サービス及び運営総括より、全てのプレイヤーの皆様、全てのユーザーの皆様、全ての関係者の皆様へお知らせします。
〖エヴォリューションソウル・オンライン・ワールドエディション〗の運営総括を担当しております、《株式会社日本電脳遊戯興業研究所》です。
つきましては、本作〖EVSON-THWOE〗をご愛顧頂きまして誠にありがとうございます。
2065年8月31日にEVSON-THWOEのサービスを開始して以来、多くのユーザーの皆様に運営を支えて頂き、本日を持ちまして無事30周年を迎えることができました。
30年という長い年月を経る中で、度重なるトラブルの発生やゲーム環境の変化に伴う混乱に揉まれながらも、多くのプレイヤーの皆様に本作を楽しんで頂けるように様々な取り組みを実施して参りましたが、これらも全てユーザーの皆様あってのことであることは承知の上でございます。
この場を借りまして、改めて深く感謝申し上げます。
続いて、もう一つのお知らせです。
この度サービス30周年を迎えたことを受けまして、今後の運営とサービスの展開についてご案内致します。
先ほど述べました通り、本作をプレイして頂いているユーザーの皆様にサービス運営を支えて頂いた事実は重々承知しております。
しかし、弊社の経営状況としましても大変厳しいものとなっており、EVSON-THWOEの今後のサービス継続は困難であると判断しました。
よってこの度のアップデート、〈八千萬神祇の大禘祭〉と〈神々の運命〉の実施を目処に、これまで配信した全てのコンテンツの更新を完了とし、そして今年度11月25日午前0時ちょうどを持ちまして、サービスの一切を終了することを決定しましたことを、この場を借りてお詫び申し上げます。
弊社の都合でユーザーの皆様に不利益を被らせてしまうことを、どうかご容赦ください。
長年のご愛顧に、改めまして深く感謝致します。
最後になりますが、本文をここまで読み込んでくださり、そしてこれまでの間本作を楽しんで頂き、誠にありがとうございました。
「[残り短い期間となりますが、どうぞ最後までEVSON-THWOEをお楽しみください]……か……」
2095年8月31日の正午、EVSON-THWOEで自身が所属するギルドが持つ拠点で、施設全体の管理作業をしていた【聖宮眞穹日嗣】は、千文字にも満たない謝罪文を読み上げて力なく呟く。そして謝罪文が浮かぶメッセージ画面を消去すると、自分が座るベッドに仰向けになった。
「……虚しいなぁ……」
14年という決して短くないプレイ歴の間で、“自分で自分を誇ることができる世界”を構築することを目標としていた眞穹にとって、この報せは残酷極まりないもの。
今まで自分が培ってきたもの、作り上げて来たものが、抗う暇も隙もなく無に帰すという事実には耐え難いものがある。
溜め息を吐きながら寝返りを打ち、不貞腐れたように体を丸めて瞼を閉じる。その脳裏に浮かんでいるのは、苦辛に満ちた現実世界での記憶だ。
(こういう時、何で嫌なことばっかり思い出すんだろう)
どこへもぶつけようのない不満を内に抱えつつ、眞穹は思い付いたように少しだけ目を開き、寝転がったまま手を伸ばす。そして人差し指もまっすぐ伸ばすとメニュー画面を開いて[フレンドリスト]を選び、そこから[グループ:《やまとまほろば》メンバー]と書かれたアイコンを触る。
(ごめん……)
最後に通話待機画面へと変わり、[開始]と[中断]の選択肢が現れ、[現在ログインしているギルドメンバーと音声通話を開始しますか?]と短いメッセージが表示された。これから仲間たちに伝えようとしている事は、彼らから自分自身へ向けられる信頼を地に落とすかも知れない。
無論迷いがあることは眞穹の指の震えを見れば明白なのだが、今回は訳が違う。失意に満ちた現在の心境は、判断を改めようと試みるほどの余裕を与えることはなかった。
眞穹は指を震えさせたまま躊躇い気味に[開始]の文字を触り、待機音が鳴り響くとともに受話器のアイコンが表示されたのを確認すると、寝転がったまま応答する者が現れるのを待つが……
(どうか……誰も出ませんように)
罪悪感と自己嫌悪から、やはり気が引けるのだろう。“ギルドホームの管理をギルドメンバーに委ねる”という、ギルドの主宰者としての責任を放棄する行為をすることは。
しかし、ただでさえ苛酷な勤務先での業務が更に忙しくなる時期に突入し、その上で今回発表されたEVSON-THWOEのサービス終了宣言は精神的に厳しい。
「僕……何考えてるんだろ……」
いっそのこと、今日のうちに引退してしまおうかとさえ思う。このゲームはたった二つしかない心の拠り所の片割れで、字面だけでは表現しきれない部分を視覚的に表せる場所。
思い入れ深いこのゲームを、何よりこのゲームで作って来たものを失えば、もはや心の支えは折れたも同然なのだ。
『おお、眞穹じゃないか!元気しちょるか?』
長々と感傷に浸っているうちに、遂に最初の応答者が通話画面越しに返事をした。チャット参加者の欄には【摩訶魂GUN.D】の名がある。
『お前の方から連絡して来るのは珍しいのう!何かあったんか?』
歴史上の人物の名を捩った変哲なプレイヤーネームとは裏腹に、元気溌剌という言葉がよく似合う快活な広島方言が特徴的な男の声が眞穹に問いかける。
一方の眞穹はつい数分前にサービス終了の告知があったばかりであるにも関わらず、全く様子を変える素振りを見せないGUN.Dの受け答えに、並みならぬ不安と不審感を覚えて一瞬だけ硬直する。
「うん……実はみんなに伝えなきゃいけないことがあって……」
が、すぐに気を取り直し、GUN.Dの問いに答える。こちらにはベッドから起き上がる気力もないが、自分から連絡をしたからには途中で切り上げることはできない。
『なんじゃ、えらい元気がないのう』
だがその返答は自分で気付けないほどに弱々しい声で聞こえたらしく、やはり心中を察して訝しげな口調で迫って来る。
「……暫く、って言うか……」
圧をかけられて言いよどむが、既に意は決している。観念したように溜め息を吐き、儘よとばかりに答えを言い放った。
「すごく勝手なことでごめんね…………長期活動停止って、してもいいかな?」