〖Evolution Souls Online the World Edition〗をお楽しみ頂いている、全てのユーザーの皆様、全てのプレイヤーの皆様にお知らせします。
本作〖EVSON-THWOE〗の運営総括を担当しております、《株式会社日本電脳遊戯興業研究所》です。
先日2095年8月31日に発表致しました本作のサービス終了時刻となる、明日11月25日午前0時を迎えるまで3分を切りました。
多くのプレイヤーの皆様がお集まりになられている中でありますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
この度は本サービスの提供終了に伴いまして、これまでご愛顧をいただきましたプレイヤーの方々、本作を支えて下さった全てのスタッフへの感謝の意を込めて、短いながらこのメッセージを送付させていただきます。
サービス開始より30年間、多くの困難や問題を乗り越えて運営を続けらたのは、ひとえに本作をプレイし楽しんで下さるプレイヤーの皆様、本作を彩る楽曲等を手掛けて下さるアーティストの皆様、そして弊社の全スタッフとその家族の皆様に支えられて来たからこそと存じております。
全世界累計3094万7178名のユーザー及びプレイヤーの皆様、今日この日まで本作をご愛顧くださいましたこと心より御礼申し上げます。
また本作は開発運営元である弊社にとっても、かけがえのない思い出をいただいた作品でもございます。
全てのプレイヤー皆様が、全てのスタッフの皆様と共に過ごした30年間は、私どもにとって最も大切な宝物です。
今日までこのEVSON-THWOEと共に歩んで来たことを誇りとし、改めましてこの場をお借りし、心からの謝辞を申し上げます。
短い文となりましたが、間もなく期限となる11月25日午前0時ちょうどを迎えるため、EVSON-THWOEの全サービスの終了を告知させていただきます。
このメッセージを最後まで読んで下さった皆様、そして本作を最後まで楽しんで下さった皆様、誠にありがとうございました。
それでは、またいつかどこかでお会いしましょう。
アナウンスとともにEVSON-THWOEを構成する全てのシステムとプログラムが消失し、真っ暗な視界の中に白いドットで[SIGNAL LOSS]と表示される。
まず20秒。その表示に明度の上下や表示自体の移動と言った変化はない。
21秒から40秒。表示は静かに点滅を始め、1秒毎に点滅が早くなり、遂にはほぼ変化が捉えられなくなる。
そして、40秒から60秒。[SIGNAL LOSS]の文言は[NO SIGNAL]の文言へと変わり、その下にタイプライターで文字が打たれる演出とともに、先ほどのアナウンスの続きである、最後の感謝の一文が記される。
[30年間、Evolution Souls Online the World Editionをご愛顧頂き、ありがとうございました。お楽しみ下さった皆様、開発及び運営に携わって下さった皆様へ、この場を借りて心より深く感謝いたします。]
この文言に句読点が打たれて10秒後、『お疲れ様でした』という機械音声とともに意識が現実世界へと戻される。
「……また現実で会えたらいいね……か……」
茅芽と約束したわけではないが、もう一度会いたいと思うのは当然のこと。念のため連絡先の交換はしているが、会える機会も場所もあるため後でメモすればいいだろう。
と、ここまで考えていた。信じられないほど心が軽い。何しろ昨日の昼までの2ヶ月と24日の間、彼の心はまるで空虚のようで、しかも真っ暗だった。
だが今は違う。昨日の半日という短い時間を仲間たちと触れ合っただけで、これま寒空のようだって心中に温かく明るい灯が宿り、今まで鬱ぎ込んでいたのが嘘のように明るくなっていた。
今であれば何でも軽々とできそうな、どんなことでも失敗しなそうな、そんな気がする。日嗣は蓋を開いた胎場から体を出すと、これからしたいことを脳内で整理し始める。
しかし間違いなくしたいことではあるが、同時にしなければならないことでもあるとも認識しているようで、その思案はすぐに纏まるようなものではない。
(まずは、そうだな……)
胎場の付属器具を外しつつ、機械の電源を切ってコンセントからもプラグを抜く。部屋の電灯を点けて、まだ蓋を開けたままのゲーム機を見つめながら、眠い目を擦ってもう少々考えを整理し、廊下の部屋の明かりを消して廊下へと出る。
(新作の構想を考えないと。新しい企画のプレゼンとかも……)
冷たい床が足の裏に触れ、冷えきった空気が全身を包み、今年の冬が到来していることを自覚させられる。頭は少し冴えていて、気持ちも落ち着いているが、今は今日の仕事に備えて体を休めなければならない時間。
考えごとをしながら月明かりで青白く染まる廊下を進み、階段を降りて自室へと戻る途中の玄関で、姿見に映る自分の姿を見た。
(……風呂を出た時よりは……少しは男っぽくなったかな?)
パジャマの袖口も裾口が少し余る平均より小柄な体格、くたびれたスーツがぶかぶかに見える細身の体型、日頃のストレスで日を追う毎に増えつつある白髪、前髪で隠される整った顔。
それら全てを見慣れてはいるが見馴れてはおらず、同時に見覚えてはいるが認めることのできない自分の姿。女顔は健在のままだが、思い込み効果が脳内で働いているからか少し凛々しい印象にも見える。
しかしそれでも長い間変わっていないものは簡単に変化することはないと言うことで、一度目を閉じて再び瞳を露にすれば、先ほどまでの印象は雲散霧消し元の木阿弥と成り果てた。
(努力しなきゃだめってことか……残念)
変化らしい変化のない自分に落胆しながら、改めて寝室へ向けて足を動かす。どっと眠気も全身を巡ったことで欠伸も口から吐き出される。
足拭きの絨毯さえもない冷たい床を、一昨日の夜中ほどではないが覚束ない足取りで歩き、朧気な意識の中で扉の取っ手に手をかけた。
数時間後、日が昇り朝焼けが空を満たす頃の駅。
出発時刻数分前の電車の席で、日嗣はタブレット端末を手に文章を書き綴っている。業務とは全く関係のない、個人趣味で作っているものだ。
その様子が妙に楽しそうなのは見間違いであろうか、否、楽しくないわけがない。
(…………今はこれくらいにしよ)
暫く夢中になって書き続けると、一段落ついたのかタブレットを鞄に片付け、音声案内とともに自動扉が閉まるのを合図に、まだ利用客は数える程度しかいないにも関わらずなぜか席を立つ。
そして、姿勢を正して堂々と胸を張り、革靴の先端をしっかりと前へ向け、先頭車両へ向かって歩き出した。
(やっぱり、電車は前の車に居る方が楽しいや)
鞄を小脇に抱えてわざとらしく大股で歩みながら、鼻歌交じりに頭の中で呟く。灰色のコートの裾から黒いズボンに覆われた細い太ももが、その黒ズボンの折り畳まれた裾から黒い靴下に包まれた細い足首が、そしてコートとセミロングの髪の間からは細く滑らかな項が、それぞれ誇るように揺れる。
それこそ目元の隈、顔から喉にかけての痣と傷痕が少々目の毒だが、端整で女性的な顔つきから来る明るい表情も含めて、全身から美麗という印象が振り撒かれて車内を満たしている。
「うーん……あの辺りにしよう」
最後の扉を開けて先頭車両に到り、選んだ席は車内で一番日当たりの良い朝焼けの見える窓際の席。仕事道具が入る鞄を両手で抱え、座席にゆっくりと腰を下ろす頃には警笛とともに電車が走り出す。
動き始めた電車ががたごとと線路の継ぎ目継ぎ目で規則正しく車輪を鳴らす音に耳を傾けながら、日嗣は朝焼けの中からゆっくりと顔を出す眩いばかりの太陽を眺め、今日一日の八割を占めることになるであろう激務を思うのであった。