※この作品はR-18です。

貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】   作:たんばりん

49 / 70
第肆拾捌話 京都事変

「親不孝な馬鹿孫どもめが」

 叔母たちとは反対側から声が響き、俺たちは後ろを振り向く。

「ひいお婆さまっ!」

 蒼佳が叫び声を上げて碧理は息を呑んだ。

 ズタボロなのだ。

 衣服が削げ、体中に切り傷をつくり、至る所から白い骨が見える。

 彼女は右腕を抱えながらゆっくりとした足取りで俺たちを包む結界に手を添えるとその場で崩れ落ちる。

「耄碌してもうたわ」

 血の混じった唾を地面に吐き捨てその場で仰向けに寝転がって。

「2人とも禁術を知っているとは、一体どこで書物を盗みよんだか。阿呆め」

 どこか誇らしげな表情で嗤う彼女の目は厳しい。

 空では2匹の金色の龍が浮かぶ化け物目掛けて咆哮を上げていた。

「良いか。しかと目に刻め。お主らの母が自身を御霊を犠牲にしても守ろうとする勇姿じゃ」

 肩で息をする曽祖母に蒼佳が尋ねた。

「御霊っ!?それはどのような意味ですか。ひいお婆さまっ!? 」

 彼女の言葉に曽祖母は「そのままの意味よ」と冷たく告げた。

「あやつらはもはや輪廻転生の理から外れ、神に願ったのよ。未来永劫その御霊は神の供物となる。故に禁術じゃ。」

 “まっこと、阿呆な孫たちじゃのう“

 泣きながら笑い声を上げる曽祖母が空に向かって叫んだ。

 

「お前らっ!その覚悟、ワシが見届けるぞ!しかとぬらりひょんを退魔の炎で消し飛ばせ!」

 

 まるで彼女の声に呼応するように、片割れの龍が緋色の焔を吐き、もう片方が黒い焔を吐いた。

「あっちが美紅かのう。奴め、炎に蠱毒を混ぜまこんでおるわ」

 カカカ。

 そう言って黒い火焔を吐く龍を指差して笑う。

「毒を混ぜ込ませた退魔の火焔じゃ。いくらぬらりひょんとて、無事では済むまい」

 両方向から吐き出された火焔はぬらりひょんを中心に尚も火の勢いを強める。

「幸恵も死ぬ気か」

 天を結界を足場に駆ける幸恵に移した。

「碧理よ。主は幸恵と仲が良かったのう。みよ。あれが結界師の極地じゃ」

 老婆らしからぬ俊敏な動きで幸恵が空を駆けながら叫び声を上げていた。

「――“獄極“」

 

 ぬらりひょん、母と叔母。そして幸恵自身を包んだ四角く、巨大な黒い結界。

「……あやつ、このワシにまだ働けと言うのか」

 目を見開き曽祖母が更に口角を上げて嗤う。

「――良き相棒じゃった」

 震えながら身体を起こす彼女に蒼佳と碧理が駆け寄る。

「ダメ!ひいお婆さま!行かないで!」

 2人の声が揃い彼女は笑った。

「逝かぬよ。良いか。蒼佳。覚えておるか。結界師はあくまで結界を展開し、一時的に封じ込めることしか出来ぬ。それを手助けするのが我ら陰陽師の仕事よ。

 匠、主は将来サムライとなる。

 サムライはそんな彼女達を守りながら討ち祓うのが役目じゃ。それを忘れてはならぬぞ」

 

 結界を手すりに立ち上がった彼女が空を睨んだ。

「幸恵はワシに託しおった。ワシが生きてると信じておったのじゃろう。

 故にワシが奴らまとめて止めをさしてくれるわ」

 

 その場で印を組み詠唱を唱える。

「ワシはまだ逝けぬ。故にこの右手じゃ。右手を喰らわせてやるわ。聞こえるか。九十九(ツクモ)よ。久方ぶりの出番じゃのう」

 両手を天に掲げると現れた五芒星がみるみる肥大し、中央から宙を駆ける龍よりも大きな大蛇が姿を表す。

「ひどい有様じゃのう。トミよ」

 舌をシュルシュルと出す大蛇がふと声を上げる。

 目測で200mを超えるほどの大きさから発せられる声が地面を揺らした。

 

「まっことひどいのぅ。ほれ。贄じゃ」

 折れ曲がった右手を突き出すと大蛇が舐めると、どろりと蝋が溶けるように腕が崩れた。

「婆の肉は気に食わぬの」

 顔を歪めたのだろうか。

 巨大すぎてもはや表情は分からない。

「そうは言うてくれるな。もはや50年以上の付き合いじゃろうて」

 かたや、曽祖母は笑った。

 溶けた腕を気にすることなく笑い声をひとしきりあげた後、ふと動きを止めた。

 

「喰え。九十九」

 彼女の言葉に従うように大蛇が黒い結界に這い寄り、身体を起こしてがま口の如く口を大きく開き結界ごと飲み込んだ。

 蛇の丸呑みよろしく、顔が膨らみ、喉を通り、腹が膨らむ。

暫し訪れた静寂に俺たちは息を呑んだ。

 しばらく。

 

「これは……無理かも知れぬのぅ」

 大蛇がそう漏らした後、腹部が爆ぜて爆風を伴い結界へとぶつかった。

 

 

「痴れ者!痴れ者!痴れ者!」

 大蛇の亡骸の中央に1人の男が叔母の顔を踏みつけ、やがて踏み潰した。

 パキョリ。

 形容しがたい音を立ててザクロのように潰れた顔に俺たちは息を呑んだ。

「痴れ者が!!ワシに何を盛った!何を盛ったのじゃ!」

 頭の潰れた亡骸を痛めつけるように拳を振り上げて下す、頭の禿げた筋骨隆々な体躯。

「すまぬ、幸恵」

 ばたりと祖母が背後で倒れ込む音が聞こえた。

「クソが!身体が崩れる!巫山戯るなあアアアアア!」

 咆哮を上げるぬらりひょんの身体がドロドロと溶け出すと、現れたのは1人の老人。

 手足は細く、頭だけが風船のように膨らんでいる。

「遊んでやろうと思うたら姑息な真似を使いおって」

 ふと奴がこちらに視線を向けて固まった。

「口惜しい。口惜しい。美味そうな男子(おのこ)を前にして我慢など」

 足蹴にした叔母を蹴飛ばしてこちらに歩みよるぬらりひょん。

 足取りは震えながら顔だけは邪悪に嗤っていた。

 

「お、お母さんを返せ!化け物っ!!」

 近寄るそれに蒼佳が叫び声を上げる。

「返せ?阿呆なこと抜かすな小娘がぁっ!!」

 結界目掛けて杖を振りかぶると鈍い金属音を立ててソレが止まる。

「ちっ!あのクソ結界師めが!余計なものを展開しよって!」

 何度か杖を振るうも結界が阻みぬらりひょんがため息を吐いた。

「……な、なんで……なんでウチなのよ……なんで……なんでお母さんを……」

 その場で膝から崩れ落ちる蒼佳にぬらりひょんが顔を歪めた。

「理由なぞ、あの女から美味そうな男子(おのこ)の匂いを感じたに決まっておろう」

 そう言ってソレが結界に被りついてギョロギョロとした目つきで俺を視界におさめた。

 

「ほほほ、良い。実に芳しい香。まさに果実よ。今日はもう良い。興が削げたわ」

 ぬらりひょんがその場で踵を返してコツコツと音を立てて離れていく。

「……タクミ」

 俺の服の袖を引っ張り名を呼ぶ碧理に視線を動かす。

「お母さんたちはいつ帰ってくるの?」

 絶望からか、キョトンとした顔で尋ねる彼女をみて蒼佳が叫び声を上げながら彼女を抱いた。

 

 

 

 2005年3月29日

 怪異の王。

 ぬらりひょんと呼ばれる化け物が京に現れた。

 対応に当たった退魔師の多くが死亡。

 サムライの死者 1000人

 陰陽師の死者 2000人

 結界師の死者 2000人

 

 近畿全体の半数の退魔師及び民間人2万人余りを鏖殺した。

 退魔庁は此の対象を十位階を超える超位階と区分する。

 世はこれを“京都事変“と呼んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。