あえる ヤれる アイドル『TRK26』まな板ショー 作:添牙いろは
人間とは、誰しも清廉潔白ではいられないものです。自分も……かつて、隠しごとがありました。
あれはまだ自分が中学生だった頃……一目惚れしてしまったのです。たまたまバレー部の体験入部に来た女のコに。
正直、自分は、そのー……一応、体力に自信はありました。が、何につけても不器用なもので……それでもスポーツに対する憧れは捨てきれず、応援団という形に収まったのです。
その日も、応援団としてバレー部との打ち合わせに赴いたのですが、春大会が近いということもあり……部長殿は何を思ったか自分に、見学に来ている新入生の相手をしてくれないかと頼まれたのです。
そこで出逢ったのが……
当時は襟元で刈り上げたショートカットで、何に対しても熱心に食らいつき――それでも、どこか陰があり――そんな物憂げなところを、自分は応援したくなったのかもしれません。
幸い、彼女はバレーの経験者ではなかったので、自分でも教えることができました。けれど、その三〇分で自分は――京子さんに、恋をしてしまったのです。
そのとき自分は――不誠実なことに、見栄を張ってしまいました。自分はバレー部のレギュラーである、と。きっと、バレーに興味があるのだと思って。しかし、京子さんは結局入部することなく――それでも、一度出してしまった虚言を撤回する機会もなく――せめて、彼女に告白するまではとバレー部にも口裏を合わせてもらい――最初から玉砕覚悟ではあったのです。何しろ、彼女とは学年も違い、ゆっくり話ができたのは体験入部の間だけ。下手な嘘など吐かなければ、もっと時間を取ることもできたと思われますが……。
そんな悲観的な予想とは裏腹に、まさかのOKをいただいてしまいまして。それ自体は非常に嬉しかったのですが、そのまま――自分の中に秘密を抱え込んだままつき合い続けることとなったのです。
後に、京子さんに告白を受け入れてくれた理由を尋ねてみましたところ――『悪い人ではなさそうだったので』――自分は、自分を偽っていたというのに――やはり、このままではいけない――そのとき、自分は決意したのです。
幸い、バレー部は大会が目前に迫っていました。ですので、そこで見てもらおうと考えたのです。選手としてではなく、選手を応援する応援団としての自分の姿を。
結果として最後となったデートの日――自分は京子さんに告げました。来週の試合は必ず観に来て欲しい、と。そしてその後、時間が欲しい、と――そこで改めて、彼女に信を問うつもりでした。こんな自分ですが、この先もつき合ってもらえるのか――
しかし当日――京子さんは会場に現れなかったのです。それに内心安堵しつつも――ですが、心配にもなりました。それでも、自分は応援団であります。自分の恋人より、目の前で戦うアスリートたちを応援しなくてはなりません。
試合は我が校の勝利となりましたがが――その頃に合わせて、連絡がありました。『試合、応援に行けなくてごめんなさい』――そして、『次に会うのは、しばらく考えさせて欲しい』――これは、明らかに失恋です。ですが、仕方のないことなのかもしれません。何しろ、つき合い始めるまでの期間も短すぎましたし――きっと、期待外れだった、ということなのでしょう。ただ、心残りだったのは――彼女に、本当の自分を告げられなかったこと。ですが、これからも応援団を続けていくのなら、いずれ気づかれる日も来るかもしれません。むしろ、そうあるため――自分は懸命に運動部を巡り歩き、各地で応援を続けておりました。
そして、そのまま京子さんからの連絡は二度と来ることもなく、自分は先に高校へ進学。そのときもまだ彼女のことは後を引いており――自分と同じ高校に追ってきてくれればまだ望みはある――そう考えていたのですが、そんな都合のいいこともなく――けれど、その頃知りました。藤山京子さんが、キーボード演奏の配信を始めたことを。
MI-YA-CO――その名を自分の後輩から教わり、自分も聴きに行きました。その指使いは一朝一夕で身につくような浅いものではなく――けれど、自分とつき合っていたときは、一度もそのような素振りを見せることはありませんでした。彼女との交際期間が短すぎたからかもしれません。ですが――彼女の知らざる一面を見られたことで、自分は少し心が軽くなったような気がしました。
正直、自分に音楽のことはよくわかりません。ブラス隊についても、勢いがあればあるほど良い、と考えているくらいでして。京子さんの奏でる旋律は極めて繊細で――それに、登録ユーザ数も一万を超えていましたため、きっと、非常にすぐれた演奏家だったのでしょう。
自分に音楽のことはよくわかりませんでしたが……それでも、動画が更新される度に聴きに行きました。画面に映っていたのは鍵盤と、それを叩く両手だけでしたが――何となく、彼女が変わらず元気にやっていることが感じられたのです。
こうして年月が経ち、自分の大学生活も後半に差し掛かったある日――それは、あまりにも唐突すぎました。藤山京子さんが――ストリップ劇場で演奏する――しかもバックで伴奏するだけでなく――ストリッパーとして裸にもなる……と……!?
京子さん個人の配信サイトの方で告知を見たときは、しばらく信じられませんでした。確認するのが怖くて、劇場のホームページもしばらく開けなかったほどです。しかし、京子さんは紛れもなくそこに在籍しており――ライブ動画も多数販売されていたため、迷わず購入させていただきました。そこに映っていたのは――大人になっても、見間違えることはありません。紛れもなく、京子さん本人でした。自身の配信サイトでは決して手首から上を映すことのなかった彼女が全身の撮影に応じ、そのステージで演奏していたのです。
これはもう、是が非でも一度はその音楽を聴いてみたい――いえ、決してやましい気持ちからではなく、ただ彼女の本当の姿を追い続けていた身として。
チケットは抽選制だったのですが、当選率を上げるために自分はファンクラブにも加入し――そんなメリットがなくても彼女を応援せずにはいられなかったとは思いますが――おかげで、鑑賞権を手にすることができたのです。
自分とは縁のないと思っていた新歌舞伎町――京子さんが出演するという劇場に、自分はやってきました。そのホール内部の構造は、購入した動画で何度も見ているので知っています。一般的な劇場と異なるのは、客席の中央に『盆』と呼ばれる回転舞台があること。そして、奥のメインステージとをつなぐ花道が渡されていること。動画の中で、京子さんはその回転舞台で演奏しながら回っておりました。何故コードが絡まらないのか、と最初は不思議に思ったものですが、どうやら電源は回転面上から供給されていたようです。
今日の公演は京子さんひとりのためのもの――ではなく、ここは彼女が所属する『TRK26』というグループが所属している劇場でした。なので、普段は他のメンバーたちのために伴奏を行うことも多いのですが……今日は、弾き語りという形でメインに立つことになっています。だからこそ――もしかすると、今日は京子さんのファンばかりなのかもしれません。
数々のメンバーたちが唄い、踊り、そして脱ぎ――けれど、自分が待ち望むのはただひとり――そんな彼女が、ついに現れました。ここまでは、先ずメインステージでダンスを披露したあと、歌詞の一番が終わって脱ぎ始める時点で花道や盆に移動してくるものですが、京子さんは活発に動き回ることはできないので――最初から、盆に据えられたキーボードの前へ。肩に生地のないノースリーブの衣装は、まさにピアノの演奏会のようです。
【そのままのキミのための五線譜】
作詞:藤山京子
これから奏でるこの曲はキミのためのもの
舞台で唄い踊るキミをボクの音色で飾りたいから
けれどボクもまたステージの一部なんだね
キミはいつも本物の笑顔で輝いている
だからボクの本当の顔も見て欲しい
溢れて止まらないボクの思い
初めて見たキミは驚いていたね
けれどずっとこのままでいたい
その胸にしっかりと抱きしめられたまま
キミが自分を見せるたび
ボクも自分を見せていく
そんなふたりを世界は
爪弾きにするかもしれない
けれどきっと誰にも変えられないから
キミのすべてをボクが包み込む
そのためにピアノを弾き続けるよ
このステージで
……残念ながら、自分に音楽の素養はありません。けれど、自意識過剰かもしれませんが……この歌は、かつての京子さんと自分を表しているように感じられます。お互い本当の顔で向き合えていれば……ずっと傍にいられたのでしょうか。
だから、この曲が好きか……と言われると、正直なところ、わかりません。自分にはあまりに重すぎるので。けれど、京子さんが主役の独奏曲であり――きっと、曲も彼女自身が作ったものなのでしょう。パートとパートの合間に片手で弾けるところがあり、そこでさっと服の留め具を外すと……ゆったりとしたワンピースはハラリと丸ごと滑り落ち――中から、真っ白な下着が現れました。その形状に少し違和感があったのは、肩紐がないからかもしれません。それはきっと、あくまで機能的な理由。ただし、身体の線を整える意味ではなく――ああして、前留めのホックを片手でも外しやすくするため――
カメラを通してではありますが、彼女の胸を初めて
しかし、まだ彼女のすべてではありません。サイドをリボンで結んだパンツも――器用に片手で――するり、するりと結び目を紐解くと――お尻――それに、股の割れ目を覆うふわりとした毛の塊――京子さんの――成長した京子さんのすべてがそこにあるのです。七年の時を経て、自分は――ようやく彼女と再会できたような気がしました。
そう、これはあくまで再会――お互い、未だ上辺だけのつき合いで――あれから深め合っていく過程にあったのでしょう。けれども、それは儚く断たれ――その理由は、いまならわかります。京子さんがもっと大きな舞台ではなく、このような
京子さんの動画は、もう何度も繰り返し観てきました。なので、その表情でわかります。タイミングとしては、最後に盛り上がる頃か、その少し前か――そう、ちょうどいま――演奏に込める感情とは別の――ずっと、彼女が抱えていた、彼女ならではの感情が――溢れ出す――!
ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ――
歌詞の合間に籠もる吐息がとても幸せそうで――演奏しながら――腿を濡らし、床を濡らし――透き通る一筋をまっすぐに打ちつけて――先程脱いだばかりの、彼女の衣装はもう足下にありません。ライブ映像として録画されていたデータではカメラに入らないようさり気なく配慮されておりましたが、実際に現地で臨んでみると――先程、舞台下からこっそりスタッフの方が回収されておりました。なので、何の憂いもなく――堪えることなく――すべてを解き放った彼女は――その笑顔を、自分は見たことがありませんでした。つき合っていた期間はそう長くもなかったとはいえ。けれども、自分は自分なりに彼女を見つめていました。だからこそ確信できるのです。これが――この演奏こそが、彼女が探し求めていた舞台なのだと。
このような
だとしても、途中で退席することはありません。それは、京子さんのチームメイトたちに失礼だから、というだけでなく――カーテンコールの向こう側に、ファンたちの待ちわびる追加の
誰ひとり腰を上げることのない暗い客席に響き渡る場内アナウンス――
『さて、本日のお相手は――』
ここから先は、劇場のもうひとつの姿――
『――この方です!』
ホールを駆け巡っていたスポットライトが止まったのは――ついに、自分は巡り会えるのです――七年ぶりに彼女と――舞台の上で。
『まな板ショー』――それは、ステージの上で踊り娘さんと触れ合う追加公演――男と女が、裸と裸で。ファンクラブに入っていたのは、その会員の中から選ばれるから――という不純な動機からではありません。とはいえ、男としてそれを期待せずにもいられません。いえ、彼女と致したい、という単純な理由だけでなく――ただ、もう一度会いたかったのです。かつて本気で好きになった
幕の下りたステージに案内されましたが、そこに演奏で使われたキーボードはありませんでした。ならば、楽器と共に彼女は向こう側にいる、ということになります。開けた、劇場ホールの中心に。
自分が望むことは、すでに決まっていました。我ながら特異なことだとは思います。しかし、彼女のファンの間では少なからず要望があり――だからこそ、心強くもありました。
他のアイドルとのときは、女のコに脱がせてもらうケースが多いようです。けれど、彼女は――
――~~~♪
そう、彼女の両手は鍵盤に釘付けであります。ゆえに、自分で自分の服に手をかけ――
すでに演奏は始まっています。男は度胸……! 自分は、閉ざされた左右の幕を掻き分けて――!
――最初は、緊張もあったのでしょう。チカラを失っていた我がムスコも――花道の先で迎えてくれる京子さん――回転舞台によって、自分の方を向いて――その演奏に導かれるままに、自分は……彼女の方へと――
ただし、近づくに連れて彼女はゆっくりと背を向けてゆきます。何故なら、そのままでは鍵盤楽器が自分たちの間を隔ててしまうので。ゆえに、京子さんとのまな板ショーは、その多くが後ろから――
もちろん、希望すれば、男がまな板となって女のコに致してもらうこともできるとのことです。が、彼女のファンで、それを望む人は見たことがありません。何故なら、MI-YA-COさん――藤山京子さんは、ピアニストなのですから。
彼女は、小気味よいリズムで鍵盤を叩いております。こちらにお尻を向けて、誘うように。あまりの無防備さに少しだけ躊躇しつつも、それでも、堪えきれず――おもむろに、後ろから、両手で、彼女のふたつの胸を――
「……はぁん♡」
京子さんが小さく喘ぐと、音響は拾ったその声をホール中に届けるように。その甘さが自分の本能を掻き立てます。理性や緊張を打ち消しながら。もっと、彼女の――京子さんの、女のコに触れてみたい――。左手は胸に――手の平で乳首の硬さを
思えば、あの頃――七年前に、このような関係を結んでいたら、自分たちはどうなっていたのでしょうか――七年前の彼女は、どのような
「あっ、はっ、あぁん……♪」
そこがしっとりと濡れているのは……先程致したからでしょう。けれど、それだけではない気がします。彼女の、女性としての滴りが、そこに――
ピアノのメロディが変わりました。艶っぽく奏でられていたメロディが、シャンシャンとリズムを刻むように。これは――ファンなら誰でも知っています。京子さんが――昂ぶっているのだと。
そのために、自分はこの姿で来たのです。京子さんの――本当の姿を見届けるために。自分はするりと彼女の身体を撫でながら、その場に腰を下ろし――それで、この回転舞台の意味に気づきました。電源プラグははるか自分の足元の方に――防水カバーも掛けられて――できる限り、水気から遠ざけるように――つまりこれらは、すべて京子さんのためなのでしょう。
ゆえに、何の心配もなく――自分は、軽く突き出されたお尻に唇を近づけ――それは、他の京子さんのファンと同じように――女のコの、潤ったもうひとつの唇に――
「……あ、あはぁ……っ♡」
しっとりと濡れたところに舌を這わせると、女のコの味がした気がしました。ひくり、ひくりと脈打っているのを感じます。もう、限界なのでしょう。それをあえて早めるべく、自分は女のコの最も敏感であろうところに舌を這わせると――
「はぁぁん……もう……無理ぃ……っ♡♡♡」
甲高くも可愛らしい叫びを上げて――それは、自分の目の前から――
びちゃあああああああ……っ!
女のコの秘所を掻き開き、そこから溢れ出す迸り――それが顔にかかることも厭わず、自分はしっかりとそれを目に焼き付けています。
「はぁ……あぁぁ……♡」
その顔を覗き見ることができないのは少し残念かもしれません。けれど、その声色から想像できます。京子さんはいま、きっと――至福の表情を浮かべてることでしょう。
けれども、これだけでは終わりません。自分と、京子さんとの催しは。この舞台を締めるのは男と女の生業のみ。だからこそ、自分は立ち上がりました。自分の男と、京子さんの女をつなぐため。自分は顔から肩から雫を滴らせております。けれども――彼女もまた、気にすることはないのでしょう。こうして、後ろから抱きしめても。そして――
「あっ、は……あぁぁぁんっ♡」
中学生の頃、唇を交わしたときから夢見ていたこと――その夢は辿り着くことなく破れ――忘れていたようで、けれど、どこか胸の奥底で燻っていたもの――それが、いま、ここに――
「あぁんっ、はぁんっ、やっ、あぁ……っ♡」
どうしてこのときを待てなかったのか――いや、これは本当に自分が望んでいたものなのか――様々な想いが脳裏を駆け巡り――けれど、そんな思考のすべてが霞んでいくような、快感――多幸感――ただ、いまは彼女のすべてが愛おしく、抱きしめ、求めることで精一杯で。
「あっ、はっ、あぁんっ、ああぁっ♡」
明るい和音と明るい嬌声――そのリズムが、自分をいよいよ高めていくようです。それは、京子さんをも高めていくように。
「
自分が京子さんに悦びをもたらしていることが嬉しく、さらに腰つきは強くなっていきます。そして、男の衝動を
「い、い、い……
ビクンッ!
ジャン、と鍵盤を叩く手が止まり、ピンと綺麗な背筋が弧を描き――そして、力強く搾られていく女のコの
ビュルッ、ビュルッ、ビクッ、ビク……ッ!
これまで堪えていたものを吐き
けれど、感じます。彼女と自分の間にチョロチョロと零れていくものが。なので、塞いでいるものを自分で引き抜くと――
ぷっしゃあああああああああ……
それは、これまでの中でもっとも強い勢いのようにも思えます。
すべてを
そして、自分の胸に手を添えて、唇を自分に向けて――
七年ぶりの再会――あの日の夕方、最後のデートを終えて――恋人として交わした最初にして最後の口づけ――それは、あのときと何ら変わることはなく、そして、それは――
「……ぁ」
京子さんの瞳がふいに昔に戻ったような気がしました。そして。
「もしかして……以前、どこかでお会いしたことが……?」
ずっと待ち望んでいた
「……いえ、今日、初めてお会いします」
そう――ストリッパー――いや、ピアニストとしての、彼女とは。
***
自分は――確かに、彼女に隠しごとをしていました。けれど、彼女もまた――隠していたわけではないのかもしれません。けれど、結果的に自分たちは、自身を偽り合ったままつき合っていたのでしょう。
ピアニストとしての彼女を知って、嫌いになったということは微塵もありません。けれど――彼女のために作られた舞台装置を見て、思ったのです。彼女は、自分の手の届かないところに行ってしまったのだ――と。
やはり、自分は生まれながらの応援団なのかもしれません。前線で戦う人たちを鼓舞するために、後方より応援し続ける存在――だから思うのです。自分はこれからも藤山京子さんを応援する身でありたい。ピアニストとして、そして、ストリッパーとしてその肌に美しい音楽をまとい続ける彼女を。