※この作品はR-18です。

(仮題)サ終から始まる人間関係   作:御代川辰

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No.00-2.2C 夫婦(めをと)、そして子

 視点は暫(しば)し日嗣(ひつぎ)から外(はず)れ、また時間も進んで翌午前六時頃の郊外。寒空(さむぞら)の下に広がる集合住宅の一室で、一組の男女が寄り添って眠(ねむ)っている。その二人は夕べの電車で日嗣(ひつぎ)と茅芽(かやめ)の斜向(はすむ)かいの席に座っていた人物たちである。

 男は【文谷(ふみや)吉徽(よしき)】、女は【文谷(ふみや)紅(くれない)】。どちらもつい先日サービスを終了した〖EVSON-THWOE〗でのギルド、《やまとまほろば》に所属していたプレイヤーであり、吉徽(よしき)はきりたんぽ、紅(くれない)は兎鹿(うじか)呉藍(くれない)という名前で参加していた。

 

 同一人物である事から当然と言うべきか、若者をからかう癖(くせ)は現実(リアル)でも健在であるようで、昨日の帰宅途中の電車の席で茅芽(かやめ)と日嗣(ひつぎ)のキスを眺(なが)めていた時も、付き合い立ての二人の初(うぶ)っぷりを楽(たの)しんでいたのである。

 この他人が羞恥(しゅうち)する姿を見て愉悦(ゆえつ)する性分(しょうぶん)は本人たちの性生活にもよく表(あらわ)れており、事実二人はEVSON-THWOEに戻(もど)って来たばかりの日嗣(ひつぎ)の目の前で性交渉をしようとしていたし、夕べもベッドが軋(きし)んでマットが歪(ゆが)みそうになるほどに激しく交(まじ)わって現在に至(いた)る。

 

 それも、隣部屋(となりべや)に思春期真(ま)っ只中(ただなか)の息子(むすこ)が居るのも構(かま)わず、一晩中に渡(わた)って繰り返(かえ)しているのだから驚(おどろ)きだ。

 

「……雪か……」

 

 ダブルベッドの部屋側に寝転がる吉徽(よしき)はもう目を覚ましており、カーテンがずれた窓(まど)の外を見つめながらぽつりと呟(つぶや)く。空は分厚(ぶあつ)く積(つ)もった黒い雪雲(ゆきぐも)に覆われ、しんしんと静かに地上に落ちる雪と相まって薄暗い様相を醸(かも)し出している。

 とは言え部屋の中は当然ながら暖(あたた)かく、ふと隣(となり)に目を向(む)ければ、紅(くれない)も静かに寝息を立てながら自分の腕に抱きついている。

 

 もう少し寝ていようと布団(ふとん)を被(かぶ)り、目線を窓(まど)から我が妻紅(くれない)に向(む)けると同時に勢(いきお)いよく扉(とびら)が開(あ)けられた。

 何事(なにごと)かと視線を音の聞こえた方へ向(む)ければ、寝不足(ねぶそく)らしく目の下に真っ黒な隈(くま)を作った中高生程度の年頃の少年が仁王立(におうだ)ちしている。

 

「昨晩は随分(ずいぶん)お楽(たの)しみでしたね……」

 

 少年は暢気(のんき)に眠る母とやれやれと苦笑(にがわら)いを浮かべる父を睨(にら)み付けつつ、まだ筋肉の薄(うす)い体格の割(わり)にドスの効いた不機嫌極(きわ)まる調子の声で迫(せま)る。ボサボサと言うべき髪の傷(いた)み具合も相(あい)まって鬼のようにも見える。

 

 そして少年はその口からやれ一睡(いっすい)もできなかっただの時間帯を考(かんが)えろだのとぐちぐちと小言(こごと)を垂れ流し始める。だが吉徽(よしき)は特に悪(わる)びれる訳でもなく言い訳をする。

 

「まあまあ落ち着けって【憲拡(のりひろ)】。友達が彼氏彼女の関係になったから……」

 

 「少し嫉妬したからだ」と続けようとすると、息子(むすこ)憲拡(のりひろ)は今(いま)まで聞いたこともないほどに大きな声を響(ひび)かせて怒鳴(どな)り着けてきた。

 先ほどまでぐっすりと寝ていた紅(くれない)も驚(おどろ)きのあまり飛び起きているが、吉徽(よしき)は気付かず憲拡(のりひろ)も遠慮はしない。

 

「お祝(いわ)い代(が)わりってか!?安(やっす)い理由だなオイ!」

 

 行き場のない怒(いか)りと不安定な精神状態に心身(しんしん)を任(まか)せ、これ以上ないほどの怒涛(どとう)で再(ふたた)び文句を叫(さけ)び始め、気付けば紅(くれない)と口論になり……と、下らない理由から始まった親子喧嘩が暫(しばら)く続き、それが終わる頃には時計の針は午前7時を示(しめ)していた。

 

 

 

 また時間を進めること同じ日の午後12時30分頃、場面はどこかの高等学校の教室。寝不足(ねぶそく)と今朝(けさ)の一件が重(かさ)なり、酷(ひど)くイライラした様子でサンドイッチにかぶりつく憲拡(のりひろ)を傍目(はため)に、【桐ヶ谷(きりがや)和人(かずと)】は冷や汗交じりに苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

 

「何と言うか……お盛(さか)んな親を持つと大変だな」

 

 二人は同学年の同級生であり、EVSON-THWOEでは同じギルドに所属していて、また憲拡(のりひろ)は和人(かずと)にはいろいろと世話をかけているという、俗(ぞく)に言う腐れ縁である。

 和人(かずと)自身、恋人である明日菜(あすな)との性交渉は何度か経験している身であるが、憲拡(のりひろ)の両親ほど激しく行為をするようなことはしていないため、ぐちぐちと愚痴(ぐち)を駄弁(だべ)る彼に対する答(こた)えも上のような「他人事(たにんごと)」。

 

 しかし両親の過激な性交渉に伴(ともな)う騒音で睡眠時間が削(けず)られるのは死活問題であるため、憲拡(のりひろ)にしてみれば誰かに相談するのは当然と言えよう。だが説得するにしても和人(かずと)と二人だけでは心細(こころぼそ)く、今朝(けさ)の親子喧嘩(おやこげんか)のような事態も起こりうる。

 というわけで和人(かずと)の不謹慎な発言に眉を顰(ひそ)めつつ、お前に言われたくないという趣旨(しゅし)の罵語を吐(は)き捨て、後(うし)ろを向(む)いた。

 

「會田(あいた)先生よぉ」

 

 そして次なる白羽の矢の的として視線を向(む)けたのは、たまたま後(うし)ろを通りかかった【會田(あいた)秋夫(あきお)】。憲拡(のりひろ)の両親である吉徽(よしき)と紅(くれない)がEVSON-THWOE内で所属していたギルド、《やまとまほろば》のメンバーであり、春夏(はるなつ)秋冬(しゅうと)というアバターでプレイしていた古参である。

 

 しかし教(おし)え子(ご)に声をかけられて驚(おどろ)き、「どわっ!」という情けない声と共に転倒するというドジっぷりは現実(こちら)でも健在であり、現実(リアル)での彼の姿と仮想(ゲーム)での秋冬(しゅうと)の実態は見事にリンクしていると言えよう。

 

「何だよ急に!」

 

 床(ゆか)にばらまいてしまった大量の印刷書類(プリント)を慌ててかき集(あつ)めながら、秋夫(あきお)は憲拡(のりひろ)を睨(にら)む。ただでさえ忙(いそが)しい時間だと言うのに面倒事(めんどうごと)に巻き込まれるのは、過去に自分のドジが起こした問題や一昨日(おととい)の一件を鑑(かんが)みずとも御免(ごめん)被(こうむ)りたい所存らしい。

 

 しかしこの場からさっさと離れるべく先ほど落としたプリントを集(あつ)めて整(ととの)えるのを、憲拡(のりひろ)は実に面倒臭(めんどうくさ)そうに手伝(てつだ)いながら続ける。

 

「一つ相談に乗って欲しいんだがよ」

 

 憲拡(のりひろ)は遠慮の欠片(かけら)もなく単刀直入に一言を投げ掛け、和人(かずと)は傲岸不遜にも程(ほど)がある態度に呆(あき)れを隠(かく)すことなく、彼の頭をひっ叩(ぱた)きながら秋夫(あきお)に謝罪を述べる。

 

「すみません!いつも注意するんですけど……」

 

 いつも注意をしていても一向(いっこう)に態度が治(なお)らないのでは話にならない、と内心で愚痴(ぐち)を吐(は)きつつプリントを集(あつ)め直(なお)し、溜め息と共に立ち上がって二人へと視線を向(む)ける。

 無論、怒(いか)りの感情を隠(かく)していられるような状態ではないため、目は少しばかりつり上がっているが。

 

「人にものを頼(たの)む態度じゃねーな」

 

 と、職員室へと急(いそ)ぐのを妨(さまた)げるように、憲拡(のりひろ)は仁王立(におうだ)ちしてまた一言。

 

「話くらい聞けよ」

 

 しかし秋夫(あきお)は立ち上がると同時にいそいそと歩(ある)き出し、不機嫌な心境を隠(かく)しつつ背を向(む)けたまま答(こた)える。

 

「放課後になったらな」

 

 そして、ずかずかとその場を後(あと)にした。

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