異哲偽作断片集 作:小沼高希
唇が触れる。ケトが緊張しているのが伝わってくる。舌をゆっくりと差し入れていくと、私のじゃない柔らかい粘膜に上下から包まれている感覚がある。
二重の意味で固くなっているケトのために、少し時間を置こう。絡めた脚の、私の太ももに伝わる熱。ケトの生理反応に、私の心拍数が上がっているのがわかる。
じんわりと広がる唾液の甘さと血の味。さっき唇を切ってしまったからだろう。敏感になっている傷口は今ケトの唇に触れ合っていて、ちょっとだけくすぐったい。
少しだけ太腿を動かすと、根本の方で少し濡れている感覚があった。下着をつけていないのには慣れても、こういう感触は一瞬だけドキリとしてしまう。
少しだけケトの身体からこわばりが抜けたので、私はさらに舌を進めていく。歯を軽く舐めていると、隙間ができたのがわかる。私も目を瞑っているから、舌先の感覚に集中できる。
ふにり、と柔らかいものに舌の先端が当たる。頭の中で口腔内の解剖図を思い浮かべるけれども、これだけしか入れていないのに当たるものがあるとしたら、それは一つしかない。
それは私の舌を恐る恐るなぞるように動く。それだけで背筋がぞわぞわして、私の方からケトと繋いでいる手の指に力を入れてしまった。大丈夫だろうか。痛くなってないだろうか。
一旦唇を離そうかと舌を引こうとしたら、それをケトは軽く噛んで止めた。これはどっちなんだろうな。私のが好きなのか、それとも逃したくないのか。どっちでもいけど。続きをしよう。
私が舌の付け根を前の方に動かしてケトの口の奥まで入れると、それに沿わせるようにケトが自分の舌を引いてくれる。なんか私がなんなのか曖昧になってくるな。
夢現みたいな状態の中で、私は軽く息を吸う。くっつけている口の中が陰圧になって、隙間からどちらのともわからない唾液が溢れる。
腔内の
少し息が苦しくなったのもあるから、私はケトと絡めている指を外そうとする。一瞬だけ抵抗を感じたけれども、ケトは力を抜いてくれた。それに合わせて舌を抜いていく。最後にちょっと、ケトの唇の裏に舌を当ててあげる。何かで読んだとかじゃないけれども、なんとなくそういうことをしたくなったから。
唇が離れる。ケトの呼吸が荒くなっていた。私だって増加した心拍数に見合う酸素が不足しているのだ。揺れる火の灯りに照らされるケトを見るだけで、また胸に熱が生まれる。
「……どう、だった?」
自分の不安を隠すように、自分で言うのもなんだけれども少し妖艶な感じに私は声帯を震わせる。
「……こういうことしていると、駄目になりそうな気がします」
そう言っているくせに、ケトはいつのまにか繋いでいた手を軽く握って来た。
「駄目になっても、いいよ」
そう言う私も、結構危なかったが。
「……どう、します?……続けてもいいですけど」
「それは、唇を合わせるのを?それとも、こっち?」
私は膝の上あたりでグリグリとケトの服の上から膨らみを押す。
「……意地悪ですね」
ケトはそう言って、不貞腐れるように私に抱きつく。
「……僕はキイさんと夜を共にするために来たんです。僕じゃなくて、キイさんのしたいことをしてください」
精一杯の誘惑なのか、それとも臆病から私に選択を投げているのか。どちらでもいいか。これは私が選んだんだ。
「服、脱がせてもらえる?」
少しだけ、私の背中は汗ばんでいた。
「……はい」
とはいっても、別にそんな複雑な構造をしている服ではない。ほとんど布一枚と言ってもいい。ああ、でもブラジャーがわりに巻いているこの布は下着カウントしていいか。
ケトがおそるおそる私の纏う布の縁に手を伸ばして、ゆっくりと剥くようにめくっていく。じっと私のお腹とか見られると恥ずかしいんだけれどもな。少し腰を浮かせたり、腕を動かしたりしてケトがやりやすいようにしていく。
「胸のこれ、外しかたはわかる?」
「……はい」
基本的には帯みたいな布を胸の下に何周かさせているだけで、肩のほうに回しているわけではない。私ぐらいの胸の大きさならこれで十分固定されるし、あまり巻き過ぎても通気性が悪くなって蒸れてしまう。
「……っ」
「大丈夫、ですか?」
「……うん。少し慣れない場所に触れられて驚いただけ」
腋の下の胸側、と言えばいいだろうか。布を外そうと端を探すケトの手が触れて、思わず変な声が出てしまっただけだ。
「……これ、ですか?」
「そう。あとは緩めて外せばいい」
まあ、そう言うまでもなくはらりと布は落ちるわけだが。それにしても、相手がどこを見ているかって結構わかるものだな。そんなに私の乳房が興味深いのだろうか。
「見慣れない?」
「いえ、いつもハルツさんのは見て……やめましょうこの話」
「そうだね」
私も家族間でなら胸は別に恥ずかしくないんじゃないかとか乳房自体が性的に見られない文化もあったよなという思考を振り解いた。