カズマがクレアと結婚する話 作:てつろう
12日ぶりの投稿です。待たせてごめーんね!
クレアと話した翌朝。
『どこだここ……?』
俺はだだっ広い草原の中に立ち尽くしていた。地平線まで草が生い茂っている。何気なく周囲を見渡すと遠くに人影が見える。それはいつもの白スーツを着たクレアだった。
『おーいクレア!』
俺は大声を出して彼女に呼びかける。だがクレアはあさっての方向を向いていて、俺の声は聞こえていないようだ。彼女はどこかへと歩んでいく。クレアの向かう先には鬱蒼とした薄暗い森がある。
『クレア!俺の声が聞こえないのか!』
クレアは一歩一歩森へと近づいていく。あの森はどこか危険な気がして、彼女を止めようと俺は走ろうとする。だが、どういう訳か足が一歩も動かなかった。体が金縛りにでもあっているようだ。
『クレア!戻ってこい!そっちは危険だ!』
クレアは俺の声に耳を傾けず、森の中へと入っていく。オレは必死に呼び求めるが彼女には全く響かない。そしてクレアの姿が完全に俺の視界から消えた所で俺は目を覚ました。
「はぁ……はぁ……」
目を開けるとそこにはいつもの天井。さっきまでの草木や森はどこにもなく、ふかふかのベットと毛布だけが肌に触れている。どうやら夢を見ていたみたいだ。
「寝覚めの悪い夢だな……」
さっきの夢の絶望的な感情がまだ心に残っている。脇や背中は寝汗で少し濡れていた。俺は体を起こして部屋を見渡す。いつもの部屋なのだが、どこか違和感がある。それは窓を見た時に気づいた。
「もう日が落ちている……?」
空は黄金色に染まっている。太陽の位置からしても今は夕方のようだ。つまり、俺は昨日の夜に床につき、翌朝の夕方までずっと寝ていたことになる。いくら自堕落な俺でもここまで眠りにつくことは滅多にない。どういうことかと頭を悩ませていると、
「目が覚めましたか?カズマ殿」
ドアを開けて部屋に入って来たのはレイン。
「ああ、さっき目が覚めた所だけど……。ここまで長時間寝たのは初めてで、レインは何か知らないか?」
俺の言葉を聞いたレインは一瞬狼狽えた表情を見せる。
「実はカズマ殿には昨晩、睡眠薬を盛らせて頂きました。どうか気を悪くされないでください。」
レインから明かされる衝撃の事実。俺は薬を盛られた怒りよりも驚きの方が勝っていた。
「えっと……なんでそんな事したんだ?」
「クレア殿の命令です。」
「クレアが……?」
一体どういう事だろう。状況を上手く呑み込めない俺にレインが説明してくれる。
「昨晩、犯人から第三の要求が来ました。カズマ殿は知らないでしょうが、その内容は『アイリス様を返して欲しければシンフォニア家のクレア殿を連れて来い、それで王女様を返してやる。』というものだったそうです。」
アイリスを返す代わりにクレアを……?嫌な予感がする。
「まさかクレアはアイリスを救うために犯人の元へ向かったというのか?」
レインは黙って頷く。
「クレア殿は、『私が一人で犯人の元へ向かうとなると、きっとカズマ殿が止めに来るだろうから、睡眠薬を盛って部屋から出さないようにしてくれ』と言ってました。」
なんて事だ。とにかく今すぐにでもクレアの後を追わないといけない。時刻は既に夕方を過ぎているが、なんとか間に合うだろうか。俺はジャージのまま部屋から飛び出ようとすると、
「お兄様!」
綺麗な稲穂色の髪に碧眼。見紛うこともない、俺の事を兄のように慕ってくれるアイリスだ。アイリスが遂に帰ってきたのだ。彼女は出会い頭に俺に抱きつく。
「おう、アイリス!大丈夫だったか?怖い目に遭わなかったか?」
「はい!監禁生活はとっても楽しかったです!」
「そ、そうか……」
アイリスが楽しんできたのが癪に障るが、何はともあれ無事で良かった。だが、今はアイリスよりクレアの方が心配だ。
「なぁ、アイリス、クレアを知らないか?確か犯人の元へ向かったはずなんだけど……」
アイリスはクレアの名前を聞くと俯いた顔で言う。
「クレアは誘拐犯に捕まってしまいました……」
消え入りそうな声だった。アイリスの言ったことが信じられなくて俺はよろよろと数歩歩いた後、その場にへたり込んでしまう。
「大丈夫ですか?カズマ殿」
「ああ……」
レインに曖昧な返事を返す。クレアは昨晩の内から犯人の要求を知っていた。つまり、犯人の元へ行く覚悟も昨日から決めていたわけだ。その事に気づかなかった自分が嫌になる。
「お辛いでしょうが、アイリス様が帰ってきたことを国王様に報告に行きましょう。国王様もアイリス様を心配しているはずです。」
そう、当初の目的であったアイリスの救出には成功したのだ。クレアのおかげでアイリスがここにいる。俺はあいつの為にもアイリスの無事を報告に行かなければならない。俺は重たい腰を上げて王様の元へと向かった。
+
「失礼します、お父様。」
俺はアイリスと二人で王様の部屋の前に来ていた。アイリスのノックと共に俺達は部屋の中に入る。中には当然王様が椅子に腰掛けていた。
「アイリス……!」
娘の姿を見るなりすぐに立ち上がる王様。そのままアイリスに抱きついて嗚咽を漏らし始めた。
「や、やめてくださいお父様。お兄様も見てますよ……」
こうして見ると王様とクレアは似ている。アイリスに溺愛しているという点で。暫く王様は娘を抱きしめた後そっと手を離し俺に向き直った。
「よく娘を連れ戻してくれたカズマくん、お礼に何でも一つ願いを叶えてあげよう。自由に言ってくれたまえ。」
俺がアイリスを助けた訳では無い。アイリスがここにいるのはクレアのおかげだ。きっと今の俺は微妙な表情をしていたと思う。でも、王様は娘が帰ってきた事に喜んでるせいか俺の様子には気づかなかった。
「お兄様、レインから聞きましたが、確か私を連れ戻せたらその……私と結婚……するつもりだったのですよね。もしかしてその事をお願いするのですか……?」
アイリスが不安と期待の混じった目で俺を見つめてくる。娘の話を聞いた王様はポンと手を打ち屈託のない笑みを浮かべる。
「そうか!娘と結婚したいと言うのだね。よかろう、娘の無事はカズマくんのおかげだ。特別に結婚を許可してやろう!」
「あ、ありがとうございます……」
悪意のない王様の発言に俺はただ相槌を打つ。俺が夢に見ていたアイリスとの結婚だ。もっと喜ばなくては。
「私もお兄様をお慕いしてるからとても嬉しいです……!これからもよろしくお願いしますね!」
「あ、ああ……」
そんな話をアイリスとしている時だった。突如、ノックもなしに後ろの扉が開かれる音がした。ここは王様の部屋だからそんな無礼な入り方をする人はまずいないだろうに。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、カズマの妻となる者!カズマがアイリスと結婚しようだなんてそうは行きませんよ!」
紅魔族風の名乗りをあげるめぐみん。その後ろには彼女を必死に止めようとするダクネスもいる。
「な、なんだねこの人達は……!?」
「しし、失礼しました!ほら、めぐみん早く帰るぞ!」
ダクネスはめぐみんを羽交い締めにして部屋から連れ出そうとするが、めぐみんもドアを掴んで抵抗している。
「後ろにいるのはララティーナか?城の警備は厳しかったはずなのにどうやってここまで……?」
「ダクネスの家紋を使えばここに来るなど造作もないことですよ。それよりカズマ!ここには手紙の返事をしに来たのですよ。」
「手紙……?」
頭の中の記憶を辿っていくと、めぐみん達に手紙を書いたのを思い出した。確か内容は俺とハーレムを作ろうというものだったはずだ。
「そういえばそんな事もあったな。」
「私はカズマを愛していますから、例え一夫多妻でも構いません!私とも結婚してください。」
めぐみんは恥じらうこともなくそう言ってのけた。王様の前だというのに求婚してくるめぐみんに目を丸くする。
「国王様の前で失礼だろうめぐみん!申し訳ありません。私達はもう帰りますので……」
「何を言っているのですか、ダクネスもカズマと結婚したいのでしょう?貴方がここに来るのを嫌がりながらも満更でもなかったのを知ってますよ。」
「なっ!?」
めぐみんの言葉に分かりやすく狼狽えるダクネス。
「ほら、ダクネスもここで自分の気持ちを言ったらどうですか。今言わなければきっと後悔しますよ」
「い、いや……私は別にそういうつもりは……」
ダクネスはもじもじしながら俺の事をチラチラと見ている。だが、めぐみんに言われた事を気にしたのか意を決したように俺の目を見据えた。
「か、カズマ……、私もお前の事をその……好きだ。是非私ともお付き合いしてくれたら……」
ダクネスはめぐみんと違ってかなり恥ずかしがっている。
「どうするのですか?お兄様」
「どうするって……」
アイリスとの結婚だけでなくめぐみんとダクネスにも求婚された。夢のハーレム生活だ。俺が求めて止まなかったもの。断る理由はない。
「ああ、めぐみんもダクネスも俺と結婚しよう」
俺の返事を聞いた時のめぐみんとダクネスの嬉しそうな顔。ハーレムというクズな選択だが、彼女達は受け入れてくれたようだ。
「貴族や王族では一夫多妻は珍しい話では無い。私からも祝福の言葉を送ろう。」
王様も賛辞の言葉をくれる。こうして俺のハーレムを作りたいという夢は無事叶ったのだった。
+
アイリス達と結婚してから一週間後。俺達は全員王城で過ごすことになった。
「お兄様、おはようございます。」
扉からひょっこりと顔を出したアイリス。つい最近まで誘拐されていたというのに彼女は元気なままだった。彼女は挨拶と共に俺のすぐ隣に座る。
「はぁ…………」
「ため息なんてついてどうしました?何か悩み事ですか?」
無意識のうちに嘆息していたようだ。今日は空も曇っていて俺のどんよりとした心に拍車をかける。
「いや悩みって程でもないんだけど……。クレアは今頃何をしてるのかと思ってな。」
クレアはアイリスを救うために犯人の元へ行ってしまった。流石に殺されたりはしていないだろうが、それでも辛い日々を送っている気がしてならない。かと言って犯人の居場所が分からない以上、俺が何か出来るわけもなく。せいぜいすることは、たまに彼女の今の様子を想像するだけだった。
「私もクレアにはいつも助けられていました。でも、私を助けに来た時も彼女は私達に幸せになって欲しかったんじゃないでしょうか。私達が今を楽しむことがクレアの為になると思います。」
それは綺麗事に過ぎないと言いたくなるが、アイリスも少し涙目になっていることに気がつく。彼女も自分のせいでクレアが誘拐された事を分かっているのだろう。ここでアイリスを傷つけてもどうにもならない。
「それにクレアの事はレイン達が探してくれているようですよ。近いうちにクレアが見つかってもおかしくありません!」
俺はアイリス達と結婚し、寿退社ということで事件の捜査からは外れたが、レイン達は未だに犯人の行方を追っているらしい。俺もクレアの捜査に加わりたかったが、事件の捜査に私情を持ち込むような人は参加するべきではないと、レインからキッパリと断られてしまった。
「そうだな、クレアが見つかるのを待つしかないな……」
「そういえばお兄様、クレアの部屋の机の上にお兄様宛ての手紙が置いてあったのですが、中身をもう読みましたか?」
「手紙?」
アイリスは懐から一枚の封筒を出す。封蝋シールで止められておりアイリスもまだ中身を見てないことが伺える。
「まさかアイリス……勝手にクレアの部屋に入ったのか……?」
「ええ、もしかしてやってはいけないことでしたか……?」
あまり無断で他人の部屋に入るのはよくないと思うが、折角手紙を見つけてくれたのだから今回は目をつぶろう。俺は彼女から封筒を受け取り、中の手紙を開いた。
『この手紙をお前が見ている頃には、私は犯人の元にいるだろう。きっとお前は私の事を心配しているだろうが、何も気に病むことはない。すぐに犯人を倒して戻ってくる。心配するな───。』
手紙の冒頭の部分には、俺を安心させる為の内容がつらつらと書いてあった。俺が彼女の身を案じることも想定内だったようだ。
『───きっと、アイリス様は私が自分の身を犠牲にして助かったことに酷く苦しむだろう。そうなったらお前が傍についていてやってくれ。お前ならきっとアイリス様を励ましてくれると信じている。そういえばお前はアイリス様と結婚したいと言っていたな。喜べ、特別にお前とアイリス様との結婚を許可してやる。これからはアイリス様を支えてやってくれ。私のことは忘れてくれて構わない───。』
次に書かれていたのはアイリスのことをとにかく幸せにしてやってくれという内容だ。この手紙からもアイリスへの愛情がひしひしと伝わってくる。中でも驚いたのが、俺とアイリスの結婚を許可してくれていることだ。この前まで、あんなに結婚に反対していたのに。いつの間にか彼女の俺に対する評価が変わっていたようだ。
『───言いたいことは色々あるが、これ以上書いても心残りが増えるだけだから、手紙はこれくらいで止めておく。どうか私の事を忘れてアイリス様を幸せにして欲しい。私からの頼み事はそれだけだ。頼んだぞ。』
手紙はそれで終わっていた。俺は大きなため息をつきながら、手紙をそっと閉じてアイリスに渡す。
「お兄様……?大丈夫ですか?」
アイリスが心配そうに俺の顔を覗き込む。実際、俺の気分は最悪だった。まず、勝手に自分を犠牲にしたクレアへの怒り。それに俺に何も相談してくれなかった悲しさ。今更どうにも出来ないことのやるせなさ等が幾重にも重なり合って俺の心は沈んでいく。
「クレアは今頃何をしてるんだろうな……」
この発言をするのも何度目だろうか。ただ彼女が今何をしているのか気になってしょうがない。アイリスは俺の渡した手紙を熱心に読み込んでいる。
「お兄様、ここに何か書いてありますよ。」
アイリスが指している所は手紙が入っていた封筒。さっきは気づかなかったが、丸い点と横棒が書いてある。一見すれば、ただの汚れにしか見えないだろう。
「これは……モールス信号か……?」
封筒の裏に書かれていたのは『・・・ーーー・・・』という小さな文字。俺がかつてクレアに教えたSOSのモールス信号だ。
「なんでこんな所にこれが……?クレアが書いたのか?」
クレアが俺にだけ分かる方法でSOSを求めている。つまり、俺に助けて欲しいということだろうか。手紙の本文では、散々自分のことは心配せずにアイリスの事ばかり憂いていたクレアが、とうとう助けを求めてきた。彼女を救えるのは俺しかいない。
「アイリス、大事な話があるんだが……」
「お話ですか、どうしたのです?」
俺は一呼吸置いて答えた。
「ハーレム生活はなしだ。離婚しよう。」
「…………え?」
「俺はすぐにでもクレアを探しに行く。めぐみん達にも離婚の話を伝えておいてくれ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいお兄様!」
俺はアイリスを置いて部屋から出る。アイリスは納得していない様子だが彼女に構っている暇はない。ずっと夢見ていたハーレム生活を俺は手放すことにした。過去の俺なら考えられないだろう。でも、ハーレムを手放してでも結婚したい相手がいるのだ。俺を必要としてくれている人がいる。彼女には俺しかいない。クレアを助けに行かなければならない。
「待っていろよクレア……!」
曇っていた空はすっかり晴れ、温かい日差しが俺を照らしていた。
薄々分かっているかもしれませんが、もうすぐ完結です。早く終わらせてぼっち・ざ・ろっくの二次創作がしたい……!