※この作品はR-18です。

カズマがクレアと結婚する話   作:てつろう

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約4000字あります。


この哀れな少女に救済を!

 

 

 

 

カズマをアイリス様に譲る。それは私の宝物を奪われるということだ。

 

アイリス様を裏切れないと悟った翌日の夜。私は自室でアイリス様と話していた。

 

 

「今日カズマ"殿"が城に来る手筈になっています。私がそこで彼に別れ話を切り出します。アイリス様は部屋の外で待機して、振られたばかりのカズマ殿を慰めてあげてください」

 

 

私がカズマ殿を振って、アイリス様が慰める。カズマ殿の傷心を癒すことでアイリス様が天使のように感じられるだろう。そうすれば二人の仲が進展するかもしれない。

 

 

「クレア……本当に良いのですか?お兄様と別れたいというのは本心なのですか?」

 

 

アイリス様が心配そうに聞いてくる。実際、カズマと別れるのは辛い事だ。昨晩も彼と別れる事を想像して枕を濡らした。本当に彼との日々は楽しくてどれもかけがえのない思い出。だから、それを手放すのは辛い。でも……

 

 

「ええ、私の事は気にしないでください。今はもうカズマ殿に未練はありませんから」

 

 

私は嘘に嘘を重ねる。これも全てアイリス様のため。昔、アイリス様の護衛として任命された時から私の運命は決まっていたのだ。主君に全てを捧げると。実際、彼女に何度も嘘をついたせいで自分でも本心がよく分からなくなっていた。この調子ならきっとカズマ殿と別れられるだろう。

 

 

「本当ですか?」

 

「ええ、本当です」

 

 

アイリス様は私の目の奥まで見透かして心の中を見ようとする。私の本心が見られやしないかとヒヤヒヤするが、しっかりと彼女を見つめ返した。暫く見つめ合いやがてアイリス様は納得したように頷く。

 

 

「分かりました、では私は隣の部屋でお兄様が来るのを待っています。後は頼みましたよ」

 

 

そう言ってアイリス様は部屋から出て行く。無事に私の本心は隠しきれたようだ。後はカズマ殿に別れを切り出すだけ、簡単な事だ。これで私はアイリス様を裏切らなくて済む。

 

 

「…………はぁ」

 

 

一人で部屋に取り残され、落ち着いて今の状況を考えてみる。アイリス様の為にカズマを譲ると決めたが、後悔してないか自分に尋ねる。

 

 

「私は一体何をしたいのだろうな……」

 

 

ただカズマと結婚したい。それだけなのに、なぜ彼と別れようとしているのだろう。自分の気持ちがもうよく分からない。

 

 

「カズマ……こんな私を許してくれ……」

 

 

別れ話を切り出したら彼はなんて言うだろう。もう私の事を忘れてアイリス様の元へ行ってしまうのだろうか。ひょっとしたら『別れたくない』と言って私を引き止めてくれるかもしれない。

 

 

「はは……私は自分が思っていた以上にカズマの事が好きらしい……」

 

 

心の底では、まだ彼と別れたくない気持ちが残っているらしい。私は優柔不断な女になってしまったようだ。早くカズマの事を忘れた方が楽になれるのに。私が思考の渦に身を委ねていた時だった。彼は突然やって来た。

 

 

「クレア、居るか?」

 

 

カズマ殿の声だ。私は心を落ち着かせるために一度深呼吸する。大丈夫、すぐに別れようと言って逃げてしまえばいい。アイリス様の泣き顔を思い出して自分に喝を入れる。そのまま部屋のドアが開かれた。

 

 

「おうクレア……」

 

 

カズマ殿が部屋に入ってくる。が、どこか落ち着きのない様子だ。目線があちこちに飛んでいる。不審に思いつつも私は適当に言葉を返した。彼は後ろ手でドアを閉め、私に向かって両手を広げた。

 

 

「ほら、クレア。いつものやつだろ?」

 

「……?」

 

 

彼が何を言おうとしているのか分からない。私は首を傾げるだけで何も行動しなかった。

 

 

「あれ、今日はハグをしないのか?」

 

「なっ!?」

 

 

私がどう別れ話を切り出そうか悩んでいるというのに、この男は何を言っているのだろう。た、確かにいつもハグはしていたが……、もう少し空気を読んで欲しい。

 

 

「きょ、今日はそういう気分ではないのだ……」

 

「そ、そうか……」

 

 

カズマ殿は髪や服を忙しなく触っていて全体的にソワソワしている。一言で言えば落ち着きがなく緊張している様子だった。何かやましい事でもあるのだろうか。

 

 

「「…………」」

 

 

互いに黙っている。いつもなら私達の会話は途切れる事はない。どうやら私だけでなくカズマの様子もおかしいようだ。

 

 

「「あ、あの……」」

 

 

二人の言葉が被ってしまう。今日の私達は上手く噛み合わない。

 

 

「く、クレアからでいいぞ」

 

「い、いや!カズマから言ってくれ」

 

 

肝心の私の話は別れ話だったので先に言うべき話題ではない。当然、カズマに話を促した。

 

 

「お、俺の方は大した話じゃないからクレアが先にどうぞ!」

 

「む、無理だ!私の話は後でいい。カズマこそ先に言ってくれ!」

 

 

お互いに先手を譲り合う。なぜ彼がここまで頑なに言いたがらないのか私には分からなかった。もしかして彼も何か重大な話をするのだろうか。それから私達はしばらく押し問答を続けるが、根負けしたカズマが話すことになった。

 

 

「じゃ、じゃあ俺から言うぞ。ほ、本当に大した話じゃないからな?」

 

 

そこまで前フリをしておいてどうでもいい話だったら拍子抜けする。ただ別れ話をする前にこれが最後の会話になるかもしれない。他愛もない話でも今は楽しめるだろう。そんな風に楽観していると、

 

 

「俺はクレアと結婚したいと思っている」

 

 

彼から言われた言葉に私は固まってしまった。今、"結婚"と言ったのか?自分の耳を疑うが、カズマの顔は真剣だ。その顔も朱に染まっている。

 

 

「今日は、俺とクレアが初めて出会った日なんだ。最初はアイリスのただの護衛でしかなかったけど、誘拐事件を通して俺の中でクレアはかけがえのない存在になった」

 

「ま、待ってくれ……!心の整理が……!」

 

 

私に構うことなくカズマは言葉を並べ立てていく。今日がカズマと初めて出会った日。そんな事全然気づかなかった。彼が私との記念日を覚えてくれていた事に頬が熱くなる。

 

 

「……こんな俺で良ければ、結婚してくれましぇんか?」

 

 

大事な部分でカズマは噛んでしまう。かっこ悪い彼だがそれすらも愛おしいと思えた。だって私の為にここまで頑張ってくれているのだから。彼のプロポーズを断る理由なんて一つもない。

 

 

「はい、喜んで───」

 

 

何の迷いもなくOKしようとした時、彼の赤く染まった顔から視線を奥にやる。カズマ殿が閉めたドアは少しだけ開いており、そこには金髪が見え隠れしていた。アイリス様だ。アイリス様が今までの事の成り行きを見ていたのだ。

 

 

「あの……返事をもらえると嬉しいんだけど……」

 

 

いつまでも何も言わない私にカズマ殿が耐えられなくなったのか、小さな声で言葉を漏らす。今の私は先程まで彼のプロポーズに有頂天になっていた私とは違う。この状況をアイリス様が見ている。その事に気づいてしまったのだ。

 

 

「…………」

 

 

彼に返事を催促されるが、それでも私は答えない。どう答えるかで私の運命が決まる。アイリス様を選ぶか、カズマを選ぶか。

 

 

「わ、私は───」

 

 

視界の中にカズマとアイリス様が映る。二人とも私にとって大切な人だ。だから、この選択をするのは本当に心苦しい。それでも、私は言わなければならない。

 

 

「結婚をするのはまだ早いのではないか……?そういう事はもう少し段階を踏んでからで良いだろう」

 

 

私の言葉は曖昧なものだった。彼と結婚したいとも結婚したくないとも取れるその場しのぎの言葉。結局私は選ぶことが出来なかった。アイリス様もカズマも見捨てることは出来ない。

 

 

「そ、そうか……、急にこんな話して悪いな」

 

 

普段よりも彼の声色が震えているのが分かる。私に結婚を承諾して貰えなかった事が余程ショックだったのだろう。彼は酷く項垂(うなだ)れていた。

 

私は彼のプロポーズを断った以上、慰めることも出来なくて、ただ彼を見捨てるほどの度胸もなくて。彼が落ち込むのを傍で見守っているだけだった。

 

……それからどれくらいの時間が経っただろう。私達の間に流れる沈黙は相変わらず気まずいものだった。何か声をかけようと思うが上手く声が出ない。

 

 

「……クレアは俺の事好きなんだよな?」

 

 

カズマが俯いた顔のまま尋ねる。それはいつものイチャイチャしてる時の確認とは全く違って、もし"嫌い"等と言われれば、二度と立ち直れなくなる。彼の脆い感情が如実に出た言葉だった。

 

 

「…………」

 

 

私は彼の質問に何も答えない。いや、答えられなかった。アイリス様がいるからだ。元々、カズマと別れ話をする予定だったのに、彼に好意を伝えるなんて見当違いだ。

 

 

「……クレア?」

 

 

私の沈黙にカズマは不安そうに顔を上げる。

 

 

「あ……す、すまない……」

 

 

私は小さな声で謝ることしか出来なかった。私の返事を聞いたカズマは顔を暗くする。私が何も言わないから彼の事が好きじゃないと思ったのだろう。

 

 

「お、俺はもう帰るよ……」

 

 

気が動転したカズマはすぐに扉を開けて転びそうになりながら部屋を出て行く。部屋の外にはアイリス様が居たが、いつの間にか彼女は居なくなっていた。部屋には私一人だけになる。

 

 

「……これでアイリス様を裏切る事はなくなったな」

 

 

今日は彼へ好意を伝える事はなかった。以前、彼に抱きついて匂いを堪能していた頃に比べれば大きな進歩だ。

 

 

「明日もアイリス様に顔向けできる……!」

 

 

今日の私はよくやったと思う。どうにかアイリス様の護衛としてやって行けそうだ。そう、清々しい気持ちになるはずだった。それなのに……

 

 

「……え?」

 

 

気がつけば私の目からは涙が溢れていた。両目からツーっと水が一直線に流れている。おかしい、私はアイリス様の護衛としてやるべき事をしたはずなのに。

 

 

「あ、あれ……こんなはずでは……」

 

 

私の心にはまるでぽっかりと穴が空いたようだ。大切なものを失って体中から力が抜けていく。

 

 

「大丈夫だ、私にはアイリス様がいる。カズマがアイリス様のものになってもいいじゃないか……大丈夫……大丈夫……」

 

 

必死に自分に言い聞かせるしかない。それでも私の心の中で感情が暴れ回るのが抑えられなくて。結局、その夜は枕を濡らして寝ることになった。

 

 

 

 

 




次回の話は多分R18になると思います。
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