※この作品はR-18です。

十七ポンドのブーケ   作:ずゆ


原作:ブルーアーカイブ
タグ:R-18 棗イロハ
少しMな棗イロハと少しSな先生がえっちするお話
本作品はpixivにも投稿しています。

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十七ポンドのブーケ

 恋愛小説を買った。

 いつも本を選ぶとき、私はたいてい直感に従って気になったタイトルのものを、あるいは好きな作家のものを手に取ってそれを買っていた。家に帰ってページを開くまで、それが推理小説なのかSFなのかは分からない。

 恋愛小説を読もうとして恋愛小説を買ったのは、これが初めてだった。

「フィクションはフィクションだから良いんじゃないですか」

 いつだったか、そんなことを先生に言った気がする。

「実際に巨大ロボが巨大怪獣と戦ってるの見たいけど……」と先生は答えた。

「子供ですか?」

 フィクションは非現実として実在するからこそ純粋な気持ちで楽しめる、という考えは変わってはいない。現実に殺人が起こるのも、タイムリープする船が現れることも真っ平御免だ。特に恋愛を現実でするなんてとてもではないがやってられない。誰かが好きで近づきたいのに、その気持ちを素直に伝えられず悶えるなんて、何が楽しくてそんなことしなければならないのだろう。

 ブックカバーをつけてもらったその恋愛小説を受け取って、書店を後にした。まさにこれから、私は言葉にできずに満たされない心を文字で満たそうとしているのだ。それはいつからか心の隙間に入り込んだ先生を忘れるための、儀式のようなものでもあった。

 

   〇

 

 暖房をつけっぱなしにしていたお陰で、外から帰ってきても部屋の中は暖かいままだった。エスプレッソマシンがスチームを吐き出してコーヒーを作り上げると、六畳一間の部屋にはその香ばしい匂いが充満する。カップをコースターに置き、買ってきた本を開く。

 文字を読んでいると、逆説的なことに、文字を読んでいることを段々と忘れていく。それはベッドに横になった時に訪れる眠気のように緩やかに、しかして確実に私をたった一人の世界に連れて行った。しばらくして、気がつけば私はその物語の世界に入り込んでいた。恋や愛について悩む主人公を、斜め後ろから観測していた。

 

   〇

 

 主人公が男性であったことは、逆に幸運だったかもしれない。例えば女生徒が年上の男性に恋するような、自分に近すぎる物語には感情移入し難いからだ。うんざりするほど甘い心理描写が繰り返されたり、告白の手前で足踏みされるよりも、慌ただしく事態が移り変わっていく物語の方が、手を止めることなくページをめくり続けられた。

 一つだけ計算外だったことがあるとすれば、その物語は性愛をそれなりに──かなりの頻度で──含んでいるという点だった。付き合っているとも、そうでないとも言い切れない男女がフェラだのセックスだの……

 付き合う前の男女が性行為に及んでいる点を抜きにしてみれば、特別そういうものに抵抗がある訳ではなかったのだが、その描写の生々しさは読む上で部分的な妨げになった。男に触れられた女が悶える様子や、逆に女が積極的に男に奉仕するような様が続くと、嫌でもその様子を想像せざるを得なかった。そしてこの脳みその厄介なことに、登場人物を私と先生に置き換えた空虚な妄想も、同時にどこかに浮かんでくるのだ。

 

   〇

 

 一度栞を挟んで本を閉じた。男女の営みによって生じた汗や吐息の想像が薄れていくと、本来あるはずだったコーヒーの匂いが部屋に戻ってきた。ため息を一つついてから、私は脇に置いていたコーヒーに口をつける。

「厄介ですね……本当に」

 独り言は誰に聞かれる訳もなく消えてゆき、部屋には孤独だけが残った。

 一人でいることには慣れていたし、誰かといるよりもむしろ、私は一人でいることの方が気が楽で好きだった。それなのにどうして、と私は落ち着かない鼓動を聞きながら立ち上がり、そのままベッドに倒れ込んだ。先生のことを考えると、途端に寂しさを感じるのだろうか。

 

   〇

 

 そもそも先生を好きになったのはどうしてだっただろうか。それに気がついたのはいつだっただろうか。仰向けになって日差しを手で覆いながら、私は記憶を掘り返していた。

 それこそ恋愛小説なんかでは、分かりやすく好きになった瞬間が存在することが多い。キューピッドが心臓を撃ち抜くように、あるいは雷に打たれるように唐突で痛みを伴って自覚のあるものだった。

 そんな瞬間は──私は掘り出した記憶をひとつひとつ丁寧に確認してから導いた結論として、──存在しなかった。先生は遅効性の毒のようにゆっくりと、私の心のどこかへと侵入してきて、いつの間にか私を歪ませていた。その毒が体に巡ったことに気づいたとき、既にもう手遅れだったのだ。

 

   〇

 

 身体が焼けるように熱く、吐く息が熱っぽかった。暖房の温度を2度下げてみても、熱が引くことはなかった。

 鎮めるために仕方なく、右手を自分の秘部にあてがった。手が触れて初めて、ショーツが使い物にならないほどに濡れそぼっていたことに気がついた。自分が何かに期待しているようで嫌になった。どうして恋だの性欲だの、めんどうくさいものが私に付き纏うのか、理解に苦しんだ。

 それもこれもあなたのせいですよ、先生。私はうつ伏せに向き直って、秘部に触れた指を動かし始めた。先生が毒を飲ませたのだから、仕方ありませんよね? と私は心のなかで言い訳をした。妄想の中で先生を消化することも、犯すことも、全部先生が悪いんです。

 

   〇

 

「……っ、ん」

 部屋の壁は厚く窓も締め切っているから、例え大声を出そうとも誰も私が淫らに乱れていることになど気付くはずもないのだが、私はなぜか声を抑えていた。

「ここがいいの、イロハ?」

 妄想の中の先生が、私の耳元で囁いた。どんなことがあれば、あの理性的な先生がこれほど本能的な行為をするのか想像もつかなかったが、その過程について考える必要も余裕も私には無かった。とにかく彼が私を犯していればそれでよかったのだ。

 不本意にも、私にはどこかマゾヒスティックな部分があるらしく、妄想の中の彼はいつも私の余裕を崩して、それを楽しむようにしていた。そして私はそういう行為に異常に興奮していた。

「いえ、っ……もう少し、んっ……上手くできないんですか? ただ触られているのとっ、っぅ、変わりませんよ」

 妄想の先生のサディスティックを煽るように、私はその快楽を隠すように振る舞う。わざわざ隠すように快感を得て、それを暴かれることが好きだなんて、変態と言わずして何と言うんですか? と微かに残った冷静な頭が考えているが、本能は理性が抑えられる領域をとっくに超えていた。

 指を少し入れるだけで、蜜壺のようにねばついた液体がついてきて、それは私が興奮していることの何よりの証だった。

「こんなに濡れてるのに隠そうとするなんて、イロハは悪い子だね」

 当然先生はすぐに気がつく。先生の指がゆっくりと、私を快感で壊すためだけに一定のリズムで私を刺激する。私はまるでパペットのように、先生の指が動くのに合わせて身体を跳ねさせるだけだった。

「っ、あっ♡ んっ……せんせっ♡ ちょ、んっ」

 彼の意のままに、私は一度目の絶頂を迎える。身体の中でずっと反響するように大きく、深い絶頂だった。満たされた性欲が段々と引いていき、そのまま眠ってしまいたくなった所で――

「……?! っ♡ 先生っ、そんっ、な♡」

 先生の指が再び動き出す。忘れかけていた性欲をいとも簡単に思い出させられ、カップをひっくり返されたように再び色欲に溺れさせられた。

「ここ、好きなんでしょ?」と先生は悪い顔を浮かべて意地悪く私に問いかける。

「いえ、先生には分かりませんよ……♡ 私の弱点が」と私は余裕を繕って答えた。

「本当に?」

 先生はそう言うと共に、もう一度指を動かす。そのスロウな動きはいやらしく私の腟内を狂わせていき、私はいとも簡単に反応してしまう。

「んっ♡」

「本当に好きじゃない?」と先生が聞いた。

「好きじゃないですよ、そんな所」

「じゃあ、認めるまでするね」

 先生の手の中で、私は何度も絶頂を迎える。妄想は都合よく私の意図したシナリオに沿って進んでいき、私は情けない姿を晒し続ける。

 シーツを噛みちぎりそうなほど強く、声を抑えるために歯で食いしばっていた。先生に負けを認めて指を止めてもらうことは簡単だが、プライドや、今後の関係性や、何よりも私の性的嗜好がそれを止めていた。先生の優位に立つよりも、無様に負けていた方が興奮してしまうのは、理性的にはとても目も当てられない変態だろう。

「んっ、……ぐっ、あっ、っっっ♡」

 数えるのも億劫になるほど絶頂を繰り返して、私はついに潮を吹いた。全身が痙攣するだけなら言い訳のしようがあったが、明確に潮を吹き出してしまえば、絶頂していないとか、気持ちよくないなんて言い訳が通じるはずもない。簡単に潮を吹いてしまう自らの体質が疎ましく、しかし同時に彼に負けを晒す好材料でもあった。

「イロハ?」

「何ですかっ、っ……何か言いたいことがあるなら、言えばっ……いいじゃないですか」わざとぶっきらぼうに私は言った。

「イロハは本当に」先生は私の顔を覗き込みながら、いたずらをする子供のような表情を浮かべて言った。「どうしようもないマゾだね」

「っ……♡」

 先生の言葉が、血液を巡るように全身に鳥肌を立たせる。身体だけでなく心までもが、負けることの気持ちよさを覚えてしまう。這い出そうと藻掻くことすら、興奮のスパイスにしかならなかった。

 

   〇

 

 性欲を消し飛ばすほどひたすらに乱れてから、私は広げた妄想を取りやめた。先生との濡事について考えるとき、私はいつもここで足を止めていた。身体が疲れ切って満足してしまうというのもあったが、この先について想像を膨らませるような経験が私の中に無いことが主な理由だった。先生のその陰経が私の秘部にあてがわれるのを想像するにしても、私は一体それがどんな形をしているのか想像がつかなかった。本やインターネットで見た形式的な知識はあるものの、実物を見て、感じないことには、頭の中で補完しきるのにも限界があった。そして私はもう、曖昧な妄想では満足に絶頂できなくなってしまっていた。日頃から中毒のように自慰行為を繰り返す内に、リアリティを求めてしまっていたのだ。

 

   〇

 

 十一月の頭の頃だった。万魔殿の仕事に一区切りがつき、その日は久々にシャーレの当直に呼ばれていた。先生は年末に向けて少しずつ仕事が増えているらしく、私がチラチラと見ている事は気づかないのか、あるいは気に留める余裕もないほど書類とにらめっこをしていた。私としては、何かを期待して来た訳ではないものの、放ったらかしにされているようで嬉しくなかった。

「コーヒー淹れますけど、いつものやつでいいですか?」

 私がそう聞くと、先生は作業の手を止めて、驚いたような表情を浮かべて私を見た。

「なんですか、その顔は。仕事に追われる可哀想な先生にコーヒー一杯の労いならしてあげますよ、私といえど」

「いや、イロハがそういうことしてくれるの意外で……ありがとう、頼むよ」

 先生はそう言うと、再び忙しく書類に向き直った。どうやら私がこういうことをするのは、意外だったらしい。では例えば、私が先生をネタに毎日自慰行為に耽っていると言えば、どれくらい驚くんでしょうね。そんな下らないことを考えながら、エスプレッソマシンのスイッチを押した。

 

   〇

 

「終わった〜! つかれた〜」

 気分良くエンターキーを叩いた先生は、そのまま倒れてしまうのではないか、という角度まで椅子を倒して伸びをしていた。

「お疲れ様です、案外早く終わりましたね。夜までかかるかもしれない、と言っていた割には」

 時計を見やると、針は五時半を指していた。てっきり私の帰り時間は十時を過ぎると思っていたから、その早さは異常とも言えた。

「まぁ、夜まではかからないと思ってたけどね」

「……?」

「イロハ、今から暇だよね?」

「元々シャーレの業務の予定だったじゃないですか」

 先生が言っていることが当を得ていないような、辻褄の合わないような気がして困惑した。

「ご飯食べにこうよ、予約してるんだ」

「……それで仕事を急いでたんですか?」

「ちょっと早いけど、誕生日近いでしょ」

 言われて私はハッとした。今月の十六日は私の誕生日なのだ。

「サプライズのつもりですか?」

「まぁ、そんな感じ。どうかな?」

 彼は肩をすくめるような素振りを見せて、人の良さそうな笑顔を浮かべた。誕生日にプレゼントを渡してくるような人だとは思っていましたが、こういうことをされると……

「ありがとうございます。準備するので待っていてください」

「うん、ゆっくりでいいよ」

 私は先生に背を向けて、ロッカーへ逃げるように歩いていった。途中、鏡に映る自分の顔が見えた。やれやれ、と頭を振る。こんな惚けた顔は、とてもではないが見せられなかった。今後の関係と、私のプライドに関わるので。

 

   〇

 

「ご馳走さまでした」

「美味しかったね」

 店を出る頃には、八時を過ぎていた。D.U.の都心は夜中でも昼間のように明るく、しかし昼間よりも一段と冷え込んでいた。

「先生、誕生日の生徒にはみんなこんなことしてるんですか?」

「あー、いや」先生はどこか決まりが悪そうに答えた。「よく当直に来てくれる生徒だけなんだ」

「悪い人ですね」

 しかし自分が特別扱いされているようで、悪い気はしなかった。

「ご飯が口止め料だよ」

「言い回しまで悪いと来ましたか」

「駅まで送ってくよ」

 駅に近づくほど、人の数が増えていった。しかしそれは電車を乗り降りした人が流れる様という訳ではないようで、人混みは駅の前で立ち止まっていた。

「何かあったのかな」

 先生がそう言うのに答えるように、人混みの前に立っている駅員と思しき人が拡声器で声を張り上げて言った。

「只今線路爆破によって運転を見合わせております! 線路爆破によって運転を見合わせております! 運転再開は十時半を……」

「やれやれ」と私は言った。

「とりあえず、シャーレにおいで」

 

   〇

 

「どうしようか、これから」と先生がシャーレからD.U.一体を見下ろしながらそう言った。

「困りましたね、これは」

 D.U.からゲヘナ自治区まで、快速でも一時間以上かかる。運転が予定通りに再開したとして、家につくのが日付を回ってしまうのは避けられなかった。

 同時に、私は何かあるのではないか、という期待を持たずにはいられなかった。きっとこの人は一筋縄では間違えないだろうが、何かのズレが生じれば、あるいは私から無理矢理にでも襲ってしまえば、一晩の間違いくらいはあるかもしれない。そして私は、期待してしまっていた。

 やれやれ、と私は自分で自分の愚かしい脳みそに嫌気が差した。付き合ってもない男女が性行為に及ぶのは、あまり好きではなかったはずなのに。

「泊まってく?」

「おや、シャーレには来客用の部屋があるんですか?」

「私の仮眠室しかないけど……」

 自分の寝ているベッドに生徒を寝かせることに抵抗があるのか、バツの悪そうな顔をしていた。

「私は構いませんけど」

「じゃあ私はソファで寝るから、使っていいよ」

「先生の家は無いんですか?」

「仮眠室にしてるのが家で……」

「……シャーレはどうなってるんですか」

 あらゆるものが崩壊している[[rb:万魔殿 > パンデモニウム]]でさえも、それぞれに寮部屋か個人宅があるというのに、連邦生徒会はどういう待遇で先生を働かせているんだろうか。

「じゃあ、先生も一緒に寝ればいいじゃないんですか?」

 変に声が上ずったりしないよう、かなり注意を払いながらそう言った。捉え方によっては、いや、文字通り読み取っても、同衾を狙っているとも思える言葉だ。

「えっ、そ、それはマズいんじゃないかな?」

 珍しく本気で狼狽している様子の先生がおかしくて、もう少し誂ってみたくなってしまう。

「何か意識してるんでしょうか?」

「そういう訳じゃないけど」

「そうですか」私は羽織っていたコートを椅子にかけながら言った。「そういう訳でも、私はいいんですよ」

 水を限界まで詰めた水風船に、針を指したときのような心臓の調子だった。段々と自分が何を言っているのか、どんな顔をしているのか、何もかもが分からなくなっていった。

「イロハ……」

「分かりませんか?」と私は何かが吹っ切れたような調子で言った。「誘ってるんですよ」

 

   〇

 

「立場とか、責任とか、忘れてしまったほうが幸せになれますよ」

 先生は何も言わないまま、私の言葉の先を見ていた。呆気にとられているのか、倫理観の間で揺れているのか、兎にも角にも平静を見出しているのは確かだった。

「口止め料、さっきのご飯でもう貰ったってことにしてあげます」

 先生と性行為をしたいのは私のはずなのに、優位に立とうとする性が出てしまう。

「いや、それは……」

「こんなにお膳立てしたんですから、私としても断られると辛いものがあるのですが」

 私は丁寧な前置きをしてから、制服のボタンを上から外していった。

「好きにしていいですよ、私のこと」先生に歩み寄りながら、上目遣いでねだるように言った。

「イロハ……!」

 

   〇

 

「もう大きくしてるんですか」

「それは……イロハが誘ってきたから……」

 彼の下半身は、苦しそうに主張する膨らみがあった。チャックを降ろせば、どんな大きさのものが現れるのか、そこから想像するだけでも私は興奮していた。

「私が満足する前に終わらないで下さいね」

「あの、コンドームとか」

「そういうの、要りますか?」

「えっ、でも……」

「好きですよ、先生」

 言ってしまってから、様々な後悔が遅れてやってきた。小説のようにロマンチックとはいかずとも、もう少しマシなシチュエーションがあっただろうに。

「っ……! でも……」

「一応告白のつもりなんですが、返事はしてくれないんですか?」

「私も、好き、だよ」

「それは、」と私は聞いた。「生徒として、ですか?」

「いや」と先生は答えた。「一人の女性として」

 真っすぐ目を見てそんな恥ずかしい言葉を馬鹿正直に言うものだから、私はつい目を逸らしてしまう。

「案外」と私は口元を袖で隠しながら言った。「嬉しいものですね、そういうの」

 

   〇

 

「好きにしてください、先生。私は初めてなので」

 先生に案内された仮眠室には、先生の匂いが濃く漂っていた。そして私が座るベッドには、さらに濃く匂いが残っていて、普通なら臭いとまで思ったかもしれない程だった。いつか本で読んだことがあったが、好きな人の汗の匂いはいい匂いと感じてしまうらしい。私はいつから、こんなにおかしくされてしまったのだろう。

「私も初めてなんだけど……」

「意外ですね、あらゆる女子生徒と関係を持っているかと思ってましたが」

「まさか」彼は首を大きく振りながら答えた。

 知ってますよ、あなたがどういう人かくらい。

「何度も言いますが、好きにしていいですよ」と私は言った。

 彼の好きに扱われることが、私の本望でもあった。流石に自分のそんな趣味嗜好を伝えて思いのままに犯して貰うなんて恥ずかしいことはできないが、主導権を彼に握って欲しかった。

「心配せずとも、弾丸で傷つかない身体です。先生に襲われたくらいで、壊れませんから」

 静かな部屋には、彼が唾を飲み込む音も大きく聞こえた。電車は運転を再開しただろうか、明日どうやって言い訳すればいいだろうか、そんなどうでもいいことは、今は忘れてしまいたいほど、私は彼に犯されることを心待ちにしていた。

 

   〇

 

「キス、しよっか」

 彼に言われて、私は小さく頷いて唇を差し出した。電気を落とした部屋の中では薄ぼんやりとしか相手の顔が見えないが、視界が悪い分感覚は研ぎ澄まされ、相手の呼吸音の近づいてくるのも感じられた。

 肉食獣が音を殺して忍び寄るように、ゆっくりと近づいてから唇と唇が重なった。これだけの行為にどれほど興奮するのか、小説でどれだけ巧みに描写されてもあまりその形を捉えることはできなかったが、なるほどこれは覚えてはいけない味だ。

 唇から電気信号のように膨大な情報が脳に流し込まされ、処理しきれずにショートした頭を甘い蜜が溶かしていく。たった数秒触れただけなのに、身体は彼を受け入れる準備を忙しく始めていた。

「歯が当たりました」

「ごめん、初めてで」

「先生が気持ちよくしてくれたら、良しとしましょう」

 私は体を差し出すように、彼ににじり寄った。

「先生が動いてください。自分で動くのは、めんどうくさいので」

 理屈をこねくり回してみても、私はただ彼に意地悪く犯されて屈服させられたいだけだった。

 

   〇

 

 ベッドには完全に出来上がった私が寝転んでいた。まな板の上に打ち上げられた魚のようだった。

「触るね、痛かったら言って」

 恐る恐る、といった具合に彼は私の秘部に指をつけた。大きく、ゴツゴツとしていて、自分で触る時には無いくすぐったさがあった。

「もっと触っていいですよ」

 彼の手は私の恥丘まで伸びて、秘部を手のひらで覆い隠すように触り始めた。感じていたくすぐったさは、慣れてくると少しずつ気持ちよさに変換されていき、自分で触るだけでは得られない快楽になっていた。

「どう? 上手くできてるかな」

「まぁ、及第点としましょう」

「可愛いね、イロハ」

 耳元で囁くように、彼は言った。理性を溶かす麻薬のような彼の言葉で、下腹部が茹で上がるように熱くなっていった。

「随分と積極的なんっ、っっ……♡」

 その時、偶然彼の指が気持ちいい部分に深く食い込んでしまい、言葉が乱れた。陸に打ち上げられた魚のように、私は反射的に大きく身体を震わせた。

「イロハ? ごめん、痛かった?」

「いえ、むしろ逆ですが」

「逆?」

「……察せないなら減点ですね」

「ごめんね、意地悪したくなっちゃって」

 彼がにやりと笑うのを地に伏しながら眺める光景は、私が妄想で繰り広げていた情事のそれだった。

「サディスティックなんですか、先生」

「ちょっとだけその気はあるね」

「そうですか、それは」

 それは好都合ですね、とは口が裂けても言えなったが、私はかつてないほど興奮していた。

 

   〇

 

 腹立たしいことに、先生は私の身体をまさぐる内に感じやすいポイントを見つけていっているようで、最初よりも絶頂感の高まりが早くなっているのを感じた。彼に隠すように何度か軽く絶頂したが、彼の手によってすぐにジェットコースターの頂上まで連れていかれる。

「気持ちいい?」

「悪質ですね、っ……そういう所しか、触らない癖に」

「イロハの反応が分かりやすいんだよ」

「まだ絶頂させてないのに、調子に乗らないで下さい」

「さっきから何度もイってるのに?」

 私は驚いて彼を振り返った。

「隠せてると思った?」と彼は言った。「それとももしかして、イロハはマゾなのかな」

 隠れて絶頂していたつもりが全て筒抜けで、自分の性癖を言い当てられ、私は羞恥心の真ん中にいた。しかし同時に、そこは快楽の渦の中でもあった。辱められることに興奮を覚えるのは、もはや彼から見ても明らかだっただろう。

「イってませんよ」

 それは嘘というよりもむしろ、性癖への答えだった。

「認めるまでイかせればいい?」

「……好きにしてください」

 

   〇

 

「っ、あぐっ♡ んっ……っぁあ゛っ♡」

 四つん這いのような体勢になりながら、私は彼の手による攻撃を受け続けていた。快楽を抑え込めば抑え込むほど、爆発は大きくなって、自慰行為なんかとは比にならない快楽の暴力を浴びていた。

「まだイってないの?」

「イって、あぁっ♡ っ、んぐっ……っ♡ ませんからっ、このっ♡ 程度……あ゛ぁ゛っ♡」

 彼の指は私の腟内を蹂躙するように早く、しかし同時にねちっこく責立てるようにゆっくりと動いた。彼にねばねばと糸を引く彼の指先を見けつけられながら、もう片方の手で絶え間なく責められる。

「強情だなぁ」

 彼がさらに指を入れたとき、私は腕の力が抜けてしまい、そのままベッドに潰れるように倒れ込んだ。

「ひゃあっ?!♡ あ゛ぐっっ……っ♡」

 彼が指を抜くと、力が抜けきった秘部から水が漏れていく感覚がした。何が起きたのか分からないまま、その感覚は徐々に遠ざかり、ようやく私は潮を吹いたのだと理解した。

「これなら認めるのかな、イロハ」

「……はぁ、ええ、イきました、けど……何か?」肩で息をしながら、私は強がって答えた。

「素直に気持ちいいって言えばいいのに」

「そんな事より、はぁっ、もう限界なんじゃないですか?」

 私は起き上がりながら、彼のズボンを突き破るほどに主張する陰経を指さした。

「うん、挿れていいかな?」

「えぇ、せいぜい数分は耐えてくださいね」

「まさか」と彼は悪魔のような笑みを浮かべながら言った。「すぐイっちゃうイロハじゃないんだから」

 詰るように嫌らしい言い方が、ぞくぞくと胸中を支配していた。

 

   〇

 

「脱がせますよ」

 私はそう言って彼のベルトとホックを外した。服の上からでも、彼の臭いが強く漂っていた。

「臭いですね、ちゃんと洗ってるんですか?」

「終わったら、一緒にお風呂入ろうか」

「はぁ……」

 私は少しずつ彼のズボンのチャックを降ろしていく。ズボンが完全に取り払われてしまうと、ボクサーパンツだけになり、その膨らみの大きさがありありと分かった。私はそのパンツも、降ろした。

「生意気な大きさですね」

 初めて見るそれは、想像をゆうに超える見た目をしていた。独立した一つの生物のようにも見えた。

「挿れられるかな?」

 小柄な私の体では、腹まで届いてしまうのではないかと怖くなる巨大な陰経だった。これに腟内を犯されてしまえば、膣壁を根こそぎ刺激してしまうのは想像に難くない。指が狙って刺激した部分を、これはそんな道理や技術なんかを飛び越えて、乱暴に全て抉られてしまう。

「どうぞ」

 しかし彼から振るわれる暴力に似た快楽ほど、私を満たすものはなかった。

 

    〇

 

「痛かったりする?」と彼はその陰経の先端を私の腟内に挿れながら言った。

「いえ」と私は答えた。「銃弾一発より痛くありませんね」

「その例え分かんないかも」

 日頃から弾丸を受けるせいで痛覚が麻痺してしまっているのか、破瓜の痛みは想像よりもずっと楽なものだった。痛みはあっさりと引いていき、数秒経って慣れてしまえば、痛みがあったことを忘れてしまうほど、快感を覚え始めていた。

 彼の陰経は思った通り、先刻指に弄られていた部分のその全てを覆い隠すように接触していた。まだ動いていないから増しなものの、動かれてしまえば余裕なんてものは簡単に吹き飛んで、彼に与えられる快楽に悶えるしかなくなるのが分かり切っていた。

「キツい」

「我慢してください、初めてなんですから」と私は不満をこぼす。「それとももうイってしまいますか? 挿れただけで」

「挿れただけでイきそうな癖に」

「まさか、余裕ですよ」と私は強がってみせる。

「じゃあ勝負する?」

「受けて立ちましょうか」

「先にイった方が負けで」

 

   〇

 

 勝負に乗ったことを後悔したのは、彼が動かし始めてからすぐのことだった。彼は私が絶頂しないくらいゆっくりと腰を動かした。安易に負けさせて貰えると高を括っていた私にとって、想定外の出来事だった。射精してしまう男性と違って、女性の絶頂は言い訳がきいてしまう。私に負けを認めさせるために、私から「イかせてください」という言葉を引き出そうとしていた。

 少し良いところに当たって、あと少しの刺激で絶頂できそうになると、彼の動きが急速に遅くなる。かと言って、動くのだから感じない訳にもいかない。私は落としてもらえないジェットコースターに乗せられて、ずっと上昇し続けていた。

「……っ、くっ……ん……」

 腰をくねらせ、何とか彼の陰経を良いところに当てさせて絶頂しようと試みても、それは徒労に終わる。

「イロハ」

「なんっ、ですか?」

「イかせて欲しい?」

 指で触って貰ったときに嫌というほど受け取った絶頂の刺激が、今はオアシスの水のように貴重なものに思えた。しかしここで折れてしまえば、私は今後性行為で彼の優位に立つことはできなくなるだろう。私は彼の手のひらの上で絶頂を操作されて、彼に勝てなくなってしまう。しかし、

「……イか……ください」

「何て言ったのかな?」

 しかし考えてみれば、それが本望だった。彼に負け続けることが一番気持ちがいいと認めてしまえば、それまでのことだった。プライドも何もかも捨ててしまえばいいだけだった。

「イかせて、ください……」

 

   〇

 

「あ゛んっ……っ♡ お゛っっ――っ、ぁあ♡」

 答えを聞いた彼は、どんな表情を浮かべていたのだろうか。何にせよ彼は高速で腰を突き動かし、私は彼の意のままに絶頂させられてしまった。言い訳のしようもないほど深く、身体は彼の精子を求めて搾り取るように痙攣し、ほとんど同時に彼も射精した。

 疲れていたのか、絶頂してから微睡みが襲ってきて、そのままゆっくりと眠ってしまった。

 

   〇

 

 意外にも、その一時間後に私は目を冷ました。隣を見ると、彼も疲れ切ったように眠っていて、冷静になった頭で思い出すと茹だってしまいそうな恥ずかしいことをしていた気がする。

「起きてください、先生」

「……! い、今何時?!」

「落ち着いてください、まだ十一時半です」

「寝ちゃってた……のか、なんかベトベトだし」

「覚えてないんですか?」

「いや、しっかり覚えてるよ。イロハがマゾってこと」

「忘れていいですよ……はぁ、お風呂借りますね」

「私も入ろうかな」

「一緒に入るんですか?」

「嫌なら後でいいです」

「嫌とは言ってません。行きますよ」


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