※この作品はR-18です。

(仮題)サ終から始まる人間関係   作:御代川辰

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No.00-1.3A ただいま

 EVSON-THWOEにおける自身の家である《磯城心安(しきうらやすの)明津大殿宮(あきつおおとのみや)》へ向かうべく、移動系魔法(ムーヴィングマジック)の一つである〔我が城への帰還(ゴー・オウアハウス)〕を行使し瞬間移動した眞穹(まそら)。

 数秒前まで森と草原の境目(さかいめ)にいた彼は、確(たし)かに今(いま)までいた場所とは異(こと)なる場所、それも大きく盛り上がった山の頂(いただき)に転移している。

 

「……魔法は問題なく動いたみたい」

 

 そもそものシステム上当たり前のことだが、バグなどの不具合が起きない限(かぎ)りにおいて、魔法や技能と言ったものが正常に働(はたら)かないことはまずあり得ない。よって、眞穹(まそら)の懸念(けねん)は的外(まとはず)れであり、全(まった)くの杞憂(きゆう)に過ぎない。

 だからこそそれまでの不安を吐き出し、代わりに安心感で心(こころ)を満たすかのように、大きく空気を吸い込んでゆっくりと安堵(あんど)の溜め息を吐(つ)き、空を仰(あお)ぐ。

 

「夕べの天の川も綺麗だったなぁ……」

 

 限りなく澄(す)みきった空を照らす真っ白に輝(かがや)く太陽、風に身を任(まか)せて空を流れつつ地上に影を落とす雲、今(いま)自(みずか)らが立つ山の頂(いただき)から見下ろす、視界を遮(さえぎ)るものが殆(ほとん)ど存在しない森の果てに見える水平線、そして水平線の手前にぽつりと見える噴煙(ふんえん)を天高く靡(なび)かせる活火山。

 仮想空間の中に存在するまやかしの産物とは言え、目に写る環境、目に見える景色の全(すべ)てが美しく感じられる作りであり、とても人の手で生み出されたものとは思えない。

 

 暫(しば)し目を閉(と)じて呼吸を整(ととの)え、名残惜(なごりお)しげに緑と青で彩(いろど)られる美しい幻(まぼろし)に背を向ける。体を動かし、顔を内陸の方へと向けてもう一度瞳(ひとみ)を露(あらわ)にすれば、ここから見えるほどに巨大な壁(かべ)が、遥(はる)か遠(とお)くに見える。

 

「うわあ……懐かしい」

 

 さらに眞穹(まそら)が立つ場所から5kmほど降りた場所と門が立つ場所との間(あいだ)には、底が全(まった)く見えないほどに深く両端(りょうはし)が見えないほどに広い谷がある。

 谷にはまだ侵食の影響が少ない頑丈そうなものから、侵食と風化によって既(すで)に崩れ、尖(とが)っているものまで、あらゆる形をした岩(いわ)の柱(はしら)が無数に乱立している。さらにその上には石煉瓦やコンクリートで作られた建築物の跡、雨風(あめかぜ)に晒(さら)されて傷(いた)みきった船、岩の柱同士を繋(つな)ぎ止めていた橋の基礎など、様々なものが残っている。

 

(ここを直すのが一番楽しかったなぁ)

 

 目下(もっか)に広がる巨大な谷を見下ろして、背中に巨大な翼(つばさ)を出現させた。しなやかで丈夫な骨(ほね)、鍛え上げられた頑強な筋肉、柔(やわらか)らかくも鋭利な羽(はね)で構成されるそれは、明(あき)らかに猛禽類が持つ翼(つばさ)をイメージして作られているようだ。

 眞穹(まそら)は翼(つばさ)の様子を確(たし)かめるように何度か上下に動かすと、そのまま片足を後(うし)ろに退(ひ)いて翼(つばさ)を畳(たた)む。

 

「ほっ」

 

 軽い掛け声とともに地面を蹴(け)り、下り坂に向かって走り出す。力強(ちからづよ)く拳(こぶし)を握(にぎ)りしめ、前傾姿勢で傾斜の深い急斜面を駆け降(お)りる途中で、加速の勢(いきお)いそのままに翼(つばさ)を広げて再(ふたた)び坂を蹴(け)った。

 この時に坂から足が離れたが、なんと疾走の勢(いきお)いは衰(おとろ)えずにそのまま風に乗り、坂の斜面すれすれの高さを保(たも)って滑空を始める。

 だがこのままでは坂の表面から離れる前に地面とぶつかってしまうため、眞穹(まそら)は急速な対応を迫(せま)られた。

 

「〔飛翔の両翼(エイヴィエーテ)〕」

 

 そこで、翼(つばさ)の周辺に揚力を発生させて空気抵抗を調整する魔法を用(もち)いることにした。ミニマップ画面上で自身を表(あらわ)す矢印の周りには、[支援魔法発動中]という説明と発動時間、そして円形が表示されている。

 残り時間は9分30秒、まだ余裕はある。

 

(あの時はみんなで大騒ぎしながら……ふふ)

 

 

 

 

 

 空を飛んで岩の柱を眺(なが)めながら思い出すのは、《やまとまほろば》のメンバー構成が現在の50名になって間(ま)もない頃に、珍しくメンバー全員で拠点の管理作業をしていた時に起きた騒動である。

 まず最初に騒ぎを起こしたのは、創設メンバーの一人でありギルド随一のトラブルメーカーとして度々(たびたび)事件の中心となっている【春夏(はるなつ)秋冬(しゅうと)】。

 

 彼が管理を担当していたのは錆(さび)た鉄と腐敗が目立つ材木で組まれた物見櫓(ものみやぐら)跡(あと)だったのだが、点検中に唐突に吹いた風で体が冷え込み、くしゃみをする際に慌てて口元を押さえたことで手から点検用の金槌(かなづち)を離してしまう。

 

 この時落とした金槌(かなづち)を慌(あわ)てて追いかける途中、特に腐敗が激しかった木材に頭をぶつけて物見櫓(ものみやぐら)そのものを壊(こわ)し、さらに櫓(やぐら)の一番上に設置されていた吊(つ)り鐘(がね)が別の岩(いわ)の柱(はしら)の中腹に横付けされていた建物を貫通して岩にぶつかり、あり得ないことにその衝撃で岩そのものが崩(くず)れた。

 

 もちろんこの予想外の事故で作業は一時中断され、木(こ)っ端(ぱ)微塵(みじん)に崩(くず)れた岩を積(つ)み直(なお)し、倒壊した建物を作り直(なお)す作業を全員で終わらせてから再開した。そこまでは良かったのだが、今度は愛善(あいぜん)が厄止(やくし)にちょっかいを出して喧嘩が始まり、喧嘩の最中に愛善(あいぜん)が放(はな)った太刀(たち)の一閃(いっせん)が別の岩を斬り倒し、二人が作業をしていた岩に倒れ込む事態が起こる。

 

 無論愛善(あいぜん)と厄止(やくし)は無事だったが、またも管理作業を中断して岩(いわ)の柱(はしら)と建物の作り直(なお)しを強(し)いられた。

 その後もメンバー同士の小競り合いに喧嘩、作業中のうっかりミスや想定外の事故などに見舞われ、その度(たび)に建物と岩が崩(くず)れ落ち、崩(くず)れては一切の作業を残(のこ)らず中止してまた一(いち)から直(なお)す作業をし、暫(しばら)くするとまたまた誰かが起こすトラブルで崩(くず)れ、また直(なお)すのに時間を取られるという悪循環そのものな一連の作業を何度も何度も繰り返し、最後はメンバー全員に「もう限界だ」と泣きつかれ、結局眞穹(まそら)一人で管理点検の作業を終わらせたのである。

 

「本当、懐かしい」

 

 今(いま)となっては懐かしい記憶に浸(ひた)りながら空を飛び続け、気付けば飛行可能時間は残(のこ)り30秒、銀色に磨(みが)かれ見事な輝(かがや)きを放(はな)つ門扉(もんぴ)も目と鼻の先に近付いて来る。

 眞穹(まそら)が入り口である門の前に降り立って門扉(もんぴ)にかかる鍵に手を掛けた頃には、ログインした時点で抱えていた不安は欠片(かけら)も残さず消え去っていた。

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ!」

 

 外付けされた門の鍵を外(はず)し、高さ8mはあろうかという大きな扉(とびら)を力(ちから)いっぱい引っ張って開(あ)けると、薄花桜(うすはなさくら)色の忍装束(しのびしょうぞく)を着こんでバインダーを持つ青年が、門扉(もんぴ)と門扉(もんぴ)の隙間からひょっこりと姿を見せる。

 

「うん、ただいま。【小松田(こまつだ)秀作(しゅうさく)】」

 

 眞穹(まそら)は笑顔で挨拶に答える。彼は所謂(いわゆる)NPCだが版権キャラクターである小松田(こまつだ)秀作(しゅうさく)と同じ名前と姿を与えられており、さらに原典〖落第忍者乱太郎〗の小松田(こまつだ)が持つ警備員としての才能をも再現されている。

 故(ゆえ)にギルドホームへの侵入を妨害し、そして侵入者の敵味方を識別する“正門監視員(フロントゲートキーパー)”という役割を担(にな)っている。

 

「お手数ですが、入門者確認表に署名(サイン)をお願いします。他の“諸御主(アドナイ)”の皆様もお待ちかねですよ」

 

 小松田(こまつだ)は眞穹(まそら)に筆を手渡(てわた)すと、バインダーに挟(はさ)まれた入門者名簿を見せて署名を促(うなが)す。城へ入らんとする者は何人(なんぴと)たりとも、例(たと)え“創造主(メンバー)”であろうとも例外なく通らなければならない関門(かんもん)であり、全(すべ)ての侵入者が経験する洗礼でもある。

 

「聖宮(ひじりのみや)眞穹日嗣(まそらのひつぎ)……字は合ってる?」

 

 無論無視する理由もなく、メンバー49人分の名前が列記された入門者名簿の最後の署名欄に自身の名前を書き込んで筆を返し、小松田(こまつだ)の返答を待つ。

 

「お名前確認しました。では、改(あらた)めまして……」

 

 目の前に立つ男の姿と名前をしっかり確かめると、手に持っていた筆とバインダーを小脇に抱え、

 

「《やまとまほろば》が大王(おおきみ)、聖宮(ひじりのみや)眞穹日嗣(まそらのひつぎ)様!《磯城心安(しきうらやすの)明津大殿宮(あきつおおとのみや)》に、歓(よろこ)んでお迎(むか)え致します!」

 

 頭を深く下げる恭(うやうや)しい最敬礼で迎(むか)えた。

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