あえる ヤれる アイドル『TRK26』まな板ショー 作:添牙いろは
おそらく僕は、最初はメイドに興味などなかったのだろう。たまたま気に入ったゲームのキャラがメイドだったというだけで。その縁で、たまたまメイド喫茶に行ってみただけで。
はじめて立ち寄ったメイド喫茶――そこでミニライブを催されることも知らなかった。だからこそ突然始まったステージに驚いたし――それで、ハマってしまったのだと思う。メイドに――いや、
しかし、そんな折の――彼氏とのハメ撮り動画の流出――もちろんショックではあった。けれど、僕はそこまでロマンチストじゃない。メイド☆スターともなれば彼氏くらいいて当然、という諦観もあり、悲しみとの間で僕の気持ちは揺れ動いていた。が、結局僕の心はメイド☆スターを求めていたのだろう。色々と騒ぐ連中はいるけれど、僕はしとれさんに戻ってきてほしいと願っていた。
が、それは叶わず――何故なら、しとれさんは新たな舞台を見出したから。ストリップ・アイドル・ユニット『TRK26』――そこで、メイドアイドルとしての活動を始めたのである。いや、ただのアイドルではなくストリップ・アイドルとして――
しとれさんに処女性を期待するファンなどもういない。だからといって、これはこれで汚れすぎだろうという声もあった。――いや、それは声というより戸惑いと呼ぶべきものかもしれない。戸惑いながらも――結局誰もが――僕も含めて――しとれさんのファンクラブに入会していた。メイド☆スターのお姿を拝むために。
ファンクラブ会員特典としてチケット抽選に優先枠がある。が、メイド☆スターであるしとれさんの出演日の競争率は半端ではない。席を確保することさえ至難の業だ。
にも関わらず――僕ら、メイド☆スターのファンクラブ会員には共通の野望もある。もうひとつの会員特典――まな板ショー――TRKのストリップはただ女のコだけが踊りながら脱ぐだけではない。その後、観客をステージに上げて、そして――
会員になると、その抽選権を得ることができる。ただし、当選者は一回の公演につきただひとりだけ。狭き門を通過して会場に入ることができて、さらに、である。
それでもきっと――僕らが退会することはないのだろう。しとれさんと、ステージでのひとときを共にするまでは。
***
その日、僕は第一の難関を突破していた。席の確保――もっとも、位置の指定もないような小さな劇場だけど。メイド喫茶でしとれさんが出演する日は入店のための整理券が配られたりしていたし、それと似たようなものだと僕は解釈している。しとれさんの実力ならもっと大きな舞台にも立てそうなものだが、あえてこの劇場に仕えているのは――それもまた、メイドの心なのかもしれない。
メイド喫茶もマニアックな店ではあったが、ストリップ劇場はそれと比べても方向性というか、凄みが違う。真っ赤な壁紙から迫ってくるような威圧感はとんでもない。もう少しカジュアルにしても良い気はするのだが、ここはストリップ劇場――風俗店である。軽く見られるわけにはいかないのかもしれない。
そんな雰囲気に押されながら――先ずはブロマイドのコーナーにてしとれさんの新しい写真がないかを確認する。ついでに、しとれさんが組んでいる『
ともかく、僕は手短に売店の前から撤収して席に着く。この狭さであればどこに座っても見えない場所などないのだが、ここは一応――盆と呼ばれる中央舞台――アイドルたちは、サビに合わせてここに立つ。そして脱ぐ。ゆえに、最も競争率の高いエリアだ。こんなところまで来て、お高くとまっていても意味がない。僕らは誰もが、踊り娘さんたちの裸を
さて。
僕がTRKに辿り着いた頃、あくまでしとれさんにしか興味がなかった。いや――興味を持たないようにしていたのかもしれない。それは、ある種の矜持から。自分は、あくまでしとれさんを追ってきたのだと。ストリップショー自体に執着はないと。
だが――やはり、しとれさんが加入を決めるだけのことはあった。いわゆるアイドルモノのAVのような雑さはなく――もちろん、メンバーの数も多いため、一部の拙さは否めない。それでも一曲一曲が丁寧に演出されており――他のファンたちがやましい気持ちだけで応援しているのではないことはステージの完成度からも理解できる。
だからこそ、しとれさん――メイド☆スターはここを新たな舞台として選んだのだろう。ふたりのメンバーを引き連れ、メイドアイドルユニット『MMW』として。
【初めてはご主人さまのために】
作詞:このきのこ
生きてる世界が違う 見上げるだけの私
その手を差し出して 握ってくれた
同じ時間を過ごし 隣にいられる奇跡
場違いに導かれた 理由は気づいてた
優しさも 時には棘になる
今日は逃げないで ご主人さま
私はメイドだから ご主人さまだけの
いつでも どこでも すべて捧げる
今夜 この身散らして
きっと 世界広がる
このとき このため
はじめてのご奉仕
アーカイブ動画であればとっくにすべて観ている。そして、チケットに当選したのも初めてではない。だが、やはり――これが一般的なアイドルのステージだとしても、現地の臨場感やはり違う。それが――裸の女のコを前にするならなおさらのこと。
目の前で、メイド服を脱いでいく――それは、衣装替えなどの演出ではなく、その肌を余すところなく披露するために。シックな濃紺のメイド服の中の下着は――やはり白。地味なデザインであるからこそ、レースによる縁取りがよく映える。
かつては想像することしかできなかったものがそこにあった。その想像――期待するものを裏切らない現実が、そこに。
だが――スカートだろうが、パンツだろうが、本当に見たいのはその中身――その夢ともいえる願望さえも、この舞台では叶えてくれる。背に両手を回してブラを緩める姿は艶かしく、ストラップを垂れ揺らしつつカップを押さえる仕草を前にすれば、僕らは一瞬たりとも目を離すことさえ叶わない。
外の劇場ではここまでが限度だろう。だが、ここはストリップ劇場だからこそ――その先まで――!
やはり、カメラ越しで
けれども、これこそ確かな存在感――偽りようのない本当の姿――丸く、大きく――いや、大きさでいえば隣の桃ちゃんの方が圧倒的だが――こういう言い方もナンだが、しとれさんの胸からは上品な美しさが感じられる。メイド服という大理石から彫り起こされた女神像というべきか。そこに、石にはない温かみを宿した肌の色を湛えて――まるで、楽園を覗き見しているかのようだ。
しかし、ここはあくまで現し世――下腹部の一枚を下ろしたとき、それがありありと感じられる。彫刻であっても下の毛まで表現することはあまりなく、割れ目に至ってはまるでその存在さえも否定されているかのように。だからこそ、そこに在るのは現実――メイド☆スターがすべてを晒して――それでも、歌も踊りも揺らがない。メイドアイドルとしての努めを全うすべく――
この劇場でのステージによって、流出したプライベート動画は存在意義を失った。メイド☆スターは自らのアイドルパフォーマンスによって、自らの過去を払拭したのである。
すべてのアイドルが出番を終えて、カーテンコール――ここでは全員全裸がしきたりではあるが、しとれさんは――彼女もまた、全裸ではある。が、頭上に乗ったヘッドドレス――それがあるからこそ、僕には見えた。恭しく一礼する彼女のメイド服が。だからこそ、再認識させられる。あれは、メイド☆スターがメイド服を脱いで僕らにご奉仕してくれている姿なのだと。
幕が閉じ――これで、音楽のイベントは終わった。しかし、これはストリップ劇場のステージである。ここまで楽しませてもらっておきながら、僕たちはさらに祈る。信奉する女神からのさらなる奇跡を求めて。
だからこそ――僕に降り注ぐその光は、天から授かりし奇跡のように感じられた。
***
係の人に案内されて、やってきたのは幕の下りた薄暗いステージ。流れは知っているけど、ここに来るのは初めてだ。
これまで観てきた動画だと、男側は――服を着たまま出てきたり、すでに全裸だったりで、そこにルールはないらしい。
さて、僕は……全裸のまま花道を渡り切るのはプレッシャーなので……脱がずに。左右から閉ざされた緞帳を掻き分け、ホールの方へ。
すると――
――どよ……っ
ぬめるような空気は歓声とも違う。誰かが出てきたから一瞥はしてみたものの、やはり主役は女のコだから――露骨にそっぽを向かれたような感覚。まあ、当然だろう。僕だって、そっちに釘付けだ。
花道の先にいるしとれさん――両手はお腹のあたりで合わせて、綺麗な姿勢で――胸も、アソコも隠すことなく――だからこそ、逆に見せつけているような。
急ぎたい気持ちと、立ち止まりたい緊張の間でギクシャクしながら僕は盆で待つ彼女のところへ――!
『お待ちしておりました、ご主人さま』
間近にいながらスピーカーを通した大音量――ここがステージであり、観客たちが見上げているのを自覚させられる。そこに少しの戸惑いはあるけれど――目の前の誘惑には抗えそうにない。
両手をこちらに差し出すしとれさん。ハグをねだっているようでもあり、その身を差し出しているようでもある。そんな彼女の方へ、僕はただ足を前に出して――ただ近づいて――両腕の中に収まるように――すると――
――ぎゅっ
僕の背に女のコの腕が絡まり――それに釣られて僕もしとれさんの背に――
――温かい――滑らかな女のコの肌――それに何より――胸が――裸の胸が押し付けられて――!
彼女が僕を抱きしめてくれたのは、僕に彼女を抱きしめるよう促すためだったのだろう。その目的が達せられると、僕の背にあった両手は離れた。それは、次のステップへと導くために。
僕の腰を――お尻を流れ、彼女の両手はふたりの隙間へ――
「……っ!?」
触れられる覚悟はあった。けれど、初めてのことだったのでつい腰を引いてしまう。だが、しとれさんはそれを逃さず、しっかりと、
だが、しとれさんの愛撫は服の上からだけでは終わらない。ファスナーがズズ……ッと下ろされ――開かれたそこに指が侵入してきても、僕はただされるがままで――
「っ!」
女のコの指に触れられただけで、僕の膝はガクガクしてしまう。しとれさんを抱きしめる――というよりしがみつき、僕はただただ受け止めていると――
ビクン――ッ
熱くなったところが外気に触れて、その冷たさに縮こまりそうになる。けれど、温かな手の平に包まれたおかげで――細い指によって上下に撫でられては、縮こまるどころかさらに熱で
「さ、ご主人さまも……」
それはマイクを通さない小さな声で。耳元で囁くついでに耳たぶを軽くついばみ――それで僕は、もう我慢できずに――!
僕が欲しいところは――胸――それに、女のコの――
『……ぁあん……っ♡』
ぬるりとしたところに触れると、女のコが甘い喘ぎを上げる。さらに、胸は大きく、柔らかく――ピンと
『あぁん……はぁん……っ』
熱っぽい吐息をこぼしながらも、しとれさんの指はうねうねと僕の弱いところを攻めてくる。それは、込み上げてくるものを抑えきれなくなるほどに。僕のすべてが引き出されそうになったとき――
『もっと……ご奉仕させて、いただけますか?』
僕に回答の余地はない。ふわりとしとれさんが離れてしまったことで、支えを失った僕の腰がグラグラと揺れ――けれども倒れる前に――彼女は支えてくれた。大きく柔らかいお尻で。すっかりぬるぬるになった割れ目を僕の方へと差し出しながら。
白い背中と、白いお尻――無防備な姿を見せつけられた僕は、もう――
『あぁ……っ♡』
僕の中に遠慮や緊張はなかった。ただただ、自分の
『はぁ……もっと……もっとください、ご主人さま……♡』
こうしてモゴモゴと
僕の腰の動きは徐々に大きく、徐々に早く――そして強く――いつしか、しとれさんのお尻に叩きつけるように――!
『はっ、あぁっ! あぁんっ♡ はぁんっ♡』
あぁ……僕はいま、しとれさんとセックスしているんだ……何度も想像して、自分の手で至らしめて――けれどいまは、本物の――しとれさんの
『
限界の近い僕を、しとれさんが導いてくれる。最後は――
ビクリッ、ビュクッ、ビュク……ッ
『はぁんっ、ご……ご主人さまぁ……♡♡♡』
こうして僕は――ついに力尽きた。けれど、しとれさんは僕を抱きしめてくれている。ビクンビクンと腰が震える度、しとれさんの
***
あれから一ヶ月――もう劇場には行っていない。というか、何もする気が起きない。大学が休みで良かった。あれからずっと、僕はひとりで呆けている。
メイド☆スター――星は届かないからこそ良かったのかもしれない。その星をこの手で掴んでしまったからか――僕は見失っている。ここから先、どんな幸せを求めればよいのか。
公式動画であっても、あの柔らかさ、あの温もりまでは伝えてくれない。すっかり虚しくなって、大変申し訳ないが、ファンクラブさえも退会させてもらった。会費が生活を圧迫していたのは間違いないが――それを節約したところでその分生活が豊かになることはない。むしろ、心は貧しくなったようだ。
だからこそ、知らず知らずの原点回帰――いつしか僕はメイド喫茶に来ていた。そこではミニライブも行われている。
だが――やはり、心が動くことがない。そこでは三代目のメイド☆スターが唄っているが――初代を超えるどころか、並ぶことさえ叶わない。
それで気づく。やはり僕の心はメイド☆スター・しとれさんを求めているのだと。
その星はすでに一度掴んでしまった。もう一度掴めるような幸運はないだろうし――仮に掴めたとして、二度目の邂逅にあのときほど心が震えることはないだろう。
だとしても。
きっと、僕の心が求めているのだから――改めて、しとれさんのファンクラブに入ってみよう。