※この作品はR-18です。

(仮題)サ終から始まる人間関係   作:御代川辰

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No.00-1.5A 二人きりの淫らな時間

 11月24日。眞穹(まそら)の復帰を祝(いわ)って歓談をしていた《やまとまほろば》メンバー計50名は、12時30分を目処(めど)に各々昼食や翌日までに終わらせなければならない作業をするため、夜に再度集合する旨(むね)を定(さだ)め、ギルド集会は一度お開(ひら)きとなった。

 

 プレイヤーたちが次々とログアウトし、アバターが姿を消していくのを眺(なが)めつつ、眞穹(まそら)もステータスのメイン画面からオプションを開(ひら)いてログアウトのアイコンに指を触(ふ)れようとした時、誰かが手首を掴(つか)んで妨(さまた)げる。

 

「日嗣(ひつぎ)さんっ」

 

 はっとして隣を見遣(みや)れば、カヤメが目を潤(うる)ませ、上目遣(うわめづか)いでこちらを見ている。頬(ほお)を赤くして体を震(ふる)わせ、息を荒(あら)くしながら両手でしっかと腕を掴(つか)み、あたかも「ここから逃がさない」と主張しているかの様で、小柄な体格も相(あい)まって実にかわいらしい。

 

 まさかと思い会議室を見回(みまわ)すとやはり部屋の隅(すみ)でかななと呉藍(くれない)が、寄り添い合っているように見える自分たちを遠目に見つめながらニヤニヤと意地悪な笑みを見せてくる。カヤメの行動は彼女らの指図であることは明白、そして彼女自身の意思も含(ふく)まれているのであろうことも見て取れる。

 

「本当にもう……」

 

 溜め息を吐(つ)いて二人から視線を外(はず)し、もう一度カヤメの方へと顔を向(む)ける。再(ふたた)び目が合った時、顔全体を尖(とが)った耳まで赤く染めてひしと腕に抱きついてきた。

 さすがに予想は付いていたが本当に実行するとは欠片(かけら)も考(かんが)えていなかったらしく、眞穹(まそら)も驚愕して顔を朱に染めて動きが完全に固まってしまう。

 

 豊(ゆた)かであるとは言えないが適度に柔(やわ)らかい膨(ふく)らみが二の腕から肘(ひじ)の部分に当たる感覚、本人なりに鍛(きた)えているのであろう薄(うす)いがしなやかで強靭な筋肉が腕全体を擦(こす)る感覚、そして涙(なみだ)で潤(うる)み爛々(らんらん)と煌(きら)めく紫水晶(アメジスト)のように透(す)き通った紫(むらさき)色の瞳(ひとみ)。

 

 仮想(バーチャル)の世界でしか目の当たりにできない偽物の美しさであるとは分かっていても、現実(リアル)で出会った茅芽とEVSON-THWOEというゲーム上での仲間としてのカヤメが同一人物である以上、どうしても意識せずにはいられない。

 

「えーと……その……」

 

 彼女を視界に入(い)れないように視線をずらそうとするが、顔を動かそうとした途端に頬(ほお)を両手で包むように抑(おさ)えられ、強引に向(む)かい合う姿勢をとらされる。互いの息が互いの顔にかかり、興奮の度合いは一気に最高潮に達する。

 

 頭に血が登(のぼ)っている眞穹(まそら)はまだ気付いていないが、会議室には既(すで)に彼とカヤメの二人しかいない。邪魔をする者は誰もおらず、秘め事を共有するのに都合のいい状況となっている。

 

「日嗣(ひつぎ)さん、逃げないでください」

 

 普段より艶(つや)を増(ま)した唇(くちびる)から発せられる絞(しぼ)り出すような懇願(こんがん)は、あどけなさの残(のこ)る童顔(どうがん)も相(あい)まって逃(のが)れ難(がた)い魅力を醸(かも)し出している。

 

「どうして?」

 

 息を荒(あら)くしつつも目と目を合わせて離さず、二時間前にきりたんぽが呉藍(くれない)にしていたように、目の前で向(む)かい合う少女の腰に手を添(そ)える。自分と同じように緊張しきった様子の眞穹(まそら)の問いかけに、カヤメは瞳(ひとみ)を震(ふる)わせて答(こた)えた。

 

「わたしの、初めてを……日嗣(ひつぎ)さんに……」

 

 最早(もはや)全(すべ)てを聞かなくとも、目的は理解できる。わざわざ自分の体をアピールする行動、火が点(つ)いたように紅潮した顔、そしてここまでの一連の発言。

 彼女は情欲を眞穹(まそら)に向(む)けているのだ。

 

(……言っちゃった!もう、お姉ちゃんのバカ!日嗣(ひつぎ)さんを困らせてるだけじゃない!)

 

 ところが、内心(ないしん)の実際は色欲よりも羞恥(しゅうち)が遥(はる)かに勝(まさ)っているようで、いくら姉がAV女優とは言え心(こころ)に悪(わる)い作用が働(はたら)いている訳(わけ)ではないようだった。

 

 最初に胴ではなく腕に抱きつき、そして今(いま)も頬(ほほ)から手を離さないのも、偏(ひとえ)に眞穹(まそら)に積極性を見せる勇気がないからである。

 もちろん、眞穹(まそら)も眞穹(まそら)で興奮と困惑に心(こころ)を満(み)たされており、カヤメの誘(いざな)いに応(こた)える勇気がない。

 

 どちらにせよ互いに消極的な性分(しょうぶん)であることは紛(まぎ)れもない事実である。

 

「…………いいの?」

 

 だがその自然な望(のぞ)みが、人生で最初に知る男との秘め事が、自分のように力(ちから)のない不健康な社畜でいいのだろうか。自分に抱かれるのが本意であるのか否(いな)かを知らないままで、先を考(かんが)えず次の行動を起こすのは避(さ)けるべきこと。

 二度目の問いも短(みじか)い一言で、主語もない。しかし、彼女は力(ちから)の込(こ)められた目で眞穹(まそら)の目を見据(みす)え、はっきりとした声で返答(へんとう)する。

 

「初めては、日嗣(ひつぎ)さんじゃなきゃイヤなんです」

 

 

 

 

 

 数分経(た)っても二人はログアウトせず、眞穹(まそら)の自室にあるベッドの上で向(む)かい合うように座り、互いの紅潮した顔を見つめ合っていた。

 

「カヤメ、何度もごめん……本当に……」

 

 視線を自分の膝へと落としながら白髪(しらが)交じりの長い黒髪を揺らし、申し訳なさそうな覇気のない態度で問いかける。

 

「日嗣(ひつぎ)さん。ち(・)ゃ(・)ん(・)って付けて呼んでもいいんですよ?」

 

 カヤメは座ったまま近寄(ちかよ)り、眞穹(まそら)の手を取って指に口づけをしながら答えた。聞かれたことの本意は分かっているが、関係のないことを答えたことに特段意味がある訳ではないのだろう。

 

 だが、彼は下を向(む)いたまま、こちらを非難するかのように黙(だま)っている。それはまるで、質問したことにに答えて欲しいと言っているようで。

 

「……日嗣(ひつぎ)さんじゃなきゃ、いやなんです。初めてをするなら、優(やさ)しい男性(ひと)の方が……」

 

 カヤメは自(みずか)らのわがままな望(のぞ)みを叶(かな)えたいがために、好きな異性(おとこ)に振り向いてもらいたいが故(ゆえ)に、自分の魅力で異性(ひと)を惹き付けることを、今(いま)まで一切してこなかった。

 これは、姉の職業柄自分の女の部分をひけらかす、ということができなかったからでもあるが、姉から教授された女として、ひいては人間個人としての在(あ)り方が、自分の生き方に大きく影響を与(あた)えたものであったからだ。

 

((本心に忠実な人間になりなさい。茅芽(かやめ)ちゃんにだって嫌いな人の一人や二人はいるでしょ?))

 

 姉、【奏女(かなめ)】の言葉を思い出す。本心を隠(かく)すなとまでは言わないが、本心を誤魔化(ごまか)すような人間にはなるなと教わった。彼女は仕事場での愚痴はずけずけ吐(は)き出すが、否定主義者でも露悪主義者でもない。

 現実(リアル)の茅芽(かやめ)も、仮想(ゲーム)でのカヤメも、奥手で根性(こんじょう)なしではあるが決して嘘吐(うそつ)きではない。

 

「……お願いしますっ」

 

 膝を揃えて額(ひたい)と掌(てのひら)を布団に着け、深(ふか)く懇願する。頼りない白髪(しらが)と傷(いた)んだ黒髪が交じり合う眞穹(まそら)の髪とは違(ちが)い、艶(つや)とコシのある綺麗(きれい)な銀髪が夕焼(ゆうや)け色の照明で輝(かが)いている。

 

(現実(リアル)だと茶髪なんだっけ……)

 

 関(かか)わりのないことを考(かんが)えていても、今(いま)のこの状況からは逃げられない。どう言い繕(つくろ)ってもごまかしが効かない以上、腹を括(くく)って相手をする他はなく、呆(あき)れと自嘲を含めて少し頷(うなず)く。

 

「…………分かった。顔あげて」

 

 言われた通りにゆっくりと顔を上げ、目の前に座る眞穹(まそら)を視界に捉(とら)えようとした瞬間、自身の目の前に黒い瞳(ひとみ)が現(あらわ)れ、視界を塞(ふさ)がれてしまう。

 

「んむっ……!?」

 

 眞穹(まそら)の唇(くちびる)が、驚(おどろ)くカヤメの唇(くちびる)を塞(ふさ)ぐように重(かさ)ねられ、二人の舌が拙(つたな)く触(ふ)れ合い、おどおどと絡(から)み合う初(うぶ)なディープキスが繰り広げられる。

 

(初めて……なのに……)

 

 最初の接吻(ファーストキス)がこれ程までに淫靡で濃厚なものになるとは思いもしなかったのだろう。興奮と羞恥(しゅうち)で心音が激(はげ)しく鳴り響(ひび)き、仮想体(アバター)であるはずの体が熱(あつ)く感じるほどに心身両方が高揚(こうよう)している。

 

「んんっ……!?……ん……!」

 

 そして、キスをしたまま互いに抱き合い、更(さら)に深く舌を潜(もぐ)り込ませて絡め、唾液を啜(すす)り合っていることに気付く。だが息苦しさや不快感はなく、かと言って口を離そうとすれば眞穹(まそら)が頭に手を添(そ)えて逃がそうとしない。

 

 初対面の時から好意があった訳ではない。だが顔を合わせる度(たび)に興味を増(ま)し、言葉を交(か)わす度(たび)に魅力を知り、二人の時間が増える度(たび)に心惹(こころひ)かれて行き、昨晩には遂(つい)に現実で正真正銘の本人と出逢(であ)い、確信する。

 

 自分がこの男に恋をしていること、自分が本心で愛することができる異性であることを。

 

(……日嗣(ひつぎ)さん……日嗣(ひつぎ)さん、好き)

 

 キスを始めてから5分が経(た)った頃、カヤメは自分自身が好意を寄せる異性(おとこ)と交(か)わすキスがもたらす、表現できないほどの幸福感と快感の虜(とりこ)になっていた。

 女陰(ほと)からは下着(したぎ)のみならず、ローブのスカートとベッドの布団にも染みを作るほどに愛液が溢(あふ)れ出しており、彼女の性的な興奮度合いが強(つよ)くなっていることが分かる。

 

「ぷはっ……」

 

 やっと口と口が離れると、二人の表情はキスをする前とはまるで違(ちが)うものに変わっており、完全に快楽にのぼせているのが見てとれる。

 カヤメは唾液と涙(なみだ)が濡らす、蕩(とろ)けきった女(メス)の表情(かお)。眞穹(まそら)は頬(ほほ)を朱色に染めつつ、快感が抜けきらない表情(かお)。

 

 どちらも疲労で息が荒(あら)く、互いの顔を見合わせるのが精一杯。暫(しば)らく惚(ほう)けていると、不意に眞穹(まそら)が自分の股間をちらりと見る。怒張でズボンと下着がはち切れるほど圧迫され、布の食い込みで痛(いた)みが走るのを感じながら、カヤメに声をかける。

 

「カヤメ……ううん、茅芽(かやめ)ちゃん……」

 

 カヤメにもう一度手を伸ばし、自分の膝に座らせるように抱き寄せて囁(ささや)くように言った。それは、果たしてこのような行為をして許されるのだろうか、本当は嫌なのに無理をしているのではないかと、胸中に抱える不安を隠(かく)しているかのよう。

 

 だが、だからこそ、彼は腹を括(くく)っている。

 一世一代、生涯最初で最後になるかもしれない行為に臨(のぞ)むために。

 

「僕に……茅芽(かやめ)ちゃんの初めてをください……」

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