カズマがクレアと結婚する話 作:てつろう
約8600字あります。タイトルにもある通りR18の内容が含まれます。見る際はご注意ください。
カズマのプロポーズを断ったあの日から彼は城へ来なくなった。私が彼の屋敷に会いにいく手段もあるが、プロポーズを断った以上合わせる顔がなくて会いに行ってない。今日こそは彼が来るのではないかと淡い希望を抱いては何も起こらない日々が続き、気づけば二週間の月日が流れていた。
それでも日々の生活は変わらなくて、アイリス様の授業もあるし騎士としての仕事だってある。私達の事情にはまるでお構いなしに時は流れ、忙しい毎日を過ごしていた。
「クレア、ここの問題が分からないのだけれど」
今日はアイリス様の授業の日だ。彼女が私に分からない所を質問してくる。私はアイリス様の部屋で彼女に付きっきりで勉強を教えていた。
「そこは、機会費用の考え方を使うのです。表を参考にもう一度考えてみてください。ここの答えはどうなりますか?」
「えーと……。分からないからこの続きは明日にしませんか?」
彼女が授業を早く終わらせようとする。何かやりたい事があるのかさっきからソワソワしていた。時計を見れば授業を始めてから一時間が経っている。確かに少し授業が長くなりすぎたかもしれない。
「……仕方ありませんね。区切りは悪いですが、本日の授業はここで終わりにしましょうか」
アイリス様は授業が終わると、待っていたとばかりに引き出しを開ける。中には彼女が書いたであろう手紙がいくつか入っていた。
「もしかしてアイリス様がソワソワしていたのは、この手紙を見たかったからですか?」
「べ、別にソワソワしていません!」
私は彼女の持っている手紙を後ろからそっと覗く。どうやらこの便箋でカズマと手紙でやり取りをしているらしい。
『お兄様に早く会いたいです。次お城に来るのはいつ頃になりそうですか?首を長くして待っています───』
手紙の中の一枚にはそのように書かれていた。アイリス様はちゃんとカズマにアプローチしているようだ。この調子なら無事二人は結ばれるだろう。でも、アイリス様が微笑を浮かべながら手紙を見ているのは、私には眩しい光景で。居た堪れなくなり私は早く立ち去ろうとする。
「アイリス様、私は他の仕事があるので失礼致します」
彼女がカズマにアプローチする所を見たくない。私が目を逸らす様にその場から逃げようとした時だった。
「待ってくださいクレア」
私の手を握ってアイリス様が私の事を引き止める。彼女の手を振りほどく訳にもいかなくて私はその場で立ち止まった。
「クレアはお兄様とはもう別れたのですか?」
急なアイリス様の発言に心臓が止まるかと思った。二週間前、カズマのプロポーズを断った日、私は彼に別れ話をする予定だった。結局、その話は出来ていないのだが、アイリス様は私が既にカズマと破局していると思っているのだ。
「い、いえ……私は───」
私は勿論別れてないと言おうと思った。だが、私がまだカズマに未練がある事をアイリス様に悟られてはいけない。悩んだ末、彼女に嘘をつく事にし
「───カズマ殿とはもう別れましたよ」
私がこの時どんな顔をしていたのかは分からない。ただアイリス様を気遣う憂いや、カズマを裏切ってしまった悲しさ等でとても複雑な顔をしていたと思う。
「そうですか、それは良かったです」
アイリス様は私の答えを聞くと、ただ無表情で返事をする。きっと彼女は私の嘘に気づいているだろう。
「あれから、カズマ殿にアプローチしたのですよね。彼とのその後の進展はいかがですか?」
怖い気もするが、一応私は聞いてみる。私が彼と別れようとしているのもアイリス様の為だ。二人には無事に結ばれて欲しい。
「特に進展はないですよ。お兄様は今でもクレアの事が好きみたいです」
"私の事が好き"。その言葉に私は心が惑わされる。嬉しいと少しでも思ってしまった自分を嫌悪する。彼とはもう別れなくてはならないのに。
「私はアイリス様の恋が実ることを応援しております。困った時はいつでも私を頼ってくださいね」
アイリス様に労いの言葉をかける。彼女は私の気遣いにフッと顔を綻ばせた。ふと、時計を見ると時刻は午後9時を指している。私はこの後に騎士団の会議が入ってる事を思い出した。
「それでは私は仕事がありますので失礼致します」
私はアイリス様の部屋から出て城の廊下を歩く。窓を見れば外はもう夜の帳が降りていてすっかり暗くなっていた。前までならこの時間帯はカズマが城に遊びに来る頃だった。だが、彼は二週間も姿を見せていない。
もう彼には私の事を忘れて新たな恋をして欲しい。そして、アイリス様と結ばれて欲しい。それが私にとっての幸せでもあるから。カズマの事がもう好きではない、と兎に角自分に言い聞かせていた。
「カズマに会ったら別れ話をしないといけないな……」
アイリス様の為にも彼と別れなければならない。その事を考えると、彼に会いたいような気もするし会いたくない気もする。私の心は彼に大きく動かされていた。その時、窓の外に人影が見えた。窓の外、正確には城門の所に人がいる。
「あれは……カズマか?」
黒髪に緑を基調とした服。遠目からではあるが、カズマの服装によく似ていた。心臓の鼓動が早まるのを感じる。もし本当にカズマなら私に会いに来たのだろう。
それからの私の行動は早かった。私はすぐに自分の部屋へと駆けていく。カズマに会う前に最低限、身だしなみを整えなければならない。私はバタン、と勢いよく自室のドアを開け部屋にある姿見の前に座った。
引き出しから
「もう時間がないな……」
私は本格的な化粧をするのは諦め、口紅だけ塗ることにする。桃色のリップを手に取り口に薄く塗った。淡い色がわたしの肌に上手く馴染んでいる。鏡を見てみると少し色気があるように見えた。
もう少し鏡を見て自分の姿を確認したいが、私は部屋から出る。すると、丁度廊下の奥にカズマの姿が見えた。こちらへ向かってきている。どうにか間に合ったようだ。
(な、何から話そうか……。二週間ぶりに会うから気まずい……。カズマからどう話しかけてくるか見てそれから話そう)
私は自分の部屋の前でウロウロする。カズマが来ている事には気づいてないフリをして彼から話しかけてもらうのを待つことにした。近づいてくる彼を私は黙って待ち続ける。顔が熱くなるのを感じる。そして、私の前に彼が来た───。
(彼はどんな態度を見せるだろう。プロポーズを断ってしまったが、私を許してくれたりするのだろうか)
「…………」
しかし、そんな予想を超えて彼は私に目もくれず去っていった。まるで私など居ないかのように彼は通り過ぎて行き、私は呆然とその場に立ち尽くす。
彼に話しかけられなかった事に一瞬頭が追いつかなかった。今日は私に会いに来たのではないのか。彼に会う為に急いで準備した私がなんだかバカらしくなってくる。私から彼に声をかけようとしたその時だった。
「お、アイリス」
彼の言う通り廊下の奥にはアイリス様。彼が来るのを待っていたかのようにアイリス様は彼女の部屋の前で佇んでいた。私は急いで近くの物陰に隠れる。
「約束通り来てくれたのですね」
「ああ、可愛い妹の頼みだからな」
アイリス様は部屋の扉を開けてカズマと一緒に中に入って行く。部屋の扉がバタンと閉まり、二人の姿が見えなくなった。すぐに私はアイリス様の部屋の扉に耳を当てる。中で二人が何か喋っているのが聞こえたが、その内容までは聞き取れなかった。
「ど、どういう事だ。カズマは私に会いに来たのではなかったのか……?」
手を輪っかにしてドアの向こうの声を必死に拾うが、先程と結果は変わらない。私の見えない所でカズマとアイリス様が二人きりになっている。カズマをアイリス様に譲ると決めたのに私は焦燥感に駆られていた。
「クレア殿」
私を呼ぶ声。振り向けばレイン殿が、アイリス様の隣の部屋からドアを開けて手招きしている。彼女はこんな所で何をしているのだろう。
「ちょっとこっちに来てください」
レイン殿に言われるがまま私は隣の部屋に入る。部屋の中は物置きになっていて普段は使われていない事が窺えた。
「れ、レイン!カズマがアイリス様の元に……!一体何がどうなって……」
「……クレア殿は何も知らないのですね」
私のアワアワした様子を見てレイン殿はため息をつく。そして彼女は事の顛末を一から説明し始めた。
「今日、カズマ殿はアイリス様と会う約束をしていたのです。アイリス様は今夜彼にプロポーズする予定なのですよ」
レイン殿の言葉に目を丸くする。カズマは私じゃなくてアイリス様に会いに来たという事だ。だからさっきも私に話しかけなかったのだ。しかも、アイリス様は求婚する覚悟まで決めている。カズマを彼女に譲るつもりだったが、いざ現実になるとモヤモヤした気持ちになった。
「そうか……。遂にアイリス様がプロポーズするのだな……」
「まぁカズマ殿が簡単にアイリス様に
今頃、部屋の向こうではアイリス様が熱いプロポーズをしている事だろう。彼女達の様子が見れない事が私の想像を掻き立て不安な気持ちが募っていった。
「どうにかカズマ達の様子を見れる方法はないものか……」
すると、私の横でキリキリという音がした。ふと目を向けると、レイン殿がアイスピックのようなもので、壁に穴を開けている。
「こうすればアイリス様の部屋が見えるはずです。壁も薄いですし、すぐに向こうの部屋まで開通しますよ。覗きますか?」
レイン殿の大胆な行動に尻込みする。穴を覗いてしまえば、アイリス様のプライバシーを侵害する事になる。私は見たい気持ちもあったが、穴を覗くのはやめることにした。
「いや、私はもうアイリス様にカズマを譲ると決めたのだ。彼と喧嘩もしてしまったしな……。別にアイリス様がカズマに何をしようと私がとやかく言う筋合いはない。だから二人の様子を見る必要はないだろう」
「ふーん、そうですか。あ、穴が開きました。じゃあ私だけ向こうの様子を見ますね」
レイン殿は私に構うことなく穴を覗いている。彼女の中に罪悪感はないのだろうか。少なくとも私は覗き見するつもりはなかった。
『───お兄様、今日私がなぜここに呼んだのかお分かりですね?』
アイリス様の声が聞こえてきた。壁に穴を開けたせいで、向こうの部屋の声がこちらまで聞こえてきたのだろう。覗き見はしないと言ったが、勝手に声が聞こえてくる分にはしょうがない。このまま二人の会話に聞き耳を立てよう。
『まぁ……大体分かってるけど……』
カズマが控えめに言う。
『そうですか、では改めて言わせてもらいますね。私はお兄様の事がずっと好きでした。どうか私と結婚してくれませんか?』
アイリス様は自分の想いを多く語るでもなく端的にそう言った。彼女の告白をカズマだけでなくレイン殿も私も聞いている。皆がカズマがどう答えるかジッと返事を待った。
『……俺は元々引きこもりでさ、もう一生女の子に縁がないと思ってたんだ。そんな俺がこんな綺麗な女の子に告白されている。嬉しくない訳がない』
カズマの声は凄く切なそうで聞いている私達が貰い泣きしそうな程だった。それだけ彼も告白を断るのが辛いのだろう。
『アイリスの気持ちは本当に嬉しいんだ。でも……、もう俺にはクレアがいる。クレアと俺が付き合っている事は知っているだろ?俺は二股出来るほど経験に長けてる訳でもなければそんな事するほどのクズでもない。だから、アイリスとは結婚できない』
カズマはアイリス様を傷つけないように細心の注意を払いながらも、ハッキリと彼女のプロポーズを断った。アイリス様がショックを受けるかもと心配していると、
『やはりお兄様はクレアの事を選ぶのですね』
アイリス様の声には諦観の念が含まれていていた。彼女自身も振られると分かっていたのだろう。
『ああ、ごめんなアイリス』
『別にいいですよ、どうせこうなるだろうと思ってましたから』
私はアイリス様の声に違和感を覚える。彼女の声は悲しんでいるように思えないのだ。むしろ心の中に闘志を燃やしているような、力強い声のように感じる。
『お兄様、少し目をつぶって貰えますか?』
『?、まあいいけど』
それから向こうの部屋から声が聞こえなくなった。私は声だけしか聞いていないので、中の様子は分からない。ただ穴を覗いているレイン殿の顔が赤くなっている。まさかと思い、私はレイン殿をどけて向こうの部屋を覗いた。
『じゅる……ちゅぱ……』
アイリス様はカズマと熱いキスをしていた。彼女が押し倒したのかカズマの上に馬乗りになっている。二人のイチャイチャしてる所を見て私の心の中で何かが壊れるのを感じた。
『……ぷはっ!はぁ……はぁ……ま、待てアイリス!い、一旦落ち着こう!』
アイリスのキスから解放されたカズマが息を絶え絶えにして彼女を止める。
『もう気持ちが抑えられないのです……!今夜だけ私の好きにさせてください……!ほら、口を開けて……!』
そう言ってアイリス様は再びカズマにキスをする。カズマとキスできるのは私だけの特権のはずだ。それがアイリス様に奪われてしまった。私は奥歯を噛み締める。
『……んんー!た、助けてくれ、痴女に襲われる!』
このままではカズマがアイリス様の物になってしまう。カズマもなぜ抵抗しないのだ。アイリス様も王族で力が強いとは言え、やり方はいくらでもあるだろう。
『そんな大声を出しても誰も来ませんよ。それに嫌なら抵抗すれば良いでしょう。お兄様は"ドレインタッチ"という強力なスキルがあったはずです。それを使わないということは、お兄様も満更ではないという事でしょう?』
『あ……いや……』
アイリス様の話を聞いて体から力が抜ける。カズマも言葉が詰まっているし図星だったのだろう。もうこれ以上私を傷つけないで欲しい。私以外に彼の下心が向けられる所なんて見たくなかった。
『それにさっきから下腹部に硬いものが当たっているのも気づいていますよ。ここが大きくなられたという事は……私に興奮されたのですよね?』
私はアイリス様の下卑た発言に嫌気が差していた。普段はお淑やかで可愛らしい彼女がカズマを前にして悪女になっている。私の中での彼女の純粋なイメージがどんどん崩れ去っていく。
『ま、待ってくれアイリス。今日は本当にどうしたんだ?前はそんなにはしたない子じゃなかっただろ』
アイリス様はカズマに恋しているとは言えここまでの強硬策に出るのは異常だ。彼もそれを感じ取ったのだろう。アイリス様はキスで体力を使ったのか、肩で息をしながら言う。
『……別に何もありませんよ、私は元からこういう子です、ただクレアが羨ましいなと思ったただけで……』
急に私の名前が出た事に体が反応する。
『クレアはもうお兄様を好きじゃないと言ってましたが、あの顔を見れば恋している事など誰が見ても分かります。あの顔が妬ましかったし嫌いでした……。本当に今思い出すだけでも虫唾が走ります……』
私が必死に隠していた想いもアイリス様は気づいていた。そして、彼女が私の事をそんなに憎んでいた事が何よりも辛かった。私との関係が壊れるのが嫌と言っていた彼女の言葉は嘘だったのか。
『だから私は決めたのです。私がお兄様と結婚しようと。そうすればクレアは相変わらず私の事を慕ってくれるでしょうし、私達の関係も壊れることはない。これが最善の行動なのです。だから……お兄様……』
『私と愛し合いましょう?』
アイリス様は再びカズマにキスをする。唾液を交換し合うディープなキスだ。そして彼女は空いた左手で器用にカズマのズボンを脱がしていく。
『ほ、本気なのか?本気でやるのか……!俺はついに童貞を卒業するのか!?』
『ちょっとお兄様、静かにしてください』
襲われているというのにカズマの顔は喜色に満ちていた。受け身ではあるが、彼が嬉しそうにアイリス様と一線を越えようとしている。もうそれ以上見たくなくて私は顔を背けた。
「クレア殿、二人の様子を見なくて良いのですか?」
私の様子を見ていたレイン殿が尋ねてくる。私は泣きそうになっている自分の顔を彼女に見せないようにして答えた。
「……ああ、もう見たくない。私の心はボロボロだ……」
アイリス様が私の事を憎く思っている事、そしてカズマが彼女の誘惑に負けてしまった事。あまりにショックな出来事が立て続けに起こって私はもう立ち上がる事も出来なくなってしまった。
「クレア殿、ちゃんと見てください。現実から目を背けてはいけません」
レイン殿が私の頭を無理やり掴んで穴の中を覗かせようとしてくる。私の視界にはカズマ達の姿がハッキリと映った。
「や、やめてくれ……これ以上見たくない……」
「これはクレア殿が選んだ事です。アイリス様がカズマ殿にアプローチしているのもクレア殿が許可を出したからです。自分がやってしまった事から逃げてはいけません」
確かに私が悪い部分もあるのは分かっている。これだけ打ちのめされてもまだアイリス様の事を裏切らないように必死に我慢しているのだって、私がおかしいのだ。
薄ら目を開けるとアイリス様がカズマの剛直に手を当てていた。彼女の手が彼の息子を上下に
『私も初めてなのでよく分かりませんが……ここを握られると気持ちいいのですね?』
『ううっ……アイリス……このままだと本当に不味いって……』
『ふふっ、余裕がないお兄様も可愛いですね』
アイリス様がカズマに笑いかける。その笑顔を見た時、私の中でどす黒い感情が流れているのに気づいた。これは嫉妬だ。嫉妬が私の心を支配し彼女をどんどん嫌いになっていく。
『あっ、なんだかビクビクしてますよ。もう限界が近いのではないですか?』
『ううっ……ほ、本当にヤバいから……だ、ダメだもう出る……!』
『きゃっ!』
カズマの愚息から勢いよく精液が飛び出るのが見えた。その液体はアイリス様の手を白濁に汚す。
「殺してやりたい……」
私の口からは憎悪の言葉が漏れていた。アイリス様がカズマを襲う所を見てしまった。もうアイリス様……いや、アイリスを主君として見れない。彼女は恋敵だ。
『お兄様、気持ちよかったですか?もう一度キスをしましょう』
彼女が再びカズマにキスをねだる。その蕩けた顔を見てフツフツと怒りが湧いてくる。私の男に手を出すなと言いたい。もう隣の部屋に突撃しようとしていたその時だった。
『ドレインタッチ』
カズマが突如としてスキルを使う。彼と手を繋いでいたアイリス様は生命力を奪われ、徐々に力が抜けていった。カズマに馬乗りになっていた彼女は力なくカズマの上に倒れる。
『な……ど、どうして……!』
『ごめん、やっぱりクレアがいるのにこういう事をするのは良くないと思うんだ。アイリスもきっと後悔すると思う』
カズマはアイリスをそっと床にどけ、脱いでいたズボンを履き直す。
『アイリスの気持ちは本当に嬉しい。でも、やっぱり俺は二股は出来ない。だから……俺の事は諦めてくれ』
それだけ言い残すとカズマはアイリスの部屋のドアを開け、帰って行った。隣の部屋にはアイリス様だけが残される。
『はぁ……振られてしまいました……』
アイリスは悲しそうにため息を漏らした。その姿を見て私は可哀想に思う気持ちより、ざまあみろという気持ちの方がはるかに強かった。私の性格はかなり悪くなったようだ。
「クレア殿、大丈夫ですか……?」
熱心に穴の中を覗いていた私を心配したのかレイン殿が声をかけてくる。私は彼女を軽く一瞥する。
「……少し疲れたが大丈夫だ」
「すみません、私が無理やりクレア殿を辛い目に遭わせてしまって……」
レイン殿は申し訳なさそうに言う。アイリスとカズマの情事を見させたことを言っているのだろう。チラリと穴の中を覗くとアイリス様が部屋の中で泣いていた。彼女のプライバシーを守る為にも私はそれ以上部屋を覗かないようにする。
「アイリス様も完全にカズマ殿に振られた訳ですし、ショックを受けたでしょうね……。」
レイン殿はアイリス様に同情しているようだが、私の心には清々した気持ちと哀れに思う気持ちが混在している。自分でも複雑な思いだった。
「レイン殿、一つ頼み事をしていいか?」
「?、何ですか?」
私はレイン殿のことをまっすぐ見て言う。これは彼女にしか頼めない事だ。
「私はアイリス様の護衛を辞めようと思う。これからはレイン殿が彼女の面倒を見てやってくれないか?」
私の発言を聞いたレイン殿は目を丸くする。ずっとアイリス様の為に生きていた私がその仕事を辞めるのだから驚いているのだろう。
「よ、宜しいのですか?あんなにアイリス様が好きなクレア殿が護衛を辞めるだなんて……」
「ああ、私は主君が悲しむ様を見て喜ぶような奴だ。アイリス様の護衛として相応しくない。明日にでも辞表を出しに行く」
私の真剣な顔を見て彼女も何か察したのか、力強く答えた。
「アイリス様は私がこれから責任を持って面倒を見ますよ。安心してください」
レイン殿の返事に私は安堵する。後のことは彼女に任せても大丈夫なようだ。心がボロボロになっていた私も彼女の言葉で少し報われたような気がした。
多分あと2話で完結です