ヤリチン至上主義教室へ 作:トリコ
3日目の朝、俺は桔梗が作った美味いご飯を食べながら考えていた。
この学校のシステムを言うか言わないかは未だに迷っている。言うとしても候補は桔梗か洋介ってとこか。鈴音に行ってもクラス自体が変わらないから意味がない。だが、この二人なら人付き合いも良く、この情報を上手く使える可能性がある。
登校して綾小路から誘われて、男子用のグループチャットには入っておいた。どうやら綾小路は須藤たちと仲良くなったらしい。よかったじゃないか。俺は鈴音にも構いつつ、周りの人間とも交流を重ねていく。あのデコを出した美少女とも交流したいが今は佐倉の方が大事だ。
そして今日から本格的な授業が始まったが、俺にとってこの高校の内容は簡単だった。桔梗も入学前に勉強を教えたから余裕だろう。しかし一部の生徒、山内、池、須藤などの数人は授業態度は酷く、ポイント減少は免れないだろう。それに授業が過ぎていくたび、段々と何人かの授業態度が悪化している。このままだと赤点を取る生徒が続出するかもしれない。そうなるとDクラスの崩壊は目に見えている。
こう見るとやっぱり俺たちDクラスは欠陥品ということか。何か秀でてるやつもいそうだが、それ以外が酷いな。そもそも何も秀でてないやつもある。このままだと本当に0ポイントになってしまうかもしれないし、やっぱり明日、洋介に言うか。
昼休み、注目を浴びたくない彼女のために教室とは別の場所で佐倉と昼食を取った。事前に誘ってなかったが、彼女は快く承諾してくれた。佐倉の昼食はコンビニで買ってきたものでは無く、自分で作ったであろう可愛らしい弁当であった。やはりアイドルの彼女は食生活にも気を遣っているのだろう。その姿は非常に好感が持てる。
「佐倉は料理も出来るんだ。凄いね、この弁当とかすごく美味しそうだし」
「あっありがとう! れ……蓮くんもお弁当なんだ」
「自分で作る方が栄養バランスを調整しやすいから。やっぱり運動だけじゃなく食事も気をつけないとね」
佐倉は俺と同じということに少し嬉しそうにしている。まぁ現役時代も別にそこまで気にしていない。ただ出来る必要があったから料理が出来るだけだ。しかしこの学校に来てから自分では作ってない。今日の弁当も桔梗が作ったものだ。今日はかなり負担を掛けさせたから、無理はするなといっていたのだがそれでも健気に作ってくれていた。
放課後になった。俺と佐倉はケヤキモールと呼ばれる大型商業施設に入った。俺が見た限りこの施設内にはカフェから家電量販店、理髪店にカラオケと普通の街にあるものはほとんど揃っている。それに売っていないものがあったとしても、インターネットを経由して購入することが可能とのことだ。
「本当にすごい、何でもある。流石政府の作った学校だね」
「本当に街みたい」
まるで初めて来たような発言をする。俺たちはケヤキモール内を見て回った。それはまるでデートのようでカメラを見終わったらカフェに寄ろうと約束するほどだった。そして家電量販店のとこまで来た。佐倉はある程度買うデジカメを決めていたようだったが、俺はカメラに関しては本当に初心者なので佐倉に聞いてみるとこのメーカーがおすすめだのスマホと連携できるだの、かなりテンションの高い状態で喋っては、一人で喋りすぎたと反省したりの繰り返しだ。なんだかこの姿でも可愛く思えてきた。
結局、俺たちはお揃いの二万ほどのデジカメに決めた。佐倉は色の強いピンク色ので俺は黒色のだ。俺は即買うつもりは無かったが佐倉の甘い言葉に誘われてしまったか……いや俺が可愛い女の子に甘いだけだった。ポイントが余ってるし、お礼に買うよと言ったんだが強く否定されては仕方ないと諦めた。
俺が会計を終えたあと、レジで店員が佐倉に対して変に興奮して話している。店員は男で最初に佐倉の相手をしていた時には普通な感じだったが、次第に悪化して今やその振る舞いは視線や言葉の一つ一つがねっとりして、男の俺ですら見てて不快感を感じるものだった。つまり女の子であり、特に人見知りの佐倉であればその気持ち悪さは尋常じゃないだろう。現に保証書を書く佐倉の顔は強張って手が止まっている。
これはここに連れてきた俺の責任でもある。そう思い震える佐倉を片手で抱きしめてペンを奪って、紙に自分の名前と住所を書く。こんな店員に佐倉の個人情報は知らせられない。こんなのが店員だとすればやはりこの学校は信用できないな。
「ペン借りるぞ」
「あっ蓮くん」
「ちょっと君、このカメラを購入したのは彼女だよね」
「購入店や日付は書いてありますし、必要があったら俺が来ます。それでいいですよね」
そう言うと店員は一瞬気圧されたが、直ぐに先程より興奮して尋常じゃない怒りを見せる。この学校に入学したばかりの俺たちに、この男との関係性は無い。それでこの怒りようときたら恐らく佐倉のファンかアンチってことかもしれない。
「君は一体その子の何なのかな!」
大きな声で俺たちに怒鳴るその様子に恐怖を感じたのか、本能的に佐倉は俺の身体にしがみつく。大きな胸が形を変えるくらいには強く抱きつかれている。なので俺は佐倉の背に手を回して彼女を抱きしめて「恋人ですけど」と見せつけるように言うと、顔を赤くして驚く佐倉。
「彼氏ですよ」
「……は?」
「でも店員さんには関係ないですよね、失礼します」
それだけ言って商品と保証書を貰って佐倉の手を掴みながらその場を立ち去る。よっぽど衝撃的だったのか後ろからは何も聞こえないし、このまま佐倉と手を繋いだまま店の外に出る。
そしてそのまま離れたベンチに一緒に座って一息ついた。繋いだ手は未だ離れていない。彼女の方がむしろ離れたくないとばかりに、小さい手がぎゅっと俺の手を離さないのだ。
「大丈夫佐倉? 怖かったよな?」
「うう、ごめんなさい……私のせいだよね。蓮くんに迷惑かけちゃって……」
「別に佐倉のせいじゃないさ。さっきのは気にする必要はない。あんなの無視すればいいんだ。それに、何かあったとしても俺が守るよ」
どうやら佐倉は恐怖と羞恥でずっと俯いているので、少しだけフォローを入れることにした。あの時、本当に怖くて仕方がなかったと思う。だから、少しでも安心させたいと思った。そう言いながら頭を撫でると、彼女は俺の名前を呟きながら顔を上げてこちらを見つめてきた。なので笑顔で返すと、正解の対応らしかったみたいでどうやら佐倉は嬉しかったみたいだ。
「……それでね、その、さっきの彼氏っていうのは?」
「あはは、多分あの店員佐倉が可愛いから一目惚れしたんじゃないかな、だからあれくらい言わないと駄目かなって思って。てっきり佐倉もそう思ったから繋いでくれると思ってたんだけど」
「っ⁉︎ 全然気付いてませんでした! ご、ごめんなさいっ!」
「あはは、謝ることは無いよ。俺も佐倉みたいに可愛い子と手を握れて嬉しかったからね。気にすることないよ」
「もうっ! 蓮くんはすぐそういうことを言うよね。雫は可愛くても、別に私は可愛くないよ」
「本心だからつい出ちゃうんだよ。アイドルとしてしっかり、努力してるし話しやすくて、こうして俺の相談にも乗ってくれる優しさとか、それに好きなことを喋ってる時の笑った顔が凄く可愛いし、会って一日でこれくらい簡単に出るんだから佐倉は魅力的な女の子だよ。まぁ話はそれたけど佐倉も思ったことを言っていいからね」
「……」
「佐倉?」
「あのっありがとう……蓮くん。嫌なことはあったけど、今日は楽しかったし、これからも仲良くしてくれると嬉しいかな……あはは、何言ってるんだろう私」
また顔を赤くしながら照れ臭そうな表情をする。その姿を可愛いと思ってしまうのは何故だろうか。とりあえず思ったことは必ず俺のものにするということ。そのためにもこんなところで終わっては困る。
「まだ終わってないよ」
「えっ?」
「せっかくのデートなのに、このまま佐倉が辛いままじゃ終われないからさ、もうちょっとだけ回ろうか」
俺は彼女に手を差し出す。すると、佐倉は戸惑いながらも小さな手で握り返してくれた。それから色々回った。ゲーセンも行ったし買い物もしたし佐倉には水色のリボンをプレゼントした。俺たちは先ほどの記憶を消すように、今まで以上に楽しんだ。そして二階にあるトレーニングジムを見つけた。
「ここ学生証を出せば直ぐに無料体験出来るみたいだ。よかったら次に来た時一緒にやってみない?」
「ジムですか?」
「この学校に来てからどうやって体型維持しようかなって思ってたから、有難いんだけどなぁ。俺も本当は人見知りだからさ、友達の佐倉と一緒なら始めやすいと思って」
「……蓮くんも人見知りなの?」
「そうなんだよ。中学の時に努力したから一見なんとかなってるけど、根本は変わってないよ。未だに緊張しちゃうし。ここは毎月数千ポイントだけど色々充実してるっぽいし、月に十万貰えているからそこまで負担にならないんじゃないかな。まぁあくまで提案だから嫌だったら断ってくれて良いんだよ。駄目だったらとりあえず他の人を誘ってみるし」
「……ううん、今度来たら絶対やろうね」
そう言った佐倉の顔は覚悟を決めたような顔だった。