※この作品はR-18です。

カズマがクレアと結婚する話   作:てつろう

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この誘拐犯と決別を!

 

 

 

俺とクレアは犯人が身代金の受け取りに指定した場所に来ていた。いや、俺とクレアだけじゃない。ここには、私服に着替えた兵士達が十数人と潜んでいる。俺達が犯人を待っているのは、ベルゼルグ王国の広場にある大きな噴水の前だった。周りには、ボールで遊ぶ少年少女。出店を開き活気に溢れる商店街のおじさんおばさん。買い物に来た夫婦など老若男女がひしめき合っている。犯人が指定した場所は静けさとはとても程遠い場所だった。こんなうるさい広場のどこに身代金を置いておけというのか。犯人の手紙によると、広場の近くにある木の近くに置いておくようにとの事だった。

 

 

「よし、身代金の入った鞄を持った兵士はそのまま帰れ。後は私達に任せろ。」

 

 

身代金を持ってきた兵士と背中越しに会話するクレア。指示を受けた兵士は何事もなかったかのように人でごった返す商店街へと消えていく。残されたのは広場の木に不自然に置かれた革製のバックとそれを狩人の目で虎視眈々と睨みつける十数人の兵士達だった。

 

 

「後は犯人が現れるのを待つだけだな。」

 

 

俺は気楽に言う。なにしろこれだけの兵士が一つのカバンを見張っているのだ。例え、犯人が身代金を受け取りに来たとしても無事に帰れるとは思えない。

 

 

「気を抜くな。何か嫌な予感がする。」

 

「嫌な予感って……何が起きるって言うんだよ。」

 

「それは分からない。ただの勘だ。」

 

「またそれかよ……」

 

 

クレアは困った時は勘がすると言って誤魔化すのだ。聞き込みの時も彼女の勘は働いていたが、その予感は当たることなく撃沈している。

 

 

「どうせ大丈夫だろ。すぐにアイリスも帰ってくるさ。」

 

「……そうだな。お前を信じよう」

 

 

俺の発言にクレアは少し顔色を取り戻す。犯人は必ず来るはずだ。

だが、それから一時間経っても犯人はやって来なかった。体力のあるクレアはともかく長年引きこもりとしてニート生活をしていた俺は精神的にも限界が近い。俺は近くのベンチに腰かけながらクレアに愚痴を漏らす。

 

 

「なぁもう犯人は来ないんじゃないか?」

 

 

俺の言葉にクレアは身動き一つせずじっと鞄を見つめている。相変わらず広場には子供や大人が絶えず行き来しているが、鞄に目を向ける者は誰一人として現れなかった。もう犯人の受け渡し時刻から随分時間が経っている。まさか怖気付いて逃げたのではないだろうか。

 

 

「犯人は必ず来る」

 

 

クレアは信念を持ってそう答える。これ以上彼女と話していても疲れるだけだと思い俺は足を組みかえ、何気なく噴水の方を見ていると一人の人に目が止まった。魔法使いのようで濡れ羽色のローブで体を覆い隠している。頭もすっぽりと隠れており髪色は分からない。性別も不明だ。だが、鞄のある木の方へゆっくりと歩んでいる。もしかしてアイツこそが犯人なのではないか。

 

 

「……おい、クレア」

 

「分かっている、あのローブの人間だろう」

 

 

最早俺達の間に言葉は必要なかった。あたりの空気は張り詰め、私服の兵士達もヤツを注視している。動きたくなる衝動を必死に抑え今か今かとその時を待ち受ける。ローブの人はゆっくりと進んで行く。噴水に目もくれず遊ぶ子供を無視し、鞄の置いてある木の傍へそっと腰掛けた。間違いない、アイツが犯人だ。

 

 

「もういいかクレア!」

 

「まだだ、鞄に手をかけるのを待て!それまで耐えろ」

 

 

俺はローブの人の横から鞄を見続ける。最早俺の耳には商店街の活気のある声も噴水の水が流れる音も聞こえなかった。ひたすらに犯人に注意する。そして犯人が鞄に手を置いた。

 

 

「今だ行け!」

 

 

クレアの声を合図に周りに潜んでいた兵士が一斉に駆けていく。無論、俺とクレアも走る。たった一人の犯人に対しこれだけの人間が捕まえようとしている。遂に犯人を逮捕した、そう思った時だった。

ゴーンと、金属を叩いたような音が響く。日本で言えば除夜の鐘の音。急に何の音だと確認しようとすると先程まで明るかった空が黒一色に染まっていく。巨大な闇は空を暗くするだけに留まらず先程まで見えていた噴水も真っ黒に染めた。何も見えない。まるで目を閉じた時のように視界から光が消えてしまったのだ。

 

 

「おい、どうなっている!クレア、大丈夫か!?」

 

「ああ、私はここだ。カズマ殿はそこにいるのか?」

 

 

暗闇の中で声を頼りに進んでいく。何も見えないから迂闊に走ることは出来ない。俺は手だけを縦横無尽に動かしながら暗闇の中でもがく。だが、手の先には何も触れず、俺は腰が抜けたようにその場に座り込んでしまった。何も見えない所で進むのは危険だ。

 

 

「どうなってるのだ……急に何も見えなくなったぞ……!」

 

 

クレアも困惑した声を上げている。犯人が何か魔法でも使ったのだろうか。いくら声を上げても暗闇は晴れることなく俺の恐怖心を蝕(むしば)んでいく。俺は不安になりながらその場でじっと座っている。

 

 

「大丈夫だ、きっとすぐに元通りになる。それまでの辛抱だ。」

 

 

クレアが心細くなっていた俺を元気づけてくれた。と、その時再びゴーン、と鐘の音が鳴る。それを合図にして周りの暗闇が一気に晴れていく。黒一色で染まっていた空は元の清々しい青色をとりもどした。さっきまで何も見えなかった広場では子供達が相変わらず遊んでいて通行人も行き交っていた。

 

 

「大丈夫かい?あんた達、こんな所で蹲(うずくま)っていたら人にぶつかるぞ」

 

 

通行人の一人に声をかけられる。俺は適当な返事をして立ち上がった。

 

 

「そうだ、鞄はっ!?」

 

 

木の方を見るとそこには何も置いてない。犯人が鞄を持ち去ったのだろう。周りにいた兵士も同じように暗闇に包まれていたのかその場で立ち往生していた。

 

 

「カズマ殿、これは……」

 

 

クレアが俺の元に駆け寄ってきて悔しそうに顔を歪める。先程の暗闇のことも気になるが、今は身代金のことだ。

 

 

「ああ、身代金を一方的に奪われて……、俺達の負けだ。」

 

 

犯人と接触する最大のチャンスを俺達は逃してしまった。

 

 

+

 

 

俺達は身代金を奪われてとぼとぼと城へ帰っていた。 犯人に惨敗したからか兵士達の心も沈んでいるように思えた。重苦しい空気の中、俺達は足を進める。

 

 

「何も出来なかったな」

 

 

クレアが力のない声で呟く。確かに何も出来なかった。そもそもさっきの現象は何だったのか。急に視界が真っ暗になった。人の視界を奪う魔法などあっただろうか。俺の知る限りでは聞いたことがない。犯人は強大な力を持っている。その事だけがひしひしと伝わってきた。

 

 

「もう過ぎたことは仕方ないだろ、次に活かそうぜ」

 

 

どうにかクレアを慰めようとする。彼女はアイリス様を救おうと躍起になっていたからその落ち込み具合は半端なものではなかった。先程から下を向いていて暗い顔で歩いている。

 

 

「私が身代金に偽物のお金を用意しようと言った時、お前は本物のお金にした方がいいと言っていたな。犯人に易々と取られるくらいならお金を入れる必要などなかったではないか。お前の言ってたことは間違っていたのではないか。」

 

 

クレアの発言は八つ当たりに近かった。彼女は人一倍落ち込んでいるからその気持ちをどうにかしたかったのだろう。

 

 

「なんだよ、俺が悪いって言うのか?」

 

「……分からない、ただ言ってみただけだ」

 

 

クレアも怒りの矛先をどこに向けたらいいのか迷っている様子だった。俺でもそんな彼女の心情を察することが出来る。だが、バディである俺を非難してきたことが心に引っかかって気になってしまった。そのせいで俺もクレアに強く当たってしまう。

 

 

「お前だってもう少し早く犯人を捕まえるように合図を出していたら今頃事件が解決していたかもしれないだろ。こうなったのはお前のせいでもある。」

 

 

少し言い過ぎたかと思ったが、俺の溜飲は下がらなかった。むしろ惨めな思いが一層強くなる。クレアは俺の言葉を聞いても顔色一つ変えない。いや、心の中では傷ついてるのかもしれないがそれを顔に出していないだけだ。

 

 

「…………」

 

 

俺達は黙って歩く。とても気まずい時間だった。早くこの時間が終わって欲しい。俺達の心はすれ違ってしまって、沈黙が二人の心情をよく表していた。

 

 

「もうバディは解散するか?」

 

 

ふと、クレアが淡々と述べる。彼女の顔は暗いままだ。薄々そう言われるかもと分かっていた自分がいる。俺が彼女の言葉に答えようとするが、先にクレアが話し始めた。

 

 

「……なんて冗談だ、忘れてくれ」

 

 

明らかに冗談な訳がない。でも、ここで言い返せば本当にバディを解散してしまう気がした。俺はそれが怖くて何も喋らなかった。また気まずい沈黙が俺達の間に流れる。

そんな事をしているうちに城へと着いていた。城へ着くまで俺達はほとんど会話していない。城の廊下を進みながらこれからのことを考えていた。

 

 

「では、私は国王様に捜査の報告に行ってくる。お前達はここで解散だ。」

 

 

クレアが一人で廊下の奥へと進んでいく。この先には王様の部屋があるだけでそれ以外には何もない。彼女は一体どんな気持ちで王様に報告に行くのだろうか。アイリスを救えなかった悲しみや王様への恐怖に耐えられるだろうか。ひょっとしたら泣き出してしまうかもしれない。

 

 

「なんて……俺にあいつを心配する権利なんてないよな……」

 

 

クレアとの関係はギクシャクしている。俺が彼女を助けに行ったところでクレアは変な意地を張って迷惑になるだけだろう。今日はもう自分の部屋に帰ろう。俺が王様の部屋に向かったクレアを見送っていると、一人の兵士が俺に話しかけてきた。

 

 

「カズマ殿、少々宜しいですか?」

 

 

先程まで捜査に出ていた兵士と違い、甲冑を身につけている。城の中に滞在していた兵士だろう。

 

 

「先程犯人から再び手紙が届いたようでして。」

 

 

兵士の手元を見れば一通の手紙がある。俺は奪い取るようにそれを手に取り中の文を読み進めていく。

 

『最近、巷で話題となっている”変態紳士”とは私のことだ。近々アイリス王女と引き換えに別の女を要求するだろう。その時を楽しみにしておきたまえ。』

 

手紙にはそう書いてあった。”変態紳士”、その名前には聞き覚えがある。かつて新聞で見た事があった。大人の女性を狙って誘拐している犯人だったはずだ。アイリスを誘拐した犯人の正体が変態紳士?はぁ……これは本当に。

 

 

「はぁ……厄介なことになったな」

 

 

俺はため息をつきながら空を仰ぐのだった。

 

 

+

 

 

自室で夕食を取りながら俺は恋文を認(したた)めていた。

 

 

「『めぐみん、ダクネスへ。二人とも俺のことを好きでいてくれてありがとう。そんな二人にお願いがある。俺はハーレムを作ろうと思うんだ。めぐみんやダクネス、今はいないけどアイリスとも結婚したいと思ってる。』……うーん、ここからどう書こうかな。」

 

 

手紙の内容は端的に言えば俺がハーレムを作るのでそれを認めて欲しいという内容だった。こんな都合のいい内容をあの二人が認めてくれるのか不安はあるが俺の事を慕って止まないアイツらだからきっと大丈夫だろう。

 

 

「『俺はみんなを平等に愛したいと思っている。別にハーレムを作るのが男の夢だからという理由でこんなことをしてる訳じゃない。ただみんなを幸せにしたいんだ。』…………おお、いい感じじゃないか。これで感動してもらえるだろう。」

 

 

手紙の内容はとうとうクライマックスに突入する。この文を見れば誰もが俺の思いに涙するに違いない。筆が乗り始めスラスラと恋文を書き進めていると、コンコン、とドアを叩く音がした。

 

 

「カズマ殿、少しいいだろうか。」

 

 

クレアの声だ。俺は筆を一度置き彼女を出迎えることにした。

 

 

「どうしたクレア、今手紙を書いてて忙しいんだが」

 

「手紙……?そんな事はどうでもいい。犯人の情報が分かったので伝えに来たのだ。巷で話題の”変態紳士”という男がアイリス様の誘拐犯らしい。」

 

 

クレアの話は俺が既に聞いた情報だった。彼女はわざわざ伝えに来てやったぞという顔で話すがもうその情報は古い。

 

 

「そんな事ならもう知ってるぞ。今俺はめぐみん達にハーレムの打診を行っている所なんだよ。頼むから集中させてくれ」

 

「貴様……また一夫多妻になろうとしているのか!浮気はダメだと言っただろう!」

 

 

クレアは俺の事をキッ、と睨みつける。先程少し喧嘩になったこともあって彼女のその目線は痛かった。白スーツもその事を察したのか早々に話を切りあげる。

 

 

「まぁその話は今度しよう。問題は変態紳士のことだ。アイリス様を除いてヤツが大人の女性しか誘拐してないことは知っているな?」

 

「そうなのか?でも、それがどうしたって言うんだよ」

 

 

クレアは俺の質問に答える前に周囲に人がいないことを確認し声のトーンを落として話した。

 

 

「アイリス様はまだ子供だ。つまり、犯人からしてみれば必要ない存在とも言える。もしこのままアイリス様を救出出来なければ殺される可能性だってあるという事だ。」

 

 

アイリスが殺されるかもしれない。その事実に俺はたじろいだ。当初はすぐにアイリスが帰ってくると思っていたのに、いつの間にかそこまで事態が進展していたなんて。俺にそのことを伝えるクレアも声が震えていた。

 

 

「明日はアクセルの街で有名な占い師の元を訪ねる予定だ。朝早くから出かけるから遅れるなよ。」

 

 

彼女は今どんな気持ちで捜査に参加しているのだろうか。彼女の心情を察するだけで胸が痛かった。

 

 

「そうだ、お前に聞いておきたいことがあったのだ。」

 

 

クレアは話を終え部屋を出ていこうとするが、最後に言い残したことがあったのか振り向いて言う。

 

 

「お前は私とバディを組むのは嫌か?」

 

 

クレアは世間話でもするかのように聞いてきた。この言葉の返答次第では彼女の今後の態度が変わる、そんな気がした。正直、彼女とのバディは嫌な気持ちもある。だが、俺は彼女の質問には答えなかった。

 

 

「お前も俺とバディを組むのは嫌だろ?」

 

 

俺の返事を聞いたクレアは悲しそうに笑った後そのまま部屋を出ていった。彼女との溝がさらに深まってしまう。

 

 

「はぁ……どうすればいいんだよ」

 

 

俺はやりようの無い想いを枕にぶつけベットの上でじたばたと暴れるのだった。

 

 

 




まだ承前半くらいです。ここら辺で感情移入が発生してるといいな。
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