あえる ヤれる アイドル『TRK26』まな板ショー 作:添牙いろは
やはり、どんなに温厚そうでも、あの人もまた
「あらあら、知っとってくれたんねぇ」
購入した弁当を受け取りながら
「あたすなぁ、アイドルんなるんで街さ出てきたんべ」
「……それ、騙されてません?」
つい口にしてしまった本音を聞いても、彼女が動じることはない。
「いんやいや、いまはちゃぁんと唄って踊らせてもろてるしなぁ」
だからといって、それが本来の形なのかは疑わしい。何しろ、彼女が出入りしていたのは――ストリップ劇場なのだから。
それを見てしまったとき――僕の中にあった数少ない安らぎのひとつが失われてしまったらしい。
***
僕はこの街が嫌いだ。四六時中やかましいクセに、誰もが誰もに無関心で冷たく口を噤む。僕が持病の発作で倒れたとき、行き交う誰もが救急車を呼んでくれることはなかった。必死に自分のスマホで助けを呼んで、財布だけは死守すべく蹲り――こんな街、必ず出て行ってやる、と声にならない恨み言を口の中で紡いでいた。いまは大学があるのでここから離れることは難しい。けれど、仕事は絶対に地方で、と決めていた。
だからこそ、
なのに――こっそり厭らしい仕事をしていたなんて――! サラダやオカズを忍ばせてくれたのと同じように――今度は自身の裸の写真を――! こ、これは絶対にオカズにはしないけれど……! かといって、崎乃平さんから手渡された一枚を捨てるなんて失礼なこともできず――
何故そんなものを僕に……というと、これを受付で見せれば無料で劇場に入れるらしい。それで、僕は花子さんが勤める現場に行ってみることにした。もちろん、浮ついた気持ちではない。崎乃平さんが招待してくれた――僕に見せたいという姿から、僕は逃げたくなかったから。
***
ストリップ劇場・夜の部――いただいていた写真を受付で見せたところ、確かに料金を請求されることはなかった。ただし、座席の指定はないので三〇分くらい前に来ておいたのだが――こ、これは……壁に飾られているのは裸のポスター――ロビーの奥にはバーカウンター――隔離されていない喫煙スペース――まるで、この街の悪いところをすべて煮詰めたような醜悪さである。
せめてホールなら……と逃げ込むと、そこは意外と普通だった。ただし、客席の中央まで迫り出した異様な舞台を除いて。……ここはストリップ劇場である。奥の席からもよく見えるように、という工夫なのだろう。僕は、こんなところで裸を見せびらかすような女に興味はない。けれど、崎乃平さんは――彼女の伝えたいことだけは見逃してはならない、と覚悟していた。
ここでは一回の公演で何人もの女性が代わる代わる登場し、崎乃平さんの出番は最初らしい。正直、助かった、というのが本音だ。もし後半だったら、本番までに音を上げていたかもしれない。
例の飛び出た特別ステージの正面の席で、僕は隠れるように縮こまって時間が来るのを待っていた。しばらくすると続々と席は埋まってゆき――満員御礼――やはり、ここは新歌舞伎町である。そんな人間ばかりが集まるのだろう。
暗くなって音楽が流れ始める。しっとりとした崎乃平さんらしい曲調だ。現れた彼女の姿は――まるでアイドルというより演歌歌手のようである。音楽として趣味ではないが、僕が懸念していた方向性とは真逆であり、少しだけ安堵することができた。
しかし――
大人のふたりの夜の営み
作詞:このきのこ
朝まで飲むべな ぬくもり求めて
あなたが求める 気持ちそのままに
月夜の陰りが ふたりを隠して
暗がりに消えゆく 男と女
ねえ 今夜だけじゃ足りないべ
ずっと あたすのこの中
離れてもつながれる
形のある愛を
触れて 抱いて 入れて
中で 中へ
奥まで満たして孕ませて
あなたの手で 愛の実りを
崎乃平さんの歌だからこそしっかりと言葉一つひとつを噛みしめていたけれど……最初はともかく徐々に雲行きが怪しくなり……けれど……歌詞もさることながら……!
それは、見てはならないものであることはわかっている。だが……僕には目が離せない。崎乃平さんが和服の肩をするりと下ろしていく姿を。期待せずにはいられない。その中に秘められた素肌を。
日本の着物はその体型を控えめに魅せるものらしい。その外皮を剥がされたとき――中から現れたものに、僕の目は奪われた。柔らかく、豊かに実る二房の丸い果実――その先の彩りは彼女の懐の深さを感じさせる。
そしてさらに、するりするりと――お腹を通り――下腹部まで――崎乃平さんの女性のすべてが――僕の前に――!
それはまるで、ふたりきりの秘事――歌手である崎乃平さんが深夜の密会で見せてくれた特別な舞台のような――アイドル――崎乃平さんの言葉が思い出される。こんな歌い方のアイドルなんて認めて良いものか――けれど僕は、そんな崎乃平さんの姿に見惚れていた。
崎乃平さんがステージの奥へと掃けた後――僕はどうにかして普段の崎乃平さんを思い出そうとしている。惣菜屋で温かく微笑んでくれていた彼女を。しかし――どうしてもその姿が思い出せない。綺麗な胸――大きなお尻――そして、ふわりとした股の間――いま見た姿ばかりが脳裏に浮かぶ。こんなことではいけない――あの崎乃平さんを、そんな如何わしい目で
僕がひとり悶え続けている間に、気づけば今夜のステージはすべて終わっていた……らしい。申し訳ないが、二番手以降の踊り娘はまったく見ていなかった。あえて目を逸らしていたのかもしれない。他の裸を見てしまったら、崎乃平さんの姿が記憶から追い出されてしまうような気がして。
だから、すべての公演が終わってくれたことで――僕はようやく落ち着くことができた。だが、落ち着いたと思ったのに……拍手と共に開いていく
心を落ち着かせた矢先に、僕の心はまたしてもざわつく。こんなことでは……きっと我慢できなくなることだろう。間違っても、こんな邪な気持ちを抱えて自室に帰ることはできない。静かな公園で揺れる木々を眺めながら夜風でふしだらな気持ちを冷まさなくては――そんなことを考えながらホールが明るくなるのを待っていたものの――再び幕が閉じた後も会場は未だ暗いままで、スポットライトがあちらこちらに行ったり来たりしており――
そして――急に僕の周りだけが明るくなった。
***
僕が席を立ったのは帰るためではない。係の女性に案内されたからだ。関係者用の扉を通り、舞台裏へ。そこさえも通り過ぎ、薄暗いステージに僕は立っている。ここで幕が上がるのを待つのかと思ったら、両開きの隙間から外へ出ろと係は言う。僕には、何が何だかわからない。けれど、言われたままに重そうな
――どよっ――ねっとりとした男特有のざわめきに背筋が歪む。それに何より、目の前――通路の向こう側に用意されていた光景に、僕は思わず
僕は指示に従ってここに来ただけだ。なので、その先のことはわからない。戻っていいのか、悪いのか、それさえも。
永遠とも思えるような時間の先で――ふわり、と僕の手が柔らかな指に取られたとき――僕はつい顔を上げてしまった。そこにいたのは――ついさっきまで布団の上――通路の先にいた崎乃平さん……! 裸の崎乃平さんが……僕のすぐ前に……!
その手を振りほどくこともできず、僕はただただ目蓋を閉じる。すると、崎乃平さんは僕の手を握ったまま――おそらく、先端へと続く通路を歩いているのだろう。布団の敷いてある、その場所へ。
崎乃平さんに進路を委ねる僕のその耳に――穏やかな囁きが届く。
「そういや、名前聞いとらんかったな」
「中村……友哉……」
僕はつい正直に答えていた。こんな場所で、こんなことを仕事にしている人に。だけど、崎乃平の声は変わらず柔らかく。
「友哉君……あたすからお願いしたいことがあるんけど…」
「え、え……?」
お願い……こんなところで……? これにはむしろ嫌な予感しかしなかったが――いや、それは良いとか悪いとかを超越しており――
「あたすなぁ……赤子さほしいべ」
「え……っ!?」
こ、子供を……僕に……!?
「あたす、赤子さ欲しくてこのお仕事しとるけど…」
え、え……? こんな形で……子供を……そんなことは間違ってる……! そう、思うのだけれど――
「やっぱ、産むならあたすのことが好きな男の人に孕ませてほしいんよ」
――ドキリ、と僕の胸が高鳴った。崎乃平さんだって、やっぱり好きな相手と――けれど――なら、彼女がこうして僕を導くのは――
「友哉君……あたすのこと、好き……だべか……?」
そう問われると……否定はできない。崎乃平さんのことが好きではない、などとは、決して。けれど、ここで肯定することは……淫らな行為を望んでいると答えるのに等しい。答えに窮して、僕は――ずるい質問を逆に返した。
「さ、崎乃平さんは……僕のこと、好きですか?」
目は合わせられなかったけれど、崎乃平さんから笑うような吐息がこぼれたような気がする。
そして――
「……んっ!?」
何も見えない中、柔らかな唇が僕の唇に触れ――そしてそのまま、舌まで――!
「あむ、あ、あん……あむぅ……♡」
何も見えないからこそ、すべての感覚が研ぎ澄まされていくようだ。握られていた僕の手はスッと導かれ……柔らかな肌の中へと埋め込まれた。そこが女性の胸であることは目を開けなくてもわかる。手の平の中でコリコリとくすぐるのが、花子さんの乳首であることも。
そして、もう一方の手が……ざらり、と少し硬い毛々に触れると、指先はよりその先へ――あるのは熱く、ぬるりとした指触り。
「んふぅ……♡」
重ね合わせていた唇と唇の隙間から崎乃平さんの熱い吐息が漏れる。その温もりに誘われて僕は――
「はぁ、はぁ……はぁん……♡」
もう……止め……止められない……。右手の胸も、左手のアソコも……温かくて……柔らかくて……口の中も……激しくて……!
「あむ、あぁ……あむぅ……はぁん……むぅ……」
こんなことはイケないと、頭ではわかっているのに……両手は女の人を辱め続け……なのに、舌に絡められた舌の感触が頭の中まで掻き回されて、ことごとく思考を奪っていく。
そして――ぐらり、とふたりの重心が傾いた。倒れていく崎乃平さんを追うように、僕は覆いかぶさってゆく。おそらく、布団に押し付けるように。
ふたりでもつれるように絡み合い、それでも僕は――手を離したままにはできない。ふたりの顔は離れてしまったので――それで思わず――僕の唇は崎乃平さんの右胸に吸い寄せられていた。
「はぁ……っ、あぁ、あぅん……♪」
大の男に乳首を吸われながら、崎乃平さんは抵抗ひとつしない。それで僕も、いよいよ飲み込まれていく。乳首を摘み、口の中で転がして。左手の方は――女の人の恥ずかしいところ掻き分けるように辱めて。
「あぁん、はぁ……ええ……ええよぉ……♡」
崎乃平さんは僕を受け入れながら――その手で僕のズボンを開く。ファスナーを下ろし、そして……パンツまでも。僕は崎乃平さんにナニをされようとしているのかわかっていた。なのに、何もできなかった。崎乃平さんが僕の――僕のソコを――
崎乃平さんの右手――僕を軽く握るその指が、硬さに沿って上下に揺れる。少し、彼女自身の方へと引きながら。僕の左手の方――いまは僕の指が触れているところに向けて。だから僕はその手を離した。崎乃平さんの手と、それが握るものを導くために。
ちゅるり――僕の先が崎乃平さんの滑らかさに触れると――もう、我慢できなかった。それはまさに本能的に。僕が崎乃平さんを抱きしめると、そこからは自然に求めていた。崎乃平さんの奥へとつながる入り口を。
「は、あ、あぁ……♡」
こんなにしっかりと背を抱かれては、僕にはもう離れられない。だから僕もまた、脇から崎乃平さんを抱き締める。そんな中、自由に動く場所といえば――だからこそ、引き抜くこともできたのだろう。けれど、僕の一部を包み込む温かさの前には抗うことなどできず――!
「あ、あ、あ……あはぁん……っ♡」
僕は無心に腰を振っていた。崎乃平さんの胸を、自分の胸に感じながら。
「はっ、あぁっ、ええっ、ええっ♪」
崎乃平さんは悦んでいるが、僕の方がもっと……もっと……悦びを伝えたいほどだ。けれど、こんなの……こんなの……耐えられそうにない……! だって、僕を捕らえているのは……あの崎乃平さんなのだから……!
それを、彼女もまた察してくれたらしい。
「責任とか考えんでええから……あたすが、友哉君の赤子さ産みたいだけだべから――」
女の人の誘惑が、僕の理性を溶かしていく。
「あたすの
言い終わると、僕の首筋がグイと引き寄せられた。崎乃平さんの顔の上――唇と唇を合わせるように。
「あむっ、あむぅっ、はむぅんっ、ああぁんむぁ……っ♡」
唇を塞がれただけでなく、舌までも……! これではもう、何も言えない。何も言えないまま――けれど、腰を止めることもできず――!
「あむっ、はむっ、あむっ、はむぅん……っ!」
僕の
びゅる……ッ!
「ん、んっ、あんっ、あぅん……っ♡」
唇と唇をつないだまま、花子さんが喘ぐ。僕を――
「はぁん……あぁん……、……あぁ……♡」
ドクン、ドクン、ドクン――僕の脈動は未だ止まることはない。けれど、花子さんの両腕から力が抜けていく。もう十分得るものは得た、ということなのだろう。
それで僕は――目を開けた。胸の下に花子さんを敷いたまま。
「……ふふ♪」
花子さんはやはり可愛らしい。眼鏡を掛けたまま、彼女は微笑む。その顔は、いつも弁当を買いに行ったときに見せてくれるのと同じもの。けれど、首から下、肩から下には何もなく――大きな胸はゆったりと脇の方へと流されそうで――そこから目を逸らしたのは恥ずかしかったからではない。ふたりで顔を近づけると、寄り目になってしまいそうだから。
「……ん♪」
唇と唇が触れたとき――僕と花子さんのつながりがきゅっと少しだけ強まった。それで実感する。僕が抱き締める花子さんへの想いのつながりを。
***
あとで調べてみると、花子さんとこのような関係を結ぶためにはファンクラブ会員にならなくてはならなかったようだ。決して軽い会費ではない。それを……無料で……!?
すぐにでも正規料金を支払おうとしたのだが。
「ええってええって、あたすが友哉君と子作りしたかったんよ」
ちょっと遅い時間のお昼ご飯――混雑している店内で話せるような内容ではないだろうから。他に客がいなかったこともあり、花子さんの言葉は直接的で、だからこそ話も早い。
「あたすとしては、お金より……子種をもらえた方が嬉しいんけど……?」
照れながら目を伏せる表情に淫靡なものを感じるのは――僕の心もすっかり汚れてしまったのだろう。でも、それは花子さんに対してだけでありたい。花子さんが望むなら、僕はきちんと責任を取って――
「やっぱり、同じ子種でもファンのコの方が嬉しいべからなぁ」
花子さんの笑顔はやはり優しい。けれど――如何ともしがたい隔たりも感じる。僕が取ろうとしている責任は意味がない。花子さんが言っていたとおり――彼女は、アイドルなのだから。
子作りアイドル――それは僕の想像を絶する。だけど――
「あんまりブロマイドを配るわけにはいかんで……半年後か……三ヶ月後か……そしたら、またなぁ……♡」
花子さんの微笑みは、やはりサラダやオカズをオマケしてくれるかのようで。けれど――僕はそんなに待っていられない。これはまさに、他のファンとの競争なのである。卵子に群がる精子のような。
僕は、花子さんに責任を取りたい。もし、彼女が僕の子供を宿すようなら――そのときは、改めて想いを告げることはできるのだろうか。