貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】 作:たんばりん
「それじゃあ、僕は沖縄の退魔庁に行ってきます」
俺の言葉にルルが頷きナナは目を細めて「いってらっしゃい」と手を振った。
2人にタチバナの話はしていない。
最終的に、水泳部一同の見送りを受けてホテルのフロントより呼んでもらったタクシーへと乗り込み目的地の住所を告げる。
「お客さんはおサムライ様ですか」
運転手がルームミラー越しに視線を送り目を細めた。
「……はい。一応は」
一般人に討伐に関することを話すのは厳禁である。
知り合いならばと口の軽い俺も、先のタチバナとの会話で考えることが多々あり、窓の景色に視線を移した。
「お勤めご苦労様でございます」
やや浅黒く焼けた肌をした運転手が微笑みを浮かべるのでとりあえずとばかりに愛想笑いと感謝の言葉を返す。
「“愛“ねぇ……」
ぼそりと呟き、真っ先に浮かんだのは今世の母親の顔。
前世ではない。
彼女からは少なくとも愛を受け取っていたことは理解している。
もちろんカナエとトモエの亡き姉たちも同様である。
腰に佩いた叢雲を鞘から抜き出し刀身を覗く。
“天邪鬼よのぅ“
ふと、玉藻に言われた言葉を思い出した。
愛という存在は知っている。
それは形のなく、意識した瞬間に胸が温かくなる現象である。
前世では感じることのなかったソレを今世で短いながらも実感することができた。
しかし、それと同時に儚く散ったという思いが胸中を埋め尽くす。
愛とはかくも儚いものか。
ふと、美咲の顔が思い浮かぶ。
「そこに愛はないじゃない。あるのは肉欲だけ」
美咲もまた俺との行為に愛を求めた。
では、碧理や蒼佳は?ちなみは?
彼女たちの顔が思い浮かんでソレについて考えるも答えは出ない。
彼女たちに対して俺は愛があるのだろうか?
そう考えた瞬間に訪れる前世の記憶と、ぬらりひょんに蹂躙された過去。
気がつくと晴々とした陽射しの中で猛烈な雨が窓を叩いた。
「狐の嫁入りですかねぇ……」
フロントガラスのワイパーを動かした運転手がぼそりと告げた。
「……そうですね」
刀身を鞘に仕舞い込んでスマートフォンを取り出した。
ひとまずは仕事をしよう。
俺は考えることを放棄し、支部へチャットを送り到着予定時刻を告げる。
沖縄には現在有力な退魔師は存在しない。
2年前に首里城に現れた九位階の妖怪の侵攻により城は焼け、多くの退魔師が命を落とした。
“了解致しました。道中お気をつけて“
どこかの連絡窓口の職員だろうか。
すぐさま返信があり、俺はスタンプだけ返して携帯を閉じる。
「とりあえず仕事しますか」
ふと、独り言を言う頃には窓を叩いた雨は止み、晴天が照らしていた。
――――――――
「本日はお越しいただきありがとうございます。私、沖縄退魔支部の長をしております。我那覇 カオリと申します」
広い応接間に通されて、目の前で頭を下げる彼女に釣られてこちらも頭を下げる。
「こちらこそ、ご丁寧にありがとうございます。短い期間になりますが何卒よろしくお願いします」
顔をあげて向かい合うと浅黒く焼けて目鼻立ちがくっきりとした女性が笑みを浮かべた。
「いやぁ、おサムライでここまで優しいのはなんか驚きますなっ」
恰幅の良く、樽のような年配の女性が快活に笑って机に置いてあった茶をぐびりとあおいだ。
「……それで、どのくらい滞在されるご予定で?」
ふと目を細める彼女に「一週間」と短く答える。
「それは、それは短いですね。こちらとしましてはおサムライ様は喉から手が出るほど欲しいお方ですから、是非移住を考えて下さればと思いますが」
“南国は良いですよ。常夏で夏はもちろん冬も過ごしやすい“そういって口を大きく開いて笑い声をあげる。
「今のところはまだ高校生ですからね。転校も考えておりません」
苦笑いを浮かべて「沖縄はそこまで厳しい状況ですか」と続けると彼女は鷹揚に頷いた。
「ここは京より離れておりますからな」
そう言った
日本は現在大きく二分されている。
日本の首都である東京に、第二の都市である京都。
東京は政治都市として中心を指し、我々退魔師にとっての中心は帝がおわす京都なのだ。
故に大都市から離れれば離れるだけ地方を守る退魔師の総数は少なくなる。
尤も、怪異の出現率も地方にいけば行くほど少なくなるのでそこまで悲観することではないのだが……。
「
我那覇が胸元から一枚のイラストを机へとおいた。
「……海坊主ですね」
青い肌をした剃髪頭の化け物。かたわらには幾人もの髪の濡れた人のようなモノが描かれている。
「左様です。もはや厄災に相応しい野良の怪異です」
我那覇は付け加えるように「今もどこかの沖にでもいるでしょうなぁ」と呟いてソファーへと背中を預けた。
海坊主。
突如して沖縄に顕現した十位階の怪異。
始まりはソレこそ2年前。
ある日沖より這い出たソレは幾人ものキムジナーと呼ばれる妖怪を使役し、首里城を焼いた。
討伐及び封印に当たった退魔師が迎撃に失敗して以降、コイツらは海に潜ったきりで目撃情報はなかった。
時折漁に出た漁師を喰らっているのか、遭難率がぐっと上がったのは最近の話だ。
「お陰で今年の夏も海は閑古鳥でしょうな」
扇子を取り出して己を仰ぐ彼女から一筋の汗が流れ落ちた。
「とりあえず出来る限りの討伐はさせてもらいます。あ、黒バイ貸して下さい」
自分の分の茶をぐぶりと飲み干して俺は席を立つと彼女は重そうな腰をあげて頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「はい、15匹目」
民家に隠れていた低級怪異を切り捨て泡沫へと変える。
まるでゴキブリのように斬っても際限なく現れるキムジナーと呼ばれる怪異。
位階で言うと第三位階よりも下の、民間人に悪さをすることもあるが、直接的な死因にはつながらない低級達だ。
それらを斬り捨てながら捜索すべく鼻を鳴らした。
「……キリがない」
思わず、その場でため息を漏らす。
沖縄が何故こんなにも怪異がのさばっているかと言うとソレはすべて2年前の海坊主から始まっていた。
海坊主とキムジナー。
と言うかキムジナーと呼ばれる妖怪が特に厄介だったのだ。
奴らは結界に閉じ込めてもするりと抜け出して何故か陰陽師を狙う。
陰陽師に抱きつき自爆をするのだ。
故に結界師が陰陽師を守ろうと結界で護るも、キムジナーは結界をすり抜け目標へと到達してしまう。
では、サムライが援護すればと自然に思えてしまうが、海坊主は十位階の妖怪だ。
奴はそれを見越してかサムライに突進しサムライの動きを封じる。
故に沖縄は2年前の首里城炎上を期に圧倒的に退魔師が不足していた。
「……あっちにいるな」
醜悪な妖氣の臭いを感じて黒バイに跨がる。
キムジナーは対陰陽師を考慮して作られた怪異なのだろうか。
奴ら民間人を襲うことはほとんどない。
屋根裏に、洞窟に、井戸に隠れて陰陽師を見つけた時だけ目の色を変えて自爆へと興じる。
故に退魔庁としてとキムジナーの討伐は後回しにしていたという背景もあり、いまや沖縄ではメジャーな妖怪へと変わってしまっていた。
「キャキャキャ」
井戸の中に隠れていたキムジナーを見つけるとソレはサメのような歯を見せて嗤う。
「朧火」
火の玉を顕現し井戸に放つと一瞬のうちに燃やし尽くす。
「とりあえず今日はここら辺で切り上げるか」
時刻はすでに夕刻。
夕日を背に、その場で背伸びをして筋肉を解す。
出来れば自分も水泳部連中とプールでいちゃつきたかったが、彼女達は真剣に合宿に来ている。
邪魔すべきではないだろう。
尤も、それは昼間だけであり、夜は……と考え思わず鼻の下が伸びた。
下半身がムクムクとし出すのを無視して俺はバイクに跨りアクセルを回す。
「あ、ルル先輩達のこと考えるの忘れてた」
ぼそりとした独り言が夕焼けに響いた。