※この作品はR-18です。

(仮題)サ終から始まる人間関係   作:御代川辰

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No.00-1.1C 鏡像

「1時過ぎちゃった……」

 

 24年という決して短(みじか)くない人生を生きてきたにも関わらず、24歳にして初めて自涜(じとく)に耽(ふけ)る時間を覚(おぼ)えた日嗣(ひつぎ)。

 そのまま湯にも浸(つ)からずに風呂場で絶頂と射精を繰り返した結果、気付けば風呂に入ってから丸50分近く時間が過ぎていた。

 

 風呂を出て体を拭く最中(さいちゅう)にも、鏡(かがみ)に写る自分の姿を見れば、時間を忘れて自慰を続けたことで大量の精液がかかり、糸が引くほどにべたべたになった自分の手足と腹、そして今は掌(てのひら)で包(つつ)める大きさにまで小さくなっているが、色欲に呑まれる度(たび)にあまりにも大きく勃起(ぼっき)する性器を思い出す。

 

(……あんなに気持ちのいい一人遊び、初めてだなぁ……)

 

 姿見(すがたみ)に向かって苦笑(にがわら)いをすれば、鏡に写る自分の顔も同じ表情を浮かべる。姿見(すがたみ)から距離を取って彼の全身を見てみれば、日嗣(ひつぎ)という男がいかに普通ではないのかが良く分かる。

 

 まず彼は自身の筋肉(きんにく)の量が少ないことを隠すために厚着をする癖(くせ)がある。そのため普段は分かり難(にく)いが、体型は全体的にほっそりとした痩(や)せ型。腹回りと腰つきは成人した男とは思えないほど滑(なめ)らかで柔軟な印象で、手指も骨張っている部分が目立つが、全体的にすらりとした繊細な見た目である。

 

 また太ももから足首にかけての下半身にも、およそ贅肉(ぜいにく)らしいものは認められない適度な膨(ふく)らみがある理想的な体型である。

 

「って何を女の子みたいなこと!変なこと考えてちゃおかしくなる!」

 

 自分が思考した事にはっとした表情をした直後、羞恥で顔全体を紅(あか)く染(そ)めて頭を横に振る。大きく揺れる黒い髪は傷(いた)みが目立ち、本人が自分で散髪しているために長さは不揃いで、染髪(せんぱつ)も怠(おこた)っているため白髪(しらが)も多く混(ま)じっている。

 

 特に余り切られずに残っている前髪に隠れる顔を見れば、額は狭く鼻はつんと小さく尖り、繊細な睫毛と大きな丸目、薄い黒色の隈(くま)を確かめることができる。

 

(……でも……本当に女の子みたいな顔だからなぁ……)

 

 その思考は嘆(なげ)きとも、あるいは苦悩(くのう)とも捉(とら)えられるものだった。不満を吐き出すように溜め息を吐いて前髪を持ち上げ、日嗣(ひつぎ)は姿見(すがたみ)に写る自分の顔へと目を向ける。

 顎(あご)は小さく緩(ゆる)やかな曲線を描き、唇(くちびる)は艶(つや)の少(すく)ない薄桃(うすもも)色で、頬(ほお)も微(かす)かな温(あたた)かみを持つ薄橙(うすだいだい)色の柔肌に被(おお)われている。

 

(うわあ……隈(くま)が昨日(きのう)より濃(こ)くなってる……)

 

 日嗣(ひつぎ)の顔を一言で表(あらわ)すならば、幼(おさな)い女顔(おんながお)と言ったところか。目元の隈(くま)と唇(くちびる)の血色(けっしょく)の悪(わる)さが拭(ぬぐ)えない頼(たよ)り甲斐(がい)のない顔立ちではある。

 だが口髭(くちひげ)や顎髭(あごひげ)、にきびと言ったものがほとんどない肌は、端整な顔立ちと相(あい)まってかえって健康的にも見える。

 

 とは言いつつも傷痕や痣が目立つのは仕方がなく、本人も治療をする気力がないため今後も残り続けることだろう。

 …………しかし今は自分の体の心配をしている場合ではない。

 

「湯冷めする前に着替えなきゃ……」

 

 顔と体を観察するのに夢中で風呂から上がったばかりであることを完全に忘れていた日嗣(ひつぎ)は、自分の愚(おろ)かさと不注意に呆(あき)れて項垂(うなだ)れる。服は自室にしかなく今手元には寝間着(ねまき)がないため、バスタオルを洗濯機に放り込み、電源を入れて脱衣所(だついじょ)を後にする。引戸(ひきど)を開ければ暗い廊下から冷気が流れ込み、拭き残した水滴を一気に冷やした。

 

「寒(さむ)……」

 

 全身を覆(おお)う肌寒(はだざむ)い感覚に鳥肌を立てつつも、自室に向けて足早(あしばや)に歩(あゆ)みを進めて行く。一歩足を進める度(たび)に、拭き残した水滴が体から離れて床を濡らす。そして静かな足音とは裏腹にその歩みは早足で、気付けば既に日嗣(ひつぎ)の部屋の扉(とびら)が見えて来る。

 

「着替え着替え……」

 

 ノブを捻(ひね)って扉を開(あ)け、出入口のすぐ近くにあるスイッチから電灯を点(つ)ければ、その部屋の全貌が明らかになる。四方の壁に青い壁紙が張られ、埃(ほこり)一つないカーペットを敷(し)く部屋の中にある物は五つ。まず扉の向かいの空(あ)きが目立つ本棚にはヘルメットの形とゴーグルが無造作に置かれ、向かって左側にパソコンとコピー機が設置されている黒いデスクがある。

 

 次にデスクの両隣(りょうどなり)にはそれぞれ私服用のタンスと仕事着用のハンガーラック、真反対(まはんたい)の右側に寝間着と寝具を収納するクローゼットの扉。このように隅々(すみずみ)まで掃除(そうじ)が行(ゆ)き届(とど)き、綺麗(きれい)に整頓整頓された空間が広がっており、部屋の主である日嗣(ひつぎ)の性格からは考えられない光景である。

 

「着替えて……」

 

 彼は部屋に入ってすぐクローゼットの方へと向かい、そのまま真っ白な扉の取っ手に手を伸ばす。取っ手を引っ張って扉を開け、中の引き出しから黒色の下着と肌着、そして同じく黒一色のパジャマとパーカーを取り出した。

 

「あぁ、もぅ……酒(さけ)なんて飲んでないのに……眠(ねむ)いなぁ……」

 

 眠気(ねむけ)で重(おも)くなりつつある瞼(まぶた)と、疲労による目のぼやけで視界が最悪な中、何とか下着と肌着を身に付けてパジャマを着込むと、温(あたた)かな寝間着(ねまき)に包まれたことで体温が上がり、意識が一気に沈(しず)んでいくのが感じられた。

 

「早く布団出さなきゃ……」

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