異哲偽作断片集 作:小沼高希
「……緊張しています?」
「そりゃあ、ね」
別に私は自分の純潔性については単なる経験の欠如以上の意味はないと思っているけど、問題はその経験の欠如だ。ケトがちゃんとほぐしてくれたおかげで挿入する分には問題ないだろう。
性的刺激については、まあもし足りなかったら陰核でも触ってもらうか。正直自分の肉体がこういった刺激に対して弱いというか自分でも官能的だと思うような反応をしているのは結構面白かったりする。
「……ここで、いいんですよね」
「いいよ。ゆっくり腰を前に出してくれればいいから」
私はケトの首に腕を回す。
「唇、合わせましょうか?」
「……そうだね。ごめん」
「謝らなくていいですよ、焦らされるキイさんも綺麗です」
胸がドキリとする。ああまったく、なんでこういう言葉に私の心が動かされるんだろう。社交辞令だろうなとも流せない。
息を吐いて、少し開いた私の口をケトが塞ぐ。タイミングが完璧じゃないとか、舌の場所がちょっとくすぐったいところに当たっているとか、そういう不慣れなところはある。それでも、好意が伝わってくるようなキスを私は拒めない。
少し私の緊張が抜けたというか油断したタイミングで、ケトが腰を少し動かした。痛みはない。何か入ってきているという感覚があるだけ。だけってほどでもないか。
「大丈夫ですか?」
唇同士の間で曳糸性を持つ唾液が伸びていく。灯りに照らされる雫が私の胸の間に落ちる。
「うん、思ったよりは平気」
なんとなく、こういうロマンチックというか官能的というか、そういう雰囲気が好きになっている自分がいる。少しづつ、ずりずりと腰を動かしていくケト。
「……入った?」
「……たぶん」
私の言葉に、腰を押し付けながらケトは言う。ケトの背中に回していた右手を下腹部に当てると、なんとなく熱を感じるような気がした。錯覚な気もするけど。まあいいや、こういうのもひっくるめて愉しむのがきっといいんだ。
「動ける?」
私はケトの胸に自分の胸を押し付けるようにして抱きしめて、声をかける。
「……ちょっと難しいです」
「どうして?」
「……こぼしてしまいそうなので」
そういう言い回しをするんだ。知らなかった。
「……別にいいよ」
「そう言われても……」
「一応、できにくい日ではあるから」
そもそも生理周期をベースにして分析しても当たる時は当たるし、どれだけ狙っても外すときは外すのだ。この世界での妊娠や出産は正直リスクではあるが、子供がいたほうが私みたいな年齢の場合は逆に動きやすいかもな、なんて思考は不随意の動きで止まった。
心拍数が上がっている。腰が震えている。ちょっと待て、ここまで私が刺激に弱いというのは想定外なのだが。ケトが腰を動かし始めたことに遅れて気がつく。下腹部に意識を持っていくと、動きに合わせて自分の身体が反応しているのがわかる。
何か言おうとしてもうまく言葉が出ない。焦燥感が襲ってくるけどどうしようもない。ただ腕に込める力を強めて、ケトが逃げないようにして、自分の荒くなる息自体に興奮している自分をなんとなく認識して、私の思考は一瞬だけ止まる。
久しぶりの快感が背中を走る。声帯から声が漏れているのがわかる。
ケトが抱きしめてくれている。出されているんだ、と本能的に理解した。多分自分の中からの感覚というより私の名前を呼ぶケトの声色の変化とか身体の動きとか、そういうものもあるのだろうけれども。
襲ってくる不安感をケトの熱で紛らわせて、私は深く息を吐く。
「どう、だった?」
「とても、気持ちよかった、です……」
私は何が嬉しいんだろう。単純な脳内物質の放出なのか、目の前の少年と幻覚的な一体感を得られたからなのか、まああまり考えるほどの余裕はなかった。
どちらからともなく唇を合わせて、また舌を絡ませて唾液を交換する。互いに少しづつ落ち着いていくのを感じたけれども、しばらくは身体を離すつもりにはなれなかった。
周りの物音で、私は薄目を開ける。
「……おはようございます」
まだ薄暗いけれども朝のようだ。声のした方を見るとケトがいる。身体は重いけれどもどこか不思議な満足感があった。
「……おはよう」
ケトが部屋にいることから逆算して、私は昨日自分がやったことを認識する。
「身体、拭きましょうか?」
「……お願い」
木桶の中で絞られた布が私の身体をなぞっていく。昨日ケトに舐められたりした場所も。
「ほら、こっち向いてください」
「……質問していい?」
「どうぞ」
「こういう風に終わった次の日の朝に、拭いてもらうのっていうのは一般的なの?」
「……違うと、思います」
そうか、ならこれはケトからのサービスか。
「……私もケトくんの身体、拭こうか?」
「……いえ、僕はいいです。もうさっきしてきたので」
「そう」
少し残念だ。
「……私がお願いしたから、抱かれてくれたの?」
「言われなければ抱きませんよ、それぐらいはわきまえてます」
「……そう」
少しだけ寂しい気がする。たぶんこういう事後の脳内物質が切れた反動だ。ケトに言われるままに腕を上げて、脇の下を拭いてもらう。
「……今度はそっちから誘ってくれる?」
「……いいんですか?」
そう言うケトは、私に感情を悟らせたくないように視線を逸らしていた。