カズマがクレアと結婚する話 作:てつろう
約6000字あります
アイリス達との離婚を決めた。今の俺はあまりにも身勝手だろう。結婚したかと思ったらすぐにまた離婚して。アイリス達が怒ってもおかしくない。だが、それでも俺の中にクレアに対する想いが芽生えているのに気づいてしまった。あの手紙のモールス信号は、彼女が俺に助けを求めている証拠だ。俺が行かなくてはならない。俺はクレアの救出するために、レインに話を聞いていた。
「先程、日本人で貴族という犯人の特徴に当てはまる人物が他国に見つかりました。恐らくクレア殿もそこにいる可能性が高いでしょう。」
彼女の話によると、犯人の目星は付いているとの事だった。既に救出部隊もその貴族の所に向かったらしい。俺もその部隊に加わりたかったが、時遅く間に合わなかった。
「じゃあ、クレアはもうすぐ助かるんだな?」
「……必ず助かるとは言いきれません。私達に出来ることはクレア殿の無事を祈るくらいでしょう。」
俺はクレアが無事だと言って欲しくて彼女に聞いてみるが明確な答えは得られない。クレアの為に何かできることはないかと思うが、救出部隊がもう出発した以上、俺には何も出来ない。俺は奥歯を噛みしめた。
「でも、カズマ殿にも出来ることはありますよ。それは犯人に誘拐された被害者の家族達に励ましの言葉を送ることです。誘拐された人が帰ってくるのを待ち望んでいる人がいます。カズマ殿も身近な人が誘拐されたのですから、被害者の家族の気持ちが分かるのではないですか?そういう人達に寄り添う事も大切だと思いますよ。」
レインは何も出来なかった俺に一つの解決策を出してくれた。それは被害者達に寄り添うこと。クレアが誘拐され、身近な人がいなくなる悲しさが分かる俺には適任かもしれない。
「ほら、そんなに落ち込んでてもしょうがないですよ。気分が滅入る時は忙しくしてた方がいいんです。弱気になるくらいなら早く被害者の元へ行ってください。」
レインはさっさと俺を被害者の元へ行かせようとする。彼女なりの優しさに、俺は微笑を浮かべる。クレアを救う以外にも俺には出来ることがあるのだと、少し実感したのだった。
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「お久しぶりですアレクサさん」
俺が最初にやって来た被害者は、以前にも訪れたことのある貴族のおじ様だった。俺が挨拶すると、ピンと張った背中を綺麗に折ってお辞儀をしてくれる。
「ええ、お久しぶりですカズマ殿。今日はシンフォニア卿は御一緒じゃないのですね。」
「ええ、クレアはちょっと忙しくて……」
クレアが誘拐されたことはあまり言いたくなかった。もし、クレアの誘拐を正直に言っておじ様から慰めの言葉でも貰ったら、俺が助けてもらう事になる。今日は俺が被害者を慰めに来たのだから、俺がお世話になる訳には行かない。そういう訳でおじ様の質問に言葉を濁した。
「今日は朗報があるんですよ。なんと誘拐犯が見つかったんです。犯人の日本人で貴族という特徴に当てはまる人がいて、現在その人の元に兵士達が向かっています。もうすぐ誘拐された娘さんも帰ってきますよ。」
まず、今日一番の情報を教える。きっとおじ様もいくらか安心してくれるだろう。
「ははっ、」
「?」
「ははははは、そうですか!犯人が見つかりましたか!はははははっ!」
どういう訳かおじ様は手を叩いて笑い出した。この反応はどこか不審だ。何がおかしくて笑っているのだろう。俺は怪訝な様子でおじ様を見つめると、彼もまた大きな黒い瞳で俺を見つめ返している。そう、黒い瞳で。
「……と、とにかく娘さんがもうすぐ帰ってくるはずです。だからそんなに気に病むことはないですよ。」
「これはこれは、お気遣いありがとうございます。娘が帰ってくるなんて嬉しいですね。久しぶりに娘に会ったら私が今まで作ってきた服をプレゼントしてあげますよ」
部屋の片隅には女物のドレスが何着か置いてある。おじ様が娘の為に用意したものだろう。
「この衣装も自分で作ったんですか?凄い技術ですね」
「ええ、これでも貴族になる前は服飾関係の仕事をしていたのですよ。そのおかげで今でも大抵の衣服を作れます。」
元々服飾関係の仕事をしていて衣服も自分で作れる。そして貴族。俺はここまで来て心の中に大きな引っかかりがあった。確か誘拐犯も貴族だったはずだ。しかも誘拐した人に自分の好きな衣装を着せているそうだ。奇しくも目の前にいるおじ様は犯人と共通点が多い。もしかして…………。いや、そんなはずはない。犯人は他国にいるはずだ。既に兵士達もそこへ向かっている。
「おじ様の目、黒いんですね。」
相手が黒い目をしていることを改めて認識する。日本人の特徴である黒目と合致している。でも、おじ様は金髪。黒髪ではない。
…………だが、もし仮に髪を染めて金髪にしたのだとしたら?髪の色なんていくらでも変えられる。俺の中で次々と点が線となり繋がっていく。
「…………」
今の発言でおじ様も何か察したようだ。俺達はお互い黙って見つめ合う。もしかしてこの人が犯人なのではないかという言葉を飲み込んで。だが、何も証拠がない。
その時、何か物音が聞こえているのに気づく。ドンドンと壁を叩く音だろうか。誰かが暴れているのかもしれない。ドンドンと音が部屋に響く。
「何ですかこの音?」
「…………」
おじ様は最早黙りこくっている。ドンドンと音が聞こえる。待てよ、俺は確か大事なことをクレアに教えたような。ドンドンドン。この音は俺に何かを訴えかけているような。
ずっと鳴り響く物音の中で俺は思い出した。先日、クレアにSOSのモール信号として・・・ーーー・・・というリズムを教えたはずだ。もしかして、この音はクレアが壁を叩いてモールス信号を伝えようとしている……?
ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン
ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン
この音はクレアが出しているに違いない。鳴り響く音の中、俺は立ち上がった。
「動くな!」
俺の武器はちゅんちゅん丸だけ。短刀を上に掲げ精一杯威圧する。おじ様は俺の様子を見ても落ち着き払ったままだった。
「そんな貧相な装備で大丈夫ですか?」
嘲笑しながらおじ様は立ち上がる。
「う、動くなと言っているだろ!」
礼儀正しい人だと思っていたのに、何人もの女性を誘拐した犯人だと知ると途端に恐怖を覚えた。嫌な汗が体に流れ、足は小刻みに震えるだけで動かない。おじ様は俺の制止を振り切り部屋から飛び出した。
「ま、待て!」
おじ様の後を追う。おじ様は疾走して冒険者の俺でも距離を大きく離されてしまった。それでも、角を曲がった時にチラリとみえる彼の姿を辿り、どうにか追いかける。そして三つ目の角を曲がった時、おじ様の姿はそこにはなかった。廊下の奥に一つの扉があるだけで他には何もない。この扉の向こうに逃げたのだろうか。
俺は扉をゆっくりと開ける。中は一本道の階段になっていて地下へと繋がっていた。薄暗い階段を一歩ずつ降りていく。おどろおどろしい雰囲気だ。地上が恋しくなって何度も後ろを振り返りながら進む。やがて階段は終わりそこには薄暗い部屋が広がっていた。だが、よく見ると部屋の奥にクレアが捕まっている。
「クレア!?大丈夫か!?」
彼女はベッドの上で手枷足枷に繋がっており、ここに監禁されているようだ。
「……カズマ殿?来てくれたのか……。」
「このバカ!なんで自分から犯人の元へ行くんだよ!心配しただろ!」
「うっ……私はアイリス様の為を思って仕方なく……」
「アイリスもお前が居なくなってから落ち込んでいたぞ。とにかくお前がいないとみんなが困るんだよ。俺だって心配したんだからな。」
「……なぜ私のことをそこまで心配してくれるのだ?」
「それは……」
この際だ。思い切って彼女に俺の想いを打ち明けるべきだろうか。一言、彼女のことが好き。それだけ言えれば良い。
「クレア、実は俺お前のことが───。」
ゴーン
俺が意を決して想いを伝えようとしたその時。除夜の鐘のような音が部屋に響いた。
「なんだよ!折角いい雰囲気だったのに!」
「いい雰囲気……?それより、カズマ殿。この音は犯人がやってくる時の音だぞ……!」
クレアの言う通り、この音を合図に視界は奪われる。元々薄暗かった地下室が更に暗くなり近くにいたクレアも見えなくなった。
「クレア、俺のそばを離れるなよ……。犯人は俺が何とかする。」
俺はクレアを後ろにちゅんちゅん丸を構えた。彼女が鎖で繋がれている以上、ここは俺がどうにかするしかない。今度は俺がクレアを助ける番だ。
視覚が使えない以上、目を開けていてもしょうがない。俺は目を閉じ耳だけに全神経を集中させることにした。
「カズマ殿……」
不安そうなクレアの声。自分の心臓がバクバクと脈打つ音も聞こえる。俺は足がガクガクと震え立っているのもやっとだった。今すぐここから逃げ出してしまいたい。
カランコロン
何かが転がる音がした。
「そこかっ!」
俺は音がした方向に必死に剣を振る。だが、ヒュンヒュンと風を切る音が鳴るだけで何も当たらなかった。でも、物音がしたということは犯人がすぐ近くまで来ているということだ。つまり、いつ犯人に襲われてもおかしくない。俺は立っていられずその場に尻もちをついてしまう。
「だ、大丈夫かカズマ殿?」
「だ、ダメだ……やっぱり俺には出来ない!俺はクレアみたいに剣の腕がないし、最弱職の冒険者だし……」
暗闇に俺は負けた。戦えない。自分に喝を入れようとするが真っ暗闇に阻まれ、震える体を抑えるだけだった。
「カズマ殿、落ち着いて聞いてくれ。」
ふわり、と清香が漂う。クレアが俺の事を背中から抱きしめたのだ。襲われるかもしれないと言うのにクレアの声はとても穏やかなものだった。
「後悔しないように言っておく。私はお前のことが好きだ。」
暗闇で彼女の顔は見えないが微笑んでいるのだろう。柔らかい声が俺の強ばった心を解きほぐしていく。
「別にお前にどうにかして欲しい訳じゃない。お前はアイリス様と結婚するのが良いだろう。私も邪魔はしない。ただお前に気持ちを伝えられれば私はそれで充分だ。」
彼女は俺に告白してくれた。だが、それは失恋すると悟った上での告白だった。彼女は俺がアイリスと結婚するものだと思っているのだろう。そもそもここに来た時点で俺に想いを伝える気はなかったのかもしれない。
「クレア……俺……」
「すまない、迷惑だったな。こんな時に私の想いを打ち明けられても困るだろう。」
彼女の声色が少し暗くなる。そんな事ない、俺もクレアが好きだ。そう言おうとした時、
カランコロンと何かが転がる音がする。犯人が物音を立てたのだ。犯人は本当に近くにいるのだろう。もう彼女と話している暇はない。俺は地面を蹴って立ち上がり、音のする方へと突進する。俺の足は全く震えていなかった。
『ドレインタッチ!』
「ぎゃああああ!!!」
目が見えない中で触れた物にドレインタッチをお見舞いする。このスキルは際限なく使えば人を干からびさせる程の威力を持つスキルだ。犯人にとっても一溜りもないはず。暗闇の中、俺は犯人に馬乗りになりドレインタッチを使い続けた。
「クレア、伝え忘れていたけどな、俺もお前のことが好きだ!」
敵の断末魔の中、俺の想いもクレアに伝える。かつて誘拐犯の目の前で告白し合ったカップルはいただろうか。俺達が初めてかもしれない。
ドレインタッチを使って一分程経っただろうか。犯人の叫び声もすっかり小さくなり僅かなうめき声が聞こえるだけだ。
「死んでないよな……?一応手加減したつもりだけど」
余りに犯人が弱々しいので心配になる。俺がドレインタッチのスキルを解除しようとしたその時だった。ゴーンと鐘の鳴る音が聞こえる。今度は暗闇から解放される祝福の音だ。俺の視界は徐々に晴れていく。白目を剥いて泡を吹いているおじ様、横のベッドにはクレアの姿もあった。彼女も無事らしい。
「あなた達は誰?」
女の子の声。後ろを振り向くと少女が立っていた。こんな危ない所に女の子がいるなんて、どういう事だろうか。
「お嬢ちゃんは……?」
「私はハンニバル。七大悪魔の一人にして視覚を無効化するハンニバルよ。」
この子がバニルが言っていた悪魔か。見た目からは年端もいかない少女にしか見えない。
「き、貴様がハンニバルか!カズマ殿、気をつけろ!」
クレアが緊迫した様子で叫ぶ。彼女はこれでも恐ろしい悪魔らしいし、当然の反応だろうか。だが、女の子はやれやれ、という風に肩をすくめた。
「別に貴方達には興味ない。私は羞恥の悪感情が貰えればいいだけ。それも極上の羞恥をね。ねえ、そこに寝転がっているおじ様を拝借してもいいかしら。」
女の子は俺の隣で泡を吹いているおじ様を指差す。彼女に反抗したら何をされるか分かったものじゃないので俺は首肯した。
「これからこの人には裸一貫で街中を散歩してもらうの。そしたらきっといい悪感情が湧き出るわ……。ああ、想像しただけでワクワクしてきちゃった……」
彼女は慣れた動作でおじ様の服を脱がしていく。一人の少女が男の人の身ぐるみを剥ぐのは中々シュールなものだった。
「羞恥の悪感情が貰えるお礼に、この鍵をあげるわ」
少女が俺に渡してきたのは小さな鍵。恐らくクレアの手足の枷を外すものだろう。俺は勧められるがままにクレアの鎖を解いていく。
「大丈夫か、クレア?」
「ああ、もう大丈夫だ……」
幸いクレアはまだ犯人に手を出されてないようだ。俺が助けに来るのが間に合ってよかった。
「私はおじ様と散歩してくるわ。それじゃあね」
少女は自分よりふた周りも大きな男を担いで地上へと続く階段を上っていく。俺達に干渉せずただ悪感情を求めて行動するあたり本当に悪魔らしい。
「クレアは大丈夫か?怪我とかしてないか?」
「ああ、お前のおかげでこの通り無事だ。」
「そ、そうか……」
「…………」
クレアの顔を見るのが少し恥ずかしい。さっきクレアに熱い告白をしてしまったわけで。彼女も俺の事を好きと言ってくれたが両思いってことでいいのだろうか。
「……か、カズマ殿!」
クレアが俺の事を呼ぶ。振り返ると彼女の顔は朱を散らしたように赤くなっていた。
「先程、私のことを好きと言ったのは……その本当なのか……?」
クレアは目をあちこちに
「ま、まあ一応……本当……です。」
緊張して何故か敬語になる俺。
「お前は他の女達とハーレムを作るつもりじゃなかったのか……?どうせ私もそのハーレムの一員に過ぎないのだろう」
クレアは目を下に向け沈んだ表情を見せる。自分が数多いる女の一人に過ぎないのではと思っているのだろう。彼女をそんな顔にさせてしまった過去の自分をビンタしてやりたかった。俺は彼女の陰鬱を取り除くように言う。
「いや、もうハーレムは作らないことにしたんだ。めぐみんやアイリス、ダクネスとも結婚は断った」
俺の言葉にバッと顔を上げるクレア。口はパクパクと動いて声も出ていない。その顔には期待と不安が入り混じっていた。
「で、では本当に私の事が好き……なのか……?嘘ではないのか?」
「……お、おう。多分……好き……なんだと思う」
クレアと見つめ合う。クレアの顔は耳まで赤く染まり目は潤っている。俺の想いを伝えたがクレアはどう答えてくれるだろうか。
「カズマ殿、目をつぶってくれるか……?」
俺の気持ちだけを聞いてクレアは何も答えない。俺はそっと目をつぶった。
「す、すまんクレア。やっぱりハーレムを作るような男は嫌…………」
俺が自分を卑下しようとした時、唇に何かが触れる。それは彼女のキスだった。目をつぶっていたが不思議と彼女の唇が触れたことはわかった。
「……これが私からの返事だ。さあ、アイリス様達も心配してるだろうから早く城に帰ろう。」
彼女は赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いて、歩き出す。キスをされて呆気に取られた俺は呟いた。
「ハーレムは作れなかったがこれで良かったかもな……」
この誘拐事件を通して俺の考えが変わった、そんな気がする。ハーレムは作れなかったが、クレアという一人の女性を幸せにすることが出来た。それだけで俺は充分だった。
どうにかカズマとクレアが結ばれました。そして次回が最終回になると思います。次はもう結婚式のシーンを描く予定です。あと少しお付き合いください