ヤリチン至上主義教室へ 作:トリコ
入学式の翌日、2日目と言うことであって授業の大半は今後の勉強方針の説明であった。教師が厳格なものなのかと思ったが政府が作ったとは言えないフレンドリーさ、というべきかもはや別の何かを感じた。眠っていた生徒を注意することもない。義務教育でないと言われればその通りだが、政府が作ったのものがこれではな。仮に本当に進路や就職先に100%答えるのだとしても、これではその先でやり続ける力など身につかないしすぐに辞める羽目になるのではないかとは思った。
昼は昨日と同じ平田グループで過ごした。今日は綾小路も一緒だったが少し浮いていた感じはあった。鈴音は一人で食べていたようだが、放課後一緒に部活動勧誘を見ないかと誘われて仕方なく断ると、代わりに綾小路が行くことになった。おそらく彼はどこにも入らなさそうだが。そもそもここは全国レベルの部活や選手も多い、おまけに施設も揃っている。中学からスポーツを続けてきた者ならいい環境だが、こう言う場は初心者からしたら始める勇気というのが分からないのだろう。
放課後の教室、静かになったこの場所で俺は髪をひとまとめにした眼鏡の女の子といた。名前は佐倉愛里。Dクラスに所属する地味目の少女だ。
「こんにちは……って言った方が良いかな? ありがとう佐倉。同じクラスになって2日目なのにここに来てくれて」
「……こっ、こんにちは」
「今日は部活動紹介だったけど大丈夫? 佐倉は気になる部とかないのかな?」
「はいっ。部活はっその、やらないので。それであの……沢越くんが私みたいなのに用って」
今の少し顔を赤くしながら俯きがちに話す彼女はアイドルをやっているとは思えないほどオドオドしている。これでアイドルになっているのだから、容姿には自信があるが、人とのコミュニケーションが苦手でおそらく芸能の時は殆ど二重人格に近い仮面の様ものだと言うことが推測される。つまりこちらが素の可能性が高い。正直ここに来ない可能性だって十分にあった。なので恐怖心を必要以上に抱かないよう出来るだけ笑顔で話しかける。
「昨日教室にいたから俺が元モデルって話を多分聞いていると思うんだけど、実は復帰を目指しててまずはSNSでフォロワーを増やさなきゃと思ってさ。それで……その写真を撮るためにデジカメを買いたくて、つまりデジカメのこと教えて欲しいんだ」
「はっ、はい⁉︎ それで、な、なんで私なんですか……?」
「その……驚かないで聞いて欲しいんだけど、佐倉ってアイドルの雫で合ってるよね?」
「っ⁉︎ どっどうしてそれを……?」
復帰に関しては正直に言うと嘘だ。もう戻る気はない。今はそれよりも体をこわばらせ、警戒心を明らかに高めた佐倉が問題だ。
「いきなりごめんね。モデルの時の友達の〇〇さんやマネージャーの△△さんが佐倉のことすごい褒めててね。自撮りが上手いって言ってたから覚えてたんだ」
「えっ〇〇さんや△△さんが⁉︎ 」
今名前を出したのは佐倉の事務所のセフレの先輩やマネの中でも、性格が良い方だ。俺に佐倉の写真を見せた奴とは違っておそらく……佐倉のことを気にかけていた筈だ。まぁ連絡不可だから確かめることが、お互いに出来ないけどな。見せてきたやつは俺に女の子紹介してセックスの頻度上げたかっただけだからな。だがこの反応はそれなりに良い方ではないだろうか。
「それに佐倉ってすごく可愛いから、眼鏡とかで隠してても一目ですぐ気付いたんだ。当然誰にも言ってないよ。だから俺以外はまだ気付いていないと思う。けど可愛いことはバレちゃうじゃないかな」
「えっ⁉︎ あっ、あのっ」
「勿論俺もネットで色々調べてきたんだけど、やっぱり毎日使ってる人の意見が大事かなって。勿論今日じゃなくて後日でも良いし、それに佐倉がまだ会ったばかりの知らない人と直接出かけられないってことなら、メッセージでおすすめとか教えてくれるだけでも嬉しいんだけど……どうかな」
少し強引かもしれないがここで一気に畳み掛ける。最初に難しいのを出して後から比較的軽い手段を出してみたが、あまり良くない反応だ。正直ここまで来たら、断られた場合はまた別の方法を考えれば良いだけのことだ。
「無理だったらいいんだ。同じクラスってだけだからね。俺的にはそれにまだ入学して全然友達もいないからさ、佐倉となら良い友達になれるかなって思ったんだけど……」
悲しそうな表情を浮かべる蓮を見て、佐倉の頭の中では申し訳ないが断りたいの一色であった。自分みたいなのがうまく教えられるわけもないと考えていた。しかし中学時代、まだ何も分からなかった時に色々教えてくれた事務所の先輩の友人であるなら、無下にすることは出来ないという気持ちもあったのだ。
そもそも蓮の存在は佐倉も中学の時から知っている。事務所に置いてあった雑誌を読み耽っていた少女たちをチラリと見た時、そこに載っていた一度見たら忘れないような美形の彼を見たことがあった。その時に凄い人だと思っていたし、更に彼と遊びに行ったと言う少女達は、他の女の子達にとても良い人で楽しかった、また遊びたいと言われていたのを聞いた。
それに似た世界にいた者として、もしかしたら心の通わせることのできる友人になれるかもしれないという期待。そして彼女は人付き合いが苦手である。この敷地内の家電量販店で修理や買うことになるかもしれないと想像した時、一人で店で買える自信が湧かなかった。もしこの人と一緒に行っておけば、慣れで少しはマシになるかもしれないとも考えてしまった。
更に人からの視線などに敏感であった佐倉だか、彼から何故か嫌なものをまったく感じなかったのだ。ただそれが夜になったら今日のお礼に櫛田を抱こうなどと考え始めたヤリチン故の余裕だと気付かぬまま、長考の末に佐倉が出した答えは。
「……その、分かりました……沢越くん、あのっ明日、明日の放課後、一緒に行きませんか?」
「本当? 良かった〜それじゃ早速だけど連絡先交換しよう。詳しいことは夜に決めようか」
「うっうん。よろしくお願いします。でも私上手く話せるかわかんなくてっ」
「大丈夫だよ。俺も中学校に入るまでは人と上手く喋れなかったんだけどさ、沢山練習して今もギリギリでなんとかなってるんだ。とりあえず今日はもう帰ろう。送っていくよ」
そう言いながら携帯を取り出して互いに登録する。やっぱりナンパとかはやらなくなると下手になるなと実感した。桔梗といた時は素でいたからなぁ。そう思いながら帰り道、俺から話題を振ることでそれなりに話せたとは思う段階に来た時、佐倉の方から質問が飛んできた。
「あのっ、沢越くんは人気だったのに……どうして辞めちゃったんですか?」
あー、それはね。彼女の桔梗の匿名ブログがクラスに見つかって学級崩壊して俺のことも結果的にバレたからだよ。中学の頃はセフレとばっかりセックスしていたからね。
というのは流石に不味いので適当に嘘でも吐いとくか。
「佐倉は沢越コンツェルンって聞いたことある?」
「はいっ私でも知ってます……あっもしかして」
「そう。俺は一応そこの子供ってことになるのかな。だから色々と厳しくてね。三年間だけでも自由になるためにこの学校に来たんだ。だから名前で読んで欲しいって言っていたんだ」
「ごっ、ごめんなさい! 変なこと聞いて」
「良いんだよ。俺も初めて喋った人にこれを素直に言うとは思わなかったから、何故か佐倉だと話しやすいんだよね。優しさ伝わってきてるのかも」
まあそんな感じで誤魔化す。これで納得してくれたのか、それ以上は聞いてこなかった。そもそもネット検索しても俺が辞めた理由は見当違いの理由なら出てくるが、本当の事は別に出てこない。つまり真実は確かめようがない。
「そ、そうですか? ありがとうございます。そんな風に言われたことないので……」
「それは多分みんな佐倉の魅力に気が付いてないんだよ。こんなにも可愛いのにね……後、さっきから気になってたけどその敬語は辞めないか? 同級生なんだし、むしろ教わる俺が佐倉のこと先生って呼ぶべきじゃないかな?」
「私なんて全然ダメなんです! 人付き合いも苦手だし、要領も悪いので。敬語の方はなんとか頑張ってみます……みる」
「じゃあさ、もし良かったら友達から始めようよ。俺たちきっと仲良くなれると思うんだけど。どうだろう?」
「えっと、その、私は嬉しいのですが……迷惑じゃないでしょうか」
「勿論。俺から誘っているわけだしさ。嫌なら無理強いしないから安心してくれていいし」
「いえ、是非お願いします。その、嬉しく思います。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。これから宜しくね」