※この作品はR-18です。

(仮題)サ終から始まる人間関係   作:御代川辰

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No.00-2.1C ご対面

 日嗣(ひつぎ)と茅芽(かやめ)が連絡先の交換をしたのは昨日(きのう)の夜、《磯城心安(しきうらやすの)明津大殿宮(あきつおおとのみや)》での《やまとまほろば》の宴(うたげ)の席でのこと。

 

 ゲームの中でメモをしても現実の世界には持ってこれないのだが、連絡先の一切(いっさい)を奇跡的に記憶していたために今(いま)のような連絡ができている。文明の利器の恩恵とは少し違うが、この携帯電話には感謝しなければなるまい。

 

(……10時ちょうど。待ち合わせ場所は須平(すびら)駅の駅喫茶の入り口)

 

 腕時計を見て時刻を確かめた後、まだ人の多い駅前の通りを早足で渡り、駅舎の中へと駆け込んで駅内の喫茶店へと急ぐ様(さま)には誰も見向(む)きもしない。そのまま靴音(くつおと)や話し声、音声案内(アナウンス)の喧騒が響(ひび)く駅舎の中(なか)を走り抜けること数十秒。

 

 天井近くの壁に書き連(つら)ねられた多数の看板の中のひとつに、《Coffee And Liqueur AGUOTH》という洒落(しゃれ)たカフェテリアの看板が見え、その入り口で手を振る二人の男女の姿もある。

 

 茶髪の少女は言わずもがな新笠(にいがさ)茅芽(かやめ)であり、彼女の隣(となり)に立つ同じ髪色で、なぜか仏頂面(ぶっちょうづら)の青年は【軽川(かるかわ)旦至(あさちか)】。ワイシャツとデニムのエプロンという服装からも分かる通り、あのAGUOTHという喫茶店のスタッフであるようだ。

 

 自然な微笑(ほほえ)みを浮かべ、同じように手を振りながら彼らの元へ歩(あゆ)み寄(よ)れば、旦至(あさちか)は仏頂面(ぶっちょうづら)を少し和(やわ)らげて同じように微笑(ほほえ)む。

 

 直接面識はなくとも、茅芽(かやめ)ととても親(した)しげにしていてその近くに見覚えのある言葉があるのであれば、警戒心が解けるのは普通のこと。プレイヤーとしての名の由来は、プレイヤー自身の勤務先の名前だったと言うことだ。

 

「現実(こっち)で会うのは初めてですね。こんばんは、日嗣(ひつぎ)さん」

 

 旦至(あさちか)は軽く会釈をし、短(みじか)めに切り揃えた茶髪を片手で整(ととの)えながら挨拶する。

 

「うん。はじめまして」

 

 日嗣(ひつぎ)もお辞儀をしながら挨拶を返し、彼に視線を向(む)ける。しかしすぐに茅芽(かやめ)も旦至(あさちか)に短(みじか)く礼を伝えると、待ちきれないとばかりに日嗣(ひつぎ)の手を引っ張って昇降場へと急ぎ駆け出す。

 

 旦至(あさちか)はその様子を楽しげに眺(なが)め、二人の後ろ姿が見えなくなるまで駅舎の通路に立ち止まり、その後閉店作業を再開する。彼以外のスタッフはほぼ全員が帰宅を終えているようで、カウンターの中では喫茶店の店主らしき老齢の男が戸棚(とだな)やコースターの清掃作業をし、もう一人のポニーテール状に髪を結(むす)ぶ年若い女性は客席のテーブルや椅子を布巾(ふきん)で拭(ふ)いている。

 

 閉店作業を続ける二人に挨拶をしながらワイシャツの袖(そで)を捲(まく)り、そのまま迷いなく厨房(ちゅうぼう)を目指して足を進める。そしてカーテンを潜(くぐ)り抜けて調理場の掃除を始めようと、掃除用具入れの取っ手に手をかけたその時に店主から声をかけられた。

 

「今(いま)女の子に連(つ)れて行かれた男(やつ)もお前の友達か?」

 

 箒(ほうき)と塵取(ちりと)りを手に後ろを振り返ると、厨房(ちゅうぼう)とカウンターを隔(へだ)てる覗(のぞ)き窓(まど)越(ご)しに、穏(おだ)やかな笑みを浮かべる店主と女性従業員の顔が見える。

 

 旦至(あさちか)は先ほどまでの笑顔を苦笑いの表情に変え、無言のままごまかすように掃除を始める。もちろん目は口ほどに物を言うのことわざ通り、二人の視線から発せられる圧は重苦しく彼にのし掛かってくるので、箒(ほうき)を掃(は)く手には力(ちから)がない。

 

 別に話(はなし)をしながらでも掃除は進められるのだが、噂話(うわさばなし)のような乗りで日嗣(ひつぎ)と茅芽(かやめ)の関係を他人に告(つ)げ口できるほど口が軽いという訳でもないし、かと言ってこの場の二人に睨(にら)まれたままでは掃除に集中できない。

 

(あんたがたには変な噂(うわさ)を広められたら困(こま)るんですよ……)

 

 だがここで二人の(・)関係にせよ、二人と(・)の(・)関係にせよ、どちらかを下手に口外(こうがい)してしまえばあることないことを詳細を何も知らない客にくっ喋(ちゃべ)る可能性があり、そこから尾鰭羽鰭(おひれはひれ)がついてめちゃくちゃになってしまうかも知れない、と身を震(ふる)わせる。

 

 とにかく何がなんでも、このカフェテリアの店主である老人とその孫娘からの質問に答(こた)える訳にはいかないのだ。

 

「「じ~」」

 

 思いの外(ほか)口の堅(かた)い様子の旦至(あさちか)にとうとう業(ごう)を煮やしたようで、二人して自分の口で効果音を発し始める。対して旦至(あさちか)も精神的圧(プレッシャー)が更(さら)に数倍増(ま)しとなり、後(うし)ろから角(つの)を生(は)やした二人がゆっくりと迫(せま)って来る幻覚まで見え始めている。

 

 ここまで来ればもう逃(のが)れようがなく、完全にお手上げである。観念したように溜め息を吐(つ)き、片手間(かたてま)に掃除を続けながら詳細の説明を始めた。

 

「あの人は日嗣(ひつぎ)さんって言うんですけど、私の年上の友達なんです」

 

 店主と孫娘は「「おお~」」と同時に口を開(あ)ける。

 旦至(あさちか)は興味津々な二人に呆(あき)れつつ、日嗣(ひつぎ)と茅芽(かやめ)について語(かた)るのであった。

 

 

 

 

 

 アグオスこと旦至(あさちか)が勤務先の上司二人による質問責めに遭(あ)っている頃、日嗣(ひつぎ)と茅芽(かやめ)の二人は客数の少ない夜の電車の座席で寄り添い合うように座っていた。出発時刻はとうに過ぎて電車は動き出しており、二人の自宅がある町に位置する駅まではまだ1時間程度かかる。

 

 普段の電車での往来は到着まで待つ時間が退屈であるのだが、今回は恋人どうし二人一緒であり、寂(さび)しくもつまらなくもない。互いの体温(たいおん)を確かめ合うようにひしと身を寄せ合い、手を確(しっか)と握(にぎ)って電車の揺れに身を任せ、二人の心(こころ)を満たしている。

 

(現実(ここ)だと不自然だけど……本当に綺麗(きれい)な髪……)

 

 日嗣(ひつぎ)の肩に寄りかかりうっとりとした様子で彼の横顔を見つめる茅芽(かやめ)は、艶(つや)がなく傷みの目立つ黒髪の房(ふさ)と透き通った白髪(しらが)の房(ふさ)が交じる独特な髪に感動を覚えており、知らず知らずのうちに頬(ほほ)を紅潮させて息も荒(あら)くしていた。

 

 彼の髪を指で梳(と)かしてみたいという抗(あらが)い難(がた)い衝動に耐えつつ、少しを身を離して肩から上の部分を観察していく。

 

(……良いにおいもする)

 

 睡眠時間が短(みじか)く食事量も少なく、長時間の勤務で疲(つか)れとストレスも溜め込んでいるであろうにも関わらず、せめて衛生状態は保(たも)とうと努(つと)めていることが感じられる。

 

 くたびれてはいるが汚(よご)れのない服、色白で血の気は少ないが温(あたた)かな体、頼(たよ)りない女性的な目鼻立ちだが愛嬌のある顔。相手がその人であるという理由だけで、その全(すべ)てが魅力的に見えるのはまさしく恋の魔法と呼ぶべきであろうか。

 

 茅芽(かやめ)は電車の窓(まど)に写(うつ)る自分の目と、窓(まど)から夜空を見つていめる日嗣(ひつぎ)の目が合うのを確かめる。彼が窓(まど)を介して自分の顔に向(む)けられる気付き、少し微笑(ほほえ)みを浮かべるのを見るや否(いな)や、嬉しそうに頷(うなず)き少し離れていた腰どうしをもう一度くっつけるようにして姿勢を正(ただ)す。

 

「…………好きです」

 

 そのまま肩を寄せて腕を抱きしめ、自(みずか)らの柔(やわ)らかな頬(ほほ)を日嗣(ひつぎ)の肩に擦(す)り付けるような動きをし始める。これに対し面倒な子供を見るような困(こま)り顔で、だが嬉しさを隠(かく)さない笑顔で彼女を見つめつつ頭を撫で、自分の髪とは違い傷(いた)みのない滑(なめ)らかな茶髪に指を通す。

 

「僕も好きだよ」

 

 走る電車に揺られ、繊月(せんげつ)の浮かぶ夜空に見守られながら、二人は人の目などないかのように寄り添っている。

 この和(なご)やかな雰囲気に包まれた時間は、もう暫(しばら)く続くことだろう。

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