貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】 作:たんばりん
「タクミ…… 」
目の前で繰り広げられる戦いに視線を向けながらアタシは唇を噛む。
自分の口から一筋の血が流れて、口内に鉄の味が広がるのも気にせず、拳を握りしめた。
”邪魔”
先に言われた彼の言葉通り、正にアタシは邪魔だっただろう。
妖氣、咆哮にあてられてその場にしゃがみ込んで動けなくなってしまった。
今、先の死を直観させる妖氣はすべてタクミへと集められながら、彼は嗤って刀を振るっている。
器用に、テングの身体を足場に縦横無尽に動きまわり斬りつける。
その動きはもやは人ならざる速さを生み、また相対するテングも人外よろしく、巨躯を思わせない身のこなしで彼の攻撃を受け止めていた。
手数はタクミが優勢だろう。
刀を打ち合いながらも、徐々にテングを切り裂く様に、思わず歯噛みする。
彼は、まだ3月にサムライになったばかりの新米退魔師だ。
アタシの方が2年先に、姉と一緒に現場に出ていたはずなのに、初めからその力量を感じていた。
そして、現在蒼佳は試練の為、家を離れている。
自分に出来ること、自分がなすべきこと、それらを放棄し、今アタシはただの傍観者へとなり下がっていた。
「タクミ」
再度、彼の名を呼ぶ。
今、テングの芭蕉扇を持つ左手を斬り飛ばした。
圧倒している。というわけではない。
彼もまた、身体に傷を負い、無理な動きのせいか口から血を吐いている。
「……なにやってんのよ……」
太ももに拳を打ち付け震えを止まらせる。
両の頬を叩き、全身に力を込める。
「やってやるわよ」
彼の得意とする戦い方は室内戦。それも足場が多い場所での多次元的な動きだ。
今、彼は足場が地面とテングの巨躯しかない場所で戦っている。
「……もう、見てるだけはイヤなのよ」
指を突き立て、印を結ぶ。
「もう、震えてただの傍観者はまっぴらよ!」
タクミがテングに蹴り飛ばされ、その場を転がった。
「多重結界 ”連”」
身体中から氣が抜け落ち、足元がふらつくのを奥歯を噛みしめて留める。
タクミとテングを囲うようにいくつものピンク色の結界が四方に散らばり足場を作った。
「ブチのめしなさいよ!馬鹿タクミっ!」
受け身をとり、顔を上げた彼の名を罵声と併せて呼ぶと、彼は口元をニイっと開いた。
彼らの動きは見えない。
であれば、障害物のように先にいくつもの結界を展開するまでのこと。
本来、いくつもの結界を展開し続けるのには氣を消費するため、節約しながらがセオリーである。
セオリーを破り、アタシは彼の周りに100、200、1000と結界を展開させる。
タクミがいくつかの結界を足場に、まるで飛ぶようにテングへと何度か切りかかり、ついに、その首を切り落とした瞬間、アタシはその場で意識を失った。
――――――――――
首を切り落とし、ドスンと地響きを立ててテングが崩れた瞬間、周囲の結界が夢散した。
「さんきゅー碧理」
恐らく源氣の使いすぎで倒れたのだろう。
俺は彼女がいた後方を振り返り賛美を送った。
氣の使い過ぎはもちろん自分自身もである。
ふらつく脚で肩で息をし、このまま眠ってしまいたいほどの睡魔を堪えながら俺はほほ笑んだ。
ガサリ。
背後で物音と一緒に、ナニかが立ち上がる気配を感じて鳥肌が粟立った。
消滅の証拠たる泡を見たか。
答えは否。
首を切り落としても、祓えない存在がいることを失念していた。
憎々気に後ろを振り返ると、首より上の無いテングが立ち上がり、刀を天へと掲げていた。
「化け物かよ……」
悪態をつかずにはいられない。
柄を再度強く握り俺は受け止めようと刀を構えた。
「封印結界 ”
瞬間、背後から声が響き、テングの巨躯を黒い結界が包んだ。
ドンっ!と結界の内側から殴りつける鈍い音と共に地面が揺れるが、強度が硬すぎるのか、ビクともしない。
「お疲れ様です。おサムライ様」
耳元で囁く声に背筋が伸び、勢いよく振り返る。
目の前には、金髪の髪に黒い狩衣をきた陰陽師と赤髪の結界師が立っていた。
「武蔵坊弁慶。平安時代にかの安倍晴明に封印されたテングです。指令内容は討伐ではなく封印ですよ。忘れていましたか」
結界師がつかつかと地面に転がるテングの頭部に近づき再度「獄極」と唱える。
頭部も同じように黒い結界が包んだ。
「まぁ、まぁ~、彼も頑張ったんだよぉ~。そこは褒めてあげないとぉ~」
陰陽師が間延びした声でテングの頭部に近づいて自らの指をポキリと折り曲げた。
「喰らい、鎮めよ、白虎」
瞬間、空中に五芒星が現れ、巨大な白い虎が結界ごと喰らいつき、そのままテングの胴体にもかぶりついた。
彼女らの腕には金色の腕章が施され、きらりと光りが挿す。
「初めまして。私は特級陰陽師の
反対側に降り曲がった何本かの指を気にせず、握手するように腕を差し出す彼女。
金色の髪を後頭部でまとめるシニヨンヘアに、右目を前髪で隠すように垂らした、およそ20代後半の美女がほほ笑む。
胸部が突き出て、美咲をも超えるその豊かさに、谷間に深く深く一本の筋を刻んでいた。
「同じく、特級結界師の田井中
東司とは違い、まるで睨むようなきつい目つきでこちらに頭をさげる赤い髪を肩付近で編み込んだツインバードヘアの、こちらも同じく大きな乳房をもった女性。
”東司”と”田井中”という苗字に思わず背筋が伸びる。
東司とは賀茂・安倍からなる御三家であり、田井中とは、まさに先の会話で出た曽祖母に仕えた幸恵。
“田井中幸恵“の名字だ。
そして彼女たちの等級を表すように金色に輝く腕章は“特級“を示すパーソナルカラー。
言わば、現退魔師における最高戦力に他ならない。
「ども、賀茂タクミです。下級サムライです」
本来退魔師の中で序列はサムライの後に陰陽師、結界師と続く。
故に頭を下げるサムライは珍しいが、どうしても下げざるを得ない覇気に俺はぺこりと頭を下げた。
「……おサムライなのに、素直な子だね。ほらお姉ちゃんって呼んでいいよ」
頭を下げる俺の視線に谷間を寄せる金髪。
「……お、さすが最近武名を響かせるおサムライさんだ。気になるの?お姉ちゃんのお・っ・ぱ・い・♡」
思わず固まった視線に気がついたのか、東司と名乗る彼女が「触っていいよ」と耳元で囁いた。
「はしたないわよ。育美」
思わず触りそうになるのを寸前で止める。
「私をご存知でしょうか?賀茂殿」
冷たい目つきで田井中から言葉がかかり、俺は頷いた。
「もちろんです。幸恵さんには随分とお世話になりましたから」
柔和な笑みを浮かべて返すも、彼女から怒気がゆらゆらと放たれる。
「その節は祖母がお世話になりました。以後もお見知り置きを」
まるで睨みつけるかのように笑わない彼女はぺこりと頭を下げた。
「ユキちゃんはね、賀茂の一族を恨んでるんだよ。おばあちゃんを奪られたから」
「育美」
冷たい声音で東司の名を呼ぶ。
「ごっめーん。ユキちゃん。じゃあね。私たちは弁慶さんを再度封印するから。賀茂くんたちはもう帰っていいよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべて踵を返す彼女たちを止めるべく声をあげると、東司が真顔で振り返って手を突き出した。
「ここから先は、私たちの仕事。君たちはお家に帰って休みなさい。
顔が笑顔に変わるも目だけ笑っていない。そんな顔つきに思わずぎゅっと歯を食いしばった。
「あ、次会う時はちゃんと”お姉ちゃん”って呼んでね。上級にでもあがったら、お祝いにパイズリぐらいはしてあげるよ」
そう言って再度谷間を見せつける彼女の後頭部を田井中が叩くと彼女たちはそのまま俺たちを置いて、闇となり消えていく。
「上等。ダブルパイズリさせてやるよ」
憎々し気に顔を歪めながら俺はその場で吐き捨てて、倒れ伏す碧理のもとへと向かった。
何はともあれ指令は成功だろう。
彼女を抱き、空を見上げると、やや赤みがかっており、日の出が近づくことを告げていた。