※この作品はR-18です。

カズマがクレアと結婚する話   作:てつろう

7 / 17




約8000字あります。ちょっと長くなっちゃいました。


この闇の悪魔に天誅を!

 

 

 

クレアに休みを貰ってから三日後、俺は城の自室で引きこもっていた。

 

 

「サトウカズマ!入るぞ!」

 

 

ノックもなしにクレアが部屋の中に入ってくる。勢いよく入って来た彼女だが、部屋の中に入ると天井のある一点を見つめて立ち止まった。彼女の見つめる先には綺麗なツララが生えている。

 

 

「なぜこんな所にツララがあるのだ?冷却魔法でも使ったのか?」

 

「ああ、俺がさっき『フリーズ』で天井を凍らせたんだよ。この氷が溶けるのを眺めていると一日が終わるんだ。」

 

「お、お前……そんなニートみたいな生活をしていて恥ずかしくないのか。ダスティネス卿達にも顔を見せなかったそうだな。」

 

 

俺のとっておきの楽しみをクレアは呆れた様子で見る。俺はこの三日間の休日を、氷が溶けるのを見る事だけに費やしていた。

 

 

「この前めぐみんを襲ったから合わせる顔がなくてな……。それより俺に何か用か?アイリスの下着を探しているなら俺の部屋にはないぞ。」

 

「ななな、なぜ私がアイリス様の下着を探さなければならんのだ!……た、確かに少し見てみたい気もするが……、ま、待て!今の発言は無しだ!忘れろ!」

 

 

こんなやつにアイリスの護衛を任せていて大丈夫なのだろうか。

 

 

「す、すまない、取り乱した。ほら、この前犯人がミシン……とやらを作るように要求してきただろう?あれが遂に完成したのだ。」

 

 

さっきのアイリスの下着の件について問い詰めたい所だが、とりあえずクレアの話を聞く。

 

 

「もう出来たのか。」

 

「ああ、今日の昼頃には犯人の元へミシンを持っていくぞ。それまでに準備しておけ。」

 

 

クレアはそう言い残して部屋を去ろうとする。彼女がドアを開けた瞬間、廊下を走っていたメイドとぶつかりそうになっていた。部屋の外をよく見れば、使用人達が忙(せわ)しなく動いている。何かあったのだろうか。

 

 

「今日は城で魔王討伐を祝うパーティがあるのだ。ダスティネス卿も来るそうだぞ。まぁ、私達には関係ない事だ。」

 

 

俺の疑問が顔に出ていたのか、クレアが教えてくれる。彼女はそれだけ伝えると部屋を出ていった。俺はベッドに横になり、再び凍った天井を見る。

 

 

「俺が魔王を討伐したのに、パーティに呼ばれてないんだけど……。」

 

 

俺の文句は誰に届くこともなかった。

 

 

+

 

 

それから数時間後、俺とクレアは犯人がミシンの受け渡し場所に指定した広間へと来ていた。広間はガヤガヤと老若男女の騒ぐ声が飛び交っている。その中に兵士達も紛れ込んでいた。

 

 

「ミシンは貴様が持っていろ。犯人が近づいてきた時は私が援護する。」

 

 

俺は重たいミシンを持ったまま広間へと足を進める。クレア含め周りの兵士達はミシンから目を離さなかった。

 

 

「でも、どうやって犯人を捕まえるんだ?視界が真っ暗になればどうしようもないだろ?」

 

「いや、やり方はいくらでもある。まずは聴覚を利用することだ。私は特に耳がいいからな。犯人が近づいてくる足音、鼓動、呼吸音……。それらを聞き分ければいいだけの話だ。」

 

「いや、そんな簡単に言うけど、クレアの耳が良かった事なんて……」

 

 

良かった事なんてない。そう言おうと思ったが、直前で思い留まる。今にして思えばクレアの聴覚が鋭い瞬間は何度かあった。以前、アルダープのいとこの屋敷に聞き込みに行った際も、俺には何も聞こえないのに、クレアだけ彼の声が聞こえていた事があった。彼女は人一倍聴覚が鋭いのだ。

 

 

「お前、本当に耳がいいんだな……」

 

「だからそう言っているだろう。後は貴様の魔法で犯人を牽制するくらいだな。出来そうか?」

 

 

クレアに言われて考え込む。簡単に出来るとは言えない。俺が使えるスキルと言えば、初級魔法やドレインタッチくらいのものだ。それだけで犯人に太刀打ち出来るだろうか……。

 

 

「やっぱり俺には無理…………」

 

 

前を見るとクレアが俺の事を真正面から見据えている。彼女の碧眼に俺の姿が映っていた。そうだ、俺にはクレアがいる。

 

 

「……クレアが正確に犯人の場所を教えてくれれば、上手くいくかもしれない。……多分。」

 

 

顔を見合わせる俺達。俺の言葉を聞くとクレアは小さく笑った。彼女の笑顔を見るのはこれで二回目だ。

 

 

「なら犯人が来たら合図を送ろう。頼りにしているぞ、バティ。」

 

 

その表情に不覚にもドキッとしてしまう。彼女は俺の心の機微に疎いようで、何も気づかず前を歩んでいく。俺は心の中に湧き上がる想いを隠しながら犯人の到着を待つのだった。

 

 

+

 

 

 

「「…………遅い」」

 

 

待てど暮らせど犯人はやって来ない。広間に来たのは昼頃なのに、もう日は落ちて辺りは闇に包まれていた。心もとない街灯が周囲をほんのりと照らすだけで、広間にいた大勢の人間も家や宿に帰り、後には十人程の兵士達が残っている。

 

 

「なぁ……まさかだけど、受け渡し時刻を間違えた……とかじゃないよな?いくらなんでも遅すぎないか?」

 

「時刻は再三再四確認したはずだ。まぁ確かに遅いが……、捕まるのが怖くて逃げたのかもしれないな。」

 

 

犯人が来るのが遅くて退屈しているのは俺達だけじゃないようで、周りの兵士達の中には堂々と欠伸をしている者もいる。

 

 

「……ここは一旦城に帰るか?そのうち犯人から『昨日は受け渡し場所に行けなくてごめん♡』みたいな手紙が届くだろう。」

 

「そんな軽いノリなのか!?だが、確かに犯人は来ないし……」

 

 

そんな事をクレアと話している時だった。突如ゴーン、と除夜の鐘のような音が響く。その音を合図に周りの景色が徐々に色を失い始めた。

 

 

「来たな……!」

 

 

周囲は暗闇に包まれ近くにいたクレアも見えなくなる。俺はミシンを抱きかかえ、どこかから来るであろう犯人に身構えた。

 

 

「…………」

 

 

必死に耳を澄ます。聞こえてくるのは自分の心臓のバクバクとした鼓動だけだ。

 

 

「…………」

 

 

まだ犯人は来ない。先程まですぐ傍にいたクレアすらも見失い、俺は暗闇の沼に一人取り残される。ただクレアの合図だけを待ってジッとその場を動かないでいた。

 

 

「…………く、クレア。合図はまだ……」

 

「後ろだ!」

 

 

クレアが叫ぶと同時にヒュンと剣が風を切る音がする。彼女が近づいてきた犯人に気づき剣を振ったのだろう。クレアは特に聴覚が鋭いから、いち早く犯人に気づいたのだ。

 

 

「ぎゃああああ!」

 

 

敵の断末魔が聞こえた。クレアの読みは当たったようだ。俺は敵の声がした方に走って、犯人であろう人にぶつかる。そのまま敵にドレインタッチを使った。

 

 

「や、やめてください!いきなり何するんですか!?」

 

 

相手から聞こえたのは女の子の声だった。大人の女性を誘拐している変態紳士は男の人だろう。この人は犯人ではない。

 

 

「いや、カズマ殿!その女が犯人だ!」

 

 

俺は既に相手から手を離してしまった。クレアに言われて先程まで女がいた所を手で探ってみるが、誰もいない。その時ゴーン、と音が鳴る。除夜の鐘の音だ。色も明かりも失っていた周りの景色が徐々に鮮明になっていく。俺の目の前には剣を持ったままウロウロするクレアと、何も出来ずにアタフタする十名程の兵士がいた。

 

 

「カズマ殿、ミシンはどうした……!」

 

 

クレアに言われて手元を見る。さっきまで抱きかかえていたミシンは跡形もなく消えていた。きっとさっきの女が俺から奪い取って行ったのだろう。取り返しのつかない失敗をしてしまった。思わず天を仰ぐ。

 

 

「悲観してる場合じゃないぞ。まだ犯人が近くにいるかもしれない。すぐに探しに行けば間に合うはずだ。」

 

「ああ……」

 

 

クレア達に申し訳なく思いながらも、俺は犯人探しに尽力するのだった。

 

 

 

+

 

 

 

結論から言うと、犯人は見つからなかった。犯人にミシンを奪われた後、俺達は数時間にも及ぶ捜査をした。しかし、犯人はテレポートでも使ったのかどこにも痕跡は残っていなかった。俺達は長い捜査を終え城へと帰ってくる。

 

 

「クレア、ごめん……俺のせいで……。」

 

 

俺は憂鬱な気持ちで城の廊下を歩く。あの時、犯人の手を離さなければ。もっとクレアの指示を聞いていたら。後悔ばかりが心に募っていく。

 

 

「過ぎたことは気にするな。お前はよくやっている。」

 

 

クレアは慰めてくれるが、俺の気持ちは晴れない。彼女の優しさが余計に辛かった。

 

 

「ありがとなクレア」

 

 

廊下を歩んでいく。俺達がある部屋の前を通り過ぎようとした時、中から聞き覚えのある名が聞こえた。

 

 

「いやはやダスティネス卿、大変見目麗しい!是非私の息子と縁談するつもりはないですか?本当に出来のいい息子なんですよ!」

 

 

”ダスティネス卿”。聞き間違いでなければダクネスの事だ。そういえば今朝クレアが言っていたが、今日は城でパーティが開かれているらしい。ダクネスもパーティに参加しているのだろうか。

 

 

「ちょっと覗いていくか。」

 

 

俺は興味本位でパーティ会場のドアを開ける。中には、豪華な衣装に身を包む貴族達があちらこちらに居た。

 

 

「そういえばお前はパーティに呼ばれていないのか?魔王を討伐したのは貴様だろう?」

 

「ああ、その事については責任者に文句を言ってやりたい所だが。」

 

 

クレアにそう言っていると、何やら人が集まっている箇所があるのを見つけた。視線を奥にやるとその中心にはダクネスがいる。

 

 

「ダスティネス卿も毎日縁談を断るのは大変でしょう。ここは私と籍を入れて落ち着くのはどうでしょう?」

 

「いやいや、私と是非お見合いをして頂きたい!私も元々冒険者でして、ダスティネス卿とは相性がいいと思いますよ。」

 

 

相変わらず凄くモテているダクネス。周囲の貴族達もよくそんな歯に衣着せぬ褒め言葉を言えるものだ。

 

 

「皆さんお上手ですこと。私はこのような場に不慣れでして優しくしてくださると助かりますわ。」

 

 

誰だお前は。今喋ったのはダクネスなのだが、普段の変態チックな言動からは想像もつかないほどお淑やかだ。

 

 

「よおダクネス、元気にしてるか?」

 

 

俺の一声でダクネスの周囲にいた貴族達が一斉に俺の方を振り向く。ダクネスも俺を見て喜色を取り戻したようで、キラキラした目でこちらを見ていた。

 

 

「カズマ殿!私にはカズマ殿という婚約相手がおりますので、皆様どうかお手柔らかに……。」

 

 

いつの間にか婚約相手にさせられたが、悪い気はしない。女の子に好意を寄せられて嬉しくない男などいないのだ。

 

 

「その男がダスティネス卿の婚約者なのですか。婚約者にしてはいかにも平凡な男と言いますか……」

 

「まさかあの魔王を倒したサトウカズマですか?良すぎず悪すぎずと言った顔立ちですね。」

 

「なんだとおいこら」

 

 

周りの貴族達が俺の事を褒めているのか貶しているのかよく分からない感想を述べる。まあ平凡と思われてるだけ良しとしよう。

 

 

「そんな男はダスティネス卿にはつり合いません!」

 

 

そんな中で俺を非難してきたのは、大柄な一人の男。ガタイのいいそいつは俺の前に威圧するように立ち塞がる。

 

 

「こんな男がダスティネス卿の婚約者など笑止千万。何かの間違いでは?」

 

「カズマ殿はこれでも頼れるパーティリーダーです。魔王を討伐した勇者でもありますし、これ以上の男性などいませんよ。」

 

 

ダクネスがやんわりと俺にフォローを入れるが、それでも大柄な男は止まらない。

 

 

「何でも巷ではクズマだのカスマだの言われているそうではないですか。そんな男に大貴族のダスティネス卿のお相手など務まるはずもない。」

 

 

俺は少しずつ怒りが溜まっていくのを感じるが、我慢する。相手は大柄で下手に手を出したら返り討ちにあうかもしれないからだ。

 

 

「聞いた所によると、サトウカズマはアイリス王女の捜索にも携わっているそうですね。それで、王女は見つかったのですか?」

 

「いや……それはまだ……」

 

「ほら!こんな男がつり合う訳がありません!ダスティネス卿、ここは私と是非縁談を……」

 

 

男がダクネスに言い寄ろうとした時、バチン、と男がビンタされた。男をビンタしたのは俺でもダクネスでもない、クレアだ。

 

 

「貴様、今言ったことをすぐに取り消せ……!」

 

「はっ……え……?」

 

 

突然のことに戸惑う大柄な男。大貴族であるシンフォニア家のクレアが怒ったからこその反応だろう。彼女が怒りを顕(あらわ)にしたのは俺も驚いた。

 

 

「取り消せと言っているのだ!そして今すぐこの男に謝罪しろ!」

 

「……も、申し訳ございません。」

 

「あ、いいよ。俺もそこまで気にしてないし……」

 

 

クレアに言われるがまま頭を下げる大柄な男。彼女が怒っている様子を見たら何だか落ち着いてきた。クレアは男が頭を下げるのを見るとふいっ、と踵を返してパーティ会場から抜けていった。

 

 

「普段は冷静沈着なシンフォニア卿があそこまで怒るのは珍しい。カズマ、私がいない間に彼女と何かあったのか?」

 

「いや……思い当たる節は何もないけど」

 

 

むしろ今日は犯人にミシンを取られて迷惑をかけたくらいだ。

 

 

「すぐにシンフォニア卿を追いかけてやれ。今の彼女にはきっとお前が必要だ。この場は私が収めるから、心配するな。」

 

 

ダクネスに言われて俺もクレアに続きパーティ会場を抜ける。左右を見渡すと廊下の遠くの方にクレアの人影が見えた。俺は急いで走って彼女の後を追う。クレアは歩いていたのですぐに追いついた。

 

 

「クレア!さっきはどうしたんだよ、急に怒って……。」

 

「別に怒ってなんかない。」

 

 

怒ってないと言いつつも彼女の目は笑っていない。さっきの男が余程、頭にきていたのだろうか。クレアは足を早める一方で、俺の話に耳を傾けない。

 

 

「待ってくれクレア。」

 

 

俺は前を行く彼女の腕を掴んだ。クレアは腕を振りほどくことはせず、俺の方に目をやった。

 

 

「これから国王様に報告に行かなければならない。手短に言え。」

 

 

彼女の無愛想な態度は相変わらずだ。

 

 

「さっきは俺の事を庇ってくれてありがとな。」

 

「……ふ、ふん。当然のことをしたまでだ。」

 

 

俺の感謝の気持ちを聞いて照れているクレア。無愛想な表情から打って変わって、初(うぶ)な態度を見せるので、俺はニヤニヤと彼女の朱に染まった顔を観察した。

 

 

「な、なんだ貴様!その薄ら笑いをやめろ、何がおかしいのだ!」

 

「いやー?クレアでもそんな顔するんだなって思ってな。今の顔は魔道カメラにでも収めておきたかったな。」

 

「今のはナシだ!さっきは…………そう、アイリス様のことを考えていて顔が緩んだだけだ。決してお前に感謝されたのが嬉しかったとかそういう訳じゃ…………こら、ニヤニヤするな!」

 

 

この後もクレアが照れたことを散々からかっていたら、クレアに強めに叩かれ、俺は渋々コケにするのを止めるのだった。

 

 

 

+

 

 

 

クレアに怒られた後、夕食を取っていると彼女が部屋を訪ねてきた。これから王様に今回の騒動の報告に行くからお前もついて来てくれないかと。彼女はそう言っていた。俺は迷った。王様は筋肉隆々でいかにも怖そうな人だ。出来ることなら会いたくない。

 

 

「あのマッチョな王様に怒られるのもな……」

 

「……やはり嫌か?」

 

 

今日のクレアはやけにしおらしい。彼女を一人で王様の所に行かせるのは寝覚めが悪い。暫く迷ったが、結局俺はクレアについて行く事にした。

 

所変わって王様の部屋の前。

 

 

「失礼致します、クレアです。事件の報告に参りました。」

 

 

部屋の中からくぐもった声が聞こえ、俺とクレアは中に入る。部屋の奥には椅子に座って書類に目を通すマッチョがいた。王様だ。

 

 

「お前達か。事件の報告に来たからには、何かしら進展があったのだろうな。」

 

「い、いえ、今回も犯人に逃げられてしまいました……。」

 

「ふむ。」

 

 

王様はゆっくりと立ち上がって俺達の方へ近寄ってくる。ゴツイ見た目も相まって子供が見たら失神するかもしれない。俺は酷く怯えながらジッと立っていた。

 

 

「今まで犯人と接触するチャンスが二回あった。そのどちらにも失敗したということかね?」

 

「申し訳ございません。」

 

 

ひたすら頭を下げ続けるクレア。

 

 

「では聞こう、此度の娘の救出部隊、その隊長は誰だ」

 

「……私です。」

 

「そうだ、お前は長なのだ、リーダーなのだ。今回の救出が失敗したのも全てお前の責任だ。それが上に立つものの責務というものだ。」

 

 

王様も国の長という立場にあるからか、その重要性を熱弁する。俺達はただただ王様のいうことを聞いていた。

 

 

「……とにかく、長として責任を取りなさい。それがリーダーの役目だ。」

 

「お、お待ちください!次こそは必ずアイリス様を救出してみせます。」

 

「いや、お前に次は無い。お前はクビだ。」

 

 

クビ、それはクレアが最も恐れていたことの一つだ。彼女はアイリスを守る為だけに生きてると言っても過言ではない。クレアをアイリスから遠ざけることがどれほど残酷なことか王様は分かっていないのだ。

 

 

「待ってくださいよ。クレアは今までアイリスの為に頑張っていたんですよ。アイリスを誘拐された時は心の底から悲しんでいたし、誰よりもアイリスの救出に尽力していたはずです。」

 

 

すかさずクレアがクビにならないようにフォローを入れる。彼女の頑張りはバディの俺が一番そばで見てきたつもりだ。彼女を救えるのは俺しかいない。

 

 

「ほう、私に刃向かうつもりか?」

 

「ひっ……!」

 

 

王様は例の如くとてつもない威圧感を放つ。凄まじいオーラで窓はガタガタと揺れ、紅茶のカップにはヒビが入る。俺は王様の放つオーラに負けないように踏ん張り言い返した。

 

 

「……お、王様が相手でも俺の意見は変わりません……!クレアをクビにするのはおかしいです」

 

「カズマ殿……!」

 

 

俺は柄にもなくクレアを擁護する。正直言って王様はめちゃくちゃ怖い。でも、俺はこの前のクレアの涙を見ている。彼女が再び泣くような事にはなって欲しくなかった。俺が王様に立ち向かって一触即発の空気が流れる中、ドアからノックする音が聞こえた。

 

 

「失礼します、国王様、犯人から再び手紙が来たようです。」

 

 

部屋の中に入って来たのは一人の兵士。その手には犯人から送られてきたと思われる手紙も握られていた。兵士が手に握った手紙を王様に見せる。

 

 

「……ふむ、これが犯人の要求か。」

 

 

王様は手紙を見て暫く考え込んでいる。一体犯人は何を書いたのだろう。王様は一時経った後、クレアを手招きする。

 

 

「カズマくん、君のその勇気に免じてクレアのクビは撤回しよう。その代わりに新たな犯人の要求に応じること。これが条件だ。」

 

 

おお、王様も話せば分かるやつじゃないか。犯人の要求が何かは知らないが、それくらいお安い御用だ。隣のクレアを見ると王様から貰った手紙を熱心に読み込んでいる。

 

 

「クレア、犯人からの手紙には何て書いてあるんだ?」

 

「……わっ!こ、これはお前に見せるほどのものではない。気にするな。」

 

「?、そうか」

 

 

慌てて手紙を隠すクレアを俺は不思議そうに見つめる。

 

 

「二人とも、もう夜が遅いから帰りなさい。話は以上だ。」

 

 

俺とクレアは王様がいる部屋から出る。夜も更けて僅かな月明かりだけが廊下に注いでいた。

 

 

「良かったなクレア、クビは免(まぬが)れたぞ。」

 

「あ、ああ。そうだな……」

 

 

どこか歯切れの悪いクレア。クビにならなかったことが嬉しくないのだろうか。暫く廊下を彼女と歩いているとクレアが俺の腕を掴んで言ってきた。

 

 

「先程はその……礼を言う。国王様に刃向かってくれて……その、助かったというかなんだか心強かった。」

 

「お、おう。少し王様の顔がトラウマになってるだけだし、そんなに気にするなよ」

 

 

さっきはクレアが照れたのをバカにしていたが、いざ自分が感謝されると中々こそばゆい。顔が赤くなっていないだろうか。

 

 

「もしさっきみたいに王様にクビにされそうになったら俺のことを呼んでもいいぞ。大したことは出来ないけどクレアの味方になれるかもだから。モールス信号でも何でも送ってくれ」

 

「モールス信号?なんだそれは?」

 

「例えばSOSなら・・・ーーー・・・。このリズムで音を鳴らすと助けてという意味の合図になるんだ。」

 

「ほう、覚えておこう。」

 

 

クレアは真剣な顔で俺の話を聞いている。そんな顔じゃなくてもっと無邪気に笑っていた方がいいのだが。

 

 

「お前は笑ってた方が可愛いぞ。いつもみたいに無愛想な顔だと怖いからさ」

 

「か、可愛い!?あ、あまり私をからかうな!」

 

 

クレアはまた照れた表情で俺をバシバシと叩いてくる。彼女のその態度が少し心地よかった。ずっとこんな日々が続けばいい、そう思えるくらいに。

 

 

 

 




犯人がミシンを要求してる理由は、誘拐してる女性に着せるコスプレの衣装をたくさん作るためです。このすばの世界では、手編みか機織り機で衣服を作っているので、ミシンを使えば作業効率を上げられます。本文中で述べられなかったので念の為。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。