「署名を! 子供達の未来を変えるため、魚人島を地上に移しましょう!」
太陽の光が降り注ぐ魚人島の広場で、リュウグウ王国の王妃オトヒメは、今日も声を枯らしていた。金魚の人魚である彼女はその折れてしまいそうな程、繊細でしなかやな身体を振りながら演説する。とりわけ人魚の中でも体の弱い彼女であるが、そこから放たれる意志の強さは魚人たちの心を激しく揺さぶっていた。
人を知り寄り添うため、地上の太陽のもとで暮らすという夢を掲げ、彼女は何年も署名活動を続けている。だが、集まる署名はあまりにも少なく、住民たちの視線は冷ややかだった。かつて魚人達を背負って戦った英雄フィッシャー・タイガーの死が、人々の心に植え付けた人間への不信感は、容易に拭い去れるものではない。それでもオトヒメは、目の前の者たちの手を握り、涙を流しながら訴え続けた。
「どうか未来を見てください。私たちの子供たちが、広い世界を恐れずに歩める日のために、手を取り合うのです」
「王妃様、あなたの優しさは分かっています。けれど、奴ら人間が本当に私たちを受け入れるとは思えないのです」
オトヒメの切実な言葉に対して、一人の逞しい魚人が複雑な表情で視線を落とした。彼の全身には、かつて天竜人の奴隷として虐げられていた頃の傷跡が深く刻まれている。二人の会話を包むように、周囲の群衆からも重苦しい溜息が漏れた。オトヒメは胸の痛みに耐えながらも、その魚人の手をさらに強く包み込み、決して諦めないという眼差しを向けた。
同じ頃、深海の暗黒を突き進む一隻の豪華な船があった。聖地マリージョアから出航したその船に乗っていたのは、天竜人であるドンキホーテ・ミョスガルド聖である。ミョスガルドは逃亡した魚人の奴隷たちを再び捕らえ、己の所有物へと戻すという目的のため、深い海の中へと足を踏み入れていた。しかし、突如として現れた巨大な海王類が、船体を粉砕するのであった。世界最高峰の権力を誇る男も、荒れ狂う海の前では無力な存在に過ぎない。激しい衝撃の中で意識を失い、ミョスガルド冷たい海の底へと沈んでいった。
奇跡的に魚人島の湾岸へと流れ着いたのは、破壊された船の残骸とミョスガルドだけであった。なんとか岩場に這い上がった彼を待ち受けていたのは、決して歓迎の光景ではなかった。周囲を取り囲んだのは、かつて聖地で地獄の日々を強いられていた元奴隷の魚人達。彼らの目に宿る灯火は、長年蓄積された暗い憎悪と、復讐の炎そのものであった。歪んだ顔つきで獲物を睨みつける彼らの呼吸は荒く、握りしめられた武器が鈍い光を放っている。それに対し、地面を這う天竜人は、死の淵に直面しながらも、染み付いた傲慢さを捨てきれずに叫んだ。
「大人しくウチに帰るんだえ! 誰が自由を許した魚類共! わちきを誰だと思っている!?」
「ハッ。誰が聞くかよ。地上では海軍大将がいるから、お前達の威厳が保たれているだけだ。ここは海底、島民が黙ってればただの海難事故で終いだ」
「なっ……!? おい、バカ、やめろッ!! わちきは天竜人──!」
ミョスガルドの傲慢が魚人たちの逆鱗に触れ、引き金にかかった指が力む。まさに命が断たれようとしたその瞬間、白い影が二人の間に割り込んだ。衣服を翻して滑り込んだオトヒメは、己の肉体が弾丸に対してどれほど無力であるかも顧みず、ミョスガルドの身体を覆い隠すように庇ったのだ。寸前で元奴隷だった魚人達が銃口をズラしたことで、放たれた弾丸はオトヒメの腕に掠る。その白い服には赤い鮮血が滲み出す。
「お、オトヒメ様ッ!? なぜそんな男を庇うのですか!? その男が、過去に我々に何をしてきたか……ッ!」
「あなた達の心の叫びは痛いほど伝わってきています。ですが、子供たちの心に! 人間への怒りや憎しみを植え付けないで……! 彼らはこれから出会い、考えるのですから!」
絶叫に近い問いかけに対して、オトヒメは深く息を吸い込み、目の前の魚人達を真っ直ぐに見つめ返した。周囲を見渡せば、親たちの背後から恐怖に満ちた目で事の顛末を見つめる、幼い子供たちの姿があった。オトヒメは集まったすべての人々に向けて、魂を振り絞るように言葉を紡いだのだった。彼女の必死の説得と、身体中から放たれる圧倒的な慈愛の気配に、武器を握る魚人たちの腕が次第に脱力していった。広場を支配していた殺気は霧散し、ミョスガルドとオトヒメの荒い息遣いだけが響き渡っていた。
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数日後、リュウグウ王国の医療技術によって、オトヒメの腕の傷も、ミョスガルドの傷も癒やされた。島民たちの不満と反発が渦巻く中、オトヒメの強い希望により、彼を無事に地上へと送り返すためのシャボンでコーティングされた船が用意された。出航の当日、船の周囲には多くの魚人と兵士たちが集まっていた。彼らの視線は冷淡であり、早く天竜人という厄介者が島から消え去ることを願う空気が場を満たしている。タラップを上がったミョスガルドは船の甲板に立つと、見物している魚人たちを見下ろして激しく顔を歪めた。
「覚えていろよ……お前達! 家畜の分際で飼い主に銃を向けたこと、わちきに対する無礼の数々っ! 必ず後悔させてやる……!」
男は己の恐怖の記憶を掻き消すかのように、これ見よがしに逆恨みの言葉を怒鳴り散らした。その尊大な態度に、港の魚人たちから怒りの声が漏れかけたその時、見送りの列の先頭にいたオトヒメが一歩前へと踏み出した。
「お待ちください、ミョスガルド聖。まだお話ししたいことがあるのなら、私が地上までご一緒いたします」
「何を、何を言うんじゃオトヒメ!? そんな勝手なことは許さん! どうしてもどうしても貴族たちに話しをつけたいと言うのなら、王であるわしが地上へ行く!」
「母上様っ!」「お母様あ!!」
その突然の宣言に、港全体が凍りついたかのような静寂に包まれた。誰よりも驚いたのは、彼女の傍らで黙って見守っていた夫であり、この国の王であるネプチューン、そして二人の娘と息子達だった。ネプチューンは巨大な身体を震わせ、妻の細い肩を掴みそうな勢いで前に出た。だがオトヒメはそれでは意味がないと言いたげに首を横に振った。
「いいえ、強いあなたでは駄目なのです。私のように人一倍か弱い者が地上へと向かい、そして無事にこの島へと帰ってくる姿を見せなければならないのです」
「オトヒメ……!」
「信じて! あなたの選んだ妻と、人間を……!」
「お母様っ! 行かないで……!」
「ああ、私の可愛い天使達! 大丈夫。ちゃんと帰ってきますからね。約束しましょうね」
オトヒメはネプチューンの胸元にそっと自身の小さな手を添えた。その手のひらから伝わる体温は微かであったが、そこに込められた魂の重量は巨体の王をも圧倒するほどであった。彼女の言葉は単なる理想論ではなく、自らの命を賭した具体的な証明の試みであった。ネプチューンはその言葉の重みに言葉を失い、ただ苦しげに視線を落とすことしかできなかった。そして彼女の一人息子であるしらほしが行かないでとオトヒメに縋りつき、三人の息子達も駆け寄る。オトヒメは小指を突き出し、絶対に帰ってくると四人と約束を結びのだった。
そしてオトヒメは躊躇うことなく天竜人が乗る、船のタラップを登り始め皆に手を振り続ける。甲板の上にいたミョスガルドは、生意気なと呟きながら、信じられないものを見るような目で彼女を睨みつけていた。やがて、船を引く巨大な魚が動き出し、地上へと向かい岸をゆっくりと離れ始めた。残されたネプチューンと数多の魚人たちが見守る中、オトヒメは姿が見えなくなるまで手を振って皆を安心させようとしたのだった。
深海の闇を切り裂き、眩い太陽の元へと向かうリュウグウ王国の船。その船の内部には、緊張感の漂う静寂が満ちていた。世界最高峰の権力を笠に着て、気に入らない者を即座に銃殺するという狂暴な解決手段を奪われたミョスガルド。彼は自身の居室内で苛立ちを隠そうともせず、不機嫌の塊となって長椅子に身を横たえていた。高価な調度品のない船室の簡素さが、彼の神経をさらに逆撫でしているのは明白であった。その居室の前で、王妃オトヒメは操船を担う魚人の兵士たちに向き合っていた。彼女の細い身体からは、可憐でありながらも退かない強固な意志が立ち上っている。
「ここからは、私がミョスガルド聖と一対一でお話をいたします。皆さんは決して中を探ろうとしたり、入ってきたりしないでください」
「しかし王妃様! 私たちはあなたをお守りするという、重大な任務をネプチューン王から仰せつかっておりますっ! あの人間がいつまた狂暴な挙動に出るか分かりません。せめて部屋の前に数名だけでも配置させてください!」
鈴の音のように清らかな申し出に、護衛の兵士は困惑の表情を浮かべて身を硬くした。兵士はネプチューンから託された、王妃護衛の任務を果たしたいと悲痛なまでの忠義を口にする。だがオトヒメは静かに首を振った。
「なりません。それでは彼に多数の圧力をかけることになります。一対一で向き合ってこそ、調和は成り立ちます。信じて見守ってください」
「オトヒメ王妃……っ! 何かあったらすぐ呼んでください!」
王妃の揺るぎない態度に、兵士たちはそれ以上の反論を挟むことができなかった。一人残されたオトヒメは、小さく呼吸を整えてから、重厚な扉を開けて室内へと足を踏み入れた。室内には、不機嫌さを全身から発散させているミョスガルドの姿があった。彼は入ってきたオトヒメを一瞥するなり、鼻で小さく笑って顔を背けた。その横柄な態度に対しても、オトヒメは微笑みを絶やすことなく声をかけた。
「ミョスガルド聖、お体の具合はいかがですか。海の底は地上の気候とは異なりますから、不快な思いをさせてしまっているのではないかと案じております」
「ふん。王妃だろうが、魚類の分際でこの私に馴れ馴れしく話しかけるなえ。魚類の代表としてわちきに文句でも言いにきたのかえ?」
「そんな言い方はなりません。私達は魚類ではなく魚人。そして文句ではなく抗議はさせてもらおうと考えております」
「っ……! 深海にのさばる魚の分際で……!!」
ミョスガルドの口からとても命助けられた者とは思えない、差別的な言葉が返ってきた。しかしオトヒメはその言葉の棘を受け流し、静かに椅子の近くへと腰を下ろした。彼女の白い衣が波のように揺れ、室内にかすかな平穏をもたらす。
「私は、あなたと戦うためにここにいるのではありません。我が魚人島が地上へと進出し、人間の方々と手を取り合って暮らすための未来についてお話ししたいのです。そのために、私は世界会議に提出する署名活動を日夜続けてまいりました。どうかあなたにも、私達の活動にご協力をいただけないでしょうか」
「フン! 誰が好き好んで、お前達のために一筆書くんだえ。わちきはそんなこと望んでないえ」
オトヒメは熱を帯びた眼差しで、その細い両手を差し出すようにして頼み込んだ。彼の一筆があれば、署名活動や世界会議に大きな後押しになるのは疑いようがなかった。だがミョスガルドは、彼女の必死の訴えを聞いても知らぬぞんぜんを通そうとする。しかし冷酷な拒絶の言葉を放った後、ミョスガルドの視線がゆっくりと変化した。それは言葉による拒絶とは裏腹に、目の前にいるオトヒメの肉体へと言い知れぬ執着を向けるものへと変わっていった。
彼は長椅子から身を起こすと、オトヒメの華奢な身体の線を、足元から首筋にいたるまで、まるで品定めをするかのように舐め回すような目付きで見つめた。オトヒメは一瞬、その視線に息を呑んだが、逃げ出すことなくその場に踏み止まった。ミョスガルドはススススッと奇妙な笑いをすると、その顔を彼女の至近距離まで近づけた。
「どうしてもわちきの一筆が欲しいのなら、それ相応の対応というものがあるだえ。具体的に言えば、お前の体を使った奉仕次第で考えてやるえ」
「ミョスガルド聖、あなたという人は……!」
その言葉には、明確に王妃に性的な奉仕を要求する卑劣が含まれていた。ミョスガルドから投げかけられた下卑た言葉と視線は、彼女の尊厳を真っ向から踏みにじるもの。オトヒメは他者を軽んじるその態度に言いたいことがたくさんあったが、これをチャンスだとも捉える。このような理不尽な要求を受ける可能性については、島を出る前から幾度となく想定していたのである。彼女は心の中で、最愛の夫と息子娘達の顔を思い浮かべた。
(あなた、私の天使達……ごめんなさい。私は止まるわけにはいかないのです)
心の中で深くネプチューと子供らに謝罪し、その小さな胸の内で愛する家族へ向けた祈りを捧げると、オトヒメは一切の躊躇いを捨てて顔を上げた。彼女の瞳には、先ほどまでの困惑や恐れの色は微塵も残っておらず、ただ透き通った強い意志だけが満ちていた。
ミョスガルドは、自身の突きつけた無体な条件に対して、目の前の華奢な人魚が慌てふためき、涙を流して拒絶するか、あるいは怒りに震えて部屋から飛び出していくものと確信していた。地上の奴隷たちが見せたような、絶望と屈辱の表情を期待して唇を醜悪に歪めていた。だが、オトヒメの反応は彼の予測を完全に裏切るものであった。
「分かりました。それであなたが本当に一筆書いてくださるというのであれば、私は喜んであなたの要求に応じましょう」
オトヒメは物静かな、しかし確かな力強さを伴った声でそう告げると、自らミョスガルドの方へと距離を詰めた。彼女の白い衣が床に擦れるかすかな音が響き、清楚な姿のまま圧倒的な気迫で彼の眼前へと迫っていく。思惑とは全く異なる展開に、ミョスガルドは完全に圧倒された。詰め寄ってくるオトヒメの気迫に押され、彼は思わず長椅子の上で身体を仰け反らせる。ミョスガルドは狼狽を隠せないまま、声を荒らげて彼女の夫や子供達を口にする。
「な、何を言ってるんだえお前は!? 魚人島に残してきた、あの図体のデカい魚類や稚魚等はどうでもいいのかえ!!?」
「どうでもいいわけがありません。私は家族を心の底からから愛しております! ですが彼等を愛する気持ちと同じくらい、私は魚人島に暮らす者達や、この先生まれてくる未来の子供たちも大事なのですっ! より良い未来を手に入れるためなら、私はどのような困難も受け入れる覚悟です!」
オトヒメは即座に淀みなく答え、その歩みを止めることはなかった。彼女の顔には悲壮感が漂っていたが、その言葉には一片の迷いもなかった。ミョスガルドが当初期待していた、下々の女が戸惑い翻弄される光景とは真逆、気高き王妃が矮小な男を圧倒する光景がそこには広がっていた。
ミョスガルドが困惑している最中、オトヒメは静かに彼の前に膝をついた。彼女の心には一点の曇りもなく、ただ魚人島の未来と子供たちの笑顔を守るための覚悟だけが満ちている。天竜人の尊大極まる要求に対し、怯むどころか自ら距離を詰めてきた人魚の王妃。ミョスガルドは長椅子の背もたれに身体を深く沈め、彼女の揺るぎない意思に当惑の表情を浮かべた。言葉で威圧しようとしたものの、その薄っぺらな虚勢は彼女の放つ神聖なまでの気迫によって無力化されてしまった。
オトヒメは長い髪をかき上げ、衣服の裾を整えながら、戸惑うミョスガルドの衣服へとそっと手を伸ばした。彼女の細い指先が、男のまとっている上等な布地に触れる。やがて、彼女の手によって男の衣服が取り払われ、その肉体の一部が室内の明かりの下に露出した。それは、オトヒメが普段見慣れている夫の規格外に巨大なモノと比べれば、あまりにも小さかったが、その肉竿に流れる血流は熱く脈動していた。
(これが人間の……やはり私が知っているものとは違いますね。これも相互理解の一環になるかもしれないわね)
しかし、小柄なオトヒメの体格を考慮すれば、奇妙なほどに収まりの良い大きさを有しているようにも見えた。ネプチューン以外の異性を知らないオトヒメにとって、それは未知の男性器であり、本来ならば上手く奉仕するのもままならなかったかのしれなかった。しかし、オトヒメには天性の能力があった。彼女が生まれ持つ見聞色の覇気は、他者の心の声だけでなく、肉体の繊細な揺らぎを正確に捉えることができた。彼女はその力を使い、ミョスガルドの肌が求める触球の強さ、速度、そして呼吸の波長を的確に読み取っていった。
「夫以外を相手取るのは初めてですので、不備があればご容赦を」
「フン、少しでも下手な真似をすれば──ぉっ!!? ほぉ、ぉぅふぅっ!!?」
オトヒメは囁くような声でそう告げると、金魚の人魚でありながら、白魚のような手のひらで男の肉体へと触れた。これまで聖地マリージョアにおいて、無数の雌奴隷からあらゆる奉仕を受けてきたミョスガルド。だがこれほどまでに、声を漏らしてしまうほどの快感は生まれて初めてであった。恐怖や義務感から差し出される無機質な奉仕とは根本的に異なる、自身の神経の最深部を直接揺さぶるような波状の快感が、彼の身体を猛烈な勢いで支配し始めた。オトヒメの指先がカリ筋や竿を撫でるたびに、背筋を電流が駆け抜け、脳内の思考が急速に白濁していく。
「おっ、おぉぉっ〜〜!! お前っ、ふぐっ、くぅぅっ!!?」
「ここですね。ミョスガルド聖のおつゆが沢山溢れていますよ。ふふ、両手で包めるほどだと、なんとやりやすいこと」
ミョスガルドは辛うじて言葉を絞り出そうとしたが、喉の奥から漏れるのは情けない喘ぎ声だけであった。指で亀頭摘み、撫で回すように愛撫したかと思えば、根本から肉棒を引き抜くように手でストロークさせ、同時にぐつぐつと精を滾らせている陰嚢をもほぐす。到底初めてとは思えぬ手管に、ミョスガルドの額には大粒の汗が浮かび、目は焦焦として焦点を結ばない。あまりの快楽の洪水に、天竜人としてのプライドは瓦解し、ただ与えられる感覚に翻弄されるだけの存在へと成り下がっていた。オトヒメは男の激しい息遣いと、その肉体が限界を迎えていることを覇気によって完全に察知した。彼女の顔には慈愛に満ちた笑みが浮かび、その細い腕で男の身体をやさしく支えるようにして、その耳元へ顔を寄せた。
「頃合いですね。我慢なさる必要はありません、いつでもすべてを出して良いのですよ」
「ッッ〜〜!! ぎょ、ぎょるいの、くせにっ、ここまでッッ〜〜!!」
その甘く、全肯定するような優しい囁きが、ミョスガルドの最後の理性を吹き飛ばした。男は至福の快楽の中で低く絶叫し、オトヒメの包み込むような手の中へと、己の内に溜め込んでいた生命の証を大量に放出したのであった。しかし、人魚の王妃オトヒメの目的は、ここで達せられたわけではない。彼女の細い指先は、ミョスガルドがもう良いと声を上げるまで、休むことなくその剛勇な部位を愛撫し続けた。
生まれ持った見聞色は、相手の肉体がどの瞬間に、どのような刺激を求めているかを残酷なまでに正確に伝えてくる。オトヒメはその感覚の波長に自身の動きを完璧に同調させ、男の欲情を限界まで引き出しては、何度も白濁した熱い液体をその掌の中に放出させた。幾度も繰り返される至福の奔流に、天竜人の身体は完全に打ちのめされ、シーツの上に深く沈み込んでいた。その姿はまな板に上げられた鯛そのもので、彼自身が見下していた魚のようにピクピクと体を震わせていた。
「はぁ、はぁ……こんな、あり得ないえ……わちきが、こんなに良いようにされるなんて……っ!」
「ふぅ──……ミョスガルド聖の精力がここまであるとは驚きでした。体格と精力は比例しないものですね」
ミョスガルドは肩を大きく上下させ、荒い呼吸を室内に響かせた。衣服の乱れたその姿には、かつて奴隷たちを虫けらのように見下していた傲慢な威厳はなく、ただ一人の女がもたらす感覚の洪水に溺れた男の無防備さだけが残されている。オトヒメは自身の衣服を静かに整え、汗ばんだ額の髪をかき上げながら、穏やかだが決して退かない眼差しで彼を見つめた。そして無意識に夫と比較し、ミョスガルドの夫と同等の精力旺盛さを呟いていたのであった。それからミョスガルドを落ち着いたのを見て、オトヒメは彼に奉仕をする前にした話しを切り出す。
「ミョスガルド聖。約束通り、我がリュウグウ王国の地上進出に向けた書面に、一筆書いていただけますね」
「ぎょ、魚類にしてはなかなかやるが、わちきはまだ満足してないえ……! ぁ、明日以降っ! 迎えの船に乗るまで、毎日わちきに奉仕してもらうえっ!」
オトヒメの言葉に対し、横たわっていたミョスガルドは自身の不覚を恥じるかのように顔を歪め、荒い息を吐き出しながらも鋭い視線を向けた。男の口から出たのは、さらなる要求であった。優位に立っていると思い込もうとする彼の声は微かに震えており、目の前の女性が持つ不思議な魅力に逆らえない自分を必死に隠そうとしているかのようだった。オトヒメはその言葉の裏にある動揺を見逃さず、柔らかな微笑みを浮かべたまま、自身の細い小指を男の眼前へと差し出した。
「分かりました。それでは、地上に戻るまでの間、私が誠心誠意あなたに奉仕をいたしましたら、その時には必ず一筆書いてもらうと約束してくれますね」
「な、何だえその指は。わちきに何をさせようというのだえ」
「これは指切りというものです。交わした約束を、お互いに決して破らないと誓い合う時に行う、大切な風習なのですよ。さあ、薬指を出してください」
オトヒメはまるで幼子に言い聞かせるかのように、優しく微笑みながら答えた。彼女の放つ圧倒的な包容力と、決して揺らぐことのない大義の気迫に押さる。ミョスガルドは文句を言うことすらできず、引き寄せられるようにして自身の小指を彼女の細い指へと絡めた。渋々と指を絡めながらも、ミョスガルドの胸中には言い知れぬ感情が渦巻いていた。彼はこれまで聖地で多くの美しい女や、従順な奴隷たちを見てきた。しかし目の前にいるオトヒメという存在は、それらの誰とも決定的に異なっていた。
力でねじ伏せることもできず、言葉で貶めようも、その高潔な精神を傷つけることすらできない。自分の思い通りの展開にならないまま、彼女の都合の良い方向へと巧みに誘導されていた。世界貴族であり天竜人ある自分が、下界の者に転がされているというのに。ミョスガルドは奇妙な心地よさを感じてしまっていた。彼自身、己の内に芽生えた未知の感覚に戸惑いながら、ただオトヒメの清らかな瞳を見つめ返すことしかできなかった。
濃厚な行為の余韻が残る室内で、オトヒメは手際よく、自身の掌やミョスガルドの体に付着した白濁した液体を布で拭い去る。ミョスガルドの顔にはまだ恍惚とした表情が微かに残っていたが、オトヒメの表情はすでに次なる段階へと切り替わっていた。彼女は息を整えると、長椅子の上で気だるげに横たわる男を見下ろし、穏やかな声で語りかけた。
「長旅でお腹も空いたでしょう。せっかくですから、一緒に食事をいたしましょう。一人より、二人で食事をする方が楽しいですから!」
「んぁ……いいだろう、同じテーブルで食事をすることを許してやるえ。お前には過ぎた栄誉だと心得るえ」
オトヒメは給仕の兵士たちに合図を送り、速やかに豪奢な膳を部屋へと運び込ませた。運ばれてきたのは、深海の恵みをふんだんに使った見事な魚介類の料理であった。熟練の料理人が腕によりをかけて調理したものであり、芳醇な香りが室内に広がる。しかし、膳の前に座ったミョスガルドは、料理を一瞥するなり不快そうに顔を歪めた。彼はフォークを乱暴に扱い、皿の上の魚の身を突き崩すと、そのまま床へと払いのけた。
「ふん。今は魚の気分じゃないえ。高貴な牛肉を持ってくるのだえ」
「──ミョスガルド聖ッ!!」
食材を汚し、踏みにじるその傲慢な所業を目にした瞬間、オトヒメの瞳に激しい炎が灯った。天竜人からの後押しが必要だったから我慢していたが、彼の傲慢な要求にも思う所はたくさんあった。そして今目にしたことは到底看過出来ぬと、オトヒメの諭さなければという想いが燃え上がったのである。彼女は躊躇うことなく腰を浮かせると、ミョスガルドの頬に向けて、その小さな平手をお見舞いした。鋭い打撃音が室内に響き渡り、痛みに悶える声が複数上がる。
「痛ッ──! !? な、何をするのだえ!?」
「ああああっっ〜〜!! 手があぁぁぁ〜〜!!」
「なんでビンタした方が痛がってるんだえ!!?」
頬を押さえて凝視するミョスガルドの前で、オトヒメは打った自身の右手を胸元に抱え込み、大粒の涙を流して激しく痛がっていた。彼女の肉体は非常に脆弱であり、彼を叩いた衝撃で激痛に震えていたのである。ミョスガルドはぶたれたことに対する怒りより、自分以上に痛がっているオトヒメに驚愕していた。体が弱いだろうに、天竜人にわざわざ自らを傷つけてまで怒る彼女に気圧される。激しい怒りと涙を伴いながら、オトヒメは痛みを堪えながら口を開く。
「ミョスガルド聖! あなたは今、とても大きな過ちを犯しました。食事をわざと床に捨てるなど、あってはならないこと。このお魚さんたちにも、皆のために捕ってきた漁師の方にも、そして心を込めて調理した料理人にも、あまりにも失礼なことです!」
「わ、わちきの望む料理を作らなかった方がわる──へぶっ!!?」
「っ〜〜!! 好き嫌いもいけませんっ! あなたはもっと他を尊ぶ心を持ちなさい。己の権力を無闇矢鱈に振って、他者に非道な命令をするなど、本来あってはならないことです。ミョスガルド聖、漁師も料理人も、私も奴隷も同じ人なのですから!」
オトヒメは腫れ上がった手を握り締めながら、声を枯らして言葉を尽くした。その言葉はミョスガルドをただ怒鳴りたいや、難癖をつけて騒ぎたいだけではなかった。ミョスガルドが、生命の尊さや他者への感謝を全く知らずに生きていることに対する、心からの悲しみと憤りであった。
ミョスガルドはその激しい言葉の奔流を受け止めながら、呆然と立ち尽くしていた。彼の脳裏に、聖地マリージョアでの退屈で冷徹な日々がよみがえる。厳格な父親も、放任主義の母親も、利権を貪る親戚たちも、自分の機嫌を伺うか、あるいは形式的な礼儀を押し付けるのみで、このように一人の人間として正面から向き合い、真剣に激昂してくれた者など誰一人としていなかった。オトヒメの言葉の端々から伝わってくるのは、自分を排除しようとする敵意ではなく、己の傲慢な精神を心の底から叩き直したいという、純粋なまでの更生への願いであった。
「わちきは……ただ、気に入らないからそうしただけだえ……」
「それではいけないのです。どれほど高い地位にいようとも、あらゆるものを粗末にする権利など誰にもないのです。他者を顧みないものは、いつか顧みなかったものから報いを受けるものですよ」
いつもであれば下界の者が自分に偉ぶるなど、即座に相手を撃ち殺してもおかしくないことだった。だがミョスガルドは、不思議とオトヒメに反論したり殺したいという意思はなかった。彼女の言葉に秘められた圧倒的な熱量と、自分を正しい人間へと導こうとする奇妙な心地よさがミョスガルドを変えていた。
激しい説教の嵐が静まり、オトヒメが痛む自身の右手に簡単な応急処置の包帯を巻き終えると、室内の空気はようやく落ち着きを取り戻した。床に落ちた料理はが皿に戻され、オトヒメのまだ手付かずだった皿と位置を交換される。オトヒメは腫れた手をかばいながらも、席に戻って静かに座った。その背筋は美しく伸びており、恭しく落ちた料理に手をつける。
「床に落ちても美味しいです。我が国はお菓子も有名ですが、料理も自慢なのですよ。ミョスガルド聖、一口食べてくださいませんか?」
「……フン」
ミョスガルドは、先ほど平手打ちをされた頬の熱さを感じながら、目の前の料理を恐る恐る見つめた。ここで再び料理を粗末に扱ったり、まずいなどと言おうものなら、あの小柄な人魚の王妃からどれほど苛烈な打撃が飛んでくるか分かったものではない。天竜人としてのプライドをかろうじて保ちつつ、彼は渋々とフォークとナイフを動かし、魚の身を口へと運んだ。
「どうですか、ミョスガルド聖の口にも合うくらい美味しいと思うのですが?」
「……まあまあだえ。マリージョアの料理はもっとすごいえ」
「まあ、聖地の料理はそれほど素晴らしいのですね。ミョスガルド聖、ぜひあなたの故郷のお話を聞かせてくださいませんか?」
「何だえ、急に。わちきたちの高貴な生活に興味があるのかえ」
「ええ、とても興味があります。あなたが普段どのような生活をなさっているのか、そしてなぜ、魚人や奴隷の方々を手酷く扱うようになってしまったのか。天竜人、何よりミョスガルド聖のことを知りたいのです」
魚人島自慢の魚料理の味に、ミョスガルドは精一杯の強がりを口にした。その負け惜しみとも取れる言葉は、しかしオトヒメの強い興味を引いたようであった。彼女の大きな瞳が輝き、深く身を乗り出す。オトヒメは真っ直ぐに男を見つめ、対話を求める手をそっと差し出した。その問いかけには、非難の色ではなく、相手の根底にあるものを理解しようとする純粋な探求心が溢れていた。
「人間と魚人が分かり合うためには、まずお互いを知ることから始めなければなりません。あなたの好みや、嫌うものについても教えていただけますか? 私のこともたくさんお話しします」
「わちきの話し……」
ミョスガルドは、料理を口に運びながら彼女の言葉を咀嚼した。聖地マリージョアでは、誰もが彼の肩書きや権力だけを見て跪き、彼自身の内面に耳を傾けようとする者など存在しなかった。目の前の女が、自分という一人の存在を深く知ろうとしてくれている事実は、彼の頑なな心を内側からじんわりと温めていくようだった。その奇妙な高揚感は、彼にとって決して悪いものではなかった。
「ふん、そこまで言うなら、お前たち魚類が到底知る由もない至高の世界を、特別に教えてやるだえ」
「ええなんでも教えてください! その次は私が好きな、海の森についてお話ししますね」
ミョスガルドは少し得意げに胸を張り、マリージョアの壮大な建築や、日々の贅沢な暮らしについて語り始めた。その日、二人は船の個室で、深海の夜が更けていくのを忘れて対話を続けた。ミョスガルドが語る地上の華やかな生活や歪んだ常識に対し、オトヒメは時に驚き、時に優しく諭すように自身の考えを伝えた。海底の王国の美しさや、光を求める同胞たちの切実な願いを彼女が語ると、男は退屈そうな素振りをしながらも、その言葉を一つも漏らさずに聞き入っていた。
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翌日、深海を進む船の窓から差し込む光は相変わらず薄暗く、部屋の中はしんと静まり返っていた。眠りから覚めてしばらく経ち、身支度を整えたオトヒメは、ゆっくりとした足取りでミョスガルドの居室の前へとやってきた。彼女は扉をそっと叩き、室内の許可を得てから中へと足を踏み入れた。長椅子の上で気怠げに横たわっていたミョスガルドは、入ってきた彼女を一瞥する。オトヒメは包帯の巻かれた自身の右手を少し気にかけながらも、穏やかな微笑みを絶やさずにベッドの方へと歩み寄った。
「ミョスガルド聖、約束を果たしに参りました。さあ、こちらへ」
オトヒメは優しく声をかけながら、彼の手を引いてベッドへと連れ出し、その平らな場所に横になるよう促した。ミョスガルドは文句を言いたげな表情を浮かべつつも、彼女の放つ不思議な圧力に逆らうことができず、言われるがままに身体を横たえた。オトヒメはためらうことなく彼の衣服へと手を伸ばし、身につけていたズボンを滑らせるようにして下ろしていった。
すでに衣服の下では、期待と欲望によって猛り狂った肉棒が、天を突くようにしてその全貌を現していた。昨日幾度も快楽を貪ったその部位は、早くも次の奉仕を求めて熱く硬く脈打っている。オトヒメはその様子を目にすると、慈愛に満ちた深い微笑みを浮かべた。
「昨日の平手打ちで片手が少し不自由ですので、今日はこちらの方法で、誠心誠意あなたに奉仕させていただきますね」
オトヒメは自身の赤く腫れた右手をそっと胸元に添えながら、潤んだ瞳で男の顔を見上げた。そして、その艶やかな唇を、熱く怒張した肉棒の先端へとゆっくりと近づけていった。目の前で繰り広げられる人妻王妃のフェラチオに、ミョスガルドの興奮は最高潮に達していた。高貴な女が、己の最も醜悪で凶暴な部位に対して自ら顔を寄せているという事実に、彼の脳内は激しく沸き立った。
「は、早くするのだえ。わちきをこれ以上待たせるなえ」
「むっ……ひとまず置いておきますか。では、始めます。すぅー……ちゅっ。ちゅるっ、れろ、れる、れろぉ、じゅ、じゅるっ、じゅるるるっっ……!!」
「おぉぉっっ!! おほっ、おふぅ、おぁっっ!!」
興奮のあまり喉を鳴らし、ミョスガルドは命令の言葉を口走った。その言葉を受け止めると、オトヒメは何か言いたげな表情をしたが、ついにその温かい口内へと熱り立つ先端を迎え入れた。その瞬間に始まった口淫は、まさに言葉を失うほどの凄まじさであった。舌全体を竿に絡め、バキュームは肉棒全体を圧迫し、えも言われぬ快感を与えていた。彼女は男の荒い呼吸と腰の微かな震えを完全に察知し、一切の無駄なく快感の核心へと迫っていった。
ミョスガルドの頭の中は、一瞬にして衝撃で白く染まった。これまでに聖地マリージョアで、幾人もの奴隷や専門の女性たちに同様の行為をさせてきたが、今その口内で起きている精緻極まる愛撫は、それらとは根本的に次元が異なっていた。溢れ出る唾液とともに、吸い上げるような強い吸引が男の神経を激しく揺さぶり、続いて肉棒の裏筋を這い上がるようにして蠢く柔軟な舌の動きが、背筋に強烈な電流を走らせる。
「あ、はぁっ、ほぁ、ほォォォォ……ッッッ!!」
「じゅぽっ、じゅっぽぉ! じゅるぅ、じゅっぷっ、じゅっ、じゅぞぞぞっっ!!」
ミョスガルドの口から漏れるのは、もはや言葉にならない喘ぎ声だけであった。オトヒメは彼の心理が快楽の海へと深く沈んでいくのを完全に読み切り、さらにそのの密度を上げていった。吸う息と吐く息の隙間さえも利用するかのような完璧な緩急によって、ミョスガルドの身体へ極上の快楽を絶え間なく享受させていくのだった。驚異的な感覚の奔流が押し寄せ、ミョスガルドは自身の限界が近いことを本能的に察知した。激しい脈動を繰り返す肉体が、熱い液体を外へ解き放とうと激しく疼き始める。
「はぁはぁ、お前、もう我慢ができないえ……! わちきの精を、全部飲むんだえっ!!」
ミョスガルドは上ずった声で欲望のままに要求した。しかし、オトヒメはその切迫した訴えに従うことはしなかった。見聞色の覇気によって彼の肉体の状態を完全に把握していた彼女は、極限まで高まった熱量が外へ噴出するまさにその直前、素早く自身の唇を肉棒の先端から引き離した。空間に、勢いよく白濁した液体が幾筋も弧を描いて放出される。それは天竜人の腹部やベッドの白いシーツを汚し、虚空へ向かって無残に飛び散っていった。
「ふぅ、ふぅ〜〜!! な、なぜだえ……!? なぜ受け止めなかったのだえ!?」
「それはあなたの態度が問題だからです、ミョスガルド聖」
「わ、わちきの何が問題だというんだえ!?」
ミョスガルドは、目標を失って虚空へ消えた自身の生命の証を呆然と見つめながら、ひどく荒くなった息を整えることもできずに非難の声を上げた。屈辱と混乱が入り混じった表情で、彼は上半身を微かに起こして人魚の王妃を睨みつける。オトヒメは自身の口元を布で静かに拭い、包帯の巻かれた手を優しく胸元に当てながら、悲しげに、しかし厳格な眼差しを男へと向けた。
「どれほど心地よい時間であっても、相手への思いやりや、奉仕されることへの感謝の気持ちを忘れてはなりません。それがなければ、性行為というのは相手の心を傷付ける暴力へ成り果てます」
「わ、わちきは世界貴族、この世で一番偉い天竜人だえ! 奉仕されることは当たり前で……!」
「あなたが世界で最も気高い血筋を引いているというのであれば、なおのこと、他者の献身に対して敬意をを払うべきです。昨日も言った通り、他者への尊重を忘れてはなりません。あなたが私への、そして与えられる温もりに正しい感謝の心を抱くことができた時、私は喜んであなたの精を受け入れましょう」
オトヒメの言葉には、ミョスガルドを貶める意図など微塵もなく、ただ一人の未熟な人間を正しい心の在り方へと導こうとする強い慈愛が満ちていた。オトヒメは再び身を屈めると、今度はさらに繊細で巧みな舌の動きを用いて、熱の冷めやらぬ部位へと容赦ない口淫を再開した。
「ひぅ! また、来たっ……!!」
ミョスガルドの身体が再びベッドの上で大きく跳ね上がる。先ほど一度放出したばかりであるにもかかわらず、彼女の驚異的なフェラの技術は、眠りかけた神経を無理やり叩き起こすかのように強烈な快楽を注ぎ込んできた。天竜人として生を受けて以来、彼は奴隷たちからの奉仕を当然の権利として享受してきた。彼らの恐怖や苦痛には目もくれず、ただ自身の欲望を排泄するためだけに道具として扱ってきたのである。そこに他者への思いやりや、ましてや感謝の念などを抱いたことなど一度としてなかった。
なぜ貴族たる自分がこのような異形の存在に対して、心を砕かねばならないのかという反発心が胸の奥には確かに存在していた。しかしその高慢な理性を、オトヒメのもたらす圧倒的な口淫の波が容赦なく粉砕していく。熱く湿った口内へと深く囲い込まれ、的確に性感の核心を突かれるたびに、ミョスガルドの思考は急速に濁濁とした快楽の渦へと飲み込まれていった。抗おうとする意志は霧散し、ただ彼女の意向に身を委ねるしか道は残されていなかった。
「はぁ、はぁ、お前の、その……口での奉仕は、本当に素晴らしいえ……とても上手だえっ」
ミョスガルドは視線を激しく彷徨わせながら、ついに自身の内にある本音を言葉として吐き出した。心の内から湧き上がる、オトヒメへの感情をそのまま言葉として紡ぎ出す。オトヒメはそれを聞くと、上目でミョスガルドを見て続きを催促しているようだった。
「もっと、もっとしてほしいえ……狂いそうだえ、本当に気持ちがいいんだえ……お前にフェラをされて、本当に嬉しいんだえ……!」
その言葉を聞いた瞬間、オトヒメの美しい顔に、先ほどよりも一段と深い、確かな充足を伴った薄い微笑みが浮かんだ。オトヒメは唇を一旦、ミョスガルドの肉棒から離し、我が子の成長を見たかのような慈悲深い声色で話し出す。
「よく言えましたね、ミョスガルド聖。相手への感謝と敬意こそが、生きる上で最も大切なのです」
「な、ならっ……!」
「ええ。約束通り、あなたの精をしかと受け止めましょう……あむっ、ちゅ、ちゅっ、ちゅるるっっ! ちゅぱ、ちゅぅ〜〜!!」
オトヒメは男の心の変化を覇気によって確かに感じ取ると、これまでにないほどの強い力で吸引を開始した。口腔内の圧力を限界まで高め、肉棒の根元から先端にいたるまでを一気に吸い上げる。その強烈な刺激は、男の射精感を爆発的な勢いで頂点へと押し上げた。
「あ、いくえ、もう出そうだえぇ!」
「いいれふよ、出して、ください──ングッ!!!」
ミョスガルドの腰が大きく波打ち、再び限界を迎えた肉体から、先ほどを遥かに凌駕する量の白濁液が勢いよく噴出する。夫ネプチューンの精のシャワーを浴びた時とも違う、ミョスガルドの味がオトヒメの口内から喉を占領する。その熱い奔流のすべてを避けることなく、自身の喉の奥へと真っ直ぐに迎え入れ、一滴の無駄もなく完全に飲み干した。室内に響くのは、二人の重い呼吸の音だけであった。
唇がゆっくりと離れると、そこに残されたのは濃密な銀の糸であった。二人の熱を孕んだ、精液と唾液が混ざった銀の橋。それは薄暗い照明を受け、夜の海原にきらめく夜光虫のように怪しく微かな光を放ちながら、オトヒメの艶やかな唇とミョスガルドの亀頭とを繋いでいた。オトヒメは包帯の巻かれていない側の美しい指先を伸ばし、その細い境界線をそっと拭うと、ためらうことなく自身の舌先で舐めとった。それから再び咥えると、テカテカと互いの液で濡れた肉竿を掃除するように舐め回す。
その扇情的な一連の所作を目の当たりにしたミョスガルドは、激しく喉を鳴らした。これまで彼が交わったどんな女も、このような気高さを維持したまま自身を翻弄することはなかった。背筋を駆け抜ける心地よい戦慄が、彼の興奮の度合いをさらに高い領域へと引き上げていく。オトヒメは乱れた髪の隙間から、潤んだ大きな瞳で男の顔をじっと見つめた。その眼差しは、言葉以上の何かを問いかけているようだった。ミョスガルドは彼女の揺るぎない視線に気圧され、先ほど自身に課された教えを頭の隅で思い出す。彼はひどく汗ばんだ顔を背けながら、ぶつぶつと呟くように声を漏らした。
「……よく、やったえ。その、悪くない奉仕だっただえ。気持ち良かったえ……」
「ええ、よく言えました。言い方はもう少し心を込めて変えると良いですが、感謝の言葉をきちんと口にできましたね」
「わ、わちきを子供のように扱うなえ」
口では反発の言葉を発したものの、ミョスガルドの胸の奥はかつてないほどに激しく脈打っていた。世界貴族としての誇りを傷つけられたはずの不快感以上に、その手のひらから伝わる確かな温もりが、彼の精神をどうしようもなく安らがせていく。そこからの時間は、男にとって夢とも現実ともつかない感覚の洪水であった。片手が不自由であるにもかかわらず、オトヒメの巧みなフェラは疲れを見せるどころか、さらに洗練された動きでミョスガルドの感覚の核心を突き続けた。覇気によって引き出される絶頂は一度では終わらず、ミョスガルドは抗う術を持たないまま、十発以上は、彼女の温かい口内へと搾り取られていった。
やがて行為が終わり、室内に運ばれてきた食事の場でも、ミョスガルドの様子は昨日とは一変していた。全身を心地よい気怠さに包まれながら、彼は出された料理を大人しく口へと運ぶ。皿の上の盛り付けを眺め、それを咀嚼するたびに、彼は自身の内面がかつてないほど激しく書き換えられているのを実感していた。オトヒメが放つ圧倒的な高潔さに、自分という存在の根底が完全に変えられていることを、男はもはや否定できなかった。
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天竜人の居室を満たしていた濃厚な空気は、深海を進む船の微かな振動とともにゆっくりと揺れていた。心身ともに未知の感覚で満たされた彼の脳裏には、これまでに見たこともない不思議な情景が広がっていた。夢の中で、ミョスガルドは太陽の光が降り注ぐ地上にいた。彼の隣には、変わらぬ笑みを浮かべたオトヒメが立っている。彼女は細く壊れやすいはずの手で彼の腕を強く引っ張り、シャボンディ諸島の広大な遊園地の中を縦横無尽に歩き回っていた。巨大な観覧車を見上げ、きらきらと輝くシャボンの泡に囲まれながら、人混みの中を進んでいく。普段であれば、下等な人間どもが集まる場所に足を踏み入れることなど不快極まりないはずであったが、夢の中のミョスガルドは下界の臭いを遮るマスクを被ってもいなかった。彼女に振り回されるその時間が、不思議と嫌ではなく、むしろ胸が躍るような楽しさに満ちていた。
やがて夢の情景は夜へと移り変わり、二人は静かな部屋のベッドの上で、互いの存在を確かめ合うように深く愛し合っていた。それは支配や奉仕といった歪んだ関係ではなく、純粋な愛着に基づいた温かい交わりであった。そして、彼女との間に新しい命が誕生し、愛おしそうに我が子を抱く自分の姿を見たところで、彼の意識は急速に覚醒へと向かった。薄暗い船室の天井が視界に入り、ミョスガルドは勢いよく上体を起こした。額からはかすかに汗が滲んでおり、心臓が衣服越しにも分かるほど激しく脈打っている。
「わちきが、あのような夢を見るなんて……あり得ないえ」
彼は自身の両手を見つめ、信じられないといった様子で呟いた。これまで奴隷を人とも思わずに扱ってきた自分が、魚人の女性に対してこれほどまでに深い愛着と執着を抱く夢を見るなど、想像すらしていなかったことだった。しかし、夢の中で感じた幸福な感覚は、目覚めた後も彼の胸の奥に鮮明に残っている。
手を握りしめる内に、彼の中に潜んでいた独占欲が急速に頭をもたげてきた。あの気高く、自分を真っ直ぐに変えようとしてくれる美しい人魚を、自分の妻として迎え入れたい。あの柔らかな肌や、自分を極上の快楽へと導くあの唇を、自分以外の誰にも触れさせたくない。天竜人としての傲慢な所有欲は、今やオトヒメという一人の女性への狂おしいほどの執着へと変質し始めていた。
「お前は、わちきだけのものになるべきだえ……」
ミョスガルドは乱れた息を整えながら、固く決意したような眼差しで扉の方を見つめてオトヒメへの思いを馳せた。暫く後に薄暗い船室の静寂を破るようにして、木製の重厚な扉が静かに開いた。室内に足を踏み入れたオトヒメは、穏やかな笑みを浮かべていた。しかし、その姿が視界に入るやいなや、長椅子から跳ね起きたミョスガルドが、猛然とした勢いで彼女へと突進した。
激しい衣服の擦れる音が響き、男の逞しい両腕が、オトヒメの華奢な身体をがむしゃらに抱きしめる。世界最高峰の権力を誇る男の指先は、まるで二度と手放さないと誓うかのように衣服の布地を強く掴み、その全身から狂おしいほどの独占欲を放っていた。そして彼は初めて彼女の名前を口にした。
「お、オトヒメ……オトヒメっ!」
「ミョスガルド聖、突然どうされたのですか?」
驚きに目を見開きながらも、オトヒメはその声に非難の色を混ぜることはしなかった。見聞色の覇気を通じて伝わってくるのは、男の内に渦巻く底知れない孤独と、自身に対する異様なまでの執着心であった。彼女は哀れみと慈愛を込めて、空いている左手を男の背中へと回し、興奮を鎮めるように優しく撫でさすった。ミョスガルドは彼女の温もりに顔を埋め、荒い息を吐き出しながら、震える声で叫んだ。
「お前が、欲しいえ! お前の移住を後押しする書類を一筆書いてやるだえ。だから……地上に戻ったらわちきだけの妻になるのだえ!」
「っ! ミョスガルド聖……」
その言葉は、彼にとって最大限の譲歩であり、絶対的な命令であるはずだった。しかし、オトヒメは男の背中を愛おしそうに撫でる手を止めず、ただその大きな瞳に深い憂いを湛えて見つめ返した。
「それはできません。私はリュウグウ王国の王であるネプチューンの妻なのです。たとえあなたの願いであっても、応じることは叶いません」
「な、なんでだえ!? 世界貴族であるこのわちきの後押しがいらないというのかえ!? これ以上の好条件などあるはずがないえ! なぜわちきの要求を拒むのだえ!!」
拒絶されるなど微塵も思っていなかったミョスガルドは、瞬時に顔を真っ赤に染めて激昂した。彼はオトヒメの身体を乱暴に突き放すと、床を踏み鳴らして地団駄を踏み、激しい憤りを室内に響かせた。神たる己の求愛を断る存在など、彼の常識では到底理解できない不条理であった。オトヒメは突き放された反動で僅かに身体を揺らしたが、すぐに姿勢を正し、高潔な光を宿した瞳で真っ直ぐに男を見据えた。
「ミョスガルド聖。あなたが天竜人という偉大な存在であろうとも、真に人の心を変えることは誰にもできません。そして、他者の想いを力で踏みにじることは、決して許されることではないのです」
「ガッ、ぐぅぅぅ〜〜!!」
彼女の声は静かであったが、そこには深海の底をも貫くような絶対的な威厳が存在していた。ミョスガルドは何か言い返そうとするが、彼の口からは怒りか理解し難い感情から、言葉にならない言葉は溢れ落ちる。オトヒメは自身の胸元に手を当て、そっと言葉を紡ぎ足した。
「あなたが私にそのような好意を寄せてくださったことは、一人の女性としてとても嬉しく思います。ですが、どれほど想われても、私が夫を裏切ることはありません。この一線だけは、決して譲ることはできないのです」
毅然とした王妃の態度を前にして、ミョスガルドはそれ以上、言葉を返すことができなかった。生まれながらにしてすべてを与えられ、あらゆる人命を意のままに操ってきた彼にとって、己の望みが完全に拒絶されるという経験は、人生で初めてのことであった。暴力も権力も通用しない高潔な精神を前にして、男の胸には言葉にならない無力感と悔しさがこみ上げていた。ミョスガルドは唇を激しく噛み締め、その傲慢な瞳から、大粒の悔し涙をぽろぽろと流し落とした。
ミョスガルドの瞳から溢れ出た涙は、彼がこれまで頑なに守り込んできた世界貴族としての虚飾を洗い流すかのように、その頬を伝って床へと染み込んでいった。人生で初めて直面した、力や権力では決して屈服させられない純粋な拒絶。その事実に打ちのめされ、子供のように顔を歪めて泣きじゃくる男の姿を、オトヒメはただじっと見つめていた。彼女の大きな瞳には、拒絶の冷たさではなく、痛みを共有するような深い悲しみと、それを包み込む柔らかな光が宿っていた。オトヒメは再び膝を進め、躊躇うことなく両腕を伸ばした。そして、涙に濡れるミョスガルドの身体を、包み込むように優しく抱きしめた。
「ミョスガルド聖。私は今、心から感動しております。天竜人という、世界の頂点に立つ高貴な存在であっても、人は変わることができるのだということを、私はこの身をもって体感することができました」
「な、なにを言ってるんだえ? わちきが、変わる……?」
「今のあなたからは、初めてこの船でお会いした時のような、理不尽な暴力を正当化しようとする邪心がまったく感じられません。ただ、ご自身の想いが届かないことへの、純粋な悲しみだけが伝わってまいります。あなたは、確かに変わっているのですよ」
「あ、ああ……!!」
その言葉を聞いた瞬間、ミョスガルドの胸の奥で、何かが静かに瓦解した。かつて奴隷たちを虫けらのように扱い、自身の不快感をすべて他者の死と苦痛で埋めてきた男の心に、初めて自己の醜さを直視する隙間が生まれたのである。オトヒメは彼をさらに強く抱きしめ、喜びの涙を浮かべながら言葉を続けた。
「魚人と人間は、互いの立場や過去の確執を越えて、きっと分かり合える日が来る。私はそのことを、あなたとの対話を通して改めて確信いたしました。本当にありがとうございます、ミョスガルド聖」
抱きしめられたまま、ミョスガルドは激しい衝撃に身を震わせていた。
これほどの温もりを伴った感謝の言葉を、彼はこれまでの人生で一度として誰からも言われたことがなかった。聖地マリージョアにいた頃の自分に向けられていたのは、へつらいと恐怖、あるいは利益を貪るための打算に満ちた言葉だけであった。一人の人間として正面から向き合われ、その内面の変化を全肯定してもらえることが、これほどまでに救いとなるものだとは知らなかった。
同時に、その圧倒的な高潔さに触れたことで、自身がこれまで地上で行ってきた数々の所業の愚かさが、刃となって彼の胸を突き刺した。恐怖に怯え、命を乞いながら死んでいった無数の奴隷たちの顔が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。彼らが味わっていた絶望的な苦痛と、それを何とも思わずに笑っていた過去の自分の狂気が、今になって恐ろしい罪悪感となって襲いかかってきた。
「わちきは……わちきは、今まで何てひどいことを……」
「あなたの犯した罪は消えません。ですが未来は変える権利は皆平等にあるのです! これから変えていきましょう、世界を!」
ミョスガルドの口から、掠れた声が漏れ出た。それは、かつて自分が虐げてきた奴隷たちへの、痛切な贖罪の念であった。彼らの受けた痛みを初めて想像できた男の胸には、言葉にならない後悔が満ちていた。そして何より、そんな自分を奈落の底から引き上げ、一人の血の通った人間に変えてくれた目の前の女性に対する、底知れない感謝の情が、彼の喉を激しく締め付けた。男はオトヒメの白い衣を両手で固く握り締め、もはや自身の感情を抑えることができなくなっていた。
「ありがとう……オトヒメっ! わちきを、人間にしてくれて……本当に、ありがとう……っ!」
涙のなかに込められた深い悔恨と、自らを一人の人間に変えてくれたことへの感謝。それを真正面から受け止めたオトヒメは、震える背中を愛おしそうになすりながら、ただ静かに微笑んでいた。男の喉から漏れる激しい嗚咽は、長い年月の間に積み重なった偏見の殻が壊れていく音そのものであった。
しばらくして、胸に溜まっていた熱をすべて吐き出すようにして泣き止んだミョスガルドは、ゆっくりとオトヒメの身体から腕を離した。その顔からは、かつて魚人島へ向かう船の中で浮かべていた歪な傲慢さは消え失せていた。彼はまだ涙の余韻で赤く腫れた自身の目元を大きな手で拭うと、机の方へと視線を向けた。
「オトヒメ、王妃。紙と筆を持ってきてほしいんだえ……いや、ほしんだ。それと、小刀も」
その声には、以前のような尊大な響きは含まれておらず、どこか引き締まった平穏が宿っていた。オトヒメは何も言わずに頷き、船室に備え付けられていた上質な書面用の紙と筆、そして護身用の小さな刃物を手際よく用意して彼の前に並べた。ミョスガルドは乱れた呼吸を整えながら、筆を手に取った。真っ白な紙を見つめるその眼差しには、世界貴族としての立場を正しく使おうとする新たな覚悟が宿っている。彼は慣れない手付きながらも、一文字一文字に重みを乗せるようにして、紙の上に確かな文字を刻み始めた。
「魚人族と人間が地上において対等に交わり、真の融和を果たすために提出された署名の意見に対し、世界貴族ドンキホーテ・ミョスガルド聖は全面的に賛同し、これを支持する」
書き終えた彼は筆を置くと、迷うことなく小刀を取り、自身の親指の腹を薄く切り裂いた。滲み出た鮮血を、署名の最後に刻まれた自身の名前の横へと強く押し付ける。赤黒い印影が、白紙の上に鮮烈に浮かび上がった。
「これが、わちき……私の意志だ。受け取ってくれ、オトヒメ王妃」
「ミョスガルド聖……! はい、確かに!」
手渡された書面を両手で受け取ったオトヒメは、そこに記された血判を見つめ、胸の奥から湧き上がる熱い感情に瞳を潤ませた。彼女の細い指先が、その紙の端を愛おしそうに撫でる。これは今で先人達が越えられなかった、壁を越えた大きな一歩だとオトヒメは震撼していた。
「ありがとうございます、ミョスガルド聖! これは単なる一枚の紙ではありません。暗い海の底で暮らす我が同胞たちを、地上の温かい光へと導くための、かけがえのない希望の光となることでしょう!」
「顔を上げてほしいっ! 私が、今までしてきた愚行を考えれば、このようなことで恩を返せたなどとは到底思っていないっ! この先、リュウグウ王国が世界会議へ出席した暁には。私が持つ力で全力であなたたちの盾となり、支援する! 必ずだ!」
ミョスガルドは椅子から立ち上がり、窓の外に広がる深い闇を見つめながらそう宣言した。その背中は、かつて奴隷を鞭打っていた頃の醜悪さとは異なり、一人の男としての凛とした気配を漂わせている。彼はそのまま振り返ることなく、静かに言葉を続けた。
「これで、あなたの目的は達せられたな。私たちは、これ以上この密室で会うべきではないと思う。あなたを慕う兵士たちが、扉の外で心配を募らせるからな。もう、この部屋へ無理に来る必要はないだろう……?」
自身の顔に浮かぶ複雑な感情や、別れに伴う寂しさをオトヒメに悟られまいとするかのように、彼はあえて突き放すような口調を選び、背中を向けたまま身を固くした。だが、オトヒメの見聞色の覇気は、その不器用な優しさを誰よりも敏感に感じ取っていた。彼女は音もなく男の背後へと歩み寄ると、その広い背中へとしがみつくように抱きしめた。温かい体温が、衣服越しにミョスガルドの身体へと伝わり、驚きでミョスガルドは声を漏らす。
「私はあなたの正式な妻になることはできません。それは、私が愛する夫への誓いであり、国を背負う者としての責任ですから。けれど、この船が地上の港へと到着し、魚人島へ戻るまでの僅かな時間だけは……私はあなただけの妻として、寄り添うことを許してください」
「お、オトヒメ、王妃……っ!? 本当に、いいのか……?」
「あなたとの最初の約束、迎え船に乗るまで奉仕する約束がありますから。それに、あなたの告白が嬉しいというのも、本当のことですから……❤️」
オトヒメの切ないまでの愛着の込められた言葉に、ミョスガルドは息を呑んだ。その言葉に突き動かされるように、ミョスガルドはゆっくりと身体を反転させ、オトヒメと正面から向き合った。目の前にいる女性の瞳には、揺るぎない大義と、自分という人間を受け入れてくれた深い情愛が満ちていた。
オトヒメは男の首筋に優しく手を回し、自身の顔をゆっくりと近づけていった。微かに触れ合った唇の感覚に、ミョスガルドの身体が甘やかな緊張で震える。やがて、二人の唇は深く重なり合った。それはこれまでの奉仕とは異なる、互いの存在を深く求め合うような熱を帯びた交わりであった。何度も角度を変えながら、お互いの舌を深く絡ませるようにして紡がれる口づけは、暗い深海を進む船の中で、二人の境界線を完全に無くしていくかのように濃厚で、いつまでも終わる気配を見せなかった。
地上へと海中を浮上する船の一室、そこでは一人の人間と一人の人魚がベッドという白い大海で交わり合っていた。二人は己を縛り付けていた高貴なる衣を、ほぼ同時に乱雑に床へと脱ぎ捨てた。ミョスガルドは、触れれば容易に壊れてしまいそうなほどに繊細で柔らかいオトヒメの身体を、その両腕で強く抱きしめた。彼の胸からは、これまで抱いたことのない強烈な愛情が溢れ出ており、彼女の耳元で何度も何度も、愛の言葉を囁き続けた。
「あなたを離したくない。本当に愛している。たとえあなたの心が私に向かなくても、生涯あなたを愛し抜こう。オトヒメ、愛している……!」
「ああ、ミョスガルド聖っ。そのお言葉だけで、私の心が満たされていきますっ、んぅ、ふぅ──❤️」
「オトヒメっ、オトヒメッ!」
「ミョスガルド、聖っ! あぁ、ぁっ、あぁぁっ、ミョスガルド……❤️」
オトヒメは男の今まで一番昂っている剛直を自らの肉壺に納め、深く息を吐き出した。彼女の細い腰が微かに震え、これまで夫であるネプチューンは、そのの巨大さから触れられなかった奥底。四人の子を育んだ子宮が、ミョスガルドの熱り立つ肉棒を迎える。深海王国の王妃としての誇りと、一人の女性としての境界線が、人間の温熱によって融解していく。
オトヒメは心の中で、海底に残してきた夫、そして最愛の子供たちの顔を思い浮かべていた。ネプチューン、そして私の可愛い天使たち、娘と息子よ、どうか愚かな私を許してください。背徳の感情が彼女の胸を締め付け、一筋の涙がその頬を伝う。しかし、その罪悪感を凌駕するほどの快感と大義の熱量が、彼女の身体を芯から揺さぶっていた。
ミョスガルドの腰が動き、肉棒が秘所の奥深くへと抜き差しを繰り返すたびに、衣服のない素肌と素肌が密着し、激しい摩擦の熱が室内に満ちていく。子を産んだ母でありながら、初めてする真っ当な子作りの交わりに、オトヒメの口からは抑えきれない高い艶声が漏れ出ていた。
「ああ、ミョスガルドっ❤️ あなたの熱いものが、私の中を壊してしまいそうですっ❤️」
「オトヒメっ! あなたが私を忘れないよう、全力で私の存在を刻みつけさせてもらうっ! オトヒメ、今だけはあなたは私の妃だっ!」
「あぁンっ❤️ ん゛ぅ、あ゛ぁぅ、ミョスガルド、ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッ❤️❤️」
言葉を交わすたびに、二人の感覚はより深く同調していった。見聞色の覇気は、快感の極限において互いの精神を完全に繋ぎ合わせていた。オトヒメは、この交わりの向こう側に、自身が切望してやまなかった理想の未来を幻視していた。人間と魚人が互いの偏見を捨て去り、このように深く理解し合い、繋がり合うことができるのだという確信が、彼女の内に絶対的な絶頂をもたらそうとしていた。
「フゥ、フゥ、オトヒメッッッ!!!」
「ああっ❤️ きますぅっ❤️ イっちゃうっ❤️ ンッ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ〜〜❤️❤️❤️」
ミョスガルドの呼吸は完全に野生のそれへと変わり、オトヒメのしなやかな肢体をベッドへと縫い付けるようにして、最後の激しい往復を刻んだ。オトヒメの頭脳は快楽の洪水によって白濁し、身体全体が歓喜の震えに包まれる。ほぼ同時に二人は限界を迎え、高らかな絶叫とともに極限の絶頂へと達した。その瞬間にミョスガルドの最奥から放たれた熱い白濁液は、受け止めるオトヒメの子宮を溢れんばかりに満杯にし、二人の融和を表すかのように、決して忘れられない絶頂を刻みつけるのだった。
それから数日の間、二人は食事のために給仕が訪れるわずかな時間を除き、この密室から一歩も外へ出ることはなかった。扉の向こう側に控える護衛の兵士たちには、天竜人であるドンキホーテ・ミョスガルドと今後の地上の行く末について、重大かつ内密な協議を行っているため、決して部屋に近づいてはならないと厳命してある。その言葉自体は、決して嘘ではなかったかもしれない。人間と魚人が手を取り合う未来を切り開くための、誰にも邪魔されてはならない神聖な時間であることは確かだった。
「んぁっ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛ぁっ❤️ ミョスガルド……っ!」
「オトヒメ……! また、中で……くっ!!」
「あ゛ぁぁぁぁ……❤️❤️」
しかし、厚い木製の扉の内側。深海の僅かな光しか届かない薄暗い特室で繰り広げられていたのは、理路整然とした政治的な対話などではない。互いの魂と肉体を極限までぶつけ合う、狂おしいほどの慕情の性交であった。そこにはもはや、世界貴族としての傲慢さも、種族の壁も存在しない。あるのは、互いの体温を貪るように求め合う一組の男女の姿だけだった。乱れきったシーツは二人の激しい動きの痕跡を克明に刻み込み、本来の白さを失うほどに濡れそぼっている。
ベッドの中央で、オトヒメは己の華奢な肉体を限界まで酷使していた。彼女はミョスガルドのたくましい腰の上に跨り、柔らかな両手で彼の広い胸板にすがりつきながら、激しく上下に身体を揺らしている。彼女の小さく繊細な身体は、彼という強大な熱の肉竿を最奥深くまで受け止めるたびに、今にも砕け散ってしまいそうなほどの危うさを孕んでいた。しかし、幾度となく交わりを重ねるうちに、彼女の柔らかな粘膜は彼という存在を完全に記憶し、彼を受け入れるための最適の形へと自らを作り変えてしまっていた。彼が奥へと突き進むたびに、極限まで高まった情欲と、互いを思いやる深い愛情が、その痛みをすべてとろけるような快楽へと変換していく。
「ふ、ふぅ、ふぅッッッ……!!」
「あァンッ❤️ ふぅん、ぅぅぁ、ミョスガルド、ミョスガルドっ❤️ またイッてしまいますっっ❤️❤️❤️」
「愛しているっ。この命を投げ出しても惜しくないくらい、あなたが大好きだ……!」
「私も……っ、あなたのその真っ直ぐな想いが、どうしようもなく愛おしい……ァァァア゛ア゛ア゛ア゛❤️❤️❤️」
甘く震える声が交錯し、二人の吐息が熱く絡み合う。言葉を交わすたびに、結合部からはひどく卑猥で、粘り気のある水音が室内に響き渡った。
オトヒメの細い腰の動きに、一切の迷いや躊躇いはない。前に後ろへ、右に左に、そして深く沈み込むように上下へと。彼女は自身のすべてを捧げ尽くすかのように激しく躍動し続けている。男の内に眠る生命の熱を、最後の一滴まで搾り取ろうとするかのような、切実で情熱的な動きであった。
オトヒメの意思とは無関係に肉壁が収縮し、逃げ出そうとする彼の熱を強引に引き留める。それはまるで、彼という存在そのものを自らの内に閉じ込め、決して外の世界へ帰すまいとする本能的な執着の表れのようでもあった。ミョスガルドの大きな両手が、上に跨る彼女の細い腰を力強く掴む。己の奥底から込み上げてくる限界の波を迎え撃つように、彼は下から激しく腰を突き上げた。
「ミョスガルドっ❤️ あなたのすべてを、わたしにっ❤️❤️」
「オトヒメっ! あなたの中に、全部注ぎ込むぞ……っ!」
「は、いっ❤️ あっ、あっ、あ──ァァァッ〜〜〜〜❤️❤️❤️」
互いの視線が交差し、呼吸のリズムが完全に一つに重なったその瞬間、二人は同時に絶頂の頂へと駆け上がった。ミョスガルドの肉体が大きく跳ね上がり、オトヒメの胎の最奥──子宮深くに向かって、熱く濃密な生命の奔流が勢いよく解き放たれる。度重なる交わりによってすでに飽和状態にあった彼女の内部は、新たに注ぎ込まれる男の熱を余すところなく受け止め、限界まで満たされていく。決して外へ逃がすまいとするかのように、彼女の柔肉が激しく収縮を繰り返し、男のすべてを奥へ奥へと誘い込んだ。
自らの内で脈打つ命の熱さを直接感じながら、オトヒメは声にならない歓喜の絶叫を上げ、そのまま力尽きたように彼の広い胸の上へと倒れ込んだ。二人の身体は汗で密着し、激しい心音が重なり合って一つのリズムを刻み続けていた。激しい波が引き去った後も、二人は決して身体を離そうとはしなかった。乱れた呼吸を整える間も惜しむように、再び深く絡み合う。オトヒメはミョスガルドの太腿の上に跨ったまま上体を起こし、彼の太い首に両腕を回して深く寄りかかった。対面座位のまま密着した二人の顔が近づき、極めて自然な動作で唇が重なり合う。
「ちゅっ❤️ ちゅっる、れろ❤️️ ちゅばっ、れうぅ❤️️ ん゛っ❤️️ ん゛~~っ❤️️」
唇を食み、互いの舌先が滑らかに絡み合う。唾液が混ざり合い、息継ぎの隙間さえも惜しむように何度も深く口づけを交わす。それは単なる快楽の延長ではなく、互いの魂を繋ぎ止めようとする切実な営みであった。互いの口腔内をくまなく味わい尽くすたびに、ミョスガルは背筋に甘い痺れが走るのを感じた。
「っぷはぁ、あなたを孕ませられたら……それほど幸せなことはないでしょう。ネプチューン王が羨ましい。私は初めて人に嫉妬しています。だから、彼の王に負けないくらいっ!」
「ンッ❤️ んんっ❤️ はぁ、ンンッ❤️ ミョスガルド、あのひとのっ、なまえをださないで──あ゛ぁぁン❤️❤️❤️」
考えないようにしていたのに、ネプチューンの名前が出たことで、オトヒメの心境は複雑に入り組んでいた。彼女の胸の奥で、海底で帰りを待つ最愛の家族に対する深い罪悪感が微かに疼く。本来であれば、このような密室で夫以外と肌を重ねることなど、決して許されるはずのない大罪である。しかし、目の前で自身を愛おしそうに見つめる男の存在が、その迷いを圧倒的な熱量の波で飲み込んでいく。
ミョスガルドの純粋な愛情に触れるうち、オトヒメ自身もまた、一人の女性として彼に強く惹かれ、どうしようもなく愛着を抱いてしまっていたのだ。その残酷なまでの自己矛盾を抱えながら、彼女はただ目の前の熱に身を委ね、自ら進んで堕ちていくことを選んでしまう。その時、オトヒメは胎の奥底から熱い予兆を感じ取ってしまう。
「ぁ──できちゃうっ❤️ わたしと、あなたのあかちゃんがっ❤️❤️」
「ッ!? お、オトヒメッッ!!」
「ぉ゛ン❤️あ はげしぃっ❤️ もっと、ゆっくりぃっ❤️ アッ、アァァ、ァァァ❤️❤️❤️」
「あなたがっ! 惑わすようなことを言うからっ! ふっ、ふっ、ふっゥゥゥゥ!!」
オトヒメの赤ちゃんが出来ちゃうという言葉に、ミョスガルドはそれまで以上に猛る。それが研ぎ澄まされた見聞色による未来予知なのか、或いは男を盛り上げるための方便かは定かではなかった。ミョスガルドは彼女に、自身の子でオトヒメにとっては五人目の赤子を孕まそうと、鼻息を荒くして腰を動かす。そしてもう何回目か分からない絶頂を同時に達し、最高に高まって射精をオトヒメの子宮に噴き上げるのであった。
「お゛っ、ォ゛ッ、オ゛ォ゛ォ゛ッッッ~~~〜❤️❤️❤️ あつい、せいえきがっ、しきゅうにッ❤️ きてるっ、あかちゃんができちゃった……❤️❤️❤️」
「はぁ──、はぁ──……!! オトヒメ、オトヒメ……!」
前に出した精液が外に溢れ、新たな濃厚な精がオトヒメの子宮を満杯にする。オトヒメの抱擁に、ミョスガルドも彼女が砕けてしまいそうになるほど強く抱きしめる。オトヒメの柔らかな感触を味わいながら、ミョスガルドはこの温かく心地よい時間が永遠に続いてほしいと思ってしまう。世界貴族という高位の身分も、聖地マリージョアでの華美な暮らしも、今の彼にとってはひどく色褪せたものに思えた。ただ愛する女性を腕の中に抱きしめ、その柔らかな体温を感じ続けることだけが、彼にとっての真実であり、世界そのものであった。彼女の甘い吐息を吸い込み、その細い背中を撫で下ろすたびに、時間がこのまま永遠に止まればいいと、彼は本心から願っていた。しかし、どれほど強く願おうとも、無情にも現実は彼らの甘い夢を切り裂くためにすぐそこまで近づいていたのであった。
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海上に姿を現した巨大な軍艦は、その重厚な船体で波を掻き分け、リュウグウ王国の特製船のすぐ近くへと停泊した。接舷されたタラップを通り、聖地マリージョアから訪れた天竜人の一団が、厳重な警備に守られながら甲板へと降り立ってくる。その先頭を歩くのは、豪奢な装飾を身にまとったドンキホーテ・ミョスガルドの父親であった。彼は魚人の兵士達を見ると心底不快そうに顔を歪めた。
「よくぞ無事でいたな、マイサン。このような卑しい魚類どもに囲まれ、さぞや恐ろしく、不自由な思いをしたのだろう」
その冷酷な言葉は、深海で育まれた奇跡のような融和の時間を、一瞬にして踏みにじるものであった。しかし、その言葉を聞いたミョスガルドの内部には、かつての傲慢な天竜人の影はどこにも残っていなかった。彼は父親の前に一歩踏み出し、その瞳に強い光を宿して言い放った。
「父上、言葉を慎んでください。彼らは荒れ狂う海から私の命を救い、傷を癒やしてくれた恩人です。二度と彼らをそのように蔑む言い方で呼ぶのは控えていただきたい」
「なっ!!? ま、マイサンよ、何があったのだ!? まさかその魚類どもに洗脳でもされたのかえ!?」
「私は……オトヒメ王妃に人間にしてもらったのです。これからは彼女への恩を返すため、この命を賭すつもりです。たとえ父上が立ちはだかろうとも、そう生きると決めました」
息子の口から発せられた予期せぬ力強い宣言と、その全身から立ち上る圧倒的な気迫に、父親は言葉を失い、思わず数歩たじろいだ。周囲の魚人兵士たちの間にも、驚きと静かな感動が広がる。ミョスガルドは困惑する父親をそのままその場に放置すると、見送りの列の先頭に立つオトヒメへと迷いのない足取りで近づいていった。
本当であれば、この数日間のようにお互いの身体を強く抱きしめ合い、別れを惜しみたいという衝動が彼の胸を突き上げていた。しかし、両国の兵士たちが張り詰めた視線を送るこの状況下で、これ以上の不審な挙動を見せることは、彼女の立場を危うくすると理性が告げていた。ミョスガルドは溢れそうになる慕情を必死に抑え、ただ両手を差し出して彼女の手を固く握り締めた。
「オトヒメ王妃。世界会議の場で、必ずまた会おう」
「ええ、ミョスガルド。世界会議でまたお会いしましょう……ミョスガルド聖」
「ッ──お、オトヒメ、王妃……!」
オトヒメは彼の配慮をすべて理解した上で、周囲の目を恐れることなく、自ら彼の大きな身体へと一歩踏み込んで柔らかなハグを交わした。その顔には、海底の暗闇さえも一瞬で照らし出すような、満面の笑みが浮かんでいた。その温もりと、衣服越しに伝わる熱血が、ミョスガルドの胸に消えない想いを残した。オトヒメとミョスガルドはお互いの船が見えなくなるまで船頭と船尾に立って見つめあった。オトヒメの笑顔を、ミョスガルドの逞しくなった微笑みを焼き付けようとしたのであった。
それからしばらくの時が流れた。聖地マリージョアへと帰還したミョスガルドは、かつての生活へと戻ることはなかった。彼は自らの邸宅に囲い込んでいた無数の奴隷たちを解放し、それぞれの故郷へと送り返すための手配を黙々と進めていた。それは、かつて自分が犯した理不尽な罪に対するささやかな贖罪であり、自らを一人の血の通った人間に変えてくれた女性への、誓いの実践でもあった。周囲の天竜人たちからは奇異の目で見られ、罵声を浴びせられることもあったが、彼の心が一変することはなかった。
ある日の午後、書斎で他の天竜人の奴隷を様々な手段で解放した後処理の事務作業を行っていたミョスガルド。彼のもとへ、世界経済新聞が届けられた。何気なくその紙面に目を落とした瞬間、彼の思考は完全に凍りついた。視界に飛び込んできたのは、魚人島で起きた凄惨な事件を伝える文字だった。リュウグウ王国の王妃オトヒメが、凶悪な海賊の手によって暗殺され、命を落としたという非情な現実が、そこには冷酷に刻まれていた。
「そんな……嘘だ、オトヒメ……!」
ミョスガルドの指先が激しく震え、新聞紙が床へと滑り落ちた。胸の奥を鋭い刃で抉られるような、底知れない嘆きと深い悲しみが彼を襲う。視界が涙で激しく滲み、彼女と過ごした濃密な数日間の記憶が、その温もりとともに脳裏を駆け巡った。自身を変えてくれた太陽のような彼女が、あまりにも唐突に失われてしまった絶望に崩れ落ちそうになった。しかし、彼はそこで立ち止まることはしなかった。流れる涙を乱暴に拭い去り、床に落ちた新聞を見つめ直す彼の瞳には、悲しみの奥から燃え上がるような新たな決意が宿っていた。
「あなたの遺した意志は、決して絶やさせはしない。リュウグウ王国の人々が地上で生きていくために尽力する。たとえ、我が命捧げることになろうとも……!」
いつか、亡きオトヒメの夢を継いでこの地上へとやってくる魚人たちのために。彼女の注いでくれた愛によって、真の人間へと生まれ変わることができた自分が、この聖地でできることのすべてを成し遂げようと。彼は静かに、しかし力強く立ち上がった。その背中には、かつての傲慢な貴族の面影はなく、熱血たる愛の人の意思が確かに受け継がれていたのであった。