あえる ヤれる アイドル『TRK26』まな板ショー 作:添牙いろは
まあ、男にしては線が細いな、とは思っていたけれど。
だからこそ、そんなルカ様にハマってしまったのだけれど。
けれども――ストリップ劇場に出演していて、あの乳首を見せられれば、さすがに疑いようもない。あたしの愛したコスプレイヤー・ルカは――女だったのだと。
けどさ……『ワイルドスピリッツ』のルーザーとか、『スターツーリング』のジャンクスとか……どれもこれも上半裸の衣装ばっか! 普通、女子があんな堂々と胸出せる? こないだネットで読んだインタビュー記事によると……女子は身体を見せると綺麗になる、ってのを信じてて、それで胸を見せまくってる、とのこと。間違いなく、それを理由に露出したいだけの露出狂なんだと思う。
いまでもルカ様のことは無意識に様付けしてしまうくらいには好きだ。けれども、同性であると知ったことでちょっとは熱も冷めてくれたかもしれない。
だから、これはあくまで興味本位――あと、やっぱり生でルカ様のコスは見たいから。劇場のホームページから何度か応募していたけれど……全然当たらん! って一ヶ月ほど落選が続いたところで――抽選の際に優遇される特典のあるファンクラブに入会してしまった。決して安い金額ではないのだけれど……一度ステージを観て満足したら退会すればいいし。
***
それにしても……女ひとりでストリップ劇場って相当ハードル高いんですけどーっ!? って気後れしていたものの――いや、話では聞いていたけれど――こ、これはすごい女子率……! 最近、男装ユニット『RED LINE』が結成されたことで、彼ら――じゃなくて、彼女たちが
ヴァイオリンのエリック――
ベースのミサ――女のコみたいな名前だが――というか、女のコなんだけど――本名は
そんなふたりを束ねるのは我らがリーダー――ルカ様! ギターにしてメインボーカル! うん、ビジュアル系バンドのコスなら『パンク・ロック・フリーク』でもやってるし、男装という意味では一番バランスが良い。何より、どういうポーズが映えるかって本人が一番よくわかってる。もはや、カッコ良すぎて浮いているといってもいいくらい。あぁ……ルカ様……中性的なその名前は、聞いても呼んでも素敵よねぇ……♡
そんな三人組による男装ビジュアル系バンド・RED LINE――明らかに女子ファンを狙っており――入り口から見てロビー手前にある通常売店ではおっぱい丸出しのエロポラばかりだけど、奥の特設カウンターでは――棚には酒瓶やグラスが並んでいるので、どうやら普段はバーカウンターらしい――こちらのグッズではみんな普通に上下とも衣装を着ており――RED LINE、ステージでは上半裸なのに、グッズとしてはジャケットを羽織っているあたり、わかってる感がある。まあ、あたしくらいになればメンズ向けの上半裸版も合わせて買うけどね。
それにしても、まー……メンズたちの居心地の悪そうなこと。普段は、ここは男の城だー、みたいに振る舞っているであろうところ申し訳ないけど、今日は女子も仲間に入れてねー。
そういえばこの劇場、狭いってこともあって普段は席指定とかないらしいんだけど、RED LINEの公演日だけは指定席が割り振られている。基本は各自荷物を置いて確保ってことなんだけど……それを勝手に動かすえげつない人もいるとかで。とはいえ、こちらとしてもおかげでゆっくりグッズを物色できる。ただ、普段は席指定がないだけに、背もたれに番号とか振られてないんだよねぇ……。スマホで場所は確認できるけど、何列目の右端から何番目とか……座り間違えないか心配だわ。
さて、ライブが始まると――一番手はなんと古竹未兎。この劇場、何気にスゴイ。しかも、あの古竹未兎が脱いでいくとか……ヤバイところに来た感がとてつもない。
普段はメンズ向けのドスケベアイドルもいっぱいいるんだろうけど、今日は女子向けということでじわっとくるエロスが取り揃えられている。花子さんとか古典的でいいし、しとれさんのメイドっぷりは演技臭さがまったくない。
すごいなー、すごいなー、と感心しながらライブは進んでゆき、大トリはもちろん、RED LINE――!
【Eternal Fly】
作詞:このきのこ
天蓋架かるベッドは
俺とお前の牢獄
罠に噛まれたウサギの
痛みも甘さに変えて
手探り求める
光の消えたDream
この手を放してみろよ
孤独に還りたいなら
形ばかりの純情
欲望が見え透けてる
涙に濡れた
Kiss を交わし Let's fall crazy night...
白に染まって 燃え尽きる瞬間(とき) 輝き
初めて愛の言葉を 交わしあえる
Fly Fly Eternal Fly
さあ 果てなき奈落の虚空(そら)へ
他の女のコたちは徐々に脱いでいくんだけど、RED LINEだけは特別。最初から黒光りするレザーパンツだけの上半裸で、最後までそのまま。健全仕様のコス会場ではニプレスで誤魔化していたところも隠すことなく――その乳首がなければ女子だってわからないわ。
歌だけ聴けば、そりゃー……古竹未兎がいるんだから太刀打ちはできない。けど、やっぱりアイドルは総合力だから。演出力というか。この男らしい空気は古竹未兎には作れない。何より、あの流し目……ヤバイ……溶ける……ッ! つい声だって出ちゃうわ。あたしに限らず、他の女性ファンたちの間でも同じように。これには、メンズファンたちはビビってるかもしれないけど……まあ、こんなストリップショー、なかなかないでしょうね。
ルカ様のステージが終わってみると……ぶっちゃけ、女だとか乳首がどーとか、もはや気にならなくなっていた。ルカ様はルカ様である。ルカ様という生物であり……美しい……やっぱり、ルカ様は人類を超越している……!
――なんて感慨深く耽っていたのに……カーテンコールは全員全裸ってのがこのグループのお約束か。そしてそれは、レディースデーでも変わらないらしい。ライブ中は穿いていたパンツも脱いでいて――んー……だったらせめて、下の毛は剃ってほしい。そしたら、神の彫像みたいだったろうから。
これにて、一先ずライブはおしまい。
――音楽ライブとしては。
ホールが明るくなり、女子たちはゾロゾロと帰っていく。そんな中、男たちは未だ座ったまま。あ、いや、残ってる女子もいるのだけれど。
この先は――『まな板ショー』と呼ばれる、いわゆる本番行為だ。しかも、ガチンコの。セクシーライブが観れればそれでいい、というファンも多く、ここで一旦仕切り直しになる。
が、理由はそれだけではない。
あたしもまた帰宅組に混じって一旦劇場は出たけれど――駅に向かうと見せかけてぐるりと回り――劇場の裏口へ。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
そこで待っていた係員の女性に案内されてスタッフエリアへ。静かな廊下を歩きながら――あたしはドキドキが止まらない。これからルカ様と――というか、人前で――エッチしちゃうんだ……?
これについてはチケット当選の時点で確認が来ており――もちろん断ることはできた。けど――ルカ様との百合プレイにはちょっと興味があって――一応顔は隠せるみたいだし、ついOKを出してしまった。
舞台袖まで連れてきてもらったところで、係の人は下がっていく。ひとり残されたあたしは、ここで服を脱ぎ――下着まで全部――これからルカ様とのエッチなんだから――その上からバスローブみたいのを羽織り――そして、最後に顔半分を覆うマスクを――さり気なくキラキラしていて、ちょっとしたカーニバルみたい。
このときのあたしはまだ緊張の方が大きくて――楽しみというより、ローブの下の心許なさから、まるで病院の検査前のような心持ちだった。
しかし、袖から出ると――幕の閉ざされたステージで、あの人は待っていてくれた。
「ようこそ、勇気ある子猫ちゃん」
あああああ……ッ! ルカ様……! もちろん、コス会場では会ったことあるし、写真も撮らせてもらった。けど、ここは本物のステージだから。ストリップ劇場とはいえ、本物の。本物のステージに立つルカ様は――まさにアイドル――! コスプレゾーンはどうやったって演技っぽくなってしまう。けれど、ここは――本気で――本気で――!
「さ、行こうか」
混乱するばかりのあたしに、そう言って差し出す指先は――とても細くて美しかった。
ふたり手をつないでホールエリアへ――盛大に幕が開くことはなく、こそっとのれんを掻き分ける感じで。
わっ、と盛り上がる歓声は、当然ルカ様に向けられているのだと思う。というか、他の有象無象の声なんて気にならない。だってあたし、ルカ様と手をつないで歩いているわけで……!
花道の終点――丸い中央舞台にはクッションマットが敷かれている。そこでこれからあたしは、ルカ様と――!
実際に乗ってみると、ふかっとしながらもしっかりと厚みのあるマット――その上で、あたしたちは見つめ合う。はぁ……女子にしておくにはもったいないイケメンっぷり……♡ そんな唇があたしの方へと近づいてくる。期待がこぼれないようにあたしは静かに目を閉じるけれど、着地したのはもっと下の方だった。
「……あ♡」
首筋に柔らかさを受け止めながら、あたしの柔らかさも――ローブの上から――あたしの胸を――あ、あぁ……
こんなことをされているのに、怖さのようなものは一切ない。それは――本能的に、相手が女子であることを察しているからだろう。女子だと察しながら愛撫を受け入れてしまってる自分というのも、我ながらどうかと思うけれど。
ルカ様は少しだけローブの前を開いて、膨らみの裾野にキスを降らせる。けれど――
『もっと欲しい?』
肉声に重なる会場のスピーカーから響く大音量で、これがステージのショーだってことを思い出す。これは、ルカ様のショー。あたしはただのオマケだ。
だから、余計なことに気を回す必要はない。もっと――それ以上はもっと
オォ……っ
会場の男たちがどよめいた。中には女子もいるけれど。ただ、空気が変わったことであたしは自覚させられた。あたしは――人前で、誰もが見える形で、胸を
けれど――顔は隠しているし――それだけのことで、ちょっと大胆になれるのかもしれない。
「はぁ……あぁ……っ」
マイクに拾われないくらいの声量で、あたしは我慢していた吐息を漏らす。だって、ルカ様が、あたしの胸を……その先の敏感なところまで……っ!
ローブの袖から腕を抜き、あたしはすっかり上半裸だ。背中までしっかりと。まっすぐ通ったそこをしなやかな指で抱きしめるようになぞられると――はぁぁぁ……っ♡ 膝がガクガクしてしまいそう。
けれど、そんなあたしの太ももに滑り込むように――あ……あぁ……ルカ様の……ルカ様の手が……あたしの……あたしの……っ!
「んっ、んっ……あああ……っ」
ちょっと声が大きくなってしまってあたしは焦る。幸い、このくらいならまだマイクが拾うことはないようだ。
もちろん、この場がふたりきりでないことはわかっている。こんなだらしなく膝を開いて――とても不格好だけど、
けど。
『もっと、キミと触れ合いたいな』
抱きしめながらそんなことを言われたら、あたしだって――迷うより先に本能で頷いてしまい――有無を言わさず、ルカ様の手であたしの帯が――最後の砦が――
――はらり
帯に続いて、ローブそのものも。ステージ上で――裸に――!
さすがにこれは、顔を隠していても恥ずかしい。人目から守るように、ルカ様はあたしのことを……抱き、抱きしめて……くれて……っ!
けど、こんなの……!?
ルカ様に抱かれてるだけでも失神モノなのに、あたし、裸で――ルカ様も半裸で――ルカ様の胸の中であたしは裸で――あ、あぁ……ッ!?
パニックになりそうだったけれど――ある意味煩悩が忠実に研ぎ澄まされているからか――あたしは
――ボロン
肌色のそれが、作り物なのはわかってる。けど、ルカ様から生えてると――こんなの直視できない――!
目を閉じたままあたしはすべてを覚悟して――すべてを受け入れるために座り込む。柔らかいクッションマットの上にお尻を――そして背中までピタリと着けた。
ここから先は、さすがに目を開けてはいられない。できれば、耳も塞いでしまいたい。何も見えず、何も聞こえず――ルカ様だけを感じるために。
幸い、会場から野次が飛んでくることはなかった。ただ、固唾を呑むさざなみのような圧だけが押し寄せてくる。あたしのふくらはぎを――太ももを撫でていく細い指。内側から力を加えられているのか、あたしが自ら開いているのか――ルカ様のすべてを受け入れるために、あたしは――
「あ、あぁぁぁぁ……っ♡♡♡」
二本の足の間に割り込んできた大きな存在感に、ついそんな声が漏れてしまう。最近の作り物はまるで本物――温かいし――ううん、そんな無粋なことは考えたくはない。あたしはむしろ、ルカ様が女だと知ってしまう前のことを思い出す。色っぽくて格好良くて――絶対に届かない相手だと思っていたルカ様が、あたしの――あたしの――!
「は、あぁ……あぁぁぁ……」
ルカ様があたしのナカにいる。それも、オクまで――ルカ様とつながり合ってる――その上、こんなに――こんなの――!
「んっ、んっ……あぁんっ、んん……っ♡」
激しいっ! ルカ様……! 愛撫はあんなに優しかったのに……こんな本能的な……腰つき……っ!
本当に堪えきれなくなったあたしは、思わず両手で口を塞いで抑え込む。けど……っ、ルカ様に……あたし……ルカ様に……っ!
少し慣れてきたのか、あたしはようやく目を開けることができた。そこにいるのは……ルカ様……っ! あたしに覆いかぶさって、猛々しいモノを叩きつけて――
どうしよう、こんなの――全然現実味がない――ずっと届かないと思いこんでいて――同性だと知ったときはいろんなものが崩れ去って――なのに、すべてが巻き戻っていく。あたしがまだ幻想に恋をしていた頃に。幻想だったはずのものが、いま目の前にあって――あたしの中に渦巻く激情は、確かにあたしがまだ幼かった頃の
それを自覚してしまったから――もう耐えられない――! イッちゃう、イッちゃう……! こんなところで……あたし……あたし……!
ビクビクッ、ビクビクビク……ッ!
「あはぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
こ、こんなイキ方、AVの演技だと思ってた。けど――まさか、背中が反るほどに……! マイクにも乗ってないのにホール中に響くほど大きく――あたし、こんな声出るんだ……。
ぼんやり恍惚としているあたしの頬に――ルカ様は軽く唇を触れさせる。けど……ここは唇に欲しかったなぁ……なんて贅沢すぎるか。
***
ルカ様とのひとときから一週間が過ぎ――あたしは、今日もルカ様のライブを観ている。スマホで。
ルカ様とのまな板ショー――まるで夢のような時間ではあったけど……やっぱり恥ずかしかった。基本的にはまな板ショーも劇場サイトにコンテンツとして公開されるんだけど……顔は隠しているとはいえ、さ、さすがに……。ルカ様との思い出を残したい気持ちはありつつも、自分の胸の中だけにしまわせてもらうことにした。
けど、もし次に選ばれることがあったら――当選率を考えたらありえないけど――でも――
あれから、ルカ様の胸の温かさが消えた夜はない。そんな心寒さの中で光を求めるように――あたしは今日も、チケット申し込みボタンを押していた。