貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】 作:たんばりん
「碧理は?」
ポカポカと春の陽気を感じながら俺はいつものように蒼佳の膝を枕にテレビを眺めて所在を問う。
「いつものお菓子教室よ」
ファサリ。
俺の髪を手櫛で好きながら蒼佳が答えた。
「そっか。あいつも好きだね」
俺の言葉に「そうね」と言って微笑む彼女の顔は優しい。
碧理は週に2回から3回程度、趣味のお菓子作り教室によく出かける。
そう言った場合は基本無趣味な俺と読書が趣味な蒼佳2人だけの時間である。
「あ、そういえばこの前碧理とデートに行ってたでしょ?」
尚も髪を撫でる彼女は微笑んでいる。
「あの子だけずるいわ。今度は私とデートしてくれるでしょう?」
目元をわざとらしく拭う様も、似合ってしまう彼女に俺は「いいよ。どこに行きたい?」と問いかける。
「そうねぇ。遊園地とか?」
予想だにしない提案に俺は目を見開いた。
「蒼佳姉、人混み嫌いだろ?」
そうなのだ。彼女は騒がしい所を嫌う。てっきりカフェや図書館などを想像していたところに急に遊園地と言われてそんな言葉を返した。
「なんとなくぱーって遊びたい気分になるのよ。こんなにお天気がいいと……」
そう言ってソファーから縁側を覗く彼女に「それは分かるけど」と言葉を返す。
「なにかしら?遊園地は嫌い?」
俺の反応に思う所あったのか彼女は逆に問い返すので首を横に振って否定した。
「嫌いではないけど……蒼佳姉さんが途中で疲れるのが目に見えてね」
そう言って俺が笑みを浮かべると「それもそうね。」と彼女も微笑み返した。
「そうとなると、私の行きたい所と言っても……あ」
「ん?見つかった?」
思い出したように口を開けた彼女は今度はそれまでと違う
「ホ・テ・ル・♡」
彼女がそう告げた瞬間、ついこの前聞いたばかりの
緊急討伐司令のサイレンが部屋に響いた。
「……なんか、蒼佳姉の膝枕のたびに呼ばれる気がする……」
思わず思ったことを口にすると彼女も「ほんとにね」と短く吐いた。
「それならもう膝枕はしないでおこうかしら?」
――――――
「碧理は?」
デジャブではない。
戦闘服に着替えて再度蒼佳と合流して碧理の所在を確認したのだ。
しかし、彼女は首を横に振って答えを返す。
「連絡はついたけど時間が惜しいわ?とりあえず私だけで向かいましょう」
緊急討伐司令とは誰かが討伐を失敗した時、もしくは野良の怪異が現れた時のどちらかだと相場を決まっている。
故に初動が何より肝心であり蒼佳は狩衣に着替えながら俺にタブレットを投げ渡した。
「……不明……?」
画面にはただ一言そう書いてあり思わず口にあげて読み込む。
「えぇ、どうやら最初は低級の妖怪。“枕返し“と予言されたらしいのだけど、いざ討伐に行ってみれば“ヒトガタ“だったらしく第一次及び予備隊は全滅らしいわ」
蒼佳の言葉にゴクリと俺は唾を飲み込んだ。
怪異の中で“ヒトガタ“に区分されるそれらは総じて位階が高く、狡猾で、乱暴なのだ。
二足歩行で歩き、人語を理解し話す知能まで持っており、故に“ヒトガタ“と区分されている。
「俺のバイクで行こう」
ヒトガタであればもはや猶予はない。
故に彼女にも最速のために提案すると「えぇ。頼むわね」と短く返して最後に足袋を履いた。
「これ被って」
愛用のバイクに寄って俺は蒼佳にフルフェイスのヘルメットを投げ渡す。
「ありがとう」
蒼佳もそれを受け取るとカチャカチャとヘルメットを被ってバイクの後部座席へと跨った。
――ブブブブブブォォォォォォオオン!!!――
まるでスーパーカーのようにマフラーから排気音を上げる俺の愛機。
通称――黒バイ――である。
警察のバイクが白バイと呼称されて赤色灯を灯すことが許されているがそれは退魔師も同じである。
しかしながら、差別化のためなのか、退魔師に与えられるバイクは総じて色が黒一色であるために、黒バイと呼称される。
ただ、サイズ感は白バイの2倍。それこそワンボックス並みの車長であり、武器や医療器具。はては着替えをいれるポケットが存在するソレがあげる排気音はまさにフェラーリなどのそれである。
「捕まってて」
彼女の返答を待つことなく俺は右手のアクセルをブンッと回して現場へと急行する。
あたりには黒バイからこだまするサイレンの音が鳴り響いていた。
「あそこね」
平日の昼下がり。一般道路を時速100キロのスピードで飛ばしていた時、後ろに座る蒼佳が前方を指差した。
場所は京都駅近くのショッピングモール。
そう。それこそ先日碧理と一緒に買い物にいった場所からモクモクといくつからの煙を立たせていた。
「京都退魔庁 第参地区所属 中級陰陽師の賀茂蒼佳です」
「同じく下級サムライの賀茂匠です」
前回の鵺との戦いとは違い今回は白昼の繁華街である。
すでに騒ぎに駆けつけた警察が周囲を警護しているため、俺たちは警戒線を張り、
「お疲れ様です」
目の前に立つ婦警がそういってピシリと敬礼をとる。
「状況は?」
蒼佳の声に婦警は「はっ!」と短く返事をした。
「現在モール内では逃げ遅れた民間人も多く、30分ほど前には別のおサムライ様達がこれの救助のために中に入りましたが未だ事態は解決に至っておりません。
本官らは
「民間人ですか…人数はどのくらい?」
「申し訳ありません。数多くとしか、今はお答え出来ません」
婦警の言葉に蒼佳はため息を漏らす。
退魔師を2度、退ける怪異の討伐と同時に民間人の救助も必要となる。
そしてその数は不明という事態に俺も彼女同様ため息を吐きたくなるのをなんとか堪えた。
「碧理が居ないのが痛いわね」
ただでさえ人手が欲しいこの状況に蒼佳が漏らした。
「大丈夫。今、向かってるだろうし」
そうであって欲しい。
そんな願いを込めながら俺は蒼佳に蒼佳に答えた。
討伐における結界師の役割は怪異の封印の他に“守護“するという役割も併せ持つ。
故にこうして民間人が取り残されている状況では必要不可欠な彼女はいないのだ。
討伐を主にするサムライとバランサーの陰陽師。
手駒は圧倒的に不足していた。
「式神を使いましょう」
蒼佳は一枚のお札を袖口から出して地面に置いた。
「起きなさい。水魚」
札を中心に出現した五芒星。
紫色の光を発して1匹の水色の鯉が地面を跳ねてまた地中に潜る。
「私たちを守護しなさい。」
地に向かいそう彼女が告げると返事をするように鯉は顔を出しピュッと口から水を俺と蒼佳に吐いた。
ビシャ。
水鉄砲の容量で掛けられ一瞬にしてずぶ濡れになるので思わず「もう少し、なんとかならないかな」
と苦笑いを浮かべて言うも
「無理ね。低級式神だもの」
と蒼佳は微笑んだ。
これは式神によるマーキングの一種である。
水魚は地面に潜りながらマーキングをした対象の周囲を周回し危機より守る。
そう言った意味もあるが、まだ3月の段階で全身ずぶ濡れになるのは酷く憂鬱な気分へとさせるが、
もはやそうは言ってられない。
「行こうか」
切り替えて俺たちはモール入り口へとそのまま歩を進める。
婦警が「ご武運を」と言って見送るのを手を上げて答えるのであった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます。あの!まだ私の娘も何処かに……」
モール内の店舗の一つ。アウトドアショップにて見つけた民間人を保護した俺は彼女に施設内で1番の広場になるフードコートへ誘導し、一旦その場で待機を告げる。
建物に入りすでに15分。
保護した民間人は多く、バラバラで出口に逃すよりも一箇所に纏めて保護する方が効率的だと考えたからだ。
役割は俺が民間人の捜索。並びに怪異の討伐。
蒼佳がフードコートにて民間人の警護に分けている。
俺は道中に出くわした“
前世で言うところのゴブリンによく似た妖怪だ。
このモールの首魁はどうやら無数の未成熟の怪異を従える高位な存在なのだろう。
斬り捨てた幼鬼は泡沫の如く消えていった。
ジジジ。
耳につける無線機が起動の音を立てた。
“こちら蒼佳。そっちの様子はどうかしら。どうぞ“
“今丁度2階の探索が終わったところ。恐らく首魁は3階だろうね。どうぞ“
“油断しないでね。“
『どうぞ』という発信を終えるひと言を言わずに口を閉ざす彼女。
本気で心配している姿がありありと予想出来た。
“にしてもいちいち面倒だな。精気解放すれば向こうから来るだろ。どうぞ“
“民間人がいる時にそんなことすれば余計な被害を生むわ。ここは我慢しなさい“
俺の冗談に、蒼佳はいつものようにお姉さん然とした口調に戻った。
怪異は女性よりも男性を好む。
これはこの世界共通の常識だ。
しかしながら何故男性を好むのか。どうやって男性を認識しているのかまでは民間人には知らされていない。
その理由が“精氣“だからだ。
精氣、もちろん女性の源氣もだが、
退魔師や民間人、それこそこの世のあらゆる万物は氣は違えど体内にそう言ったエネルギーを内包しているのだ。
個体差による多寡はあれど怪異はそれを感じ取り好んで男性を喰らう。
そして俺の“氣“は誰よりも濃くて多い。
故の発言ではあるがそんな冗談は彼女には通じなかったらしい。
“はいはい。ん?どうやら本当に3階にいるっぽいわ“
2階から3階へ上がる階段を登る時にふと目には見えない境界線を感じて俺は無線に告げた。
1、2階とは違う。鼻を刺激する醜悪な“妖氣“の臭い。
どうやら、首魁は氣を隠匿する技術まで持ち合わせているらしい。
「完全に“枕返し“ではないな」
そう独り言を呟き臭いの元を辿る。
枕返しは本来第参位階に属する所謂低級の怪異だ。
そのような存在が己の氣を隠匿することも、ましてや幼鬼を使役することも出来うる筈がない。
そして”ヒトガタ”と言われた情報。それらを統合して導き出される怪異の正体を口ずさんだ。
「”鬼”か」
ガシャリ。
進めていた足を止めて正面を睨みつける。
3階の階段付近の広場。
普段であればイベントショップや、携帯ショップが臨時出店するほどに開けた場所。
ソレは地に腰かけて人の腕を
食糧庫か。
ソレの傍らに10名ほどの民間人がひと固まりに身を寄せ合いその怪異から目を逸らす。
骨付き肉を食べるようにむしゃむしゃと咀嚼する。
背丈が5mほどで筋骨隆々な体躯。
肌は黒々とし、頭部に一つの角をはやして顔の中心に大きな一つ目。
例えるならばサイクロプスを彷彿される化け物の傍らには数体の幼鬼が控えるように付き従う。
”一つ目鬼”
鬼の名を
鬼が今、俺を視線に捉えてその場で咆哮をあげた。
大地が揺れるほどに大気ごと震わすソレに俺は思わず盛大な溜息を洩らした。
「上等ッ」
俺は体中から精氣を噴出させ斬魔刀を力強く握り締めてその場から跳躍した。