貞操逆転世界のおちんぽサムライ〜私は彼女ですか?いいえ。あなた“も“セフレです〜【挿絵あり】 作:たんばりん
「頭でっかち!」
ホテルに戻るとすでに練習を終えていたのか、一同がロビーへと集まりクルミが美咲を睨んでいた。
「クルミ先輩みたいに私は肉欲には溺れません。はしたない」
どうやら揉めているらしい。
他の連中が「まあまあ」と彼女らを嗜めるが、クルミががるると彼女へ牙を剥く。
「何かあったんですか?」
その光景を止めることなく1人ソファーであくびをしていた美優に話しかけると彼女は「んー、いつもの喧嘩ぁ」と間延びした声で答えた後、再度口を開けてあくびをした。
いつもの喧嘩と言いつつも、2人を包む険悪な雰囲気はまさに一触即発にピリピリと張り詰めている。
「賀茂くん、止めてくれ!」
クルミを羽交い絞めしていたルルが俺に気がつき口を開く。
「がんばってぇ〜」
俺に向かって手をヒラヒラとする美優に「先輩も来て下さい」と強引に腕を引っ張り立たせて輪の中へと入る。
「何があったんですか?」
美優を逃さないようにがっしりと腕を掴みながらルルに問うと彼女は目を泳がせた。
「ナナさん。解説お願いします」
こう言った時は彼女を頼るに限る。
ナナに視線を向けると彼女は頬に手を当てて「困ったわねぇ」と呟いてから言葉を続けた。
「合宿中のタクミくんに関するルールを話し合っていたのよ」
ナナの言葉に眉がぴくりと上がった。
「俺ですか?」
全くの予想外というわけではないが、目の前で言われると首を傾げざるを得ない。
「えぇ。元々は部活の合宿なのだから昼間にタクミくんと性行為をすることを禁止しましょうと美咲ちゃんが言い始めたのだけれど、ソレについてクルミちゃんと恵ちゃんが反対してね。最終的に美咲ちゃんが“あなた達はセックスするためにここにきたんですか?“って火に油を注いじゃったのよ」
思わず深く息を吐いて苦笑いが漏れた。
「2人とも……おちついて」
間に入ろうとした時にふとクルミがぼそりと呟いた。
「
彼女が吐き捨てると美咲が眉がぴくりと跳ね上がる。
「くるミン、言い過ぎ」
美優が彼女の口を塞ぐように手を被せた。
”鉄梨”
身持ちが硬い者を指す隠語であり、鉄壁のように本番は無しからきた隠語であるが、基本的には今世では男性に対して言う言葉であるが……。
「はい。今日はここまでにしておきましょう」
美咲が声を上げようとするのを遮って2人の間に入り手を叩いた。
「ちょっと!タクミくんっ」
目を釣り上げる美咲を無視してルルへと視線を向けた。
「今日の夜ご飯はどこですか?」
急激な話題の変更にルルは苦笑いを浮かべながら「ホテルに併設された鉄板焼きだ」と言葉を返す。
「じゃあ、申し訳無いんですけど、俺と美咲の分だけ部屋に持ってきてもらえますか?」
俺の提案に再度口を開こうとした彼女の口を手で押さえるとルルはため息を吐きながらも了承の言葉を交わす。
「じゃあ、とりあえずそれで解散しましょう。いくよ。美咲」
ぎちりと彼女の腕を掴み止められたカートへと歩を進める。
彼女が手を離せと吐きながら腕を振り解こうとするも、伊達にサムライなぞやっていない。
がっしりと掴んだ手が離れることなく、彼女をカートへと運ぶと諦めたのか不意に大人しくなり俺は自分の部屋にカートを動かす。
「なんで動かし方知ってるのよ」
横に座る彼女が睨むのを「親父にハワイで教わった」と訳のわからない言い訳を返しながら夕焼けの道を進んだ。
「……癪だけどありがとうと伝えておくわ」
部屋の三人掛けの白いソファーに腰掛けた美咲がこちらに頭を下げた。
「気にしないで。クルミ先輩には俺からも言っておくから」
ベッドの上であぐらをかいて叢雲を抜刀し打ち粉をつける。
「もっとも、俺が水泳部に入ったせいでもあるから、あまりキツくは言えないけどね」
切先を覗き、ふっと息を吹きかけてから刀を鞘に納めて彼女へと視線を向けた。
「それもそうね」
彼女は苦笑いを浮かべて頷くも表情はどこか晴れない。
「貴方はなんでサムライになったの?」
ふと告げられた質問に思わず唸ってしまった。
「なんで……か。初めから定められたとも言えるし、自分でなりたいと思ったとも言えるなぁ……。まあ全ては“京都事変“のせいだろうね」
俺の言葉に彼女はおおよそ察したのか「ごめんなさい」と謝罪の句を返して頭を下げた。
京都事変により家族を亡くした家は多い。
故に行き着いたのだろう彼女の考えに俺は補足するように言葉を返す。
「姉の2人に、母さん、叔母さん、おばあちゃん。ほとんど全てを殺されてしまったよ」
「……ごめんなさい。変に思い出させてしまって」
何度目かの謝罪をする彼女を見て俺はぷっと息を吹き出し笑い声を上げる。
「よく考えれば君にここまで謝られたことなかったね」
深く付き合おうとしてこなかった。
彼女の嫌がる顔を見ながら手で抜いてもらうだけの関係だったため、こうしてゆっくり目的もなく話すことはなかったことをふと思い出した。
「いいよ。気にしなくて。だからサムライになったとも言えるし、元からサムライになる
おちゃらけた表情を浮かべる俺とは反対に彼女の顔は暗い。
「どうしてそんなふうに貴方は生きられるの?」
顔を上げた彼女が俺を見据えて口を吐く。
「前に言ったよね。サムライは君たちを守ることが仕事であってそれで怪我をしたとしても謝罪は不要だって」
俺の言葉に美咲が頷いた。
「俺は怪異のいない世界を創るために生まれたのだと思う。多分だけど」
「怪異のいない世界……」
反芻するように言葉を繰り返す彼女に俺は微笑みを浮かべた。
怪異の存在がポピュラーになった世界。
熾烈な生存競争を繰り広げるように人類は怪異を戦いに興じている反面、共存も出来ている。
それが鞍馬寺や玉藻のような封印される妖怪たちだ。
故に怪異のいない世界を夢想しながらも現実問題それは厳しいと俺は思っているし、そんなことが俺の本当の目的ではないのだ。
あくまで、今は彼女への好意を高める為に吐いた、虚実を混ぜ合わせた理想論にすぎない。
「君も、怪異に家族を奪われたクチ?」
彼女に問うと、一拍の沈黙を置いてから「えぇ」と肯定の返事が返ってきた。
「……弟を殺されたわ。3年前に」
自らの太ももの上に置いた拳を強く握り肩を震わせる彼女に「そっか」と短く返事を返して押し黙る。
別に珍しいことではないのだ。
特に男児となれば比較的標的になりやすい。
「……怪異のいない世界……良いわね……」
ぼそりと呟いて顔を上げると瞼から一筋の涙が流れていた。
「期待させてもらってもいいかしら?」
笑みを浮かべる彼女に俺は頷きを返す。
「じゃぁ、景気づけにキスして」
瞼を閉じて、ベッドに胡坐をかいたまま唇を突き出した。
「……いいわよ」
しばしの沈黙のあと、短く彼女が答え、衣擦れの音と共にちゅっと唇が重なる感触を覚えて目を開ける。
「でも今回だけよ。これ以上はしないわ」
身体を離して笑う美咲に俺は笑みを浮かべる。
攻略の道は長く、難しく、険しい。
「残念。あわよくば先っちょだけでもと考えたんだけど」
俺の言葉に美咲は「普通はそれ女性のセリフよね」と笑みを浮かべて笑い合った。
リンリンとインターホンがなるまで俺たちはたわいのない会話で盛り上がる。
離れていた距離が少しづつ縮まってきている。
そう感じずにはいられなかった。