喜多ちゃんに露出プレイを求められたぼっちちゃんの話 作:転寝ころね
前回までのあらすじ。
後藤ひとりの生活は喜多郁代が提案した度胸作りという名目の中、エッチする機会が増えていた。
次第にエスカレートしていく行為内容や場所選び。それは遂に学校内にも及び、ローターを仕込んだまま図書室での露出プレイを行う。
だが、緊張と快楽がせめぎ合い声が抑えられないと感じたひとりの懇願により絶頂の寸前で中断された……喜多の条件を飲むという形で。
――――――――――
ひとりは荒い息をなんとか抑え込もうとして噛んだままの自身の腕へと、震える声を染み込ませるように漏らしていく。体を丸めて全身へと広がった快楽を抑え込んでいるその眼下では、今まさにひとりが産み落としたばかりである二つの玩具をハンカチで拾い上げている喜多の姿があった。
(苦しい、けど……)
なんとか耐えきった。その事実による安堵感が上回った事で、普段ならば恥じらうであろう自身の体液で濡れた物をしまわれていく光景を見てもひとりは口を出す余裕がなかった。
「はー……っ、はー……っ」
ひとりは倦怠感を覚えていた。絶頂寸前の緊張状態を保ったままで暴れ狂うローターの振動を締め上げていた膣襞からは絶えず反響したような疼きが込み上げ、立っているのがやっとの様相。柱へ背中を預けていなければ既に棒と化した足から崩れ落ちていてもおかしくはない重さが、快感と共に全身を支配していた。
今動いたら床の一部になれる自信すらある、とひとりの脳内でずれた思考が浮かんでくる始末だ。
「後藤さん、見てみて♪」
反対に、元気なままでどこか楽しげな感情を滲ませた喜多からの呼びかけへひとりは視線だけで応じる。眼前へと突き出されたスマホの画面と再び対峙したひとりの目に映るのは、つい先程のシャッター音によって切り取られたひとり自身のあられもない姿だった。
(私、こんな事になってたんだ……)
脳内麻薬のせいか、疲労のせいか。ひとりは自分が今見ている姿に対してあまり実感が湧いてこない。濡れた画面の中の後藤ひとりは赤く染まった顔の半分を腕で隠し、今にも泣きそうな表情で何処か虚空を見つめていた。喜多に前を開けられたピンク色のジャージは完全にはだけて胸が露わになり、見えない椅子に座っているのかと思うほど腰が降りてきていた。角度の上がった太腿によってプリーツスカートがもちあがり、辛うじて隠れた下半身から床へ向かって伸びる白い愛液の糸と、足の間に転がったピンク色の玉が二つ。
(私……変態だ)
後藤ひとりの痴態が映るその画像の中で、体の左右に並んだ本の背表紙が図書室の一角であることを裏付けていた。そんな場所で――ふと、自身の体を見下ろしてみれば、画像と全く同じ姿で大きな胸が丸出しになっていた。
「っ」
ひとりは、その先端で膨らんだ乳輪の上に立った乳首まではっきりと認識し、自覚して初めて気怠い快感が渦巻く中に痛いほど張り詰めた乳首の芯の疼きまで混ざり込んでいたのだと、明確な性感の一つとして感じてしまう。
「ね、可愛いでしょ?」
呆然と自分の体を見下ろしていると、喜多の声が聞こえてくる。
(かわ、いい……?)
喜多の口調にひとりを責めるような棘は無い。むしろ、おすすめの動物系癒やし動画でも紹介してくるような気軽さではしたない露出姿を可愛いと言っていた。どう見ても変態でしか無いと思うひとりは本当に同じものが見えているのか不安になってくる。
そんな画面を、喜多が二本の指で引き伸ばしていく。
「この時ね、ひとりちゃんのお腹がヒクヒクってしてて、とってもエッチだったの。動画にしようか悩んだけれど、良い絵だったから写真にしちゃった♪」
残念ながら、ひとりは自分と喜多の見ている物は同じだったようだ。思い返してみれば確かに、いつも写真に収められていく行為の数々を喜多が口にする際、可愛い可愛いと何度も評されてきていたことを思い出す。エッチで、いやらしくて、可愛いと。
ひとり自身が度々思い描いていた感想のような悪口や罵倒は行為中のアクセントとしては用いられても、最後には喜多自身の口で、言葉で必ず褒めてくれていたのだ。
だが、ひとりからすれば恥ずかしさの方向性が変わるだけだ。だからこそ、ひとりも言葉で返すべく大分呼吸が落ち着いた所で口元から腕を降ろし、目元に浮かんでいた涙を袖口で拭いながら言い返す。
「か、可愛くないです、それ……」
「そう? ひとりちゃんに玩具は早かったかもしれないけれど、必死に堪えて、頑張った結果だもの。とっても可愛いわ♪」
また今度試しましょうね、と付け加えた喜多の楽しげな言葉に次回の誘いを勝手に想像してしまう。そして――可能ならば、次があるならば、声を出しても気にしなくて済む場所が良い――肯定的に考えてしまっている自分がいることに、ひとりは気付けなかった。
「大丈夫? 立てる?」
「ぁ、ありがと……喜多ちゃん」
スマホを操作していた喜多の手がひとりの前へ差し出される。柱から背中を浮かせて自立しようとしてもうまく力の入らないひとりはその手を掴み、軽くよろめきながらも自身の足の上へ体を乗せることが出来た。動いた際にスカートの中へ流れ込んだ風が冷たい。
「今日はもう、終わりだよね……?」
未だに頬の熱が冷めないひとりは喜多へと問いかける。行為が始まってからたった数分か、数時間か……緊張と興奮と快感を受け続けていた体は中断によって不完全燃焼のままの快楽を溜め込み、今やずぶ濡れの衣服を纏っているように重たく感じていた。加えて、自分が発していた声や物音がどこまで漏れていたのか冷静になる余裕が生まれていくほど心配へと置き換わり、思考の枠を奪っていく。
「何言ってるの? さっきお願いを聞いてくれるって約束したじゃない♪」
ひとりを安心させるように抱きしめてくれた喜多が耳元で返してきた返事は、想像とは全く別のものだった。
「ぇ……?」
聞き間違いかと思い、ひとりは反射的に聞き返す。静かな図書室の一角でこれだけ騒いでいれば、たとえひそひそ話で内容がわからずとも雑音の一部として誰かしらの耳には入っているはずだ。今から再開して長引きでもすれば何時誰かが除きに来てもおかしくはないだろうに、続けようとする喜多の意図がわからなかった。
「大丈夫よ、ひとりちゃん」
「で、でも、きっと皆に……」
「聞こえても見ないのが暗黙のルール、なんですって♪」
都合の良すぎる異世界じみたルールにひとりは喜多の純粋さを利用された嘘なのではないかと別の心配まで膨れ上がっていくのを感じた。むしろ、ここまでくれば一種のドッキリだと言われた方が信憑性が増してくるレベルだ。
(ほ、ホントに騙されてない……!?)
「さ、これを着けて?」
喜多はひとりの心配を知らず、カバンから一枚の布を取り出していた。光沢があり、布というよりは革だろうか。大きめの平たい生地を横切るようにベルトが通ったストラップと呼ぶにも短い代物。その片側には南京錠までぶら下がっていた。
「えっと……目隠し?」
ひとりが思い浮かべた道具の名前をあげると、喜多は頷いた。テレビなどでよく見るキャラクターの目が描かれたコミカルな物ではなく、如何にも拘束具です! と物語っているそれを持っている理由にひとりは指摘しようとして、やめた。
「人って、五感のどれかを使えなくなると他が敏感になるっていうじゃない?」
「聞いたことは、ある……」
そこでひとりは理解した。喜多が当初予定していた通りなら露出、目隠し、ローターによる不規則なタイミングでの不意打ちを合わせた羞恥プレイが本命だったのだと。きっと、約束をしてもしなくても使われる未来はあったのだろうが、拒む選択肢は既に通過点を過ぎた所だった。
「それに、心配性なひとりちゃんがね、もし誰が来ても気付けない状態だったら、どうなっちゃうのかな……って」
(言われると、逆に……)
ひとりは想像してしまう。もし実際に行われたらどうなるか……不安の中、手が届かない場所で何時襲ってくるかわからないローターに翻弄される自分。声も出せず存在しない視線に怯える自分。喜多の声に縋り付く自分。
(絶対、おかしくなる……)
喜多の口ぶりが、鮮明にシチュエーションをひとりの中へと書き込んでいく。想像の主導権は既に喜多の話術の中にあった。
「玩具はもう使わないから、ね?」
「本当、に?」
「うん、床に落ちて汚れちゃってるのをひとりちゃんに使う訳にはいかないじゃない」
ひとりは喜多の言葉に希望を見出す。が、それがこれから行われようとしているプレイへの譲歩でないことにひとりは気付けない。ひとりの声が抑えられない以上、ローターの使用はどうしても難しくなる上、本命の目隠しは残ったまま。プレイの継続を目的とした喜多からすれば困る要素は一つもない。
だが、ひとりは自身の中で膨らんだ想像よりも優しくなったと思い、精神的なハードルが著しく下がっていた。
「わ、わかった……」
だからこそ、目隠しだけならば……と、露出行為や経過時間に抱いていた危機感を考慮せずに目先の条件だけを見てひとりは頷いた。
「ありがとう、ひとりちゃん♪」
嬉しそうに笑う喜多の手がひとりの瞼の上へ目隠しを乗せていく。ひやりとした革の吸い付くような感触が反射的に体を震わせる。髪を撫でながら後頭部へと伸びていく手と、頭が締め付けられる軽い圧迫感。そして、カチリ、と南京錠の閉まる音が締め括る。
(ぁ、ほんとに見えない……)
普段アイマスクも使用しないひとりにとって、目を閉じる以上の完全な暗闇というのは久しぶりな体験だった。準備を終えて手の感触が消えた瞬間、目の前にいる喜多の存在が消えた気がしてしまう。先程までの明るい笑顔が無くなるだけで落ち着かなくなっていく自分に驚く。
「離れ、ないでね?」
ひとりは繋がりを求めて喜多へと声をかけながらおずおずと両手を前へと伸ばしていった。そこにいたという最後の記憶だけを手がかりに周囲を探るが、先程まで目の前に居たはずの彼女の姿を捉えられない。
ひとりは鼻を鳴らした。嗅覚にも頼ってみるが、喜多の纏っていた香りはすぐに埃っぽいインクの匂いによって塗り潰された状態で鼻腔へと流れ込んでくる。
ひとりは耳を澄ませようとするが、段々と早鐘を打っていく心臓が邪魔で衣擦れの音どころか足音すら聞こえては来ない。
(ど、どこ……?)
ひとりは探す範囲を広げようと足を進めようとしたが、動かせなかった。
一体どこまで探せば良い? こんな姿で人前まで迷い出たらどうなるか。
壁や本棚にぶつかったら音を立てたら? きっと誰かが見に来るだろう。
悪い方ばかりに思考が進み、たった一歩がとてつもなく重たい。唐突に背筋へ走る寒気がひとりの肌を粟立たせ、痛いほどに屹立した乳首が場違いな快感を覗かせる。伸ばしていた腕を引き戻して、自身の胸を隠す。きっと見ているであろう喜多に感じていると知られるのが、たまらなく恥ずかしい。
「もうっ、可愛い……♪」
喜多の声。
声がした方へとひとりは振り返った。距離はわからない。だが、片腕で胸元を隠しながら近い方の腕――右手を伸ばすと、握り返される感触と温もりが、そこにはあった。
「喜多、ちゃん?」
「なぁに、ひとりちゃん」
ひとりが名前を呼んで確かめれば、少しとぼけた口調で呼び返される。たったこれだけのやり取りで、ひとりは安心感を覚えてしまう。自然と浅くなっていた呼吸によって肺から吐き出すことの出来なかった空気が、安堵と共に溢れ出す。
(良かった、ちゃんといる……)
「それじゃあ、ここからが本番ね?」
「ぇ……っ?」
ひとりが安堵したのも束の間。喜多の手が肩へと触れる。向き合う……のではなく、くるくると二転、三転、それ以上だろうか。視覚からの情報を失った三半規管がバランスを取ろうと出鱈目に舵を取り、ひとりの足が下手なタップダンスを踊る。
「ん……」
(体が、押されて……)
続いて両肩へと手を置き直された感触の後に、前進。壁か通路か本棚か、ひとりには向いている方向もわからないまま押されるままに足を踏み出すも無意識に歩幅は小さくなる。擦れ合う内股が濡れている事を再認識させられるが、喜多であればそんなはしたない自分を白日の下に晒すような事はしないと信じるべく心の中で名前を呼んだ。
(喜多ちゃん、喜多ちゃん、喜多ちゃん……)
「今、本棚の方を向いてもらったの」
奇しくもひとりが唱えた名前の数だけ歩いた先で声が返ってきた。少なからず、今向いているのが本棚の前であるという言葉が数少ない情報源だった。
「両手を前に出して、棚の上に手をついて?」
「う、うん」
ひとりは言われるがままに手を伸ばす。本棚が相手とは言え胸を見せていく事に抵抗感がないと言えば嘘になるが、喜多の言葉には従わなければ頼れるものが一切無い。ひとりは覚悟を決め、肘を真っ直ぐにしてからゆっくりと降ろしていく。程なくして、硬い板の感触が手のひらへと触れた。
「そこから離しちゃ駄目よ、もちろん口を押さえたり、おっぱいを隠したりするのも」
「そんな……っ」
ひとりが考えないようにしていた事を、喜多があえて言葉にしてくる。恥ずかしいのに、隠すことを禁止するということは言外に見るためだと言っているのだ。ひとりの興奮を代弁する、二つの突起を。
「ぁ……ぇ、っ、なん、で……!?」
肩へと手の重みを感じたまま、次に体が得た情報はひとりの想像を裏切るものだった。
本棚に面しているはずなのに、前から乳房を持ち上げられている感触。棚はたしかに背面が無く本が壁になっていなければ筒抜けなのだが、借りられている気配のない本で埋まっていたはずだとひとりの記憶が訴えかけてくる。
「ん……っ」
(喜多ちゃん……っ)
ひとりは背後にいるであろう確かな手の感触へ縋るように喜多の名前を呼びながら口を噤む。少なからず、顔は上段の棚が隠していると信じて自分がひとりである事を明かさないように耐える。
ひとりが胸へと触れられているのに、喜多は言葉を発しない。だが何か問題があれば自分の体を引いてくれるか、手の持ち主を注意してくれるだろうと、ひとりは信じて本棚から手は放さない。
拒まないと判断したのだろう。ひとりの乳房を自由にする機会を得た二本の腕は乳房の外側を撫でながら手のひらの向きを変えていく。弾力を確かめるように軽く指を食い込ませてくる手付きに乱暴さは一切無く、親指で乳首を押し倒される。
「ん、ふ……っ」
(なに、これ……っ)
乳輪の上で転がされる乳首から伝わってくる快感に、ひとりは暗い目隠しの奥で目を白黒させた。自分で弄った時よりも気持ちいいと、はっきりわかるだけの違いがあった。
(なんで、こんなに……)
ひとりには思い当たる節があった。一つは先程の喜多が言っていた視覚を封じられたせい。もう一つは……一度、絶頂の手前で中断してしまったこと。
(でも、だからってこんなに……?)
信じられないほど鋭敏になっていた体は、優しい愛撫だけでも声が漏れそうになる。
(なんとか、気を逸らさなきゃ)
快感を意識しすぎて飲み込まれそうだと考えたひとりは、必死に思考から快楽を追い出そとした。
(今、触ってきてる人……女の人、かな……指、細いし……なんだろう、触り慣れてる感じがする)
ひとりは触られているという事実だけに意識を注力する。乳房から感じ取れる手の持ち主は、女性のように感じられた。男性との経験は無かったが、痛くなるような触り方をしてこずに反応を伺いつつ刺激を与える、慣らすような動きが喜多と似ていた。誰のかもわからない手のはずなのに、肩に手が乗っているのに彼女の姿を重ねてしまう。
「んふ……っ、ぁ、は……っ!」
喜多だと考えただけで、注がれる快感を堪えられなくなる。親指の間で乳首を挟まれ、声が漏れる。
腰が落ち着かない。じっとしていても内側からの疼きが込み上げてくる。
(だめ、感じちゃ、だめ……っ)
「ゃ、あ……っ」
乳房の上で、手のひらが離れた代わりに五本の指が集まってくる。その中心がわかった瞬間、ひとりは小さく頭を振った。
(今、引っ張ったり抓られたら……)
耐えられない。強い絶頂はしなくとも軽く達するかもしれない。ひとりが想像していた以上に体が絶頂を欲してるのを感じ、指が本棚から浮かび上がりそうになる。
そんなひとりの葛藤を知ってか知らずか、指は乳輪を掠めた所でふっと刺激が消えた。手が完全に離れていく。飽きてくれたのならそれで構わないと喜ぶ反面、いたずらに炙られた快感が乳首に残ってジンジンと響く感覚が止まらない。
(た、助かった……)
きっと喜多にとっても乱入者は想定外だったのだろう、とひとりは今の出来事にピリオドを付けた。声を出して正体がバレるのを恐れ、私が耐えるのを願っていたに違いない。きっと喜多も怖かったのだろうから、今度からこういう事はやめようと、今なら言える気がする。
だが、振り返ろうとした矢先――
「ひとりちゃん、口、閉じて?」
「ん……」
ようやく聞こえた喜多の声に対し、思わず言われるがままに口を閉じた。そしてその声が前から聞こえてきたことを不思議に思っていた瞬間、乳首から駆け上ってきた電撃によって真っ暗だったひとりの視界が真っ白に染まった。
「~~~~~~っっ!!」
ひとりがきつく閉じた筈の喉から甲高い音が溢れ出してくる。乳房が爆発したような感覚が止まらない。体が勝手に仰け反っていく。気持ちいい。そう、イッてるんだ……とひとりが理解するには、十数秒近い時間が必要だった。
足が、言うことを聞かない。本棚についた手だけでは体を支えきれずに段々と沈んでいく。乳房が棚の上で潰れていった所で、ひとりの落下は止まった。
「今度はちゃんと、声出さなかったね、ひとりちゃん♪」
やはり前から聞こえてくる声。だが肩にはたしかに重みがある。二つの矛盾する情報を、絶頂の余韻で蕩けた脳は考える素振りしかしてくれない。
正面から頬を挟まれ、唇へと何かが触れた。指や物とは違う、同じ位の柔らかさをした仄かに甘い香りのする、感じ慣れた感触がひとりへ教えてくれた。
(あぁ、喜多ちゃんだったんだ……)
頬へ触れた指先も、確かに喜多のものだ。ギターの練習で固くなった、努力の証。
「ドキドキした?」
いたずらに成功した子供のような声音で喜多は問いかけてくる。目隠しをしていても、笑顔なのがわかる。これも全部、この時のために用意していたのだとすれば、思惑通りに事を運べた達成感は大きいのだろう。仕掛けられたひとりとしては、生きた心地がしなかったのも確かだが。
「頭、真っ白になっちゃってた……」
後頭部の鍵を外してくれている感触を受けながら、正直に答えたひとりはそこでようやく本棚へ手を張り付けたままだったことを思い出した。喜多にはまだいいと言われていなかったが、その手を前へと伸ばしてサラサラした髪へと触れ、自分の方へと引き寄せていく。
「ごめんなさいね、つい☆ ……んっ」
目隠しのせいで見えていないのだから、唇がもう一度触れるくらいは事故だろうと、ひとりは自分に言い聞かせた。