貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】 作:たんばりん
「おめでとうございます!男の子ですよ!加茂さん!」
膨らんだ腹部に機械を当ててエコー映像を映した医者が、興奮気味に画面の一部分を指さした。
「ほら!これわかりますか?ちょっと角度的に隠れちゃって見えにくいですけど
……これがおちんちんですね!さっきは思いっきり形が見えておりましたので十中八九、男の子だと思ってもらって結構です!」
そう自分のことでもないのに喜色満面で断言する医師の言葉に
「はぁ、そうですか」と気の抜けた返事を返してしまった。
三人目の子供はどうやら男の子らしい。
男の子。 一般的に10人に1人の割合でしか生まれることのない存在であり、
私の
いきなり男児なんて言われても実感の湧かないフワフワとした表現しがたい感情が心を支配した。
「女の子の方がよかったですか?」
医者の言葉に私は「いえ、正直実感が湧かなくてどのように反応したらいいか困惑しています」と言葉を返すと、
彼女を「そうですね。お気持ちはなんとなくですが分かります」とうんうんとその場で頷きながら答えた。
「ただし、まだ完全に安定期に入ったわけではありませんので気を付けてくださいね!せっかくの
医師はそう言ってガッツポーズをとるようにサムズアップするが私は再度「はぁ。」と気の抜けた返事を返した。
この医師との付き合いも早いものでもう5年になる。
腕はよく、経営する設備も綺麗で、おまけに自宅から最寄りということもあって長女と次女をここで出産し、3人目もここへ検診に通っているわけだがいかんせん言葉が悪い。
「
それこそ今お腹の中にいるこの子が女の子であれば無理をしていいのか?そんなことを思ってしまう。
男の子も女の子も関係ない。私を選んで生まれてこようとする子はみな、可愛いのだ。
私はムクムクと内から沸き起こる怒りを鎮めるべくお腹を優しくさすった。
「元気に生まれてきてね」そう心で語り掛けると、返事をするようにお腹をドンと蹴られて思わず「フフフ」と笑みが漏れた。
どうやらこの子も上の姉たちと同様に元気な子に育ちそうだ。
「やったぁー!男の子だったの?おとーとができるんだね!ママ!」
保育園より帰宅した
「
そして跳ねる姉を見上げ釣られるようにキャッキャと真似して喜ぶ
「ともえ、男の子ってね”おちんちん”がはえてるんだよぉ~!おちんちん!」
そう言って『パオーン』と象のモノマネを次女に伝える長女に私は「こらこら」と苦笑いを浮かべながら彼女を諭した。
「おちちちん?」
まだ二歳になったばかりの次女ははっきりと意味を理解して発する単語はそれほど多くない。
その中で「おちんちん」など真っ先に覚えさせる単語でもない。
故にそう諭したのだが、次女はその単語のゴロの良さに惹かれたのか、その後もずっと「おちちちん!おちちちん!」とはしゃいでいた。
「お久しぶりでございます。ミカさん」
男児の妊娠が判明して2カ月後、安定期にも入ったことも相まって私は数年ぶりに里帰りをしている。
「ご無沙汰しております。幸恵さん」
そう言って私は玄関で正座をしてお辞儀をする女性に挨拶を返した。
田井中幸恵さん。
私が生まれる前から実家の家政婦をしており、記憶が正しければ私の母が小さいときから働いているのでもう70歳を超えているはずなのに、彼女の背筋は鉄が入ってるようにピンっと張っている。
「この度はご妊娠おめでとうございます。体調はいかがですか?」
目尻をしわくちゃにするように微笑んで問う彼女に
「上々です。ただ
ペロリと舌を出して答えると彼女は、
「そうですか、そうですか。ジャンクフードというのはあまり存じ上げませんが体重が増えるということは、その分赤子にも栄養がいくということですから。よいことでございます」
そう言ってうんうんと頷いた後に私の背後に隠れる二つの影に幸恵は気が付いて首のニョキと伸ばした。
「ほら、二人とも幸恵さんにご挨拶して」
「こんにちはー」
「わんわいわー」
私の後ろから娘の二人がそう挨拶をすると幸恵はくしゃりと笑って、
「こんにちわ!カナエさん、大きくなりましたねぇ。トモエさんは初めまして。幸恵おばあちゃんって呼んでくださいね」
そう
彼女は子供の扱いが昔からうまい。それこそ、この笑顔に私は何度救われたかわからない。
そして娘たちは彼女の笑顔に釣られるようにすぐに笑顔を返して自ら寄っていった。
「おばあちゃん!おばあちゃん!」
「ばっば!ばっば!」
喜色の声をあげながら彼女に歩みよる。どうやらこのまま任せても問題ないようだ。
私は幸恵に「少しだけ、子どもたちをお願いします」と小声で言うと
幸恵も「分かりました。ご隠居様は客間でございます」と返ってきた。
「失礼します」
襖の前で正座をしてから声をかけると中から「入りなさい」と腹が冷えるようなズンとした声音で入室を促す声に私はゴクリと唾を飲み込んでから襖を開ける。
スーッ。
なるべく音をたてないように行儀よく襖を開き、私はその場で頭を下げた。
「ご無沙汰しております。お婆様」
下げた頭の先で「久しいのう。そこでは顔が見えぬ。近くに寄ってはくれぬか」
祖母の言葉に「はい」と返事を返して頭を上げて彼女の元へと歩みよった。
彼女の両隣には母と姉が控えており、姉は賀茂家の当主らしく冷たい顔つきでこちらを見ていた。
「本当に久しぶりね。元気にしていたかしら?」
私の顔をじーっと見つめたながらほほ笑む母に私はペコリと何度目かの頭を下げた。
久方ぶりに見る母や祖母に老いを感じながら内心では笑顔で駆け寄って世間話をしたい気持ちをぐっと堪えた。
結果的に家を飛び出るように出奔した私を
それでも、もはや別の家。分家の者として大人の対応をせざるを得ない歯がゆさに思わず私の声音は堅く、意固地になってしまった。
「おかげさまで何事もなく。そ、それで本日私が呼び出された理由をお伺いしても?」
つい先日、安定期に入りお医者さんからも「すくすくと育ってますよ!もう大丈夫です!」と
お墨付きをもらってから、一応本家たる実家に形式ばかりの妊娠報告をしたのだが、
今回も前の2人のように定型分が帰ってくるという予想は裏切られ、至急本家に顔を出せと、命令のような返信が返ってきたのだ。
『男子を身籠った』との報告の後に矢の如く飛んできた
当然お腹の子に関係することだと予想され、この場には祖母と母に当主である姉が一堂に会する場所に私は警戒を禁じ得ない。
もしやお腹の子を下ろせというのだろうか。そうは言わずともこの子にもし危害が加えられるような提案ならば、私は命を賭して守る。
そう決意を新たにすれば不思議と身体中に勇気が溢れる。
言い換えればまるでお腹の子からパワーがおくられてくるような不思議な気持ちになった。
「神の御信託が下りた」
ポツリと当主である姉が三人を代表して言葉を述べる。
彼女の声を聞くのはいつぶりだろうか。
昔はそれこそカナエとトモエのように仲の良かった姉。
それも気が付けば、かれこれ10年以上口を聞くこともなくなっていた。
「信託ですか?それは蛇神様でしょうか?」
私たち、賀茂家を本流とする家系は代々、十二天将の一柱
故に私から主神となる神の名を訪ねると姉は「違う」と短く言葉を発した。
「では、どの神からの御神託でしょうか?」
「
母の言葉に思わず肩がビクリッと跳ね上がり、一時炎を灯していた私の心はみるみると萎み、圧倒的な不安感がこみ上げた。
その神とは我々、退魔を生業にする一族に知らぬものは居ない。
最高神である
それこそ十二天将さえも従える神だ。
「な、なにゆえそのような高位の御方が御神託を?」
そんな最高神からの御神託なぞ、ここ数百年で聞いたことはない。
それこそ平安時代。いまよりも魑魅魍魎が跋扈する災厄の時代に訪れた”百鬼夜行”の時以来ではないか。
そう思い当たり私は思わず絶句して言葉を詰まらせた。
「”百鬼夜行”が近づいているとの御神託が
そしてその絶望の予感を姉に肯定されて思わず血の気が引いて思わず倒れこみそうになるのをぐっと堪えて私は姉を見据えた。
”百鬼夜行”
第九・十位階に区分される怪異の複数同時出現。悪鬼羅刹の大暴走。
それが発生した際は、かの伝説の陰陽師 安倍晴明が一騎当千の活躍により安寧を護られたとされるが、
伝承によればその陰陽師は正に規格外。
現存する陰陽師が束になってもその実力に及ばないほどの存在だ。
そんな大災厄が今、面前へと迫りつつあることに私は娘二人とお腹の中にいる子の未来を案じる。
「話はそれだけではないのよ」
母はそう言って祖母にペコリと頭をさげて、続きを促した。
「これはまだ帝にもご報告していないお話である。故にそのように心得よ」
祖母の声音に思わず背筋がピンとなる。
「我々賀茂家には蛇神尊を通して
祖母の言葉に私は拳に込める力を強めた。
「それが、お腹の子に関係すると?」
思わず剣呑な表情を浮かべてしまう私に、
祖母は「左様」と吐いたあとに言葉をつづける。
「近し、訪れる災厄から日輪が如し和を導く存在出づる。さりとて
祖母の言葉にゴクリと唾を飲み込んだ。
「これはお主より妊娠の報をうける一週間前に下された御神託である。
そしてその後、お主より妊娠の報が届けられた。それも
祖母の言葉に思わず後ずさり、腹を守るように身をよじった。
「そう、構えるでない。なにもその
続けて述べられた言葉におもわずほっと息を吐いた。
「御神託には最後に”秘守せよ”とあらせられたのよ。よって賀茂家としてはこのことを帝にご報告もせぬ。お主は安心してその男子を産むがよい」
”安心なんて出来るわけがない”
真っ先にそんな文句が私の脳裏に現れた。
「ただの、その男子が日輪の如き、災厄”百鬼夜行”を退ける救世の
よってお主の分家の処置を本日より解き、加茂ではなく賀茂を名乗ることを認める。加えて男子が生まれし暁には本家に定期的に顔をだすように」
ピシャリと一足飛びにそう告げられた私は言葉を失う。
御神託とは神のお言葉でありそれが違えることはまずあり得ない。
故に私は日輪という箇所よりも悪しき業という箇所に案じることを禁じ得ない。
今だ混乱する頭でとりあえずはその場で頭を下げて、私はその部屋を後にした。
「あ、ママだぁ~!!!」
「まんまっ!まままー!!」
ふらふらと長い廊下を歩いていると正面から私を呼んで駆け寄る娘のふたり。
彼女たちも私の、いや
おそらく今後は退魔師となり、お腹の子と一緒に怪異と戦うことになるであろう。
今、浮かべるこの笑顔を私は生涯守り抜くことができるだろうか。
言いようのない不安を覚えて私はその場でえずいて膝をついた。
「ママッ!?大丈夫!?」「らいろーぶー」
叶と巴がうずくまる私の背中をさすって表情に涙を浮かべていた。
「ご、ごめんね。大丈夫よ。少し気持ち悪くなってしまったみたい。大丈夫だから安心して。ほらいないいないば~~~~~!」
手で顔を隠してあげると同時に笑顔を見せる。
巴はそれをみてきゃっきゃと笑みをこぼしていたが、叶は心配そうな顔を浮かべたままだった。
その後をかいつまんで話すと、私たちは大阪より本家の賀茂家の離れに拠を移しすことにした。
すでに家を一度出た身でもあるので、性は加茂のままとし、戒めの意味をこめた。
叶と巴。お腹の子である
将来、叶と巴が退魔師になろうとすればここより適した場所は私は知らないし、匠を守る場所としては退魔師の名家である本家は安泰であろう。
匠。
不思議な男の子だ。
生まれてしばらくはあまり笑うこともなく、怒っているのか?と思うほどむっつりとした表情が板についた子どもだった。
そして今、私の目の前では母がデレデレとした表情で匠を抱いていた。
「ムーーー」
抱かれる匠はいつも通りの仏頂面をしながら暴れることなく抱かれている。
聡い子だ。お腹の中で散々暴れていた子も、いざ生まれてみれば大人しく、飲み込みも早く、夜泣きもしない。
娘の時はまったく眠ることができなかった新生児期を私は穏やかに過ごすことができたので思わず『男の子はこんなものなのか?』と過去に男兄弟をもったことのある祖母に尋ねると、「1歳になる頃に怪異により殺された」と聞き、背筋が凍った。
祖母曰く、
”男子は1歳になるまでは全員が怪異を寄せ付ける氣を放つ”らしく、よく怪異の標的になる為、通常は一歳までは結界師に守られるのが一般的と教わった。
そんな、匠もすくすくと育ち1歳を超えるころにはよちよち歩きから直立して歩くようになり、
「ママ」と「ねぇね」のふた言だけしゃべれるようになった。
そして現在、2歳。
他の子と比べても流暢にしゃべり(おしゃべりではないが)、大人しい、子どもらしからぬ落ち着きを放つ現在まで成長していた。
「ババ、あつい」
仏頂面が板についた我が子を気にせずほっぺをすりすりしていた母に匠はぼそりと呟いて彼女の腕をパンパンと叩く。
これは”おろせ”の合図である。
珍しい男子に群がる女性陣に匠が身に着けた数少ない拒否の意思表示。
それを賀茂家は全員知っている為、母をその場で「ごめんねぇ~」とつぶやいて匠を下した。
テコテコテコ。
おろされた匠はちょこちょこと短い歩幅で私の足元までやってくると「ママ、だっこ」と腕を伸ばしたので思わず私は破顔した。
匠は基本、人にやさしい。だれかに自分の意思を貫くことはほとんどなく、3つも年上の巴にさえおもちゃをねだられると渡してしまう。
それでも匠は私にだけは要望を告げる。
『抱っこ』に『おんぶ』、『ぎゅー』、はては『キス』と仏頂面でしてくるおねだりに私は何度、胸を高鳴らせたことだろうか。
「はいはい。抱っこね~」
私は母の矜持が保たれ鼻を高くしながら息子の脇に両手を差し込みそのまま持ち上げた。
「ほーら!たかいたかーい!」
高く掲げると匠は少し笑った気がした。
匠が4歳になるころには、もはや7歳の巴よりもしっかりとし、9歳の叶よりも泣くことのない子へと成長していた。
なにもそれを悲観したわけではない。
なぜなら、彼はそんな大人びた様子をだしながらも、私にだけはいまだベタベタと年相応に甘えてくれるからだ。
彼が3歳になるとき、急に私のことを
”ママ”ではなく”おかあさん”
と呼んだ日には泣いて”ママって呼び続けて”と懇願したものだ。
それからというもの匠はいまも律儀にそれを守り”ママ”、”ママ”と私を呼んで甘えてくるのだ。
そんな子どもたちを連れて、私は温泉へと旅行に行った日。
家族水入らずで露天の家族風呂に入っている時、ふと匠が空を見上げながら口にした。
”また来年も、再来年も、家族みんなで行きたいな”と
普段よりわがままも言うことがない彼から発せられる言葉に家族一同、彼を抱きしめて約束した。
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「あぁ、あの時も今日みたいに満点の星空だったなぁ」
空を見上げて涙を流す。
「戻って来おったぞ。準備はよいな」
祖母の声に私はコクンと頷いた。
”タクミ。ごめんね。約束守れなくて”