『…………は?』
GUN.Dは眞穹からの伝言が理解できず呆気に取られてしまい、答えを返すことが儘ならないまま状況の整理をする事で頭がいっぱいで、完全に混乱している様子なのが画面越しでも容易に感じ取ることができる。
GUN.Dが問い質すべきことはまず、彼が今何と言ったのかである。「長期活動停止をしたい」とは言ったが、何があって、何を理由に活動休止を申し入れたのかなどとんと見当がつかない。
『急に活動休止っちゅうても、全体何があったんじゃ?』
気を取り直してテレビつきの通話画面に話しかけ、画面の向こう側にいる眞穹に言葉を届ける。対する眞穹は悲しげに目を閉じ、少し息を吐く。
(こういう時下手な表情を見せられないんだよね……特にGUN.Dさんには……)
EVSON-THWOEのチャット機能はオプションで自由に設定を変更できるが、通話中のシステムは相手方の設定に依存する。声に出さず内心で吐露した通り、現実世界での職業柄はゲーム中でも十全に発揮されるため、GUN.Dは眞穹の態度に敏感に反応してしまう。
『ギルマス。お前さんまさか……』
念話である以上声の変化を誤魔化すことはできず、相手はテレビ機能を使っているため表情も丸見えで、心の内に抱える不安は当たり前ながらすぐにばれた。
相手は現実世界では心理学の権威として知られる大学教授で、しかも精神科医としても優れた人物。そのような人間の手にかかれば、最早嘘も虚勢も通用しない。
自分で呼び出してしかも活動休止を申し出てしまった以上、GUN.Dを煙に巻くのは無駄だと理解し、観念して現在の心境を洗い浚い打ち明けた。
『なるほどのお……そりゃあ災難じゃな』
眞穹の愚痴の一切を一言一句残さず聞き取り、口惜しげに歯を食い縛って顔を歪める。企業の経営とは無関係な大学教授である己にはどうしようもない案件であり、できることと言えば同情することとせめてもの心の支えとして助言することぐらいである。
「もうね……全部に疲れちゃった……」
ベッドから降りることもせず、力なく体を丸めて呟く。すると寝返りで乱れていた掛け布団を、掃除のために部屋に入って来た召使い型NPCが整え、そのまま眞穹に掛けて掃除を続ける。
GUN.Dは体を覆う布団を抱き締めるようにし、更に背中を丸めて縮こまる眞穹の表情を見て彼の真意を理解した。
『分かった。自分の口から伝えたくないなら、メンバーには儂が明日報告する。ギルドホームの管理も全員で引き継ぐ。それでいいな?』
全員に自分の意思を伝える勇気のない彼に代わり、自分が連絡を代行し、ギルドメンバー全員でギルドホームの管理を遂行すると宣言する。仮想の世界に逃げてもなお精神的に追い詰められ、もはや声を返す元気すら残っていない眞穹は、目元から涙の筋を作りながらこくこくと頷き、ゆっくり目を閉じて寝息を立て始める。
『…………切るぞ』
眞穹が完全に眠りに就いたのを見届けると、GUN.Dは通話画面の[終了]をタップして画面を変える。
同時に、眞穹の目の前に浮かんだままだった通話画面の表示もフレンドリストに戻り、この日の二人の念話は終わった。