日嗣が帰宅中の真夜中の電車の席で出会ったのは、今時珍しい夜間学校に通っていると言う【新笠茅芽】と名乗る女学生。彼女も学業を終えて帰宅途中であり、一人で電車の中で過ごすのは退屈だったようで、見ず知らずの自分が「話し相手になってほしい」と頼まれたのはまさしく偶然であると言えよう。
そして二人が何よりも驚いたのは、茅芽と日嗣が互いに初対面ながらとても馬が合い、互いの興味に沿った会話ができたことである。
この奇跡とさえ言える偶然のおかげか二人は世間話や流行の話題に存分に花を咲かせ、特に日嗣は数ヶ月ぶりに気兼ねなく話をすることができる人間に出会えた喜びを噛みしめ、またEVSON-THWOEでのギルドメンバーたちとの雑談を思い出しながら目的の駅までの道中を楽しい時間で埋め合わせることができた。
満天に広がる星空の真下では、冬から秋にかけて吹く寒風が吹き荒んでいる。夜も更ける街のどの家にも、窓から漏れる明かりはない。
「……疲れた……」
茅芽と別れて駅を出た日嗣が、事故にも事件にも巻き込まれず無事に帰宅して玄関の扉の鍵を開ける頃には、時刻は午前0時を回って日付が変わってしまっていた。ふと思い立って玄関から街に視線を向けても、駅から自宅までの道中と変わらず夜道を歩く人の姿はない。地上の街頭と夜空の天の川だけが煌々と輝き、街は静寂に満ちた穏やかな雰囲気に包まれている。
寂しい心境を隠すように小さく溜め息を吐き、夜遅い時間なのだから人がいないなは当たり前だと自分に言い聞かせて扉を開ければ、その先にはやはり暗い玄関と廊下が視界に入り込んで来る。
「……ただいま」
廊下の電灯を点けながら日嗣が声をかけても、どの部屋からも返事の声は聞こえない。彼は一人暮らしである故に返事がないのは当たり前なのだが、この声かけは拭えない恐怖と寂しさから逃れたい一心での行動だと言えるだろう。
とは言いつつも、自分の言葉に返って来る声が全く聞こえないという事実は、天涯孤独と言っても過言ではない彼の現状を鑑みればその脆弱な精神にしこたま堪えることであることに変わりはない。自棄を起こしたように鞄を玄関先に放ったらかし、悲しげに歯を食い縛って涙を堪えながら、日嗣はまっすぐ風呂へと向かった。
熱で蒸発し空気中で冷やされた水分が湯気となり、風呂場の天井へと登っての行くのを尻目に、今日の勤務中に巻き込まれたトラブルの不満をぶつけるかの如く乱暴に体を擦り、頭をかき回して、湯船に湯が溜まるのを待つ。
度重なるいじめと虐待で心身ともに弱っていた日嗣にとって、10歳になってEVSON-THWOEに出会 い、16歳でネット小説を作り始めるまでは風呂場だけが唯一の逃げ場だった。
痛みが走るほどの力で体の垢と汗脂を摩れば、眠気が薄れて現実逃避に浸る時間に回せる。火傷を負うほどの熱湯に長時間浸かれば、熱いという感覚が前身を満たすために嫌な出来事を思い出すこともない。冷たさで凍えるほどの冷水に頭を浸していれば、自然に頭が冴えて冷静に考え事ができる。
これらの歪んだ逃避行動は現在の臆病で内気な性分を形作る直接の原因となった行為であり、それら全てが他者からもたらされる苦痛から逃れたいという欲求に由来するもの。自傷にも似た危険な行為で身体の清潔が保たれているとは、なんとも皮肉なことではないか。
(っ……頭も体も洗ったばかりなのに……)
シャワーを浴びて体に残った垢と泡を洗い流す途中、体の異変を感じ取った日嗣は股間にあるそれへと視線を移す。そこを見れば、先ほどまでなんともなかったはずの男性器が、その先端がへそに届くほどに怒張している。日嗣自身は長年のストレスの影響で自慰の頻度と回数が少なく、男性ホルモンの分泌も滞って生殖機能も減退していてもおかしくはないはずなのだが。
「どうしよう……」
だが彼の心身の状態とは裏腹に、性器の機能は著しく発達している。まず目に止まるのは、性器の先端がへそに届くほどの長さであること。女性の子宮の最奥より少し高い部分に先端が来る大きさである。次に性器の回りが手首より親指の先一つ分程度太い形であること。日嗣の手首の外周りはおよそ16.5cmで、一インチ分の長さを含めれば直径にして凡そ7cm。
そして睾丸の大きさも握り拳と同じ程度であるなど、外見だけ見ても雄としての魅力がこれでもかとばかりに醸し出されている。更に産毛はおろか毛孔の一つさえない股間、限界まで膨張し脈を打つように動く様子、鍛えられた手のそれと同様に浮き出た血管は大量の血液を海綿体に運んでいる。
そして勃起に伴って包皮の内側から剥き出しとなった艶々と光沢を放つ明るい薄紅色の粘膜を持つ綺麗な亀頭は、性器全体の獣具合とは裏腹に清潔感の塊と言って差し支えない。
「一回……だけ……」
日嗣は自身の性器に血が集まる感覚に意識を注いでいるうちに、ついに欲望を抑えられなくなった。ぬるま湯のシャワーで濡れた髪から手を離し、その指を性器の先端へと触れさせる。
口から静かに漏れる吐息が、タンクから風呂に流れる湯の音にかき消される。柔軟な皮膚に被われた指先が、先ほどまで包皮に守られていた敏感な鈴口を撫でれば、触れた部分を起点に微かな快感が生まれる。
「はぁっ……はぁっ……」
粘膜部分を撫で擦れば、頬は快感と羞恥で朱色に染まり、息使いも浅く、そして荒くなる。
性器への刺激は次第に強くなり、気付けば亀頭全体を温かい手のひらで包んでいた。
「……ふぅ……ふっ……はぁっ……」
やがてもう一方の手も肉棒を掴み、その手を前後に動かし始める。少しずつ快感が強まって行き、悦楽が全身に巡るのを感じながら自慰を続ける。
「はぁっ、うぅっ……うっ!」
重なる刺激と性感に遂に耐えられなくなり、赤々しい先端から白く濁った欲望を、理性ごと押し流す勢いで吐精した。
「んぐっ!はぁっ……はぁっ……!」
己の手に、腹に、そして太ももにかけて、熱く滾る精液が付着するのが分かる。たった一度の吐精でも片手で掬えるほどの精液が放出されたことからも、日嗣が底なしの欲望を溜め込んでいること、そしてまだ限界が遠いことが見てとれる。
根拠は明白であり、まだ怒張が治まる気配を見せない性器を見れば一目瞭然。
「ふう……はぁ……」
全く鎮まる様子のない自身の男根を見下ろしながら、絶頂に達して一度離した両手をもう一度近付ける。その手は両側から性器を包み込むような形を取っている。
(あと一回……もう一回だけ……)
日嗣は精力絶倫なその性器に手を触れ、この日二度目の自涜を始めた。