カツン、と高い音を響かせて、すらりとした足を支えるヒールがいくつもの柱と円形の壁に囲まれた大理石の床を叩く。足音の主は《やまとまほろば》を構成する50人のメンバーの一人であり、200cmを優に越える身長を誇る、石像のアバターを象る女性プレイヤー【フィリエンテ】。
「本当に、どこからこんな発想が来るのかしら」
弓形の朔月の淡い光と松明の赤い明かりが照らす、菊の花弁のような飾り彫りが施された神殿の石柱を撫で、石と石とが擦れ合う音を奏でながら呟く。
彼女の言う日嗣、眞穹の発想とは、例えば今彼女がいる闘技場の中の神殿のような奇抜な組み合わせもそうだが、この《磯城心安明津大殿宮》中央に聳える《やまとまほろば》のギルドホーム、《御中六岐大花社城》を囲むように設置されたNPCのための街には特に驚かされる。
オールジャンルと銘打たれている以上、シミュレーションゲームとしての一面も存在しており、それを意識した作りなのであろうことは見た通り。そして住人であるNPCたちの特徴、眞穹に代わって管理していた時の経験からも、シミュレーションゲームの主軸となりうるあらゆる内容を想定・表現していることが分かる。
だが、これらが何を意図したものなのか、何が目的なのかさえもわからない。何より一口にNPCと言っても種類は多く、大きく分けてもここ《殿宮》に居るようなプレイヤーが創作したものや、運営側がプログラムを組んでゲームの世界に放つもの、AIとコンピューターがアルゴリズムの中から生み出すものの三種類にもなる。
そしてここにはおよそ4万体ものNPCがいるが、彼らの殆どはプレイヤーメイクのものではない。なぜここに居させているのか、甚だ疑問であるのも事実。
(日嗣様、あなたは……本当に不思議な人)
神殿から闘技場と月を見つめていながらも、この神殿へ参拝に来たのであろうNPCの挨拶に会釈をする。そして頭を上げた彼女に、もう一人の人物も声をかけた。
だがその影をよく見れば、体の所々に明かりが通り抜ける不自然な隙間があり、頭の位置も見上げるほどに高い奇妙な見た目である。
「《Hey,need to pick up's you?》」
終わりつつある世界の中で、残り少ない自由な時間で《殿宮》を散策するフィリエンテのもとに現れたのは、全身が複数種類の動物の骨のみで構成されたアバターだ。
英語をかなりへんてこな語順で話しており、発声するにおいて基本となる臓器である肺も声帯も喉も頬も舌もないが、コンピューターで再現される声の調子から男性であることが分かる。
「《No problem. thank you,【Mukuro】.》」
骸と呼ばれた全身骸骨姿の男は、独特な微笑みを浮かべながら答えるフィリエンテの手を、細長い骨が伸びる手指でそっと握る。
騏驎の長い首の骨を蛇の胴のように柔軟に動かし、その先にある立派な牙を生やした象の頭の骨を彼女の視線の位置まで下ろすと、カタカタと骨と骨が震える音を立てながら告げた。
「さて、我らがギルドマスターがお待ちかねだよ。お嬢さん」
そして装備画面を開いて[装備:頭部]の項目を触り、そこから開かれた装備品の項目の中から[装備品:首輪]を選び、更に現れた多数のアイテム欄の中から〘五十柱諸神之御魂津御統〙という、眞穹の趣味全開な名を与えられた翡翠の管玉を通したネックレスが描かれたアイコンを選ぶ。
「このネーミングセンスだけは相変わらず慣れないわ」
フィリエンテも苦笑いしながら翡翠の勾玉のブレスレットを身に付ける。彼女の言葉に骸も首肯する。
「だけど、いろいろと面白い人なのは本当だからね」
二人は笑い合いながら画面を操作し、一つの魔法を使う。
すると両者の上下に魔法陣が出現して光の筋と粒を放つ演出が入り、二人をどこかへと転移させてしまい、その場に残るのは神殿へ参拝に来たNPCだけとなった。
フィリエンテと骸が《御中六岐大花社城》、省略して《花社》の中に存在する食堂に到着する頃には、既にギルドメンバーが集合しており、その中には当然ながら眞穹の姿もある。
しかしなぜ集合場所が会議室ではなく食堂で、大量の料理がテーブルや台車に並べられているのか。その理由は一つ。会議のような堅苦しい形式染みたやり方よりも、賑やかに歓談を楽しんで最後の瞬間を迎えたい。この眞穹の意思でこのようなバイキングの形を取ったのだ。
「しかし何時食ってもすげー美味いな。さすがゲーム飯、恐るべし……」
秋冬が特大の鍋から掬い出したカレーを、大盛りの白飯が乗る皿につぎながら呟く。とは言ってもこのカレーライスはなかなかエスニックな仕上がりで、カレーはいわゆるインドカレーで米はタイ米。
加えて香辛料がふんだんに使われているために味や食感の癖が強く、食べる人間を選ぶ代物である。
「いいわね♡あたしにも一口ちょーだい♪」
かななはカレー鍋から離れテーブルに座る秋冬の隣に割り込み、わざとらしいウィンクを飛ばしながらカレーライスをねだって来る。
「嫌だよ、飯くらい自分でつげよな」
四つの膨らみが顔に近付いて来るのを尻目に、がつがつとインドカレーライスを口に運んでいく。その様子を見たかななは、あからさまに残念そうな表情をして隣の椅子に座る。
「んもう……あーんは恋人の醍醐味でしょ?」
甘えたがりの子供そのものの猫なで声で囁くが、彼がかななに返すのは言葉なき答えであり、要するに今が興味あるのは食事のみであることを表している。
見れば冬眠前のリスのように頬を膨らませ、唇の周りにカレーを付着させて咀嚼する様は、品性の欠片も感じられない子供のようにも感じられる。しかも顔立ちは仮想空間であるが故に整っているために、余計に悪目立ちする。
更に彼の席にはいつ取って来たのか誰に運ばせたのか、テーブルを埋め尽くすほどに大量の皿も並べられており、ここまで来ると幼いと言うより、意地汚いと言っても過言ではない。
もちろん摘まみ食いや横取りは許さない徹底ぶりで、普段のトラブルメーカーぶりを除いても、とことん食い意地の張った食欲の旺盛ぶりは、事件や事故の中心となる男という人物像をより鮮明なものとして印象に刻んでいる。
「秋、いくらゲームのアバターだからって食べ過ぎだぞ」
カレーライスがなくなっても、夢中になって次の食事に手を伸ばしてありったけの量を頬張り始める彼を、諌めるように肩を揺らす者が現れる。秋冬は不満げに後ろを向くと、そこには呆れ顔でやれやれと首を振る水生が立っていた。
食事の邪魔をされたことで機嫌が悪くなり、あからさまに嫌味ったらしく文句を垂れ始める秋冬に対し、水生は彼の言葉を特に気にすることなく近付いて行く。
そしてその手にはティッシュペーパーがあり、かななも悔しげに眉を顰めて視線を逸らす。
「それに焦り過ぎ。口の周りが汚れてるじゃん」
そう言ってティッシュペーパーを口へと押し付け、不良染みた背格好からは想像もできないほどに丁寧な手付きで、口周りに残った米粒やカレーのルーを拭き取る。
水生の目は怒っているが口は少し笑っており、秋冬も彼女を睨んでこそいるがその手を払い除けることはせずおとなしく口を拭かれているために、傍から見れば手のかかる弟を世話する姉という構図が出来上がっている。
その様子を見る一部のメンバーも和やかな雰囲気に頬が緩み、二人の今後へと話題を変える者もちらほらと居るようだ。
『はい、ちゅうもーく!』
そしてその中に一人、盛大に場の雰囲気を変えようとする人物がいた。
『いきなりだけどみんなにしつもーん!秋冬くんと水生ちゃんはくっつくと思う!?思わない!?どーっちぃー!?』
上を見れば派手なドレスを纏う幼い少女の姿をした妖精アバターが、甲高い声をやかましく食堂に響かせてぐるぐると円を描くように飛び回っている。
腰には“ぶっちぎりHigh Tension Everyday!”と書かれた帯を巻き付け、手にはマイクも握られており、健康的な褐色の肌色からも分かる通り、帯の文句に違わぬ快活な印象である。
「おいやめろバカ!」
だが、彼女はとにかく何かを喋っていないと気が済まない性分で、あることもないこともまるで関係なく口にするため、食事を中断してまで彼女を止めようとしている秋冬に次いで、《やまとまほろば》メンバーが起こすトラブルの中心人物でもある。
そしてよく見ると、彼女に悪戯かなにかをされたらしい愛善とアンセムが何やら叫びながら追い回している。男二人と女一人の追いかけっこを見上げながら、かななと水生のいるテーブルに来た回は呆れを隠さずに一声。
「三バカとアホ一人は放っときましょう」
そして、目の前の皿に乗るロールケーキにフォークを滑らせ、適度な大きさに切って口に運ぶ。三バカとは無論秋冬、愛善、アンセム、アホ一人とは三バカに追われている妖精のことである。
「そうだね。アタシもお腹減ってるし」
水生も少し笑って答え、テーブルに残された大量の料理の中からサラダを手に取る。かななは不満な顔のままだが、黄粉餅の乗った皿を選んで手に取った。
一方、空中での追いかけっこは既に白熱し始めており、逃げる彼女が逃げ切るか否かを賭ける者もいるほか、厄止も笑いを堪えながら見守っている。
この騒ぎで一段と賑やかになった食堂は、もう暫くの間寂しさとは無縁になるに違いない。
「えっと……〖Dance to you night ON Re〗だっけ?‘もう一度君とこの夜に互いに手を取って、朝日が昇るまで踊りましょう’ってやつ」
その頃の眞穹はヴラグツェン、GUN.Dとともに話に花を咲かせている。現在の話題の中心はヴラグツェンが現実で所属している楽団、《烏》が手掛ける音楽についてである。
この話は先週発売したばかりのニューアルバムの売上が早くも今日ミリオンを達成した、という信じ難い報告がきっかけとなって始まったのだが、そのアルバムを眞穹が現実で購入したと聞いた途端、興奮したヴラグツェンが身を乗り出して笑い顔の仮面を被る顔を寄せた。
GUN.Dすらも呆れ顔を浮かべるほどに、それはもう長いこと会っていなかった親と再会した子供のようで。
「ありがとうございます!曲聴いてくれたんですね!」
脱げかけの仮面から見える若々しい光の灯った目をぐいぐいと近付け、眞穹への感謝を口にする。眞穹はとにかく距離が近いヴラグツェンに対して苦笑いを浮かべ、宥めるように両掌を向けている。
「う、うん……とりあえず、まず落ち着いて」
しかし当人は感情の抑えが利いていないらしく、いつの間に手に持っていたのか両手に持つマイクの片方を眞穹に差し出し、「一緒にデュエットを歌おう」とまで言い出す始末。
それも自分たちの座る席に、彼女が近付いて来ていることに、微塵さえも気付かないまま。
「今すぐ降りろ!聞こえてんのか!……にしても美味ぇなこのリンゴ……」
少女一人と男三人の鬼ごっこの最中、食欲を抑えることにやはり耐えられなかった秋冬が、両腕いっぱいに果物を抱えて食堂を走り回っていた。
メンバーたちは最早止める気すらないらしく、相変わらず食事を楽しんだり雑談をしたりと賑やかなままで、両者を対象とした賭けも続いている。
「止まれ【まつりか】!何恥かかせてくれてんだよ!」
褐色肌の妖精、まつりかを追う一人である愛善は、まさに{鬼}らしく牙を剥き出しにした怒り顔。
「イい加減にしろ!なぜお前は最後までおとなしくできないんだ!」
{サイボーグ}そのものであるアンセムが、背中と足のジェットから炎を吹き出している様は、まつりかへの怒りをそのまま推進力に変えているようにも見える。
「いいじゃんいいじゃん!ギルマスに会えないなんて退屈だもん!」
三人に追われ怒鳴り付けられてなお、彼女は絲耄たりとも反省の意思を見せない。それどころか更に怒りを煽る発言までしてのける。
「「「ふざけんな!」」」
自分の挑発に三人同時に答えたのを確かめると、一切の迷いなく地上へと降りて走り出す。飛んでいた三人もまつりかに続き、食堂の床へと足をつけて彼女を追い続ける。
そして彼女が、まつりかが目指す場所は、一つ。
「我らがギルマス!日ちゃんにしつもーん!」
ヴラグツェンにマイクを迫られていた眞穹の目の前に自分のマイクを差し出し、問いかける。
一方デュエットの交渉をしていたヴラグツェンははっと我に返り、ゆっくりとマイクを下げた。
「え、あの……質問ってなに?」
急に質問を投げ掛けられ、困惑気味の様子である眞穹だが、まつりかはそれに構わず質問の内容を吹っ掛ける。
「春夏秋冬くんと水生ちゃんは今後くっつく?くっつかない?どっち?」
信じられない問いかけに、思わず目を見開いてまつりかと彼女の後ろで固まる秋冬、愛善、アンセムの三人を見遣る。
くっつく?どういう意味だ?と思考を巡らせようとするが、今日の昼に自分とカヤメがしたことを思い思い出し、はっとして考えるのを止めた。
くっつくと言うのは当然ながら恋仲になることであるが、根っこが悪戯好きなまつりかのことだ。おそらく秋冬と水生が何かしら“仲が良い”ように見える行為をしていたのを、彼女が目敏く見つけて過剰に誇張しているのだろう。
正直に言って、これは本人たちの問題であって眞穹自身は興味も関係もないことである。だから意味もなく真面目に取り合う必要などないし、嘘を吐いてまで悪戯に肩入れする義理もない。
小さく溜め息を吐くと、自分に向けられたマイクに口を近付け、彼女を諭すように返事をした。
『まつりか。そういうのは本人に直接聞くべきなんじゃないかな』
つまり、無回答。期待していた返答を得られなかったまつりかは、褐色の頬を赤くして膨らませ、あからさまに不満を露にする。しかし眞穹にしてみれば、下手に質問に答えてしまうと「今日が最後なんだから」と更なる質問責めに遭うのは必至。
彼女にとって微妙な受け答えをしてしまえば最後、せっかくの晩餐がめちゃくちゃなトークだけで終わってしまう可能性があるために、まつりかの質問は御免被りたいのである。
「ちぇっ!日ちゃんつまんなーい!」
不満を口にしてあかんべぇをしたかと思えば、そのまま三対一の追いかけっこを再開し、食堂内を飛び回り始める。ちっとも行動を変えない四人にやれやれと言いたそうな態度で手を振り、椅子に座りなおして肩を落とした。
だが、すぐに気を取り直して髪を整え、珍しく後頭部で結ぶ。眞穹を慰めるように、GUN.Dが彼の頭を撫でたからだ。
「それじゃ、気を取り直して……」
笑顔を絶やさないヴラグツェンに苦笑いを向けつつ、マイクを受け取って立ち上がる。
「一曲歌おうか」
カヤメはぼんやりと四人の追いかけっこを見上げながら、十数分前の会話を思い出す。
((本当にごめんなさい!))
((あたしからも謝ります!本当にすみません!))
((いや……あの……))
((あたしが変なことカヤメちゃんに教えちゃったばかりに……))
((とにかく、すみません!))
((えっと……大丈夫!気にしてないから!))
少なくとも、あの時の彼の言葉は嘘ではない。謝罪を受け止めてくれたのは事実であるし、赦してくれたのだろう。しかし、だからこそ不安なのだ。確かに自分も体液で布団を汚したが、相手である眞穹にも夢精をさせてしまっている。
これは恥ずかしいにもほどがあると言うもの。本当は怒っているのではないのか、眞穹が帰って来たとき自分たちに謝ってくれたように、自分も彼を怒らせているのではないか、と。
ふとメニュー画面を開いて時計を見れば、時刻は午後11時30分。もうこの世界には、僅かな時間しか残されていない。
最早迷っていられないと理解し、そして自分の本心を確信する。
(もう一度謝って、今度こそ本心で“好き”って伝えなきゃ)
決心はついた。後は実行するのみ。カヤメが眞穹の元へと向かうべく席を立ったその時、食堂の照明がいくつか消え、音楽が鳴り響き始める。
プレイヤーもNPCも何事かと周囲を見回し、上空の追いかけっこも止まる。
薄暗い中、ひときわ明るく照明が輝いている方へと視線を向ければ、ドラムを広げてリズムを取るヴラグツェンがいた。
(ヴラグツェンさん何して……)
理解が及ばないと困惑するカヤメに、きりたんぽが近付いて来る。そして、興奮と驚愕の色が交ざった声で説明を始める。
「ありゃあ烏の新曲だ!しかも生演奏なんて!」
アグオスも遠目から様子を見ながら、少し嬉しそうに溢す。
「(何がなんでも贅沢させようってのか。侘寂の欠片もない、粋な計らいってやつかね)」
やがて前奏も終盤に差し掛かり、一人の人物にスポットライトが当たる。そこに立っているのは、そこで歌っているのは、そこへ至っているのは、もちろん眞穹ただ一人だ。
‘今夜は満月だから 天の川は見えないけど’
己の想い人の声だからなのか、それとも本人に才能があるのか、はたまた音楽の効果なのか。
‘何年ぶりかな流れ星の 群れがやってくる’
その歌声は一言一句として、何一つ耳に逆らうことなく心に響きわたる。
‘綺麗な光の雨が もうすぐ見えて来るよ’
また、ヴラグツェンの奏でるドラムの音、彼が歌うコーラスの声も、見事の一言。
‘あの月にも負けないくらい 強く強く輝いて’
声に力がこもり、その場にいる全員の魂を震わせるような音へと変わる。
‘流れ星が煌めく空に ただ一つの祈りを捧げ’
いつしか、ヴラグツェンと眞穹のデュエットに場の全員が聞き入っていた。
‘さあ もう一度君とこの夜に 互いに手を取って’
それは、ここにいる全てのものと、この世界に別れを告げなければならないと言うのに、あまりにも楽しそうで。
‘朝日が昇るまで 踊りましょう’
満面の笑みを浮かべて、歌っている。
その後も特に問題なく、宴が終わりへと近付いてゆく。談笑する者、大食い勝負をする者、後片付けを手伝う者、夜風にあたる者、煙草を喫む者、酒を呷る者、歌い続ける者、赤面する者、遊ぶ者。
日付が変わるまで、残されるところ10分となった頃、カヤメと眞穹は二人で寄り添い合っていた。
昼間の情事を思い出して頬が少し紅潮してはいるが、それ以外は健全である。
「寂しくなるね……」
ほどいた自分の髪を整え直しながら、カヤメに言葉をかける。彼女もこくこくと頷きながら呟く。
「そうですね……」
輝く銀髪が頬から喉にかけての肌を柔らかく擦り、仄かな甘い香りが鼻をくすぐる。場の騒ぎなどどうでもいいとばかりに、二人だけの空間が出来上がっている。
「……眞穹さん、大好き」
カヤメはあの時のように、昼間の会議室の時と同じようにひしと抱き着き、偽りのない思いを告げた。
もう、よほどのことがない限り迷うことはない。
確かな自信がある。
「また、現実の世界で会えたらいいね」
お互いに曇りも霞みもない瞳を向け、眞穹も答えた。だが、普段の女性的な高い声ではなく、少し格好つけた低い声で。
「うん。もう一度会えたらいいね」
サービス終了まで残り7分。最期にして最後の瞬間へのカウントダウンが始まった。