※この作品はR-18です。

(仮題)サ終から始まる人間関係   作:御代川辰

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No.00-1.4C やまとまほろば

「何度もごめんね、心配かけて」

 

 眞穹(まそら)が自分の椅子に座るのを合図に、会議室のテーブルを囲(かこ)む50の席に50人全員が着き、そして全員が会議室の最奥に座る彼へと注目した。それらは仮想世界を通じたものではあるが、決して無機質な目ではなく、確かな敬意を有する視線である。

 

 もともと気の合う5人がギルドを結成して以来、共に遊び共に戦いつつメンバーを増やし続け、7年という長い時間を経(へ)て成長し、現在の構成員は50名にまで増えた。この《やまとまほろば》というギルドの構成員は、この日まで一人として欠けてはいない。

 

「改(あらた)めて2ヶ月と24日の間(あいだ)、留守を任せてごめん」

 

 顔に浮かべるのは少し悲(かな)しげな笑み。席に着いて最初の発言は、またも謝罪である。だがそれを責める者は一人としていない。特に呉愛(くれない)はテーブルに肘をつき、組んだ手の甲の上に顔を乗せ、柔(やわ)らく、和(なご)やかで、穏(おだ)やかな頬笑(ほほえ)みを浮かべている。

 

 東屋(あずまや)の外(そと)で見せた色欲の化身そのものな態度は鳴りを潜(ひそ)め、淑(しと)やかで優(やさ)しい大人の女性を想起させる口調で、宥(なだ)めるように告(つ)げる。

 

「ごめんなさいは、もう大丈夫よ」

 

 《殿宮(とのみや)》に入り会議室に向かうまでの道中で彼女ときりたんぽの情事を見てしまったことを思い出し、頬(ほお)を朱に染め視線を逸(そ)らす。対して呉愛(くれない)はしてやったり顔で片耳を立てた。

 

 だが彼女の赦(ゆる)しに従(したが)い、二言目(ふたことめ)に発するのは謝罪ではない。

 

「久しぶり、みんな」

 

 この挨拶の通り、先ほどまでの緊張はなくなっている。誰一人として笑みを絶やすことはない。各々(おのおの)が改めて挨拶を返(かえ)し始める。

 

「おかえり、眞穹(まそら)さん」

 

 既(すで)に仮面を脱いだヴラグツェンが掌(てのひら)を見せるように腕を曲げ、唇(くちびる)を広げて笑う。青いタキシードも彼の心境を表(あらわ)すかの如(ごと)く、繊維一本一本がきらきらと輝(かがや)いているように見える。

 

「二月(ふたつき)三月(みつき)経(た)っても、お前は本当に変わらんのう」

 

 胸に届くまで蓄(たくわ)えた白い髭(ひげ)を指で弄(もてあそ)びながら、GUN.D(ガン・ディー)も吐(は)き出すように一言。顔色(かおいろ)から考(かんが)えられる限りすこぶる調子が良いらしく、元気でなによりと一人頷(うなず)きながら思い出に浸(ひた)り始めている。

 

「みんな良い意味で変化がない。俺も含めてな」

 

 両掌(りょうてのひら)を真上に向(む)けて呆(あき)れを隠さず、しかし少し誇らしげに呟(つぶや)く秋冬(しゅうと)。それでもその表情にはやや不満を含(ふく)んでおり、続くユングヴィの言葉からも良く分かる。

 

「お前は違うだろ。もともとバカなのがこの3ヶ月で勢(いきお)いが増(ま)した」

 

 彼の言葉は侮辱や軽蔑と言うよりは心配事と言った方が正(ただ)しいだろう。馬鹿さ加減が酷(ひど)くなったのは本人も自覚しているようで、先ほどまでの姿勢はどこへやら、申し訳なさそうな態度で指先同士をつついている。

 その後も一人ずつ再会の挨拶をしていき、そして最後の二人に差し掛かった時だった。

 

「久しぶりギルマス♡やっと戻って来てくれたわね☆現実(リアル)で妹がお世話になったわ♪」

 

 かななの発言が眞穹(まそら)の耳に入(はい)ったその時、彼は衝撃を受けて立ち上がる。現実世界でギルドメンバーの妹と自分が面識があるばかりか、自分と相手どちらかが何かしらの世話をかけたかも知れない。この事実になぜ驚(おどろ)かずにいられようか。

 

「そうなの!?」

 

 そもそもかななに妹がいるという話(はなし)は初耳で、加(くわ)えて今(いま)まで彼女は家族の話題を振っても無視するか、あるいは強引に話題を逸(そ)らしてのらりくらりと避(さ)けてきたため、仕事柄口外(こうがい)できないものとばかり思っていた。

 

 両親が存命している可能性は考(かんが)えることができても、兄弟姉妹が存在するという第二の可能性を、眞穹(まそら)は思いつきもしなかったというわけである。

 

「っでも、そんな子とは面識なんて……」

 

 顔をぶんぶんと横に振って否定するが、ふとかななの隣の席に座る少女に目を向(む)けると、自身の発言と記憶に違和感を覚える。その顔を良く見れば、昨夜の最終電車に乗り合わせて言葉を交わした新笠(にいがさ)茅芽(かやめ)と瓜二つで、特に目元の綺麗な曲線を描(えが)く涙袋(なみだぶくろ)はぴったりと重(かさ)なり、良く思い出せば声もそっくりだった。

 

 視線の先にいるカヤメも恥ずかしそうに顔を赤くし、かななに助けを求めるように寄り添っていた。周囲のメンバーたちも驚(おどろ)いてこそいないが、やはりかななの職業を知っている以上羞恥(しゅうち)が勝(まさ)る者も多く、GUN.D(ガン・ディー)に至(いた)っては特に何を言うでもなくコンソール画面を開(ひら)き気を逸(そ)らしている始末。

 

「本当にカヤメだったの?」

 

 顔を蒼(あお)くしてカヤメに問いかければ、つい数秒前まで赤面していたのが嘘のように、悲(かな)しげな表情を浮かべてこくこくと頷(うなず)く。

 

「夕べみたいにち(・)ゃ(・)ん(・)付けはしてくれないんですね……」

 

 返事の瞬間、ぴしっと空気がひび割れる音が会議室内に響(ひび)き渡(わた)った気がした。

 

 

 

 

 

 一瞬場の雰囲気が変わりかけたが大事にまでは至(いた)らず、その後も眞穹(まそら)がEVSON-THWOEから離脱していた間(あいだ)ゲームがどのように変化したのかを報告したり、現実世界(リアル)での出来事を話題にして雑談をしたりと楽しい時間を過ごしつつ、やがて時刻は午後12時ちょうどを示(しめ)す。

 

「もうこんな時間か……なあ」

 

 ケイローンが大きく欠伸(あくび)をしながら頭をかき、宙に表示されている画面の時計部分へと顔を近付ける。鉄蹄(ていてつ)を嵌(は)めた蹄(ひづめ)で床を打ち鳴らし、緊張を解(ほぐ)すべく呼び掛ける。

 しかし水生(みぶ)はけらけらと笑いながら呆(あき)れたように返(かえ)す。

 

「こんな時間ってあんた……まだ正午になったばっかだぞ?」

 

 水生(みぶ)の言葉にがちゃ丸もうんうんと相槌(あいづち)を打ち、所持品画面を呼び出して飲み物を取り出しながら続ける。

 

「眞(ま)ー坊が復帰してから二時間しか経(た)ってないことを忘れるなよけ(・)い(・)り(・)ょ(・)ん(・)」

 

 最後の一言に二人は思わず吹き出し、がちゃ丸も噛んだことに気付いて腹を抱え、同じように笑う。

 一方愛善(あいぜん)と厄止(やくし)は喧嘩を再開しているが、子供のじゃれ合いに似たものに落ち着いていた。

 

「(7年の間(あいだ)、本当にありがとう)」

 

 和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気(ふんいき)に満たされた会議室の様子を見て、穏(おだ)やかな表情を浮かべて呟(つぶや)く。

 

(みんな……大好きだよ……)

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