貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】 作:たんばりん
「お姉ちゃん大丈夫かな?」
幼鬼の討伐も完全に終わり、やっとこさモールが解放されることには時刻は既に夜9時を回っていた。
蒼佳はあの後、意気消沈しながら心ここにあらずの状態で、そのまま救急車にて折れた指を治すために病院へと運ばれ、俺と碧理はモール入り口にて民衆からの歓声に手を上げて応える。
「まあ、幸いに折れただけみたいだから大丈夫だろ」
俺の言葉に碧理は「違うでしょ」と語気を強めた。
「ぬらりひょんのことよ」
もちろん碧理の言いたいことも理解出来る。
俺たちとヤツとの因縁は強い。
それこそ呪いのように――
「今日はそっとして明日お見舞いに行こう」
彼女の容態的にも精神的にも俺は一旦時間を置くべきと判断し碧理の頭を撫でる。
「……あ、あの……ありがとうございました」
会話を遮るように1人の女性が俺たちに感謝を告げる。
青色髪をボブカットした女性がこちらを見据えていた。年齢は恐らく俺と同じくらいか。
どこか、リスのような小動物を思わせる。
「君は……たしか……」
そうだ。一つ目の食糧として固まっていた一団の中に結果的にぬらりひょんの妖氣に当てられても尚、気を保っていた唯一の女性だ。
ちなみに他の女性はみな蒼佳の後に救急車にて運ばれていった。
彼女達は病院に派遣された陰陽師にお祓いを受けて邪気を払う。
それほどまでに高位の怪異が出す妖氣は厄介なのだ。
それなのに今目の前に立つ彼女が疲れた表情をしているも目には光を帯びている。
「強いね……。」
「え?」
俺の言葉に彼女は首を傾げる。
当然だ。急に強いと言われても理解できないのが普通の反応だろう。
「いや、なんでもないよ。よく頑張りましたね。救助が遅くなってしまい不安な思いをさせました。ごめんなさい」
虱潰しに1階から3階へと行ったのだ。
当然、一つ目に喰われて犠牲になった人もいる。
いつ自分が喰われるか心配だっただろう。
「いえ、あなたのおかげでなんとかこうして生きております。本当にありがとうございました」
小動物のような愛らしさの見た目とは裏腹にしっかりとした言葉遣いで言葉を結んで彼女はそのまま去っていった。
「彼女……タクミの言う通り本当に強いわね」
見送る碧理も俺と同じ感想を抱いたらしい。
「よっぽど“生“にこだわる強い理由があるんだろうね。それこそ大事な“家族“がいるとか……」
俺の言葉に碧理はコクリと頷いたきり、口を閉ざした。
その後、帰路についた俺たちは、風呂も早々に眠りについた。
今日ばかりは、碧理も姉を心配しているのだろう。
ただ俺を抱きしめてスヤスヤと寝息を立てる彼女の頬を撫でて共に眠った。
”私は貴方を恨んでいるわ”
蒼佳がいる病室に入った瞬間彼女から告げられた言葉だ。
折れた腕を支えるように包帯で固定され、上半身だけ起こして顔をむけることない彼女の声音はどこか冷たかった。
「分かってるつもりだよ」
その言葉に、一度息を吐いて手にしたメロンを横に立つ碧理に手渡した。
「悪いんだけど切ってきてくれないか」
案に2人にしてくれと言う俺の依頼に彼女もコクンと頷いてそのまま病室を去るのを確認し、
蒼佳のベッドに腰掛けた。
「昨日のことじゃないわよ。それよりもっと昔からよ」
いつもの温和な表情とは違う。
鋭い視線を受けても尚、俺の答えは変わらない。
「分かってる。蒼佳の母親、叔母さんを死なせたのは俺だ」
俺の言葉に一瞬驚いた表情を浮かべた後、彼女はどこか儚げな笑顔に変わった。
「なんだ……分かってるじゃない……」
彼女は顔を下に向けて膝においた手を震わせる。
「……そ、それなのに……なんで……なんで昨日は……」
言葉を詰まらせフルフルと横に振る蒼佳。
分かっているのだ。
ぬらりひょんに敵わないことを。
側に立っていた女の姿をした怪異、“産女“にも勝てない程に俺たちの実力差は遠いことに。
「――無駄死には祖母だけで充分だろう」
――!!!!
俺の言葉にガバリと顔を上げて俺の頬に張り手を見舞う。
目にはありありと涙を浮かべ顔は憤怒に塗れていた。
「――あなたのその冷徹さが私は”嫌い”なのよッ!!」
掴みかかり俺の胸元にドンッ。ドンッ。と拳を振り下ろす蒼佳を俺はジッとした目でただ眺める。
「――おばあ様は、おばあちゃんは偉大な陰陽師よ!取り消しなさい!」
ドンッ。
胸を叩く音が部屋に響く。
「――おばあちゃんだけじゃないわ!母も叔母様も曽祖母も幸恵さんも!!みんなが偉大だった!!私たちだけよ!!戦うことも出来ず、ただ座して眺めていたのは!」
わかっている。当時は蒼佳は12歳、俺と碧理に至ってはまだ5歳だ。
第十位階のぬらりひょんとの闘いに参加できるわけはない。
「……あなた……”救世主”……なんでしょう……戦ってよ……仇を取ってよ……」
胸を叩く力が次第に弱くなり、やがて止まった。
「……助けてよぉ……たっくん……
昔のように俺の名を呼ぶ蒼佳の肩を抱き寄せる。
肩を震わせて嗚咽を漏らす彼女を俺はただ黙って抱きしめ続けた。
「……ありがとう……もう大丈夫よ」
散々涙を流した後、彼女はそっと俺から距離をとりほほ笑んだ。
瞳は未だ赤く、目元もやや腫らしていた。
「……あなたのそういう優しい所、”好き”よ」
先と違う発言を述べる彼女に俺はニコリとほほ笑みを返した。
「取るよ。仇。母や叔母の分だけじゃない。祖母も、曾祖母、それに俺の2人の姉だってぬらりひょんに殺された。全員の仇とって。世界ごと救ってやるよ」
――俺はその為にこの
――――――――――――――――
“近し、訪れる災厄から日輪が如し和を導く存在出づる。さりとて
俺が母の腹にいる際に賀茂家に告げられた御信託だ。
元々分家であり賀茂ではなく加茂と名乗っていた母らはソレを機に名を賀茂に改めて本家に移ったと、母の死後、大人連中で唯一生き残った曽祖母が俺に告げた。
「恨むかや?このワシを」
当時、齢12歳。
来月の4月からサムライ養成機関へと進学が決まった俺を呼び出した曽祖母が俺に聞いてきた台詞だ。
「信託をお主に隠し、賀茂家であれば守れると慢心しておった結果がこの様じゃ。お主の母も姉たちも。
祖母も叔母さえも奪ってしまった。
全てはこの婆の慢心から来るもの。恨んでよい」
そう言って曽祖母は畳に額を擦りつける。
「ひいばあちゃんのせいじゃないでしょ」
俺の言葉に彼女の肩がびくりと震える。
「全部、僕が生まれたせいじゃん」
これは記憶だ。
今でも鮮明に思い出す記憶の
「ならぬ。そのようにお主が考えてはならぬぞ。匠よ」
曽祖母が顔を上げて俺を睨んだ。
その瞳には涙を浮かべ顔から怒気を放っている。
「お前の母からなんと教わった。
彼女の言葉に俺は首を傾げた。
「もちろん愛を教えてもらったよ。でもそもそもは僕が生まれなければ母さんも死ぬことはなかったし、叔母さんやばあちゃん。それに姉さん達まで死ぬことはなかったんだろ。
全部、ぜーんぶ
俺の言葉に
「だから気にしないで。自分の尻は自分で拭うよ。日輪の如くだっけ?ひいばあちゃん好みの言葉でいえば救世の
いいよ。全部救ってあげる。怪異からこの世界を。
俺がぜーんぶ
ケタケタと嗤う俺を見て彼女がヒュッと息を呑む。
「――こ、こんの大馬鹿ものがっ!!!」
指先を俺に突きつけ式神を降臨しようと力を込める彼女に向かって俺は掌を向けた。
「もう遅いよ。気がついたからね。
転生者なのだ。
輪廻転生の枠組みからも外れた前世の記憶をもつ異分子の存在。
なぜ、憎き前世の記憶が残っているのか。考えなかった日はない。
あの侮蔑の視線も、あざ笑う声も。
転生してからはそのような経験はなく、大事に育てられたと今でも感謝している。
しかしながら不意にフラッシュバックのように思いだす悪しき記憶に俺は苦しんできたのだ。
それが神託の理由を聞き、若干なれど腑に落ちてしまった。
気づいてしまった。
この世界に生まれた理由を。
「ならぬ!復讐に囚われてはならぬ。それは身を滅ぼすぞ! 」
彼女が怒声を上げるのを俺は首を横に振り否定する。
「憎しみじゃないさ。なすべきことをなす。どんな手を使っても。
協力しないならひいばあちゃんもただじゃおかない。
もう賽は投げられたんだよ」
そう言って彼女の肩に手を置きぐいっと下へ力を込める。
「――ッ!貴様ッ、何故精氣をッ! 」
彼女の顔が痛みで歪む。
「何故も何も男の子だから使えるでしょ。
あぁ、普通はこの歳では使えないかなぁ、まあ俺は
尚を力を込めて彼女を地につける。
「蒼佳姉も碧理も俺が守るさ。
だからひいばあちゃんも協力して。
俺が世界を救うのをさ」
もはや呻き声だけをあげる彼女に俺は氣の圧力を解いて笑顔を浮かべて彼女の元を去る。
翌日、曽祖母は自室で首を吊っていた。
奇しくもその日は母らと同じ命日であった。