吸血鬼天使の幻想生活 〜幻想郷に堕天使が舞い降りた!〜 作:エスカルゴ・スカーレット
「えーっと……まずは自己紹介からした方がいい?」
「ん……その流れだと思う」
2人を紹介した張本人ことエスカルゴが「5分で改装してみせる」と意気込んで夢幻館に飛び込み、その改装中の現在……。
ドンガラガッシャーン!ドカァッ!ボゴォン!と改装らしからぬメチャクチャな音が響いてくる中、門の前で家主の幻月、幻月の愛娘のデビリサエル、幻月の妹の夢月、同居人で部下のくるみ、エリーの5人へ向けて、2人は自己紹介をすることにした。
「私はシャムシエルよ!この幻想郷……っていうか、地上というか日本で活動する時は
「……元・智天使のケルビムです。これからは偽名にしていた
元気いっぱいで表情も豊かなシエルと、反対に、物静かで表情もあまり豊かではないルビー。しかしどこか相性が良いようにも見える。
幻月は、次に名乗るべきは自分だと思い、軽く、自己紹介する事にした。
「夢幻館の家主、幻月よ。
「双子の妹の夢月だよ。メイド服着てるけど、別にメイドじゃないからね。趣味で着てるだけだから、勘違いして給仕とか命令しないでね。基本的には、自分の事は自分でやってね。気分良い時は私が全部用意する事もあるけど、期待しないでね」
「幻月の娘、デビリサエル・スカーレットよ!私もメイド服着てるけど趣味だから!あとパパとママ、パパと夢月、パパと私の邪魔したら、殺すからね!邪魔するならくるみの方にしてね!」
「くるみよ。血みたいに紅いあの湖のとこで一応、門番?みたいな感じでこの館を防衛してるわ。あとリサはこう言ってるけど、ふざけてるだけだから。私とお兄さんの邪魔もしないでね?もし邪魔したらその血、吸い尽くすから」
「エリーよ、よろしく。私もこの館を防衛している2人目の門番なんだけどさ。侵入者とか来ないし、来たとしてもくるみに処理されるから、私の出番はあんまり無いんだよねぇ。……あっ、私はお兄さんと関係とか持ってないし、好きでもないから私の事は特に気にしないでね。好きにするといいよ〜」
エリー以外の4人は、言葉に棘が含まれている。幻月と夢月は、笑顔の裏に冷たい何かを隠しているようにも感じられた。くるみとデビリサエルからは直接的な脅迫もされ、2人は内心、困惑していた。
「……ねぇルビー、この人達ご機嫌ナナメなの?何か怒ってる……のかな?」
「え、と……私達が急に来たからじゃ……」
「ううん、そんなんじゃないの。単純にあなた達がダーリン好みの幼女だからムカつく☆……ってだけ」
「幼女な容姿に加えて翼まであるしね。知ってる?お兄さんってばロリコンで翼フェチなんだよ〜」
「私と同じくらい可愛いロリで、しかも私と違って血の繋がりが無い……強敵すぎるって、警戒せざるを得ないっていうか……!」
「2人ってば、私と幻月、夢月よりもロリみたいでかなりヤバイなーって思って〜♡」
あからさまに、誰が見ても分かるほど、露骨に。どれだけ「見ればすぐ分かる」という意味の言葉を並べ立てても到底足りやしないくらいに、4人は、明確に2人を敵視し、牽制し、圧力をかけている。知らぬ間に、2人は冷や汗をかいていた。
「……どこが『天使みたいな悪魔』よ…………コイツらガッツリ悪魔じゃん……!」
「とりあえず……1回、軽く
「改装が終わるまで5分って言ってたっけ。なら、エスカルゴが戻るまで、あと3分……ってとこかな。並以上の実力者っぽいけど……
「ん。エスカルゴさんが戻るまでに終わらせる」
3分。もうすぐ戻ってくる予定の彼が戻るまでに終わらせる。強いと認めた上で「早く終わらせる」という発言。そのどれもが、意図せずに、強者たる自負のある夢幻姉妹、リサ────自負は無いが、くるみの神経を逆撫でしてしまっていた。
「OK夢月、リサ、くるみィ。もういいでしょう。2分半でコイツら、徹底的に
「そだね、姉さん。分からせよっか」
「パパは館の改装中で、しかも自分で設けたタイムリミットの中で焦りに焦りまくってる。外の戦いに気付けるはずもなし、だね」
「4vs2だけど……卑怯とは言わないよね?」
「さして問題ナシ!勝利するのみ!」
「……数の差を覆して、勝って、褒めてもらう……。ただ、それだけ」
4vs2という明らかにまずい数の差だが、それを卑怯に感じる2人ではないし、徹底的にやるのならそれくらいがいいと考える4人。
悪魔達の正々堂々たる決闘が、始まった。
「「「「「「ハアァァッ!!」」」」」」
6人は同時に動き出した。夢幻姉妹はシエルを、リサ、くるみはルビーを倒すつもりらしく、綺麗に2人ずつに分かれる事となった。
夢幻姉妹は、拳を武器にする。シエルもそうだ。リサはナイフ、くるみは鋭い爪を。そしてルビーはある武器をどこからともなく取り出す────!
「『
「「はあっ!?」」
ルビーの手の中でヴヴンッと唸り声を上げるは、壊れかけのチェンソー。ヂリヂリと嫌な音を立てて火花を散らしながら回転する。
「は、えっ、ちょっそれは────」
「わ、私は怖くないから!やぁぁあああっ!!」
爪を武器にするとはいえ素手のくるみは怯むが、ナイフを持ったリサは果敢に挑む。しかしリーチの差は考えるまでもなく分かるというもの……。
「きゃあっ!ちょ、ちょっと待って!話を……」
「────あなたの事は、既にエスカルゴさんから聞いてる。《契約》に関する能力を持っていると。だからあなたの話は聞かない。決して同意しないし容赦もしない」
「……チッ。初対面のロリっ子を相手に武器使って、恥ずかしくないの?」
「慢心してたのに数の利が覆されて恥ずかしい?」
「ッ!こ、コイツ……ッ」
「『他人の悪口を言ったり煽ったりするのは本人が言われて嫌なこと』────その様に聞いたことがあるから『恥ずかしい?』と言ってみたけれど……。どうやらそれは本当らしい」
「────ッ!!はあぁああっ!!」
リサの持つ能力は極めて強力。使い方によっては何者も勝てないチートでしかない程の強さを誇る。しかしそれも、手の内さえ割れてしまえば、絶対と言えるものではなくなり、通じやしなくなる。
ルビーは回転を止めたチェンソーを地面に刺し、ナイフを壊され素手で立ち向かってくるリサを同じ素手で相手する事にした。
子供らしい、小細工無しのただのパンチ。しかしそれを「ただの子供のパンチ」と侮ることなかれ。リサとて悪魔の子。並大抵の膂力ではない。
「ぐ、うっ……」
「ああああぁぁっ!!」
パシンと軽快な音でリサの拳を受け止めるもののミシミシとルビーの骨は軋む。吸血鬼になりたてのルビーより、生まれ持った悪魔の肉体を使いこなすリサの方が、悪魔としての戦闘経験値は上である。圧倒的年上で、戦闘経験もあるはずのルビーが苦戦してしまっているのは、それが原因だった。
(このままでは押し切られる。その場合、私の手もきっと、無事には済まない。それなら……)
「────ありゃっ?」
リサが拳を押し込もうと、力を更に強めた瞬間、ルビーはフッと拳を受け止める力を抜いて、まるで力の流れに任せるように彼女の攻撃を流した。
「やば……ガッ────!?」
支えを失い空中にふわりと浮いたリサは、腹部に強烈な蹴りを受け地面に転がる。ルビーのつま先は綺麗に、そして的確に彼女の幼い鳩尾に納まって、その弱点を突かれたリサは息を忘れ悶えることしかできなくなってしまった。
「……あなたは?来ないの?」
「────もういいや。リサが勝てない相手なんて私に勝てるワケないもん。流石は、あのお兄さんが私らの館に住まわせようとする幼女。こりゃ絶対、タダモンじゃないね」
「……」
さて、シエルは────とルビーが目を向けるとそこには彼女にとって驚愕の光景が広がっていた。
「ぐぅぅぅっ、離しなさいよぉ!離せっての!」
「ふふ、無駄よ〜。私達夢幻姉妹は2人で一人前の双子の悪魔────でもあなた程度なら、私だけで十分に『処理』できちゃうわ♡」
夢幻姉妹の姉、幻月の手によって、その首を強く絞め上げられていた。シエルの足は宙を蹴っていて首を掴む幻月の手に噛み付き攻撃さえ出来ていない様子。ルビーは考える間もなく、地面に刺していたチェンソーを手に取り再度回転させると、シエルを締め上げる幻月の両腕を斬り落とした────!!
「ぎあっ……!?」
「姉さんッ!!こ、このガキッ……!!」
「っ、げほっ、げほ……助かった……ルビー……」
「構えてシエル。来る」
「腕を斬り落とすだなんて事、お兄さんですら……!絶対許さない!」
「夢月ッ!!」
「分かってるよ姉さん、コイツらボコす!!」
「いいからッ……治癒魔法!私より練度高いでしょ!練習中だけど!こんな無様な姿、ダーリンになんて見せられないわ!」
「っ……分かったよ。────────」
幻月は妹に、この数年間、ずっと練習中であった治癒魔法を使わせ腕を治癒させる。斬られた腕は、例の紅い湖へと投げ込んで証拠隠滅を果たした。
「はぁ〜、完治まで15秒か。まぁまぁね」
「姉さんが自分でやると倍以上掛かるクセに」
「う、うっさいわね!ありがと!それよりさっさとあの2人ボコさないと……」
「そうだね。館の中が静かになってる────多分お兄さんがやってる『改装』も、もうすぐ終わる。エリー!お兄さんの様子見てきて!終わりそうなら足止めもしちゃって!」
「えっ私!?あ、うん分かった!」
「…………ったく、リサもくるみも、頼りないわね。やっぱ頼りになるのはあんただけね、夢月」
「リサはまだ子供だから許してあげて。って、何で母さんである姉さんじゃなくて、叔母の私がリサの擁護してんのよ……」
「ふふ……」
「ふふふっ……♪」
ポキポキと指を鳴らして2人へ迫る姉妹。もう、先程のような不意討ちが通じないのは明白だった。首を絞められていたシエル、そんな様子を見ていたルビーからすればそんな2人はまさに悪魔で……。
「「ごめんなさいぃいいいっ!!」」
大人しく降伏するより他に無かった。
元よりこちらから吹っ掛けた喧嘩だ、こちらから放棄すれば終わるハズだと。────しかし2人のその考えは、吐き気がするほど甘くて……。
「「ダ〜〜〜〜〜メ♡」」
「「ひっ……!」」
「「お仕置きしてあ・げ・る♡」」
「「い〜〜〜〜〜や〜〜〜〜〜っっ!!!」」
身体強度、身体能力に優れる吸血鬼でさえも気を失う程の強烈なゲンコツ。夢月が治癒魔法を使用し傷を癒しても、気絶した2人が目覚めるまでほんの少しだけ時間を要した。
そして彼が戻る「5分」が経過する頃、度重なる往復ビンタや揺さぶりで、どうにかこうにか2人を叩き起す事に成功。
彼が戻ってくる頃には、平然と立ち話をしているように見せ掛ける事ができるまでになっていた。
(……幻月の血の匂いがするな。喧嘩でもしてたか。まぁいいや。幻月の血、相変わらず良い匂いだな……後でヤるか……辛抱堪らん)
エスカルゴは、周囲に漂う血の匂いで察したが、そこにいちいち突っ込む彼ではない。彼女達からの発言が無ければ言うまいと、口に出かかった言葉をグッと飲み込んだ。
「……ところで、ずっと気になってたんだけどさー?なんで2人も吸血鬼なのに日光の下で平気なのよ?ダーリンは友達からもらったっていうペンダントで克服してるみたいだけどさ。くるみはデイウォーカーに進化してるんだけどさ、どう考えても、2人は進化なんてしてないでしょ」
「あーそれはね、私達を吸血鬼化させるときにね、お母さんの力を借りたとか言ってたよ」
「ダーリンのお母さんって……あぁ、魔界神の……」
「神綺かぁ。まぁ、いつもそうだよね。日傘持つのなんて煩わしいからって、そういう吸血鬼の弱点を消してもらってる……。まさか、自分の子供以外の事なのに神綺に頼み込むとは……」
「そんだけパパは、この2人を大事にしたいって事でしょ。あーあ、いーなー」
「リサ、そう言うあんただって、
「ふふん♡ 分かってるねぇ、くるみ♪」
「そーだな、リサは可愛いからな」
「わっ!?パパ来てたの!?」
「改装終わったからよ。一旦、皆で見てみてくれ。全会一致でダメな部分があったら即修正するから、忌憚のない意見を頼む」
「「「「「「は〜〜〜い!!」」」」」」
こうして堕天使シャムシエル、堕天使ケルビムの幻想郷での生活が幕を開けたのである────。