※この作品はR-18です。

(仮題)サ終から始まる人間関係   作:御代川辰

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No.00-1.3C 三人

 《やまとまほろば》のギルドマスター、眞穹(まそら)がギルドホーム《磯城心安(しきうらやすの)明津大殿宮(あきつおおとのみや)》、またの名を《殿宮(とのみや)》の門を通り過ぎ、遂(つい)に自(みずか)らの城の中へと足を踏(ふ)み入(い)れる。

 

 建物の頂点部分が見える部分から視線を上げれば、緩(ゆる)やかな真円(しんえん)を描(えが)く環状の窪地(くぼち)と、雨風(あめかぜ)に曝(さら)された剥き出しの土と岩肌、つまりカルデラ地形の全貌が見える。

 

 カルデラの頂点には窪地(くぼち)全体をぐるりと囲(かこ)むように長大な壁が建(た)てられており、その高さは10mにもなる余(あま)りにも大規模なもの。

 

「ここも全(まった)く変わってないなぁ」

 

 EVSON-THWOEはサービス初期のESOの頃からオール(All)ジャンル(Genre)ゲーム(Game)と銘打つだけあり、道具作りや建物の建築と言ったクリエイティブゲームに関(かか)わるゲームシステムも完備していたが故(ゆえ)の楽(たの)しみ方ができた。

 窪地(くぼち)の底から聳(そび)え立つ円形の塔の屋上から地上を見下ろせば、広大な土地の中にたくさんの建物が見える。

 

「みんな、頑張ってくれたんだね……」

 

 あらゆる時代、あらゆる建築様式の建物が建ち並ぶその様子は雑多という言葉がよく似合う。例(たと)えば中国式の木造建築を参考にデザインし、満遍(まんべん)なく広げるように設置した禁城。ローマ式の石造建築を用いた円形闘技場(コロッセウム)の中に、ギリシア式の石造建築を用いた神殿を無理やり押し込んだいかにも歪(いびつ)で混沌とした建物。

 

 華やかなルネサンス様式の宮殿を取り囲む、五芒星(こぼうせい)型の水堀(みずぼり)と土塁(どるい)に植え着けられる青々とした木々。立派な石垣(いしがき)と天守閣を擁(よう)し、水を湛(たた)えた池と風情(ふぜい)ある東屋(あずまや)がよく似合う庭園や、小さいながら出城も設(しつら)えられている日本式城郭。

 

 そして、窪地(くぼち)の中に存在する全(すべ)ての建物を繋(つな)ぎとめ、望(のぞ)んだ場所へと導(みちび)く大小あらゆる形の道路。それら一つ一つが長い時間をかけて造(つく)られたものであり、眞穹(まそら)というプレイヤー、ひいては日嗣(ひつぎ)という人物がEVSON-THWOEをプレイしてきた14年間を彩(いろど)る、努力とゲーム愛の象徴(しょうちょう)でもある。

 

「……ありがとう……」

 

 乱立する建物の中でも最(もっと)も目につくのは、カルデラの中央に建てられた巨大な近代建築。開花した桜(さくら)の花弁(はなびら)のそっくりな上層構造物が目立つ、六(むっ)つの菱形(ひしがた)が寄り集まったような下層構造物の外見が特徴の、ギルド《やまとまほろば》の象徴(しょうちょう)たるギルドホーム。

 

 その独特な外見から《御中六岐(みなかつむつまたの)大花社城(おおはなのやしろき)》と大層(たいそう)な名を付けられているが、これは偏(ひとえ)にネーミングセンスに一長一短ありな眞穹(まそら)が、「これは自分が作った場所」という強(つよ)い思い入れを込めたが故(ゆえ)の自信の表(あらわ)れと言えるだろう。

 

「〔空中浮遊(エアフロート)〕」

 

 メンバーたちの努力が目に見えて素晴らしく、余りにも保存状態が良かったことで感極(きわ)まって落涙(らくるい)しそうになるのを何とか堪(こら)え、恐(おそ)らくまだログインしているメンバーたちが集(あつ)まっているであろう東屋(あずまや)、すなわち会議室へ飛(と)ぶために飛行魔法を発動する。

 

「みんな、元気かな……」

 

 塔の屋上に手すりに手をかけてゆっくりと踏み台の先端に進み、そのまま踏み台を蹴って空中に飛び出した。そうして宙(ちゅう)を泳(およ)ぐように飛行し、真上から地上を見下ろせば、建物の屋根や道路を往来するNPCたちの姿が見て取れる。

 

 何しろサービス終了を告知された8月31日から、サービス終了日の前日である今日(きょう)11月24日になるまで、一度たりともログインしていなかったのだ。ここに再(ふたた)びログインしたその時(とき)まではギルドの解散は愚か、自分が造(つく)り上げたギルドホームさえも跡形(あとかた)もなく消失している事さえ覚悟していた。

 

 だが今(いま)こうして舞い戻ってみれば、2ヶ月半以上もの間(あいだ)見向(む)きも省(かえり)みもしなかったこの場所は、最後に目(ま)の当たりにした風景を変わらないまま保(たも)ち続けており、あまつさえ放棄していたも同然の自分を快(こころよ)く受け入れてくれている。人間として感謝せずにはいられない。

 

(みんな……ここにいるの?)

 

  己(おのれ)のような罪深(つみぶか)い者でさえ受容(じゅよう)してくれるのならばと思い浮かべるのは、この《殿宮(とのみや)》と《殿宮(とのみや)》の住人たち全(すべ)ての世話を押し付けてしまった仲間たちである。

 

 ここを残(のこ)しているのなら恐(おそ)らく皆(みな)が集まり、自分の帰りを待っているのであろうと、《やまとまほろば》結成当初から会議室として用(もち)いている東屋(あずまや)を目指して飛んでいるのだが、心中(しんちゅう)にあるものは期待よりも不安の方が強(つよ)い。

 

(…………いるよね?)

 

 暫(しばら)く飛び続けて日本式の平城(ひらじろ)に近付くと、庭園に設(しつら)えられた人工池に浮かぶ中之島と東屋(あずまや)が見えて来る。が、予想とは少し様子が違う。

 

「ん?……あれは……」

 

 目的地を見下ろして中之島と畔(ほとり)の間(あいだ)を注意深く見つめると、橋の上で一組の男女が組み合っているのが見える。無論気に止(と)まらないと言うわけはなく、何事(なにごと)かと思って高度を下げれば、事態の全貌が明(あき)らかとなる。

 

(えっ!?ちょっ、ちょっと……!)

 

 空を飛ぶ眞穹(まそら)の目下(もっか)で繰り広げられていたのは、きりたんぽと呉藍(くれない)の二人が官能的かつ濃厚な口吸い(フレンチ・キス)をする様(さま)であった。

 更(さら)に詳(くわ)しく観察すれば、呉藍(くれない)はきりたんぽの肩に、逆にきりたんぽは呉藍(くれない)の腰に手を伸ばして抱き合っている。

 

 その姿はまるで恋人か夫婦のようで、情欲に由来する行動であると理解するのは極(きわ)めて容易であり、現実ではとても見られない光景に赤面(せきめん)したまま動きを止めてしまうのは必然と言えよう。

 

(……二人ともこんな外(そと)でなんてことを……!)

 

 眺(なが)めているこちらが羞恥心(しゅうちしん)でいっぱいになり、赤くなった顔を押さえるのが精一杯であるのに対して、本人たちは見られていることに気付いているのかいないのか、唇(くちびる)を重(かさ)ねたまま互いの股座(またぐら)、あるいは臀部(でんぶ)に手を伸ばしてまさぐりあっている。

 

 これ以上の行為、つまり情交をする様(さま)を見せられては堪(たま)らないと、眞穹(まそら)は迷(まよ)いなく地上へと降(お)りて二人の元へ駆け寄る。

 

「それ以上はだめ!ストップ!」

 

 眞穹(まそら)の叫びは二人の耳にも届き、両者は呆(ほう)けた顔で声と足音のする方へと視線を動かす。そして視線の先から近付いて来る男は、走る勢(いきお)いのままきりたんぽと呉藍(くれない)の間に割って入(はい)り、情交を中断させた。

 

「二人とも昼間から何(なん)てことしでかしてるの!?」

 

 何(なん)とか止(と)めた彼の心境(しんきょう)が混乱の極(きわ)みにあるのは、二人の人物に向(む)けられる真っ赤な顔を見ればすぐに分かる。見てはならないものを見てしまった恥(は)ずかしさ、それを自分の仲間がしようとしていた事実が、24歳にしてなお性交渉未経験の男にはより大きな衝撃として響(ひび)いている。

 

 …………ロマンの欠片(かけら)もない再会、という情けない部分も一枚噛んでいるであろう。

 

「遅(おそ)いご到着ね……ちょうど貴方(あなた)の噂(うわさ)をしてたところよ」

 

 先ほどまでぴんと立てていた長い耳を垂(た)れさせ、羞恥(しゅうち)で顔が真っ赤な男の顎(あご)に指を添(そ)えて持ち上げる。彼女の魔性(ましょう)の赤い目に写(うつ)るのは、異性に顔を触(さわ)られた事実に慌(あわ)てながら後退(あとずさ)りをして離れる眞穹(まそら)の姿。

 

 情交に対する羞恥(しゅうち)と、目の前の異性が放(はな)つ妖艶な気配への警戒が混在する態度を取る彼に、呉藍(くれない)は紅(あか)く短(みじか)い舌(した)で唇(くちびる)の端(はし)をペロリと舐(な)め、意欲がまだ失(う)せていないことをアピールする。

 

「その辺(へん)にしとけよ、このエロ兎(うさぎ)」

 

 色欲を一切隠(かく)さず一歩を進むも、きりたんぽによって行く手を塞(ふさ)がれ、腰(こし)に手を回されて引き離された。眞穹(まそら)の到着を待つことが目的である以上、自分たちの行(おこな)いを見た彼にその先の行為の邪魔をされるのは仕方がない。

 

 何より情事ができなかった事の責(せ)めを負(お)わせるのは筋違いにも程(ほど)がある。だが呉藍(くれない)は妖艶な表情を崩(くず)す事なく、きりたんぽに向(む)かって扇情的な言葉を返(かえ)す。

 

「ごめんなさいね。私が(・)肌(はだ)を見せたい男(ヒト)はたくさんいるの」

 

 この答(こた)えを聞いたきりたんぽは、思わず赤面して尻尾(しっぽ)を振り回(まわ)す。他方の眞穹(まそら)は、2ヶ月以上もの間(あいだ)顔合わせをしていない呉藍(くれない)の、その微塵たりとも変化していない彼女の好色ぶりに、改(あらた)めて恐怖を覚えた。

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