいく。もはや羞恥心や友人の大切な人であるという罪悪感すら、容赦なく押し寄せる圧倒的な快感の濁流に押し流されようとしていた。

 

「はぁッ、あ……辺古山、もう、駄目だ……出そう、だ……離れっ──!」

 

「分かった。そのまま、出し切ってくれ……ッ!」

 

 辺古山は日向の言葉を合図に、最後の追い込みをかける。根元をきつく締め上げ、これまでで最も速く、力強いストロークで一気に日向の頂点へと駆け上がらせた。激しく水音が弾け、極限まで高められた熱が日向の下腹部で限界を突破する。日向の身体が大きく跳ね、喉の奥から声にならない咆哮が漏れた直後、抑えきれなくなった白濁の熱い飛沫が激しい勢いで虚空へと噴き上がった。

 

 それは、辺古山の想像を遥かに超える光景だった。彼女は九頭竜との経験から、ある程度の量や勢いというものを予測していた。しかし、日向から解き放たれたそれは、彼女の予想を完全に裏切るほどの凄まじい勢いと圧倒的な量を持っていた。肉の剣が脈打つたびに、濃密な白濁が幾度も幾度も噴き出し、辺古山の手のひらから腕、そして黒い下着に包まれた柔らかな胸元や、熱を帯びた白い頬にまでべっとりと降り注いでいく。

 

「あっ、あぁぁ……ぺ、辺古山っ」

 

「ッッ……!! 凄まじいな……っ。臭いも量も、想像以上だ……んっ」

 

 辺古山は瞬きすら忘れ、自らの顔や身体を汚すその凄まじい量の白濁と、まだ熱を持って脈打ち続けている日向の身体をただ熱く凝視していた。生真面目な剣士の顔に、信じられないものを見てしまったような純粋な驚愕と、言い知れぬ熱い情動が入り混じった表情が浮かび上がっていた。

 

 部屋の中に、荒々しい呼吸音だけが不規則に響き渡る。数秒前まで快楽の波に呑まれていた日向は、眼前で展開された光景に急速に現実へと引き戻された。自分がしでかしてしまったことの重大さに気づき、血の気が一気に引いていくのを感じる。相手は大切な友人が愛する女性で、そんな相手にぶっかけるなんてしていいわけがなかった。日向は酷く狼狽えながらベッドの脇に身を乗り出し、慌てた手つきでティッシュペーパーの箱を引き寄せた。

 

「っ、ごめ、ごめん辺古山! 俺、こんなに……っ、本当にごめん! 動かないでくれ、すぐ拭くからっ」

 

「んっ。謝る必要はない。私が力加減を誤り、誘導の速度を見誤った結果だ。初めてのこととはいえ、お前の力量を正確に測りきれず、このような事態を招いてしまった。私の判断ミスなのだから、お前が気にする必要などどこにもない」

 

「いや、判断ミスとかそういう問題じゃないだろ。俺自身、驚いてるんだ。こんなに出るなんて、中々ないことなのに……」

 

「中々ない。ということは、それだけ私の手が、お前を気持ちよくさせることが出来たという証だな。ふふっ、日向はその身を持って私の技量を証明してくれたのだな」

 

 日向は気まずそうに視線を泳がせながら、ぽつりと本音を漏らした。それは、健康な男子高校生としての実感を伴った偽りのない言葉だった。日頃からそれなりに自身の処理は行っているはずだが、これほどまでに激しく、全てを絞り尽くすかのような量の放出は記憶にない。

 

 その日向の呟きを聞いた瞬間、辺古山の真紅の瞳に微かな光が灯った。彼女は自分の胸元に残る白い痕跡と、日向の少し赤らんだ顔を交互に見比べると、次第にその端整な顔つきに、ぱっと花が咲くような明るい色が広がっていった。

 

「私の不慣れな手でも、お前をそこまで高みへ導くことが出来た。これで少しは、冬彦ぼっちゃまを喜ばせるための術を習得出来たか」

 

「辺古山……その、良かったな」

 

「ああ、喜ばしいことだ。日向のおかげだな」

 

 彼女は日向の身体で学んだ手技に確かな手応えを感じ、その表情には愛する男への献身と満足げな笑みが浮かんでいた。しかし日向は、その技術が自分ではなく他者に向けられるためのものだと理解し、彼女に触れながらも心の中で複雑な痛みを噛み締めていた。汚れを拭い取り距離を取る日向に対し、彼女は一切の迷いを見せず、さらなる技術を求めるように再び日向へと身を寄せた。

 

「日向。この感覚を忘れないうちに、他にも前戯というものを身につけたい。手で触れる以外にも、男が好むような行為があるのだろう?」

 

「えっ……他にも、って……」

 

「頼む。私は無知ゆえに、どのような行為が相手を喜ばせるのか想像もつかないのだ。冬彦ぼっちゃんにご満足いただくためにも、男が好む前戯を、もっと教えてはくれないだろうか」

 

「男が、好む前戯……」

 

 知識と技術を求める辺古山の真剣な眼差しに、日向は気圧される。視線を彷徨わせた先、普段は制服に隠されている彼女の豊かな胸元が目に留まった。引き締まった身体とは対照的なその肉厚な感触と、呼吸のたびに揺れる曲線は、肌の紅潮も相まって日向の意識を強く揺さぶるものだった。

 

「ぱ、パイズリとか」

 

「パイ、ズリ……? それはどのような行為なのだ?」

 

「えっと、胸を使って、男性器を刺激する行為だ……っ」

 

「……胸を。使命の邪魔だと思っていたこれが、役に立つ日が来るとはな。日向よ、次はパイズリを特訓させてくれ」

 

 決意を固めた辺古山の瞳は、羞恥に揺れながらも、退路を断った武人のように力強く光っていた。彼女は両手で自らの胸を優しく寄せ合わせ、先ほどの経験で得た学びを活かし、丁寧かつ柔らかく日向の熱源を挟み込む。形成された深い谷間にその熱を埋め込み、躊躇うことなく行為へと踏み出した。

 

「これがパイズリか。痛みはないか?」

 

「ああ、大丈夫だ。そのまま胸で擦るように上下してみてくれ……っ」

 

「分かった。始めるぞ」

 

 辺古山の柔らかな胸が日向の昂った中心部に密着し、相反する硬さと柔らかさが重なり合って湿った音を立てる。肌の温度と密着する感覚に、日向は身体の奥から痺れるような熱を感じていた。辺古山は不慣れな手つきながらも、日向を挟み込むようにして上下に胸を動かし始めた。

 

 その動作の最中、彼女の脳裏には幼い頃の記憶が去来していた。かつて剣の修行において不要な重荷だと感じていた胸に、九頭竜が視線を向けていた理由を。自らの肉体が愛する男性を悦ばせるための武器になるという事実に、彼女は喜びを抱くのであった。

 

「ふっ、ふっ、脈動しているな。日向が感じているのが、男性器を通じて肌から伝わってくるぞ」

 

「ぁっ、ふっ、ぅぁっ! 辺古山ぁっ」

 

 辺古山は剣の鍛錬で培った観察眼を駆使し、日向の僅かな筋肉の動きや呼吸の乱れから快感の焦点を正確に見抜いていく。彼女は胸の肉を寄せる圧力を細かく調整し、日向の最も敏感な場所に絶妙な刺激を与え続けた。その的確な愛撫と、胸肉が擦れ合う音が重なり、日向は思考が白濁するほどの強烈な興奮へと追い込まれていった。

 

「はぁッ、駄目だ、辺古山……また、出る……ッ!」

 

「構わない。私の胸の中で、お前の全てを吐き出せ……っ!」

 

 両腕に力を込め、日向の熱い部位が辺古山の胸の間に強く押し付けられる。逃げ場を失った感覚と柔らかな肌の感触に耐えきれず、日向は腰を跳ね上げ、限界を超えた熱を噴き出した。出し尽くしたはずのそれは、抑えきれない衝動と共に何度も溢れ出し、彼女の胸の谷間から臍下まで白く染め上げていった。

 

「はぁ、はぁ。辺古山、また汚してすまん……」

 

「構わん。身につけた技術の証だと思えばむしろ誇らしい。確かに、量も臭いも凄まじいから、後が大変そうではあるがな」

 

 そう答えた辺古山は自らの手と胸を使って二度目の絶頂を導き出したという達成感に包まれながら、静かに息を整えていた。辺古山の谷間にはいくつもの白濁とした精液の橋がかかっており、汗も相まっててテカリが日向を酷く興奮させる。

 

 辺古山は過去に九頭竜と身体を重ねた際の記憶を辿る。このような激しい放出が二度も続けば、男の身体は著しく疲労し、暫く休息を必要とするものだと認識していた。そろそろ小休止を挟むべきだろうか。そう考えた辺古山が視線をゆっくりと下へ向けた瞬間、彼女の真紅の瞳は驚きに見開かれた。

 

「ッ──! まだ、余力を残しているようだな」

 

「え、あ、ああ……珍しいな。二回くらい連続でしたら何時もなら萎えるんだけどな」

 

「やはりそうか……」

 

 大量の熱を吐き出したばかりであるにもかかわらず、日向の腹部から伸びる大太刀は、未だに萎える素振りすら見せていなかった。それどころか、限界まで張り詰めた硬さと、周囲の空気を歪ませるほどの熱量を保ち続け、脈打つたびにその存在感を強く主張している。

 

 辺古山は思わず息を呑んだ。九頭竜との経験しか持たない彼女にとって、これほどの生命力と持久力を目の当たりにするのは初めてのことだった。辺古山は恐る恐る、次のステップに進みたい旨を打ち明ける。

 

「日向よ。お前がまだ出来るなら……本番。このまま性交の特訓もしたい。構わないか?」

 

「っ……! 辺古山、本当にいいのか? 前戯の特訓だけでも十分じゃないか? 九頭竜は今までの行為だけできっと喜んでくれると思うぞ」

 

 辺古山の本番という言葉を受け、日向の胸の中に激しい葛藤が渦巻いた。理性が引き返すように叫んでいるが、彼の本能は、目の前で薄着のまま熱い視線を送ってくる美しい少女を抱き寄せることを強烈に渇望している。日向は今まで生きた常識から、ここで終わっても十分じゃないかと、内なる心を抑え込み辺古山を説得しようとする。だが辺古山は一切の迷いを見せずに語りだした。

 

「否定はしまい。しかし、先に言った通り私はぼっちゃまの一番になりたい。冬彦ぼっちゃまの心の中にある、私以外の女の影を消しさりたいのだ。それには、本番をマスターするのは必要不可欠だ。だから、どうか最後まで付き合ってほしい」

 

 彼女の言葉には、一人の女性として目覚め始めた抗いがたい衝動が入り混じっていた。その漆黒の決意を前にして、日向の微かな躊躇いは完全に打ち砕かれた。彼女がここまで覚悟を決めているのなら、自分が中途半端な態度を取ることこそが最大の侮辱になる。日向は深く息を吐き出して決意を口にした。

 

「分かった……やるよ。最後まで、特訓に付き合う」

 

「ありがとう……では本番を──「その前にいいか?」──なんだ? まだ何かあるのか?」

 

「いや、このままいきなり本番をしたら、辺古山が痛い思いをするだけだと思うんだ。ほら、まだ……濡れてないだろ? そのまましたら、擦れて傷つくだろ?」

 

 その問いに辺古山は気が急いていたことに気づいたのか、忘れてたとでも言いたげに目を見開いた。これまで日向には十二分に辺古山の奉仕があったが、彼女の体には全く手つかずであり、日向の目線からは本番をするに辺り彼女はまだ準備不足だと感じた。

 

「そうだったな。坊ちゃまとした時はローションを使ったが、今ここにはない。自分で濡らすから、少し待ってくれ」

 

「……なら、俺も手伝うよ。まあ辺古山が嫌じゃなかったらだけど」

 

 日向の提案は、辺古山にとって全く予想もしていないものだった。彼女は九頭竜を喜ばせるための技術を学ぶためにここに来たのであり、自分が日向から奉仕を受けるなどということは、全くの想定外だったのだ。この協力の提案に、辺古山は少し迷う素振りを見せる。

 

「いや、そこまで日向にしてもらう必要はないのではないか? 自らの指で秘部を刺激し、中を濡らすのくらい私一人で十分だろう」

 

「そうかもしれない。けど九頭竜と俺とでは、手の大きさも触れ方も、色々と違うはずだ。俺に触れられることで、どう感じるのか。身をもって知ることも、今後のための立派な参考になるんじゃないか?」

 

「一理、あるか……お前の言う通りかもしれない。自らが与えられる側になり、その感覚を学ぶこともまた、重要な特訓の一環だな。私が浅はかだった。日向、すまないが任せてもいいだろうか?」

 

「ああ、任せてくれ。ここまで来たら俺も全力でやる」

 

 日向の覚悟に促され、辺古山はゆっくりとベッドの上へと身体を横たえた。先ほどまで日向を激しく煽り立てていた彼女が、今は無防備に仰向けになり、緊張で身体を強張らせている。日向は辺古山の隣に腰を下ろし、彼女の顔を覗き込んだ。真紅の瞳は不安と期待に揺れていた。

 

「こういう時は力を抜くといいらしい。気を楽にしてくれ」

 

「ああ……分かった。何時でも、来てくれ」

 

 静まり返った部屋で、日向は震える手で辺古山の肌に触れた。鎖骨から胸、腹部へと滑らせる指先に、彼女の身体は敏感に反応する。細かな肩の震えと吐息がこぼれる、日向に緊張が伝わってきた。滅私奉公の武人として鍛え上げられた彼女だが、今は一人の女性とし男から奉仕されるということに、酷く戸惑いを感じていた。

 

 日向は彼女の反応を繊細に観察しながら指を動かし、秘所周辺に触れた瞬間、彼女は大きく体を跳ねさせた。日向の指先が辺古山の潤った秘所に触れると、溢れ出した蜜が指を滑らかに濡らした。日向は辺古山が最も鋭敏に反応した突起へ的を絞り、慎重かつ丹念に指を這わせる。静かな部屋に粘りある水音が響き、日向は円を描くような刺激と上下の愛撫を繰り返すことで、彼女の理性を少しずつ追い詰めていった。

 

「あッ、ぁっ……! ひぃなぁ、たぁ……っ! んくぅっ!」

 

 これまで抑え込まれていた辺古山の喉の奥から、甘く高く、そして酷く艶めかしい嬌声が漏れ出した。それは、彼女自身すら聞いたことのないような、完全な雌としての鳴き声であった。自身の口から飛び出したそのだらしない声の響きに驚愕した辺古山は、瞬時に顔を真っ赤に染め上げ、慌てて自らの両手で口元をきつく塞ぎ込む。

 

 けれど日向が与える快楽に耐えきれず、塞いだ指の隙間から甘い吐息と嗚咽が漏れていた。日向は動きを止めず、気遣いと欲求を混じらせた眼差しで彼女に顔を寄せた。

 

「辺古山、無理して声を押し殺さないでくれ。我慢されると、俺のやり方が荒くて痛がっているのか、それとも気持ちいいのか分からないんだ。だから、声を聞かせてくれ」

 

「っっ~~!! わ、わかったっ……んぁ、ひぁ、ぁ、ぁ、くぅっ……!!」

 

 辺古山の口から、抑えきれない熱を帯びた声が漏れ出す。彼女はベッドの敷布を固く掴み、身体をよじりながら快楽の渦へと身を沈めていった。日向の慣れないながらもひたむきな手つきが、彼女の膣内を擦っては絶え間なく刺激し、溢れ出る体液を指でかき混ぜるたびに、卑猥な水音が部屋に響く。

 

 思考は熱によって塗り潰され、辺古山は荒い吐息の中に九頭竜と初体験をした日の記憶を脳裏に浮かべていた。当時の彼女の胸を満たしていたのは、長年密かに慕ってきた相手との愛を確認する喜びと、精神的な充実感であった。しかし、日向の指先から伝わってくる感覚はそれとは全くの別物であり、ただひたすらに圧倒的な快楽のみが彼女の身体を支配していた。

 

「はぁッ、んあッ……ひな、た……そこぉ、すごぉ……っ!」

 

「ここだな。ここを擦ると、辺古山の中きつく締めてくる……」

 

 日向の指先には、辺古山の中から溢れ出た透明な液体が豊かに絡みついていた。彼女の柔らかな肌の感触、指先に伝わる熱の高さ、そして十分に濡れそぼった秘所の状態。それら全ての要素が、彼女が既に次の段階へ進むための準備を完全に終えていることを証明していた。これならば、自身の熱を彼女の奥底へと導いたとしても、無用な痛みを与えることはないだろう。当初の目的であった濡らすという行為は、十二分に達成されている──しかし、日向の指の動きは止まらなかった。

 

「日向っ、ひな、たっ……そこ、中が……あついぃ」

 

「辺古山の中、俺の指に吸い付いきてるぞ。少し速くするぞ」

 

「あッ、あァッ……待っ、ひな、た、何か、くる……っ!」

 

 辺古山の真紅の瞳が見開かれ、恐怖と期待が入り混じった切実な色が浮かび上がった。下腹部の奥底から、これまでに経験したことのない巨大な熱のうねりが迫ってくるのを、彼女は本能的に感じ取っていた。

 

 九頭竜との行為でも、彼女はここまでの感覚に到達したことはなかった。未知なる絶頂の気配。自分がどうなってしまうのか分からないという怯えが彼女の身体を強張らせるが、同時に、その未知の快楽へと身を投じてしまいたいという狂おしいほどの欲求が彼女を支配していた。日向は最後の仕上げと言わんばかりに、指の差し入れを加速させる。

 

「辺古山、我慢しなくていい。思いっきりイッてくれ……!」

 

「ひ、あッ、あァアアアッ……!!」

 

 言葉にならない、高く甘い悲鳴が辺古山の口から放たれた。彼女の細く引き締まった身体が、弾かれたように大きく跳ね上がる。極限まで張り詰めていた筋肉が限界を迎え、全身が激しく痙攣を始めた。指による愛撫だけで引き起こされた、初めての絶頂。圧倒的な快楽の暴流が彼女の脳髄を白く焼き尽くし、思考という思考が完全に停止する。

 

 その直後、彼女の秘所から、透明な液体が激しい勢いで噴き出した。辺古山の豊潤な蜜液は、日向の手や手首をべったりと濡らし、さらには彼らの身体を受け止めている真っ白なシーツにまで降り注ぐ。とめどなく溢れ出る熱い液体は、彼女がどれほどの深い快楽に突き落とされたかを、何よりも雄弁に物語っていた。日向自身、ここまでイクとは思っておらずやり過ぎたかと後悔が過ぎる。

 

「辺古山、大丈夫か?」

 

「ぁ、ぅぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 静かな室内に息遣いだけが、しばらくの間響き渡っていた。辺古山の身体を波打たせていた激しい余韻が少しずつ引いていくのを、日向はただ黙って見守っていた。やがて、深く息を吐き出して焦点の定まってきた辺古山が、自らの下へと視線を落とした。純白のシーツに大きく広がった透明な染みは、彼女がどれほど激しく乱れ、どれだけの量を放出したかを容赦なく突きつけていた。

 

「ふぅ、ふぅ……まさか、手で触れられただけで、こんなになるとはな……驚きだ」

 

「ちょっと、やり過ぎたな。すまん、もっと加減するべきだった」

 

「謝罪は不要だ。私自身、全く制御出来ないほどの境地へ導いてくれたお前の腕前に、感服しているくらいだ」

 

「初めてだったんだがな。そこまで言われると素直に嬉しいよ」

 

「ふぅー……見事なものだ。しかし、ここまで汚してしまうとはな。次の特訓の時には、下に何か敷くものを買っておいた方が良いのだろうか」

 

 辺古山は真剣な眼差しでそう告げると、再び濡れそぼったシーツへと目を向けた。彼女の口からごく自然に飛び出した次という言葉に、日向の心臓は大きく跳ね上がった。この一度きりの過ちで終わるのではなく、彼女は今後も継続して自分と肌を重ねるつもりでいるのだ。

 

 その事実が、日向の腹の底に重く熱い塊となってのしかかる。股間で未だに猛り狂っていた怒張が、さらなる期待と興奮を吸い上げて一段と熱く膨れ上がるのを感じた。日向は必死に下半身の衝動を抑え込みながら、努めて冷静な声を装う。

 

「あ、ああ。そういう時は、犬とかに使うペットシーツみたいな吸水性の高いやつを敷いておくと良いらしいぞ。それなら、汚れてもすぐに捨てられるしな」

 

「なるほど……! ペット用のものを代用するのか。それは良いことを聞いた」

 

 辺古山は日向の知識に感心したように頷くと、改めて起き上がり日向を見る。視線が交わったことで彼女の気迫は伝わってきた。即ち本番の時が来たと。彼女は自身の濡れそぼつ秘所を一瞥してから口を開く。

 

「日向のおかげで、私の身体の準備は完全に整ったはずだ。本番の特訓を、したいと思う」

 

「……ああ、分かった。俺が、動くのか? それとも辺古山がリードする形でやるのか?」

 

「冬彦ぼっちゃんと肌を合わせた時、私は痛みに耐えることしかできず、全ての主導権をあの人に任せきりにしてしまった。ただ与えられるのを待つだけの自分が、酷く不甲斐なかったのだ。だから、今日は私自身が上に乗り、自ら動いて相手を喜ばせるやり方を身につけたい」

 

「把握した。お前が動きたいなら、俺は下になるよ」

 

 そう言って日向はベッドの傍らに置いてあった小さな箱から避妊具を取り出すと、手早く自身へと装着し、シーツの汚れていない場所を選んで仰向けに寝転がる。日向が体勢を整えるのを見計らい、辺古山がゆっくりと腰を上げて日向の太腿を跨ぐようにして膝をついた。

 

 辺古山の滑らかな白い肌が天井の光を浴びて艶めかしく輝く。日向の屹立した先端が、彼女の引き締まった腹部の下、へその辺りに微かに触れた。その生温かい感触と、ゴム越しに伝わってくる恐ろしいほどの熱量と質量に、彼女の身体がびくりと震えていた。

 

「日向のこれほど大きなものを、今から私が全て受け止めるのだな……」

 

「辺古山、最初は本当にゆっくり、少しずつ腰を下ろしていった方がいいと思う。挿れるのが無理だと思ったら、すぐに止めてくれよ」

 

「心得た。では、ゆくぞ……んぅ、ぁ、はぁっ!」

 

 静まり返った部屋に、互いの荒い呼吸だけが重なり合う。辺古山は日向の引き締まった腹筋の上に両手をつき、自らの身体を支えながら、ゆっくりと腰を沈め始めた。彼女は過去に九頭竜と肌を重ねた経験があり、決して未通の身ではない。女性としての柔らかな内部が男性の熱を受け入れるという行為自体は、既に知っているはずの感覚であった。しかし、今まさに彼女の最も弱い部分を押し広げようとしているのは、黒いゴムに包まれた、日向の規格外の熱と圧倒的な質量である

 

 生々しい水音が立ち、日向の先端が彼女の濡れそぼった入り口へと侵入を開始する。その瞬間、辺古山は大きく息を呑み、肩をびくりと震わせた。九頭竜との交わりでは決して感じたことのない、内側から肉を力強く押し広げられるような強烈な拡張感が、彼女の下腹部を容赦なく貫いたからだ。そしてそれだけでは終わらず、肉棒が辺古山の細道を貫くと、最奥──彼女の秘めたる子宮口へ刺激と共に到達したのである。瞬間、辺古山の身体が、雷に打たれたかのように激しく大きく跳ね上がった。

 

「あッ……ひっ、ひなたっ! そこはぁぁ、っっッッッッ~~!」

 

「くぅ……っ! めちゃくちゃキツいっ……!」

 

 ほぼ同時に二人の身体は震えていた。日向の先端が、これまで九頭竜のそれが行き着くことのなかった、彼女の最も奥深く、手付かずであった子宮口へと到達したからだ。未知の領域を直接打たれた衝撃は、辺古山の理性を根底から打ち砕いた。腹の底から突き上げるような、純粋で暴力的なまでの快楽の奔流が、彼女の全身の神経を駆け巡る。手先から足の先まで、全ての細胞が歓喜の悲鳴を上げているかのようだった。

 

 辺古山はあまりの快感に、腹の底から湧き上がる大きな喘ぎ声を上げそうになった。だが、彼女は超高校級の剣道家として培った並外れた精神力と自制心を総動員し、必死にその声を喉の奥へと押し留めた。唇をきつく噛み締め、日向の腹筋を掴む手に力を込める。声を上げてしまえば、己の中にある雌としての本能に完全に屈服してしまうような気がしたのだ。彼女はただ、全身を小刻みに震わせ、鼻から荒く熱い息を噴き出しながら、内部で暴れ狂う絶頂の波に必死に耐えようとしていた。

 

(こ、これがセックスっ! 辺古山の、中なのか……! め、めちゃくちゃ気持ち良過ぎるっ。我慢、しきれるのか……っ!?)

 

 一方、最奥まで己を沈めきった日向もまた、限界の淵に立たされていた。黒いゴムの薄膜を通しているとはいえ、女性の最も熱く、最も柔らかな最深部に直接触れているという事実は、童貞であった彼にとって処理しきれないほどの圧倒的な刺激であった。

 

 辺古山の内部の肉が、異物を逃がすまいと生き物のように蠢き、日向の剛直を四方八方からぎゅうぎゅうと締め上げてくる。その信じられないほどの吸着力と、彼女の体内の驚異的な熱さに、日向の腰の奥底から狂おしいほどの射精衝動が突き上げてきた。今すぐにでも腰を打ち付け、彼女の中に全てを吐き出してしまいたい。本能がそう叫び、下腹部の筋肉が勝手に動き出そうとする。

 

(いや、まだだ! 辺古山の特訓のため、こんな所で果てられない……!)

 

 だが、日向はぐっと奥歯を噛み締め、両手でベッドのシーツを握り潰してその衝動を力任せに抑え込んだ。まだ入れたばかりだ。ここで果ててしまっては、辺古山が望んだ特訓にはならない。何より、友人の大切な人である彼女の内部で、己の欲望のままに果てることだけは、日向の僅かに残った理性が許さなかった。互いの熱と質量が完全に一つに結びついたまま、二人は身体を快楽に慣らすため静止していた。

 

「ふぅ、ふぅ……私の方は、なんとか落ち着けたが、日向の方はどうだ?」

 

「俺も、落ち着いてきた。うん、動いても、大丈夫だぞ」

 

「了解した。不慣れ故、何か違和感があったら教えてくれ……では、いくぞ」

 

 辺古山は両手を日向の胸元に置き、ふわりと身体を浮かせた。そして、重力に従ってゆっくりと腰を下ろしていく。先ほどまでの切迫した激しさとは対照的に、一動作ごとに時間をかけて交合を体感する。辺古山は自らの内部をゆっくりと押し広る感覚を享受しながら、優雅なリズムで腰を上下させ始める。

 

 辺古山の身体が上昇するたびに、日向の剛直が彼女の入り口から半分ほど抜け出し、再び腰を落とすたびに、粘り気のある蜜を巻き込みながら深々と子宮口まで到達する。辺古山は、自慢の観察眼で日向の僅かな表情の揺らぎを読み取り、彼が一番心地よいと感じる速度と角度を丁寧に模索しながら、二人だけの時間を味わうのだった。

 

「んっ、ぁっ、はぁっ、ひなたぁ、どう、だ? わたしはっ、うまくできているか……っ?」

 

「あぁっ、ああ、大丈夫だぞ。上手く、動けてるぞっ」

 

 日向の言葉に辺古山は薄っすらと笑みを浮かべ、熱い呼気と共に自らの腰を上下させていた。静寂に包まれた無機質な部屋の空気を震わせるように、粘り気のある水音が規則正しく響き渡る。彼女は日向の腹部から真っ直ぐに上を向く巨剣を自身の最も柔らかな奥底に咥え込んだまま、確かめるようにゆっくりと腰を浮かせ、そして再び静かに沈み込む動作を繰り返していた。

 

 超高校級の剣道家として鍛え抜かれた辺古山の体幹は、不安定な体勢であっても全くブレることがない。日向の肉剣が内部の襞を擦りながら限界まで引き抜かれそうになる寸前でピタリと動きを止め、そこから再び重力に逆らわず、自身の体重を乗せて最深部へと肉を沈めていく。

 

「ひぁっ……!!」

 

「辺古山っ!? だ、大丈夫か?」

 

「んっ、ああ、すまないっ。変な声を出して、おっ、驚かせてしまったな。続きを、するぞ……っ!」

 

 時折、内部の最も敏感な箇所が激しく擦れ、辺古山の身体がびくりと大きく跳ね上がることがあった。その瞬間、彼女の口からは堰を切ったように甘い嬌声が漏れ出しそうになり、本能のままに腰を荒々しく打ち付けたくなる猛烈な衝動に駆られる。かつて経験したことのない強烈な快楽の波が、彼女の脳髄を白く焼き尽くそうと容赦なく襲い掛かってくるのだ。

 

 辺古山はそのたびに自らの淡い色の唇をきつく噛み締め、必死に理性の手綱を握り直していた。彼女の目的は、快楽の濁流に身を任せて己を見失うことではない。愛する九頭竜を悦ばせるための最適な動き方、角度、そして力の入れ具合を、己の肉体を通して完璧に熟知することなのだ。日向はそう考えているであろう、彼女を見上げて想うのであった。

 

(辺古山はすごいな……。乱れそうになっても、すぐに心を正してる。九頭竜のため、全身全霊で性交について知ろうとしてる。俺なんか、今にも突き上げたくてたまらなくなってるのに……)

 

 下敷きになっている日向もまた、凄まじい快感と己の闘争本能の狭間で激しく身悶えしていた。辺古山の引き締まった膣内の柔肉は、彼女が荒い息を吐くたびに日向の熱剣を力強く締め上げ、信じられないほどの熱さと吸着力で彼を責め立ててくる。男としての本能が、今すぐ彼女の腰を鷲掴みにし、下から思い切り乱暴に突き上げてしまえと激しく警鐘を鳴らしている。これほどまでに自分を締め付けてくる熱い肉壺に対し、ただ受け身でいることなど本来は不可能に近い。日向の下腹部の筋肉は無意識のうちに、幾度も腰を跳ね上げそうになっていた。

 

 だが、日向も奥歯を噛み締め、握り拳を作ってその衝動を必死に抑え込んでいた。今、辺古山は己の快楽と戦いながら、懸命に動き方を学ぼうとしているのだ。自分がここで欲望に負けて腰を振ってしまえば、彼女のひたむきな努力を無駄にしてしまう。それに本能のまま貪る行為は、友である九頭竜への決定的な裏切りになると感じていた。日向は彼女の学びの邪魔をしないよう、ただ彼女が沈み込んでくるタイミングに合わせて微かに腰の角度を調整し、彼女の動きを最大限に受け止めることだけに意識を集中させていた。

 

「はぁっ……ふぅっ……ひな、た……っ。すこし、ペースをはやくするぞ……ッ」

 

「っ……! わ、分かった。辺古山のやりたいペースで動いてくれっ」

 

 一定のリズムを保っていた辺古山の動きに変化が訪れた。彼女は、日向の剛直を己の内部に受け入れ、どう動かせばどのような刺激が生まれるのかという物理的な法則を、ある程度体で理解し始めていた。そして同時に、抑え込み続けていた己の快楽への渇望が、いよいよ理性の防壁を突き破ろうとしていたのだ。辺古山は掠れた声で速くすると宣言した直後、腰の動きが一段階速度を増した。

 

 これまでとは打って変わった激しい上下運動。先ほどまでの確かめるような遅さは消え失せ、滑らかに濡れそぼった内部の肉が、強烈な勢いで日向の熱源を擦り上げ、そして呑み込んでいく。自らペースを上げたことによって生み出された暴力的な摩擦と刺激に、辺古山の口からついに抑えきれない嬌声が弾け飛んだ。彼女の銀の髪が乱れ舞い、日向もまた、急激に跳ね上がった刺激の奔流に歯を食い縛る。彼女の内部の襞が一つ残らず日向の肉剣に絡みつき、引き抜かれるたびに吸盤のように吸い付いてくる。その圧倒的な快感は、日向が先ほどまで必死に保っていた忍耐をいとも容易く消し飛ばそうとしていた。

 

「辺古、山っ! うぁ、ふぐぅ、すごい、締め付けが……くぁっ!!」

 

「はっ、ひっ、いっあァッ、ひなたっ! なかが、こすれ、てっ、あつぅ!」

 

 辺古山は背筋を伸ばしながら、重力と自らの脚力だけを巧みに操り、日向の剛直を己の奥深くへと出し入れし続けた。規則正しく、しかし先ほどよりも遥かに速く力強い水音が室内に響き渡る。辺古山は唇をきつく噛み締め、喉の奥から這い上がろうとする嬌声を必死に封じ込めていた。愛する九頭竜を悦ばせる技術を完全に我がものにするため、己の快楽に屈してはならないという生真面目な意志が、彼女の表情に張り詰めたような緊張感を与えている。

 

 しかし、その強固な意志とは裏腹に、彼女の肉体は雄弁に極限の興奮を語っていた。雪のように白かった肌は首筋から胸元、そして腹部にかけて深い朱色に染まり上がり、全身から滲み出た汗が照明を反射して艶めかしく光っている。背筋を伸ばして上下するたびに、豊かな双丘が生き物のように激しく弾み、先端の突起が日向の視界で蠱惑的な軌道を描いた。

 

「ぉ゛、んぁっ、ふぅ、ふっ……ォ゛っ、ん゛ん゛っっ……!!」

 

「はぁ、ぐっ、ふっ、くっ……うっ、ふぅぅっ……!!」

 

 声こそ出さないものの、鼻から漏れる荒く熱い吐息と、日向の熱源を呑み込むたびにビクンと跳ねる下腹部の動きが、彼女がすでに理性の限界ギリギリに立っていることを示していた。日向もまた、視覚から入る圧倒的な情報と、下半身を包み込む暴力的なまでの快感に理性を焼き切られようとしていた。背筋を伸ばし、己の上に跨って腰を振る少女の美しさと、彼女の内部から伝わってくる信じられないほどの高熱と吸着力。それらが絡み合い、日向の腰の奥底に眠っていた雄としての闘争本能に完全に火をつけた。

 

 これまでは彼女の動きを邪魔しまいと、ひたすらに受け身に徹していた日向だったが、本能の昂ぶりに抗うことはもはや不可能だった。辺古山が腰を高く浮かせ、再び限界まで沈み込もうとしたその瞬間。日向は無意識のうちに己の腰に力を込め、沈み込んでくる彼女の柔肉を迎え撃つように、下から勢いよく腰を突き上げた。

 

「ひぃ、あぁ、んっ──ン゛ン゛ッッッ〜〜!!」

 

 辺古山の落下する体重と、日向の突き上げる力が完璧なタイミングで噛み合った。黒い薄膜に包まれた日向の先端は、これまでにないほどの勢いと深さで、彼女の最も熱く弱い最奥の粘膜を強烈に擦り上げた。強固な意志で封じ込められていたはずの辺古山の口から、ついに大きな嬌声が弾け飛んだ。急激に跳ね上がった未知の快楽に、彼女の引き締まった身体が空中で大きくのけぞる。

 

「ひな、たっ! きゅうに、ぃっ、したからぁ、つきあげるなぁ……っっ!」

 

「すまん……! けど、もう止められない……!」

 

 辺古山は日向の胸板に両手をつき、乱れた銀色の髪を振り乱しながら、熱い吐息交じりに抗議の言葉を紡いだ。しかし、その声には怒りや拒絶の色は全くなく、むしろ快楽に溶け切った甘い響きだけがまとわりついていた。突き上げるなと言いながらも、彼女は日向から逃げようとはしなかった。それどころか、最奥を突かれたことで完全に雌としての本能に火がついた彼女の身体は、さらなる強い刺激を求めて、再び日向の腰へと自らの下腹部を激しく打ち付け始めたのだ。

 

「あ゛ァッ、ん゛っ、ひな、たっ! ひなたぁ、ひなたぁっっ!」

 

「辺古山っ、辺古山っ……!!」

 

 日向もまた、彼女の情熱的な動きに応えるように腰の突き上げを繰り返した。互いの肌が激しくぶつかり合う音が、部屋の空気を濃密な熱気で満たしていく。言葉にして確認し合うことなど出来なかったが、二人の動きはもはや一つの生き物のように完璧な連動を見せていた。互いの最も心地よい角度と深さを、肉体が勝手に探り当て、限界点へと向かって急加速していく。

 

 その時だった。静寂を塗り潰すような二人の水音と吐息に混じり、ベッドの脇に置かれていた辺古山の携帯電話から、短い電子音が鳴り響いた。メールの着信音。それは、この閉鎖された空間に外の現実世界を持ち込む、冷たい一滴のようであった。もしかすると、それは彼女が愛してやまない九頭竜からの連絡かもしれない。日常への帰還を告げるその音は、本来であれば彼女の理性を瞬時に引き戻すはずのものだった。

 

 しかし、今の二人の耳にその音が正確な意味を持って届くことはなかった。

 

「はぁぁっ……あ゛ァ゛っ、う゛ぁ゛っ!! くる、ひなた、わたしは、もう……ッ!」

 

「俺も、出るっ……辺古山の、中で……っ!!」

 

 極限の快楽に支配された脳髄は、外部からの刺激を完全に遮断していた。辺古山は着信音に微塵も気を留めることなく、狂ったように腰の上下運動を加速させる。日向も彼女の細い腰を両手で鷲掴みにし、逃がさないように固定しながら、最後の力を振り絞って腰を突き上げた。日向の大剣が、辺古山の最奥にある急所を完璧な角度で、最も力強く貫いた。

 

「あ゛ッ、あ゛ぁ、ァア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ……!!」

 

 辺古山の身体が、限界を超えた快感に弾かれたように大きく跳ね上がり、そのまま空中で激しく痙攣した。彼女の内部の肉が日向の全てを押し潰さんばかりの驚異的な力で収縮し、彼から一滴残らず熱を搾り取ろうと激しく波打つ。その圧倒的な締め付けが最後の引き金となり、日向もまた声にならない咆哮を上げて限界を突破した。

 

 薄いゴムの膜越しであってもはっきりと分かるほどの凄まじい勢いで、日向の熱い白濁が辺古山の最奥へと放たれ、濃密な熱の塊が彼女の奥深くに叩きつけられる。辺古山はその熱を全身で受け止めながら、ガクガクと震える身体を日向の胸元へと崩れ落とした。二人の荒々しい呼吸だけが、熱を帯びた部屋の中に長く、長く響き渡っていた。

 

 激しい嵐が過ぎ去った後のような静寂が、狭い部屋に降り注いでいた。限界まで達した呼吸の乱れは徐々に落ち着きを取り戻し、二人の体からは熱を帯びた汗が静かに引いていく。辺古山は日向の体からゆっくりと身を離し、彼のすぐ横へと力なく寝転がった。抜け落ちた黒いゴムの鞘に包まれた巨剣の先には、並々と精液が詰まった風船が辺古山の蜜駅で照り輝いていた。

 

 二人とも極限の絶頂の果てに思考は蕩け、心地よい倦怠感が全身にのしかかっていた。辺古山は焦点の定まらない真紅の瞳で天井を見つめながら、無言のまま己の内に渦巻く感情と向き合っていた。九頭竜と肌を重ねたあの夜。彼女の心を満たしていたのは、長年忠誠を誓い、密かに想いを寄せていた愛する人の傍にいられるという、絶対的な幸福感であった。不器用ながらも自分を大切に扱ってくれる彼からの愛情に触れ、心が温かな光で満たされるのを感じていた。その精神的な充足こそが、彼女にとっての交わりの全てだっただが、今回は違ったと感じていた。

 

 今回の行為においても、常軌を逸した自身の頼みを真っ直ぐに受け入れてくれた初めての友に対する、深い感謝と喜びは確かにあった。しかし、今彼女の肉体を支配しているのは、そういった理性的で温かな感情をことごとく塗り潰すほどの、圧倒的で暴力的なまでの快楽の残滓だった。全身の細胞が、先ほどまで繋がっていた日向の熱と質量を記憶し、未だに微かな痺れを訴え続けている。決して認めたくはない。己の存在意義に関わる重大な裏切りになってしまう。しかし、ただ純粋な肉体的な快感という一点においてのみ比較すれば、日向との交わりは、九頭竜とのそれを遥かに凌駕してしまっていた。その冷酷な事実が、彼女の生真面目な心を激しく揺さぶり、同時に甘い毒のように浸透していく。

 

 重苦しい沈黙の中、日向が少しだけ寝返りを打ち、辺古山の方へと顔を向けた。その気配に気づいた辺古山もまた、ゆっくりと首を巡らせる。至近距離で、二人の視線が静かに交錯した。日向の瞳には、友人の恋人を激しく抱いてしまったという罪悪感と、彼女を限界まで悦ばせたという仄暗い充足感が入り混じっていた。彼は少しだけ躊躇うように視線を泳がせた後、乾いた唇を開いた。

 

「辺古山。俺は、少しはお前の力になれたか? これで、良かったのか?」

 

「ああ。間違いなく、技術としてこの身に刻み込むことが出来た。お前が私の拙い動きを受け止め、導いてくれたおかげだ。これで冬彦ぼっちゃんに、より一層の喜びを与えることが出来るはずだ。日向よ、心から感謝する」

 

「そっか。それなら、よかった」

 

 日向は短く応え、それ以上踏み込むことはしなかった。互いの心に芽生え始めている危険な感情の正体に、今はまだ触れるべきではないと本能が理解していた。二人は言葉を途切れさせ、再び無言のまま見つめ合った。肌に残る汗の冷たさと、体内の奥深くで燻り続ける熱。拭いきれない葛藤を胸に抱きながらも、二人は抗いようのない絶頂の余韻に、ただ静かに身を委ねるのだった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 とある日の放課後。日向は以前九頭竜から聞いていた、希望ヶ峰本科二年の勉強会に誘われていた。九頭竜がどうやら話しを通していたそうで、七海や他の大多数からもいいじゃないかと言われ、日向は有り難くも参加することになったのだった。その勉強会に行く前に、日向は買い出しを率先して引き受けており、付き添いを買って出た彼と大型スーパーの近くで待ち合わせをしているのだった。そうして少し待つこと数分、日向の向かい側から顔に滲むほど機嫌の良さそうな、見知った男が歩いてきたのだった。

 

「よう日向! 早ぇじゃねぇか。待たせちまったか?」

 

「いや今来た所だ……って、何だか変な感じだな」

 

「違げぇねぇ。デートの待ち合わせみてぇな反応だぜ。悪ぃがオレのデート相手はもう埋まってる。別のやつを誘うんだな!」

 

「はは、機嫌良さそうだな。九頭竜」

 

 日向の付き添いを買って出た九頭竜だった。少しだけ遅れた彼にそこまで待ってないというニュアンスを伝えた所、それがカップルの定番セリフのようになってしまい吹き出す二人。日向は終始機嫌が良いと感じており、それを聞かれたら九頭竜もまあなと微笑むのだった。

 

 日向と九頭竜はスーパーに入店すると、勉強会に参加する皆から頼まれた、お菓子やジュースをカゴに入れていく。その間にも日向は九頭竜と他愛ない話しをしており、いよいよ彼の機嫌が良い理由を聞くのだった。

 

「実はよ。最近ペコが今までよりも素直になったつーか、甘えてくるようになってな。恋人らしいことを出来て嬉しいもんだぜ……!」

 

「ぁーそれは、嬉しいな! あの辺古山が甘えるなんて想像出来ないな……」

 

「まあそうだろうな! ちぃとオメーには刺激が強い話になるけどよ、最近のペコは色気が増えた気がするだろ? まあ夜の方も充実していてな……って、オレも変に浮かれてるな。こんなことオメーに話すなんてよぉ」

 

「ッ……ははっ。そうだなっ!」

 

 九頭竜は恥ずかしそうに頭をかいて視線を逸らす。日向は九頭竜の話を聞いて、引きつった笑顔を浮かべてしまっていたので、見られなくて良かったと苦笑するのであった。九頭竜は辺古山との関係が上手くいっているようで、機嫌が良いようだった。彼の反応から特に夜の充実が影響していると日向は感じ取った。その夜の充実が、まさか日向の影響によるものとは九頭竜は思いもしないだろう。

 

 あの日。辺古山は日向との秘密特訓で性行為のいろはを知るに至った。日向という優良の男を相手に、いかに快感を与えるか、いかに感じる所で受け入れるか、体感に優れた辺古山はたった一日の特訓から性技を習熟していった。その数日後には九頭竜相手に実践し、彼の中から初体験の女の痕跡を消してみせたのであった。日向の生暖かい目に気づいた、九頭竜は唇を尖らせて日向の近況を伺う。

 

「つーかオメーの方はどうなんだ? 上手くいったのか?」

 

「ん、あー……上手くは言った、と思う。今後はどうかな……」

 

「あん? 歯切れ悪ぃな。つーか結局お前の相手ってどんな女なんだよ? 七海なのか? それとも別の──」

 

「ここにいたんですね、冬彦ぼっちゃん。それに日向も」

 

 九頭竜の追求に日向がどう誤魔化そうと口をもごつかせていると、二人は背後から聞き慣れた女性の声で話しかけられる。見知った声に二人の男は同時に振り返り、彼女の姿を視認する。銀の三つ編みを揺らし、かつての剣呑な雰囲気が和らいだ、フワリとした微笑みをするようになった彼女を。九頭竜は嬉しさが誰から見ても分かるような声色で彼女の名を呼ぶ。

 

「ペコ! なんだよ、来ちまったのか。調達くらいオレ達で出来るっつーのによ。あ、言っておくがオメーが来たのがイヤってわけじゃねぇーからな!」

 

「ぼっちゃんの想いは心得ております。実を言うと、私も買い出しというのを体験したく。ぼっちゃんが嫌でなければ私も同行させていただきたいのです。駄目、でしょうか?」

 

「ったくよぉ、オメーにそう言われてオレがイヤって言うわけねぇーだろ? 日向もいいよな?」

 

「あ、ああ……構わないぞ」

 

 日向はなるべく平静を保ったつもりで了承したが、自分でも少し声が上ずっているように感じていた。あの日から、日向はどこか後ろめたく辺古山と直接会うのは避けていた。メールのやり取りはしていたので、お互いに不調ではないのは察していたが、こうして直接対峙したことで、辺古山の顔も朗らかに見え、九頭竜と上手くいっているのだなと日向は感じた。こうして三人はスーパーを回っている中、勉強会の参加メンバーから泊りも検討していると連絡を受け、追加で生活用品を色々と買うことになった。

 

「っと、紙皿はあっちの方だったのか? 仕方ねぇ……日向、ペコ。オレが取ってくるから先進んでてくれ」

 

「それならオレが行くぞ?」

 

「あーいい、いい。他に買おうと思って取り忘れちまったもんもあるしよ。オレが行ってくる。オメー等、カゴ頼んだぞ」

 

「ぼっちゃまがそう仰られるなら。行ってらっしゃいませ」

 

 日向が引き留めようとするも、九頭竜は率先して面倒事を背負おうとし、珍しく辺古山も彼の単独行動を後押しする。そして九頭竜が来た道を戻っていき、日向と辺古山の二人が残されたのであった。日向はどこか気まずさを感じ、無言のままショッピングカートを押そうとする。すると、辺古山が周囲の人に聞かれないよう耳元で囁いてきた。

 

「日向。お前のおかげで、冬彦ぼっちゃんと上手くいっている。改めて、感謝を」

 

「そ、そうか。九頭竜も上機嫌に話していたけど、順調そうで良かったな」

 

「ああ。時に、来週の休日は空いているか? また、特訓の相手をお願いしたいのだが」

 

「なっ……! もう、十分じゃないか? あの日、お互いに潰れるまでして、辺古山の技術はとんでもなく上がったと思う。これ以上は、不要だろ」

 

 辺古山の次の特訓の話題が口に出て、ついに来たかという興奮と、これ以上は駄目だという理性の葛藤が日向を襲う。あの日、日向は一度目の性交が終わった時点で終わるつもりではあった。だが互いについは興奮の焔を鎮火することは出来ず、購入した箱に入っていたゴムを全て使い切るまでヤッたのであった。日向は、辺古山も薄々感じていたがお互いの体の相性が良すぎるのだ。これ以上やれば、抜け出せなくなるほどハマってしまうの日向は感じていた。だからこそ、メールでの最低限の接触だけに止めていた。けれど、辺古山はその境界をものともしなかった。

 

「確かに冬彦ぼっちゃんの体に私が一番だと刻み付けることは達せられた。だが、まだ技を磨く余地があると私は感じている。それにまだ私の知らない前戯があるだろう? それを是非、身に着けたい」

 

「辺古山……っ」

 

「特訓の相手には持久力に優れ、私が全力でやれて、信頼の出来る者が必須だ。日向、お前しかいない。また、頼まれてくれないか?」

 

 あの日、何十回と日向の巨剣の手入れをした白魚のような指が頬に添えられる。彼女の手によって日向と辺古山の視線は、強引に合わせられる。彼女の眼鏡越しに輝くルビーの眼光は、日向を求める炎が瞳の中に揺らいでいるようにも見えた。日向は息をすることも忘れて見つめてしまう。九頭竜の色気が増えたということが、日向は心の底から理解出来た。日向は戸惑いながら唇を動かす。

 

「俺で、いいなら……」

 

「ありがとう。今後も、よろしく頼むぞ。冬彦ぼっちゃまのために、さらなる技を覚えられるのが楽しみだ……それと、これからは避けないでくれると嬉しい。日向が避けるようになって、寂しいという感情が私の中で確かにあった。私は、自分で思っているより日向のことが大事になっていただな」

 

「ぇ、ぺ、辺古山……それって──!」

 

「あん? オメー等、立ち止まってどうしたんだ? オレが来た道戻ってから、あんま進んでねーじゃねぇか?」

 

 日向の了承を受け辺古山は満足気に頷いた後、彼が避けていたことも分かっていたことを明かし、彼女自身寂しかったことを口にした。噓とは思えない辺古山の思わぬ吐露に、日向は彼女の心意を探ろうとした所、取り忘れた物を抱えた九頭竜が戻ってくるのだった。辺古山の思わぬ発言に動揺している日向はあたふたしていると、辺古山が事前に用意していたのか、メールを見せながら九頭竜の疑問にテキパキと答える。

 

「実は眠具について日向と相談していました。ソニアの別荘は部屋の数は十分ですが、眠具が不足しているかもしれないと。そこでソニアに連絡を送り、待機していました。今しがた連絡があり、可能だったら枕を購入してほしいとのことでした」

 

「枕か、それなら上の階の家具コーナにありそうだな。よし、今度は日向が取りに行ってくれねぇか? オレとペコは下で買い物を進めておくぜ」

 

「お、おう! 行ってくる!」

 

 辺古山の沈着冷静な対応に舌を巻いていた日向は、九頭竜から枕の購入を頼まれたので、緊張を解すために丁度いいと引き受けるのであった。日向が二階に繋がるエレベータに向かう道中、ふと振り返って九頭竜と辺古山の背を見つめる。その時、偶然か剣道家として研ぎ澄まされた感知力からか、日向の視線に気が付いた辺古山が顔を振り返す。妖しく微笑を浮かべる辺古山と視線が交錯し、日向は興奮を冷ますどころか益々熱くなってしまったと息を大きく吐く。

 

「なんだよ……あんな笑顔、反則だろ」

 

 予備学科に入った頃は想像すら出来なかった非日常を送る日向。才能に縛られていた不自由さからは解放されたが、今は超高校級の剣道家が本来目覚めさせることのなかった、超高校級の色香に捕らわれていた。日向は己の高鳴る鼓動から、これから辺古山と沢山の非日常(みらい)を創り上げる日々が、始まるのだと感じるのであった。

 

 [Chapter2]

 

 桜の花が枝から散り去り、風に舞っていたうららかな春の装いもすっかり姿を消した頃。季節は間違いなく本格的な夏へと、足を踏み入れようとしていることを明確に告げていた。とあるマンションの一室では、まさに夏真っ盛りかと思うほど、熱く激しい絡みが繰り広げられていたのであった。正常位と呼ばれるオードソックスな体位、超高校級の剣道家は豪剣と見紛う肉棒を己が肉鞘に納めては抜かれていた。

 

「は゛ぁっ、ふ゛っ、ん゛ぁ、ひなたぁ、そろそろ、だな……っ?」

 

「ふぅ、ふぅ、あっ、ああぁ……っ! 辺古山、一緒に……!」

 

「むろん、だっ……! ぉ゛っ、お゛ぉっ、ん゛ん゛っっっ〜〜!!」

 

 もはや相手のイク予兆まで感じられるようになった辺古山と日向。辺古山は日向に目でもってラストスパートをかけさせると、日向の雄々しい業物が辺古山の肉鞘を蹂躙する。とめどなく溢れる蜜液と、日向の大剣に適合した柔肉が彼の刃を絡め取り、まぐわう度に増す極上の快感が日向を侵す。その快感に日向が屈するのも時間の問題であり、彼のの最後の一突きと同時に、辺古山の若干押し殺した喘ぎ声をが高く響くのであった。

 

 絶頂の後は先程までの熱気や狂乱ぶりが嘘かのように鎮まり、凪ぐ海原の如く穏やかな様相であった。ベッドで絶頂に浸っている辺古山のために、日向は起き上がると冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出すと、自身も水分補給のため口に含み、ペットボトル本体を辺古山に手渡した。日向の差し出したペットボトルに気がつくと、辺古山は上体を起こすといつものように受け取るのであった。もはや間接キス程度では何も言うことはなくなっていた。

 

「助かる……んっ。ふぅー……扇風機も買った方がいいかもしれんな。夏場を考えると、やはり中古の空調では些か力不足かもしれん」

 

「扇風機か。だったら俺も、少しはお金を出すぞ……?」

 

「無理をするな。今月は欲しがっていた新作のゲームが出ると、以前楽しそうに話していなかったか?」

 

「あ、いや……それはそうなんだけど。ずっとこの部屋を使わせてもらっているし、俺ばかり負担をかけるのは悪いだろ」

 

 図星を突かれた日向は、少しだけ顔を赤らめて視線を逸らした。特訓という名目で始まったこの関係において、場所の確保から何から、物理的な準備はすべて辺古山が整えてくれている。男として、金銭面ですら甘えきってしまうことへの申し訳なさが日向にはあった。しかし、辺古山は日向の言葉を静かに、だがはっきりとした口調で遮った。

 

「気にするな。私には組からの仕事で得た蓄えがある。金銭面でお前に頼るつもりは毛頭ない。私が環境を整える分、こっち(・・・)で励んでくれればいい」

 

「ぅっ! わ、分かった……あ」

 

 辺古山がまだ微かな熱を帯びている日向の急所を、なだめるように、そして新たな火種を蒔くように撫で上げる。不意の刺激に、日向の口からくぐもった声が漏れてしまう。彼女の言葉と目には熱情と情欲がねっとりと張り付いており、熱に当てられた日向は、その期待に応えようとする。だが、ふと時計を見てあることに気がついてしまう。

 

「辺古山、お前の待ち合わせって何時だっけ? まだ大丈夫なのか?」

 

「ん……なっ!? もうこんなに経っていたのか!?」

 

 日向の指の先にある時計を辺古山は見上げる。そしてそれまで色欲に満ちていた赤目を見開くのであった。彼女は今日この後に九頭竜とデートの約束をしていたのだった。大事な待ち合わせ前なのだが、日向との情交は抗い難く辺古山は一回だけとしてしまっていたのだった。辺古山は脱ぎ捨ていた服をかき集めると、心底歯痒そうに日向と顔合わせる。

 

「日向、すまない。私から誘っておきながら、最後まで付き合うことが出来なくなってしまった。中途半端な状態にして申し訳ない……」

 

「大げさだなぁ。そんなの気にするなって。九頭竜とのデート、楽しんでこいよ」

 

 衣服を整え終えた辺古山の真摯な謝罪に対し、日向は努めて穏やかな笑みを浮かべて送り出した。途中で放り出された形になった己の身体の熱は未だに行き場を失って燻っていたが、それ以上に、彼女がこれ以上九頭竜を裏切るような真似を重ねずに済んだことへの安堵があった。

 

 同時に、彼のもとへ向かう彼女の身体の秘所から、日向を求める蜜液が今も滴っていると思うと、日向の胸の内に仄暗い熱を呼び起こしてもいた。辺古山は鏡を見ながら髪を手早く整えると、玄関のドアノブに手をかけた所で一度だけ振り返った。

 

「ありがとう日向。すまないが部屋を出る時、鍵を閉めたらいつもの場所に置いておいてくれないか」

 

「分かった。戸締まりは俺がやっておくから、安心して行ってこい」

 

 日向が短く応じると、辺古山は微かに口角を上げ、静かにドアを開けて夏の喧騒の中へと消えていった。

 重い扉が閉まる音が響き、マンションの一室には再び深い静寂が降り降りた。日向は一人残されたベッドの上で、大きく息を吐き出した。

 

 部屋の鍵の管理を任される。それは、単なる利便性の問題ではなく、二人の間に取り返しのつかないほどの信頼と秘密が共有されていることの証明であった。いつの間にか、この密室の鍵を預けられることにもすっかり慣れてしまっている自分がいる。彼女と共にこの秘密の部屋で過ごす時間が、日向にって当たり前の日常になっていたのだった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 九頭竜とのデートで特訓が中断された数日後。放課後の静けさが漂う校舎の片隅で、日向は教師に頼まれた用具室の備品整理に追われていた。薄暗く埃っぽい空間には、跳び箱やマットが無造作に積まれている。作業も半ばに差し掛かった頃、不意に古い金属製の扉が軋む音を立てて開いた。

 

「辺古山、どうしてここに? 今は備品の整理中なんだけど」

 

「お前を探していたのだ。この間は途中で放り出してしまい、本当にすまなかった」

 

 日向の問いかけに対し、辺古山は静かに扉を閉め、内側の鍵をかけた。彼女の表情には、先日のマンションでの出来事に対する深い悔恨が滲んでいた。

 

「だから、あれは気にするなって。九頭竜とのデート楽しかったか?」

 

「ああ、とても充実していた。だが特訓を中途半端にし、最後までやれなかったのが心残りでな。日向には埋め合わせをしたいと考えていた」

 

 辺古山はそう言いながら、躊躇うことなく日向の正面へと歩み寄った。用具室の僅かな光に照らされた彼女の赤い瞳は、真っ直ぐに日向の熱源を見据えていた。

 

「埋め合わせって、こんな所でか? 誰か来るかもしれないぞっ」

 

「鍵は閉めた。少しの間だけ、私に付き合ってくれ。特別に、日向の好きなアレをするからな」

 

「っ! 辺古山……ぁっ!」

 

 辺古山は日向の制止を聞き入れることなく、マットの上に静かに膝をついた。彼女の滑らかな指先が日向のズボンのベルトに掛かり、迷いのない手つきで金具を外していく。布が擦れる微かな音が密室に響き、日向の雄々しい真剣が外の空気に晒された。辺古山は日向の熱を帯びた肉の塊を両手で優しく包み込み、まるで貴重な宝物を扱うかのように愛おしげに見つめた。そして、彼女はゆっくりと顔を近づけ、淡い色の唇を開いて先端を自らの口腔へと迎え入れた。

 

「じゅぷっ、ちゅぷるぅっ〜〜!!」

 

「ぁっ……!! ぺ、辺古山っ! っ、ぅぁ、ぁぁ……!」

 

 静寂に包まれた用具室に、生々しく艶めかしい水音が響き渡る。辺古山の温かく湿った口腔内の粘膜が、日向の敏感な部分をぴたりと吸い上げた。彼女のしなやかな舌が裏側の筋を正確になぞり、絡みつくように這い回る。日向の好きな行為であるが、久しくしていなかったフェラチオである。

 

 理由としては単純で、彼女が愛する九頭竜はフェラを好まなかった。男としての矜持なのか、自分だけが一方的に尽くされる構図を嫌がる彼に対して、辺古山が口を使って悦ばせる機会は与えられていなかった。故に特訓する理由がないと、内心は残念に思いながらもフェラをしていなかったのである。

 

 つまり、彼女のこの甘く熱い口腔と、精緻を極めた舌の動きは、今は完全に日向専用の特権となっていたのであった。その事実が、日向の胸の奥底にある昏い自尊心を激しく満たしていく。友人の恋人でありながら、彼女の口内という最も無防備な領域を独占しているのは自分なのだと。優越感と背徳感が入り混じった強烈な快感が、日向の理性を容赦なく削り取っていく。

 

「はっ、辺古山……そこ、だめだ……っ」

 

「んむ、ちゅっ、ちゅぷぅっ……そうは言っても、腰が浮いているぞ? 期待しているのではないか、日向?」

 

 日向を見上げる彼女の赤い瞳には、純粋な快楽への探求心と、雄の熱を求める情欲が揺らめいていた。辺古山は言葉を途切れさせると再び深く咥え込み、首を前後に動かして根元までをしっかりと飲み込んだ。呑み込む深い水音が鳴るたびに、日向の腰が反射的に震えてしまう。逃げ場のない快楽の波が、日向の下腹部へと急速に集束していく。

 

「ああっ、くぅっ、もう出る──っ!?」

 

 日向の限界が近いことを悟った辺古山は、両手で日向の腰をしっかりと固定し、最後の奉仕をしようとさらに強く吸い付いた。日向の視界が白く点滅し、腰の奥から抗いがたい熱が突き上げてきた。

 

 その絶頂の直前。マットの上に置かれていた日向のスマートフォンが、突然明るく発光し、軽快な着信音を用具室に響かせた。画面には九頭竜の名前と、テレビ通話を知らせる緑色のアイコンが鮮明に映し出されていた。着信を告げる電子音が、限界を迎えようとしている二人の密室に無慈悲に鳴り響いていた。

 

「ちょ、待ってくれ辺古山。電話に出るから一度ストップしてくれ」

 

「っ──っはぁ。分かった。私は声を出さないようにしよう」

 

 日向の切羽詰まった声に、辺古山は名残惜しそうに唇を離し、静かに頷いて動作を止めた。日向は乱れた息を整えながらポケットから端末を取り出し、通話ボタンを押して耳に当てる。すると電話の向こうからは賑やかなファミレスの環境音と、九頭竜以外にも複数の男女の話し声が聞こえてきた。

 

「おう日向。今平気か? 実はよぉ、今ファミレスにこいつらと集まっててな……」

 

「よー日向! 喜べ、お前もソニア様のありがたい水着姿が見られるぞ!」

 

「日向さーん! お元気ですか? 夏休み絶対来てくださいね!」

 

「日向くん、持っていくボードゲームは何がいいと思う? やっぱり人狼とか、コヨーテとかコードネームは鉄板だよね」

 

「えっと……どういうことだ?」

 

 九頭竜の言葉を遮るようにして、左右田、ソニア、そして七海の明るい声が次々と飛び込んできた。思いがけない友人たちからの呼びかけに、日向は驚きと同時に胸の奥が温かくなるのを感じた。

 

「お前ら少し静かにしろッ。あー実はよ、夏休みに知り合いの旅館に誘われててな。クラスの奴らを集めようってなって、それなら日向とか妹も誘おうぜって話しになったんでな。オメーも来ねぇか?」

 

「えっ、旅館に? 本当に俺も一緒に行っていいのか?」

 

「おう、他の連中にも後で声かけるつもりだが、こいつらが是非お前達を呼べってうるさくてよ」

 

「そっか……嬉しいよ。誘ってくれてありがとう」

 

 予備学科という壁を越えて、純粋に友人として自分を求めてくれる彼らの温かさに、日向は心からの喜びを感じていた。だが、その純粋な喜びを抱きしめようとした矢先、目の前で静止していたはずの辺古山が、ゆっくりと顔を近づけ、再び日向の猛りを温かく湿った口腔内へと迎え入れた。

 

「ッ〜〜!? ぺ、辺古山!?」

 

 日向は小声で辺古山を諌める。だが粘り気のある水音が密室に響のは止まらない。彼女のしなやかな舌が日向の敏感な裏側を這い回り、さらに強い力で吸い上げる。電話の向こうの友人たちに向けた温かい感情と、目の前の現実がもたらす暴力的なまでの快感が、日向の脳内で激しく衝突する。

 

「ん? どうした日向。なんか息が荒ぇぞ、体調でも悪いのか?」

 

「だ、大丈夫だ。ちょっと作業で疲れてるだけだから……旅行の件、喜んで参加するよ」

 

 日向は下腹部から突き上げる甘い痺れに耐えながら、必死に声を平坦に保とうとした。しかし、電話の向こうの九頭竜が心配そうに声をかけてくるまさにその瞬間、九頭竜が愛する女性が、自らの口を巧みに使って日向を極限へと追い詰めているという事実は、日向の理性を狂わせるほどの背徳感を生み出していた。

 

 辺古山は日向が声を押し殺して耐え忍ぶ姿を間近で見上げながら、真紅の瞳を妖しく細め、口腔内の粘膜をさらにきつく収縮させていく。電話の向こうに聞こえてないか、肉剣を這い回る卑猥な音が漏れるたび、日向の足元から腰へと電撃のような快楽が駆け巡る。

 

「センコーの手伝い押し付けられたのか、オメーも大変だな。ああでよぉ、宿の近くには綺麗な海浜もあるからな。水着とかも用意しておけよ」

 

「あ、ああ……分かった。ちゃんと、準備しておく」

 

 日向の手が震え、スマートフォンを握る指先に異常なほどの力が入る。辺古山の舌先が最も感じる箇所を的確に捉え、絡め取るように弾いた瞬間、抑えきれない熱のうねりが日向の奥底で爆発寸前まで膨れ上がった。

 

「んじゃあ、詳しいことはまた連絡する。体調を崩さねぇように、早く帰って休めよ」

 

「っ、ぅ、あ、ありがとう……九頭竜も、気をつけな」

 

「おう、またな」

 

 通話が切れ、電子音が消えたその直後。九頭竜の気遣いに満ちた温かい言葉を最後に、日向の限界は呆気なく突破された。日向の身体が大きく跳ね上がり、声にならない荒い息が空中に放たれる。同時に、極限まで高められた熱い飛沫が、辺古山の奥深い口腔内へと凄まじい勢いで解き放たれた。彼女はそれを少しも逃がすまいとしっかりと受け止め、喉を鳴らしながら日向の放つすべてを飲み込んでいく。薄暗い用具室の中で、二人の乱れた呼吸だけが長く響き渡っていた。

 

「ふッ、ふッ、ふぅ……」

 

 射精の衝撃が収まった後も、日向の身体はまだ細かく震えていた。次から次へと溢れ出す熱い液体を、辺古山は喉を鳴らしながら必死に受け止めていく。以前は慣れない味や刺激に咽せてしまいそうになることもあったが、彼女は九頭竜を喜ばせるために、この口での奉仕という鍛錬を積み重ねてきた。今ではその苦労が実り、表情一つ変えることなく、すべてを飲み干すことが出来るようになっていた。

 

 だがフェラチオは九頭竜が好まない行為であるために、皮肉にも日向のためだけに振るわれる専売特許となっていた。辺古山は最後の一滴まで残さず吸い出すように、舌先を滑らせて日向の愛器を丁寧に舐め回す。剣の手入れをするかのように、妥協のない細やかな動作で、慈しむように味わい尽くしていく。

 

 日向は、自身の荒い息遣いの中で、不意に彼女の頭を撫でていたことに気付いた。剣士としての鋭い気配を纏った彼女の頭を、自分のような彼氏でもない男が撫でるという無遠慮な行為。日向は慌てて手を引っ込めた。

 

「悪い、勝手に触れてしまって。嫌だったか?」

 

 日向は恐る恐る彼女の顔色を窺う。しかし、辺古山はその問いに動じる様子もなく、むしろ穏やかな笑みを浮かべて首を横に振った。お掃除フェラを続けながら、柔らかい表情で日向を見上げた。その瞳には偽りのない信頼と、彼との肉体的な繋がりに対する奇妙な充足感が漂っている。日向は再び罪悪感と情欲が混ざり合う熱い衝動に包まれていくのを感じながら、そっと彼女の頭を優しく撫でるのだった。お掃除フェラが終わり、日向はいよいよ何故彼女が突然九頭竜との電話中にフェラを再開したのか問うことにした。

 

「なあ辺古山。なんであの時、いきなり再開したんだ? バレてなかったけど、耳の良い……それこそ澪田とかがいたら危なかったぞ?」

 

「……すまない。誰かに気付かれるかもしれない、軽薄な振る舞いだったと猛省している」

 

 辺古山は日向の問いかけに対し、すぐに頭を下げて謝罪した。その真紅の瞳には、友人の言葉に耳を傾けるべき状況で、あのような非常識な行動をとってしまったことへの後悔が浮かんでいる。

 

「別に怒ってるわけじゃないんだ。ただ、お前らしくない行動だったから気になってさ」

 

「理由と言われると……無意識のうちに行動してしまっていて、自分でも止めることが出来なかったのだ。強いて言うなら、好奇心……かもしれないな」

 

 日向の言葉に顔を上げた辺古山は、少しだけ眉根を寄せて自らの心情を探るように考え込んだ。やがて、迷いながらもぽつりと本音を漏らすした

 

「好奇心って、どういうことだ?」

 

「あのような状況で、日向がどのような反応を示すのか見てみたかったのだ。私だけしか知らない、切羽詰まったお前の顔を……独占したかったのかもしれない」

 

 辺古山は頬を微かに朱色に染めながら、恥じらいを帯びた声で告白した。九頭竜や友人たちと会話をしている日向の裏側で、自分だけが彼に圧倒的な快感を突きつけ、余裕を奪っている。誰にも知られることのない彼の表情を自分一人で占有したいという、ささやかで我儘な独占欲。それが、生真面目な彼女の理性を吹き飛ばし、無意識の行動へと走らせたのだ。

 

 彼女の口から語られた好意の形に、日向の胸の奥でじんわりとした温かい喜びが広がっていく。いつもは九頭竜を第一に考えている彼女が、自分に対して明確な執着を見せてくれたことが、日向にとっては何よりも嬉しかった。

 

「そっか……ま、まあバレてないっぽいしいいんだ。そういえば、辺古山も口でするの上手くなったよな。九頭竜が嫌がるの、もったいないって思うくらい」

 

「そう言われると嬉しいものだ。冬彦ぼっちゃんの嫌がることをするわけにもいかないからな。これからも日向だけの前戯になりそうだな」

 

「ッッ!! それは、ラッキーだなっ」

 

「フッ、まだ物足りないようだな。続きは、部屋でするか」

 

 自分だけという言葉に日向の鼓動は激しくなり、肉の剣はますます反り返ってしまう。結局、この後マンションの部屋に向かうと、日向は辺古山に十数発以上は、口からゼリーのような精液を吸い付くされるのであった。甘く刺激的な日常。危うい均衡の上で成り立っている関係ではあるものの、この先も彼女と共に過ごす時間を手放すことは出来ないと、日向は静かに実感していた。

 

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 そして金曜日の放課後。翌日が学校の休みであるという解放感もあり、日向と辺古山は下校するとすぐに例のマンションの部屋へと向かった。外の明るさが完全に失われるまで、二人は幾度も激しく肌を重ね合わせた。互いの熱を貪り、時間を忘れて快楽の波に身を委ねる。休日の前夜であれば、そのまま深夜を越えて朝まで求め合うことも珍しくはなかったが、今日は辺古山の要望もあり、日付が変わる頃には深い絶頂と共に絡み合いを終えていた。

 

 火照った体を冷ますようにシャワーを浴びてきた日向が浴室から出ると、先に汗を流し終えた辺古山が床に敷かれた座布団に静かに腰を下ろしていた。日向は首にかけたタオルで濡れた髪を拭きながら、ごく自然な動作で彼女の隣へと座る。ふと視線を上げると、初めてこの場所を訪れたときの殺風景な様子からは随分と様変わりしていると思いを馳せる。

 

 当初は備え付けの家具と必要最低限の寝具しかなかった無機質な空間に、今では二人の生活の痕跡がしっかりと根付いていた。洗面所には泊まりがけの夜が増えたことで日向用の歯ブラシとコップが並び、部屋の棚には辺古山が好む可愛らしいアンティークドールが飾られている。さらに、日向や七海が勧めた家庭用ゲーム機やいくつかの娯楽品までが置かれ、ただ快楽を貪るためだけの部屋から、穏やかな日常を過ごすための私室へと変化していた。

 

「随分と物が増えたな。最初に来た時とは大違いだ」

 

「そうだな。お前が泊まっていくことも増えたし、気付けば私自身の私物も持ち込んでしまっていた。こうして見ると、少し生活感が出過ぎただろうか」

 

 隣に座る辺古山からは、自分と同じボディソープの清々しい香りが漂ってくる。普段はきっちりと三つ編みに結い上げられている銀色の髪は、今は湿気を帯びて滑らかに下ろされており、彼女の鋭い剣士としての気配を完全に消し去っていた。嫋やかな雰囲気を纏う彼女の姿に、日向の胸の奥がじんわりと温かくなる。

 

「いや、俺はこっちの方が落ち着くよ。ゲームもあるし、暇を持て余すこともないからな」

 

「私も今の部屋が気に入っている。こうして日向とこの部屋で穏やかに過ごす時間が、嫌いではないのだ」

 

 辺古山の声は穏やかで、激しい情事を終えた後の心地よい気怠さに満ちていた。シャワー後のさっぱりとした熱気の中で、ぽつりぽつりと他愛のない言葉を交わす。それはどう見ても、心を通わせた恋人同士が過ごす休日前夜の光景そのものだった。大切な者のために技術を磨くという大義名分から始まった関係であり、決して表には出せない繋がりであるはずなのに、今この部屋を満たしているのは、嘘偽りのない安らぎと確かな愛着であった。

 

 暫く日向と辺古山は日常での他愛もない話しをしていた。そんな折、辺古山は先日九頭竜達が計画していた旅館への旅行の件がクラスの皆に知らされたことを話す。クラスの反応は悪くなく、予定の都合もなんとかつきそうだと言い、本科十五人全員が参加出来そうだと言う話しだった。

 

「つまり俺と妹の九頭竜を含めたら、十七人も参加するのか。旅館の方は大丈夫なのか? そんなに大所帯で繁盛期にお邪魔させてもらうなんて」

 

「普通なら難しいだろうな。だが件の旅館は九頭竜組と縁の深い宿屋だ。私もかつて行ったことがあるのだが、宿の女将はたいそう冬彦ぼっちゃんを可愛がっていた御人だ。大部屋二つ貸し切るくらいは訳ないだろう」

 

「はー流石は日本一の組だな。そういう所とも縁があるのか。なら心配しないで、楽しんだ方が九頭竜も喜ぶかな」

 

「うむ。冬彦ぼっちゃんは皆との旅行を楽しみにしておられる。私も、皆と行けるのが楽しみだ。あの旅館は見かけこそ年季が入っているが、中はしっかりと改築されていてな、湯には滋養強壮や美容の効能があっるぞ。それに料理も新鮮な山菜や海の幸が用いられていて──」

 

 旅館について語る、辺古山の口は珍しく饒舌であった。日向はそれだけ彼女自身も旅行が楽しみで仕方ないんだと感じ、微笑ましく興味深く話しを聞くのであった。そして近くに綺麗な海浜があると話した所で、辺古山は日向に提案があるようだった。

 

「所で日向よ。明日の予定は特になかったと記憶していたがそうだったな? 実は旅行に持っていく水着を新しく買おうと思っているのだが、日向もついて来てはくれないだろうか」

 

「水着を? 確かに予定はないけど、それなら七海や小泉と行く方がいいんじゃないか? 俺そこまでオシャレってわけじゃないぞ?」

 

「二人や他の級友を頼ることも考えたが、やはり冬彦ぼっちゃんの好みに合わせるには、男性の意見がほしい。それならば、やはり日向をおいて他にないと私は思うのだ。だから、どうだろうか……?」

 

 隣に座る辺古山の視線が日向に突き刺さる。確かに男目線を取り入れるのに日向に頼むのはなくはない選択肢だろうが、ファッションセンスなら自分より他にも良い知り合いもいるだろうと日向は思う。それでも日向に頼む辺古山の内心のどこかに、彼に選んでもらいたいという気持ちが薄らとあるのではないかと日向は思う。そうだと断定は出来ないが、辺古山と実質的なデートの誘いを断れるほど、日向は彼女への好意を抑えられるほど大人ではなかった。

 

「……分かった。明日、隣町のショッピングモールに行くか。確か色んな水着が入荷したって広告を見た覚えがある。ここら辺だと、万が一にも他のやつに見られるとマズイしな」

 

「感謝する。付け加えるなら、念を入れて簡単な変装くらいはしておくといいかもしれないな」

 

「だな。そうと決まったら明日に備えて寝るか。辺古山、布団借りるな」

 

「ああ……いっそベッドで一緒に寝るか? 特訓中にベッドで寝落ちすることもあるし、今更だろう?」

 

「っ! おい、冗談だろ!? 流石にそれとこれとは違うっていうか……!」

 

「フッ……ああ、冗談だ。普段の日向にそこまで度胸があるとは思っていない。ちょっとした揶揄いだったが、効果的だったようだな」

 

「ッ〜〜!! 寝るッ、お休みッ!」

 

 日向と辺古山は明日のお出掛けについて話し合い、眠る準備し始めた所で辺古山が爆弾発言を投下したのであった。確かに性交の最中寝落ちして、結果的にベッドで一緒に眠っていたことも数えられないほどあった。だがあくまで疲れ果てた結果であって、行為をしていない時にも一緒に同衾するのは一線を超えていると日向は考えていた。

 

 九頭竜を何よりも愛する辺古山がそこ踏み越えてくるとは考えておらず、冗談だろうと口にすると、やや間を置いてから冗談だと辺古山は返すのだった。そうだろうなとは思っていたが、揶揄われたことに思う所がないわけではなく、日向は彼女に背を向けて横になるのだった。

 

(辺古山もこんな冗談言うようになったんだな。俺だけにだったら、ちょっと嬉しいような……本当に、冗談だったんだよな?)

 

 日向は実直な彼女の新鮮な素振りが、自分にだけ見せる顔であるならこれほど嬉しいこともないなと思った後、本当は冗談じゃなかったのではないかと思ってしまう。それは日向にとって都合の良い解釈になるが、やや冗談だと言うまでに合間があったこと、そして彼女自身日向には九頭竜に次いで心を開いているだろうということからの推察であった。辺古山も自分との特訓で確かに変わってきていると、改めて思いながら深い眠りに誘われる日向であった。

 

 ──────

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 翌日の土曜日。日差しは朝から容赦なく街を照りつけ、アスファルトからはむっとするような熱気が立ち上っていた。木々の間で喧しく鳴きしきる蝉の声が、夏が本格的に牙を剥き始めたことを告げている。日向は一度家に戻ると、サングラスとつばの広い帽子を持ち出し被っていた。いつもなら元気よく跳ねている彼特有の髪の毛は、今日はその帽子の下にすっぽりと隠され、一切外からは見えないようになっていた。簡素ではあったが、自身の特徴的な要素を隠す変装には丁度いいだろうと日向は判断していた。

 

 照りつける太陽の熱に首筋へじわりと汗を滲ませながら、日向は辺古山と待ち合わせをしていた。数分もしない内、人混みの向こうから一人の少女がゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。その姿を視界に捉えた瞬間、日向は無意識のうちに呼吸を止めていた。日向だけでなくすれ違う通行人の多くが、思わず足を緩めて彼女の姿を振り返っている。それほどまでに、今日の彼女は周囲の空気を一変させるような、鮮烈で華やかな美しさを放っていた。いつもなら左右できっちりと三つ編みに結い上げられている銀色の長い髪は、今日は一切の束縛から解放され、歩くたびに風を孕んで背中越しにさらさらと滑らかに揺れている。鋭い剣士としての気配は完全に消え去り、代わりに年相応のうら若き乙女としての柔らかく穏やかな空気が全身から溢れ出ていた。

 

 何よりも日向の目を釘付けにしたのは、彼女が身に纏っている私服だった。これまで日向が見てきた彼女の装いは、学生服以外は常に動きやすさや実用性を最優先にし、黒などの暗い色調の服ばかりであった。しかし、今彼に向かって真っ直ぐに歩いてくる彼女は、白を基調とした極めて清楚な服装に身を包んでいた。ふわりとした柔らかなシフォン素材の白いブラウスに、足首の上で涼しげに揺れる淡い色のスカート。常に肩から提げていた物々しい竹刀袋の姿もなく、華奢な手には小ぶりで上品な鞄が握られている。真夏の陽光を反射して輝く純白の生地が、彼女の抜けるように白い肌と銀色の髪に、これ以上ないほど完璧に調和していた。日向は、まるで別人のように生まれ変わった彼女の姿から、どうしても視線を外すことが出来なかった。瞬きすら忘れた真っ直ぐすぎる凝視に気付いた辺古山は、日向の目の前で歩みを止めると、酷く気まずそうに視線を足元のタイルへと落とした。ほんのりと白い頬を朱色に染め、ブラウスの裾を落ち着かない様子で摘まんでいる。

 

「すまない、待たせたな……そんなにじろじろと見ないでくれ。私にこのような服装が似合わないことくらい、自分が一番よく分かっているっ。だが変装といのは、普段の自分とかけ離れた格好が良いのは自明だ。だから、今日の私が変なのは当然だろう……」

 

 恥じらいに満ちた上目遣いで、辺古山は消え入りそうな声で呟いた。普段の堂々とした立ち振る舞いからは想像もつかないほど、不器用で自己評価の低い言葉だった。自分の新しい一面を晒すことへの強い戸惑いが、その震える声色から痛いほどに伝わってくる。その弱気な発言を聞いた日向は、我に返ると同時に、強い語気で即座に反論した。

 

「それは違うぞっ! 似合ってないなんて、絶対にない。いつもの辺古山と全然違って、すごく綺麗だ。いつもの辺古山はかっこいいって感じだけど、今日の辺古山は可愛いって表現がずっと似合う。何時までも見ていたいくらいだ」

 

「そ、そうかっ。冬彦ぼっちゃんにもまだ見せたことのない私服なのだが……お前にそこまで褒められると、つい浮かれてしまうな……」

 

 日向の口から飛び出したのは、一切の誇張もない純粋な本音だった。彼女の女性としての魅力が最大限に引き出されたその純白の姿は、本気で時間を忘れて見惚れてしまうほどの引力を持っていた。日向の真っ直ぐで力強い称賛の言葉を受け、辺古山の端整な顔つきにパッと明るい色が広がった。彼女の真紅の瞳がひときわ嬉しそうに細められ、頬の赤みがいっそう色濃く染まり上がる。辺古山の顔に浮かんだのは、これまで見たどんな表情よりも無防備で、花が綻ぶような心からの笑顔だった。

 

 しかし、その弾むような言葉の中に含まれていた九頭竜という名前に、日向の胸の奥で鋭い痛みが走った。愛する男のために用意した晴れ着を、自分が一番最初に見ている。その歪な優越感と、決して彼女の心の一番奥底には触れられないという絶望的な距離感が、日向の心を泥沼のような葛藤へと引きずり込んでいた。日向は胸の内に渦巻く苦く複雑な感情を、ぐっと奥歯を噛み締めて強引に飲み込んだ。自分の役割は、あくまで彼女の願いを叶えるための手伝いをすることだ。日向は努めて明るい声を作り、帽子を少しだけ深く被り直しながら、柔らかい笑みを浮かべて返答した。

 

「今度のデートの時は、絶対にその服を着ていくべきだ。あいつだって、きっとすごく喜ぶと思うぞ」

 

「ふふ、そうだと良いな。さあそろそろ行くとしよう。今日はぼっちゃんとではなく、お前との散策だからな。エスコート、期待しているぞ」

 

「っ、ああ! 九頭竜を悩殺しちまうくらい、最高の水着を見つけるぞ!」

 

 日向の力強い言葉に辺古山は深く頷き、照れ隠しのように風に揺れる銀色の前髪をそっと耳にかけた。夏の強い日差しが降り注ぐ中、二人は並んで駅前の通りを歩き始めた。日向は隣を歩く彼女の純白のスカートが涼しげに揺れるのを、ただ静かに、そして熱を帯びた瞳で見つめ続けていた。

 

 電車に乗り込み、住み慣れた街から隣街へと移動する。だがそれでも辺古山の魅力はどこでも通じ、彼女を一目見ようと振り向く者達は絶えなかった。途中、流石に注目され過ぎだと話し合い、日向のかけていたサングラスを辺古山が着けることに。一悶着もあったが、目的地である大型のショッピングモールに到着した二人であった。

 

「着いたな。しかし、あんなに注目されるとは。日向の貸してくれたこれがなければ、面倒なことになっていたかもしれんな」

 

「これで分かっただろ? 辺古山は綺麗なんだって。自信をもって、九頭竜とのデートに着て行ってみろよ」

 

「ふぅ、口の減らないやつだ。だが、お前のおかげで自信がついた気がするな」

 

「……やっぱ、辺古山は笑顔の方がよく似合っているな。辺古山が自信をつけて笑えるようになってて、俺は嬉しく思うぞ」

 

「お、お前というやつは……っ! ゆ、行くぞ! せっかく来たのだ、一階から見て回るっ。構わないなっ」

 

 日向の屈託のない褒め言葉に、照れ臭さが限界に達した辺古山は、赤らんだ顔のまま日向の前をずんずん歩き出す。そうして二人は急いで水着コーナーに行くのではなく、一階から順繰りに見て回ることにしたのであった。部屋に似合いそうな小道具を手に取ったり、辺古山好みのぬいぐるみやドールを見てみたりしていた。二人とも口にこそしなかったが、これがデートのようなものだと認識しており、甘く穏やかな空気に満喫していた。日向は辺古山が雑貨を見ている際、花屋を見ると目を惹く物品があった。日向はそれを辺古山が気に入りそうだと購入するのであった。

 

「辺古山、これ良かったら貰ってくれるか?」

 

「っ!! な、何ぃ!? これを私にだと!?」

 

「そこまで反応が良いと、嬉しさより驚きが勝つぞ……! マンションでも辺古山の実家にも合うかなと思ったんだ」

 

「百年ポプリ……私が前から欲しかったものだ。ありがとう、日向。この嬉しさは一生忘れないぞ!」

 

 花やハーブ、果物の皮を混ぜ合わせて熟成させた、香りを楽しむポプリを手にして辺古山の目は今までにないくらい輝いていた。辺古山は頬を赤らめ、ポプリを大事そうにギュッと抱きしめていた。日向はその笑顔を見て、辺古山への自身の想いを改めて感じるのであった。

 

 数十分ほど時間をかけて一階のフロアを見て回り、二人はようやくエスカレーターで上に昇った。力を入れると広告していただけあって、二階の奥にある水着コーナーは、色とりどりの華やかな布地が所狭しと並んでいた。女性連れでなかったら肩身が狭いなと日向は思うのであった。水着を前にすると、辺古山の表情が引き締まったように日向は感じた。ここにる前に魅せられた水着は、装飾の一切ない黒の質素なものであった。あれも良いものだとは思ったが、今日の辺古山は、色鮮やかで女性らしいものへと視線を主に向けていた。

 

「せっかく海に行くのだ。いつもと同じようなものでは、冬彦ぼっちゃんを失望させてしまうかもしれない」

 

「ぶっちゃけ、九頭竜は何を着ても喜ぶと思うけどな。でも、せっかくなら新しいのに挑戦するのもいいと思うぞ」

 

 日向の客観的な意見に背中を押されたのか、辺古山は真剣な眼差しでいくつかの水着を手に取り、腕にかけた。彼女の選んだものは、これまでの彼女のイメージを大きく覆すような、大胆なカッティングが施されたものばかりであった。辺古山は売り場の端にある試着室の前に立つと、振り返って日向の顔をじっと見つめた。そして、周囲の買い物客に聞かれないよう、極めて小さな声で囁いた。

 

「日向。お前も、一緒に入ってきてくれないか」

 

「えっ、いや、さすがに試着室に俺が入るのはまずいだろ。店員に見られたら……」

 

 日向は予想外の要求に激しく動揺し、思わず周囲を見渡した。しかし、辺古山の真紅の瞳には一切の揺らぎがなく、日向を逃がさないという強い意志が込められていた。

 

「いつもあの部屋で、私のすべてを見ているだろう。今更隠すものなど何もない」

 

「それはそうだけど、ここは外だぞっ」

 

「頼む。着慣れてない姿を、ぼっちゃんやお前以外の眼前に晒したくないのだ……」

 

 辺古山はほんのりと顔を赤らめ、少しだけ視線を逸らしながらそう告げた。彼女の口から出た、お前以外の男という言葉が、日向の理性を繋ぎ止めていた鎖を呆気なく断ち切った。彼女の中で、自分がどれほど特別な領域に踏み込んでいるのかを突きつけられ、日向の呼吸が急速に浅くなる。

 

「はぁ、分かったよ。そこまで言うなら、一緒に入るよ」

 

「恩に切る……入ってもらってあれだが、着替えが終わるまで後ろを向いていてほしい」

 

 日向が覚悟を決めて頷くと、辺古山は周囲の目を素早く確認し、日向の手首を引いてカーテンの奥へと滑り込んだ。そして日向の背後でファスナーが下げられ、床に服の落ちる音がやけに日向の耳に響くのであった。外の物音が聞こえないほど、布ずれの音が日向の耳を支配していたが、数分ほどでその音はかき消えた。直後に辺古山からの許しもあって、日向は静かに正面へ向き直った。最初に彼女が身につけたのは、純白の生地に腰回りを覆うパレオが付属した水着だった。

 

 その清楚なデザインに、日向は見覚えがあった。今年入学してきたばかりの超高校級のアイドル、舞園さやかが写真集で着用していたものとよく似ていたのだ。しかし、日頃の鍛錬で引き締まった長身と豊かな膨らみを持つ辺古山が着こなすと、本来の可憐さに大人の色香が加わり、見事な美しさを放っていた。

 

「すごく似合ってるぞ、超高校級のアイドルに負けないくらい、本当に綺麗だ」

 

「ふっ、いくら何でもそれは言い過ぎだろう。私のような武骨な女が、あの華やかな乙女と肩を並べられるはずがないだろう」

 

 辺古山は謙遜するように言葉を返したが、その口元は心なしか嬉しそうに綻んでおり、真紅の瞳は柔らかく細められていた。自分の選んだ服を褒められる喜びが、彼女の内側から自然と溢れ出しているのが伝わって来ていた。

 

 気を良くした辺古山は、日向の視線に微かな照れらいを見せながらも、次々と別の水着を試着していく。肩を露出させた可愛らしいオフショルダーのタイプや、正面から見るとワンピースのようでありながら、後ろを向くと背中が大きく開いて、鍛え上げられた背筋の美しさが際立つビキニなど、どれも彼女の抜群の体型を余す所なく引き立てていた。

 

「オフショルダーは普段の辺古山とは違うギャップが出ていて、可愛さを狙うならこれだな。モノキニは辺古山の鍛えられた背中が映えてた。凛々しさをアピールするならこっちかもな。うーん、どれも魅力的で迷うなぁ……!」

 

「んっ、全部買うというのも最終手段としてある。お前が似合うと言ってくれるのなら、どれでもぼっちゃんのお眼鏡にはかなうだろう。ふふっ、よし次のを見てくれ……!」

 

 辺古山は次々と水着へ着替える。日向はそのたびに、息を呑みながら本心からの賛辞を並べた。最初は不慣れな服装に戸惑っていた辺古山も、日向からの真っ直ぐな称賛を浴びるうちに、次第に試着そのものを楽しみ始めているようだった。

 

 そして、勢いに任せて彼女が次に手に取ったのは、他の水着に紛れ込んでいた極端に布地が少ないものだった。それは胸の先端と股間を辛うじて小さな布切れで隠し、後は細い紐だけで繋がっているだけの、水着と呼ぶのも躊躇われるような代物であった。

 

 着替えを終えた辺古山が日向の前に立つと、狭い試着室の空気が一気に沸騰したかのように錯覚した。豊満な双丘は細い布地から零れ落ちそうで、引き締まった腹部から太腿にかけての滑らかな肌が、残酷なまでに露わになっている。紐が白い肌に食い込むたびに、柔らかな肉の質感が強調され、日向の視覚を激しく揺さぶった。

 

「っっ……流石に、これはやり過ぎだなっ。冬彦ぼっちゃんに見せるにしても、品がなさすぎるだろう……!」

 

「あ、ああ、そうだな。目のやり場に困るっていうか、少し刺激が強すぎるかもしれない。花村とかが見たら、暴走しかねないな」

 

「ふ、はは……そうかもしれん」

 

 辺古山は己の扇情的な姿に頬を真っ赤に染めながら、自嘲するように苦笑いを浮かべた。日向も愛想笑いを返し、必死に視線を壁の方へと逸らそうとする。しかし、視覚に完全に焼き付けられた彼女の艶めかしい姿は、目を逸らした程度で消え去るものではなかった。

 

 昨夜、あれほどまでに限界まで身体を重ね合わせ、互いの熱を絞り尽くしたはずだった。それにもかかわらず、日向の下半身は己の理性を嘲笑うかのように、ズボンの生地を内側から力強く押し上げ、明らかな膨らみを形成していた。狭い試着室の中で、その変化は隠しようがなかった。辺古山はほんのりと頬を朱色に染めながらも、微かにからかうような口調で沈黙を破った。

 

「お前は本当に絶倫だな。もしかしたら、超高校級の種馬という才能の持ち主なのかもしれないな」

 

「そんな才能、あるわけないだろっ。どうにかして鎮めるから、少し集中させてくれ……っ」

 

 日向は顔を真っ赤にしながら即座に否定し、自らの剛直に対して静まれと必死に念じ続けた。しかし、一度火のついた若い肉体は、そう簡単に言うことを聞いてはくれない。さらに悪いことに、すぐカーテンの向こう側からは、休日のショッピングモールを楽しむ家族連れや若い男女の笑い声、そして店舗の明るい店内放送が絶え間なく聞こえてくるのだ。

 

 自分たちが今、公共の場の極めて薄い仕切り一枚を隔てた空間にいるという背徳感が、日向の興奮を鎮めるどころか、油を注ぐ結果となってしまっていた。辺古山は苦悩する日向の姿を静かに見つめ、やがて彼女は短く息を吐き出すと、足元に置かれていた自身の私服の鞄へと手を伸ばした。

 

「その状態では、外に出られないだろう。こうしてしまったのは私の責任だからな。他の客に気付かれないよう、静かに処理するぞ……っ」

 

「ッ!? そ、外に人がいるんだぞ? っ……いや、分かった。絶対に音は立てないようにする」

 

 日向が言葉を失って見つめる先で、辺古山は鞄の奥から小さな四角い包装を取り出した。九頭竜のとはサイズがまるっきり違う、日向用のコンドームであった。昨夜の残りを、彼女は密かに自分の持ち物の中に忍ばせていたのである。彼女の周到な準備と、自らが引き起こした事態に対する斜め上の責任の取り方に、日向の頭の中に僅かに残っていた理性は完全に熱で溶け落ちた。

 

 辺古山は日向に小さな包装を手渡すと、狭い試着室の中でゆっくりと身体を反転させた。そして、壁に設置された大きな姿見の前に立ち、両手をついて少しだけ腰を高く突き出す姿勢をとった。背中から腰、そして太腿へと続く滑らかな曲線美。水着として機能してない小さい布が、彼女の豊かな柔肉に深く食い込み、その白さをより一層際立たせている。鏡越しに日向を見つめる彼女の真紅の瞳は、羞恥に揺れながらも、明確な情欲の光を帯びて日向を誘い込んでいた。

 

 日向は震える手で包装を破り、手早く自身の準備を整える。すでに彼女の入り口は、この異様な状況の緊張が興奮と交わり、十分に濡れそぼっていた。日向が先端を押し当てると、外に響いてないか心配してしまうほど、生々しい水音が立つ。柔らかな肉鞘が滑らかに日向の大剣を迎え入れる。外に人がいるという極限の緊張感からか、彼女の内部は昨夜よりも遥かにきつく収縮し、日向の侵入を阻むかのように、そして同時に逃がさないように強く絡みついてきた。

 

「クッッ! 辺古山、辺古山……っ」

 

「ッッッ〜〜、ふっ、ぁン、んっ、ふぅ、ふぅ〜〜」

 

 日向は歯を食いしばり、ゆっくりと、しかし確実に腰を沈めていく。彼女の腰を引き寄せながら、密着する肌と肌の隙間を埋めるよう、ゆっくりと最奥まで貫いた。その瞬間、辺古山の身体がびくりと大きく跳ねた。彼女は声が出そうになるのを必死に堪えるため、自らの手の甲をきつく口元に押し当て、荒い呼吸を飲み込んでいる。鏡越しに見える彼女の顔は、苦悶と快楽が入り混じった極度に艶めかしい表情に歪んでいた。

 

 静かな動作であるにもかかわらず、だからこそ生み出される執拗な刺激が、辺古山の敏感な襞を一つ残らず擦り上げていく。彼女の豊かな胸が壁に押し付けられるたびに形を変え、肩で息をするたびに細い背中が波打つ。日向の腰の動きに合わせて、彼女の口から漏れ出そうになる甘い鳴き声が、手の甲に遮られてくぐもった熱い吐息となって試着室を満たしていった。

 

「はぁっ、はぁぅ……ひなっ、たぁ、おくっ、おくっ、だめっ、だぁ……っ」

 

「悪いっ、けど、腰が勝手に……っ」

 

「あぅっ、ふっ、くっ、はぁ、はぁ〜〜」

 

 日向が耳元で囁くと、辺古山はさらに顔を赤くして首を振り、快感に耐えかねたように壁にすり寄った。限界まで押し殺された彼女の嬌声と、密着した下半身から生じる卑猥な水音が、外の明るい店内放送の音楽と奇妙に混ざり合う。 

 

 時間が経つにつれ、二人の理性を保つための防壁は完全に決壊しようとしていた。日向のストロークは徐々に熱を帯び、音を抑えようとする意志とは裏腹に、深く重い突き上げへと変わっていく。辺古山もまた、日向の動きを受け入れるために自ら腰を後ろへと押し返し、より強い摩擦を求めるようになっていた。互いの熱が臨界点に達しようとしているのを、ゴム越しの脈動で理解する。日向は辺古山の細い腰を強く握り込み、最後の一突きを彼女の最も深い場所へと沈め込んだ。

 

「ン゛ッ、ォ゛ッ、ン゛ォ゛ォ゛ォ゛ッッ……」

 

 辺古山は天を仰ぎ見るように体を反らし、声にならない絶叫が彼女の喉の奥で震えた。同時に、彼女の内部の肉が凄まじい力で日向を締め上げ、搾り取るかのように激しく波打つ。その強烈な圧力に導かれるように、日向の下腹部から限界まで高められた熱い飛沫が勢いよく解き放たれた。

 

 これまで幾度と辺古山の中へゴム越しに放たれた射精だが、今の射精は初めてした時と同等の熱量があるような気はしてならなかった。出しても出しても射精は止まらず、辺古山を孕ませたいとゴムを膨らませる。削り穿つように擦られる剣の切っ先に、辺古山は嗚咽のような喘ぎ声を漏らし、崩れ落ちるように床に膝をついた。日向も最高最大の射精して、彼女の肩口に顔を埋めたまま崩れ、荒れた息を整えようと必死に酸素を取り込んでいた。そして日向は躊躇しながらも、声を漏らす。

 

「ふぅ、ふぅ……辺古山」

 

「ぁ、ん……ぁ、なん、だ。日向……」

 

「も、もう一回。もう一回だけ、いいか……?」

 

「お、お前というやつは……外に、人がいるんだからな……? 本当に、静かにするんだぞ……っ」

 

 辺古山は血管が浮き出る大太刀を目の前に差し出され、呆れた声を上げてから、これが終わるまで更衣室から出られないと悟る。同様に、自分もこの熱を冷まさないと平静になれないと感じていた。辺古山は四つん這いになったまま、日向に尻を向けると再三の忠告をする。日向は深く頷くと同時に、新品のゴムを装着した剛剣を突き刺した。

 

 粘り気のある摩擦音が響く。日向は彼女の腰をしっかりと掴み、深い位置でゆっくりと旋回するように腰を打ち付けた。辺古山の口からは甘い吐息が漏れ出ていて、日向が腰を動かすたびに、彼女の内部が日向の熱を逃がすまいと生き物のように絡みついてくる。床に手をつく辺古山の背中が波打ち、彼女の豊満な胸が上下に揺れ動くのも、日向の視覚を犯し尽くす。日向は思わず紐ビキニごと辺古山の胸を揉みしだく。クラスでもトップスリーに入る豊満な胸ヶ日向の指に吸い付くように形を変えていた。

 

「はぁ、はっ、一回目より、ずっと中が熱いっ。すごい力で締め付けてくる……っ。辺古山の胸、ずっと触っていたい……っ!」

 

「ん、あ゛ぁっ、ひなた、くっ、ん゛ん゛ん゛っっ」

 

 辺古山は羞恥に耐えかねたように目を伏せ、唇をきつく噛み締めた。外の売り場からは明るい音楽と人々のざわめきが絶え間なく聞こえてくる。誰かが少しでもカーテンの隙間を覗き込めば、すべてが終わる。その圧倒的なスリルが、二人の感覚を麻痺させ、どこまでも深い快楽の底へと引きずり込んでいた。

 

 いつの間にか日向の指先はビキニの中に滑り込み、彼女の乳首を弄んでいた。同時に日向の動きが徐々に熱を帯び、ストロークが激しさを増そうとしたその時だった。試着室のすぐ外側から、ひときわ明るく、そして聞き覚えのある女性の声が飛び込んできた。

 

「ここが水着コーナーですね。こんなに水着の種類があるなんて、驚き桃の木です! あ、見てください七海さん、終里さん。この水着、紐しかないですよ!? 花村さんが見たら鼻血ブーです!」

 

「なんだよコレ? こんなの着るやついるのかぁ? つーか、オレがほしいのはこんなショボいのじゃねーぞ。朝比奈や大神、辺古山と張り合っても破けないくらい丈夫なやつだぜ」

 

「朝比奈さんとの水泳対決で破れちゃったんだよね? うーん。ここってジョークグッズみたいなのも多いっぽいね。終里さんが求めている装備は、あっちの方かな?」

 

 上品で気高い声、ワイルドで奔放な声、そして眠たげだが寄り添う優しさを持った穏やかな声、間違いなくソニア、終里、七海のものであった。日向と辺古山の全身の血液が一瞬にして凍りつき、腰の動きがピタリと停止する。辺古山は鏡越しに日向を振り返り、恐怖と興奮がない交ぜになった真紅の瞳で日向を見つめた。

 

「っ……日向、すぐ外に、七海たちがっ!」

 

「わ、分かってる。でも、今急に抜いたら音が響く。このまま奥に押し付けたままにするから、絶対に声を出すなよ」

 

 三人の中々遠ざからない声を聞きながら、日向は呼吸を整える。自分が今、絶対に動いてはならない状況にあることを頭でははっきりと理解していた。下手に動いて衣擦れの音や水音を立てれば、すぐ近くにいる彼女、特に五感の優れた終里に気付かれるかもしれなかった。息を潜め、ただ時間が過ぎ去るのを待つのが最善の選択であるはずだった。

 

 しかし、日向の内奥で燻る熱情は、理性の抑え込みを軽々と凌駕しようとしていた。彼の脳裏に、先日の放課後に起きた出来事が鮮明に蘇る。あの薄暗い用具室で、九頭竜から電話がかかってきたという極度の緊張を強いられる状況下であったにもかかわらず、辺古山は日向の制止を聞き入れず、むしろそのスリルを楽しむかのように奉仕を続行したのだ。彼女は日向の焦燥しきった顔、誰にも見せたことのない切羽詰まった表情を独り占めすることに悦びを見出し、彼を快楽の底へと突き落とした。

 

(なら、今度は俺が動いもいいよな……?)

 

 逃げ場のないこの絶望的な状況だからこそ、彼女がこれまで誰にも見せたことのない、羞恥と快楽に理性を失って蕩けるような表情を引き出してみたい。そんな昏い欲望が、日向の思考を容赦なく侵食し、どろどろに溶かしていく。日向は身を固くしている辺古山の腰に両手を添え、ゆっくりと、本当に僅かな動きで自身の腰を後方へと引いた。粘性のある水音が極めて小さく鳴り、結合の深さが僅かに浅くなる。そして次の瞬間、日向は息を詰めるほどの慎重さで、しかし確かな力強さを持って、再び彼女の最奥へとその質量を押し込んだ。

 

「ひぅ!!? ひなたぁ、だめだっ、とまれ……っ」

 

 不意に襲いかかった強烈な刺激に、辺古山の身体がびくりと大きく跳ね上がった。彼女の華奢な肩が震え、押し殺そうとした呼気が鼻腔から鋭く漏れ出す。彼女は驚愕に見開かれた真紅の瞳で、鏡越しに背後の日向を鋭く睨みつけた。その瞳はすでに熱い涙で潤みきっており、咎めるような強い視線でありながら、どこか快感に縋るような色を帯びている。首を横に振り、今は絶対に動いてはならないと無言で訴えかけてくる彼女の仕草は、日向の目にはあまりにも愛おしく、そして扇情的に映った。日向は彼女の抗議を受け流し、ゆっくりと同じ間隔で腰の往復を再開した。

 

「お前だって、電話の時に仕掛けてきただろ。今度は辺古山が、九頭竜にも見せたことのない顔を見せてくれよ」

 

「ッッッ〜〜、ふぅ、ぁ゛っ、ぁ゛ぁ゛っ、だめっ、とまっ、ぁ゛っ」

 

 日向は極力声を潜め、彼女の耳元に唇を寄せて囁いた。日向の吐息が彼女の耳を撫で、辺古山の身体がさらに細かく震える。彼女は必死に声を抑え込みながら、掠れた声で懇願した。だが、彼女の内部にある柔肉は、日向の動きを拒絶するどころか、より強い摩擦を求めて生き物のように蠢き、日向の熱源をきつく締め上げてくる。

 

 後背位というケダモノの交尾のような体位で交わり合う日向と辺古山。静寂な試着室に、生々しい肉と肉のぶつかり合う音、そして粘液がかき混ぜられる音が密やかに反響する。外に漏れないようあえて速度を落とし、その分だけ極限まで深く押し込む。そのねっとりとした刺激は、速く動くよりも遥かに濃密に彼女の敏感な部分を抉り、快楽の波を際限なく増幅させていった。

 

「ぁ゛っ、ふぁっ、んぁっ、うぁっ……!」

 

 辺古山の強靭な精神力をもってしても、その圧倒的な快感の奔流を完全に堰き止めることは不可能だった。彼女の口から、ついに甘く蕩けるような、途切れ途切れの吐息が漏れ出し始める。鏡に映る彼女の顔は、苦悶と悦楽が入り混じり、日向の望んだ通り、今まで誰も見たことのない乱れきった雌の表情そのものであった。一方、薄いカーテンの向こう側の平和な空間では、女子高生たちの賑やかな会話が続いていた。

 

「この水着、とても可愛らしいですわね。どうでしょう、私に似合いますでしょうか?」

 

「うん、ソニアさんにとっても似合うと思うな。あ、終里さんはこういうのはどう? フリフリな感じ。きっと似合うと思うなー」

 

「えぇ? オレは、こういうのはいーよ。なあ、早くあっちの強えー水着のとこに行こうぜー……ん?」

 

 ソニアの明るく気品のある声が、水着売り場の通路に響き渡る。七海が穏やかな口調で同意し、休日のショッピングモール特有の平穏な空気が流れていた。しかし、その空気を切り裂くように、終里が怪訝な声を上げた。

 

「……おい、お前ら。なんか変な音が聞こえねぇか?」

 

「変な音、とはどのようなものでしょうか?」

 

「なんかヌチョヌチョしているみたいな……止んだな? 確か、あっちら辺だと思うんだがなー?」

 

 超高校級の体操部である終里の言葉に、ソニアと七海も動きを止める。試着室の中でその声を聞いた日向は、心臓が凍りつくような感覚に陥った。腰の動きを瞬時に止め、辺古山と握り合っていた手に限界まで力が入る。辺古山もまた、息をすることも忘れたかのように身を硬くしていた。

 

 終里の野生動物のように研ぎ澄まされた聴覚は、試着室の中から漏れ出ていた微かな水音、あるいは抑えきれなかった吐息の響きを、周囲の雑音の中から的確に拾い上げていたのだ。彼女は鼻を鳴らし、周囲の空気を探るように深く息を吸い込んだいるようだった。

 

「それに、なんか嫌な臭いがするぞ。お袋と愛人からよく嗅いだのと同じだ」

 

「えっと、それってどういうことかな?」

 

「ちょっと待て。嫌な臭いに体臭も混じってやがる……この臭い、めちゃくちゃ嗅ぎ覚えがあるぜ!」

 

 終里の口から飛び出した生々しい表現に、外の二人は困惑の空気を漂わせる。試着室の中では、日向が冷や汗を流しながら、この絶望的な状況をどう切り抜けるべきか必死に思考を巡らせていた。しかし、極限まで高ぶった肉体は、恐怖を感じながらも更なる快感を求めて微かに脈打っている。辺古山の内部の異常な高熱が、日向の感覚を麻痺させ、冷静な判断力を奪い去っていく。少しの沈黙の後、終里は大きな声で確信を口にした。

 

「思い出した! 辺古山と日向の匂いがするぞ!」

 

 終里の声が、はっきりと試着室の約十m先で響き渡った。その瞬間、日向の頭の中が真っ白に染まり、辺古山の真紅の瞳が極限まで見開かれる。

 

「えっ……日向さんと、辺古山さんがここにおられるのですか? その、嫌な臭いと一緒に……?」

 

「日向くん? 日向くんが辺古山さんと? それは、有り得ないんじゃないかな? だって二人きりで外出する関係だなんて、聞いたことないよ。それに辺古山さんは九頭竜くんに好意を持っているだろうし、それに日向くんだって今日は忙しいって言っていたから……違う、でしょ?」

 

 ソニアの驚きに満ちた声が落ち、七海の絶対に信じたくないとでも言いたげな感情が捲し立てられる。逃げ場のない密室。すぐ外には友人たちが立ち止まっており、しかも自分たちの匂いまで明確に感知されてしまった。限界まで張り詰めた緊張の糸が、今まさに音を立てて切れようとしていた。

 

「オレの鼻が間違ったことはねぇよ。絶対にこの匂いなんだ」

 

「こんな所に、日向くんたちがいるわけないもん。絶対に」

 

 薄いカーテンのすぐ向こう側から、終里の自信に満ちた声が聞こえてくる。しかし、日向はその声をよくよく聞くと、普段の快活な響きとは異なって鼻にかかっているように感じた。力強い足音が聞こえ、日向は辺古山の細い腰を強く握りしめ、自分たちの気配を完全に殺そうと努めた。辺古山の背中は極度の緊張で強張り、滑らかな肌には冷や汗が浮かんでいる。彼女の内部は恐怖から無意識のうちに激しく収縮し、日向の剛直を四方八方から万力のように締め付けていた。動いていないにもかかわらず、その凄まじい圧迫感と高熱が日向の理性を削り取り、狂おしいほどの快感を生み出している。

 

「いや、絶対ここだ。そら、開けるぞ」

 

「ッ──!!」

 

 終里の宣言と共に、勢いよくカーテンの金具が滑る高い音が響いた。日向と辺古山は同時に目を丸くし、まるで処刑の瞬間を待つ罪人のような面持ちでカーテンを睨んだ。しかし、彼らを隔てている布地が引かれることはなかった。音がしたのは、ほんの僅かに離れた隣の試着室だったのだ。

 

「は、はぁ〜〜!? おいテメェ、何開けてるんだよ!? 入ってるて、外からでも分かるだろうがよー!?」

 

「きゃぁ──!? ちょっと、早く閉めてよ〜〜!?」

 

「も、申し訳ありません。友人が少し勘違いをしたようで……」

 

 不機嫌な男の怒声と、高い女の悲鳴が通路に響き渡った。どうやら隣の試着室でも、別のカップルが身を潜めて親密な時間を過ごしていたらしい。ソニアの酷く慌てた声が聞こえる。気品ある彼女が平謝りしている姿が目に浮かぶようだった。直後に再びカーテンが乱暴に閉められる音がし、日向は心の中で安堵の息を漏らしながらも、目の前の辺古山が微かに肩を震わせているのを感じ取っていた。彼女の内部の締め付けはさらに強くなっており、日向は声を漏らさないように自らの下唇を強く噛み、絶頂しているのであった。

 

「おかしいな……絶対に辺古山と日向の匂いがしたんだけどな」

 

「終里さん、今日合流してから思っていたのですが、なんだかお声が変じゃありませんか? それに……えっ!? ひどい熱ではありませんか!」

 

 納得がいかない様子の終里が、鼻をすする音を立てながら不満げに呟く。そしてソニアも気が付いていたようで、終里の鼻詰まりを指摘し、どうやら終里の額に手を当てたのか、驚いたような声を通路に響かせる。すると横から七海の冷静な推測が続く。

 

「先日、朝比奈さんとずっと水泳の対決をしてたから、風邪を引いたんじゃないかな。ぶっ続けで十時間以上してたって聞いたよ」

 

「まあな。確かに起きてからダルイけど、まあ大したことじゃねぇーよ……はっくしょん!」

 

「豪快なくしゃみだね。けど、これで異様な臭いや日向くんと辺古山さんの臭いの正体が分かったかな」

 

 終里は強がるように答えた直後、豪快なくしゃみを放った。七海はそれまで沈んだ声色で話していたが、終里の様子からある仮説が浮かんだようだった。ソニアも同意見のようで声を上げる。

 

「風邪で鼻が詰まって、違う匂いを勘違いしたのですわね。水着選びは中止して、すぐに罪木さんに相談しましょう」

 

「うん、そうだね。行こう、終里さん」

 

「なんだ、もう帰るのか? あ、また臭いが強くなった気がするぞ! 今度は間違いない、ここに辺古山と日向がいるぞ! オレの鼻は10割当たるだって!」

 

 ソニアの提案に七海が同意し、三人の足音が慌ただしく通路を遠ざかっていった。やがて、店舗の明るい音楽だけが残され、試着室の周囲には再び平穏が戻った。完全に気配が消えたことを確認すると、日向の腕の中で緊張の糸が切れたように辺古山の身体から力が抜けた。彼女も手に力が入らな苦也、そのまま試着室の床に突っ伏した。

 

「……肝を冷やしたな」

 

「ああ、本当に心臓が止まるかと思ったよ」

 

 辺古山は肩で大きく息をしながら、掠れた声で呟いた。日向も深く息を吐き出しながら同意した。二人とも冷や汗に塗れ、肌と肌が密着している部分からは尋常ではない熱が放たれていた。そして内部でもそうで、終里がカーテンを開ける直後、極限の状態による緊張かとバレるという寸前のスリルが合わさって、辺古山の肉鞘の強烈な締め付けと、日向の大剣の脈動が同時に発生して、二人は静かに絶頂していたのだ。

 

 日向の限界を超えた熱が辺古山の奥深くに叩きつけられ、彼女もまた声を押し殺しながら、身体を大きく震わせて極上の悦びに浸っていた。危険と隣り合わせの非日常の空間で、二人は誰にも知られることなく、互いの存在だけを深く刻み込んでいた。辺古山の内部からずるりと精液が詰まったゴム風船をつけた肉棒が抜け落ちる。

 

「ぁっ。はぁ、ふぅー……まさか、日向からぼっちゃんと電話していた時の報復を受けるとはな。油断していた」

 

「今度は俺が暴走しちゃったな。すまん……」

 

「フッ、これでおあいこということにしておこう。幸い、二回程度で落ち着いたようだからな。ふふ、こうしていれば可愛いのだがな」

 

 辺古山はそう言って日向のやや萎れた肉棒をピンと弾く。そして足を少しフラつかせながらも立ち上がり、日向の劣情を刺激しまくった水着に手をかける。水着は汗や蜜液でぐしょぐしょになっており、とても売り場に戻せる状況ではなかった。

 

「それ、買うのか?」

 

「買うしか、あるまい。こんなにしては、売り物にならんだろう。しかし、このまま持って行くわけにもいかないな……」

 

「飲み物をこぼしたってことにするとか? 後、水着の代金は俺が払うよ」

 

「ああ、そうしよう。これをもう着ることもないと思っていたが、日向が購入してくれるのなら……たまには着てもいいか」

 

 こうして辺古山は九頭竜を唸らせるであろう、新らな水着を入手したのであった。日向の財布事情は一気に寂しいことになったが、無理矢理してしまった必要経費だと割り切ることにした。とはいえは日向も損ばかりではなかった。この時買った紐ビキニを、辺古山は日向との特訓で度々使うようになったのである。九頭竜は金輪際見られない、日向だけの特別衣装として、お値段以上の活躍をしたのであった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 うららかな春の気配は遠い過去のものとなり、容赦のない真夏の日差しが学園の敷地を焼き焦がすようになってから、数週間の月日が流れていた。希望ヶ峰学園の廊下を歩きながら、辺古山ペコは自身の胸の奥底にべっとりと張り付いている、正体不明の重い感情を持て余していた。

 

 あの休日に日向創と共に新しい水着を選び、そして狭い試着室の中で誰にも知られることなく極限の熱を交わし合って以来。二人の予定は見事なまですれ違い続け、特訓は殆ども行われていなかった。日向には予備学科としての課題や友人たちとの付き合いがあり、辺古山にも剣道家としての厳しい鍛錬や、九頭竜冬彦の護衛という本来の任務がある。互いの時間が合わないのは仕方のないことであり、焦る必要などどこにもないはずであった。

 

 何より、日向との密会がなくなった分だけ、辺古山は本来の目的である冬彦ぼっちゃんと共に過ごす時間が増えていた。それは、幼い頃から彼の剣として生き、彼に密かな思いを寄せてきた辺古山にとって、これ以上なく喜ばしい事態であることは疑いようのない事実であった。

 

 九頭竜冬彦の傍に控え、彼が他の本科の生徒たちと楽しそうに言葉を交わす姿を見守る。それは彼女が長年夢見てきた穏やかな光景そのものだった。しかし、九頭竜の笑顔を見つめながらも、辺古山の心はなぜか晴れなかった。それどころか、彼女の無意識の領域では、まったく別の男の放つ熱と匂いを強烈に求めてしまっていたのだ。

 

 ある日の放課後。剣道場での鍛錬を早めに切り上げた辺古山は、気がつけば予備学科の校舎付近を歩いていた。用事など何もない。ただ、ここ数週間まったく顔を合わせていない日向が、今何をしているのかが猛烈に気になってしまったのだ。遠くから無事な姿を確認するだけだ。そう自分自身に言い訳をしながら、彼女は気配を殺して校舎の周辺を探索した。やがて、中庭の大きな木陰に設置されたベンチの近くで、見慣れた男の姿を視界に捉えた。

 

「ここの助動詞の接続、また間違ってるわよ。何度言ったら分かるのよ。私の舎弟が、こんな簡単な問題でつまずかないでよね」

 

「悪い、古典はどうも苦手でさ。この活用表、見るだけで頭が痛くなってくるんだよ」

 

「予備学科の意地を見せるって私と気合い入れていたのはどこの誰よ。こんな所でつまずいていたら、本科の連中に笑われるわよ」

 

「分かってるって。その代わり、化学の計算問題は俺がちゃんと教えてやるからさ。お前、さっきからモル計算の所で完全に手が止まってるだろ」

 

「うっ……それは、ただちょっと公式をど忘れしただけだし。すぐに思い出すし」

 

「強がらなくていいって。ほら、そこはこうやって式を組み立てるんだ」

 

 極道の家系に生まれ、気の強い菜摘が、あれほどまでに自然体で一人の男子生徒に甘えている。そして日向もまた、彼女の気性を完全に理解し、適度な距離感で彼女を受け入れている。その二人の間に流れる親密で穏やかな空気を目の当たりにした瞬間、辺古山の胸の奥がチクリと鋭く痛んだ。

 

 辺古山は物陰に身を隠したまま、じっとその光景を見つめ続けていた。菜摘は九頭竜冬彦に並ぶ大切な存在だ。彼女が学園で信頼出来る友人を見つけたことは、本来であれば喜ぶべきことである。だが、日向に向けられる菜摘の無邪気な笑顔と、それに応える日向の優しい声色が、辺古山の心に暗い影を落としていた。

 

 また別の日のことである。辺古山は図書室へ本を返しに行く道すがら、廊下の開けたフリースペースで再び日向の姿を見つけた。

 

「日向くん、そこは右に避けてから攻撃した方がいいと思うな」

 

「こうか……お! よし、行けた! 七海の言う通りにやったら上手くいったぞ! 七海は本当にゲームが上手いな」

 

 日向は、超高校級のゲーマーである七海千秋と向かい合って座っていた。二人の手には携帯型のゲーム機が握られており、互いに顔を寄せ合うようにして小さな画面を覗き込んでいる。七海の的確な助言に感心する日向の横顔は心底楽しそうで、七海もまた、不器用ながらも一生懸命にゲームに挑む日向の姿を見て、柔らかく愛らしい微笑みを浮かべていた。

 

 日向は予備学科の生徒でありながら、その偏見や才能の壁を軽々と越え、本科の生徒たちと確かな絆を築いている。それは彼自身が持つ人柄の良さと、誰に対しても分け隔てなく接する誠実さの賜物であった。辺古山は少し離れた柱の陰から、静かにその様子を眺めていた。自分が彼と特訓という名目で密会を重ねていた期間、彼を独占していた時間が長かった分、彼がこうして他の友人たちと交流を深めるのは当然のことであった。

 

(なのに。なぜ私はこんなにも、胸を締め付けられているように感じるのだろうか……)

 

 以前冬彦ぼっちゃんが、他の女と親しげに笑い合っているのを見て、激しい焦燥感と嫉妬に似た感情を抱いている。自分はただ、愛する九頭竜を喜ばせるための技術を学ぶために、日向に教えを請うていただけのはずなのだ。日向はあくまで協力者であり、初めて出来た良き友人。それ以上の特別な感情など、決して介在しないはずだった。

 

 だが、理性の防壁は、彼女の肉体に刻み込まれた生々しい記憶の前に脆くも崩れ去ろうとしていた。日向が七海に向けた無邪気な笑顔を見るたびに、あの試着室の密室で、自分だけに向けて放たれた切羽詰まった熱い眼差しが脳裏をよぎる。自分の肉鞘を貫き、すべてを理性の彼方へと吹き飛ばした、あの荒々しい息遣いと雄の匂いが、狂おしいほどに欲してしまっていたのだ。

 

(私は、どうしてしまったというのだ……)

 

 辺古山は壁に手をつき、自らの内に芽生えた恐ろしいほどの執着心に静かに戦慄した。日向創という一人の男が、これほどまでに自分の心をかき乱し、肉体の奥底に消えない飢えを植え付けている。冬彦ぼっちゃんへの忠誠と愛情を胸に抱きながらも、日向という猛毒に侵食されつつある己の変化に、彼女は深い戸惑いと自己嫌悪を抱かずにはいられなかった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 辺古山がもどかしい思いを募らせていると、九頭竜からデートに誘われるのであった。彼からの申し出を断る理由など、辺古山にあるはずがなかった。胸の奥で燻っていた日向に対するもどかしい感情も、愛する男からの誘いを受けたことで一時的にどこかへ押し流されていくようだった。

 

 待ち合わせの日。辺古山は姿見の前に立ち、己の服装を何度も確認していた。身に纏っているのは、以前、日向と一緒に買い物をした際に彼が心から似合うと褒め称えてくれた、白を基調とした清楚な私服である。動きやすさを重視したいつもの黒い衣服とはまるで異なる、柔らかでお淑やかな白の装い。風に揺れるシフォンのブラウスと淡い色のスカート、そして下ろしたままの銀色の髪。九頭竜の前にこの姿で出ることに躊躇いもあったが、あの男が保証してくれたのだから間違いないという奇妙な確信があった。照りつける夏の日差しの中、約束の場所である広場へ向かうと、すでに九頭竜が壁に寄りかかって待っていた。辺古山が近づく足音に気付き、彼が顔を上げる。その瞬間、九頭竜の目が大きく見開かれ、頬が紅潮していた。

 

「冬彦坊っちゃん、お待たせいたしました。その、おかしな格好ではないでしょうか」

 

「お、おう……いや、全然おかしくねぇよ。メチャクチャ似合ってるじゃねーか。ペコも、そんな服着るんだな」

 

「ありがとうございます。そのように言っていただけて、安堵いたしました」

 

「あ、ああ。ガラにもなく、見惚れちまったぜ。いや、本当にカワイイく見えるぜ……!」

 

 並んで歩き始めた辺古山の胸内は、甘い喜びに満たされていた。自分の装いが彼にこれほどの反応を引き起こした。その事実は、この服を勧めてくれた日向の審美眼が正しかったことを証明している。日向のおかげで、自分は冬彦坊っちゃんに新しい魅力を示すことが出来たのだ。彼に対する深い感謝と好意が、胸の内で静かに膨れ上がっていく。

 

 しかし、その感情はすぐに別の形をとって辺古山を苛み始めた。大好きな九頭竜とのデートの最中であるというのに、彼女の頭の片隅には常に日向の顔がちらついていたのだ。この服を着て彼に褒められたときの熱を帯びた眼差し。そして、その直後に狭い試着室の中で行われた、正気を失うほどの激しい交わりの記憶。九頭竜の隣を歩くたびに、下腹部に甘い疼きを呼び起こしてしまうので、辺古山は必死に蓋をして平静を装い続けた。

 

 辺古山の心中は未だ荒れ続けていたが、二人は大型のゲームセンターに到着する。薄暗い店内に電子音と眩い光が交錯する中、九頭竜は辺古山をクレーンゲームの筐体の前へと立つ。ケースの中には中々に高価な物も置いてあり、九頭竜は感心したような声を漏らす。

 

「おーブルベリのアクセも入ってのか。結構気合い入った筐体じゃねぇか!」

 

「ぼっちゃんの好むブランドでしたか。確かに素晴らしいと感じます」

 

「やっぱペコには分かるか。よし、オレが取ってやるから見てろよ!」

 

 九頭竜は自信ありげに硬貨を投入し、真剣な眼差しでレバーを操作した。普通ならたった数回程度で取れるようなものじゃないが、ほんの少し前、幸運な男が予備学科の友人とクラスメイトのゲーマーと挑戦していたのである。彼にとっての幸運とは、才能溢れるクラスメイトが活躍すること。辺古山の応援を受け、十回目の挑戦の後、見事に目当てのブレスレットを獲得したのだった。

 

「どうだ、見事なもんだろ? 受け取ってくれ」

 

「こんな素晴らしいものを……ありがとうございます、冬彦坊っちゃん! 大切に使わせてもらいます」

 

「オメーは大げさなんだよ。何時でも取ってやるから、欲しくなったら言えや」

 

「はい……っ」

 

 辺古山は金で装飾された腕飾りを身につけ、九頭竜と微笑み合う。だがふとあの時(・・・)ほどの感動はないと思ってしまった。大好きな主からのプレゼントが、友達(ひなた)からのプレゼントより嬉しくないなんて、あり得ない勘違いだと辺古山は思い込もうとするのであった。

 

 その後、二人は並び立ち、ゾンビを次々と倒すシューティングゲームに興じた。長年共に過ごしてきた幼馴染としての阿吽の呼吸はゲーム内でも健在であり、二人は見事な連携で次々と敵を撃破し、最高記録を叩き出した。

 

「ははっ! オレたちのコンビネーションに敵うやつはいねぇな?」

 

「坊っちゃんの的確な指示のおかげです」

 

 心から楽しんで笑い合う時間。それは間違いなく、辺古山が求めていた穏やかな幸福の形であった。それでも、ゲームの画面を見つめながら、ふと日向と七海が図書室の前の廊下で笑い合っていた光景が記憶の底から浮かび上がり、辺古山の胸に微かな翳りを落とす。日向もまた、他の誰かとあのように楽しい時間を共有しているのだろうか。そんな想像が、彼女の心を僅かにざわつかせていた。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、日は完全に暮れていた。二人は九頭竜組の大きな屋敷へと帰還した。重厚な門をくぐり、静まり返った廊下を抜けて九頭竜の私室へと向かう。道中、交わす言葉は少なかったが、互いにこれから何が行われるのかを明確に理解していた。それぞれ別の浴室で丁寧に身体を清め、辺古山は薄い寝衣だけを身に纏って九頭竜の部屋へと足を踏み入れた。広い室内には間接照明の柔らかな光だけが灯り、寝台の上に腰掛ける九頭竜が彼女を静かに待っていた。

 

「よぉ、ペコ……こっち、来てくれるか」

 

「はい、坊っちゃん」

 

 辺古山は静かに歩み寄り、九頭竜の隣に腰を下ろした。彼の手が彼女の肩に触れ、銀色の髪をすくうように撫でる。その手つきは、どこまでも優しく、彼女を大切な宝物として扱うかのような慈しみに満ちていた。

 

「今日の服、本当に綺麗だったぜ。オレのために用意してくれたんだろ」

 

「坊っちゃんに喜んでいただきたくて、不慣れながら選んでみました」

 

「そうだよな……! 綺麗だった、本当にな。またあの姿見せてくれよ」

 

「はい。ぼっちゃんが望むなら、何時でも……ぁっ!」

 

 九頭竜の唇が、辺古山の額から頬、そして首筋へとゆっくりと落ちていく。彼の与えてくれる愛情に、辺古山の心は温かく満たされていくのを感じた。彼こそが自分のすべてであり、守るべき唯一の主君なのだ。二人はゆっくりと寝台へと身体を横たえ、互いの衣服を取り払っていく。九頭竜の指先が辺古山の素肌を這い、彼女の柔らかな膨らみや引き締まった腹部を愛撫する。辺古山もまた、彼に応えるようにその背中に腕を回した。

 

 だが、肌と肌が触れ合うたびに、辺古山の肉体は無意識のうちに別の感覚を探し求めていた。日向との特訓で開発され、極限の快楽を教え込まれた彼女の身体は、九頭竜の愛撫は違うと感じてしまっていたのだ。もっと強く、もっと荒々しく、理性を焼き切るほどの刺激で自身を蹂躙してほしい。そんな雌としての本能が、彼女の奥底で鎌首をもたげていた。

 

 やがて九頭竜の肉棒が彼女の秘所の入り口に触れ、辺古山は彼を包み込むように力をを抜いた。ゆっくりと、九頭竜の肉棒が挿入を開始する。辺古山の内部は彼を受け入れるために湿りを帯びていたが、かつて日向の規格外の質量に押し広げられ、限界まで拡張された記憶を持つ粘膜にとっては、どうしても僅かな物足りなさを覚えてしまう。しかし、これは特訓の成果を示すための大事な時間。辺古山は自らの不埒な感情を力ずくで押さえ込み、日向から学んだ技術を総動員して九頭竜の熱を迎え入れた。

 

「んっ、ふぅー……ペコ、痛くねぇか? 何かあったら言えよな」

 

「んっ、ぁぁ、問題、ありません。ぼっちゃんの、好きなように動いてくださいっ」

 

「ッ……! ペコッ!」

 

 辺古山は甘い吐息を交えながら、下から彼の腰の動きに合わせて自らの腰をうねらせた。内部の肉を意図的に収縮させ、彼の熱源を逃がさないように絡みつく。日向の身体を教本にして得た最適解の動き。どこをどう締め付ければ相手が最も快楽を感じるか、その感覚が彼女の身体には深く染み付いていた。そして二人の肌が重なり合う音と、湿り気を帯びた摩擦音が響き渡る。九頭竜の息遣いが急速に荒くなり、彼の腰の動きが情熱を帯びて激しさを増していく。自分が身につけた技術が彼をここまで夢中にさせているという事実に、辺古山は確かな達成感と喜びを感じていた。

 

「すげぇよ、ペコ……頭がどうにかなりそうだっ! ペコっ、ペコ……ッ!!」

 

「あっ、はっ、ぼっちゃん、冬彦、ぼっちゃん……っ!」

 

 九頭竜の突き上げが繰り返されるたびに、辺古山は自らの身体を彼に委ねて甘い声を漏らす。しかし、目を閉じると暗闇の中に浮かび上がるのは、マンションのベッドで自分を力任せに抱きすくめ、乱れた呼吸で腰を打ち付けてきた日向の姿だった。愛する男と身体を繋ぎ、彼を喜ばせているこの瞬間にすら、別の男が与えてくれた圧倒的な大剣の突き刺しと、自我が蕩け落ちるような激しい絶頂を渇望していた。

 

 九頭竜への愛情は微塵も揺らいでいないはずなのに、肉体だけが日向という強烈な劇薬を求めて飢えているのだ。彼の限界が近づき、腰の動きがさらに切羽詰まったものになる。辺古山は九頭竜を最高の高みへと導くため、内部の粘膜を限界まで引き締め、彼の肉棒を奥深くへと誘い込んだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ペコっ、いくぞ……っ! オメーの中で、全部射精ぞッ!」

 

「んっ、ふっ、くぁ……はっ、はいっ! 冬彦坊っちゃん……っ!」

 

 生ぬるい射精が、辺古山の内部に叩きつけられる。彼女は九頭竜の背中に腕を回してしっかりと抱き止め、彼が注ぎ込む愛情を全身で受け止めた。荒い呼吸を繰り返しながら彼女の胸元に顔を埋める九頭竜の背中を、辺古山は優しく撫で続ける。特訓の目的は完全に達成された。彼は間違いなく満足し、自分たちの繋がりはより深固なものになっていた。それなのに彼女の下腹部の奥底では、未だに解消されない鈍い熱が燻っているのを感じていた。

 

 辺古山のもどかしさを脇に行為は続き、今度は辺古山が上になって九頭竜を搾り取っていた。幼い頃から忠誠を誓い、密かに心を寄せてきた男とこうして肌を合わせる時間は、彼女の精神をこの上なく穏やかに満たしていた。日向との特訓によって培われた技術は、彼が最も心地よいと感じるであろう箇所を的確に締め上げる。九頭竜の荒い息遣いと、限界を堪えるような声が耳元に届くたび、辺古山は自分が彼を喜ばせているのだという確かな達成感を味わっていた。やがて、部屋の時計の針が深夜を回った頃、九頭竜は名残惜しそうに身を離し、辺古山の隣に寝転がった。彼は火照った身体から汗を拭い、気遣うような視線を彼女に向けた。

 

「はぁ、はぁ……あんまりよぉ、無理させるわけにはいかないからな。今日はこれくらいにしておこうぜっ」

 

「ぁ……お気遣い痛み入ります。お疲れ様でした、冬彦坊っちゃん」

 

 辺古山の体力からすれば、まだまだ夜通し彼を受け入れる余裕は十分に残されていた。だが日向の尽きることのない体力と比べれば、九頭竜の限界が近いことは彼女の目には明らかであった。辺古山は穏やかな笑みを浮かべて彼の提案を受け入れ、乱れたシーツを引き寄せて身を隠した。火照りを冷ましながら、二人は寝台の上で静かな時間を過ごす。九頭竜は天井を見上げながら、ふと思い出したように口を開いた。

 

「そういや、ちょっと前のペコは、休日もなんだかんだと忙しそうだったよな。最近は七海や他の連中ともよく遊んでるみたいだし、クラスにすっかり馴染んでってオレも嬉しいぜ」

 

「──皆が私のような無愛想な者にも分け隔てなく接してくださるおかげです。そういえば先日、終里が見ている前で、七海と格闘ゲームで対戦する機会がありました。彼女の操作の正確さは尋常ではなく、私は手も足も出ませんでしたよ」

 

 九頭竜の温かい言葉に、辺古山の胸の奥がチクリと痛んだ。休日に彼女が時間を割いていたのは、クラスメイトとの交流などではない。他でもない日向と二人だけの部屋にこもり、ただひたすらに性行為の技術を磨くために己の身体を開き続けていたのだ。その事実を、愛する彼に口が裂けても言えるはずがなかった。湧き上がる罪悪感を愛想笑いの裏に隠し、彼女は話題を逸らすように言葉を紡いだ。

 

「ははっ、そりゃそうだろ。あいつはゲームに関しては文字通りバケモンだからな。まあでも、そうやってバカ騒ぎしてるのも悪くねぇ。来月の民宿への旅行も、今から楽しみだな」

 

「はい。皆と共に過ごす夏の旅行、私も心待ちにしております」

 

 辺古山がそう返すと、九頭竜は満足そうに目を細め、やがて静かな寝息を立て始めた。彼にとって、今日のデートとそれに続く時間は、心身ともに満たされた完璧なものであったに違いない。辺古山は彼の寝顔を優しく見つめながら、己の役割を無事に果たせたことに深く安堵した。

 

 しかし、その安堵感とは裏腹に、彼女の肉体の奥底には奇妙な空虚さがぽっかりと口を開けていた。九頭竜との行為は確かに心地よく、精神的な幸福感に満ちていた。愛する男と結ばれる喜びに嘘はない。それなのに、下腹部の中心には未だに解消されない鈍い熱が燻り続けていた。

 

(気のせいだ。ぼっちゃんとの行為はこの上なく幸せで、極上の時間だった。私は、確かに満たされている。そのはずなんだだ……)

 

 そう自分に強く言い聞かせようとしても、肉体に刻まれた記憶は残酷なまでに正直であった。九頭竜の熱源では決して届くことのなかった、最も深い場所にある最深部。そこを容赦なく打ち据えられ、理性を根底から焼き尽くされるような圧倒的な質量と長さ。そして、限界まで拡張されるような、あの太さへの渇望。辺古山の内部の粘膜は、愛する男との交わりを終えた直後であるにもかかわらず、全く別の男がもたらす暴力的なまでの刺激を求めて密かに疼き続けていたのだった。

 

 [Chapter3]

 

 息が詰まるほどの熱気と湿気を孕んだ風が吹き抜け、本格的な夏の到来を告げる季節。本科の生徒たちは免除されている、重くのしかかっていた定期試験をようやく終え、晴れやかな解放感と共に夏休みに突入した日向。今日は、九頭竜冬彦の呼びかけによって実現した、クラスメイトたちとの大規模な旅行の出発日であった。

 

 だが未成年の集団が遠出をするにあたり、大人の引率者が必要だということで、本科の担任であり日向も顔見知りである雪染ちさが同行することになっていた。彼女の尽力もあって立派な送迎用の大型バスが手配されており、さながら学校行事のようだと日向は思ってしまう。だがバスの車内には学校行事のようなお堅い空気はなく、澪田唯吹が持ち込んだ楽器から放たれるけたたましい音楽が鳴り響き、それに合わせて数人の生徒たちが歓声を上げていた。

 

「おい菜摘、テメーまた勝手に俺の荷物の中に変なモン詰め込みやがったな」

 

「はあ。お兄ちゃんのために入れてあげただけでしょ、素直に感謝してよね」

 

 通路を挟んだ斜め前の席では、九頭竜とその妹である菜摘が、いつものように些細なことで口論を繰り広げている。周囲の空気を全く気にしない兄妹のやり取りは、日向にとってすっかり見慣れた日常の風景となっていた。

 

「海。未だ全貌が掴めぬ、深淵なる生命の園。フッ……アビスに挑戦するのも一興か」

 

「目的地にはお魚さんもたくさんいるそうです。田中さん、一緒に見て回りましょうね」

 

「う、うん……と、時に暗黒の聖母よ。お前の魂の器は灼熱が弱点と見た。精々プロメテウスの火に、焼かれないよう注意することだな!」

 

「あ、ソニアさん! オレ日焼け止めとかいっぱい持ってきたんで、塗るの手伝いますよっ!!」

 

「遠慮しときますね!」

 

 さらに別の席では、海について語る田中とソニアの間に、左右田が必死になって割って入ろうと声を張り上げている。個性豊かな才能を持つ彼らの交流は、見ているだけでも飽きることがなかった。日向は窓際の席に深く腰を下ろし、隣に座る七海千秋、そして前の席から顔を覗かせている狛枝凪斗と共に、携帯型のゲーム機を持ち寄って三人で同じ世界を冒険していた。

 

「予備学科である日向クンが、才能溢れる皆の旅行に混ざっているなんて、本当に異常な光景だよね。今日はちゃんと弁えるんだよ」

 

「はいはい。いいから右から来る敵の対処を頼む。こいつのレアドロップ頼んだぞ狛枝」

 

「言われなくても……はい出たよ。ボクに感謝しなよ」

 

「狛枝くんナイス。でもそろそろ日向くんに素直になりなよ」

 

 狛枝が皮肉めいた笑みを浮かべながら放つ刺々しい言葉を、日向は画面から目を離さずに淡々と受け流した。最初こそ彼の極端な言動に戸惑うこともあったが、今では彼なりの屈折した接し方なのだと割り切ることが出来るようになっていた。和やかな時間が流れる中、日向は不意に、自らの横顔に突き刺さるような鋭い視線を感じ取った。

 

 ゲーム機のボタンを操作する手を僅かに止め、日向は視線の出処を探るようにそっと顔を上げる。通路を挟んだ数列前の座席。九頭竜の隣に静かに座っていたのは、白い私服を身に纏った辺古山ペコであった。彼女の真紅の瞳が、確かに日向の姿を捉えていた。しかし、日向がその視線に気付いて目を合わせた瞬間、辺古山は弾かれたように顔を背け、窓の外へと視線を逃がしてしまった。その横顔はどこか強張っており、微かに首筋が朱色に染まっているように見える。

 

 ここ数週間、互いの予定が合わず、あのマンションのでの行いは途絶えていた。しかし、最後に彼女と交わった日の記憶は、日向の脳髄に焼き付いて決して消えることはない。今の彼女は、隙のない姿勢で座席に収まり、九頭竜の護衛としての役割を静かに果たしているように見える。日向が辺古山を見ていると、隣の七海が声をかける。

 

「日向くん、少し動きが遅れているよ。もしかして、試験明けで疲れている?」

 

「いや、ちょっと気を抜いただけだ。すぐに立て直すよ」

 

 隣に座る七海の心配そうな声にハッと我に返り、日向は慌てて画面へと視線を戻した。己の内に渦巻くどろどろとした情欲と背徳感を悟られまいと、必死に平常心を装う。辺古山はどうして自分を見ていたのだろうか。日向の胸の奥で、さまざまな推測が渦を巻く。特訓という名目で始まった関係が、彼女の心にどのような変化をもたらしているのだろうか。

 

 日向は前の席で妹と言い合っている九頭竜の後ろ姿に目を向けた。彼は日向のことを良き友人として完全に信頼し、こうして旅行にも誘ってくれた。彼が自分に向ける屈託のない笑顔を思い出すたび、日向の心臓を冷たい罪悪感が鋭く締め付ける。友人の最も大切な女性の奥深くに、自らの欲望を何度も穿ち、彼女と共に絶頂していた。避妊具という最後の一線は守っているが、それは絶対に許されることのない裏切りであると日向は考えている。

 

 しかし。罪悪感が深まれば深まるほど、それと反比例するように辺古山に対する暗い執着と欲望が燃え上がっていくのを、日向はどうすることも出来なかった。彼女が九頭竜の隣で貞淑な振る舞いをすればするほど、彼女の隠された淫らな顔を自分だけが引き出せるという優越感が、甘い毒のように日向の思考を麻痺させていく。そんな長い黙考を撃ち抜くように、狛枝の鋭い言弾が日向を貫く。

 

「画面から目を離して別の場所を見つめるなんて、よほど気になるものでもあるのかな? あっちの方は九頭竜クンと辺古山さんかな」

 

「気のせいだ。ただ、外の景色が気になっただけだよ。そういうお前も画面から目を離して俺の動向を見つめているなんて、俺のことが好きなのかよ」

 

「才能のないキミを……? 笑える話だね。たまたま顔を上げたら、目に入っただけだよ」

 

 撃たれた狛枝の鋭い指摘を、日向は少しだけ語気を強めて遮った。冷や汗が背中を伝い落ちるのを感じながら、日向はただひたすらにゲーム機の画面を見つめ続ける。冷房の効いた車内には、友人たちの明るい笑い声が絶え間なく響いている。この眩しいほどに平和な夏の情景の裏側で、自分と辺古山だけが共有している深く暗い秘密。それは、目的地である青い海に到着しても決して洗い流すことの出来ない、重く熱い呪いのようなものであった。長く続くであろうこの旅行の行方に、言い知れない不安と期待を同時に抱き続けるのだった。

 

 長く続いた海沿いの道を抜け、送迎バスがようやく目的地である立派な木造建築の前に停車した。エンジンの低い振動が止むと同時に、窓の外からは波の砕ける音と、磯の香りをはらんだ夏の熱風が吹き込んでくる。日向創は座席から立ち上がり、長時間座り続けて凝り固まった身体を軽く伸ばした。目の前に広がるのは、雲一つない青空と、太陽の光を反射して眩しく輝く広大な海原であった。

 

 引率である雪染ちさを先頭にして、生徒たちが次々とバスから降りていく。照りつける日差しは肌を焦がすように熱いが、彼らの顔に浮かぶのはこれから始まる夏休みへの期待と高揚感ばかりだった。日向もまた、その波に続いて降り立った。広々とした玄関口では、上品な着物姿の初老の女将が、柔和な笑みを浮かべて一行を出迎えていた。九頭竜冬彦の伝手で用意されたこの民宿は、歴史を感じさせる重厚な造りでありながら、どこか温かみのある雰囲気を漂わせている。

 

「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよ」

 

「お世話になります。大人数でご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします!」

 

 雪染が快活な声で挨拶を交わす。彼女の明るい声音に、長旅の疲れも少しだけ和らぐようだった。生徒達も続いて挨拶をすると、女将の顔はますます笑みを深める。そして九頭竜達の姿を認めるなり、女将の表情がいっそう柔らかなものへと変わった。

 

「冬彦坊っちゃんに菜摘お嬢様、それにペコちゃんも。すっかり立派になられて」

 

「おい、他のみんなもいるんだ。坊っちゃん呼びは勘弁してくれよ」

 

「もう、お兄ちゃんったら照れちゃって。おばさん、久しぶり」

 

「ご無沙汰しております。本日はよろしくお願いいたします」

 

 周囲の目を気にして照れ臭そうに顔を背ける九頭竜。極道という特殊な家系に連なり、日頃から周囲を威圧するような態度を崩さない彼であるが、この女将の前では昔馴染みの普通の少年に戻っているかのようだった。菜摘が無邪気な声で駆け寄り、その後ろから辺古山ペコが深く頭を下げた。丁寧に挨拶をする彼女もまた、ここでは恐ろしい剣士としてではなく、一人の礼儀正しい娘として温かく迎え入れられているようだった。全員が玄関を上がり、広い土間に全員が揃った所で、女将が申し訳なさそうに切り出した。

 

「さっそくお部屋の案内ですが、少しご相談がありますの。男女で大部屋を二つご用意したのですが」

 

「あん? 何か問題でもあったのか?」

 

「はい。大きい方のお部屋を十名いるお嬢様方に使っていただくとして、残るもう一つの大部屋に、男性陣八名様がお入りになるには、少々手狭になってしまうのです。そこで、離れにある小さな個室を一つ追加で開放いたしましたので、男性の中からどなたかお一人、そちらを使ってはいただけないでしょうか」

 

 その提案を聞いた途端、日向の心に長年染み付いた劣等感が静かに鎌首をもたげた。ここにいる彼らは皆、国が認めた特別な才能を持つ本科の生徒たちだ。才能のない予備学科である自分が、彼らと同じ輪の中に混ざっていること自体が奇跡のような出来事なのである。ましてや大部屋で窮屈な思いをさせるのならば、部外者である自分が身を引くのが当然の筋合いだと、日向の心は無意識に判断を下していた。

 

「あ、それなら俺が個室を使うか? 俺は皆の旅行に、特別に参加させてもらった身だしな」

 

「そんなふうに言うのは、よくないと思うな。日向くんも私達と同じ、大事な仲間なんだから」

 

「七海の言う通りだ。日向、お前は自らを卑下しすぎている。仲間として招かれたのだから、不要な遠慮などするべきではない」

 

 日向は一歩前に出て、努めて明るい声でそう提案した。その発言に特に本科では仲の良い七海と、意外な人物として辺古山の凛とした声が響き渡った。日向は驚いて彼女達の方に目を向けた。普段の辺古山は、九頭竜の影として一歩下がった位置に控え、自分から前に出て強く主張するようなことは滅多にない。その彼女が、九頭竜の指示を待つこともなく、日向の言葉を明確に打ち消すために真っ直ぐな真紅の視線を向けてきたのだ。

 

 周囲のクラスメイトたちも、珍しく感情を露わにして日向を庇う辺古山の姿に、微かな驚きの色を浮かべていた。九頭竜でさえも目を丸くしていたが、すぐに表情を緩めて小さく頷いた。彼はおそらく、辺古山が友人を大切に思う気持ちから口を挟んだのだと、純粋な友情として受け取ったのだった。張り詰めた空気を切り裂くように、突如として左右田と花村の大きな声が響き渡った。

 

「お、おい見ろよこれ。離れの個室って、露天風呂付きのめっちゃ豪華な特別室じゃねーか」

 

「本当だね。大部屋でむさ苦しく雑魚寝するより、ずっと快適でエレガントな夜が過ごせそうだ。一流として是非とも個室に泊まりたいねぇ」

 

 手元の携帯端末で民宿の情報を調べていたらしい二人が、画面を指差して騒ぎ始めた。彼らの言葉によって、個室は誰かが我慢して使う厄介な押し付け合いの対象から、一転して羨望の的へと変わってしまった。男たちの間に、にわかに競争の空気が漂い始める。大部屋での夜の語らいも捨てがたいが、豪華な個室での優雅な一人旅気分も魅力的だ。

 

「ワシも個室を望むぞッ! ここの温泉は滋養強壮に優れていると聞く。露天風呂もそうか試したいもんじゃ!」

 

「ボクはどっちでもいいかな。ああでも、ボクみたいなのと一緒に寝るのは皆嫌だろうし一人部屋の方がいいのかな? キミはどうするの?」

 

「俺もどちらでも構わん。食事に差があるなら別だがな」

 

「テメーら、どいつもこいつも勝手なことばかり言ってんじゃねえ。こういう時は、公平にじゃんけんで決めるのが筋ってもんだろ」

 

 次々と身勝手な名乗りを上げる男子たちを制するように、九頭竜が大きな声で取り仕切り始めた。彼の提案に反対する者はなく、玄関口で男たちによる熱を帯びたじゃんけん大会が幕を開けようとしていた。

 

 静けさを保っていた旅館の玄関先は、離れの豪華な個室の権利を巡る男子生徒たちの欲望によって、瞬く間に熱を帯びた空間へと変貌していた。とりわけ周囲からの警戒を集めていたのは、フワフワとした白い髪を揺らす狛枝凪斗であった。超高校級の幸運という、常識の枠を超えた規格外の才能を持つ彼が相手では、単なる確率の勝負であるじゃんけんなど出来レースに等しい。そう直感した左右田和一と花村輝々は、どうにかして彼の勝率を下げるための心理戦に持ち込もうと、額に汗を滲ませながら詰め寄っていた。

 

「なあ狛枝。お前は超高校級の幸運なんだから、眠ってても勝っちまうだろ。せめて最初に出す手くらい教えろよ」

 

「そうだよ、君の才能は反則級なんだから、何かしらのハンデをくれないと割に合わないね」

 

「はは、大丈夫だよ。左右田クンや花村クンの希望が本物なら、ボクがどんな手を出そうが勝てるはずだよ。だから自分を信じみるといいんじゃないかな」

 

「おいコラ、はぐらかしてんじゃねぇーよ! グーか、チョキか、パーなのか!?」

 

「お前ら、仮に狛枝が教えた所で本当にその言葉を信じるつもりなのか」

 

 日向創が呆れたような声で割って入る。日向の言う通り、彼が本当のことを言ったとしても、それを裏の裏まで勘繰り始めればきりがない。左右田たちは悔しげに唇を噛み締めながらも、どうにか狛枝の表情から読み取ろうと目を皿のようにして彼を見つめ続けていた。しかし、当の狛枝本人は、周囲の喧騒などどこ吹く風といった様子で、ただ薄く笑みを浮かべて立っているだけであった。

 

 熱気が最高潮に達した所で、九頭竜冬彦の合図によっていよいよ全員での勝負が幕を開けた。腕を振り上げ、気合いと共にそれぞれの拳が突き出される。最初の勝負で早々に手を引っ込めることになったのは、驚くべきことに、あれほど警戒されていた狛枝と、筋骨隆々の巨躯を誇る弐大猫丸の二人であった。

 

「ぬおおおおっ!!? 儂としたことが、初戦で散るとは……一生の不覚じゃあああっ!!」

 

「まさかボクが一番最初に負けるなんてね。でも、これは才能に満ちた皆と同じ大部屋で、素晴らしい夜の語らいが出来るという、何よりも代えがたい幸運のために起きた小さな不運なのかもしれないね」

 

「本当に都合のいい解釈だな、お前は……」

 

「そう冷たく言わないでよ日向クン。ボクにとっては皆の希望の傍にいられることが、本当に幸せなことなんだから」

 

 弐大が天井を震わせるほどの咆哮を上げて崩れ落ちる一方で、狛枝は自身が負けたという事実を一瞬だけ不思議そうに見つめた後、すぐに心底嬉しそうな声色で自らの敗北を肯定した。彼のその奇妙なまでの前向きさに、日向は小さく溜息をつくしかなかった。

 

 最大とも言える懸念材料であった狛枝が脱落したことで、残された男子たちの顔に明らかな歓喜と焦燥が浮かび上がる。その後も勝負はテンポよく進み、一人、また一人と勝者の輪から脱落していった。そして、最後に勝ち残ったのは、日向と超高校級のメカニック・左右田の二人であった。

 

 静まり返った土間で、二人は鋭い視線を交わす。左右田は額に大量の汗を浮かべ、絶対に豪華な個室をもぎ取ってやるという執念を全身から放っていた。対する日向も、ここで引き下がるわけにはいかなかった。拳が振り下ろされ、互いの手が空中で静止する。日向の握りしめた石の形が、左右田の突き出した二本の指を無慈悲に打ち砕いていた。

 

「うおあああっ!! ここまで来て負けるとか、マジかよぉ! おい、日向っ! 個室で寝る権利はお前のもんだが、楽しむ権利は別だからな。後で何がなんでも個室に行ってやるからなっ」

 

「はは、遊びにくるのは全然構わないぞ」

 

「へぇ、こうなったんだ。まあ、日向クンは才能を持たない予備学科の人間なんだからね。ボクたち本科の輪から外れて一人だけ隔離されるのは、当然の摂理というか。妥当な結果だよね」

 

 左右田が頭を抱えて、そしてすぐに復帰すると日向の部屋に遊びに行く約束を取り付けるのだった。彼の切り替えの速さに感心しながら、分け隔てなく接してくれる彼に快く受け入れようする日向だった。その傍らから、狛枝が一切の悪気を感じさせない、だからこそ残酷な言葉を放った。日向の胸の奥にある劣等感を的確に抉るようなその発言に、日向の顔が微かに強張る。しかし、その場に気まずい空気が流れるよりも早く、日向の隣に立っていた七海千秋が、無言のまま狛枝の脇腹に拳を押し当てて鋭く突いた。

 

「うぐっ……七海さん、突然物理的な攻撃をするのはやめてくれないかな。結構痛いんだけど」

 

「狛枝くんは、口が悪いよ。日向くんも私たちの仲間なんだから、そういう言い方はよくないと思うな」

 

「はは、ごめんごめん。ボクとしたことが、つい口が滑ってしまったみたいだ」

 

「七海、ありがとうな。狛枝、今回は輪から外されたんじゃなくて、じゃんけんで皆から勝ち取って得たものだ。俺は胸を張って、ありがたく個室使わせてもらうよ」

 

「……ふーん、そう」

 

 七海の不器用ながらも温かい気遣いに、日向はふっと表情を和らげた。そして狛枝に自分の思いを口にした。自分が予備学科であるという事実は変わらない。しかし、こうして彼らが自然な形で自分を受け入れ、怒ったり庇ったりしてくれるという関係性が、日向にとってはたまらなく心地よかったのだ。狛枝は日向の発言をじっと聞いた上で、日向を見送るのであった。

 

 結果として日向が離れの個室を一人で使うことが正式に決定し、女将の案内でそれぞれの部屋へと移動を始める。案内された静かな離れへの道取りを、日向は足取りも軽く進む。案内された離れの個室に荷物を下ろすと、簡素ながらも手入れの行き届いた畳の匂いと、窓の外に広がる専用の露天風呂を眺めながら、静かな高揚感を噛み締める。だがいつまでもそうしてはいられないと、水着を着て外に出るのだった。

 

 ──────

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 ──

 

 旅館から少し歩いた先には、見渡す限りの青い海とどこまでも続く白い砂浜が広がっていた。夏の強烈な太陽が容赦なく照りつけ、波打ち際にはきらきらと無数の光の粒が反射している。潮の香りをたっぷりと含んだ海風が吹き抜け、日常の喧騒から切り離された解放感がその場を包み込んでいた。それぞれ着替えを終えた生徒たちが砂浜に集まり始めると、波の音をかき消すほどの賑やかな歓声が上がった。特に男性陣の視線は、色とりどりの水着に身を包んで現れた女性陣の姿に釘付けになっていた。

 

「おおっ、ソニアさん! その水着、最高に似合ってますぜ!!」

 

「ありがとうございます。この日のために新調いたしましたの」

 

 超高校級の王女・ソニアの優雅で気品溢れる姿に、左右田和一は顔を真っ赤にして興奮の声を上げた。彼女の白い肌を美しく引き立てる水着は、まさしく王族の姫君が休日に見せる無防備な姿そのものであり、周囲の空気を一層華やかに彩っていた。

 

「いやあ、素晴らしい。まさに絶景! 涎が止まりませんなぁ!!」

 

「ふぇぇぇぇっ!! ゲロ豚の醜い姿を見せてすみませんっ!!」

 

 花村輝々が鼻の下を伸ばしながら女性陣全体を眺め回して下世話な感想を漏らすと、日頃からオドオドとしている超高校級の保険医の罪木が泣き叫ぶ。卑下するような物言いだが、おそらくクラスで一、二を争う彼女のスタイルは、水着になったことでより弾けんばかりの魅力を放っていた。そんな喧騒の中、少し遅れて砂浜に姿を現した辺古山の姿に、日向創は見知っているのに思わず息を呑んだ。

 

 辺古山が身に纏っていたのは、純白の生地で胸元を覆い、腰には柔らかなパレオが巻かれた清楚な水着である。それは先日、日向と一緒にショッピングモールの試着室で選んだ、あの舞園さやかの写真集と同じデザインのものだった。普段の黒を基調とした武骨な装いからは想像もつかないほど、女性らしい曲線と透き通るような白い肌が残酷なまでに強調されている。風に揺れるパレオの隙間からは、引き締まった長い脚が滑らかに伸びていた。

 

「ペコ、お前……その水着、メチャクチャ綺麗じゃねえか。アイドルにだって、負けてねぇぞ」

 

「もったいないお言葉です、冬彦坊っちゃん。少し派手かと思いましたが、選んで良かったと心から思います」

 

 九頭竜は目を丸くしながら、幼馴染の魅惑の水着姿に感嘆の声が溢れる。愛する男からの真っ直ぐな賛辞を受け、辺古山の頬は瞬時に朱色に染まった。彼女の口元には、これまで見たどんな表情よりも嬉しそうな、純粋な喜びを噛み締めるような微笑みが浮かんでいた。

 

 その瞬間、辺古山はふと顔を上げ、少し離れた場所に立っている日向と視線を交差させた。真紅の瞳の奥に、言葉には出来ない複雑な熱が揺らめいているのを、日向は確かな実感として受け取った。九頭竜に褒められた水着。だが、それを一緒に選んだのは他でもない日向なのだ。思わず日向の脳裏に、ショッピングモールの極めて狭い試着室での光景が鮮明にフラッシュバックしてしまう。

 

「おおっ、辺古山もすげえな。スタイル抜群じゃねえか」

 

「うーむ。辺古山さんが黒じゃなく白で来るなんて脱帽だ。ぼくの下半身に熱が集まって、ウェルダンしちゃいそうだよっ!」

 

 左右田がソニアから視線を移し、辺古山の大胆な姿にも遠慮のない称賛と興奮の声を上げた。花村もまた、彼女の豊満な胸元や引き締まった腹部を舐め回すように見つめている。その無遠慮な視線に気付いた九頭竜の顔色が一瞬にして険しくなった。

 

「てめえら、ジロジロ見てんじゃねえ! 特に花村はペコの前で、卑猥なこと言ってんじゃねぇーよ!!」

 

 九頭竜の容赦のない怒声が海辺に響き渡る。本気の殺気を伴ったその声に、左右田と花村は慌てて首をすくめ、後退りをした。周囲の笑い声が響く中、日向は自分も不埒な目で見ないようにしないとと気を引き締めるのだった。辺古山は九頭竜との会話の合間に、ふと顔を上げて日向の姿を視界に捉えた。彼女は何かを伝えるように、あるいは純粋に日向を自分たちの輪に誘おうとして、彼の方へと一歩足を踏み出そうとした。

 

 しかし、その足が砂を蹴るよりも早く、日向の隣から柔らかな手が伸びてきて、彼の手首をきゅっと掴んだ。

 

「日向くん、早く行こ? 海の水、気持ちいいよ」

 

 いつの間にか横に立っていた七海千秋である。彼女は薄手のパーカーを羽織っており、その下にはフリルの付いた純白の水着を身に纏っていた。辺古山や罪木と同等以上の豊満な胸が揺れ、その胸元に一点でだけあるほくろが日向の視線を思わず引き寄せる。彼女はそんな日向の視線に気付かず、波打ち際へと引っ張っていくのだった。

 

「おいあんま引っ張んないでくれっ! ちゃんとついて行くからっ、あんまり急ぐと転ぶぞ!」

 

 日向は七海のペースに合わせるように歩き出しながら、もう一度だけ辺古山の方を振り返った。彼女は前に出しかけた足を止め、その場に縫い付けられたように立ち尽くしていた。日向と視線が絡んだ瞬間、彼女の真紅の瞳に明確な動揺と、言い知れぬ暗い感情が走るのを日向には見て取れた。が、九頭竜や他の皆がいる前で、必要以上に絡むのは迷惑になるだろうと、日向は気が付かない振りをするのだった。

 

 日向は七海と共に濡れた砂浜を歩いていた。いつ間にか繋いでいた手は温かく柔らかで、同年代の少女らしい安心感に満ちている。不意に辺古山と強く握りしめあった手の感触を思い出してしまうが、日向は頭を振って振り払おうするのだった。そうして波打ち際を少し進むと、観光客で賑わう一角から、砂浜を揺るがすような轟音と歓声が上がった。

 

「おいおい、あいつらやり過ぎだろ。観光客が引いてるぞ」

 

「弐大くんも終里さんも、手加減って言葉を知らないみたいだね」

 

 日向が呆れたように指差した先では、弐大猫丸と終里赤音が、周囲の観光客たちを巻き込んでビーチバレーの試合を繰り広げていた。しかし、彼らのそれはもはや球技という枠を超えていた。弐大が砂浜割るように跳躍し、放たれたスパイクは砲弾のような速度で砂浜に突き刺さって巨大なクレーターを作っている。終里もまた、野生動物のような瞬発力で砂を蹴り上げ、あり得ない角度からボールを打ち返していた。常人離れした超高校級の身体能力を見せつけられ、対戦相手の観光客たちはただ呆然と立ち尽くすことしか出来ていない。

 

 七海がその惨状を見て、困ったように柔らかく笑う。彼らの規格外の才能を目の当たりにするたび、日向は自分が予備学科であるという現実を突きつけられる気がしていたが、今は不思議と嫌な感情は湧かなかった。むしろ、彼らの馬鹿馬鹿しいほどの全力の姿が、日向の抱える昏い情念をほんの少しだけ和らげてくれるような気がした。

 

 二人はその場を離れ、海岸沿いに建ち並ぶ海の家へと足を向けた。立ち込める潮の香りに混じって、ソースの焦げる香ばしい匂いが漂ってくる。その中の一軒の軒先で、日向は信じられない光景を目にした。

 

「あいつ、すごい食欲だな。普通ならお腹壊さないか心配になるレベルなんだけど、あいつに限ってはそれはないか」

 

「うん。前に花村くんがね、満漢全席を作ってくれたんだけど、全部一人で食べっちゃったんだよ。ピンクのあくまかと思ちゃったよ!」

 

「はははっ! 本当か、それ? 見てみたかったなー」

 

 日向が目を丸くして言った通り、そこには超高校級のアニメーターに扮した詐欺師が座り込み、山盛りの氷菓と大盛りの焼きそばを猛烈な勢いで交互に口に放り込んでいた。七海の思いで話を聞き、自分が普段は入れない本科では、そんなこともあるんだなと少し寂しさも感じた日向。だが七海が楽しそうに話すので、自然と笑みが浮かんでいた。そうして話し込んでいると、不意に調理場の奥から、聞き慣れた甲高い声が響いた。

 

「ノンノンノン。そこの店主、火加減が全然なってないよ。ぼくに貸してごらん」

 

「おい花村、勝手に厨房に入って大丈夫なのかよ。迷惑じゃないか?」

 

「むしろ感謝してほしいものだけどね。超一流のぼくのテクニックで、この海の家を三ツ星クラスに変えるんだからね!」

 

 日向が慌てて声をかけたが、超高校級の料理人である花村輝々は、すでに店主からフライパンを奪い取って指導を開始していた。彼の目には、観光地特有の雑な調理手順がどうしても許せなかったのだろう。花村は自信満々にウィンクを投げると、目にも留まらぬ華麗な手捌きで鉄板の上の食材を操り始めた。安価なはずの焼きそばの具材が、彼の技術を通すことでまるで高級料理のような芳醇な香りを周囲に撒き散らし始める。その圧倒的な匂いにつられて、周囲を歩いていた海水浴客たちが次々と海の家の前に列を作り始めた。

 

「花村の料理、本当にすごいな。客が次から次へと来てる」

 

「美味しいものは、みんなを幸せにするからね。私達も後でもらおうか」

 

「そうだな。落ち着いた頃に買いに行ってみるか」

 

 日向は七海と笑い合いながら、手際よく料理を提供する花村の姿を眺めていた。仲間たちと過ごすこの時間は、間違いなく楽しいものであり、日向の心を満たすものであった。遠くで澪田による突発ライブに、歓声を上げている観光客たちの姿を眺めながら歩みを進めていると、前方に一際目立つ集団がいることに気がついた。

 

 波と戯れるというよりも、完全な潜水探索を目的としているかのような重装備に身を包んだ田中眼蛇夢と、彼の語る未知の生物の話に目を輝かせているソニア・ネヴァーマインド。そして、その二人の間にどうにかして割って入ろうと必死に声を張り上げている左右田和一である。彼らの少し後ろには、引率の教員である雪染ちさが付き添っていた。田中が日向たちの姿を認めるなり、大仰な身振りで手招きをしてきた。

 

「ほう、貴様等も我が魔力に惹かれて来たか。どうだ? 我らと共に、この広大な蒼き深淵の探索へと赴く勇気が貴様等にはあるか?」

 

「ダイビングするってことか? 誘ってくれるのは嬉しいけど、俺たちはもう少し砂浜の方を見て回りたいから遠慮しておくよ」

 

「あら、そうですか。それはとても残念ですわね」

 

「お前らも、熱中症にならないように気をつけて回れよな」

 

「先生はこの個性的なメンバーから一番目を離してはいけないと直感しているから、日向くんたちは羽目を外しすぎないように楽しんでね」

 

「はーい。ちさ先生も色々と大変だね。それじゃあ、いってらっしゃい」

 

 日向と七海が揃って手を振ると、雪染も元気よく手を振ってずんずんと海へ向かって歩き出す田中たちの後を追っていった。彼らの賑やかな後ろ姿を見送った後、日向たちは再びゆっくりとした足取りで砂浜の散策を再開した。太陽の光を反射してきらきらと輝く海面を眺めながら、七海がふと目を細めて口を開く。

 

「田中くん達もよくダイビングなんてする気になるよね。深海には死神のように恐ろしい巨大魚やブレスを吐く怪獣がいるのにね」

 

「それはお前が普段遊んでいるゲームの話だろ。ここの海は安全に整備されている海水浴場だから、そんな危険なことはないさ」

 

「うーん。この辺りの海って他じゃ見たことの魚が釣れるってネットに書いてあったんだよね。もしかしたらいるかもしれないよー」

 

「え、そうなのか? でも流石に鮫のような大きいのがいたら、海水浴事態が禁止されるだろ? だから大丈夫じゃないか」

 

「そうかもね。ちさ先生や田中くんもいるし、案外遭遇しても大丈夫かも。うん、私達もそろそろ行こうか」

 

 日向がゲーム脳な不安にツッコミを入れると、七海は少しだけ不満そうに頬を膨らませて珍しい魚が見れることを口にする。そんな危険な海で海水浴が許可されるわけないと、

 日向は杞憂だと告げる。七海は納得すると、普段の穏やかな表情に戻った。そしてじりじりとした暑さに耐えかねて日陰を探していると、遊歩道の脇に冷たいアイスを売る小さな出店を見つけた。日向は財布を取り出すと、ピンクと白のウサギのアイスを二つ購入し、そのうちの一個を隣にいる七海へと差し出した。

 

「ほら、暑いから冷たいものでも食べて少し休もう」

 

「わあ、ありがとう日向くん。冷たくてすごく美味しそうだね。このウサギもカワイイよ」

 

 七海は両手で受け取ると、はにかむような愛らしい笑顔を浮かべた。冷たい氷菓を少しずつ口に運ぶ彼女の姿は、夏の海辺の景色に酷く馴染んでおり、日向の心に穏やかな安らぎをもたらしてくれた。その平和な時間が不意の出来事に破られたのは、次の瞬間のことだった。

 

「はい、チーズ。ふふ、二人ともすごく自然で良い笑顔だよ」

 

「え、小泉!? いつの間にいたんだよ」

 

「今通りがかった所。皆を撮って回ってるんだ」

 

 軽快な機械音が鳴り響き、少し離れた場所から小泉真昼が手にしたカメラの画面を覗き込みながら、満足げな笑みを浮かべていた。彼女の肩からは立派なカメラが下げられており、どうやらクラスメイトたちの夏の思い出を記録して回っているらしい。

 

「急に撮るなよ。不意打ちなんて、ちょっと恥ずかしいじゃないか。七海もそうだろ?」

 

「恥ずかしがることなんてないわよ。今の二人の顔、とても素敵だった。仲がいいのがはっきり分かるくらいね! 後で現像して渡してあげるから楽しみにしててよね」

 

「仲が良いか……うん。じっくり見たいから、後で絶対写真貰うね」

 

「七海ぃ、まあお前が良いならいいけどさ」

 

 日向が照れ隠しに抗議するも、超高校級の写真家である小泉はまったく意に介する様子もなく、むしろ自らの撮影した一枚の出来栄えにご満悦の様子だった。七海も仲が良いという言葉にゆるゆると笑みを浮かべ、写真を楽しみにしているようだった。こうなると日向は不意打ちの写真は消せそうにないなと諦めを覚えるのだった。

 

 ふと視線をずらすと、小泉の背後にはさらに二人の少女が付き従っていた。金髪を大きなリボンで一つに結んだに西園寺日寄子と、おどおどとした態度で周囲の顔色を窺っている罪木蜜柑である。

 

「ちょっとゲロ豚ビッチ、あんまり私から離れないでよね。あんたの鈍臭い歩き方じゃ、そこら辺の人にぶつかって迷惑でしょ。それとも、ド底辺の男と絡み合いたいの?」

 

「ひいぃっ、ご、ごめんなさいぃ。私を見捨てないでくださぁいぃ!」

 

 西園寺が容赦のない毒舌を浴びせ、罪木が涙目でそれにすがりつく。一見すると陰惨ないじめの光景に見えるが、日向と七海はその裏側にある真実にすぐに気がついた。周囲を見渡せば、酒盛りをして騒いでいるガラの悪い観光客の集団がいくつか点在している。西園寺は口では厳しい言葉を並べ立てながらも、その実、気弱で隙だらけの罪木がそういった厄介な連中に絡まれないよう、自らのすぐ背後に置くことで彼女を安全な場所へと誘導していたのである。

 

「西園寺さんは、相変わらず素直じゃないね」

 

「そうだな。なんだかんだで面倒見がいいというか、酷く不器用なやつだ」

 

 七海の呟きに、日向も同意の言葉を返す。彼女たちの間に流れる奇妙な信頼関係を目の当たりにし、二人は生温かい眼差しで彼女たちを見守るのであった。

 

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 七海が日向を連れ去った少し後、澪田唯吹が持ち込んだ楽器から放たれる突発的な熱唱に合わせ、観光客たちが波打ち際で歓声を上げている。その喧騒から少し離れた大きなパラソルの下で、辺古山ペコは九頭竜冬彦、そして彼の妹である菜摘と共に和やかな時間を過ごしていた。先程辺古山がスイカ割りで一刀両断し、二の太刀でで細かく刻んだスイカを味わいながら、冷たい飲み物と共に他愛のない話題で盛り上がる。こうして三人で並んで座り、穏やかに言葉を交わすのは久しぶりのことであった。

 

「お兄ちゃん、もう海に入らないの。せっかく水着に着替えたのにもったいないよ」

 

「うるせえな、今は少し休んでるだけだ。テメーこそ日焼けがどうとか言ってたくせに、はしゃぎすぎじゃねえのか」

 

「いいじゃん、せっかくの海なんだし。ペコもそう思うでしょ。お兄ちゃんをもっと引っ張っていってあげてよ」

 

「適度な休息も必要なことです。無理をして体調を崩してはいけませんから」

 

「ちょっとペコ、固いって。お兄ちゃんと学校では今までの関係チャラにしたんでしょ。私にもそうしてよ」

 

「ん、分かりま……分かった、そうする」

 

「ああ、普通に話そうぜ。同級生の、カップルみたいにな」

 

「お兄ちゃん顔まっかー」

 

 三人の言葉のやり取りが、心地よい波音に溶けていく。本来であれば、これこそが辺古山の望んでいた完璧な幸福の形であった。愛する男が隣におり、幼い頃から妹のように可愛く思っていた少女が笑っている。自分の守るべき大切な人たちが、この希望に満ちた学園の旅行を心から楽しんでいるのだ。

 

 それなのに、辺古山の真紅の瞳は、無意識のうちに別の場所へと彷徨っていた。先ほど、七海千秋に手首を引かれて歩き去っていった日向の後ろ姿が、どうしても脳裏から離れないのである。日向は今、どこで何をしているのか。七海と二人きりで、どのような表情をして笑い合っているのか。それを想像するだけで、胸の奥にどろどろとした黒い感情が湧き上がり、下腹部の奥底が微かに熱を帯びて疼き始める。愛しい九頭竜が隣にいるというのに、自分の心はあの男を求めてひどく乱れている自らの内に巣食う醜い感情に気付き、辺古山は膝の上で固く拳を握り締めた。

 

「すまない、少し手洗いに行ってくる」

 

「おう。お前に限ってあり得ねぇが、変な観光客とか気ぃつけろよ」

 

「フッ、その時は私の無刀術で返り討ちにする」

 

 辺古山は短い言葉を残し、立ち上がってパラソルの下から離れた。背中に向けられた九頭竜の気遣う声を振り切るようにして、彼女は砂浜を足早に歩き出す。手洗いというのは口実であった。彼女の鋭い視線は、無意識のうちに日向と七海の姿を探して周囲を立ち回っていた。自分がなぜここまで日向の動向に執着しているのか、辺古山自身にも完全に制御出来なくなっていた。建物の陰に差し掛かり、少し人気が少なくなった通路を曲がろうとしたその時である。クラスメイトの狛枝と鉢合わせになる。

 

「日向クンと七海さんなら、あっちの方角へ向かっていったよ」

 

「ッ── 何のことだ。私は行き先を尋ねた覚えはないが」

 

「あれ、違ってた? てっきり彼らを探しているのだとばかり思っていたよ」

 

「私はただ散歩をしているだけだ。妙な勘繰りはやめてもらおう」

 

 不意に投げかけられた言葉に、辺古山は弾かれたように足を止め、大きく目を見開いた。まさか自分達の関係を知られていると、辺古山の脳裏にあり得ざる可能性が過ぎる。確かに最近は気が抜けていたかもしれないが、それでクラスメイトにバレるほど警戒を怠ってはいないと辺古山は自負していた。狛枝は悪意のない微笑みで口を再び開く。

 

「ははっ、これは失礼……ちょっと、気になってることがあるんだけどいいかな? 近頃辺古山さんの剣筋は、以前とは比べ物にならないほど凄まじいって。学園内でも評判になっているんだけど、何故だろうね?」

 

「日々の鍛錬を怠っていない。ただそれだけのことだ」

 

「うん、それもそうだよね。でもね、ボクはこう思うんだ。日向クンという新しい友達が出来て、九頭竜クンとの関係性を周囲に公言したからこそ、精神的な迷いが晴れたじゃないかって。才能のない日向クンが君の踏み台となって、辺古山さんがより強い希望として輝いたんだよっ! ボクはそれが、たまらなく嬉しいんだ……!」

 

「お前の理屈は相変わらず理解に苦しむな。私は先に行かせてもらう」

 

 辺古山は冷たく言い放ち、自分自身の体を抱きしめる狛枝の横を通り過ぎた。背後から見送る狛枝の視線が、どこまで自分の裏側を見透かしているのか。それを考えるだけで背筋が凍る思いだったが、同時に、狛枝の口にした言葉が彼女の心に重くのしかかっていた。日向が自分の踏み台になっている。

 

 その指摘は、ある意味で的を射ていた。愛する男を喜ばせるための技術を磨くという大義名分のもと、自分は日向の肉体を都合よく利用している。そしてその過程で、かつてないほどの激しい快楽を知り、剣士としての感覚までが研ぎ澄まされてしまった。辺古山は自嘲気味に唇を噛み締め、波の音にかき消されるようにして、再び日向の姿を探すために歩みを進めるのだった。

 

 海沿いの遊歩道を抜け、人影のまばらな防波堤の陰へと差し掛かった時、辺古山ペコの足がぴたりと止まった。視線の先、少し離れた静かな砂浜に、探していた二人の姿があった。日向創と七海千秋である。二人は並んで立ち、どこまでも続く青い海をただ静かに見つめていた。波の音に混じって、彼らの穏やかな声が微かに風に乗って届いてくる。

 

「ここは人が少なくて静かだな。海風がすごく心地よく感じるよ」

 

「うん。こうして日向くんと一緒に海を見ていると、なんだかすごく落ち着く気がするな」

 

 言葉を交わし合う二人の横顔は、これ以上ないほどの穏やかな幸福に満ちていた。辺古山は物陰に身を潜めたまま、その光景を見つめていた。七海千秋は、辺古山にとっても大切なクラスメイトであり、確かな親交を結んできた者である。彼女の誰に対しても分け隔てなく接する優しさは、辺古山も深く好ましく思っていた。だからこそ、七海が日向に向ける視線の奥にある熱量に、辺古山は気付いていた。単なる友人としての親愛の情ではなく、異性に対する無意識の好意そのものだと。

 

 本来であれば、初めて出来た大切な男友達と、心優しいクラスメイトの関係を祝福するべき状況である。日向が七海と結ばれ、眩しい太陽の下で健やかな日々を送ることは、彼にとって最も正しい道のはずだった。だが辺古山の胸の奥底には、自分でも完璧には測りきれない思いが渦を巻いていた。そんな時、さらに辺古山の心を乱す言葉を七海は紡ぐ。

 

「……ねぇ日向くん。夏休みって何か大きい用事とかある?」

 

「ん? いや今の所は入ってないぞ」

 

「そっか。なら、今度私の家に遊びにこない? 日向くんと、その、ゲームとかしたいなって」

 

「七海の家に行ってもいいのか!? それは、すごい楽しみだな。他にも、誰か呼ぶのか……?」

 

「今の所は、呼ばないでもいいかなって思ってるよ」

 

 七海の大胆な家への誘い。いくら鈍かろうと、それが意味すること察すること出来た日向。彼の顔が赤く染まったのは、夕日のせいだけではないのは明白だった。七海も水着の上に羽織っていた、パーカーを被り赤くなった顔を隠すのであった。二人での予定に祝福しなければならないという理性の声に反して、胸の奥を冷たい刃でゆっくりと抉られるような痛みが走る。日向のあの優しく温かい眼差しが七海だけに向けられていること、彼が自分以外の女性とあのような平穏で満ち足りた時間を共有しているという事実が、どうしようもなく苦しかった。

 

 辺古山はこれ以上、二人の幸せな笑顔を見ていられなかった。胸を掻きむしりたくなるほどの嫉妬と、それを抱いてしまった激しい自己嫌悪に耐えきれず、辺古山は足音を立てないように静かに背を向けた。眩しすぎる光景から目を背け、行き場のない情念を抱えたまま、彼女は逃げるようにその場から立ち去るのだった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 海での活気あふれる時間を満喫した一行は、夕暮れが近づく頃に旅館へと戻ってきた。日差しをたっぷりと浴びて心地よい疲労を抱えた生徒たちに対し、女将からの粋な計らいが待っていた。特別に短い時間ではあるものの、広い大浴場を貸し切りで使わせてもらえることになったのだ。

 

 湯煙が立ち込める広い浴場に足を踏み入れると、ひんやりとした脱衣所から一転して温かな空気が全身を包み込んだ。日向創は手早く体を洗い流すと、他のクラスメイトたちと共に広々とした湯船へと肩まで浸かった。程よい湯加減が遊び疲れた筋肉の芯まで染み渡り、みるみるうちに肉体が回復していくような心地よさを覚える。湯船の中で手足を伸ばしてくつろいでいると、隣に浸かっていた弐大が身を乗り出し、日向の肩から腕にかけての筋肉に大きな手で触れてきた。

 

「おぅ、日向。少し見ない間に良い体つきになったのう」

 

「くすぐったいって。でも、日々鍛え抜いている弐大に比べたら俺なんて全然だろ」

 

 日向がこそばゆさに身をよじりながら謙遜して笑うと、弐大は豪快な笑い声を上げて湯面を揺らした。日向自身、最近の特訓や日々の鍛錬で体が引き締まってきた自覚はあったが、超高校級のマネージャーとして極限の肉体を持つ弐大に褒められるのは純粋に嬉しかった。

 

 そんな二人のやり取りを、少し離れた所からじっと見つめている視線があった。左右田和一と花村輝々の二人である。彼らの視線は日向の上半身だけではなく、湯の底で揺らぐ下半身へと向けられており、やがて信じられないものを見たかのように目を丸くした。

 

「おいおい、いくらなんでも日向と弐大はデカ過ぎるだろ」

 

「本当だね。ぼくも自分のものには少しばかり自信があったけれど、あそこまで規格外の代物を見せつけられると自信をなくしそうだよ」

 

 左右田の呆れたような声に、花村も深い溜息を交えて同意した。日向が体格でも股間にぶら下がる雄の象徴においても、これほど立派なものを持っているとは予想していなかったのだろう。彼らの率直すぎる感想に、日向は照れ隠しに彼等へ湯をかけて誤魔化すしかなかった。

 

 そして、その会話をすぐ傍で聞いていた九頭竜冬彦もまた、複雑な表情を浮かべていた。彼は自分の小柄な体格を気にしており、湯船の端で身を縮めるようにしながら日向の体をチラチラと盗み見ていた。

 

「チッ、やっぱり牛乳が飲めれば、オレも色々と伸びたってのによぉ。やっぱ、デカい方が良いよな……?」

 

「どう、だろうな。大きいと嫌がる人もいるらしいから、ケースバイケースだろ。相手次第、じゃないか?」

 

「そうだな……あいつが満足してるって言うだから、今がベストなんだって思うしかねぇーよな」

 

 九頭竜の悔しさが滲み出た言葉を聞き、日向は苦笑いしながら言葉を返した。九頭竜もどうにも出来ないことを悩むより、彼女が満足しているという言葉を信じることにしたようだった。日向はそれ以上何も言えなかった。辺古山が九頭竜との行為に不満があろう筈もない。日向はそう思い、そうだと信じることにしたのだから。

 

 広々とした大浴場の暖簾をくぐり、火照った身体を心地よい夜風で冷ましながらロビーへと足を踏み入れると、そこにはすでに湯浴みを終えた女子生徒たちが集まっていた。彼女たちは皆、旅館が用意したお揃いの浴衣に身を包んでおり、普段の制服姿とは打って変わった艶やかで涼しげな装いが、湯上がりの上気した肌をより一層引き立てていた。

 

「うおーっ、女子たちの浴衣姿、たまんねえな」

 

「ったく、お前は懲りねぇやつだな」

 

 周囲の目を気にすることなく歓声を上げる左右田和一に、九頭竜が宥めていた。男たちの他愛のない喧騒を眺めながら、日向創は小さく息を吐き出して歩みを進めた。ふと視界の端に、談話室の隅で向かい合って座る二人の少女の姿が映った。小泉真昼と九頭竜菜摘である。二人は冷たいお茶の入ったグラスを手に持ちながら、何事かを穏やかに語り合っているようだった。

 

「ダイビング組の写真、綺麗に撮れてるわね。流石は超高校級の写真家って感じ」

 

「ふふ、でしょ。こっちの菜摘ちゃんの笑顔もすごく自然でよかったわよ」

 

「それ、あんま他の人に見せびらかせないでよねっ。特にサトウさんとか!」

 

 カメラの画面を覗き込みながら、屈託のない笑みを交わし合う二人。その光景を目の当たりにし、日向の胸の奥に深い感慨が込み上げてきた。菜摘が希望ヶ峰学園の予備学科に転入してきた当初は、小泉の友人と対立していた。だが今では本科の生徒である小泉と和やかに談笑している姿は、奇跡のような変化であった。日向が安堵の念を抱きながら立ち止まっていると、不意にすぐ傍から声をかけられた。

 

「日向くん、温泉すごく気持ちよかったね」

 

「ああ、そうだな。疲れもすっかり取れた気がするよ」

 

 振り返ると、そこには薄紅色の浴衣を身に纏った七海千秋が立っていた。彼女の柔らかい髪からは微かに湯の香りが漂い、無防備な首筋が照明の光を受けて滑らかに浮かび上がっている。昼間の海辺で彼女に手首を引かれた記憶が蘇り、日向はどこか気恥ずかしさを覚えて視線を彷徨わせたが、当の七海は普段と変わらない様子で、手元のゲーム機を淡々と操作しながら微笑んでいた。

 

 彼女のその穏やかな空気に救われ、日向の張り詰めていた肩の力も少しずつ抜けていくのを感じた。その時、長い廊下の奥から静かな足音を立てて歩いてくる一人の女性に、日向の目は完全に釘付けになった。湯上がりの長い銀髪を下ろし、濃紺の帯できっちりと浴衣を着こなした辺古山ペコである。日頃の厳しい鍛錬で培われた凛とした姿勢と、浴衣という和の装いがこれ以上ないほど見事に調和しており、息を呑むような美しさを放っていた。彼女が足を運ぶたびに、浴衣の裾から覗く白い足首が艶めかしく揺れる。

 

 日向と辺古山の視線が、空中で真っ直ぐに交差した。彼女の真紅の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ隠しきれない熱情の揺らぎが見えた気がした。しかし、日向が何か言葉を発するよりも早く、軽快な足音と共に澪田唯吹が二人の間に割って入ってきた。

 

「おやおやー。創ちゃん、さっきからペコちゃんのこと見過ぎじゃないですかー」

 

「そ、そんなわけないだろ。ただ、浴衣が珍しいと思っただけだ」

 

「本当っすかー? じゃじゃ、唯吹の浴衣はどうすっか?」

 

「ああ、可愛いと思うぞ」

 

 澪田のからかうような高い声に、日向は慌てて視線を逸らし、ぎこちない言い訳を口にした。そのまま澪田は日向に絡むと、自分の浴衣はどうだと言うので率直な感想を言う。口を開かなければ、パンクな彼女と濃淡の浴衣は以外にもマッチしており、可憐に見えた。日向の言葉に澪田は本気で照れているのか分からない声色で騒ぎ立てる。

 

「ふふーん! 創ちゃんに褒められたっすー! 千秋ちゃんより、一歩フラグが進んじゃいましたかねー!」

 

「ふーん。日向くん、私の浴衣はどう? 防御力、もうちょっと下げたほうがいい?」

 

「七海も乗っかってくるのか!? こんな所で着崩すなよっ!」

 

 周囲の生徒たちもそのやり取りに釣られて集まってきてしまい、日向はそのまま彼らの雑談の輪に巻き込まれていった。辺古山は静かに九頭竜の傍へと歩み寄り、結局、日向が彼女と言葉を交わす機会はまだ訪れなかったのだった。

 

 その後、一行は旅館の仲居に案内され、宴会が用意された大広間へと移動した。畳敷きの広大な空間には、すでに全員分の立派な御膳がずらりと並べられている。部屋に足を踏み入れた瞬間、出汁の芳醇な香りと、焼けた醤油の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、遊び疲れた生徒たちの食欲を猛烈に刺激した。それぞれが指定された座布団に腰を下ろすと、上座に陣取った超高校級の料理人である花村輝々が、得意げに胸を張って口を開いた。

 

「さあさあ皆さん、今宵の宴はぼくとこの旅館の料理長が愛を込めて共同制作した特別メニュー! 存分に味わってくれたまえよ!!」

 

「おお、すごいご馳走だな。花村、お前が全部仕切ったのか?」

 

「もちろんさ。地元の新鮮な山菜の天ぷらに、極上の煮付け、そして何よりメインディッシュはそこのダイビング組が捕まえてきた獲物だよー!」

 

 日向の問いかけに、花村は満面の笑みで御膳の中央に鎮座する大皿を指し示した。そこには、氷の上に美しく盛り付けられた透明感のある白身魚の刺身が、花びらのように並べられている。昼間に重装備で海に潜っていた田中眼蛇夢、ソニア・ネヴァーマインド、左右田和一の三人が仕留めてきたという巨大な魚だと説明された。

 

「我らが深淵より引き摺り出した魔海獣の肉、しかと堪能するがよい」

 

「ええ、とても歯応えがあって素晴らしい味わいですわ。田中さんの指揮は見事でしたのよ」

 

 雪染ちさの音頭で一斉に食事が始まると、大広間は瞬く間に歓声と感嘆の声に包まれた。日向も箸を伸ばし、山菜の天ぷらを口に運ぶ。サクッとした衣の食感の後に、山の息吹を感じさせるほろ苦さと甘みが広がり、思わず頬が緩んだ。続いて、メインである魚の刺身を醤油に少しだけつけて口に放り込む。引き締まった身は驚くほどの弾力があり、噛み締めるたびに濃厚な旨味が舌の上で溶けていく。これまでに食べたどの海鮮よりも美味であり、よくやったと言わんばかりに日向達は料理の立役者である田中達に拍手をする。三人は誇らしげで、各々がその時の話しをするのだった。

 

 しかし、食事が終盤に差し掛かった頃から、日向は自らの身体に奇妙な変化が起きていることに気がつき始めた。胃の腑に落ちた料理が消化されるにつれ、腹の底からじわじわと温かな熱が湧き上がってくるのだ。しかも肌の表面が異常に敏感になり、浴衣の生地が擦れるだけの感触すら、奇妙なくすぐったさを伴って脳裏に響いた。

 

 視界がほんの少しだけ揺らぎ、周囲の色彩が異様に鮮やかに見える。日向は熱い呼気を吐き出しながら、周囲の様子を窺った。異変を感じているのは自分だけではなかった。大広間に集まった生徒たちの間に、明らかに尋常ではない浮ついた空気が蔓延している。

 

「なんだか今日、すげえ楽しくなってこねぇか? テンション上がってきたぜ!」

 

「ああ、やけに体が熱いというか、妙な気分だ。頭の芯がぼんやりする。でも楽しいな……!」

 

「うっし、そうと決まったら……相撲するか!」

 

「おっしゃ!! ならオレが相手になるぜ!!」

 

 隣の席に座る左右田が、やけに大きな声で笑いながら日向の肩を叩いてきた。日向が曖昧に頷き返すと、左右田はそのまま立ち上がり、四股を踏み始める。頬を膨らませて食べ続けていた終里は、相撲と聞いて左右田の元に駆けつけてきた。そして二人はぶつかり合

 うと、左右田が弾き飛ばされた。

 

 日向は軽快に笑いながら、ふと視線を斜め前に向ける。そこには辺古山の姿があった。彼女もまた、この異常な熱の波に飲まれているようだった。きっちりと着こなしていたはずの浴衣の襟元が僅かに乱れ、白く細い首筋が露わになっている。雪のように白かった頬から耳の先にかけて、深い朱色が広がっており、彼女の真紅の瞳はどこか潤みを帯びて焦点が定まらない様子で宙を彷徨っていた。今すぐ彼女の元に向かいたかったが、日向は必死に頭を振って己の思考を繋ぎ止めようとする。その時、広間の端から爆発的な轟音が鳴り響いた。

 

「ぎゅいいいいいんっ〜〜!! 唯吹の魂の叫び、聴いてくださぁぁぁいっ!!!」

 

 見れば、澪田唯吹がどこから持ち出したのか自前のギターを激しくかき鳴らしながら、畳の上で高速のヘッドバットを繰り返している。常人であれば首の骨が砕けてもおかしくないほどの速度と威力で頭を振り回し、彼女の長い髪が扇風機のように旋回していた。その光景はもはや宴会の余興の域を超え、狂気すら感じさせる。さらに反対側では、地響きのような雄叫びが上がった。

 

「ぬおおおおっ!! 極上の飯を食ったら、即座に筋肉へと還元するんじゃあああ!!! 

 

「お、降ろせっ!! 吐くぞッ!? お前以上に食べた、オレの胃袋の全部を……ッ!」

 

 超高校級のマネージャーである弐大猫丸が、右腕で花村を、左腕で詐欺師の彼を軽々と持ち上げ、そのまま凄まじい速度で屈伸運動を始めていた。悲鳴を上げる詐欺師の彼と、なぜか満面の笑みで空の旅を楽しんでいる花村の姿が、上下に激しく揺さぶられている。大広間は完全に秩序を失い、混沌の渦に呑み込まれていた。誰もが己の欲望や衝動を隠そうとせず、本能のままに動き回っている。

 

 日向は眩暈を覚えながら、必死に周囲の状況を把握しようと視線を巡らせた。ふと、上座の近くの座卓に目をやると、九頭竜と七海千秋が、揃って机の上に突っ伏しているのが見えた。九頭竜は顔を真っ赤にして静かな寝息を立てており、七海もまた、手元のゲーム機を取り落としたまま、幸せそうな顔で深い眠りに落ちている。彼らの無防備な寝顔を見た瞬間、日向の脳裏に一つの疑念が閃いた。顔の赤さ、異常なまでの気分の高揚、そして急激な眠気。これは間違いなく、急性アルコール中毒に似た症状ではないか。日向は力を振り絞って立ち上がり、未だに弐大の腕の中で楽しそうに揺られている花村の元へとよろけながら歩み寄った。

 

「はぁはぁ、おい……花村! 料理に酒でも入れたのか? 皆の様子が、明らかにおかしいぞ……!」

 

「ええっっ!? 誤解しないでほしいな! 確かにお酒は使ったけど、アルコールフリーの特殊なお酒だよ? 一流のシェフが、法を犯すような真似をするわけがないだろう!?」

 

 弐大の腕からふわりと降り立った花村は、全く悪びれる様子もなく、むしろ自らの料理の出来栄えに満足しているかのような笑みを浮かべて説明を始めた。今回の料理の隠し味として、淫れ雪月花という名の特殊な日本酒風味の調味料を使用したのだという。それはアルコール成分を一切含まないものの、脳の特定の部位に作用し、本物の酒を飲んだかのような気分の高揚や多幸感、そして強い火照りをもたらす珍しい代物であった。

 

 花村自身は、あくまで風味付けとして酔わない程度の微量しか使用していなかったと主張する。しかし、問題は田中たちが海で捕まえてきたあの巨大な未知の魚であった。その魚の肉に含まれていた特殊な成分が、淫れ雪月花と体内で想定外の化学反応を起こし、効果を数十倍にも増幅させてしまったのではないかと結論付けたのだった。その間も花村は何が面白いのか爆笑しながら言うので、彼もまた酔っている状態なんだと日向は悟った。

 

 本能のままに騒ぎ立てたり、あるいは深い眠りに落ちたりと、混沌の様相を見て日向はどうするか立ち尽くしていると新たに立ち上がる人影を見る。辛うじて正気を保っていたのは、引率である雪染ちさであった。彼女の額にも玉のような汗が滲んでおり、決して万全の状態とは言えなかったが、教師としての強い責任感でどうにか踏みとどまっているようだった。彼女は荒い呼吸を整えながら、倒れ伏している生徒たちを見渡し、日向へと切実な視線を向けた。

 

「日向くん、ちょっと頼まれてくれる? 私一人だと、この人数を部屋まで運ぶのは正直厳しいかも」

 

「もちろん手伝います。手分けして、皆をそれぞれの部屋へ運びましょう」

 

 日向は今にも我を忘れそうな身体に鞭を打ち、ゆっくりと立ち上がった。雪染と短い言葉を交わした後、日向はまず上座のテーブルで完全に突っ伏して寝息を立てている九頭竜冬彦の元へと向かった。超高校級の極道として、普段は周囲を威圧するような鋭い態度を崩さない彼だが、今は全くの無防備な寝顔を晒している。以前、彼自身から酒の匂いを嗅いだだけで潰れてしまうという話を聞いていたことを思い出した。日向は小さく息を吐いた。彼の小柄な身体を背負い上げると、ずしりとした確かな重みが背中に伝わってきた。

 

「この分だと、明日の昼過ぎまでは絶対に起きないだろうな」

 

「うるせえ……オレは、まだやれるぞ……」

 

 日向が熟睡っぷりにそう呟きながら廊下へと歩き出すと、背中の九頭竜が寝言のように不明瞭な声を返してきた。その言葉の響きには、日向に対する絶対的な信頼と無防備さが滲み出ている。日向は苦い唾を飲み込み、胸の奥底に渦巻く昏い罪悪感を噛み締める。九頭竜を無事に男子用の大部屋の布団へと寝かせた後、日向は再び大広間へと戻り、残りの起きている組の誘導に取り掛かった。弐大猫丸や花村輝々など、暴れ回る彼らを雪染と協力して何とか宥め透かし、大部屋へと押し込んでいった。

 

 その過酷な作業の中で、最も日向の頭を悩ませたのは狛枝凪斗の存在であった。狛枝の足取りは普段と変わらないように見え、一見すると全く酔っていないかのようだった。しかし、彼に肩を貸した瞬間、その体温の異常な高さと、まとわりつくような視線の熱さに、日向は彼が誰よりも深く酩酊していることを悟った。彼の細い腕が日向の肩に回され、白く透き通るような肌から放たれる熱が、日向の敏感になっている皮膚を容赦なく刺激する。

 

「ねえ日向くん。ボクみたいな価値のない人間にここまで手を焼いてくれるなんて、君は才能はないけどとっても優しい人だね」

 

「はいはい。ほら、足元に気をつけて歩けよ」

 

 日向は努めて冷たく言い放ちながら、廊下の板張りを軋ませて歩を進めた。しかし、狛枝は日向の腕に自らの体重をべったりと預けながら、耳元で熱を帯びた声を紡ぎ続ける。彼の語る言葉は、普段から口にしている希望や才能に対する異様な執着を含んでいたが、今はそこに奇妙なほどの執拗な親愛の情が混ざり込んでいた。

 

「ボクはさ、昔から一人でいることが多かったんだ。この才能だったり、行動からさ。でもキミはこんなボクから離れていかず、真正面から向き合ってくれる。それがたまらなく嬉しいんだ。日向クン、君はボクにとって、初めて友人と呼べるかもしれない存在なんだよ」

 

「そうかもな。じゃなきゃ、お前と一緒に遊んだりしないだろ。ほら自分の足で歩いてくれっ」

 

 日向は突き放すように言い返したが、狛枝の言葉が全くの嘘ではないことも感じ取っていた。どうにか大部屋に辿り着き、狛枝を敷かれた布団の上へと押し倒す。掛け布団を首元まで引き上げても、彼はまだ微睡んだ目で何かを語りたそうに日向を見つめていた。

 

「明日も、希望に溢れた日常だと嬉しいな。おやすみ、日向くん」

 

「ああ、おやすみ。もう、朝まで目を覚ますなよ」

 

 ようやく狛枝が静かに目を閉じ、規則正しい寝息を立て始めたのを確認すると、日向は深い溜息を吐き出して立ち上がった。大部屋の襖を静かに閉めると、長い廊下には完全な静寂が降りていた。遠くから微かに聞こえる波の音と、秋の虫の鳴き声だけが、暗い空間を満たしている。

 

 全てのクラスメイトを寝かしつけたことで、日向の肉体はどっと重い疲労感に襲われていた。しかし、極度の疲労困憊であるにもかかわらず、日向の体内を巡る異常な熱気は全く冷める気配を見せなかった。むしろ、静寂の中に一人取り残されたことで、抑え込んでいた感覚が堰を切ったように溢れ出してきた。料理に含まれていた特殊な成分のせいなのか、それとも宴会の席で視線が絡み合った辺古山の艶やかな浴衣姿が脳裏に焼き付いているからなのか。日向は抑え切れない欲望感じながら、熱に浮かされた足取りで個室へ進んでいくのだった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 日向は離れの個室に辿り着くなり、崩れ落ちるように畳の上に身を横たえていた。大広間で酒乱に巻き込まれた仲間たちを、運び終えた肉体は限界を迎えていた。瞼は鉛のように重く、意識を繋ぎ止める余裕すら残されてはいなかった。暗い天井をぼんやりと見つめているうちに、抗いがたい睡魔が彼を深い底へと引きずり込んでいく。

 

 どれほどの時間が経過したのだろうか。深い眠りの淵を彷徨っていた日向の意識は、下腹部に走った強烈な熱と湿り気によって、唐突に現実へと引き戻された。

 

「んん……熱っ! それに、この滑らかな感触は……ッ!?」

 

「ちゅ、ちゅるる……んっ、あむ……れろ……っ」

 

 重たい瞼を押し上げるようにして視線を落とすと、日向は信じられない光景を目の当たりにした。身にかけていたはずの布団は冷たい畳の上へと蹴り落とされ、乱れていた浴衣ははだけていた。下半身を覆っていたパンツすらも完全に剥ぎ取られている。そして、夜気の中で猛々しく熱を放つ己の中心を、銀色の髪を揺らす少女が熱心に舐めていたのである。

 

「辺古山っ!? お前、いつの間に俺の部屋へ……っぁ! くっ、それに、なんてことをしているんだ!?」

 

「じゅるっ、っぷはぁ。ずっと、これが欲しかった。お前のあちゅい精を、たっぷりと貰いに来たひょ。ずりゅっ、ちゅぷ……ちゅるるるぅっ!」

 

 暗がりに浮かび上がる辺古山ペコの真紅の瞳は、強烈な情欲と未だ冷めやらぬ酔いの熱に潤んでいた。彼女の端整な顔立ちは深い朱色に染まり、普段の凛とした剣士の面影は微塵も残っていない。呂律の回らない言葉で話し終えると、彼女の柔らかな唇が日向の熱源を根元まで深く咥え込み、舌先が最も敏感な頂きを這うように転回する。しなやかな指先は日向の玉袋を的確に捉え、絶妙な力加減で揉みほぐしてくる。超高校級の剣道家として培われた指先の繊細な動きと、全てを吸い尽くさんばかりの強い吸引力が組み合わさり、日向の神経を焼き切るような快楽の奔流を生み出していた。

 

「ちょっ、待て、そんなに激しく吸われたら、俺……もう、限界が……っ!!」

 

「我慢などしなくていいぞ。んむ、じゅる……お前の陰嚢も、たぷたぷにではないか。さあ、わらひの口の中に、ぜんびゅ出してくれ……じゅるるるぅっ!」

 

「ああっ、出る、出るっ!!」

 

 彼女の情熱的な奉仕は、疲労困憊であったはずの日向の理性をいとも容易く打ち砕いた。柔らかな粘膜に包み込まれる圧倒的な熱量と、急所を的確に責め立てる指先の律動。それらが限界点へと急加速し、日向の腰が自らの意志とは無関係に大きく跳ね上がる。視界が真っ白に明滅し、下腹部の底から熱い奔流が一気に込み上げてきた。

 

 解き放たれた膨大な熱の塊を、辺古山は一滴残らず自らの喉の奥へと流し込んでみせた。艶やかな唇の端から僅かにこぼれ落ちた白い飛沫を舌先で舐め取りながら、彼女は心底満足そうな、そしてどこか蠱惑的な微笑みを浮かべている。その姿は、夜の闇に紛れて男の精気を喰らうサキュバスのようでもあった。激しい絶頂の余韻に身を震わせながら、日向は荒い呼吸を繰り返した。

 

「んぐっ、ごきゅっ、こくっ、ぷはぁ……相変わらず酷い味だ。だがこれぇが良い。日向の濃いねちゅが、私の喉を火傷させそうだぁ……」

 

「辺古山っ! こんなこと、九頭竜が知ったらっ……辺古山、送るから今日は戻ろ──」

 

「──冬彦、ぼっちゃんの名前をだひゅな。今は私とお前だけの時間だろうぅ。ちゅっ……お前はいつもそうだ、私が話しかけようと思ったらにゃにゃみとデートに行ったり、私と目が合ったのぉに、みぉだとを鎌って……他にもたくさん、わたひ以外の女ばっか見て、ずるいではないかっ」

 

 日向の口から出た制止の言葉は、火に油を注ぐ結果となってしまった。辺古山の端整な顔つきが不満げに歪み、彼女は子供のように頬を膨らませた。昼間の出来事、日向が他の少女たちと和やかに言葉を交わしていた光景が、彼女の胸の奥底にどす黒い嫉妬の泥を溢れさせていたのである。酔いによって普段の自制心が取り払われたことで、その隠された本音が堰を切ったように溢れ出してきたのだ。彼女の真紅の瞳は、怒りと悲哀、そして抗いがたい独占欲に濡れていた。

 

「そういうつもりじゃなかったんだ。ただ、気安く話しかけて、九頭竜と過ごしたい辺古山の邪魔をしたくなかっただけで……ごめん」

 

「うむ。素直に謝るなら許ひょう。だが、その代わりにじっとしていろ。私もお前の大事な友なのだからっ、夜明けまでたっぷりとわらひを構う義務があるのら……っ!」

 

 日向の素直な謝罪に、辺古山の表情は僅かに和らいだ。しかし、彼女の内に燃え盛る情念の火が消えることはなかった。彼女はふらつく手つきで自らの浴衣の帯を引き解き、濃紺の生地を肩から滑り落とす。月明かりに照らされたその素肌は、抜けるように白く、そして女性らしい豊かな起伏に満ちていた。特に彼女の細い胴体には不釣り合いなほどにふくよかな胸の膨らみは、呼吸のたびに魅惑的な揺れを描き、日向の視線を強烈に惹きつけてやまない。

 

「わ、分かった。お前の気が済むまで、付き合うよ。だから、あまり無理は……ちょっと待てっ。辺古山、ゴムは!?」

 

「今日はふようらっ。わたひの熱を、お前の熱を、直に感じ合う。それでこそ、真に友ひょうを確かめ合えるというものだ──ぁっ、あぁっ……! ひぃ、ひなたの太い剣が、わたひの一番深い所まで、届いてるぅっ……!」

 

 辺古山は日向の腹部を跨ぐようにして膝をつき、自らの豊かな質量をゆっくりと下ろしていった。彼女の最も熱く、柔らかな秘められた場所が、日向の剛毅な真剣を迎え入れる。生々しい水音が静寂の部屋に響き渡り、二人の熱が完全に一つに結びついた。辺古山の身体が快感に震え、彼女の喉の奥から甘く掠れた吐息が漏れ出す。日向もまた初めての抜き身そのものの感覚に嗚咽を漏らす。

 

「くぁっ……! ぺこ、辺古山っ! これ、ダメだっ! 早く抜いてくれ、中で出したら取り返しのつかないことに……ッ!」

 

「お゛っ、ぉぉぉ、うっ、うるひゃいぞっ。わらひの、気が済むまで、付き合うと言ったのはっ、ひなただぞっ。はぁ゛、はぁ゛、おとこなら、黙って受け入れろ……ッ!」

 

 彼女の内部の柔肉は、日向の熱を逃がすまいと生き物のように蠢き、全方位から凄まじい力で締め上げてくる。その信じられないほどの吸着力と、沸騰するかのような体内の熱さが、日向の理性を限界まで削り取っていく。辺古山は日向の胸板に両手をつき、乱れた銀髪を振り乱しながら、自ら進んで激しい上下運動を開始した。彼女が腰を落とすたびに、豊かな双丘が重力に従って弾み、その柔らかな先端が日向の肌を掠めていく。

 

「っ、くっ、はっ、ふっ……! 辺古山、激し過ぎっ、だ! もっと、ゆっくり……!」

 

「やっ! もっと、もっと! あぁっ、ひなたぁのけんがっ、わたしのよわい所を、ついてぇぇっっ!?」

 

 日向の気遣いを切り捨てるように、辺古山はさらに腰の動きを加速させた。彼女の生真面目な性格が、今はただひたすらに快楽を貪求するための恐ろしいほどの集中力へと変貌を遂げている。滑らかに濡れそぼった内部の粘膜が強烈な勢いで日向の熱源を擦り上げ、呑み込んでいく。辺古山は日向の首に腕を回して強く抱きつき、二人の身体は隙間なく密着した。彼女の豊かな胸の肉が日向の胸板に押し付けられ、形を変えながら密接な摩擦を繰り返す。不意に日向の顔に影が差す。欲望に溺れた辺古山の眼光が日向を見下ろしていた。彼女の顔はどんどん迫っており、日向はこれから何が起きるか予見出来たが、彼女避けることが出来なかった。

 

「「んぅ、ふっ、ちゅ、ちゅっ、れう、れろぅ、んぅ〜〜!!」」

 

 重なり合った唇から、甘く生々しい音が響く。辺古山は自ら進んで日向の唇を押し開き、その熱い舌を日向の口腔内へと滑り込ませてきた。先ほどまで彼女が懸命に奉仕し、飲み下したばかりの白濁の余韻が、互いの舌が絡み合うたびに鮮烈に蘇る。それは特有のえぐみを伴う、間違いなく日向自身の熱の名残であった。本来であれば顔を背けたくなるようなその感覚すらも、今の二人にとっては互いの繋がりを確かめ合うための強烈な起爆剤でしかなかった。

 

 友(くずりゅう)の大切な人が、自分だけに向けて見せる完全に理性を失った姿。他の誰にも捧げられたことのないはずのその唇を、今、自分だけが貪っているという暗い優越感。それらが全て合わさって、罪悪感はすでに甘く蕩けていた。日向は自身の口内に伸びてきた舌を自らの舌で絡め取ると、いやらしく粘膜を触れ合わせながら水音を鳴らす。そして数分の口吸いを経てゆっくりと離れる。辺古山は舌舐めずりして、日向とのキスにうっとりしていた。

 

「ひなたのせっぷん。ふしぎだ、ぼっちゃんとも違うねちゅが、わたひのにゃかであばれてるぅ……! ふぅ、ふぅ……! ひなたっ、ひにゃたぁ……っ!」

 

「ッッ〜〜!! 辺古山ッ!」

 

「ひぁぁっっ!!? あ゛っ、お゛ぉぉっ!? ひにゃたっ、すごぉっ、いひっ、ひゃぁ、んっ、んぁ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……!!」

 

 辺古山とのキスで理性が完全に崩壊した日向は自ら、下がりきった辺古山の子宮へと真剣を突き上げる。子宮口に切っ先が深く突き刺さった瞬間、辺古山の喉から空気を咲くような嬌声が響き渡る。日向は安息を得る暇を与えず、何度も突き上げた。これには辺古山の秘所からは蜜液と甘イキの潮が噴き出しており、日向の肉体を辺古山のものだとマーキングしているかのように濡らしていた。

 

 絶え間なく溢れ出す蜜の潤滑が合わさり、二人の結合はかつてないほどの滑らかさと密着感を生み出す。日向が荒々しく腰を打ち付けるたび、辺古山は自らその衝撃を迎え入れるように腰をうねらせる。二人の動きは完全にシンクロし、激しい摩擦が生まれるたびに、これまでの特訓では到達出来なかった次元の快楽が全身を駆け巡った。

 

「もう、限界だっ。中に出しちまう前に、一回抜くから……辺古山っ!」

 

「あ゛っ、あ゛っ、あ゛ぁぁ……! ん゛ぁっ、ひにゃたっ、ん゛ん゛っ、う゛っ、ひにゃたぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 

 日向は荒い息を吐きながら身を引こうとしたが、辺古山は日向の背中へと腕をきつく巻きつけ、彼の肩を強く抱きしめながら逃がさないようにしがみついた。日向の制止など、今の彼女の耳には全く届いていなかった。それどころか、さらに激しく自らの腰を動かし始めた。日向の全てを搾り取り、己の内に生命の証を植え付けさせようとするかのような、貪欲で情熱的な動き。彼女の内部の柔肉が凄まじい力で日向を絡め取り、快感の限界値を次々と突破していく。

 

「ッッッ!! 辺古山、辺古山──ァッ!」

 

「ぅ、ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛〜〜〜〜!!!」

 

 日向の全身を強い痙攣が襲い、極限まで圧縮されていた熱の奔流が、辺古山の最も深い場所──子を孕み育てる子宮へと解き放たれた。彼女の媚肉が日向の真剣に吸盤のように吸い付き、脈打つたびに注ぎ込まれる濃密な白濁を、一滴残らず呑み込んでいく。今まで九頭竜の生温い熱しか知らなかった辺古山の子宮は、日向の濃厚で灼熱のような情欲を秘めた、最上の精に狂喜して震えていた。一拍で九頭竜がこれまで出した精を超える精を射ち放ち、辺古山の子宮内を日向の領土へと塗りたくるのであった。

 

 子宮が溺れそうなほどの射精を終えた後、日向の上に跨っていた辺古山は布団に横たわる。離れの個室には、二人の荒々しい呼吸音だけが長く響き渡っていた。絶頂に微睡んでなお日向は思う。自分は今、大切な友人が心から愛している女性の奥底に、取り返しのつかないほどの熱を注ぎ込んでしまったのだと。彼女は酒に酔って理性を失っているだけで、明日になれば必ず後悔する。それなのに自分は、彼女の誘惑と肉体の喜びに抗うことが出来ず、本能のままに彼女を欲望の捌け口にしてしまった。友の信頼を裏切り、彼女の純潔な忠誠心すらも汚してしまったという激しい罪悪感が、日向の胸をギリギリと締め付ける。暗い葛藤に沈みかける日向の顔を、不意に柔らかな手が包み込んだ。

 

 辺古山が潤んだ真紅の瞳で日向を見つめていた。彼女は日向の表情の曇りを読み取ったのか、少しだけ心配そうな顔つきになると、そのままゆっくりと顔を近づけ、日向の唇に自らの唇を重ねた。先ほどの激しい口付けとは違う、確かめ合うような優しい触れ合い。熱を帯びた淡い唇が離れると、彼女は吐息交じりの甘い声で問いかけてきた。

 

「私は……頭の中が真っ白になるくらい、とても心地よかったのだが。お前は、違ったのだろうか」

 

「そんなわけないだろ。今まで生きてきた中で……一番、最高の気分だったよ」

 

 日向は己の内に渦巻く後悔を隠しきれず、しかし肉体が感じた真実だけは嘘偽りなく言葉にした。友への罪悪感に苛まれながらも、彼女の媚肉に包まれ、その最奥を自らの熱で満たしたあの瞬間の快感は、間違いなく日向の生涯で最高の絶頂であった。

 

 その真っ直ぐな本音を聞いた瞬間、辺古山の端整な顔つきに、ぱっと花が咲くような美しい笑みが広がった。酔いによって心の枷が完全に外れた彼女は、主君に仕える剣士としての顔を完全に捨て去り、喜怒哀楽を素直に表現する乙女の顔をしていた。彼女は嬉しそうに目を細め、日向の首元に顔をすり寄せながら、その豊かな胸をさらに深く日向の身体へと押し当てる。

 

「ふふ……そうか。日向が喜んでくれると、私も酷く心が満たされる。案ずるな、今私達の間に子供は出来ん。私がぼっちゃんとそういう関係になってから、九頭竜組の姉御にピルを支給されるようになったからな。つまり、日向がどれだけ出そうともチャラに出来る」

 

「そ、そっか……良かった」

 

「本当にそう思っているか? 日向は私孕ませたかったんじゃないか?」

 

「ッ!!? そんなわけ、ないだろ……っ!」

 

「日向は私との間に子供が出来るのは嫌か? きっと私とお前との間に出来た子は、強く逞しく成長するだろうにな……」

 

 辺古山はそう言いながら笑っていた。日向は辺古山なりの冗談だと思いたかった。彼女はあまり冗談が上手くないと日向は思っていたからだ。だが辺古山が日向との間に子供が出来たとしたらと語るその表情には、一切の嫌悪感はなく、慈愛に満ちた眼差しで日向を見ていたのだ。思わず、日向は辺古山の肩を握っていた。無意識に彼女を求める心が手を動かしていたのだ。辺古山は薄く微笑み答える。

 

「だからな日向よ。今日はお前の好きな所で出していいぞ。これも特訓の一つだ。いつも通り手伝ってくれるか?」

 

「それは……辺古山。お前もしかしてだけど、酔いが覚めてるんじゃないか……?」

 

「フッ、流石に気付くか。まああれだけの絶頂をしてしまえばな。正気にも戻るだろうとも。いや、元より正気ではないか……。私にはぼっちゃんがいるというのに、お前を一人の女として好いてしまった。他の誰にも渡したくないくらい、溺愛してしまっている。酷い話しだな」

 

 日向は辺古山の告白に心身の奥底から熱くなるのを感じる。彼女が誰よりも九頭竜冬彦という男を愛しているのは自明の理だった。だからこそ、日向は自分のほのかも恋心を押し殺していたのだ。だが今こうして彼女に告白されたことで、日向も自分の気持ちに正直になろうと決めたのであった。

 

「ああ……酷い話しだ。でも、俺もそうなんだ。友達が何よりも愛しているって知ってるのに、それでも好きなってしまった。辺古山が大好きな、正気じゃない男だよ」

 

「ぁっ……似た物同士だったのだな、私達は。日向……好きだぞ。お前の周りにいる他の女に負けないくらい愛している」

 

「嬉しいよ辺古山。俺も、お前のことが好きだ。たとえお前の一番になれなくても、俺はお前を一番に愛してるぞ」

 

 二人はお互いの思いに真に理解し告白し合う。そしてどちらともなく唇を触れ合わせる。この関係は祝福されるものではなく、いつ落ちてしまうか分からない危うい線上の関係だった。それでもこの想いには嘘はつけないと二人は明かしあったのだった。そして二人の夜はさらに深さを増していった。

 

 仰向けに横たわる彼女の上に覆い被さるようにして、日向は自身の切れ味確かな業物を、再び辺古山の柔らかな中心へと押し当てた。湿り気を帯びた摩擦音が静かな空間に響く。彼女の内部からは、先ほど日向自身が注ぎ込んだばかりの濃密な熱の残滓が、とろりと溢れ出そうとしていた。日向はそれを押し戻すように、そして彼女の最奥の粘膜へ新たな証を上書きするように、深く、力強く己を沈み込ませた。

 

「あっ、ぁぁぁっッ❤️❤️ さっきより、あついっ❤️ ひなた、ひなた……っ❤️」

 

「もう、我慢しなくていいからな……! 俺はもう、止まれないからなっ!」

 

 二人の手は自然と絡み合い、指と指の隙間を縫うようにしてしっかりと結びつけられる。いわゆる恋人繋ぎと呼ばれるその形は、ただの肉体的な繋がりを超えた、どうしようもない情愛を錯覚させた。日向が腰を沈めるたびに、辺古山の口から甘く高い吐息が漏れ出す。彼女の引き締まった腹筋が快楽に抗うように微かに波打ち、豊かな胸の双丘が重力に従って艶めかしく揺れる。その美しい光景を至近距離で見つめながら、日向は幾度も幾度も腰を打ち付けた。

 

「んっ❤️ ぐぅっ❤️ はぁっ、はぁぁっ❤️ ぁぁ、ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ッッッ〜〜〜❤️❤️❤️」

 

 辺古山の内部の柔肉が日向の侵入を歓迎するように蠢き、吸い付くような力で彼を奥へ奥へと誘い込む。二人の想いを象徴したような粘着質な水音が、日向の腰の動きに合わせて絶え間なく鳴り続ける。日向は限界まで彼女の奥深くに到達すると、自らの下腹部に溜まっていた煮えたぎるような熱を、一気に解放した。彼女の最も弱く無防備な場所へと、熱の塊が凄まじい勢いで叩きつけられる。辺古山は繋いだ手にきつく力を込め、全身を震わせてその熱を迎え入れた。

 

 しかし、幾度目の絶頂を迎えても、二人の間に流れる狂おしいほどの熱量は静まることを知らなかった。

 日向は荒い呼吸を繰り返しながら、仰向けの彼女を抱き寄せるようにして自らの上体を起こした。そして、彼女の太ももに両腕を回すと、繋がったままの状態で彼女の身体を軽々と宙へと抱え上げた。所謂駅弁であった。

 

「辺古山、しっかり掴まってろ。落とさないように抱えるから」

 

「ひぁ、身体が浮いて……っ❤️ あっン❤️ こんなの初めてっ、あァンっ、これっ、すごぉ、ぉ゛ぉ゛っ、ン゛ン゛ッッ❤️❤️」

 

 日向の力強い腕に支えられ、辺古山の足が床から離れる。彼女は不安定な体勢に戸惑いながらも、本能的に日向の広い背中へと腕を回し、彼にしがみついた。彼女の両脚は日向の腰にしっかりと巻き付けられ、彼女の全体重が日向の腕と、そして二人が繋がっているたった一つの接点に集中することになる。重力が彼女の身体を下へと引っ張るたびに、日向の大剣が彼女の内部をこれまで以上に深く、無慈悲な角度で貫いた。

 

 小柄な九頭竜冬彦には物理的に不可能な体位。自分だけが彼女をこの高さまで持ち上げ、自分だけが彼女の最も深い場所を的確に突くことが出来るのだ。宙に浮く不安定さと、日向の屈強な腕に包み込まれる絶対的な安心感。そして、重力によって容赦なく己の奥底を抉られる圧倒的な快感。これらが複雑に絡み合い、辺古山の理性を完全に崩壊させていた。

 

「オ゛ッ❤️ ほっ、ォ゛ォ゛っ~~❤️ これっ❤️ おくッ❤️ しきゅうに、ひびいて……ァ゛ッ❤️ イクのが、とまらないぃぃっっ〜〜❤️❤️」

 

「そんなに気持ちいいならっ! 張り切らないとなッ!」

 

 日向が下から力強く腰を突き上げるたび、辺古山の身体が空中で大きく揺さぶられる。彼女は振り落とされないように日向の首元に顔を埋め、柔らかな胸を彼の胸板にきつく押し付けた。彼女の口からは、もはや言葉の形を成さない甘い嬌声が絶え間なく溢れ出している。彼女はこの体位がもたらす暴力的なまでの快楽と、全身を男の力で支配されているという被護感に完全に魅了され、これが一番好きだと本能で理解してしまっていた。日向の肩に頬を擦り寄せ、熱い吐息を彼の首筋に吹きかけながら、辺古山は全身全霊で彼を求めた。

 

「ァ゛ッ❤️ またイクぅ❤️ ン゛ン゛ッ❤️ い゛っ❤️ いっしょにっ❤️ イキたいっ❤️ ひなたっ、ひなたぁ❤️ イクッ、イクぞっ❤️ ひなたっ、ひなた、はじめ──ァ゛っ❤️」

 

「辺古山、辺古山……ッッッ!! ペコッッ!!」

 

「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ~~〜〜❤️❤️❤️」

 

 今までの呼び方を捨て、名前で呼び合うことで真に心を通わせあった二人。日向は彼女の腰をさらに強く抱き込み、最後の突き上げを渾身の力で放った。最も深い場所に到達したその瞬間、日向の身体が大きく反り返り、限界まで圧縮されていた濃密な精液が、彼女の奥深くへと凄まじい勢いで放出された。彼女の膣肉が、日向の精を一滴残らず受け取ろうと激しく波打つ。辺古山は日向の首にすがりついたまま、全身を小刻みに震わせて極上の絶頂に身を委ねていた。

 

 夜の闇が白み始め、障子の隙間から薄明かりが差し込む頃になって、ようやく荒れ狂っていた熱情の嵐は静まりを見せた。畳の上に敷かれた布団は原形を留めないほどに乱れ、二人から滲み出た汗と幾度も交わされた熱の証で、シーツには酷い染みが広がっている。脱ぎ捨てられた浴衣や下着も部屋のあちこちに散乱しており、本来の整然とした個室の面影はすっかり失われていた。

 

 日向創は荒い呼吸を整えながら、ゆっくりと上体を起こした。限界を超えて身体を動かし続けた筋肉は悲鳴を上げているが、胸の奥底には言葉に出来ないほどの深い充足感が満ちていた。隣で横たわる辺古山ペコもまた、汗に濡れた銀髪を乱し、心地よい疲労に身を任せるように目を閉じている。部屋の惨状を視界の端に捉え、後で綺麗に片付けなければならないと頭の片隅で思いつつも、まずは互いの汗と体液にまみれた身体を綺麗にすることが先決だった。

 

「立てるか? 部屋の露天風呂に行って、体を洗おう」

 

「ああ、すまない。少し腰に力が入らなくてな」

 

 日向が手を差し伸べると、辺古山は薄く目を開け、その手をしっかりと握り返した。彼女が立ち上がろうと腰を浮かせた瞬間、引き締まった真っ白な太腿を伝って、粘り気のある白い液体がどろりと滑り落ちた。それは、夜を徹して日向が幾度も彼女の子袋へと注ぎ込み続けた、濃密な情欲の子胤であった。

 

 日向は自分がした所業を確かに見た後、肩を貸すと彼女の細い腰に腕を回して身体を支えた。辺古山は日向の腕に体重を預けながら、自らの内側から溢れ出す証を見つめ、どこか愛おしむようにくすりと微笑んだ。

 

「ふふ……お腹の奥底、子袋が酷く重い。お前の残した熱が、私の中にしっかりと根付いている証拠だな」

 

「ごめん。いくらなんでも、俺は少しやりすぎたかもしれない」

 

「謝ることはない。私自身が希望した結果なのだから」

 

「……まずは、綺麗に洗い流さないとな。背中を貸してくれ、俺が洗うよ」

 

 日向の支えに身を委ねながら、二人はゆっくりとした足取りで縁側を抜け、部屋に備え付けられた専用の露天風呂へと向かった。ひんやりとした朝の空気が、火照りきった肌を心地よく撫でていく。洗い場に腰を下ろした辺古山の背中へ、日向は温かい湯を優しくかけた。湯気と共に、互いの身体から立ち昇っていた生々しい匂いが洗い流されていく。互いの身体を丹念に洗い清め、こびりついていた情欲の痕跡を全て湯に流し終えると、二人は揃って湯船へと足を踏み入れた。

 

 部屋で流れていついやらしさとは無縁の、柔らかな水音を立てて湯に浸かる。適度な温度の湯が、遊び疲れ、そして交わり疲れた肉体の芯まで染み渡る。凝り固まった筋肉をゆっくりと解きほぐされていくようだった。

 

「お湯加減もちょうどいいな。温かくて、体の芯からほぐれていくようだ」

 

「昨日の大浴場も良かったけど、こうして二人きりで入る露天風呂も格別だな」

 

「ああ全くだ……創。フッ、言い慣れないな。この呼び方は」

 

「呼びづらかったら今まで通りでいいんじゃないか? その点、ペコは呼びやすい感じはするな。辺古山って呼ぶ方がいいか?」

 

「ふむ。二人きりの時は名前で呼んでくれると嬉しいな。私も徐々に慣れていこうと思うぞ、創」

 

 今まで苗字で読んでいたので、どうにもむず痒かった名前呼び。だがお互いに相手とより深く通じ合いたいと思い、二人きりの時だけ名前で呼び合うことにしたのだった。湯船の中で自然と互いの手が触れ合い、指と指が静かに絡み合う。朝焼けの光が湯面をキラキラと照らし出す中、二人はただ穏やかな笑みを交わし合い、長く続いた夜の果てに訪れた静寂と温もりを、いつまでも分かち合っていた。

 

 不意に辺古山はごく自然な動作で日向の隣へと身を寄せ、その滑らかな肩を彼の胸元へと預けていた。普段であれば、他者にこれほどまでの隙を見せることなど絶対にあり得ない彼女が、完全に力みを抜き、自らの体重を日向に委ねている。日向もまた、彼女のその無防備な信頼を当然のように受け入れ、彼女の細く引き締まった腰へと静かに腕を回す。湯面の下で、日向の大きな掌が彼女の下腹部を優しく、労わるように撫でさすっていた。

 

 そこは、つい先ほどまで日向が己の熱を幾度も、そして容赦なく注ぎ込み続けた場所であった。外側から触れているだけのはずなのに、掌を通して彼女の体内の熱と、二人が確かに深く結びついていたという生々しい記憶が伝わってくるようだった。日向の指先が滑るたびに、辺古山はくすぐったそうに、しかしどこか酷く満ち足りた様子で目を細め、小さく息を漏らす。

 

「いつか、私は冬彦坊っちゃんとの間に跡継ぎを産むことになるだろう。それが極道の妻となる者に与えられた最大の使命であり、私自身も心からそれを望んでいるのだ」

 

「ああ、そうだよな。きっと九頭竜と辺古山の良い所が合わさった、極道の未来を担うすごい子が産まれるんだろうな」

 

 静寂の中、辺古山がふと口にしたのは、彼女の人生の根幹に関わる重い決意であった。彼女の言葉には一切の迷いがなく、澄み切った朝の空気のように凛としていた。日向はその言葉を静かに受け止める。その事実を突きつけられ、胸の奥底にちょっとした嫉妬の針が刺さるのを感じた。だが同時に、彼女の揺るぎない忠誠心を美しくも感じていた。

 

 しかし、日向がその複雑な感情を飲み込もうとした次の瞬間、辺古山は日向の方へとゆっくりと顔を向けた。湯気越しに見つめ合う彼女の真紅の瞳には、先ほどまでの武人としての清廉さは消え失せ、一人の女としての底知れぬ情念と、妖艶な光が宿っていた。

 

「だが……その役目を無事に終えた後でなら、日向、お前の子をこの身に孕むのも、悪くないかもしれないな」

 

「っ……ペコ。自分がどれだけ破壊力のあることを言ってるか、本当に分かってるのか?」

 

 耳元で囁かれたその言葉は、日向の脳髄を直接殴りつけるような強烈な衝撃を持っていた。主君への絶対的な忠誠を誓いながらも、その先の未来において、自分という男の証を自らの内に宿したいと願う。それは、彼女の中に芽生えた決して抑えきれない雌としての我欲であり、日向に対する最大の愛情表現でもあった。

 

 日向の胸の内で燻っていた嫉妬は一瞬にして吹き飛び、代わりに腹の底から業火のような熱い衝動が急激にせり上がってきた。一晩中狂ったように求め合い、限界まで酷使してすっかり枯れ果てていたはずの肉体が、彼女のたった一言で再び雄としての本能を呼び覚まされる。温かな湯の中にあってもはっきりと分かるほどに、日向の熱源は急速に血液を集め、猛り狂うような硬度を取り戻し始めていた。日向の身体の正直すぎる変化を、密着している辺古山が気付かないはずがなかった。彼女は日向の困惑する顔を見上げて、妖しくも可愛らしい笑みをこぼした。

 

「ふふ……あれほど激しく酷使したというのに、創の熱は本当に底知れないのだな」

 

「っ、それは……ペコが煽るようなことを言うからだろ。余計に収まらなくなってるんだぞ」

 

 湯面の下で、辺古山の白くしなやかな手が日向の昂ぶりをそっと包み込んでいた。日向は堪えきれずに荒い息を吐き出した。今すぐにでも彼女の身体を反転させ、この湯の中で再び激しく繋がってしまいたいという衝動が日向を支配しようとする。しかし、辺古山は日向の熱を優しく宥めるように数回撫でた後、ゆっくりとその手を離した。

 

「今日はお預けだ。この綺麗な湯を汚すわけにはいかないし、皆が目を覚ます前に、あの悲惨な有様になっている部屋の片付けも残っているからな」

 

「ああ……分かってる。いくらなんでも、ここでこれ以上したらどうにかなっちまいそうだからな」

 

 彼女の現実的な指摘に、日向は苦笑いを浮かべて同意するしかなかった。部屋に戻れば、二人が理性を失って獣のように貪り合った痕跡が、生々しく残されているはずだ。それを誰かに見られるわけにはいかない。日向は名残惜しさを感じながらも、己の内に渦巻く熱を冷たい朝の空気と深呼吸で必死に抑え込んだ。

 

 そんな日向の様子を見て、辺古山はさらに笑みを深めた。彼女は日向の首元に腕を絡ませ、その豊かな胸の膨らみを彼に押し当てながら、耳元で甘く囁きかける。

 

「夏休みはまだまだ長いのだから焦る必要はない。いつでも、何度でも相手をしてやる。お前には七海との約束もあるのだろうが……私にも、しっかりと付き合ってもらうぞ」

 

「ああ……これじゃあ、今年の夏休みは退屈する暇なんて全く無さそうだな」

 

 自分以外の女性の名前を出しながら、明確な嫉妬と独占欲を隠そうとしない彼女の姿に、日向は心の底からの愛おしさを感じていた。もはや二人の関係は、主君のための特訓という名目を完全に逸脱し、互いの存在なしでは満たされないほどの深い泥沼へと足を踏み入れている。

 

 しかし、その背徳感すらも今の彼らにとっては甘いスパイスでしかなかった。昇りきった朝日が露天風呂の水面を眩しく照らし出す中、二人は誰にも知られることのない秘密の絆を確かめ合うように、いつまでも静かに身を寄せ合い続けるのだった。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 希望ヶ峰学園を卒業してから数年の月日が流れた。伝統と格式を重んじる厳かな和風建築の式場には、黒の礼服に身を包んだ九頭竜組の強面たちがずらりと整列し、張り詰めた空気を漂わせていた。しかし、その厳格な雰囲気の中に時折響く賑やかな笑い声は、かつて共に青春の日々を過ごしたクラスメイトたちのものである。左右田和一が感極まって大声を上げ、ソニア・ネヴァーマインドがそれを優しく宥め、小泉真昼が手にしたカメラで次々と訪れる美しい瞬間を切り取っている。

 

 誰もが待ち望んだ、九頭竜冬彦と辺古山ペコの結婚式。参列者たちの視線を一身に集め、静々とした足取りで姿を現した辺古山は、息を呑むほどに美しかった。純白の白無垢に身を包んだ彼女の端整な顔立ちは、かつての鋭い剣士としての面影を残しつつも、今は深い慈愛と柔らかな喜びに満ちている。そして、誰の目にも明らかなほどふっくらと丸みを帯びた彼女の腹部が、新たな命の息吹を強く主張していた。身重の体でありながらも、彼女の凛とした佇まいは少しも損なわれることなく、むしろ神々しいまでの美しさで人々の心を虜にしている。

 

 彼女の隣を歩く九頭竜の顔には、この上ない誇らしさと、愛する女性とその胎内に宿る命を守り抜くという強固な決意が満ち溢れていた。組の跡目として、そして一人の夫として、彼は今、最高の瞬間を迎えているのだ。参列席の後方からその光景を見守っていた日向創は、自然と湧き上がる温かな祝福の気持ちと共に、胸の奥底を冷たい刃で抉られるような深い負い目を感じていた。

 

 幸せに満ちた二人の姿を見つめていると、ふと、辺古山の真紅の瞳が日向を捉えた。ほんの一瞬の視線の交差。彼女は日向に向けて、微かに、しかし確かに、優しく艶やかな微笑みを浮かべた。その微笑みに込められた真意を理解出来るのは、この広い式場の中で日向ただ一人だけであった。

 

 辺古山の胎内に宿る第一子。それは、彼女の隣で誇らしげに笑う九頭竜の子ではない。他でもない、日向の子であった。数ヶ月前の夜の記憶が、鮮烈な熱を伴って日向の脳裏に蘇る。それは、九頭竜と辺古山の婚姻が正式に決定し、組の跡継ぎを設けるために彼女が九頭竜と床を共にした、まさにその翌日のことであった。長年の悲願であった主君との結びつきを果たし、彼女は心からの幸福に包まれているはずだった。しかし、辺古山は人目を忍んで日向の暮らす家を訪れたのである。

 

「冬彦坊っちゃんと肌を合わせたばかりだというのにな。はしたない女だと蔑むがいい」

 

「俺にそんな資格はないだろ。妻がいるってのに、こうやってペコと関係を続けてるんだから」

 

 言葉を交わすたびに、二人の間に横たわる理性の壁は脆くも崩壊した。本来の妻が家を留守にしている間、日向はもう一人の妻と精魂尽き果てるまで交わり尽くしたのである。そして現在。あの激しい交わりの後、自らの体に宿った命が日向のものであると悟った時、辺古山は静かにそれを受け入れた。当初の予定とは全く異なる道。しかし、彼女はこれを抗うことの出来ない運命だと捉え、日向の子を第一子として産み落とし、育て上げる決意を固めたのだ。これから先、薄っすらと九頭竜との子は産めないかもなと思いながら。

 

 九頭竜は辺古山ペコの永遠の夫である。これからもそれは変わらない。だが、辺古山の心と体を最も深く結びつけ、その奥底に消えることのない痕跡を刻み込んだもう一人の夫は確かに存在した。彼はその事実を生涯知る由もないだろう。日向は、白無垢姿で幸せそうに微笑む彼女の姿を瞳に焼き付けながら、自らの内にある重い秘密と、彼女への断ち切れない愛を静かに抱きしめた。交差した視線が解け、辺古山が再び真っ直ぐに前を向く。誰にも知られることのない絆と深い業を背負いながら、日向は彼らの門出を最後まで見守り続けるのだった。

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