※この作品はR-18です。

(仮題)サ終から始まる人間関係   作:御代川辰

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No.00-2.2B また明日

 その後も興奮覚め止まぬ時間を過ごしつつも、二人の乗る電車は無事に降車駅に着(つ)いた。停車と同時に寄り添い続けた席(せき)を離れて昇降場に降り、駅員に切符を返すと一昨日(おととい)と同じようにここで別れて家路(いえじ)に就(つ)こうと足を進めようとする。

 

 が、茅芽(かやめ)の方は名残(なごり)惜しげに後(うし)ろを見遣(みや)りつつゆっくりとした足取りで歩き、対する日嗣(ひつぎ)は照れ隠しのつもりなのか足早(あしばや)にこの場を去ろうとするなど、幾分(いくぶん)か対象的な行動を取るのは気のせいだろうか。

 

(……そう言えば、日嗣(ひつぎ)さんって)

 

 唐突に湧き出た疑問を抑(おさ)えきれず一端(いったん)足を止めて振り返り、だんだん遠くなって行く想(おも)い人(びと)の後(うし)ろ姿を暫(しばら)く見つめると、もう一度正面(しょうめん)へと視線を戻して歩き出す。

 

 街灯の青白(あおじろ)い光で長く伸ばされた影もまた、ゆっくりと足の動きをアスファルトに写(うつ)している。今回はあまり彼と話(はなし)をしていないが、どうしても気になることは気になる。

 

 一昨日(おととい)の帰りに相席(あいせき)した時は、日嗣(ひつぎ)はゲーム関係の大企業に勤(つと)めていると言っていた。しかも、企画と開発とメンテナンスを同時に受け持つ最重要部署に所属しており、その責任者であることもあっさり明かしてくれた。

 

 ここまで聞けばもう見えて来る。最後のアップデートを節目(ふしめ)に2ヶ月と二十数日に渡(わた)ってログインしなかった理由、5、6人がかりでようやくまともに巡(めぐ)るギルドの所有物件全体の管理を一人でこなす技量、そして個性と自己主張の塊(かたまり)のようなメンバー49人を纏(まと)め上げるリーダーシップ。

 

 いずれも一朝一夕で修得できるような能力ではないし、ゲームをやりこむだけでは不足の多すぎるものである。好きこそ物の上手(じょうず)なれと言う諺(ことわざ)通り、相当な努力の末(すえ)に運営スタッフとしての立場を勝ち取ったのは想像に難(かた)くなかった。

 

(でもまさか運営の……電遊興の社員さんなんて夢にも思わなかった……)

 

 伊達(だて)に14年間EVSON-THWOEに入れ込んできた訳ではない。プレイヤーとして楽しみ、クリエイターとして楽しませ、その両方に向ける熱意にさえある種の執念に近い感情が見え隠(かく)れしているのだから、素人(しろうと)であるはずの茅芽(かやめ)も日嗣(ひつぎ)への敬意を示(しめ)さずには居られない。

 

 今度(こんど)は足を止めずに後(うし)ろを見る。当然ながら、彼の姿はどこにも見当たらない。人影のない駅前通りを一通り見つめ、改(あらた)めて正面を向(む)き、我が家を目指(めざ)し駆け出す。

 

(お仕事、頑張ってください!)

 

 走(はし)りながら心(こころ)の中で精一杯の気持ちを込めて叫(さけ)びつつ、家路(いえじ)へと急(いそ)いだ。

 

 

 

「ん?」

 

 ちょうど同じ頃、茅芽(かやめ)の自宅とは反対方向にある自身の家に向(む)かっていた日嗣(ひつぎ)は、何とも不思議で不審な感覚にとらわれて、家路(いえじ)へ進む足を止めて後(うし)ろに振り返(かえ)った。わざわざ後(うし)ろに顔を向(む)けたのは他でもない、後(うし)ろから声が聞こえた気がしたから。ただそれだけのこと。

 

 もちろん雪が降っていないとは言っても、この冬(ふゆ)時期の夜中に外を出歩く人などたかが知れている。街灯が淡(あわ)く輝(かがや)く道には、日嗣(ひつぎ)一人しか人がいない。だから気のせいかとも考(かんが)えたが、よく思い返(かえ)せば気のせいなだけだと片付けるにはやや不自然な内容であることに気付く。

 

(…………本当にもう…………)

 

 「声を掛けられた気がした」という曖昧(あいまい)な感想とは裏腹(うらはら)に、誰の声だったのかははっきりとしていて、どのような言葉だったのかさえも聞き取ることができている。それは己(おのれ)の想い人の声で、「お仕事頑張ってください」という応援の言葉である。

 

 即(すなわ)ち、彼女が心(こころ)の内(うち)に仕舞(しま)ったと思っていた応援の叫(さけ)びは、彼の心(こころ)に迷いなく伝(つた)わっていたと言うことになる。

 まさしく以心伝心。茅芽(かやめ)が日嗣(ひつぎ)に向(む)ける恋慕(れんぼ)が、如何(いか)ほどに強(つよ)く一途(いちず)なものなのかが容易に伺(うかが)い知れる。

 

 これ程(ほど)までに自分を思い、愛してくれている。たかが二、三年程度のゲーム仲間という関係から恋人同士、果(は)ては男女の関係にまで進展した、決して深(ふか)くも親(した)しくもない関係だと言うのに、自分に期待をかけて応援までしてくれている。ならば応(こた)えない訳にはいくまいと、日嗣(ひつぎ)は意を決して歩(あゆ)みを進める。

 

(僕も、頑張るから)

 

 この日は両者の思いが交差した夜。月はまだ淡(あわ)い輝(かがや)きを放(はな)ちつつも、空には少しずつ雲が広がって行く。誰もが寝静(ねしず)まった街にもまた、寂(さび)しくも優(やさ)しい足音(あしおと)が小さく響(ひび)いている。

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