貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】 作:たんばりん
「ワシを恨むか。美香よ」
空を見上げる祖母が私に視線を映した。
「
握った拳は震え、唇から一筋の血が流れた。
「おばあちゃん……」
いつぶりだろうか。彼女をそう呼んだのは。
彼女は自身を冷血姦と卑下するがそれは逆である。
誰より、強く、優しく、たくましいのだ。
私が姉や母、それこそ賀茂家を象徴する銀髪ではなく、まるで漆黒のような黒髪で親族連中から避難されたときに、真っ先に擁護してくれたのは彼女だ。
家を出奔した時も、加茂という名を与えてくれたのも彼女。
誰よりも強く、誰よりも厳しく、私はそんな祖母が大好きだった。
「人の世を、子らの未来を。護らねばならぬ。
空を睨む彼女の目に復讐の炎が灯されるのを思わず幻視する。
「あれは恐らく十位階の魔物じゃろう」
先の闖入の際には感じなかった身を刺すようにするどい妖氣。
姉の姿をしてそれに翼をはためかせる彼女の背が陽炎のようにゆらゆらと揺れていた。
「全力じゃ。もはや美紅だと思うてはなるまい。仮にその肉体を乗っ取られていようと」
祖母は右手を突き出し詠唱と唱える。
先の烏と呼ばれる式神を降臨した際の代償で折れ曲がった人差し指。
それを除く4本の指が同じようにポキリ、ポキリと折れ曲がる。
特級陰陽師である彼女が行使できる闇の式神降臨術。
”
”
「出でよ。羅生門」
詠唱と終えると化け物の眼前に唐突に出現した冥府の扉。
勢いよくその両扉が開かれ、幾重もの亡者の腕が叫び声をあげながら捕まえんと延びる。
”羅生門”
顕現したソレは天を突くほどの巨大な姿に私はゴクリを唾を飲み込んだ。
「美香!わしを補助せぃ!!!!」
祖母の言葉に私は頷き手を組み詠唱を始める。
”壱輪の瑠璃
”参つ唱えて
”
”
”
「
中空に巨大な五芒星が出現し光を放ちながら無数の
「不浄を喰らう
蛇が喰らいつくと同時に羅生門から延びる手が化け物をとらえた。
「
化け物を捕らえた亡者の手を羅生門へ引きづるべく祖母が手を横に振りはらう。
門から聞こえし叫び声が一層強くあたりをこだました。
蛇と亡者の腕に包まれ門へと引き釣りこもうとする、グググと音を立てるもすぎにピタリと止まる。
拮抗したのだ。化け物と羅生門の力が。
「ちッ!やはり一筋縄ではいかんのぅ。」
祖母が憎々し気にそう呟いて無事な左手で印を結んだ。
「
空に巨大な、五芒星を描き、現れたのは巨大な一本の腕。
黒々とし、大樹の幹の如く太い腕の先には鉈のようなモノが握られている。
巨大が故に振り上げてから、化け物目掛けて振り下ろす腕がのそりのそりと重く感じる。
鉈と化け物がぶつかりあった瞬間、衝撃で地面が揺れ、土煙が私たちを襲う。
強風となり、砂が目に当たろうとも私たちは目の前から視線を外さない。
「やつめ、ビクともしておらん」
ふと横に立つ祖母が言葉を漏らす。
顔には噴き出すように玉の汗をたらし、顔色は青くなっている。
先の降臨術により、その右腕をだらりと下げていた。
土煙が晴れはじめて化け物のシルエットが見える始めたころ。
ソレは口を開いた。
「フフフフ。
土煙が完全に晴れると姉は地面に横たわり、そばに一人の老人が立っていた。
服は着ていない。背丈は子どもほど、手には木の杖を地面につき、後頭部が鞠のように膨らんでいた。
「……”ぬらりひょん”……」
その特徴を知らない退魔師は居ない。
それこそ怪異の象徴的存在とされ百鬼夜行を先導する怪異の王で、妖怪の王がその場で嗤っていた。
「このようなものでワシを閉じ込めようなど、おぬしらは
ブンッ!!
ぬらひひょんが持っていた杖を羅生門目掛けて振り下ろす。
すると一拍置いてから爆発音が響きわたり、ゴゴゴと音を立てて崩れる冥府の門に私は思わず後ずさった。
「カカカカ、匂う、匂うぞ。お主、あの
クイッ。
手招きするような仕草をした後、私は見えない力に引っ張られるようにぬらりひょんへと引き寄せられる。
「ほれ」
間際、杖を私の顔めがけて振るわれ、避けることもできず頬に強烈な衝撃が走る。
歯に骨、それぞれが砕けるのを感じるも化け物の杖は止まらず私の体を打ち付けた。
「ほほほほほほ!よい!よいぞ!
「美香っ!!」
背後で私を呼ぶ声が聞こえるも、ぬらりひょんが「邪魔よ。散れ」と声を出すと突風が通り過ぎ、祖母の気配が消えた。
「
連打するごとく振り回され、頭が割れる音、腕が砕ける音。鈍い音が身体の内より響く。
最後の一発とばかりに私のお腹に杖を突き立てるとぬらりひょんは嗤った。
「な、なにが……目的……なのよ」
未だ意識があり、喋れることに私は驚きつつもソイツに問うた。
「おぉん?なんじゃ?お主、まだ生きておるのか。愛い奴よのぅ。
理由とな。……理由……理由……りゆう……」
私を足蹴に考え込むように手を顎にあてるぬらりひょんがニヤリと口角をあげた。
「
「――――殺す――――」
まだ神経を通していた腕で印を結ぶ。
「――爆。」
腕が爆ぜ、衝撃でぬらりひょんの拘束を外しながら地面へと転がった。
「ほほほほほ。腕を贄に逃げようとは。全く痴れ者は愛いのう」
ゴロゴロと転がり、受け身を取ることもできず距離をとる私にヤツは笑った。
「――ッツ!……やって……やるわよ。お前は殺す!殺す!殺す!絶対にあの子の元へは行かせない。それこそ私の命と引き換えでも……!!!」
もはや動かせる腕は右手のみ。左手は肩から先が無くなってる。
両足だって折れ曲がっているのを痛みを無視してなんとか立ち上がっているに過ぎない。
奥歯を噛み締め、歯が砕ける音を出そうとももはや気にしない。
「ごめんね。みんな。こんな不甲斐ないお母さんで」
叶に、巴に、匠に、姉の遺した子供たちに。
傷だらけになった腕を突き出す。
呼び出すは禁断の式神。
”禁術”と呼ばれる高位式神を超える最高位。
神に召喚をお頼み申す式神降臨術。
「あぁ、こんなことなら冬にでも温泉に行けばよかったわ」
思わず先の冬に行かなかったことを後悔するももはや遅かった。
”
蒼佳ちゃん。きっと貴方なら任せられる。優しい匠のお姉ちゃんになってください。
”我、
碧理ちゃん。匠を愛してくれてありがとう。まっすぐ愛の豊かな子に育ってください。
”今、
”我が身、
”
貴方にこの世界行方を負わせるのはママとして本当はいやだけど。きっと貴方なら出来る。”貴方にしか”出来ないことなの。
”四方に散りし
”増長の
あぁ、私の大好きな子どもたち。5人とも一生私の宝物よ。
最後に、姉さん。ごめんなさい。結局一緒に住むようになってから一言も昔みたいにおしゃべりできなかった。素直になれないこんな私でごめんなさい。
「ぬらりひょん!!!せめてお前だけでも私は必ず道ずれにする!」
私の宣言を聞いても尚、その表情は醜悪に歪めて『愛ぃ。愛ぃ」と宣っている。
”みんな。愛してくれて、愛されてくれてありがとう”
「今、
『
『そなたの願い聞き届けよう』
ふと男性の優しい声音が私の鼓膜を包み、そのまま私は意識を手放した。