カズマがクレアと結婚する話 作:てつろう
約5000字あります。
私はドアの前で大きく深呼吸した。これから人生で一番の見せ場が始まる。私とカズマが愛し合っている事をみんなに知ってもらうのだ。私は純白のウェディングドレスに身を包み入場の合図を待つ。
参列席にはダスティネス卿やレイン殿を始めとする貴族達にカズマの知り合いの冒険者。上流階級から一端の冒険者に至るまで様々な面子が集まっていた。彼らがやって来たのは全て私達の新たな門出を祝う為。
そう、今から始まるのは私とカズマの結婚式だ。
私が彼にプロポーズしてからもう半年。相思相愛だった私達はプロポーズを機に更に愛を深めそのまま籍を入れる事になった。それから私の両親にカズマと挨拶に行ったり、カズマのパーティ仲間であるめぐみんやダスティネス卿に私達の結婚を猛反対されたりと色々あった。長い挨拶回りだったが、皆最終的には私達の結婚を祝ってくれていた。ただ一人を除いて。
私達の結婚を認めなかったのはアイリス様だ。
一度、カズマと二人でアイリス様に会いに行ったのだが、彼女は体調不良を理由に一切の面会を拒否した。それから都合の良い日時を教えて欲しいと手紙を送ってみたが、常に忙しい、体調が優れないだの様々な理由で会うことは叶わなかった。そのまま私達の結婚式の日になってしまったという訳だ。
彼女が私達に会わなかったのは、カズマが私に取られたことを認めるのが怖かったのか、単に私の事を嫌いになったのか、真相は分からない。でも、アイリス様に認められないまま結婚するのは心に大きなわだかまりが残る。私の大切な人にこそ結婚を認めて欲しかった。
そして迷った末、私はアイリス様を今日の結婚式に招待した。カズマに振られた挙句、彼を奪った女との結婚式など見たくもないだろう。だから、彼女はきっと来ない。そう頭では分かっているのだ。それなのに───
私はアイリス様が来るのを願って止まなかった。
「それでは新婦の入場です。会場後方の扉にご注目ください」
司会の人の合図で私の目の前の扉が大きく開かれる。私の目に入ってきたのは多くの人、人、人。その中にアイリス様の姿が見えないか目だけを動かして探す。だが、彼女は見当たらなかった。
私は父と一緒にバージンロードを歩く。左右の参列者からは割れんばかりの拍手が上がっていた。一歩、また一歩と奥に立っているカズマの元へと歩んでいく。
そして、丁度真ん中辺りまで来た所でレイン殿の姿が見える。彼女に視線を送りアイリス様が来ているか目で尋ねると、首を横に振られた。『アイリス様は来ていない』という意味らしい。結局彼女には最後まで私達の結婚を認めて貰えなかったようだ。
そのままカズマの元まで辿り着いた。私は父から彼へ腕を組みかえる。スーツ姿のカズマはいつもより輝いて見えた。折角の結婚式なのだ。今はアイリス様の事を忘れてこの時間を楽しもう。
「……クレア、すごく綺麗だな」
「か、カズマこそカッコイイぞ」
私は彼と小さな愛の言葉を囁いてバージンロードを歩く。ふと隣に目をやると私達を恨めしそうにめぐみん殿が睨んでいた。私は彼女に笑顔で応える。彼女は今にも爆裂魔法の詠唱を始めそうで、隣のダスティネス卿がどうにか彼女を宥めていた。
そして、祭壇の前に着く。そこには聖職者であるアクア殿が立っていた。
「汝ー、クレアは。この引きこもりでニートで最弱職のカズマと結婚し、神である私とついでにエリスの定めに従って、夫婦になろうとしています。あなたは、その健やかな時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、貧しい時も、カズマを愛し、カズマを敬い、カズマを慰め、カズマを助け、その命の限り、堅く節操を守ることを約束しますか?」
「はい、誓います」
どこかおかしい誓いの言葉に参列席がどよめく。勿論私もカズマもアクア殿が何かやらかす事は想定していた。だが、その上で私達は彼女を選んだ。少し変わった結婚式も私達らしいだろう。
「はーい、誓いの言葉の最中だから静かになさい」
ざわめく群衆をアクア殿が手をパンパンと叩いて静かにさせる。そのままアクア殿はカズマに尋ねる。
「汝ー、カズマは。このクレアと結婚し、固く節操を守る事を……無理じゃない?どうせカズマさんはすぐ浮気しちゃうでしょ?」
「おい」
参列席が再びどよめく。冒険者達からは『そうだそうだ!』と好き勝手言われている。彼も『うるさいぞお前ら!』と反論していた。
「……冗談よ。汝ー、カズマはクレアを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「それでは指輪の交換と誓のキスを」
カズマはアクア殿から婚約指輪を受け取る。そして私の方を見るとニッコリと微笑んだ。ああ、私はこの笑顔が好きなのだな、と自分で気づいてしまう。彼は私の左手を取ると指輪を薬指に嵌めた。
「ありがとうカズマ」
指輪の交換を終え次は誓いのキスだ。私はそっと目を閉じ彼からのキスを待った。
因みに私とカズマは今まで何度もキスをしている。それは朝出かける前の挨拶だったり、目覚めのキスだったり、愛情表現だったりと色々だが、私達はいつも軽いキスではなくディープなキスをしていた。少し恥ずかしいが、私はディープキスが大好きだからだ。彼の口の中を私の舌で蹂躙するのが好きだ。私の口の中に入ってくる彼の舌を受け止めるのも好きだ。彼と深く繋がった気になれる口付けが大好きだった。何が言いたいかというと、普段の私達のキスが良くなかったという事だ。
目をつぶっていると、彼の口が私の唇に触れる。と、同時に私は彼の口の中に舌をねじ込んだ。両手で彼の後頭部をガッシリ掴み彼の頭が後ろに引かないようにする。そのまま歯茎や歯の裏、舌を舐め、ジュルジュルと下品な音を立てながらキスをした。
私はいつも通りのキスをしたつもりだったのだが、カズマは両手で私の肩を掴んで離れようとする。普段と違う彼の態度を不思議に思い目を開けると、そこには顔を真っ赤にしたカズマが立っていた。ゆっくりと横の参列席を見れば皆気まずそうに目を逸らす。
「く、クレア……みんな見てるからそういうキスは二人きりの時に……」
「!?」
ここでようやく私は自分のした過ちに気がつく。やらかした、完全にやってしまった。目を閉じたせいで二人きりのキスと誤認してしまったのだ。私は涙目になりながら彼を睨む。彼は悪くないのに。場が凍りつく中、参列席からめぐみん殿が声を上げた。
「二人とも何ですか!そんなハレンチなキスを見せつけて、私に対する当てつけですか!もう我慢なりません!今ここで爆裂魔法を撃ちます!」
彼女が声高に宣言すると会場に居た冒険者達が一斉に逃げていく。彼らにはめぐみん殿が本気で言っているのだと伝わったのだろう。それを見て貴族達も慌てふためき、場内は一気に混乱に陥った。
「だ、誰か!あの紅魔の少女を取り押さえろ!」
結婚式場のスタッフがそう叫ぶ。みんながめぐみん殿に注目して一触即発の空気が流れていた。
「クレア」
振り向けばカズマが私の方を見てニヤニヤ笑っている。
「こういう結婚式も俺達らしくていいと思わないか?」
「これのどこが良いのだ!?それと……す、すまない。羽目を外してしまった……」
私は彼に申し訳なかった。みんなの前で恥をかかせてしまった。しかし、彼は嫌な顔一つせず私の耳元に顔を近づけて囁いた。
「今なら誰も見てないぞ」
周りを見れば参列者は逃げ惑い、スタッフ達はめぐみんと対峙していて確かに私達の事など誰も見ていない。彼の言葉に私はゴクリと唾を飲み込む。
「だから……さっきのキスの続きを……やるか?」
彼が皆まで言う前に私は彼に口付けした。そして彼の口の中に必死に舌を入れる。本当に彼が私の婚約相手で良かった。そう思いながら彼とディープキスをした。
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その後カズマが、暴れためぐみん殿からドレインタッチで魔力を奪い、事態はどうにか収まった。紆余曲折あった結婚式も無事終わり今は披露宴の最中だ。私とカズマが座っているテーブルには人がひっきりなしに訪れていた。
「カズマ、伝家の宝刀のスティールを見せてやれ!」
突然冒険者の一人がそんな事を言い出した。彼の最も厄介なスキルと言ってもいい。私もかつてこのスキルに泣かせられた事がある。私は嫌な予感がして身構えた。
「よーし、俺のスティールを食らいたい奴は出て来い!」
カズマも意外とノリノリである。よし、ここは巻き込まれる前に逃げてしまおう。私は席から立ち上がり別の所へ行こうとすると、
「そこはカズマのお嫁さんにスティールするのが一番だろう!」
誰かがふざけた事を抜かした。その声がした方を私はキッと睨みつける。肝心の相手は酒で酔っているからか私の威圧に気づかない様子だった。
「「スティール!スティール!スティール!」」
いつしか誰かの戯言は大合唱になり男達が私とカズマを囲む。もう逃げ道もなくなってしまった。私は周囲の女性陣に助けを求めるが、彼女達もスティールを恐れているせいか近寄ってこない。
だが、カズマなら私に公衆の面前で恥をかかせるような事はしないはず……!一縷の望みをかけてカズマに視線を送ると、
「しょうがねえなあ!俺のスティールをしっかりと見ておけよ!」
彼はやる気満々で手をうねうねと動かす。どうやらスティールを使う気のようだ。もし、彼が私にスティールを使えば、間違いなくパンツを盗られる。私は彼に注意した。
「カズマ殿、スティールを使ったら本当に怒るからな!絶対に使うんじゃないぞ!」
「まあ大丈夫だって。俺を信じてくれ」
私が拒絶するが、カズマはどこ吹く風とまるで気にしていない。まずい、このままではパンツを取られてしまう。どうしたものかと周囲を見渡すと
男性陣に紛れ込むめぐみんの姿が見えた。さっきのディープキスの仕返しのつもりかこちらをニヤニヤしながら見守っている。彼女の嫌な態度に私は奥歯を噛み締めた。
「それじゃあ行くぞ、『スティール!』」
眩い光の粒子が彼の手を明るくする。私はズボンの上からパンツを押さえて必死に下着が取られないようにした。ギュッと目をつぶり体を縮こまらせる。そして、一拍置いてカズマが歓声をあげる。
「おらぁ!
カズマの手には確かにパンツが握られていた。黒の少し大人びたデザインの下着だ。そして私はズボンを確かめる。股がスースーする感じはないしあのパンツは私が履いてる物とは異なる。
「?、私は何ともないようだが……?」
あのパンツは誰の物だろう。ふと、視線を奥にやると顔を真っ赤にした少女が、立っていた。
「わ、私のパンツを返してください……!」
めぐみん殿が震える声で言う。なるほど、あの下着はめぐみん殿の物だったのか。咄嗟に手を向けられたので目をつぶってしまったが、スティールを使ったのは私じゃなくてめぐみん殿だったらしい。
カズマはめぐみん殿の黒のパンツを空高く掲げ、クルクルと回す。冒険者達も歓声を上げながら『パンツ!パンツ!』とコールしていた。男達が下卑た表情を浮かべる醜悪な光景だった。
「な、なぜ私なのです……!クレアにスティールを使ったはずでは……!」
「さすがにクレアに恥はかかせられないだろ。今日の主役だからな。すると丁度めぐみんが居たからちょっと下着を借りようと思ってな」
つまり、彼の中ではめぐみん殿より私の方が上ということだ。その事実に私はニヤニヤとした笑みを浮かべてしまう。
「っ……!いいでしょう!もう怒りました!今度こそ爆裂魔法を撃ちます!覚悟はいいですね!」
彼女が啖呵を切って私達を脅す。だが、めぐみん殿は先程カズマにドレインタッチをされたばかり。魔力が足りない為爆裂魔法を撃つのは不可能だ。周囲の冒険者達も彼女の言葉がハッタリだと見くびっている。
「どうせ今日は爆裂魔法を使えないだろ」
めぐみん殿が懐から石ころを取り出す。その石は紫色の妖艶な輝きを放っていた。私も見た事がある。あれはコロナタイトだ。
「おい!頭のおかしい紅魔の子が爆裂魔法を撃つ気だぞ!」
誰かの叫び声と共に冒険者達は混乱に陥る。先程と似た光景に私は顔を綻ばせた。彼の言う通り、確かにこういう結婚式が私達らしいかもしれない。
「……ここにアイリス様がいたらな……」
私は暴れ回るめぐみん殿を見ながら心の中でそう思うのだった。
次回が最終話です。