あえる ヤれる アイドル『TRK26』まな板ショー 作:添牙いろは
高校を卒業して早二年――忘れた頃に同窓会のメールがやってきた。正直なところ、かつての同級生たちに特別な関心はない。だが、断るほど予定が詰まっているわけでもない。場所も新宿ということで通学定期の経路内にある。暇潰し――話のネタにでも――そんな軽い気持ちで、とりあえず俺は『参加』と回答しておいた。
だが、いざ参加してみると――たかが二年、されど二年――意外な――意外すぎる変貌を遂げる者もいる。同窓生が、まさかのストリッパーに――
そのカミングアウトも、キャラによっては盛り上がったかもしれない。だが、彼女の場合はそうではなかった。
元々仲が良かったと思われる同性の鷺ノ宮でさえ――そ、そうなんだ――ドン引き――というほどの雰囲気でもない。ただ、話を広げるべきか深入りすべきではないのか――まるで腫れ物に触れるかのように。
その場ではこの話題は流されたが――うっかり耳にしてしまった男子たちの様子はぎこちない。まったく、紳士らしからぬ連中だ。
しかし、女子の間でも男子とは違った動揺が広がっており――鷺ノ宮が意を決して踏み込んだのは、友人としての自覚があったからだろう。
「ね、ねぇ……ストリップって……どんなの踊ってるの……?」
それを問われて嬉しそうに笑顔を弾けさせる蒼泉。そして、いそいそとスマホを取り出すと、すぐに隣の鷺ノ宮に画面を見せる。この手際の良さ――どうやら質問待ちだったらしい。
興味はあっても許可なく露骨に覗くことは憚られる。だが、音声は拒めない。ここは賑やかな居酒屋である。それでもその歌声はよく通り――流れ始めた途端、誰もが自然と会話を止めていく。
「え……? 誰の歌?」
「マジ上手いんだけど……」
次々と蒼泉たちの周りに集う女子たち。それを少し離れて聴き入る男子たち。これでは蒼泉も居た堪れないだろう――と思ったが、そんなことはなかった。
「うん、私ね、そのー……裸になると唄いやすく……なるみたいで……」
だから、この場で唄うことはできない――歌を聴いてもらうには
「そ、それでね、立ち見になっちゃうんだけど……」
偶然にしてはできすぎている。どうやら、蒼泉は最初からそのつもりだったらしい。
***
二次会はまさかのストリップ劇場――もちろん、希望者のみ。パートナーがいる者はその相手の許可が下りれば。二〇人強のうちおよそ半数が別行動となり、ストリップショー鑑賞ツアーの参加者は一〇人少々。男女比は当然男一〇〇%――になると思っていたのだが、意外というべきか、やや男が多い程度に収まっている。
蒼泉は同窓会の会場と劇場が近いと知って、密かに計画していたようだ。蒼泉が酒を飲んでいなかったのは下戸だからというわけではなかったらしい。
「ごめんね、ごめんね。私……本当に、裸にならないと唄えなくて……」
本人曰く、クラスのみんなに歌を聴いてもらうため事務所に許可をもらった、とのこと。ただの営業活動ではないし、間違っても知人にストリップを披露したいだけの痴女でもないのだろう。
徒歩一〇分、劇場には着いた。が、準備があるので十五分くらいかかるという。その間、ステージを観ていてもいいし、ロビーにはバーカウンターもあるので、そこで飲んでいてもいい、とのことだ。ここまで来たのだからせっかくだし他の人のステージも観ていこう、と果敢に入っていく男たち――が開けた扉から俺もひょいと覗き込んでみると――
「なんやネーチャン、ウチにもサービスしたってやー」
「それでは先ず、こちらのメイド服をお召くださいませ」
場内からは笑いが起きている。な、何だこれは……? 不自然に股を開いたりと露骨なサービスをしているのかと思いきや――これはストリップギャグ、とでもいうべきか?
俺のいるホール入口からでも、その様子はよく見える。これは客席中央まで通路のように伸びた舞台のおかげか。ふたりの踊り娘はその先端に立っている。一般的な劇場とは少々形状というか、設備が違うらしい。その理由は……まあ、ストリップ劇場だから、だろう。
ステージ上の女子の片方は関西弁を操り、すでに全裸で異様に背が低い。年齢的に大丈夫なのだろうか? もうひとりの女子は相対的に背が高く見え、しっかりとメイド服を着込んでいる――が、それをしずしずと脱ぎ始めている。ストリップとしての見世物というよりただの生着替えのような。
しっかりとブラまで取ると、カップ通りの豊満な中身がお目見えする。普段秘する場所だけに、こうして堂々と披露されると、ストリップ初心者としては驚きを隠せない。それでも、女のコの方は淡々と、ちんまりした方にブラを手渡す。それを受け取り、軽く着けるような素振りを見せるが――
「こんなん、ブラやのぅてブカブカのブカやねん! ほわっちゃーっ!」
小さい女子はそのブラをヌンチャクのように振り回している。結構テキパキと、見栄えも良いので客のウケも良い。色気はないが。いや、全裸なので色気がないこともないのだが。とはいえ、色気よりもネタが勝っているため、クラスの女子たちもついつい見入っている。
どんな卑猥な舞台が繰り広げられているのかと構えていたが、むしろ大人のコメディ、といった様子だ。これが二十一世紀末のストリップなのかもしれない。地味な女子がいきなりストリッパーデビュー――案外突拍子もないことでもなかったのかもしれない、と思えた。
腹を割った仲なら連れ添って観るのも悪くないのだろうが――俺にはそこまでの間柄のクラスメイトはいない。ということで、少し離れた壁際でひとりストリップ・コントを鑑賞していた。ステージの両者が何のかんので揃って全裸になったところで、突然小さい方の踊り娘が客席へ呼びかけ始める。
「ほんじゃま、そろそろ歩はん出てくるんで、まだロビーに残ってるクラスのモンがいたら声かけときー」
それは、まさに俺たちに向けて。本当にこの公演は、我々同窓会を前提とした催しになっているらしい。小さな劇場だからこそできることか。ステージから促されて、入り口近くにいたクラスメイトが少しだけ扉を開き、ロビーに向けて手招きしている。それで、ふたりほど女子が入ってきて……再び暗さが戻ってきた。それで、会場の方も我々の用意が整ったと判断したのだろう。賑やかで、それでいて聴き覚えのあるサウンドが大音量で響き渡る。聴き覚えがあるのは――ついさっき聴いたばかりだからか。
【Beginning Live】
始めよう 私たちで
みんなの作るステージ
閉じこもっていた 過去から飛び出そう
見て欲しい 聴いて欲しい 秘密にしてたメロディ
今を楽しむことなら 誰にも負けたくない
ときには失敗して 後ろ指差されても
自分が求める未来 信じて
偶然が重なった奇跡
私とあなたがここにいる理由 つないだら
始めよう 私たちで
みんなの作るステージ
見せてよ あなたが本当に欲しいもの
隠さないで Your Dream
それはここにあるから
光のあとには
また夢見て
恥ずかしいけど
気持ちよく
飛び立とう!
――聴いたのはたった一度だけ――それでも、強く記憶に残っている。さっきの居酒屋で蒼泉のスマホから流れていた楽曲――いま目の前で奏でられているのはまさにそれだ。
我々男子は姿を観るのは初めてとなる。ステージの奥から遅れて出てきた蒼泉は――きっと、スマホの中でもこの姿だったのだろう。膝丈くらいのブーツは履いている。袖袋……とでもいうべきか――長い手袋も着けているし、チョーカーも巻いている。だが、身体には何もなく――胸元は乳首の先まで――足の付根は毛の生えているところまで――お尻の割れ目も上から下まで――それでも、蒼泉に恥じらっている様子はない。堂々と胸を振り――それは共にステージに立っているふたりも同じことなのだが――どうしても蒼泉ばかりに目が行ってしまうのは顔見知りだから、というだけではないだろう。
何故我々がこの劇場に呼ばれたのかよくわかった。もし、本人が言うとおり、裸にならねば唄えないのであれば――この歌声は、皆に聴かせずにはいられない――そんな気がするのだった。
どうやら蒼泉の出番は大トリだったらしい。大トリ三人組の中でも遅れて出てきたのだから――大トリの中の大トリ、といっても過言ではないだろう。ここまでも様々な踊り娘が出演していたようで、カーテンコールでは先程の三人以外にもずらりと倍以上の人数が並んでいる。全員全裸で。もちろん、蒼泉も。さっきのステージでしっかりと目に焼き付いたと思っていたが――案外、何度観ても飽きるものではないらしい。なるほど、これはリピーターがつくはずだ。
幕が下りて演者も下がり――さて、これからどうしたものか。同窓会の続きとして三次会に繰り出すにしても――どんな顔をして蒼泉に会えばいいのかわからない。だが、これだけのステージを魅せられて、何も言わないのは礼儀に反する。いや、心動かされたのは裸体的な意味ではなく――意味
そんなことを考えている間――まだ公演は終わっていなかったようで、ホール内はスポットライトが飛び交っている。
そして――
シンバルが鳴った。
そして――
何故か、俺が眩しく照らされている。
***
俺には何のことだかわからなかった。わからないまま、係と思われる女性が現れて、俺は舞台裏まで連れてこられている。そこは幕が下りたままで薄暗い。そんな中、彼女は立っていた。
「え、えーと……いきなりでごめんね」
蒼泉は未だ裸のままで――裸のまま、ふたりきりで――さすがにこれは気不味い。
だが、ここからさらに俺たちは気不味くなる。
「ちょっと、幕の隙間から向こう側を覗いてみてくれるかな?」
ホールの様子はこちらからではわからない。だが、何が行われているかは何となくわかる。マイクによる大音量によって。
『あっ、あぁん……っ、ええ……ええで……っ』
『すごい……すごいです……ご主人さまぁ……♡』
このような劇場なのだから、いわゆる“と見せかけて”――という肩透かしなどではないのだろう。だが、俺はあえて蒼泉に言われたとおりに確認してみる。すると――中央舞台の方で予想通りの行為が繰り広げられていた。
驚きはしない。だが、ジロジロ観ていていいものなのか――客たちの前でまぐわっているのだから、当然見せる前提で行っているのだろう。だが――
俺のシャツの裾が、きゅっと小さく握られる。この場合、その仕草そのものより――蒼泉は全裸だ。全裸の女子がこんな至近距離に迫ってきていること自体が――プレッシャーは否めない。だが、露骨に狼狽えるのは格好が悪い。なので、深呼吸のようなため息で気持ちを整える。
そして、彼女は言った。
「私たちね、『あえる、ヤれる』ってのをアピールポイントにしてて……」
実際、緞帳の向こう側では先程蒼泉と共に唄っていたふたりが楽しげな嬌声を上げている。それに――風俗業ということであれば――とはいえ、先程の歌声は本物だった――が、アーティストが風俗業を兼ねてはならない法はない。それが、蒼泉の仕事なのだ。唄って踊って――裸になるだけでなく――
「……なら、初めてってことでもないんだな」
「……ん」
蒼泉は自分の役割をまっとうすべくこのような行為に従事している。そして、俺がここに連れてこられた理由は明らかだ。
「なら、行くか」
「……ん♡」
俺が蒼泉の手を取ると、蒼泉も俺の手を握り返す。そして、ふたりで左右のカーテンを掻き分けて――
視界が開ける。大した広さはなかったはずだが、これから行うことを考えると奥の壁さえ果てしない。部屋の中央では、すでに二組の男女が――男は仰向けになっており、その上で女のコが胸を揺らしながら腰を上下させている。
蒼泉は手をつないだまま、俺の耳元にそっと囁いた。
「これはね、まな板ショーといって……」
名は体を表わすというべきか、まさにそのままである。
「なら、俺はああやって寝ていればいいんだな」
「ん。床は硬いかもしれないけど……ごめんね」
その程度で痛がるほど俺はヤワではない。中央舞台はそこまで狭くもないが――先の男ふたりは円い外周に沿って三角形を作るように並んでいる。左の男のつま先に右の男が頭を寄せるように。ならば、俺は右の男のつま先の方に頭を乗せ、左の男の頭の方に足を伸ばせば良いのだろう。
そのように横たわったところで――ライトを遮って蒼泉が俺に覗き込む。
「あ、脱がすの下だけでいい? 胸も攻めて欲しい男の人も多いみたいだけど」
「蒼泉に任せる」
何というか……とんでもなくカジュアルだな……。まるで、整体師のマッサージのような……これから同級生とセックスをするとは思えない。全裸であることも、まったく意識していないようだ。
しかし、蒼泉は紛れもなく全裸であり、これから行うのは――セックスである。だから、女の手は迷うことなくズボンのベルトを外していき、遠慮なくファスナーを引いていく。そして、戸惑うことなく――中のパンツもめくり下げた。俺の身体は――歌がどうの、振り付けがこうのといいながらも、結局オスとして反応せずにはいられなかったようだ。
一方の蒼泉も――本当に手慣れており、同級生の勃起した男性器を前にしても物怖じしない。俺の袋の下にトランクスのゴムを引っ掛け、そのまま顔を近づけてくる。
「それじゃあー……いただきまーす♪」
本当にかじりついてきたりしないだろうな――ふと、そんなことが頭をよぎったが、彼女とてこの舞台を生業としている。間違っても歯を立てるようなことはない。
「あむ、はむ、あむん、あむぅん……」
蒼泉のマイクは入れっぱなしなので、唇の音が如実に拾われている。
「じゅぷ、じゅる……じゅるる……っ、じゅるぅ……」
唇を窄めて顔を上下に――それを同級生たちはどんな思いで見ているのだろうか。
「ん、ん、ん……ちゅぷぅ……ちゅぷるぅ……」
本当に……蒼泉はプロなのだな……! その舌遣いは……素人のものではない……っ! このままでは――そう危惧したところで――
「……ふぅ、準備オッケーかな」
本当にギリギリだった。しっかり括約筋に力を込めていないと、いまにももれ
「最後は、
裸の蒼泉が――俺の上に跨ってくる――胸から――股間まで、何ひとつ隠すことなく。そして、その目下には――俺の、
何だか、変な夢を見ているような気がしてくる。在学中、蒼泉を気にかけたことは一度もなかった。控えめ、といえば聞こえはいいが、結局のところ、存在感がないだけである。不細工でもないがとりわけ美人ということもない。スタイルも極端にグラマラスということもないが、寸胴ということは決してない。勉強に困っていた様子もなければ突出して秀でている科目があったとも聞かない。本当に、何もない女だった。
それが、服を脱ぐことであんなにもきらびやかなステージを彩り――その彼女が、まさにいま――俺の上で――
「……うぅん♡」
先の方が
「……っあはぁんっ♡」
俺のすべてが――飲み込まれてしまった。蒼泉の
その上で、蒼泉はうっとりと。
「それじゃあ……始めるよ♪」
ゆっくりと腰を上げ――再び戻す――それは、いわゆる測量か。俺の長さを
「あっ、あっ、あんっ、あぁんっ……♡」
蒼泉はこの仕事の玄人だ。この喘ぎも演技である可能性が高い。とはいえ、演技だとしても――男の本能は否応なしに刺激される。だが……これ以上いいように振り回されるのは男として少々悔しい。だとしても、一先ずは大人しく従っているフリをしておこう。まるで息を止めるように全身を強張らせ――特に下腹部は。それでも――
「ふふ……
こちらは声に出していないはずなのに、表情に出ているのかもしれない。俺の限界が近いことは、蒼泉にはすっかり見透かされてしまっていた。やはり、口でシていたときもそうだったのだろう。
だが、俺の悔しささえも気遣うように。
「私も……あぁん……っ、
そのように誘われては――
「一緒に……
男として――理性が――耐えられそうに――ない――っ!
びゅくっ! びゅるっ! びゅくるっ! びゅるる……ッ!!
「あっ、あああ……あはぁぁぁぁぁッ♡♡♡」
その差は――ほぼ同時だろう。俺からほとばしるものを、蒼泉は
「どうして……俺なんだ……?」
他にも同級生は何人もいたのに。そんな中、何故俺なのか。それは――
「厳選なる抽選の結果……ってやつかな」
ふたりつながったまま、蒼泉は照れくさそうに答える。だが――
――ヒクン。
蒼泉の締め付けが、きゅっと強くなった気がする。だから、いまはそれ以上踏み込めそうにない。彼女の本心は――この先明らかになることだろう。俺はもう――この蒼泉歩という女から目が離せそうになさそうだ。
***
同級生のストリップだけでなく公開セックス――さすがにそのまま三次会へ突入しようという空気にはならず、公演終了をもって同窓会もお開きになった。
その後、劇場について調べてみると――確かに彼女たち『TRK26』は『あえる! ヤれる!!』をモットーとしており、蒼泉はまさかのセンター――メンバーたちの中心となるトップアイドルだった。
あの日のまな板ショーで何故俺が選ばれたのか――ひょっとすると、偶然を装いながらも恣意的に――そんな期待はよぎったが、彼女の人気を考えれば、言葉どおり『偶然』だったのかもしれない。
が、『偶然』ながら蒼泉とつながりができた。その事実だけは――この『偶然』は『奇跡』――いや、『天命』だといえるだろう。
だからこそ――
「わっ、谷くんも当選したのー……やらし♪」
あれから何度かライブに応募してみたものの、蒼泉の出演予定の日はチケットの当選率が異様に低い。それでも今日、劇場へと俺が導かれたのはやはり天命――だと思ったが、当たったのは俺だけではなかった。このような場所で同級生と顔を合わすのは――しかも女子に――そもそも女がこんなところ来るなよ、とは思うのだが、どうやら蒼泉のファンの女子率は他のメンバーと比べて格段に高いらしい。まあ、この坂東という女は元々遊び方が派手な女ではあった。むしろ、彼女がストリッパーになっていたら誰もが納得したことだろう――とは言うまい。
坂東の表情はいたずらっぽさを感じるので、本気で責めていることもなさそうだ。しかし――男としては言葉に窮する。誤魔化すつもりはないが、俺に言えることは――
「ただの天命だよ」
誰もがここへ辿り着けるわけではない。厳選なる抽選の結果――それに選ばれたがゆえに俺はここにいる。
どうやら、蒼泉は遥かな頂きにいるようだ。俺がどこまで彼女に近づけるか――それは天のみぞ知る、ということだろう。