あえる ヤれる アイドル『TRK26』まな板ショー 作:添牙いろは
どうして気づかなかったのか――もしかして、俺って眼鏡しか見てないのか? と自分の性癖を恨めしくも思う。
ともかく――メガネっ娘セクシーアイドル・
俺が桑空とぶつかるようになったのは、島内誠奈さん――当時好きだった女のコが桑空と仲が良かったから――外堀を埋める意味で接近して――なのに――何なんだよ、アイツは!
『誠奈、アイツ完全にお前のこと狙ってるから気をつけた方がいいぞ』
とはいえ、こっちとしても島内さんが懸かっている。そう簡単に諦めるわけにはいかないが、その度に傍のゴリラが邪魔となり――それで、まー……売り言葉に買い言葉、っつーか……フニャチン、女ゴリラ、の応酬で、島内さんどころじゃなかったんだよな……はぁ。
それから時は流れて――結局島内さんとはまったく仲良くなれず――あんなオマケのことなんて卒業して数年も顔を合わせなければ記憶に残す理由もない。だが――それが逆に良くなかったのか――大学生活の中でハマったアイドルが、よりにもよって――……
発覚した理由は単純明快――アイツ、事務所を変えたついでに――本名で活動するか? フツー。
猫をかぶってるどころか変装とまでいえるイメチェンを遂げて――『ハニートラップ』――最初の事務所の頃は、ただのミュージックビデオみたいなもんだったから、粗が出なかっただけらしい。現在の事務所である『TRK劇場』ってところは、あの脳筋をステージに上げるどころかトークまで……! 一応、ホームページの方は『河合ミサ』名義になっているけれど、途中でポロポロ本名で呼んだり呼ばれたりしてんだよ……。しかも……あのツインテール、付け毛だったんだな……付け方甘くてステージ上でスッポ抜けたとき――それまでご機嫌に猫撫で声で唄って踊ってたってのに、急にドスの効いた声で『チィッ』とか舌打ちしやがって――完全に高校の頃を思い出しちまったわ。
やっぱり……この劇場に来て、急に曲風が変わった時点で気づくべきだったんだ……。ある意味アイツらしいわ、こっちのが。
【カワユくなれ】
作詞:このきのこ
何を夢見てその胸を
大切に包み隠して 抱きしめながら
どこへゆくのか
服の中で眠ってる 最強の一撃
カワユくなれ
その身をぶつけて 女のコ
カワユくなれ
あざとさを掴み
恥ずくても 目を逸らさない
……カワユさを唄いながら、何で妙に勇ましい曲調なんだよ……。初のソロ曲がコレって……まあ、他のメンバーと組んで唄うときはもっと普通な感じだからな。それで、ソロくらいは、ということなんだろう。
河合ミサの正体が桑空操だときづかぬうちにTRKのファンクラブにも入会していた俺は、日課のようにこのミサちゃんのアーカイブ動画でこの歌を拝聴し――っつーかさ、衣装は相変わらずフリフリのテカテカなのに――アイツの空手は振り付けの演技じゃねぇ。ガチの凶器だからな。
ヤツの動画を観ていると色んな感情が渦巻くが――結局、下半身には忠実なのが男という生き物なのだろう。その正体が野蛮人であることは頭の隅に追いやって――チクショウ、やっぱミサミサはカワイイぜ。アイドルでもなければ許されない二〇代のツインテールにスラっとした胸――何より、縁のしっかりしたオシャレメガネ――そんなカワユさの塊がおっぱい丸出しで――それどころか、パンツまで脱いで――唄って踊って――上段蹴り――! 可愛くいうならY字バランス、といったところか? ハニトラで撮っていたときは普通にモジモジフリフリだったけど、この劇場に移ってからはカワユさの中にワイルドさも加わるようになった。あのミサミサのソロ曲といい……これこそ、プロデューサーによる采配なのだろう。くそう、ニクいことしてくれるぜ……っ。
ハニトラで踊っていた頃から、ミサミサは裸になっていた。もちろん、それも可愛らしかったのだが……TRKに入ってカワユさに磨きがかかったというか。それどころか、TRKってのは『あえる!ヤれる!!』をモットーにしている。……そう、会えちまうんだよ。もし、実際に劇場で会って、顔を合わせたら――アイツ、俺のことを思い出しちまうんじゃねぇか、とか。脳筋らしく忘れててくれてほしいもんだが。
会えるけど……会いたくねぇ……っ! 色々と迷った末に……つい、チケットの応募ボタンをポチっちまった。まあ、ファンクラブ特典で優先こそされるけど、そうそう当たるもんでもねぇだろう、と。
なのに――一発で当たっちまうなんて……。おいおい、アイツ、ハニトラ時代もあるから結構芸歴長いんじゃねーのかよ。競争率低いなオイ。
ともあれ、いろんな言い訳を背負いつつ、俺はTRK劇場へと向かうことになったのだった。
***
アイドルの劇場といえば、普通もっとキレイでキラキラしてるものだが。やはり、ベースはストリップ劇場らしい。内装の壁はベトっと赤く塗られ、奥にはバーカウンター。まさに、オトナの社交場、といった様相である。ハニトラの頃はライブなんてやらなかったので、同じファンが集ってくるのを見ているとちょっと胸が熱くなる感じだ。ミサミサの単独なら声をかけてみたいものだが……うん、バーのふたりは会話の内容からあきらかに糸織推しだし、ヘッドドレスかぶったオッサンたちなどは言及の余地もない。ルミノの親衛隊は何かもう……異色を放っているし、ブロマイドを買っているのは……案の定歩ちゃんか! チクショウ、ミサミサのは俺が買ってやるぜ!
といった感じに少々ロビーの方を満喫したところで、俺はとっとと席に着いた。この劇場、小さいこともあって席指定とかないからなぁ。もちろん、一番競争率が高いのは盆と呼ばれる中央舞台――客席の真ん中まで伸びてきたこの丸いステージで裸になった女のコがあんなポーズやこんなポーズをしてくれるという『ストリップといえばコレ!』って感じのスポットである。
だが、俺が陣取るのは――あえて、本舞台――ホールの奥に横たわる一般的な劇場のステージと呼ばれる部分に向けての最前列だ。何故なら、俺は――俺たちミサミサ――いや、『シャドウステップ』のファンたちは、ここが特等席だと理解しているのだから。
今日のミサミサは、残念ながらソロではない。ルミノ、李冴と組んだ三人組・
ミサミサは……まあ、ぶっちゃけ、歌はそんなに得意ではない。だからこそ、歌が得意な人たちの後ろで踊りに専念する、というのも最適解のひとつなのだろう。ステージの主役を取れないのはミサミサファンとしては少々寂しいけどな。
それでも……ああしてきっちり脱いでくれるし……うん、ミサミサカワユイよ……!
みんな盆や、そこまでをつなぐ花道の方に夢中になっているけれど……シャドウステップは五人もいるし、何かと目立つのはリーダーの乙比野だけど……それでも俺はミサミサを応援し続けよう。赤と白――ミサミサカラーのペンラを振って。
その日すべての公演が終わって……あー……何だかんだで満喫してしまった……。
初めて見る生ミサミサ……ああ、高校の頃はノーカン。制服着てたし。
裸のミサミサは……あぁ……あの頃うっかり全裸のヤツと遭遇して、あの眼鏡をかけた上でスレンダーボディを見せつけられたら……惚れてたかもな……。いや、それはさすがにないか? というか、眼鏡だけ残して全裸って先ずありえねーし。まー、すべては過ぎたことだ。
終わってしまえば、桑空が俺のことを覚えていたか、気づいていたか――そんなのはどうでもいいことだったらしい。結局、俺は客席を埋める百人強いるTRKファンのひとりにすぎず、ステージを見上げて推しを応援することしかできないのだから。
そう思っていたところに――カーテンコールが終わってドラムロールが鳴り響く中――俺にスポットライトが当たったことで思い出した。このストリップ・アイドル・ユニットは――『あえる! ヤれる!!』を売りにしていたことを。
***
そ、そういえば、ファンクラブに入ってるとこういうチャンスもあったんだよな……。もしかすると、桑空に会いたくない一心で考えないようにしていただけかもしれない。それに、アーカイブ動画でも、何というか……推しのAVを見ていたような。ぶっちゃけ、すべてはアイドルとファン――壁ひとつ隔てた存在――自然とそんな距離を感じていた。
だから――さっきまでステージ上にあったミサちゃんのおっぱいが目の前にある、というのが……ある意味現実味がない、というか。
「
よ……よし……! 俺のこと気づいてないみたいだな……。
さて、客席で係の人に呼ばれて案内されたのはココ、幕の閉まったステージ上。ここから客席ド真ん中を縦断する花道を通って、ホール中央に鎮座する特別舞台、盆へと向かうのである。そして、そこで俺は……ミサちゃんと……!
段取りとして、女のコが先に盆で待っていることもあれば、女のコが準備している間、男が先に待っている場合もある。そして、ミサちゃんの場合は――
「男の人脱がすの恥ずかちぃからぁ……先に裸で待っててくれゆ?」
「は、はいっ」
俺からの返事を受け取ると、ミサちゃんは恥ずかしそうに袖の方へと
会場の方も慣れているところがあり……それに、オッサンばっかだからな。男湯みたいなものである。実際、俺が出て行っても男の裸に興味を持つ客もおらず、みんなソワソワと幕の方に釘付けだ。そして、もちろん俺も。
少しして音楽が始まり、幕の中央にスポットライトが当てられる。これにはもう、胸の高鳴りが押さえられそうにない……!
だが――
「!?」
会場は沸いている。それは……その姿もファンならよく知っているから。ウィッグと眼鏡を外した素のミサちゃん――といえば聞こえはいいが、俺にとってはそうではない。アレは……むしろ、高校時代の……!
俺の驚愕の表情は離れたところからでも識別できたらしい。トントンと軽い足取りで……全裸の桑空が……逃げ道を塞ぐように……!
そして、俺の目の前で――キスするくらいの顔の近さで――
「……クククっ、よく来れたもんだな」
コイツ……ッ、ハメやがった……ッ!
「何が、お前じゃ
慌てて両手で股間を隠すも……落ち着け、俺のムスコ……! コイツはミサちゃんじゃねぇ! 女ゴリラの桑空操だ! 胸だってツルペタで、もしかしたら股の下にチンポ挟んでんじゃねぇかって
目を反らしながら深呼吸を続ける俺に桑空は横からスッと近づくと――
――ガクン――!?
「ぇ?」
気づくと俺は尻餅を搗いていた。痛みはない。ただ、膝か、足首か――そのあたりに、軽く何か当たった感覚はあった。それによって俺は……転ばされたのか……?
突然のことで混乱しているが、思わず両手を床に突いてしまったことで――改めて顕になる。天井に向けて反応している、俺の身体の一部が。
その突起をへし折らんと女ゴリラは跨ってきて――けど、クイクイと腰を振ると――スル、ヌル……ストン……っ。
「……ぁ、ぁ……」
お、折れ……ない……? むしろ、柔らかくて……温かくて……お、女……? コイツが……? ゴリラであっても、女だってのか……?
「く、くそ……っ、こんな……女ゴリラに……ッ!」
こんな情けない格好で憎まれ口を叩いたところで萎える様子はないし、視線は――乳首から離せねぇ……っ!
「フン、その女ゴリラに発情してチンポ
「だっ、誰が
「ならガマンしてみせな。オレを先に
売り文句に対して買い文句であったが……ぶっちゃけ、勝てる自信なんて微塵もない。なにせ、これは――
「ふっ、ふっ、ん……っ、あはっ、どうだ……っ」
ヤバイ……ヤバイ……って……! 下腹部に全身の力を吸い取られていくようで……もう……身体を起こしている……余裕すらない……!
それでも視線は乳首……それと、ふたりのつながったところに――俺の……俺が……アイツの
その上、コイツ……ゴリラのクセに……!
『あぁんっ、おちんちん気持ちいいのぉっ♡』
ぐっ、それはキタネェぞ!? ミサミサの声で、そんな甘ったるい言葉を……!
「ククっ、ほーんと、男って欲望に正直だな。
く、くそぅ……何も……言い返せねぇ……っ!
『もっとぉ……ミサのおまんこにぃ……おちんちん……あぁんっ、おちんちん大好きぃ♪』
マイクのオンオフを切り替えながら――ミサちゃんと桑空を切り替えながら――けれど、やっぱりこいつは桑空だ。
『んじゃあ、そろそろ……
それは、マイクをオフにして言うセリフじゃないのか? けれど、そんな桑空も可愛くて――
ビュルッ、ビュルッ、ドクンッ、ドクン……ッ!
「あ、あ、あぁ……」
堪えられなかった……。こんな女ゴリラの
『えへへぇ~♪ 見て見て~、ミサ、こぉんなにいっぱい
俺から立ち上がると、桑空は客席に向けて尻を突き出し――自ら両手でかっ開いた割れ目の間から――俺が
客席は賑やかに沸いているが――俺にはもう、大の字になって天井を仰ぐことしかできそうにない。
チクショウ……俺の初めてが女ゴリラに……最悪の筆下ろしになっちまった……。これが原因でインポにでもなったらどうしてくれる……ッ!?
***
初めてのことに色々不安はあったが――俺のムスコは今日も元気である。元気に――TRK劇場のアーカイブ動画を満喫している。
あー……もう顔も割れちまってるしなぁ……。さすがに、あんな形で絡まれるのは懲り懲りである。けど……あのカワユさはまた拝みてぇ……悩ましいぜーっ。
などとお気楽なことを考えていたが、そんなある日にTRKのラジオを聴いていると――
『そもそもオレ、彼氏いるしな』
『だからぁ……アイドルなんだしそういう話はやめときなってー……』
か、カレシ……だと……?
――あとで知ったことだが……直接劇場に足を運んでいたファンなら常識だったらしい。なるほど……アーカイブ動画ではそういう発言も巧妙にカットしてたんだな……。あのラジオも生放送だから流れちまったけど、録音の方ではさり気なく編集されている。聴き比べてようやく気づいた。
とはいえ、このことをネットに書き込むようなアンチもおらず……うん、俺だって、ミサミサのカレシの話なんて広めたいとは思わねぇよ。
……はぁ、何で俺、ショック受けてんだ。ミサミサが100%ミサミサならともかく、そのプライベートは女ゴリラだぞ? 女ゴリラの彼氏なんて罰ゲームだろ。なのに……う、う……はぁ……どうしてこうなった。
……あーーーッ! いまの記憶を俺の中から消してーーーッ! いや、むしろ、桑空の中から俺の高校時代の記憶を消してくれーーーッ! そして……高校生からやり直してぇ。いまの記憶だけは都合よく残して。
それで……教えてやるんだ。お前は――メガネかけて、裸になれば可愛いんだって。