カヤメと眞穹がたった二人で、濃厚かつ淫らな時間を過ごした結果、時刻は午後1時57分を示している。二人は汗と精液と愛液にまみれたまま、裸で寄り添い合うようにベッドに寝転がり、未だに荒い息を整えていた。
(セックスってこんなに疲れるんだ……)
体力がある程度戻ったところで、装備画面を操作して衣服を着替え、カヤメにも装備を着直すように促す。しかし疲労感と倦怠感は未だに残っており、服を着た後も暫くは動けそうにない。
瞼を閉じてほんの十数分前の情景を思い出す。人並み以上に大きな性器で自分と体格がほぼ同じ少女の小さな女陰を犯し、仮想体であることをいいことに子宮の中に欲望の産物を何度も放出していたのだから、興奮しないわけがない。
これ以上記憶に浸っているとすぐに欲望が蘇りそうで、今日はもう行うまいと目を開き、イメージを消す。
(それにしても……本当によく頑張ったなあ)
眞穹はふと顔を横に倒し、隣に寝そべる少女を見遣る。彼女はこちらを向く横向きの体勢で、少し恥ずかしそうな表情を浮かべており、視線も合わせようとしない。
先ほどまで性行為をしていたことによる疲労もあるのだろうが、女陰に男の性器が侵入することで生じた痛みも残っているらしく、ときおり股間部分を撫でて何かを確かめている。
「あの……初めてなのに無理させちゃって……ごめんね」
そんな愛らしいカヤメの頭を優しく撫で、何度目かも分からない謝罪の言葉を述べる。対するカヤメは目線を眞穹の顔に向け直すと、自身の頭を撫で擦るの手を握って自らの頬に触れさせる。
更に眞穹の手を持っていないもう片方の腕を伸ばし、彼の唇を人指し指で触れて次の言葉を止める。
良く見ればその表情には、何かを察しているかのように哀愁を宿している。
「日嗣さん」
彼の名を呼んだ時、カヤメの顔は普段の態度からは想像がつかないほどに真面目で、普段はなかなか見られない凛々しさを感じさせるものに変わっていた。
そしてぐいっという擬音が聞こえそうな動きで己の顔を眞穹の顔に近付け、同じく全てを悟った目で自分を見つめる彼に告げる。
「今日皆さんに何回謝ったのか、ちゃんと数えていますか?」
二人の真剣な視線が交差し、先ほどまでの穏やかながら淫靡な気配を纏った雰囲気が一変する。神経が張り詰めるような感覚が全身を覆い、体温が下がって冷静になりつつある眞穹に、もう一度問いかける。
「わたしとしていた時、何度好きって言ったのか、思い出せますか?」
無論一つの言葉を繰り返した回数など、いちいち数えるようなことはしない。首を横に振って「分からない」と答えれば、彼女の手が頬に触れ、少しつねって引っ張られる。
怒り半分呆れ半分のその目は、カヤメのまっすぐで素直な心境を想起させ、眞穹も自らの目線を彼女から外そうとはしない。
「…………そういう素直なところ、本当に好きです……」
何を言われるのかと思いきや、真面目な話が一変して惚気話になっていた。カヤメは羞恥心をごまかすように視線をずらすが、朱色に染まった頬は全く隠れていないためまるで意味がない。
これには眞穹も拍子抜けし、意図せず笑い声を漏らしてしまうが、恥ずかしさが増して更に萎縮する彼女の頭を撫でて落ち着かせる。
「ありがとう」
一言感謝を告げ、二人で笑いあい、談笑に耽る。
大人の女二人からけしかけられた少女に告白されたことから始まった、暫しの恋人同士の時間は瞬く間に過ぎていき、二人が気付いてログアウトする頃には2時を回っていた。
「リンク・オフ、ゲームオーバー。ログアウト完了……」
手袋を脱ぎながら終了指令を呟くと、ゲーム機の機械音声がゆっくりと答える。
『利用者名磐櫻日嗣様、プレイヤー名聖宮眞穹日嗣様、ゲーム終了を確認しました。お疲れ様でした』
茅芽と別れ、EVSON-THWOEからログアウトした日嗣が目覚めた時、胎場の時計が示す時刻は午後2時30分となっていた。
胎場の蓋を開ける前に、腰周りの固定具を外そうと手を動かすと、股間部分に違和感を覚える。頭を蓋にぶつけないように持ち上げてそこを見れば、下着は愚かズボンにさえもべったり精液が染み込んでしまっている。
どうやらゲーム中での茅芽との行為を、脳が実際の行為と錯覚し、無意識の内に夢精を起こしたらしい。
日嗣は思わぬ形で問題が起こってしまったことに溜め息を吐き、風呂の準備をしようと固定具を外した。
一方、ちょうど同じ頃の新笠家の自宅アパートのベランダ。
「ママ……ちゃんと茅芽ちゃんに謝ってるじゃない……」
この家の住人である新笠家長女新笠奏女は、母である新笠出南から親の仇を睨みつけているかのような、凄まじいという言葉そのものな圧と殺気を込めた目を向けられながら涙目で布団のシーツを洗濯している。
洗濯しているとは言っても、大型の洗濯機を使っているはずはない。中で子供が横になれるほどの大きさの桶に張った湯と、今となってはなかなか見られない洗濯板を使う手揉み・擦り洗いという、手指に大変な負担がかかる洗い方である。
「茅芽を唆して恥ずかしい思いをさせたのはあなたでしょう?」
奏女が少し振り向けば、出南の頭には角が生え、小脇には特大の金棒を抱えているかのように錯覚するほどに強い気迫を放っている。
二人は顔立ちこそ良く似ている美人母娘ではあるが、体格は全くと言っていいほどに違う。
出南は肩から腰にかけての直径が細い、いわゆるモデル体型である。加えて、襖から額が見えるほどの高身長を持つ。対して、奏女は平均的な身長かつ肉感的な体型で、逆に腹周りには適度な括れがある。
どちらが鬼女と呼ばれるに相応しい体格をしているかは一目瞭然で、特に出南は眦がつり上がっていて厳しそうな印象であるが故、事実近所の子供からも若干距離を置かれている。
「お母さん、もうさすがに許してあげたら……」
汗と愛液にまみれた体を拭き、着替えを終えた茅芽が、出南の後ろから声をかける。しかし、振り返った彼女の表情はやはり鬼のような怒り顔だ。
これも無理もない。自分の娘がどこの馬の骨とも知れぬ異性と性交渉をしたと言うのだから。それも家族による
入れ知恵が原因ともなればなおさら、怒りはより激しいものになるのは当然の道理。
「茅芽、黙ってなさい。この子は欲しいものばっかりなんだから」
覇気の塊とでも例えるべき声で、厳しい言葉が放たれる。奏女は少しでも怯えの感情を遠ざけるべく、終わりそうにない茅芽の体液で汚れたシーツを洗う作業に没頭している。
「あなたも同罪ですからね。その日嗣さんとか言う人にはしっかり謝っておきなさい」
その後ろ姿を見ただけでも敵わないと理解できると言うのに、声にまで威圧が含まれているのだから恐ろしい。母の怒りは天の怒りにも劣らないと改めて悟り、二人はしゅんと萎縮して答えた。
「……はい……」
今日は11月24日。一つの仮想世界が終わりを迎えつつある午後の日本。