貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】 作:たんばりん
「いらっしゃいませー!」
ゴールデンウィークの連休、俺はクルミ先輩の実家が営む居酒屋でアルバイトに精を出していた。
「生ビール4つ追加です」
「あいよー!!!」
どこか、クルミの面影を残す女性が合いの手を返す。
「あ、お客さん、お触りは禁止でーす」
注文とりの際に背後からニョキっと手が伸びて寸前で躱し、手を伸ばした女性に注意を促す。
「いやぁ、タクミくんが良ければ卒業したらうちの看板息子として働いてほしいよ」
先の店主もとい、クルミの母親がキッチンから顔を出して俺に告げた。
「すいません。一応本業はサムライなので」
手をあげてぺこりと頭を下げる俺に「そうだよね。御勤めいつもご苦労様」とクルミとよく似た笑顔を浮かべて頭を下げる彼女に
「まあ、こうした暇な時ぐらいはいつでも手伝うので声かけてください」
と伝え、そのまま注文とりに汗を流した。
「ありがとうございましたー」
最後のお客さんを見送り店内へと戻ると従業員が拍手を交えて俺を迎えた。
「タクミくん。過去最高の売り上げだって」
汗を流しながらはにかむクルミに「そうですか。やっぱり異常でしたよね。忙しさ」
と苦笑いを浮かべて汗を拭った。
「一旦ここらで休憩して賄いでも食べようか」
パンパンと手を叩き皆に告げる彼女の母親が「今日はタクミくんが手伝ってくれた記念だ。ぱっと豪勢な賄い作るよ!」と声を張り上げると全員がガッツポーズをして喜びを表す。
その一体感に、俺は思わず笑みを溢した。
「タクミ君はゴールデンウィークは本業はお休み?」
賄いの海鮮丼にいつぞや食べた唐揚げ。
それらを頬張りながら、ふとクルミが尋ねる。
「うーん。今んとこ討伐指令は直近でないんですけどね。でもそれってフラグですよ。先輩」
唐揚げに箸を伸ばして、そのまま口へと放る。
じゅわりと肉汁が口内で弾けて思わず頬が緩んだ。
「あ、ごめん」
ピピピピピピ
ほら言わんこっちゃない。
俺の私物のスマートフォンとは違う。退魔庁から貸与されたスマートフォンが音を発し、思わずその場でため息をついた。
「どした。碧理」
電話音を鳴らすスマートフォンを気だるそうに取り上げて受信のボタンを押して受話器越しの彼女の声に耳を傾けた。
「出たわよ。緊急司令」
まさに予想通りのフラグの回収に再度息を吐いてから「どこに?」と返すと碧理は「鞍馬よ。
「……じゃあ、討伐対象の怪異はテングか?」
俺の言葉に「ええ」と返した後、
“第八位階相当ね“
と言葉を続けた後、「いつ戻れる?」と更に言葉を重ねた。
「すぐ家に戻るよ」
「了解。準備しておくわ」
電話のやりとりを終えて、一同がこちらに真剣な眼差しを送るのを笑みを浮かべて返した。
「というわけですので、俺はここら辺で失礼します。あっ、唐揚げもう一個もらっていきますね」
無作法にも手掴みで唐揚げを掴み再度口へと運ぶ。
「じゃあ、お疲れ様でした」
ぺこりとその場で頭を下げると「お待ちを」と接客中の時とは違う、重っ苦しい声音でクルミの母が言葉を発した。
「せめてもの、気持ちだけど切り火を打たしてくれないかい」
「じゃあお願いします」と返すとドタドタと厨房に戻ってすぐさまこちらにやって来た彼女の手には火打ち石を持っていた。
「お気を付けて。おサムライ様」
お辞儀する俺の頭上でカチカチと音がなる。
古くから伝わる魔除けの一種である。
「ありがとうございます。じゃあ、行って来ます」
顔をあげて礼を告げてから踵を返し俺は家へと走った。
背後で「ご無事で」と短くクルミの声が聞こえるのであった。
「被害は?」
家に着くなり私服を脱ぎ捨て、全裸も気にせず戦闘服に着替えながら横に立つ碧理に声をかける。
「今のところはないそうよ。施していた封印が急に解けて鞍馬寺に境内に顕現しただけで、
寺の境界線の結界までは壊されてないみたい」
全国各地に怪異を祀る寺社仏閣は多い。
秋田であればナマハゲ。
四国には人魚を祀る寺も存在している。
中でも有名なのは鞍馬寺のテングと、伏見稲荷の妖狐だろう。
彼らは寺社に石や、墓に妖怪を封印し祀る始末で、今回も討伐とは名ばかりであくまで最終的なゴールは“封印“であると碧理が告げる。
「それにしても鞍馬寺は俺らの担当エリアでもないだろ。おまけに俺らは下級で本来は第八位階以上は中級数名もしくは上級が目安だろう」
俺の言葉に彼女は頷いてから言葉を返す。
「なんでも一つ目鬼の実績も考慮して選ばれたそうよ。
“下級にして下級ならず“ってさ。
後、今回の指令が完遂した暁にはアタシもあなたも中級に昇格するってさ」
“よかったじゃない。2ヶ月で出世よ。アンタ“
言葉を続ける彼女の表情は硬い。
怪異の位階にはそれぞれ目安が決められており、退魔師が派遣される主な位階は四位階以上指す。
第一〜第三は結界師を派遣し封印し支部へと提出。
第四〜第五は下級サムライを筆頭としたチームを送りこむ。
第六〜第八が基本的に中級、もしくは上級のチームが受け持つが通例なのだ。
そんな括りをぶっ飛ばしての俺たちの指名に思わず首を傾げざるを得ない。
もっとも鵺が第五位階、一つ目鬼が第七位階で河童も恐らく同程度だろう。
もはやそんな枠組みから外れてしまった討伐実績も加味されているのだろうが、それはそれである。
「あと、アタシ達の他にも退魔師のチームが3組、任務に当たるそうよ」
「……仲良くお手手繋いで討伐でもなく討伐ね。上手くいかないだろ」
思わず口をへの字に曲げて顰めっ面を浮かべる。
退魔師のチームは常に自身が所属する“組“を重視し、動くのだ。
そんな奴らを集めて、急に「仲良く討伐して下さい」など言われても無理である。
「討伐じゃないわ。今回の指令は
首を傾げる俺をよそに彼女が続けた。
「……それと、他のチームは下級が2組に中級が1組だそうよ」
トドメを刺そうとばかりに告げる碧理の言葉に俺は口を開けて間抜け面を浮かべた。
どうやら、
「まるで遠足ね」
どうやら俺の顔に文字が書かれていたらしい。
彼女が代弁して言葉を吐いた。
「まあ、なるようになるか。一応、俺らと同じ指令が下されるくらいには優秀ということだろう?」
俺の言葉に「一応、そうみたいね。アタシも詳しくは知らないけど」と碧理が言葉を返した。
彼女の言葉に「ふーん」と間抜けな返事を返しながら腰に斬魔刀を佩く。
「まあ、行ってみないと始まらないわな」
車庫に止めてある黒バイに跨り、後部座席へ腰を下ろした彼女にヘルメットを渡す。
「あ、髪の毛が焼き鳥?のような匂いがするわね」
鼻をクンクンと鳴らして髪の匂いを嗅いだ碧理がそんなことを言った後、「焼き鳥食べたいわね」と続けた。
「賛成。これが終わったら行きますか」
アクセルをぶん回し、排気音を響かせる。
「肝が食べたいわね。一杯精をつけましょう」
どこか締まらないことを言う彼女に俺は愛想笑いを浮かべて車体を走らせる。
深夜に赤色灯が煌めき、サイレンが鳴り響かせながら俺たちは鞍馬寺へと向かった。