あえる ヤれる アイドル『TRK26』まな板ショー 作:添牙いろは
組織というのはその内側での力関係がモノを言い――当時の僕に力がなかったことが実に悔やまれる。
『劇場版・ど田舎インベーダー~放送できなかった舞台裏・全部見せますスペシャル』――これは明らかに、
『ど田舎インベーダー』とは、田舎町にド派手な格好をした芸人を送り込んで、奇異の目で見られながらもよくわかってない村人たちとの交流を描く、という番組だ。最終的に地元の人たちが感化されて同じような衣装を着てくれたら芸人――インベーダー側の勝利、のようなルールなのだが、天菊さんの回は特殊すぎた。
何故ならば――天菊まこさんは、ストリップ・アイドル・ユニット『TRK26』のメンバーなのである。ストリップ・アイドル――ただ可愛く唄って踊るだけでなく、裸になるパフォーマンスまでこなすのだ。
なので、番組側もそれを意識した――といっても、最初から裸にするつもりはなかったのだろう。ただ、露出が多いというだけで――羽根の生えたバニーガール風の猫耳ガール――水着のような格好で山中に現れた天菊さんは、他の出演者と同じように異質だった。
しかし、より異質だったのはここからで――撮影開始早々、まさかの転落事故勃発――山道を滑り落ちて――カメラに残されていたのは木の枝に引っかかった羽根とレオタード――そして、『これ以上はお見せできません!』というテロップと共に暗転――もちろん、放送当日に天菊さんのSNSは元気に更新されていたので、重症を負ったわけではない。その裏側を――劇場限定で上映することになったわけだ。
僕はその映画を観覧しながら、自分の目に狂いがなかったことを誇りに思い――そして、応募してきたデビュー前の天菊さんを落とした弊社採用担当の先見の無さを少し恨んだ。全裸でありながらカラっと奮闘する天菊さんは女のコとは思えないほどハツラツとしており――最終的には全裸に猫耳のご老人たちに囲まれて『大成功♡』のテロップが。喜んでいいのかわからない複雑な表情の天菊さんは――満面の笑みでもそれはそれでツッコミどころはあったが、その煮えきらなさの方が番組的には大成功なのでは、と立場的には思える。
映画は大ヒット――とはいかなかったが――そもそも年齢制限もあったし――けれども、天菊まこの名は一気に広まった。いまさらになってうちを含めた各芸能プロダクションも獲得に奔走しているようだが、天菊さんが所属している劇場側が徹底的にブロックしており――それに、天菊さん本人にも移籍の意思はないらしい。あのとき、うちで採用していれば、この人気はうちが担っていたことだろう。
天菊さんに限らず、TRKに対しては我々も常に目を光らせており、一応スカウト業務の一環としてファンクラブにも加入している。……さすがに二六人全員とはいかないが、センターの
しかしそれだけでなく、劇場のチケット抽選でも優先措置がある。あくまで現地調査のためという名目で僕は応募し続けていたが――ついに、当選することができたのだった。
***
会社として何度か本人と接触しようとしたこともあったが、何重ものブロックに阻まれて辿り着けた試しはない。一般人を装って天菊さんのブログにコメントしただけで、関係者と疑われてクレームの電話が来たのだから恐ろしい。
なので――今日は客として劇場に来ているというのに、いまも監視の目が光っているのではないか――そう考えると恐ろしいものがある。
会社の金で、ということもあり、ついスーツで来てしまったが――ここは新歌舞伎町のストリップ劇場だ。僕の姿はびっくりするほど浮いている。TPOをわきまえてない、とさえいってもよい。なので、グッズの類を念入りに観察する余裕もなく……ただただ、隅の方の席で小さくなっていた。傍からは係員がこっそり休憩しているように見えたかもしれない。
しかし、時間が来ればそんな僕を抱えたままホールは暗くなってゆき――そして、ライブは始まった。
TRKの魅力は天菊さんだけではない。何しろ、あの
さて、天菊さんがひとりで舞台に立つことはあまりなく、今日も
そんな中でも、天菊さんは真面目な性格からか、基本的に予告スケジュールに対して忠実に出演している。今日の衣装は映画で見せたようなキャットガール――さすがに羽根は外していたが。
【WE♡にゃんこ】
作詞:天菊まこ/丘薙糸織/このきのこ
ネコナデ すり寄って
ごはんもっと 足りにゃいやいやい
食べたらいなくなる
やるせにゃんこ ニャン
ひとりで 遊べばいい
いまは気が 乗らにゃいやいやい
いつでも 気分次第
何にも縛られない
それが にゃんこニャー
英語で Catニャー
壁紙 ツメ研いでたって
Avant-garde Art!?
ふすまから顔出しても
Cat・Y・E♡
すべて許しちゃう 何故ならネコサマ
にゃんこはカワイイ!
みんな大好き
猫缶オイシイ!
…ツナっ! 猫は入ってにゃい!!
やはり、天菊さんは……可愛い。とはいえ、決して無垢な可愛らしさではないだろう。何しろ、キャットガールの尻尾の根本はディルドである。道理で踊りにくそうなわけだ。TRKの舞台は最後の大サビを全裸でキメるパターンが多い。だが、天菊さんはレオタード一枚のみゆえにペース配分を間違えたのか、一番の終わりでは脱ぎ切ってしまい……尻尾もぬるんと抜けてしまった。一旦拾って
この空気を直に感じられたのはやはり大きい。現地調査――経費精算しただけの成果はあっただろう。
さて、もちろん他のアイドルたちの舞台もしっかりと観覧させてもらい――カーテンコール――本日の出演者が全裸で勢揃い――その中に、当然天菊さんもいる。深夜番組では剥かれるようにひとりだけ脱がされる天菊さんだが、ここではみんな同じ格好だ。そんな中にいる天菊さんを見て――仮にうちの事務所に来てもらったところで、ここまで磨き上げることはできただろうか――そう考えると、うちが天菊さんを落としたこと――そして、この劇場に行き着いたこと――すべては必然だったのかもしれない。
そんな感慨に浸りながら――まな板ショー抽選のためのドラムロールの響きを受ける。当たってくれたら嬉しいが――まあ、そんな都合のいいことはないだろう、などと諦観しつつ――僕はどこか他人事だったのかもしれない。絵空事というべきか。
だが、僕がスポットライトに当てられては――さすがに現実に引き戻されざるを得ない。
***
案内されたステージ――もちろん、幕は閉じており、案内の人も去って僕ひとりでここにいる。僕はここまで――どこか仕事を忘れられていなかったような気がする。あくまでスカウトとして――その業務の一環としてこの劇場にいたのかもしれない。
しかし――これから行うことは承知している。男女の一線を――アイドルに対して――これは、完全にタブーだ。少なくとも、弊社の所属アイドルに対しては。
だからこそ、自分の立場――自分の意識を改めて振り返る。いまさら引き返すつもりはない。名実共に――いまの僕は、ただの一ファンなのだ。
ゆえに――まな板ショーに臨むファンは、脱いでから現れるパターンと着衣で相対して女のコに脱がせてもらうパターンのふたつがあり――正直、全裸のまま出てくる客はすごい度胸だな、と同性ながら少し距離を置いた目でアーカイブ動画を観ていたところがある。
だが。
僕はあえてこの場で、スーツだけでなくシャツも、パンツも――仕事着という意味であればここまですることはない。だが、ここまでしなくては仕事を忘れることができそうにない――ある意味、自身に対する戒めともいえる。ここではあくまでひとりの男として――
だというのに――……
左右から閉じられた二枚の垂れ幕の間を堂々と抜けたところまでは良かったが――
――え?
ま、まな板ショーって、女のコは全裸で待ってるものじゃなかったっけ? 花道の終端、盆と呼ばれる回転舞台に立つ“まこちゃん”は――“天菊さん”だった。きっちりと衣装を着込み直して。カーテンコールまでは着てなかったのに……!
女のコが全裸なら客たちはその裸体に注目していたことだろう。だが、着衣のアイドルとなると――観衆が失笑しているのは、男の方ばかりがヤる気マンマンで――ということではないだろう。ヤることには違いないのだから。天菊さんの姿を見て動揺しているところが滑稽なのだ。
ならば――!
股間を隠すため無様に前屈みで背中を丸めるようなことはしない。胸を張って堂々と――これもこれであまりのわざとらしさに失笑されそうだが、どのみち笑われるのならこちらの方がまだ良い。ただ、天菊さんの方が少々動揺しているようだが。
「え、えーと……どうも?」
僕を前にして、天菊さんはやや緊張している。様々な動画で拝見してきたが、歌の舞台では意気揚々としているのに対して、まな板ショーはやや苦手としているようだ。
なので、僕の方からアプローチしていかなくてはなるまい。
「おっぱい見せて!」
「ひぇっ!?」
口調も社会人としてではなく、ヤりに来たファンとして。この勢いに天菊さんも少なからずたじろいでいた。反射的に両腕で胸元を押さえていたが――少しキョロキョロと視線を泳がせ、観念したように――
――つるん。
大人しい丸みから皮を剥くように天菊さんは――いや、女性性が顕になり、ようやく“まこちゃん”と出会えたような気がする。僕はまこちゃんとセックスするためにここに来ているのだ。だから――前戯だって遠慮することはない――!
「……やぁんっ!?」
僕はまこちゃんの左胸に掴みかかり、右乳首にはしゃぶりつき――
「や、あ、あぁっ、もぉ……っ」
まこちゃんは困った声を上げながらも僕を受け入れてくれている。だから、僕には立ち止まることなどできない。空いていた左手でまこちゃんの背中を――お尻を――そして――最もデリケートなところをも――
「ひゃんっ!?」
驚いて身を引こうとするが、僕の手はそれを逃さない。もちろん胸だけでなく、下の方も。最初は水着の上から撫でていた割れ目も、少しの冷たさを感じて――細い股布を端の方にズラし――
「あ、ぁ、ぁ、あ……っ♡」
冷たさが温かみに変わる。そして、滑らかさも。ちゅぷりと指が割り込むと、その内側を、前へ――後ろへ――
「あぁ……はぁん……あぁ……あはぁ……♡」
まこちゃんの腕が僕を抱く。頭にしがみつくように。両足が開いていくのは僕の手が触れやすいように、ではなく――腰をふらつかせながら耐えているからだろう。
ならば、前戯はこのあたりにして後ろを向かせて――立ったままつながった方が客席からの見栄えも――そんな仕事人としての考えがよぎったが――あえて――!
「あああああっ!? あはぁっ、あっ、あああっ♡♡♡」
股の下で指を立て、さらなる深みを激しく攻め立てる! その上で僕がゆっくりと腰を落としていくと――僕にしがみついているまこちゃんも一緒に床へと下りていく。
硬い床に押し倒してしまっていることは、仕事人としてではなく――男として申し訳ない。だが、いまだけはオスとしての本能を最優先で――! 開かれた足の間に己を突き立て――指で
「わっ、あっ、あぁぁぁ……っ♡」
まこちゃんの声が、どことなく甘さを帯びた気がする。これを待っていた、と言いたげに。だから、僕は――
「あっ、はぁっ、あぁんっ、あぁぁっ♡」
盆の床が回り始めた。完全に覆いかぶさっているので、外からまこちゃんの姿はほとんど見えない。そんな中、唯一見える互いの股の間――つながりあっているところを会場中に見せつけるために。
「はぁっ、あぁんっ、ふぁっ、あぁぁんっ」
ただつながりあっているだけでなく、激しく抜いたり押し込んだり――男を受け入れている女性の器――客席から見えるのはそこだけだが、僕は全身でまこちゃんを
「んっ、ふぁっ、ん、ん……っ」
細い腕に背を抱かれ、間近で見つめ合えば求めるのは互いの唇。
「んっ、んふっ、んふぅ、んんんっ♡」
そのキスはまさに本能的で、ただ柔らかさを欲し――さらには舌の滑らかさまで。
「んっ、ふぁっ、んっ、んっ!」
まこちゃんの口の中に余裕はない。だから、僕が蹂躙していく。胸に押し付ける女のコの胸も――何より、女のコのところも、すべて――すべて――!
「ふぁっ、んっ、ふぅんっ、んっ」
漏れる吐息を感じながら――僕はすべてを受け取っていた。天菊まこという女のコのすべてを。これまで映画で――劇場のアーカイブで――様々なまこちゃんと接してきた。もちろん、他の男とのまな板ショーも。
けれど、こればかりは初めてだ。実際に自分の身体で――男で抱いて、そして、最後まで――最後まで――!
ジュク……ッ!
「んんんんんんんん~~~~っ♡♡♡」
堰を切ったように――オスの迸りは止まらない。ドクン、ドクンと意識から切り離されたところで脈を打ち続け、まこちゃんの
「ん、ん、んふぅ……♡」
それをまこちゃんは――まだ僕の背を抱きしめたままで。
それで僕は――満足した……のかもしれない。まこちゃんのすべてに触れて、僕のすべてを送り届けることができたのだから。
そして――
***
一応、いまも会社の予算で天菊さんのファンクラブは継続されている。けれど――僕にはもう、天菊さんをスカウトするつもりはない。あのコはあの劇場でこそ活躍できる――ということはあるが――それ以上に、僕にはもう、彼女を“商品”として見ることはできそうにない。
僕にとって、“天菊さん”はもう――“まこちゃん”なのである。
うちがまこちゃんを落としてくれて本当に良かった。おかげで僕は――こうしてまこちゃんを応援できる。ひとりのファンとして、ストリップ・アイドルであるまこちゃんを。もし彼女がうちにいたら、昨晩のようなことはできなかっただろう。
次の予算会議で、まこちゃんをスカウト対象から外すと言われれば、僕はそれを受け入れるつもりだ。けれど、ファンクラブを解約するつもりはない。いずれにせよ、僕個人の名義なのだから。
だが――それでようやく、僕もまた、正真正銘まこちゃんのファンのひとりになれるのだろう。