カズマがクレアと結婚する話 作:てつろう
約9000字あります。
この恋する乙女に戦いを!
(クレア視点)
誘拐事件が解決してから一年。私とカズマは恋人同士になった。
「カズマ、今日もいつものやつをしていいか?」
「あれか?まぁ、クレアがどうしてもって言うならいいけど……」
時刻は夕方、カズマを私の部屋に招いている。この部屋には私とカズマの二人しかいない。
「なら遠慮なく……すぅ〜〜はぁ〜〜」
私が今何をしているかと言うとカズマに抱きついて彼の匂いを堪能しているのだ。特に首元から彼のいい匂いがするのでそこに顔を
「なぁクレア、これをするのは結構恥ずかしいんだけど……もう少し遠慮してくれないか?」
「嫌だ」
カズマと付き合ってから約一年。最初は色恋沙汰に興味がなかった私も月日が経つにつれて、すっかりカズマの虜になってしまった。彼に対する呼び方もカズマ"殿"からカズマに変わっている。
「すう〜〜はぁ〜〜」
私は再びカズマの匂いを肺いっぱいに吸い込む。私の変態的な行動に彼は辟易しながら言葉を漏らした。
「クレアが積極的にスキンシップをしてくれるのは嬉しいんだけどさ。このままじゃ俺の理性が持たなくてな……」
「そんな事言いつつカズマは私の嫌がる事をしない人だろう?私がこうしていられるのもお前を信頼しているからだ」
私は彼の事を力強く抱きしめる。人前ではこんなにデレデレしている所を見せないが、彼だけは特別だった。もう彼の事を離したくない。彼への愛はどこまでも深く、いつも携帯しているメモ帳に彼の好きな所を書き記す程だった。
「実は……さっきからクレアの胸が当たっているんだけど」
「!?」
彼が顔を朱に染めそっぽを向いて言う。確かにカズマと密着しているので私の胸も彼に当たっているが、いざ言葉に出されると恥ずかしい。
「す、すまない。夢中になりすぎた……」
私は腕から力を抜き一旦彼から離れようとする。だが、カズマが一度離れた私の体を抱きしめ返してくれた。
「いや、クレアが俺と一緒に居たいならハグくらいするぞ」
カズマが私の体を抱き寄せる。真正面に彼の顔が近づく。互いの吐息が相手の鼻にかかる距離だ。その気になればキスだって出来る距離。私の鼓動がドクドクと早まるのを感じる。
「好きだぞカズマ……」
「ああ、俺も愛してるよクレア」
カズマが私に愛の言葉を囁いてくれる。彼の顔がキラキラと輝き眩しい。顔が赤く染まっていくのを感じる。私は本当に彼の事が好きなのだと実感してしまう。
「キス……してもいいか?」
彼から願ってもない申し出。勿論断る理由などない。私は返事をする代わりに彼の唇を塞いだ。そのまま彼を押し倒し床の上で彼に馬乗りする。もう誰も私達の愛を止められなかった。
「じゅる……はむ……ちゅぷ……」
矢継ぎ早に接吻の雨を降らせる。最初は
「はぁ……はぁ……」
息を荒くして互いを見つめ合う。危なかった、これ以上続けていたらそのまま一線を越えていただろう。私はギリギリの所で理性を保つ。暫く見つめ合っていた私達だが、やがてカズマは私の顔から視線をズラし目を見張る。
「く、クレア、うしろ…………はむっ!」
何か言いかけていたカズマだが、私は彼とのキスを続行した。彼は私の唇で口が塞がれていて喋れないようだ。今度は今までよりも一番長いキスをしよう。私は舌を差し込んで彼の唾液を欲する。カズマは唇を離そうと必死になっているが、私はジュルジュルと彼の唇を吸い込んで離さない。私の中にあった理性のブレーキはとっくに壊れている。そのまま私が一線を越えようとした時、
「ぷはぁっ!……はぁ……はぁ……く、クレア……後ろ……!」
ようやくカズマが私のキスから逃れ、何やら切羽詰まった様子で言ってくる。彼に言われるがまま後ろを振り向いて驚愕した。
「あの……ふ、二人が仲睦まじいことは嬉しいのですが……あまり羽目を外しすぎないように……」
そこに居たのはレインだった。ここは私の部屋。普通なら誰も入って来ない場所のはずなのに。
「れ、レイン!ノックくらいしろ!」
「何回もしましたよ!クレア殿がカズマ殿とえ……え、エッチな事するのに夢中で気が付かなかったんでしょう!」
彼女に怒ってみるがどうやら私に非があるみたいだ。私はすぐにカズマから離れて身だしなみを整える。よりによって一番親密にしているレイン殿に見られるなんて……!
「二人はいつの間にそんな関係になったのですか?もしかして誘拐事件の後から?」
レインの鋭い指摘に黙る私達。私とカズマが付き合った事はレイン殿も含めて誰にも言っていない。この一年間ずっと隠してきたのだ。だから彼女が驚くのも当然だろう。
「あの凛々しいクレア殿がカズマ殿の前ではあんな風になるなんて……」
「や、やめろ!さっき見た事は忘れるんだ!……いいか、この事は絶対誰にも言うんじゃないぞ」
私はレイン殿に念を押して口止めする。彼女に私の醜態を晒したのは痛い。どうにかレイン殿がこの事を口外しないのを祈るばかりだ。
「なぁクレア、俺達の関係を他の人に教えてもいいんじゃないか?別に隠すような事でもないだろ」
カズマは何気なく言っただけだろうが、彼の言葉に私は心がズシンと重くなるのを感じた。私がカズマとの関係を隠してるのには大きな理由がある。
「……それは出来ない。私達の関係が周囲に知られたら、特にアイリス様が知ってしまったらきっと悲しむ」
今から一年前、アイリス様はカズマと結婚していた。結婚してる期間は約一週間と非常に短かったそうだ。だが、アイリス様がカズマに恋心を抱いていたのは間違いない。もし私が彼と付き合っていることを知ったら、自分がカズマの妻に選ばれなかった事に心を痛めてしまう可能性もある。
「考えすぎじゃないか?アイリスももう十五歳。俺への恋心も無くなっていそうだが」
「いえ、アイリス様は今でもカズマ殿の事を慕っていますよ。カズマ殿はアイリス様と手紙でやり取りしてますよね。その……実は一週間前にアイリス様が『お兄様への恋心を手紙で伝えたい』と仰った事がありまして……。恐らくカズマ殿に告白するつもりだったと思います」
レイン殿から、私すら知らないアイリス様の情報を聞く。彼女の話が本当ならアイリス様は今でもカズマの事が好きという事だ。
「え?……そんなラブレターを貰った記憶はないけど。最近来た手紙には"ぜひ王城に遊びに来て欲しい"みたいな事しか書いてなかったぞ」
「私が『そういう大事な事は手紙ではなく直接伝えた方がいい』と言ったのです。多分アイリス様はそこでカズマ殿に告白するつもりなのでしょう」
アイリス様がカズマと恋人になろうとしている。その事実に私の心は酷く揺れていた。私はアイリス様に忠誠を誓った護衛。主君を裏切る事は許されない。もし私がこのままカズマとの関係を続けるなら、それはアイリス様を裏決る事になってしまう。
「……カズマはアイリス様に告白されたらどうするつもりだ?」
アイリス様の告白を断って欲しい気持ちが半分、告白を受け入れて欲しい気持ちが半分という感じだった。私はカズマの事が大好きだが、それ以上にアイリス様の事も大好きだ。彼女が泣くような結末にだけはなって欲しくない。
「……、俺にはクレアがいるからアイリスと付き合うのは無理だ。アイリスの気持ちは嬉しいが、そこだけは譲れない」
彼の言葉を聞いて喜びで体が震える。アイリス様じゃなくて私を選んでくれる。カズマが私だけのものになった気がして自然と口角が緩んだ。
そこで私はズボンのポケットにしまってあったメモ帳を取り出す。このメモ帳は何かと言うとカズマのカッコイイセリフを書き連ねている備忘録だ。私は早速『俺にはクレアがいるからアイリスと付き合うのは無理だ』という言葉をメモする。これで好きな時に今日の出来事を思い出せる。
「では、アイリス様にはカズマ殿に告白するのを止めるようにそれとなく伝えておきます。きっと悲しまれるでしょうから……」
「……ああ、悪いなレイン」
悲しそうな表情のレインとカズマを見て私はハッとした。彼女達はアイリス様の失恋を悲しんでいるのに、なぜ私だけ舞い上がっているのだ。彼のセリフをメモなんかして。性格の悪い自分をひどく嫌悪してしまう。
「クレア、酷い顔でメモ帳と睨めっこして大丈夫か?」
私の苦々しい顔に気づいたのか彼が心配そうに尋ねてくる。
「……ああ、気にするな。それよりカズマ殿はもう帰った方がいいだろう。王城にいればいつアイリス様に出くわしてもおかしくない」
私がカズマを帰らせようとしたその時だった。
コンコン、と控えめなノックの音がする。
「クレア、いますか?」
可愛らしい声の主はアイリス様だ。今、彼女をカズマに会わせるのはマズイ。二人が出会えばアイリス様が振られてしまう。彼女が悲しむのは何としてでも避けねばならなかった。
「お、俺は隠れた方がいいのか!?」
「カズマ殿はクローゼットの中に隠れてください!」
「ま、待て、そこには……」
カズマはレイン殿に言われた通りに急いでクローゼットの中に隠れようとする。だが、彼がクローゼットを開けるとそこには大量のパンツとブラ。無論全て私の物だ。彼が慌てていた為、止めるのに間に合わなかった。
「うぉっ!
「私の下着をお宝呼ばわりするな!とにかくクローゼットの中はダメだ。他に隠れる場所を……」
「クレアー?入りますよ〜?」
今にもアイリス様が部屋の中に入ろうとしている。もう時間がない。クローゼットの中もダメだしこの部屋には他に隠れる所がない。だが、私は咄嗟に隠れる場所を見つけ出した。
「カズマ、ここに入れ!」
カズマが私の指示する場所に隠れた丁度その時、部屋のドアが開かれた。アイリス様がひょっこりと顔を出す。
「あら、レインもいたのですか。二人ともお兄様を見かけませんでしたか?」
早速カズマの居場所を聞かれる。彼がいるのはベッドの下。そこで横になって身を潜めている。余程のことがない限り見つかることはないだろう。
「い、いえ、見ていませんよ。」
レインが平静を装って答える。
「そうですか……、城の門番の方がお兄様が入っていくのを目にしたと言っていたので、今日はお兄様に大事な話があったのでどうしても会いたかったのですが……」
"お兄様に大事な話"。レイン殿の話から察するに告白の事だろうか。やはり今日カズマに想いを伝えるつもりらしい。だが、彼女の為にも私は何としても告白を阻止せねばならない。
「アイリス様、その大事な話というのはもしかして……」
「クレアには言ってなかったですね。実は……私はお兄様にプロポーズするつもりなのです」
告白じゃなくてプロポーズだった。それはもうカズマと結婚したいという事だ。恋人として付き合う段階をすっ飛ばしてもう籍を入れたいらしい。
「あの……アイリス様、カズマ殿と結婚するのは止めた方がいいのではないでしょうか。彼はだらしないですし、気が多い人でもあります。アイリス様にはもっとふさわしい方がいるかと」
レイン殿がカズマを
「それでも私はお兄様がいいのです。いつも素敵な冒険譚を聞かせてくれるお兄様は私の憧れの人です。誰に何と言われようと私の気持ちは変わりません」
アイリス様の意志は多少レインが止めた所で揺らがない。彼女のカズマへの恋心は確かなものらしい。ここは私も頑張って説得しなくてはならない。
「アイリス様、あの男はアイリス様には釣り合う様な人ではありません。まぁ……いざという時はやる男ですし、本当に辛い時は傍で寄り添ってくれる人ですが……。それと笑った時の顔が本当にカッコイイ。たったそれだけの男です」
カズマの悪い所を沢山並べ立てる。これでアイリス様も少しは躊躇するはず…………?私の言葉を聞いたアイリス様は首を傾げて不思議そうに見つめていた。何かおかしなことを言っただろうか。
「く、クレア殿!それは惚気けているだけです!」
レイン殿の指摘で私は我に返る。つい本音を言ってしまった。しかもアイリス様の前で。彼女には何としても私とカズマの関係性を隠さなくてはならないのに
「……クレア、もしかしてお兄様の事が……」
「わぁああ!ち、違いますっ!」
何か言おうとしたアイリス様の口を慌てて塞ぐ。彼女に『お兄様の事が好きなのですか?』等と聞かれたら、顔を赤くして俯く事しか出来ないだろう。と、私がアイリス様の口に触れた拍子に彼女の指輪が落ちてしまった。
「あ、お兄様の指輪が……!」
あれは確か昔カズマがアイリス様にプレゼントしたリング。たった数百円の安物だが、アイリス様はいつも大切にその指輪を使っていた。指輪はコロコロと床を転がっていきベッドの下へと入った。
「えーと指輪は……確かこの辺りに……」
アイリス様がベッドの下を覗き込もうとする。このままだとベッドの下にカズマがいるのがバレてしまう。私はカズマを隠すため、屈むアイリス様の前にスライディングした。
「ああ、アイリス様!指輪は私が拾いますのでどうかそのままで!」
私の奇行に彼女は軽く引いた顔をする。その顔を見て私は泣きそうになった。アイリス様にだけは嫌われたくなかったのに。私は彼女に背を向けてベッドの下の指輪を探す。
ベッドの下を覗き込むと案の定指輪が転がっていた。視線を奥にやるとカズマがこちらを向いて寝転がっている。彼は私の顔を見てヒラヒラと手を振った。私もこっそり彼に手を振り返そうとする。が、直前で思いとどまった。アイリス様の事を思い出したからだ。カズマとイチャイチャすればするほどアイリス様の恋心を踏みにじることになる。
「クレア、何か落としましたよ?」
私が立ち上がろうとするとアイリス様がメモ帳を拾う。それは私がカズマのカッコイイセリフを書き連ねていたノートだ。さっきスライディングした時にポケットから落ちてしまったのだろう。私は慌ててそれを取り返そうとするが一足遅かった。
「これは……?」
アイリス様がメモ帳の中身を見てしまう。そこには大量のカズマの言葉。私しか知らない彼の一面が惜しげも無く書かれている。
「あ、アイリス様……!」
アイリス様は食い入るようにメモ帳を凝視する。彼女があまりに熱心に読むので私はメモ帳を取り返す機会を失ってしまった。
「クレア、これは何ですか?」
どう答えようか。アイリス様はそのメモ帳がカズマの言葉を書いている事には気づいてるのだろうか。もし気づいていないなら、嘘を言えば上手く誤魔化せるかもしれない。私は
「……それは私に恋人が出来た時に言って欲しいセリフのようなものです。人に見られるのは恥ずかしいので、早めに返して欲しいのですが……」
小さな嘘でこの場をしのぐ。さりげなくノートを返すように言ってアイリス様からメモ帳を受け取ろうとするが、彼女はヒョイと私の手をかわした。
「アイリス様……?」
「ここに書いている『めぐみんやダクネスが毎晩色仕掛けしてくるがクレアの事を思い出してどうにか我慢してるよ』という言葉。これもクレアが考えたセリフですか?」
そのセリフはかつてカズマが私に言ってくれた言葉だ。アイリス様はまだノートを返す気は無いらしい。それどころかセリフの不審な点を私に尋ねてくる。もうこのノートが何なのかバレてしまいそうだ。私の顔も緊張で引きつっているだろう。
「……え、ええ、私が考えたものですよ」
「ふーん……」
私の苦しい言い訳にアイリス様は腑に落ちていない様子だ。そのまま彼女はメモ帳を読み進めていく。まずい、そのメモ帳の一番新しいページには先程の『俺にはクレアがいるからアイリスと付き合うのは無理だ』という言葉が書いてある。あの言葉を見てしまったら、私とカズマが恋人であることが露見してしまう。
「アイリス様、その備忘録をクレア殿に返してあげてください」
私が何も行動できない中、レイン殿がアイリス様から無理やりメモ帳を奪う。
「ま、待ってください!そのノートは怪しいのです!有り得ないことなのですが……本当に有り得ないことなのですが、私の中で疑念がどんどん大きくなって……」
「その疑念とは、クレア殿とカズマ殿が恋人同士になっているかもしれない、という事ですか?」
私やアイリス様が一番曖昧にしたかった部分。そこをレイン殿はハッキリと言葉にしてしまった。私は顔を俯かせる。アイリス様の顔を見るのが怖かったからだ。
「ハッキリ言いましょう。クレア殿とカズマ殿は交際関係にあります。ですからアイリス様、カズマ殿にプロポーズするのは諦めてください」
なんて冷淡な事を言うのだろう。レイン殿にそんな事を言うな、と怒鳴ってやりたい。だが、私にはその資格がなかった。こうなってしまった最大の原因は私自身にあるのだから。
「……クレア、今の話は本当なのですか?」
「…………」
鼓動が早くなる。呼吸も荒い。目眩もしてきた。私が動揺しているのはアイリス様を傷つけてしまったからではない。ただアイリス様に嫌われるのが怖かった。そんな自己中心的な理由だった。
「……嘘なんですよね?嘘と言ってください!」
「アイリス様、お辛い気持ちはお察ししますが、クレア殿に非はありません」
それからアイリス様の足元にポタッ、と何かが落ちる。それが彼女の涙であることはすぐに分かった。私は相変わらずアイリス様の顔を見れずに下を向いたままだった。
「少し一人にさせてください……!」
バタン、と扉を開けてアイリス様が部屋から出ていく。
「レイン……!なぜアイリス様にあんな事を……!」
「遅かれ早かれアイリス様は振られます。それなら早めに失恋した方がいいでしょう?」
冷淡なレイン殿の仕打ちに怒りたいが、彼女の言い分も正しい。やるせない気持ちだけが残る。隣ではカズマがベッドの下からのそのそと起きてくる。
「あの……俺ももう帰るよ、ここに居たらいつアイリスに出くわすか分からないし」
彼はもう帰ろうとしている。修羅場に巻き込まれたくなかったのだろう。部屋から出る際にカズマは私に手を振る。私は手を振り返すこともせずに先程の出来事を反芻していた。部屋には私とレイン殿の二人だけになる。
「アイリス様を傷つけてしまったな……」
「彼女を傷つけたのは私です。クレア殿は何も悪くありませんよ」
彼女の慰めもあまり効果がない。
「こうなったのは私がカズマと恋人になったのが原因だ……。主君を裏切るなんて護衛失格だな……」
「そんな事ありません!誰が誰を好きになるかなんて本人の自由です」
それでも尚私の心は晴れない。
「……もういっその事カズマ殿にプロポーズしてみたらどうです?」
レイン殿の言葉に私は顔を上げる。彼女が言ってる事が本気なのか顔色を窺う。レイン殿も真っ直ぐこちらを見ていた。どうやら冗談ではないらしい。
「何をバカな事を言っているのだ……、私達はまだ付き合って一年なのだぞ」
「むしろもう一年ですよ?丁度いい時期でしょう。それにクレア殿も大貴族の一人娘としてそろそろ結婚しなくてはならないのでは?」
彼女の指摘は的を得ていた。最近親からもそろそろお見合いをしないか、としつこく誘われている。私にはカズマがいるから、と断っていたが子供を作るためにも早く結婚しなくてはならない。
「……いや、まだ早すぎるだろう。こういう事はもう少し二人で愛を育んでから……」
「それは"アイリス様を気遣っている"だけではないですか?」
レイン殿の言葉に私は声を詰まらせる。彼女の急所をついた発言に私は睨み返してしまった。だが、レイン殿は私に構わずズケズケとものを言う。
「……なんだと?」
「私の勘違いでしたら別に良いです。本当にカズマ殿と仲を深めてから結婚したいなら否定しません。しかし、今のクレア殿はただアイリス様に遠慮しているだけに見えます。本当はカズマ殿と結婚する事がアイリス様を裏切ることになると、自分でも分かっているのでしょう?」
「違う!私がカズマと結婚しないのは……と、とにかくアイリス様とは関係ない!変な憶測で話すな」
私は怒気を孕んだ声でレイン殿を威圧する。私が怒ってしまったのは彼女の言っている事が全て図星だったから。そんな事は全て分かっている。でも、言葉にして欲しくなかった。自分の中で見て見ぬふりをしたかった。
「いいですか、恋は戦いです。遠慮などしている暇はありません。考えてもみてください。もしアイリス様がカズマ殿にプロポーズしたら……、カズマ殿が必ず断ると言い切れますか?」
カズマは元々ハーレムを作ろうとしていた。だからアイリス様の求婚を承諾する可能性だってある。私だって彼が他の女に取られるのが怖いのだ。
「カズマ"殿"はそんな事しない」
最早私の言葉はただの願望でしかなかった。視界も少し涙で滲んでいる。もうこれ以上私に正論を並べ立てて欲しくない。
「すいません、言い過ぎました。でも、クレア殿にはこのまま何もしないでいると後悔する事を知って欲しかったのです」
「……では、私にどうしろと言うのだ」
とうとう私は自分の本音を偽る事もやめてしまった。
「アイリス様がカズマ殿に求婚するより先に、プロポーズしてください。それが今のクレア殿に必要な事だと思います」
カズマにプロポーズするなんて無理だ。私にとってカズマと同じくらいアイリス様も好きなのだ。
「少し考える時間をくれ……」
「ええ、よくよく悩んでください。でも、クレア殿が明確な答えを出さなければ出さない程、アイリス様を傷つけることになりますからね」
私にはレイン殿の言ってる意味が分からなかった。ただ一つ分かるのはもう何もしないでみている訳にはいかないことだ。カズマかアイリス様を選ばないといけない。その重荷が私の心にずっしりと伸し掛かった。
クレアとカズマがイチャイチャするシーンをようやく書けました